Japanese Journal of Sensory Evaluation
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Sensory evaluation of commercial yogurt
Mitsuyo HORIKeiko HORIGUTIShigeru SAWAYAMA
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2010 Volume 14 Issue 1-2 Pages 40-45

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1. 緒言

発酵乳の中で人々に古くから親しまれているものにヨーグルトがある. 発酵乳の歴史については, 乳利用文化とほぼ同時期の紀元前5千年頃だと言われ, その頃から山羊, 羊, 牛などが家畜化され, 古代メソポタミアではそれらの乳を利用し, 多種類の発酵乳が加工されていたものである(細野, 2002). そして今なお先人たちの知恵が継承され, 世界各地で独特の風味を持つヨーグルトが存在している.

日本においてのヨーグルトは, 明治時代の終わり頃に市販され普及していったが, 本格的な工業生産がスタートしたのは昭和25年(1950年)であった(伊澤と福井, 2007). このように日本でも古くから親しまれているヨーグルトは, 整腸効果等に対して科学的根拠があり, 厚生労働省認可の特定保健用食品として認められている(清水, 2008). そして現代人の健康志向とあいまってヨーグルトの需要は高まっている(鈴木, 2003).

近年, プロバイオティクスに関連した市場動向も活発になっている(宮川, 2006). ヨーグルト中の乳酸菌の機能と保健効果については多くの報告(細野, 2002, 牧野と池上, 2008, 志田, 2008)があり, 各メーカーからは保健効果を示した多種類のヨーグルトが店頭に並んでいる. 一方, ヨーグルトの食味については牛乳から調製したヨーグルトの食味報告(熊崎と成田, 1977)や官能評価と曳糸性によるヨーグルト組織の粘稠性(渡辺, 1987), 山羊乳から調製したヨーグルトの特性(長坂, 2006), 市販乳酸菌による牛乳および豆乳類のヨーグルトの性状(牛越と小木曽, 2006)等が見られる. これらの報告における官能評価は, いずれも作製したヨーグルト試料についてであり, 市販ヨーグルトの調査報告は見られない. そこで本研究は, 市販プレーンヨーグルトを試料とし, 酸度等の測定と女子学生による嗜好調査や官能評価を行ったので報告する.

2. 試料および実験方法

(1)試料の選択

市販されている多種類のヨーグルトの中から, 糖類やその他の添加物による味の影響を避け, 加糖および果肉などが添加されていないプレーンタイプのヨーグルト5種類を選択した. また, 試料購入には賞味期限が同日またはできる限り近い日のものを選択した.

(2)酸度の測定

酸度は, 試料10gを精秤し, 蒸留水40ml加え, その中に指示薬として0.1%フェノールフタレインアルコール溶液を駒込ピペットで数滴加えた. その後, N/10 NaOH溶液で滴定し, 乳酸(%)を求めた. 試料の保存は, 5℃に設定した業務用大型冷蔵庫に試料のみを保存した状態で日数経過による変化を調べた.

(3)平均粒子径および遠心離水度の測定

平均粒子径は, 試料7gを薬さじにて50回攪拌し, クエン酸緩衝液にサンプルを分散させたものをレーザー回折式粒度分布測定装置(SHIMADZU社製SALD-2100)で測定した. また遠心離水度は, 遠心管に試料50gを測り, 遠心分離機(TOMY社製LC-122)を用い2,150×g 10分間遠心分離を行った. 遠心処理後カードの上部に出てくるホエイを捨て, その割合(W/W)を遠心離水度とした.

(4)嗜好調査と官能評価

乳・乳製品の官能評価法(ISO/DIS 22935, 2009)の中に記載されている基本五味識別試験に準じた結果が良好であった女子短期大学生(1年生)36名にヨーグルトに関して嗜好および摂取頻度調査を行い, あわせて市販のプレーンヨーグルト5種類(賞味期限まで6~10日ある試料)について官能評価を行った. 評価項目における用語は, 予備調査を行い, ヨーグルトの味を評価するための用語をできる限り多く挙げた. その中から最適と思われる4項目(「酸味」「濃厚感」, 「なめらかさ」「ミルク感」)を選出した. 評価は, 7段階尺度(非常に強い(3点)からどちらともいえない(0点), 非常に弱い(-3点)まで)とした. 試料番号はパネリストに偏った印象を与えないよう3桁のランダムコードをつけた. 試料は30gを紙コップ(容量90ml, 口径54mm, 高さ67mm)に入れ, 使い捨てのプラスチックスプーンをそれぞれ添えた. また, 順序効果を排除するためパネリストに試料の評価順序を指示し, 試料と試料の評価の間は水で十分に口すすぎをさせた.

(5)統計処理

統計処理はエクセル統計(社会情報サービス)を用いて一元配置分散分析・多重比較を行った. また, 主成分分析はJMP8(SAS Institute Japan 株式会社製)を用いた.

3. 実験結果および考察

(1)成分表示および関与成分

5種類の試料パッケージから, ヨーグルトの原材料等の内容と100gあたりの栄養成分を表1に示した. 5種類の試料は, いずれの項目も近似した値を示していた. 五訂増補日本食品標準成分表(文部科学省科学技術・学術審議会資源調査文科会, 2005)におけるヨーグルト(全脂無糖)成分は, 100gあたり熱量62kcal, たんぱく質3.6g, 脂質3.0g, 炭水化物4.9g, ナトリウム48mg, カルシウム120mgであり, 試料とした用いた5種類は, 一般的な成分値に近いものであった. 各試料に表示されていた菌種は表2に示した. FAO/WHOの国際規格(日本国際酪農連盟, 1980)におけるヨーグルトは, 「Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(ブルガリア菌)と Streptococcus thermophilus(サーモフィラス菌)の2種類を使用した発酵乳であり, 最終製品中の乳酸菌は生きているもの」と定義されている. そのため, イギリスやドイツ等を除く大部分のヨーロッパの国では使用菌種を国際規格に準じて指定している(伊澤と福井, 2007). 一方, 日本では, 厚生労働省の「乳および乳製品の成分規格等に関する省令(昭和54年4月16日厚生省令第17号, 乳等省令)」により発酵乳が規定され, 「乳またはこれと同等以上の無脂乳固形成分を含む乳等を乳酸菌又は酵母で発酵させ, 糊状又は液状にしたもの又はこれらを凍結したもの」と定義されている. このように日本には菌の規定がないことから, 表2のように各試料の菌種が異なることにより, 各試料の特徴につながる可能性が推察できた.

(2)酸度

酸度の測定は, 測定初日を0日とし, 8日後, 16日後, 23日後, 30日後までの5回測定した. 測定結果を図1に示した. 0日では0.68%~0.89%となっていた. マイルドなヨーグルトの乳酸含量は0.85%から0.95%であり, 酸味の強いヨーグルトは0.95から1.20%であるとされ(山内と横山, 1992), 試料Cはマイルドなヨーグルトの範囲内であり, 他の4種類はやや低い酸度となっていた. また, 初日測定から8日後までは大きな変化はみられなかった. 測定試料における8日後は, 賞味期限から2日程度経過した日数に相当しており, 賞味期限数日後までに消費すれば一定の酸味を保持できることが示された. 市販プレーンヨーグルトの賞味期限までの日数を店頭調査したところ, 2日から13日であり, 表示確認の必要性と家庭における消費の目安を確認することができた. さらに, 測定初日から16日後では, すべての試料において酸度が上昇していたが, 酸度1.20%以内の酸味の強いヨーグルトの範囲内であった.

(3)平均粒子径および遠心離水度

平均粒子径および遠心離水度の測定結果については表3に示した. 平均粒子径は, 値が小さいほどなめらかであり, ヨーグルトの食感の目安になるものである. Eの平均粒子径の値が他のA~Dに比べ小さい値を示していた. この結果から, 5種類中では特に「なめらか」なヨーグルトであることが示された. 遠心離水度は, 遠心分離を行ったあとに発生したホエイの割合である. この値が小さいほど緻密な組織なヨーグルトであることを示し, Eの遠心離水度は, 他のA~Dに比べて半分程度もしくはそれ以下の小さい値であり, 緻密な組織であることが推察された. 試料Eは表2からクレモリス乳酸菌を使用した製品である. このクレモリス乳酸菌は粘性多糖類を産生する菌であり, この菌を用いたヨーグルトは他のヨーグルトにはみられない独特の粘りがある(家森, 2002). この粘りが, 平均粒子径および遠心離水度の値に影響したものと推察できた.

(4)嗜好調査および官能評価

女子短期大学1年生36名にヨーグルトに関する嗜好および摂取頻度を調査し, 結果を図2に示した. ヨーグルトは9割近くの学生が好んでいた. 摂取頻度は, 月に1~3回が約半数であり, ほぼ毎日摂取する学生は2割程度であった. また, ヨーグルトを食べる時は「朝食」および「決まっていない」が各約4割弱であり, 昼食や夕食時よりも朝食での摂取が多かった. 学生が摂取するヨーグルトのタイプは, 約6割が添加(砂糖・フルーツなど)タイプのヨーグルトであった. 自由記述より, プレーンタイプでは別添の砂糖, 果物やジャムを加えて食べることが多く, 添加タイプは加糖されたものや, 具材(アロエ, りんご, イチゴ)入りであることが記入されていた. 短期大学の食物専攻学生の食に関する報告(高橋, 2002)においても, 「ヨーグルトは好きですか」の問いに対し, 短期大学2年生の「大好き」・「好き」の合計が87%であり, 本調査結果と一致していた. またどのような時にヨーグルトを食べるかについても昼食や夕食よりも朝食に摂取傾向があり, これらも本調査と一致した傾向であった.

一般に市販されているプレーンヨーグルトは, 400g~500gの大型パッケージがほとんどである. 一方, 食べきりサイズのヨーグルトは, 100g程度であり, 加糖タイプやフルーツ入りなど種類が多く, 量や内容から女子学生に好まれていることが推察された. 先の報告(高橋, 2002)にも, 小さい容器で2個から4個セットで販売されているものを良く食べるとした学生が3割近くみられたとある. また, ヨーグルトに果肉等を加えたものは, 個人の好みに左右されることが多く, その製品特徴からデザート性が高く, 個人の嗜好性が強く影響を及ぼす(高橋, 2007)との報告もあり, 女子短大生もヨーグルトを手軽なデザートとして考え, 好みの果物等が添加されたものを選択摂取していると推察した. 今回の調査は女子短大生のみの調査結果であるが, 今後年代間や性差による摂取傾向の違いを検討することも課題である.

官能評価の結果について各項目の評価平均値を求め, 各試料のプロフィール分析結果を図3に示した. 各試料間においては平均値に特徴がみられた. この図から, Aは「酸味」が強く, 「濃厚感」「ミルク感」「なめらかさ」の評価は, 試料5種類中では低く, やや弱い結果であった. Cは「酸味」と「濃厚感」にやや強い特徴がみられた. Dは「酸味」はやや弱く, 「ミルク感」はやや強くみられた. DとEは「なめらかさ」に強い傾向がみられた. 試料間の有意差は, Tukeyにより求めた. AとB, D, E間の酸味に有意差がみられた(p<.01). また, AとB, C, E間の濃厚感にも有意差が見られた(p<.05およびp<.01). AはFAO/WHOによる国際規格のLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus(ブルガリア菌)と Streptococcus thermophilus(サーモフィラス菌)の2種類を使用した発酵乳であり, これらの菌種が酸味や濃厚感に関与している可能性が推察された. Aは, BおよびE間に「ミルク感」に有意差(p<.05およびp<.01)がみられた. 「なめらかさ」は, AとB, BとC, DとEを除くすべての組み合わせに有意差がみられた(p<.01). この「なめらかさ」の要因として, Dは5試料中唯一容器に充填する前にタンクで発酵させる方法(前発酵法)を用いている. 発酵後攪拌され容器に充填されることから, 攪拌によって適度な「なめらかさ」が生じたことが推察できる. また, Eの「なめらかさ」は, クレモリス乳酸菌の粘性多糖類を産生する性質に起因され, これは前述の測定データからも示された.

各評価項目について相関係数を表4に示した. 主成分分析には平均値を, 相関係数は全データを用いた. この結果から, 「濃厚感」と「ミルク感」に正の相関がみられた. また, 「酸味」と「なめらかさ」においては負の相関が見られた. このことから, 「ミルク感」を上げることで「濃厚感」につながる可能性が示唆された. 一方, 「酸味」が高いと「なめらかさ」が失われる可能性が推察できた. さらに, 主成分分析の結果をバイプロット表示したものを図4に示した. 第一主成分50.1%, 第二主成分25.9%であり, これら2つの主成分で全体の76%を説明できる. 図4から, B, C, Eは良く似たポジショニングであり, AとDは対称的なポジショニングであった.

以上の結果から総合的に判断すると, Aは「酸味」に特徴がある試料であった. また, Dは「酸味」が弱く「なめらかさ」に特徴があることが示された. 「濃厚感」と「ミルク感」には正の相関が, 「酸味」と「なめらかさ」には負の相関が見られた. B, C, Eの「濃厚感」はよく似た傾向がみられ, Dの「なめらかさ」は発酵方法から, Eの「なめらかさ」には菌種特有の性質に起因していることが示唆された.

表1

試料の表示および100gあたりの栄養成分

表2

試料に表示されていた菌種

表3

試料の平均粒子径と遠心離水度

表4

各指標間の相関係数

図1

試料の日数経過による酸度の変化

図2

ヨーグルトに関するアンケート調査結果

図3

各試料のプロフィール分析

図4

各試料のバイプロット表示

謝辞

本研究は, 平成20年12月12日~13日に行われた日本官能評価学会主催の第2回ワークショップにおけるグループ課題を発展させたものであり, 同グループメンバーの森川裕美さん, 西尾和晃さん, 竹岡郁絵さん, 喜多記子さん, 原田(斉藤)理恵さんに大変お世話になりました. 心より御礼申し上げます. また, 本研究に対して真摯なご助言と機器測定等にお力添えを賜りました明治乳業株式会社の関係各位の皆様に深謝申し上げます.

引用文献
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