Japanese Journal of Sensory Evaluation
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How graphic elements of Web sites influence a user's affective response and intention to revisit them
Yoshifumi TANAKAToshiro YOSHIDA
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2009 Volume 13 Issue 1-2 Pages 31-36

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1. はじめに

ユーザーから「また使いたい」「繰り返し使いたい」といった意欲を引き出すことができる品質を製品に持たせることは, 製品開発において非常に重要である. これはインターネット上で情報提供を行うWebサイトにおいても当てはまる. Webサイトが効果的なメディアであるためには, ユーザーに繰り返し訪れて利用したいと感じてもらうこと(再訪意向)は必要不可欠である.

現在開設されているWebサイトを見てみると, イラストや動画などのグラフィック要素を多用し, サイトの美的な側面に非常に多くの労力を割かれていることが多い. 一方, Webサイトにおけるユーザビリティに関するこれまでの研究では, サイトが持つ機能性や実用性が強調されており, さらにはWebサイトのデザインでしばしば見られるようなグラフィック要素の多用はユーザビリティを高める上であまり効果がない, あるいはネガティブな効果を持つことを指摘する研究もある. Spool et al.(1999)は, 既存のウェブサイトを用いてユーザーテストを行ったが, ページ間を移動する時は, テキストによるリンクを利用し, グラフィックは無視されており, さらに, イラストやアニメーションなどのグラフィックを邪魔と感じ手で覆い隠した事例も報告している. このことから, 彼らはWebサイトで使用されている「グラフィックデザインは役に立たないが害にもならない」と述べている(Spool et al., 1999, 邦訳書p.8). しかし, もし美的側面がWebサイトの魅力にとって何の役割も果たさないのだとすると, 美的側面に多くのコストをかけることは効果的でない, ということになる. ではWebサイトの美的側面はユーザーにとってどのような意義があるのだろうか?

近年, 一般的な製品の美的デザインが持つ積極的な効果を重視する研究が出てきた. 製品デザインの美しさ, 楽しさは, ユーザーのポジティブな情動的反応を引き出すことでその製品を使うことへの動機づけを高め, 製品の魅力を高めることが指摘されている(Norman, 2004). このことはWebサイトのデザインにおいても当てはまると考えられる. つまり, Webサイトの美的側面に配慮して適切なグラフィック要素を盛り込むことは, ユーザーの情動的な反応に影響を与え, それによってWebサイトを使用することへの動機づけを高め, さらに再訪意向を高める, という可能性がある.

Webサイトの評価に影響する要因は, 情報検索が目的なのか, あるいは単にウェブ・サーフィンをすることが目的なのか, といった使用目的によっても変化しうる. エンターテイメントを目的としたサイトにおいては, ユーザーに強い印象を与えるイラストやアニメーションなどのグラフィック要素や動画などのマルチメディア・コンテンツは必要不可欠であろう. しかし, 例えばGoogleなどの情報検索に特化したサイトでさえ, ビジュアル・ロゴや簡単なイラストなどのグラフィック要素が配されており, 単なる情報検索を目的としてWebサイトを使用する際にも, サイトのグラフィック要素がユーザーの情動的な反応に影響を与える可能性はある.

これらのことを踏まえ, 本研究では情報検索を目的とした事態において, Webサイトのグラフィック要素がユーザーの情動的な反応に影響を与え, 再訪意向を高めることができるかどうかを検討する. 具体的には, 必要な情報がテキスト情報のみで記載されグラフィック要素を全く含んでいないWebサイトと, グラフィック要素を含んでいるWebサイトの2つを実験用に構築し, ユーザビリティ評価と情動的側面に関する評価, 再訪意向にどのような違いが見られるかを検討する.

2. 方法

評価対象 評価用のサイトとして架空の地方自治体「田中市」市役所の2種類のサイトを構築した. これらのサイトは, ページ間のリンク構造は全く同じだが, グラフィック要素(本実験では, 「グラフィック要素」をテキスト情報以外の画像, アニメーションや背景色, 文字色と定義した)が含まれているか否かのみに違いがあった. 評価用サイトのサイトマップを図1に示した. テキスト・サイトは, 必要な情報がテキストのみで記載されており, グラフィック要素が全く含まれていなかった. ただし, 表組みや見出しなどをつけることで, 使いやすさに配慮した. もう一つのグラフィック・サイトは, ロゴマークなどの画像や配色など簡単なグラフィック要素が盛り込まれているが, リンクの構造や記載されている情報のみならず, 画面内のリンクやテキスト情報の配置もテキスト・サイトと同じになるように作られた. それぞれのサイトのトップページを図2に示した.

図1

評価用サイトのサイトマップ

図2

評価用Webサイトのトップページ. 上:テキスト・サイト, 下:グラフィック・サイト

評価項目 Webサイトを評価するために, 仲川・須田・善方・松本(2001)の「Webサイト評価スケール」を用いた(表1). このスケールは「好感度」「役立ち感」「信頼性」「操作の分かり易さ」「構成のわかり易さ」「見やすさ」「反応の良さ」の7個の評価軸それぞれについて3項目の合計21項目で構成されており, 各項目について5段階で評定するものである. さらにWebサイトに対する情動的反応の評価項目として「このウェブサイトは楽しい」(主観的な満足度), 「このウェブサイトは使いやすい」(ユーザビリティの総合的な指標), および「このウェブサイトを利用したい」(再訪意向)の3項目を加え, 合計24項目を評価項目とした.

パネル 20名の大学生を10名ずつ上記の二つのサイトに割りあてた. PC使用暦, インターネットの使用頻度, タスク達成の時間に差はなかった.

手続き まず, Spool et al.(1999)を参考に考案した情報探索課題を行った. これは, 12個の設問(表2)に対してWebサイトを探索しながら答えを見つけ出してもらうものであった. 続いて各自の使用したWebサイトについて上記の24項目について評定を行った.

3. 結果

以下の分析において統計的検定の有意水準は5%とした.

「Webサイト評価スケール」については, パネルごとに, 各評価軸の3項目の平均値を求め, その評価軸の評価得点とした. サイト毎の各評価軸の平均得点と95%信頼区間(図3)を見ると, 「好感度」においてグラフィック・サイトの方が高い得点を得ているがそれ以外の評価軸については差が見られなかった. 評価軸(被験者内要因)×サイトの種類(被験者間要因)の二元配置分散分析を行ったところ, 評価軸の主効果(F(6, 108)=28.67)と評価軸×サイトの種類の交互作用(F(6, 108)=6.64)が有意であり, 評価軸毎にサイトの種類の単純主効果を求めたところ, 好感度においてのみ有意(F(1, 126)=16.94)であった. また, 95%信頼区間を見ると, 両サイトの好感度, テキスト・サイトの信頼性と見やすさ以外はいずれも評定値の中点(3)よりも大きく, 全体には高い評価得点を得ていた.

一方, 3つの情動的項目(図4)については「使いやすい」以外の2項目でいずれもグラフィック・サイトの方が高い評定値を得ていた. 情動的項目(被験者内要因)×サイト(被験者間要因)の二元配置分散分析を行ったところ, 情動的項目の主効果(F(2, 36)=21.27), サイトの種類の主効果(F(1, 18)=8.45), 交互作用(F(2, 36)=9.14)が有意であった. 項目ごとにサイトの種類の単純主効果を求めたところ, 「使いやすい」(F(1, 54)=0.26, ns)は有意ではなかったが, 「楽しい」(F(1, 54)=9.35)と「また利用したい」(F(1, 54)=16.62)は, グラフィック・サイトの方が高い値を示した.

次に, Webサイトのどのような評価が再訪意向に影響しているのか検討した. まず, 全被験者のデータを用いて, 「また利用したい」以外の全評価項目(仲川らのスケール7項目と「使いやすい」「楽しい」の計9項目)について主成分分析を行って, 次元の縮約を行った. その結果, 固有値1以上の主成分が3つ抽出された(累積寄与率83.48%). 第1主成分は「構成のわかりやすさ」「反応の良さ」「操作のわかりやすさ」「使いやすい」「信頼性」の負荷量が高く, 理解容易性や使いやすさなど全般的なユーザビリティに対応する主成分と考えられる. 第2主成分は「楽しい」「好感度」に対して負荷量が高く, 全般的な楽しさに対応すると考えられる. 第3主成分は「見やすさ」「役立ち感」に対して負荷量が高かった. これらの主成分を説明変数, 「また利用したい」の得点を従属変数とした重回帰分析を行ったところ(F(3, 16)=9.546, R2=.642), 第1主成分(β=.347, t=2.316), 第2主成分(β=.709, t=4.739)の偏回帰係数が有意であった. 第1主成分得点, 第2主成分得点, 「また利用したい」の得点の3次元プロット(図5)からも, 第1主成分得点, 第2主成分得点とも高くなることで, 「また利用したい」の得点が上昇することがわかる.

表1

仲川ら(2001)のWebサイト評価スケール(21項目, ▼は反転項目

表2

「宝探しテスト」の設問と答え

図3

「Webサイト評価スケール」による2つのサイトの平均得点と95%信頼区間

図4

Webサイトへの評価(情動的項目)の平均得点と95%信頼区間

図5

Webサイト評価項目の主成分得点と「また利用したい」項目の得点

4. 考察

2種類のWebサイトの評価結果から, 今回用いたサイトのグラフィック要素は「使いやすさ」の主観的評価には影響しないが, 好感度や「楽しい」といった情動的側面には影響することが示唆された. また, 再訪意向は好感度や楽しさなどの情動的評価の高いグラフィック・サイトの方が高かった. 本実験のように情報検索を目的とした場合でも, Webサイトのグラフィック要素がユーザーの再訪意向を高める効果がありうる, ということは, 実用性を重視したWebサイトにおいても, グラフィック要素を盛り込み美的側面についての配慮を行うことが Webサイトの魅力を高める上で重要である可能性を示すものと考えられる.

グラフィック要素はサイトの視認性にも影響する可能性があるので, そうした視認性の向上が再訪意向に寄与することはあり得る. しかし, 今回の実験においては, 視認性に関する評価項目(「見やすさ」)において両サイトに差はなく, また重回帰分析の結果から「見やすさ」が再訪意向に影響を与えていたわけではなかった.

もちろんこれは, 使いやすさがWebサイトの再訪意向にとって重要であることを否定するものではない. 本実験で作成した Webサイトのユーザビリティ評価(図3)は, 好感度を除けば全体にポジティブなものが多く, 使いやすさに関する項目に差が見られなかったことから, 両サイトとも最も基本的な使いやすさはある程度満たしていたといえる. また, 再訪意向を従属変数とする重回帰分析から, Webサイトの楽しさのみならず使いやすさも再訪意向に影響することが確認された. これらのことは, 基本的なユーザビリティを充分確保した上でユーザーのポジティブな情緒的反応を引き出すよう美的側面に配慮することがよりWebサイトの魅力を高める, ということを示唆している.

本実験から, Webサイトのグラフィック要素が持ちうる効果については明確にすることができたと思われるが, 幾つかの限界もある. 今回の実験で用いたテキスト・サイトは, Webユーザビリティ評価の好感度の得点が特に低かった. これはテキスト・サイトが現在開設されている多くのサイトでは殆ど見られないような単純な画面構成であったためと考えられる. また, 図3の「好感度」や図4の「楽しい」の評価得点がグラフィック・サイトでも中点(3)より大きかったわけではないことからも, 両サイトに対する情動的反応の差は, グラフィック・サイトに対する評価が高まったためというよりも, テキスト・サイトに対する評価が極端に低かったことによって生じた可能性がある. 一方, 今回用いたグラフィック・サイトよりも極度にグラフィック要素の多いデザインの場合には, グラフィック要素のネガティブな効果(Spool et al., 1999)も生じてくると考えられる. 実在するインターネット・サイトは本研究で用いたWebサイトより多くのグラフィック要素を含んでいると考えられることからも, 実在するインターネット・サイトを用いて検討を行うことは今後の課題の一つと言える.

付記

本論文は, 第2著者が第1著者の指導のもとで行った金沢工業大学2006年度工学設計III論文のデータに基づいています. 匿名の査読者と金沢工業大学の神宮英夫教授から有益なコメントと助言を頂きました. 深く感謝します.

文献
  • 仲川薫・須田亨・善方日出夫・松本啓太 (2001) ウェブサイトユーザビリティアンケート評価手法の開発.第10回ヒューマンインターフェース学会紀要
  • Norman, D. A. (2004) Emotional Design:Why We Love (or Hate) Everyday Things. New York:Basic Books (岡本明他 (訳) 2004『エモーショナル・デザイン』新曜社)
  • Spool, J. M. Scanlon, T., Schroeder, W., Snyder, C., DeAngelo, T. (1999) Web Site Usability:A Designer's Guide. Morgan Kaufmann Publishers (篠原稔和 (監訳),三田仲人 (訳) 2002『Webサイトユーザビリティ入門』東京電機大学出版局)
 
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