Japanese Journal of Sensory Evaluation
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Original Article
Taste characteristics of bitter chocolate types formulated with cacao beans from different countries evaluated using the TI and TDS methods
Yurika IshikawaKanami YoshidaAyumi HoshinoFumiko Iida
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2019 Volume 23 Issue 1 Pages 14-25

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1.緒言

チョコレートの食味特性は,原料,ロースト条件など,さまざまな条件によって変化する(Hoskin, 1994).これまでに,チョコレートの官能評価に関する研究として,原料であるカカオ豆や油脂に関するものなどが報告されているが(Glazier & Dimick, 2000; Guinard & Mazzucchelli, 1999; Jinap et al., 1995; Lipp & Anklam, 1998; Potts, 2002),これらの多くは機器分析による品質管理を目的としたものであり,チョコレートとおいしさとの関連について報告したものは少ない.われわれは以前,チョコレートの油脂含量および組成とおいしさとの関係について研究し,未訓練の学生パネルはテクスチャーを中心に,訓練パネルは多角的にチョコレートを評価したこと,油脂含量30~40%(カカオ分55~60%)が評価が高かったことを報告した(飯田他,2007).また,チョコレートの主原料はカカオマス,ココアバター,砂糖であるが,カカオマスの原料であるカカオ豆の産地により,チョコレートの味や香りなどが異なることが知られている.われわれは,産地の異なるカカオ豆を用いたチョコレートにおいて,試料ごとにチョコレートの特徴が異なること,チョコレートのおいしさに香りや味,こく,味のバランス,後味が影響することが推察されたことを報告した(葛西他,2007).しかしながら,嗜好度の高い3種のカカオ豆がなぜ好まれるのかは通常の静的官能評価法では解明に至らなかった.それは,摂食中の味の出現の仕方は動的であり,口中の経時的変化を考慮した検討でないことが要因と考えられる.

食品の特性を経時的に計測する手法としてTI(Time Intensity)法やTDS(Temporal Dominance of Sensations)法がある.TI法はLee & Pangborn(1986)によって提案された,一つの感覚特性が時間経過に伴ってどのように変化するかを評価する手法である.10種の市販のイチゴジャムについて検討を行った黒飛他(2017)は,TI法により,食べている間の時間経過の観点も含めた風味特性の数値化および重要な要素の抽出,さらに,要素間の関係を把握することができたと報告した.5種の植物油について検討を行った早川他(2014)は,風味強度の最大値が同程度であっても,直後の低下に差があることを報告した.また,TDS法は,Pineau et al.(2009)によって提案され,複数の感覚特性の中で最も強い印象をもつものの時間的変化を測定する手法である.Meillon et al.(2009)は,ワインの摂取がチーズの塩辛さおよび香りの支配時間に影響を与えることを示し,食品がほかの食品の経時的な味の変化に関与する可能性を示した.その他にも,チーズやチーズパイ,ソーセージなどさまざまな食品での測定が報告されている(Braghieri et al., 2016; Marcano et al., 2015; Rodrigues et al., 2018).また,Lorido et al.(2016)はTI法,TDS法を併用した研究において,TI法は特定の属性の強度を経時的に慎重に追跡するのに適している一方,いくつかの属性を比較し経時的に記録する必要がある場合はTDS法の方が適していることを報告した.しかしながら,チョコレートにおいて,これらの手法を用い官能評価を行った報告はほとんどない.

そこで本研究では,Descriptive Analysis(記述分析)法,TI法,TDS法を用い,チョコレートの味と経時的変化との関連ついて検討すること,それらと嗜好との関連を検討することを目的とした.

2.試料および方法

2-1.カカオ豆産地

アクラ(ガーナ)産,アリバ(エクアドル)産,カレネロ(ベネズエラ)産のカカオ豆を実験に供した.なお,これらの産地は,先行研究において「香り」,「味」,「テクスチャー」が総合して好まれたものである(葛西他,2007).

2-2.試料の調製

チョコレート試料の調製方法は,先行研究(飯田他,2007)と同様である.つまり,チョコレートの配合割合は,Table 1に示した通りで,カカオマス40%,カカオバター20%のカカオ分は60%である.なお,ロースト条件は通風熱風ロースターで120~130°C,60分間の低温長時間ローストとした.チョコレートの形状は,一口で食せる量とするため,1辺約1 cmの立方体様(2 g)の形状とした.

Table 1 チョコレート試料の配合
配合割合(%)
カカオマス40.0
カカオバター20.0
砂糖39.7
大豆レシチン0.3
合計100.0

(若干のバニリンを含む)

2-3.パネリストの選定および訓練

パネリストは研究室訓練パネル10名(22~23歳と教員2名)と訓練を行っていない一般の消費者の代表である女子大学生43名(18~22歳)(以下,学生パネル)の計53名を対象とした.訓練パネルにおいて,官能評価を行うにあたり,以下,1)~6)の訓練を実施した.

1)五味識別訓練,2)産地の異なるカカオ豆を使用した22種シングルビーンズチョコレートからの言葉だし,3)チョコレート中に含まれる香り訓練,4)市販チョコレートを用いた官能評価訓練.詳細は先行研究を参照されたい(飯田他,2018).加えて苦味・渋味の評価基準を統一するため,Table 2に示した通り,コーヒー,ゴーヤ,ピーマン,市販の緑茶,紅茶,ブドウの皮の6種の食品を試食して,苦味・渋味について言葉出しを行う,5)苦味・渋味言葉出し訓練を行った.さらに,TI法での苦味・渋味の強度のスケールをチョコレートのカカオ分含量(%)で統一するため,Table 3に示した通り,カカオ分含量の異なる7種のチョコレート(33~95%)を用いて,カカオ分含量をあてる,6)苦味・渋味強度識別訓練を行った.なお,学生パネルは食物学科に在籍する1~4年次の学生のうち,特にチョコレートや食味評価への関心が高い者を募った.

Table 2 苦味・渋味識別訓練に用いた試料
食品分量/人調製方法主な苦味成分主な渋味成分
コーヒー〔UCC〕30 mL粉末6 g+湯300 gカフェイン,トリゴネリ,クロロゲン酸類,ジケトピペラジン類,フルフリル化合物,褐色色素群クロロゲン酸類
ゴーヤ30 g200 g薄切りモモルディシン,チャランチン,ククルビタシン,コロソリン酸
電子レンジ加熱(1000 W, 1分)
ピーマン30 g200 g細切りクエルシトリン,ピラジン(香気成分)クエルシトリン(ポリフェノール)
電子レンジ加熱(1000 W, 1分)
市販の緑茶30 mL茶カテキン茶カテキン
紅茶〔Style ONE〕30 mLティーバッグ1個+水300 g, 抽出時間3分カフェインタンニン(カテキン)
ぶどうの皮(レッドグローブ〔チリ産〕)4粒対象者自身が皮をむいて食したアントシアニン(ポリフェノール)レスベラトロール(ポリフェノール)
Table 3 苦味・渋味強度識別訓練に用いた試料
TI測定における強度カカオ分(%)名称
035フェーブ イボワール
(ホワイトチョコレート)〔ヴァローナ〕
3333フェーブ タナリヴァラクテ
〔ヴァローナ〕
4040フェーブ ジヴァララクテ
〔ヴァローナ〕
5555フェーブ エクリアトリアール
〔ヴァローナ〕
7272チョコレート効果
〔明治〕
8686チョコレート効果
〔明治〕
9595チョコレート効果
〔明治〕

2-4.官能評価

上記訓練を施した訓練パネル,および訓練をしていない学生パネルに対して,カカオ豆の異なる3種の試料について,以下の官能評価を行った.官能評価は,従来の静的Descriptive Analysis法(DA法)と動的Time Intensity法(TI法),Temporal Dominance of Sensations法(TDS法)の3手法を用い,味の感じ方をより鋭敏にするため,ノーズクリップを用いて喫食中に鼻に抜ける香り(レトロネーザルアロマ)の影響を排除して行った.DA法は,−3から+3の7段階尺度採点法で行い,「甘味」,「酸味」,「苦味」,「渋味」,「総合評価」の5項目とし,4味については+3強い⇔−3弱い,総合評価は+3良い⇔−3悪いで評価した.TI法は「味」に関するモダリティのみを選定し,属性はチョコレートの味特性の中でも判断しやすいと考えられる「甘味」,「酸味」,「苦味」,「渋味」の4項目とした.TI法は評価のスケール合わせを要するため,訓練パネルのみに対して行った.TDS法は,種々なモダリティを同時に評価できる測定法であるが,Rodrigues et al.(2018)は,チーズのテクスチャーと味を同時評価する検討を行い,異なる2つのモダリティを同時評価することは困難であったことを報告している.そのため,本研究においては,TI法同様味のみとした.TI, TDS測定にはJ-SEMS, TDS&TI(株式会社メディア・アイ)のソフトウェアを用い,データの取得はいずれも1秒ごとに設定し,測定上限は120秒とした.なお,TDS法においては,その時点で最も強いと感じた味を評価するよう指示した.食し方は,いずれも噛まずに舐めて評価するように指示し,オープンパネル方式で実施した.DA法,TDS法は,訓練パネルと学生パネルの両方で行った.DA法の用紙の最後に,3種のチョコレート試料の特徴を記入する自由記述欄を設けた.なお,DA法,TDS法では訓練パネルと学生パネルは同様の結果であったため,合わせた結果を以下に示した.

2-5.質問紙調査

対象とした女子大学生の味嗜好の背景を探るため,上記のパネリストに対して,官能評価終了後に「食嗜好に関する質問紙調査」(自記式)を行った.官能評価に用いた試料に関する項目として,まず,3種のチョコレートの好み,食品全般における4味の嗜好,4味に関する成分含量が異なる11の食品についての味に関する質問を加えた.摂食時間に関しては,チョコレートの舐め始めた瞬間の味/食べている最中の味/食べ終わったすぐ後の味のどれを重視するかの質問を行った.

2-6.解析方法

コンピュータの統計データ処理ソフトSPSS Statistics 22.0を用いて,一元配置分散分析,およびTukey’s HSD検定,カイ二乗検定,pearsonによる2変量の相関分析を行った.TI法,TDS法の解析は,J-SEMS, TDS&TI(株式会社メディア・アイ)のソフトウェアを用いて行った.自由記述で出現した用語の解析には,SPSS Text Analytics for Surveys 4.0.1を用いた.

調査および官能評価の協力は任意とし,2017年日本女子大学倫理委員会(課題番号299号8月1日)の承認を得たうえ,インフォームドコンセントを行い実施した.

3.結果と考察

3-1.食嗜好に関する質問紙調査

質問紙調査は,53名100%の回答を得ることができた.Table 4に示した通り,官能評価に用いた試料に関して,3種のチョコレート嗜好では,「ガーナ好き」が21名(40%),「エクアドル好き」が13名(24%),「ベネズエラ好き」が19名(36%)であり,DA法における味の総合評価の結果と同様の傾向となった.

Table 4 質問紙調査の結果
最も好ましいチョコレートa(人数)
ガーナ21
エクアドル13
ベネズエラ19
重視するタイミングb重視する(人数)重視しない(人数)
初期の味3716
中期の味485
後期の味476
4味の嗜好c好き(%)嫌い(%)
甘味嗜好982
酸味嗜好6436
苦味嗜好6040
渋味嗜好892
甘味嗜好cプリンの甘味8911
ようかんの甘味7525
べっこう飴5545
酸味嗜好cトマトの酸味7723
ヨーグルトの酸味7921
リンゴの酸味8515
苦味嗜好cブラックコーヒーの苦味6238
緑茶の苦味8119
ココアの苦味8317
渋味嗜好c紅茶の渋味4555
ぶどうジュースの渋味5743

n=53 a:「最も好きなチョコレートはどれですか」と尋ね,「ガーナ」,「ベネズエラ」,「エクアドル」のいずれかで回答を求めた.b:「チョコレートを食べている時に次の味を重要視しますか」と尋ね,「チョコレートを食べ始めた瞬間の味」,「チョコレートを食べている最中の味」,「チョコレートを食べ終わったすぐ後の味」について,それぞれ「はい」,「いいえ」で回答を求めた.c:4味もしくは食品中の4味についてそれぞれ「好きですか,嫌いですか」と尋ねた.

チョコレートの重視する味の結果は,Table 4に示した.「舐め始めた瞬間の味(以下,初期の味)」を重視すると答えた者は37名(70%),重視しないと答えた者は16名(30%),「食べている最中の味(以下,中期の味)」を重視する者は48名(91%),重視しない者は5名(9%),「食べ終わったすぐの味(以下,後期の味)」を重視する者は47名(89%),重視しない者は6名(11%)であった.3つの期の味の「初期の味」は「中期の味」,「後期の味」に比べ,重視すると答えた者の割合が少ないと考えられた.なお,3つのタイミングすべてを「重視する」と答えた者は28名(53%)であり,すべてを「重視しない」と答えた者はいなかった.

食品全般における4味の嗜好は,甘味「好き」が98%,「嫌い」が2%であり,酸味「好き」が64%,「嫌い」が36%,苦味「好き」が60%,「嫌い」が40%,渋味「好き」が8%,「嫌い」が92%であった.しかし,本研究において,カイ二乗検定の結果,4味の嗜好と3種のチョコレートの嗜好との間に有意な関連は認められなかった.

4味の嗜好について強度が異なる複数の食品を例に出し尋ねた結果,「甘味」においてプリンの甘味(糖度20%)が「好き」と答えた者は89%,「嫌い」は11%であり,ようかんの甘味(糖度70%)が「好き」と答えた者は75%,「嫌い」は25%であり,べっこう飴の甘味(糖度95%)が「好き」と答えた者は55%,「嫌い」は45%であった.「酸味」においてトマトの酸味(pH 5.0)が「好き」と答えた者は77%,「嫌い」は23%であり,ヨーグルトの酸味(pH 4.0)が「好き」と答えた者は79%,「嫌い」は21%であり,リンゴの酸味(pH 3.0)が「好き」と答えた者は85%,「嫌い」は15%であった.「苦味」においてブラックコーヒーの苦味(カフェイン0.06%)が「好き」と答えた者は62%,「嫌い」は38%でり,緑茶の苦味(カフェイン0.16%)が「好き」と答えた者は81%,「嫌い」は19%であり,ココアの苦味(テオブロミン1.7%)が「好き」と答えた者は83%,「嫌い」は17%であった.「渋味」において紅茶の渋味(タンニン0.1%)が「好き」と答えた者は45%,「嫌い」は55%であり,ぶどうジュースの渋味(タンニン0.19%)が「好き」と答えた者は57%,「嫌い」は43%であった.しかし,カイ二乗検定の結果,本研究で用いた3種のチョコレートの嗜好と4味の含まれる食品の嗜好との間に有意な関連は認められなかった.

3-2.DA法による官能評価

Figure 1に,DA法による官能評価結果を示した.4味の中で「甘味」,「苦味」,「渋味」において有意な差がみられ,ガーナ,ベネズエラはエクアドルに比べ,「甘味」が強く,「苦味」,「渋味」が弱いことが示された.このことは,砂糖の配合割合が同じであるにもかかわらず,カカオマス中の「苦味」「酸味」が「甘味」の感じ方を変化させたものと考えられた.さらに,「苦味」「渋味」が「甘味」に干渉し,甘味強度を低下させ,結果として「総合評価」を低下させた可能性が考えられた.「酸味」は試料間で差がみられず,3試料とも負であったことから,本研究で用いたチョコレートは全体として酸味が弱いチョコレートであったため,差の判別が困難であったと考えられる.われわれは以前,異なる7つのカカオ豆産地のチョコレートについて検討し(葛西他,2007),ガーナ,エクアドル,ベネズエラの試料間で,「甘味」,「苦味」に有意な差が認められなかったことを報告した.本研究では異なる結果が得られ,その要因として,ノーズクリップを装着しレトロネーザルアロマの影響を受けない条件下で測定したため,本来の味がはっきり区別されたと考えられる.この味の認識と従来型の好みが乖離していることについては,Prescott(2012)が,味覚特性は香りの影響を受けることを報告しているように,香りと食味評価との関連についても今後も検討することが望ましい.また,チョコレートの総合的な品質指標となる「総合評価」において,ガーナ,ベネズエラはエクアドルに比べ,高値であり,「良い」チョコレートとされた.本研究において,「甘味」の強いチョコレートが高評価であり,「苦味」,「渋味」が強いチョコレートは低評価であった.Table 5に,官能評価DA法の項目間の相関関係を示した.「甘味」と「酸味」,「苦味」,「渋味」との間に負相関,「総合評価」との間に正相関がみられ,「甘味」の強いチョコレートは「酸味」,「苦味」,「渋味」が弱く,「総合評価」が高いことが示され,上記結果が支持された.先行研究において(葛西他,2007),われわれは嗜好性の高いチョコレートは「酸味」,「苦味」,「渋味」が強くないという官能評価特性を示すことを示唆しており,本研究においても,同様の結果が認められた.また,質問紙調査の結果において,最も好きなチョコレートとしてガーナを選んだ者は40%,エクアドル24%,ベネズエラ36%であったことにも反映されていると考えられる.

Figure 1 DA法によるチョコレートの官能評価結果

n=53の平均値,*: p<0.05(Tukey’s HSD)甘味,酸味,苦味,渋味は「+3:強い」から「−3:弱い」,総合評価は「+3:良い」から「−3:悪い」の7段階尺度とした.

Table 5 官能評価尺度法項目における相関関係
甘味酸味苦味渋味総合評価
甘味−0.234*−0.567*−0.305*0.445*
酸味−0.234*0.0780.080−0.070
苦味−0.567*0.0780.192*−0.152
渋味−0.305*0.0800.192*−0.305*
総合評価0.445*−0.070−0.152−0.305*

n=53 *: p<0.05

3-3.自由記述によるチョコレートの呈味特性

チョコレートの自由記述で出現率が10%以上の用語はガーナで7語,エクアドルで8語,ベネズエラで6語であった.抽出された用語として多かったのは味質を示す用語であり,ガーナ,エクアドルでは「甘味」,「酸味」,「苦味」,「渋味」の4味すべてが抽出され,ベネズエラでは「渋味」を除く3味が抽出された.その他嗜好を示す用語として,3試料すべてに「好き」という用語が出現した.エクアドルでは,唯一「嫌い」という用語が出現し,嗜好の評価が二分したことが示された.これはDA法「総合評価」項目において,ガーナ,ベネズエラに比べエクアドルが低値であったこととも関係していると考えられた.3種のチョコレート試料すべてに「変化」という用語が抽出されたことから,パネリストが摂食中の呈味変化に着目していることが明らかとなり,時系列の官能評価を行う重要性が示唆された.

Figure 2に,用語間で多く関連性がみられた項目(10%未満も含む)を示した.ガーナ,ベネズエラにおいて,「甘味—ある」の回答が多く共通しており,これはDA法の結果と同様であった.エクアドルでは「ある」の回答と多く共通していた用語として「甘味」に加え「苦味」,「渋味」があった.さらに「渋味—強い」の回答も多く共通していたことから,ほかの味によって「甘味」がマスキングされ,DA法の結果,「甘味」が弱く,「苦味」,「渋味」が強いと評価された可能性が示唆された.

Figure 2 チョコレート官能評価自由記述出現用語のサークルレイアウト

n=53図中の円の大きさは用語の回答数の多さ,線の太さは共通する回答数の多さを示す.

以上,自由記述における食味特性の分析結果と(3)に示したDA法の結果は一致した.

3-4.TI法による官能評価

TI法の結果をFigure 3に示した.なお,データの集約においては,各経過時間ごとの10名分のデータの平均値を算出した.ガーナでは,「甘味」,「苦味」強度が20秒付近まで急激に増加し,その後緩やかに減少した.「渋味」は穏やかに増加し,100秒付近で急激に減少した.エクアドルでは,「甘味」,「苦味」,「渋味」強度が15秒付近まで急激に増加し,その後緩やかに増加または同程度を保ち続け,90秒付近を境に急激に減少した.ベネズエラでは,「甘味」強度が15秒付近まで急激に増加し,40秒付近にかけて減少するが,その後,再び増加減少した.「苦味」と「渋味」は15秒付近まで急激に増加し,80秒付近にかけて緩やかに増加し,その後減少した.すべての試料において,「酸味」強度は低く,変化も穏やかであった.各TI曲線において4味の中で最も特徴的に高い強度を維持した属性は,ガーナ,ベネズエラは「甘味」,エクアドルは「苦味」であり,これは,ガーナ,ベネズエラがエクアドルよりも「甘味」が強く,「苦味」が弱いとされたDA法の結果と同様であった.

Figure 3 チョコレート3種のTI曲線

n=10(強度のスケール合わせを施した訓練パネルのみを対象とした)データの取得は120秒を上限とした.

各TI曲線から,最大強度の時間(以下,Tmax),最大強度(以下,Imax),TI曲線下面積(以下,AUC),全持続時間(以下,Dtot)を算出した結果をTable 6に示した.TI曲線から得られた4種のパラメータすべてにおいて,試料間で有意な差はみられなかった.DA法において,ガーナ,ベネズエラに比べ,エクアドルは「甘味」が弱く,「苦味」,「渋味」が強かったが,TI法において,この差を識別することは困難であった.DA法で得られた得点とTI法で得られた各味に対するパラメータとの相関をTable 7に示した.DA法における「苦味」の強さとTmaxとの間に負の相関がみられ,「苦味」が強いほど強度が最大値に達するまでの時間が短いことが示された.他項目においては有意な関連がみられず,本実験の試料間では,「苦味」が最も味質に影響を与えたことが示された.しかし,これらのパラメータですべての味の特性を説明するには不十分であると考えられた.5種の植物油の風味強度をTI法によって測定した早川他(2014)は,Imax, AUC, Ttotがとうもろこし油で高く,これはTI平均曲線においていずれの時間においても強度が高かった結果を反映していると報告した.スクロース含量や粘度が異なる市販イチゴジャムについてTI法で官能評価を行った黒飛他(2017)は,試料間で甘味,酸味属性でImax, AUC, Ttotに差がみられたこと,いずれの属性においてもImaxが高い値をとると試料はTtotも長く,AUCも大きい傾向がある,すなわち強度と持続性には関連があることが示唆されたことを報告した.本研究ではカカオマス40%,カカオバター20%で統一した試料について検討を行ったことから,呈味や食感に大差が生じず,味強度や持続性への影響が少なかったものと考えられた.また,本研究においてはTIパラメータの中でも文献中によく用いられる4つのパラメータを用いたが,本測定機器ではIarea(TI関数の曲線下の面積),Darea(TI関数の曲線の増加曲線下の面積),増加回帰曲線の傾き,下降回帰曲線の傾き,Dmax(Y軸の値が0.9×Imaxより高い時の時間間隔)についても測定可能であり,今後はこれらのパラメータについても検討していくことや,検出力を上げるためにより大きな人数でのTI法の実施が必要と考えられる.

Table 6 TI曲線から得られた試料ごとのパラメータ
ガーナエクアドルベネズエラ
甘味
Tmax(秒)39.140.240.1
Imax63.057.462.0
AUC4566.63795.84249.5
Dtot(秒)91.688.488.2
酸味
Tmax(秒)39.344.448.8
Imax35.136.233.3
AUC1790.22066.21925.1
Dtot(秒)87.281.984.7
苦味
Tmax(秒)46.941.837.6
Imax56.560.656.2
AUC3816.54236.33779.7
Dtot(秒)90.790.886.9
渋味
Tmax(秒)48.838.843.0
Imax43.358.451.1
AUC2370.23435.13034.2
Dtot(秒)83.985.182.9

n. s. Tmax:強度が最大値に達するまでの最短時間.Imax:ピークにおける最大強度.AUC:TI関数の曲線下の面積.Dtot(total duration):全持続時間.値は訓練パネル10名の平均値を示した.データの取得は120秒を上限とした.n. s.:有意差なし(Tukey HSD).

Table 7 官能評価尺度法とTI法との相関関係
TmaxImaxAUCDtot
甘味0.1460.2760.223−0.026
酸味0.090−0.069−0.096−0.099
苦味−0.440*0.1840.170−0.148
渋味0.0610.1090.1360.206

:甘味,酸味,苦味,渋味のそれぞれに対応するTmax, Imax, AUC, Dtotを用いた. n=53,*: p<0.05

3-5.TDS法による官能評価

TDS法の結果をFigure 4に示した.ガーナは初期に「苦味」,中期から後期にかけて「甘味」の最も強く感じた人の割合(%)が有意に高く,「酸味」と「渋味」は全摂食時間において有意水準を下回った.エクアドルは前半に「苦味」が有意に高く,後半は「甘味」,「苦味」,「渋味」が同時に出現し,「酸味」は常に有意水準を下回った.ベネズエラは初期にやや「苦味」の最も強く感じた人の割合(%)が有意水準を超えるが,全摂食時間を通して「甘味」が有意に高値を示す傾向であった.全摂食時間を通して「甘味」が有意に高値を示す傾向であった.なお,各属性において有意水準を超えた時間は,ガーナでは「甘味」が61秒,「苦味」が10秒,エクアドルでは「苦味」が29秒,ベネズエラでは「甘味」が81秒,「苦味」が3秒であり,「酸味」,「渋味」はいずれの試料も0秒であった.

Figure 4 チョコレート3種のTDS曲線

n=53 データの取得は120秒を上限とした.

DA法の結果とTDS法の結果を比較すると,DA法において各試料で特徴的であった属性は,TDS法で高値を示す時間が長かった.よって,味の感覚的印象を特徴づける要素として,TDS法で高値を示すだけでなく,高値である時間の長さが関与していると考えられた.特にTDS曲線の初期において,DA法で特徴的な属性が顕著に出現した.このことから,初期の味が感覚的印象を特徴づける要因の一つであると考えられる.これは「中期の味」,「後期の味」に比べ「初期の味」を重要とする者が少なかった質問紙調査の結果とは逆であり,意識と実態との乖離が明らかとなった.Braghieri et al.(2016)は,QDA法などの従来法とTDS法との比較を行い,TDSは従来法に比べ,食品の味質の経時変化をより詳しく説明できることを報告した.本研究においても,DA法でガーナ,ベネズエラは同傾向を示したが,TDS法では「甘味」の線形が異なり,ガーナでは70秒付近にピークがあるのに対し,ベネズエラでは25秒付近と75秒付近の2か所にピークがあり,「甘味」の出現タイミングが異なることが示され,TDSではより詳細な味質の経時評価が可能であると考えられた.Marcano et al.(2015)によると,訓練パネルによるTDS法と消費者パネルによる嗜好評価を併用したチーズパイの官能評価において,TDS法で得られた結果が,嗜好評価で低値となった試料の理由を説明し得ると報告している.本研究のTDS法で得られた味の出現タイミングの違いも同様に,質問紙調査で嗜好が2分された要因とも考えられる.Oliver et al.(2018)は,イチゴの風味に関して検討を行い,消費者パネルに対して行ったTDS法と訓練パネルによるQDA法では異なる情報が得られ,TDS法の限界として,用語の定義に対する訓練の欠如と最も顕著な属性以外のすべての属性を無視する方法がみられたことを報告している.このことから,対象者や対象とする食品に応じ,従来法を併用してTDSを用いることも効果的だと考えられる.本研究においても,TDS法で明らかとなった時系列変化と,全体を通しての評価であるDA法の結果との関連を検討でき,2つの手法を併用することで,チョコレートの呈味特性をより詳細に検討することが可能となった.

3-6.動的変化を測定する官能評価手法の有効性

TI法,TDS法についての検討を行ったPineau et al.(2009)は,TI法とTDS法では似た傾向を示すが,TDS法の方がより詳細な測定ができると報告している.本研究においても,TI法では全試料においてどの属性においても序盤に上昇し,同程度を保ち,その後減少するという同様の傾向を示したが,TDS法では試料間においてTDS曲線の線形が顕著に異なり,各試料の味の変化の特徴がみられた.すなわち,本研究に用いたビターチョコレートにおいては,TI法よりもTDS法で,より詳細に食味特性を評価でき,今回用いたチョコレートの味の経時的変化の測定には,TI法よりもTDS法が各試料の特徴が表れたことが示唆された.TDS法の利点として,「甘味」など,一つの属性に集中し評価を続けることで知覚に偏りが生じるハローダンピング効果を防ぐことができる点が挙げられる(Sokolowsky & Fischer, 2012).また,TDS法では複数の属性について1回で評価を行うことができるが,TI法では各属性について1回ずつの評価が必要となるため,測定時間が長く,パネリストにかかる負担が大きい.このことから,効率面でもTDS法はTI法より優れていると考えられる.しかし,Lorido et al.(2016)は,TDS法,TI法を併用した研究において,TI法とTDS法では得られる情報が異なり,TI法では特定の属性の強度を時系列に慎重に追跡するのに適しており,TDS法はいくつかの属性を比較し,時系列に記録する場合がある場合に適していると報告した.TI法では,TDS法では測定できない,各属性の連続的な強度変化を測定することができるため,より詳細な経時的特徴を測定するには,両手法を組み合わせ,補い合うことが大切と考えられる.今回用いたチョコレートは,カカオ分が統一されているため,4味の強度も似た結果となったが,対象とする食品の特性に応じ,評価方法を選定することが必要であろう.

近年,経時的変化を考慮した食味特性の測定方法として,TCA TAが用いられている.TCA TA法は摂食中に感じたすべての属性を評価する方法であり,Esmerino et al.(2017)は,TDS法とTCA TA法を併用した実験において,TCA TA法はTDS法に比べ感度の高い方法であったことを報告した.今後は,これらの手法についても検討することが期待される.

以上より,今回用いた3種のチョコレートのレトロネーザルアロマの関与を除外した味の特徴は,エクアドルは喫食開始直後の「苦味」の強さが特徴的なチョコレート,ガーナとベネズエラは喫食途中の「甘味」の印象が長く続くチョコレートであることが示された.また,意識調査では,初期の味はあまり嗜好評価に関わらないと認識されていたが,実際,嗜好度の高いチョコレートの味は,顕著な味の持続性と初期の味が関わっていることが明らかとなった.

4.結語

カカオ豆産地が異なる3種(ガーナ産,エクアドル産,ベネズエラ産)のビターチョコレートを用い,DA法,TI法,TDS法の3つの手法によって4味(甘味,酸味,苦味,渋味)の経時的変化の特徴を検討した.

その結果,DA法では,試料の砂糖含量が一定であるにも関わらず,ガーナとベネズエラは甘味が,エクアドルは苦味と渋味が強く感じられたことが示された.エクアドルのカカオマス由来の苦味・渋味が主観的な甘味強度を低下させた結果,総合的な嗜好性を低下させた可能性が示唆された.エクアドルは,TI法では甘味,苦味,渋味強度が同程度で推移したこと,TDS法では苦味が前半に最も強いと感じられたが,後半に有意に強く感じられた味質がなかったことが明らかになり,嗜好性を低下させたより詳細な経時的要因を考察することができた.DA法において各試料で強いと評価された味質はTDS法での持続時間が長い傾向にある一方で,TDS法で初期に最も強いと評価されているため,DA法のみでは初期の味しか評価されない可能性が示唆された.以上より,チョコレートの味には経時的な動的測定の必要性が示され,レトロネーザルアロマの関与を除外したチョコレートの味嗜好の調査・研究には,TI法は感覚強度の経時変化の測定に,TDS法は印象変化の経時変化の測定に向いていることが改めて確認された.

謝辞

本研究を行うにあたり,サンプルをご提供いただきました株式会社ロッテ中央研究所の皆様,そして,官能評価にご協力いただきました皆様に心より感謝申し上げます.

References
 
© 2019 Japanese Society for Sensory Evaluation
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