Japanese Journal of Sensory Evaluation
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Effects of Water Quality on Sensory Evaluation of Murakami Green Tea
Chigusa TATEYAMA
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2003 Volume 7 Issue 2 Pages 111-117

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1. 緒言

新潟県村上地方は, 冬には積雪下の特殊条件下で, 茶栽培が行われ, 経済的北限に位置している茶産地といわれている. 村上茶の呈味は, 従来から, 甘みのある苦みが少ない独特なまろやかな高級緑茶であると言われている(新潟県村上市, 1978)が, 育成品種でないためか, 村上茶における品質評価についての報告はほとんどなく, 実際は不明な点が多い. そこで, 今回, 村上茶の品質評価に及ぼす抽出水の影響の観点から特性を検討するために, 新潟県村上市下渡及び羽下ヶ測地域で栽培・共同工場で加工された煎茶6点と, 比較対象試料として村上茶の製茶時期・販売価格を考慮して選定した市販の静岡煎茶2点を加えた計8点を用いて, 水質が異なる抽出液を用いて官能評価を行った. また, 煎茶の化学成分および色彩値の測定も行い, あわせて検討した. その結果, 若干の知見を得たので報告する.

2. 実験方法

2. 1 試料

実験材料は, 市販茶の中級程度(小売価格;500円/100g)の煎茶8点を使用した. そのうち6点は新潟県村上市産の煎茶, 2点は静岡県静岡市産の煎茶を用いた.

2. 2 官能評価の方法

静岡県茶業試験場5名の専門家による緑茶の普通審査法(竹尾, 1988)に準じて茶の品質評価をおこなった. 評価項目は, 外観として, 形状, 色沢の2項目, 内質として, 香気, 水色, 滋味の3項目, 合計5項目とした.

外観の評価方法は, 審査用盆に約150gの茶を盛り入れ, 形状, 色沢などを肉眼による優劣に従って盆を配列し判別した. さらに内質については, 茶の浸出溶液(すなわち抽出水:蒸留水, 新潟市海老ヶ瀬地域の給水栓水, 静岡市北番町地域の給水栓水)別に行った. 内質の評価方法は, 審査用盆の茶をよく混和してから3gずつ2個秤量し, 1つは香気審査用, 他の1つは水色と味の評価兼用とした. 評価に用いた水は各々5~10分間沸騰させたのちに供した. まず, 約180mlの審査用茶碗の中の網器に3gの茶を入れ, 沸騰している湯をいっぱいに注ぎ, 水色・味では5分間経過したら, 直ちに茶殻を取り除き, 静置して水色を判定したのち配点した. 次にスプーンですくい取って口中に含み, 全体にすすり広げるようにして吟味し配点を行った. 香気の評価では審査用茶腕に3gの茶を入れ, これに沸騰中の湯をいっぱいに注いでから1~2分たち茶のよれが解けてきたら, すくい網で茶殻をすくって, 茶殻の香気をかぎわけ, 香気の配点を行った. なお, 内質審査は1回の審査点数は40点が限度であるといわれている(竹尾, 1988)ので, 1回の評価点数は抽出水別の24点に分けて行った. 5項目ごとに合議制による順位法で判別し, SPSS Base 10.0Jを用いてデータの変換を行い官能評価の評定値を求めた.

2. 3 化学成分分析・測色の方法

分析項目及び定量方法は, 以下に記すとおりである. なお, 分析用試料はそれぞれ四分法で採取した茶を家庭用コーヒーミルで粉砕(5g×30秒間)したものを使用した. 試料溶液の調製法は, 粉末試料100mgを100mlのメスフラスコに入れ, 熱水(約80℃)60~70mlを加えてよく振り混ぜた後, 恒温水槽中で70~80℃に30分間加温抽出し, 冷却後100mlに定容した後, JIS2種の濾紙で濾過した. 除タンニン処理の試料を用いる場合は, さらにこの濾過した溶液にPVPP(POLYVINYL POLYPYRROLIDONE)を約300mg加えよく振り混ぜ30分間放置後, 濾過した溶液を用いた.

(1)水分, 全窒素, 遊離アミノ酸, タンニン, 可溶分は, 池ケ谷等(1990)の分析法に従い分析した. 全糖はフェノール-硫酸法, 遊離還元糖は除タンニンした後(岩浅等, 1972), ネルソン-ソムギ法にて分析した. また, 可溶分中の全糖, 遊離還元糖, 全窒素については前記の方法に準じて分析した.

(2)粉体試料の色の測定は, 東京電色株式会社(MODEL TC-1500D)を用いて, L*, a*, b*を測定した. またさらに, 各試料溶液の水色についても同様に測色した.

2. 4 多変量解析方法

解析はSPSS Base 10.0Jを用いて階層クラスター分析, 判別分析を行った. 階層クラスター分析の解法は, ユークリッド平方距離に基づく方法とし, 分類手法は群平均法で行った. 判別分析の解法はグループ化変数を茶産地別とし, 同時に独立変数を投入する方法で行った.

3. 結果及び考察

3. 1 官能評価結果と茶の分類

食べ物は調理の過程で使用する水によっても呈味の違いが生じることは広くを知られており, お茶と水に関する報告も多い(池ケ谷, 1988;牛書舎, 1988;山西, 1922;静岡県お茶と水研究会, 2001). 一方, 私たちが日常の飲食に利用する給水栓水質は, 水道水と一口に言っても, 原水の水質によって大きく異なっている(立山, 1992).

新潟市の給水栓水は, 日本海側に比較的共通に見られる水質, すなわち雪解け水を主とする表流水で, これらの水質は茶の浸出に影響のある硬度が一様に低いという特徴が見られる. 今回使用した水の硬度は, 飲料水一般水質試験結果によると, およそ新潟17.5mg/l(財団法人新潟県環境分析センター), 静岡75.0mg/l(株式会社エコプロリサーチ)であった. 静岡市の給水栓水の原水は地下水で, 新潟市の水質とは明らかに品質を異にするものである. これらの新潟市と静岡市の給水栓水の他に蒸留水を用いで茶8点の官能評価をおこなった. 官能評価の評定値結果一覧をTable 1に示す. 一覧に示すとおり抽出水の種類によって, 香気, 水食, 滋味の項目すなわち内質の評定結果に違いが認められる.

次に, 抽出水の違いによって茶の品質間に影響が及ぼされるのか否か各試料の分類を試みた. 各試料の分類はクラスター分析を用いて求めた. 計算に用いた項目は, 試料計8点の茶について, 抽出水の種類別各々の内質(香気・水色・滋味)の評定値と外観(形状・色沢)に関する項目の官能検査の評点値を変数として用いた. その結果をデンドログラム(Fig. 123)に示した. これら抽出水別のデンドログラムを比較すると2個のグループ分けではいずれも試料1~6のクラスター群とそれ以外の試料7・8のクラスター群に分類されており, これらのグループの内容の特徴に茶の産地が関与している可能性が高いように思われた. クラスター分析には検定がないため次に, 抽出水別の各評価結果について1~6の試料群と7・8の試料群を村上産と静岡産より判別できるのか線型判別関数による判別分析を用いて検討した. 抽出水別の固有値は, 蒸留水37.762, 新潟市給水栓水6.789, 静岡市給水栓水15.359であった. 今回の抽出水の中では蒸留水の2つのグループが求めた線型判別関数1によって最もよく分類されていた. 仮説(:グループ間に差がない)については, 線型判別関数を用いて有意確率(有意水準5%)で検定した. その結果, 蒸留水ではカイ2乗12.801, 有意確率0.025で有意水準α=0.05より小さいので, この仮説は棄却(すなわち, グループ間に差がある)されたが, 新潟市給水栓水(:有意確率0.207, カイ2乗7.184), 静岡市給水栓水(:有意確率0.082, カイ2乗9.782)では仮説は棄却されなかった(すなわち, グループ間に差があるとはいえない). 浸出茶の分類を行う場合は用いる水質にも十分注意する必要があるといえる. 標準化された線型判別関数結果一覧についてはTable 2に示した. 標準化された線型判別関数1の絶対値の大きい説明変量は, 判別に貢献している大切な要因と考えられている. グループ間に差があった蒸留水の場合, 香りの項目, 水色の項目が大切な因子であるといえる. なお, 新潟給水栓水を用いた場合の標準化された線型判別関数1の絶対値の大きい説明変量は, 色沢・滋味の項目, 静岡給水栓水を用いた場合は, 水色・色沢の項目であった. 各抽出水の線型判別関数1は, 蒸留水質:z=0.643×形状−0.377×色沢+1.609×香気+1.729×水色−0.690×滋味−15.551 新潟市給水栓水:z=0.119×形状+0.875×色沢− 0.537×香気−0.034×水色+0.761×滋味−6.564 静岡市給水栓水:z=0.088×形状+0.804×色沢−0.284×香気+0.583×水色+0.668×滋味−9.920で与えられ, 各抽出水の試料ごとの判別得点はTable 3に示した. これら線型判別関数1による判別結果は, いずれもグループ化された試料のうちすべて正しく分類された.

以上, 今回8点の茶を3種の異なる抽出水で浸出した溶液を用いて官能検査を行い, 得られた官能評価評点について, 抽出水と茶品質間の影響を多変量解析(クラスター分析・判別分析)を用いた茶の分類結果から検討した. その結果, 抽出水別の2個のグループに分けられた各々の試料内容には違いが認められず, これら各々のグループは, 茶産地の違いによる分類と一致した結果であった. 次にこれらについて, 茶産地から判別して分類できるか検定を試みたところ, 蒸留水の場合は, 仮説(:グループ間に差がない)が棄却されたがその他は棄却されなかった. すなわち, 今回の茶品質間と抽出水からは, 茶品質間の差を否定する因子は示唆されなかったといえるが, 2個のグループの分類の要因については一部明らかにされたのみであるため, さらに検討を進める必要があると考えられた.

Table 1

Examination results of tea obtained by the Officially Established Examination Methods of Japanese Green Tea

Table 2

Calculation results of standardized linear discriminant function

Table 3

Discriminant scores

Fig. 1

The dendrogram obtained by a cluster analysis of the sensory evaluation data distilled water conditions.

No1-6 : Murakami tea No7, 8 : Shizuoka tea Methods : Euclid's square distance, group average method

Fig. 2

The dendrogram obtained by a cluster analysis of the sensory evaluation data for Niigata city water conditions.

No1-6 : Murakami tea No7, 8 : Shizuoka tea Methods : Euclid's square distance, group average method

Fig. 3

The dendrogram obtained by a cluster analysis of the sensory evaluation data for Shizuoka city water conditions.

No1-6 : Murakami tea No7, 8 : Shizuoka tea Methods : Euclid's square distance, group average method

3. 2 化学成分含有量・色測値と茶の分類

2個のグループに分類された主要因として呈昧成分の関与が推察されるので, 先の標準化された線型判別関数の絶対値の大きい説明変量を参考に, 官能検査項目に関連が高いと考えられる任意の化学成分分析と色測を行い検討した. 化学成分含有量項目は, 水分・可溶分・全窒素・遊離アミノ酸・可溶タンニン・全糖・遊離還元糖および試料溶液すなわち茶抽出液中の全窒素と全糖について, 100g当たりに含有する割合(%), 平均値について調べ, その結果をTable 4に示した. なお, 各項目ごとの標準偏差値も合わせて記した. 各茶葉とそれらの浸出液の色については, 色差計による測定を行った. Table 5にその結果を示した.

これらの測定結果について各茶の分類をクラスター分析を用いて解析を試みた. 計算に用いた項目は, 試料計8点の茶試料について, 化学分析(9項目)・茶粉体試料の色測(1項目)計10項目の値を変数(データの標準化有り)として用いた. その結果をデンドログラム(Fig. 4)に示す.

なお, 茶粉体試料のハンターによる色度と官能検査評点(色沢)との間には, 強い相関があることが知られている(久保田等, 1975). 本実験の測定値(a*/b*)において検討したところ, 強い負の相関(-0.934)が認められた. 茶抽出液試料についても測色して, 官能検査評点(色沢, 水色)の2項目について, 各々で相関係数を求めた. その結果, 抽出液の色度と色沢は-0.357, 抽出液の色度と水色は-0.257で, 粉体試料との間に認められたような強い相関はなかった. そのため, 官能検査項目との関連は低いと考えられたので本クラスター分析には用いなかった.

本実験結果を変量に用いた階層クラスター分析結果は, 官能検査の解析結果と一致したデンドログラムは得られなかったが, デンドログラムの内容をみると, 2個のグループー分けでは試料2~6のクラスター群とそれ以外の試料1・7・8のクラスター群に分類されており, 試料1を除くとこれらのグループの内容の特徴は, 先のデンドログラムの結果と同様に茶産地別が関与している可能性が高いように思われる結果であった.

なお, 試料1がクラスター分析において, 官能評価と分析結果で属性が異なった要因としては, 試料2~6に比べて試料1, 7, 8が遊離アミノ酸含量が多く, 遊離還元糖含量が少ないということ, タンニン含量が少ないこととなんらかの関係があるのではないかと考えられる. 遊離アミノ酸, 遊離還元糖, タンニンはいずれも茶の品質および呈味に密接な関連ももつ成分であり, また, 各々の各種成分構成が異なっても茶の呈味は大きく異なる. 各々の各種成分構成について検討を進める必要性が考えられた. 今後, 品質・味に深い関わり合いが考えられる説明変量項目について, 詳細な測定値(遊離アミノ酸, カテキン類, 遊離糖の組成等)を含めて検討を進めていきたいと考えている.

Table 4

Analytical results of nitrogen, sugar, moisture, free extract, tannin, free amino acid, and free reducing sugar contained in green tea leaves (%)

Table 5

Color analysis by Hunter's Color and Color Difference Meter

Fig. 4

The dendrogram obtained by a cluster analysis of the sensory evaluation data for chemical composition, color values.

No1-6 : Murakami tea No7, 8 : Shizuoka tea Methods : Euclid's square distance, group average method

4. まとめ

冬には積雪下の特殊条件下で, 栽培されている新潟県村上地方の茶の特性を一考するために, 新潟県村上市煎茶6点と, 比較対象として静岡市煎茶2点の合計8点について水質が異なる浸出溶液を用いた官能評価, 茶の化学分析を行い, その結果を用いて各茶試料の分類から検討を試みた. その結果, 官能検査結果により2つのグループに分けられた試料群は, いずれの抽出水も各産地別の茶がそれぞれ占めていたが, 判別分析を試みると, 分類成立要因が産地別とする仮説は抽出水によって棄却される検定結果であった. また, 官能検査項目に関連が高いと思われる化学分析の結果を用いた分類では, 官能検査の分類と若干異なり, 今後説明変量の加除の他さらなる検討が必要であることが分かった.

以上, 村上産の茶は, 使用する水質によってその官能評価結果に違いが生じるが, 詳細についてはさらに検討を進める必要があるものの, 総じて水質の違いがあっても村上産の茶の品質と比較に用いた静岡産の茶の品質間の差を否定する因子は示唆されないものであることが明らかにされたと考えられた.

謝辞

本研究にあたり, 茶試料をご提供いただいた茶業者, 官能評価にご協力いただいた静岡県茶業試験場, (株)静岡茶市場関係者各位, 並びに多大なるご協力を頂いた静岡県茶業会議所榎田将夫氏, 元新潟県村上林業事務所五十嵐政夫氏, 県立新潟女子短期大学名誉教授本間信夫氏はじめ関係各位に深謝致します.

引用文献
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  • 牽牛書舎編(1988)日本のお茶Ⅱお茶と生活.ぎょうせい, 東京, 98-143
  • 静岡県お茶と水研究会編(2001)お茶と水. 静岡県お茶と水研究会事務局, 浜松, 1-232
  • 竹尾忠一(1988)官能審査. 静岡県茶業会議所編, 新茶業全書第8版, 静岡県茶業会議所, 静岡, 393-406.
  • 立山千草(1992)都道府県庁所在都市の給水栓水の水質について. 県立新潟女子短期大学研究紀要, 29, 91-102.
  • 新潟県村上市(1978)村上のお茶. 北陸農政局統計情報部編, 北陸の特産物, 北陸農政局統計情報部, 金沢, 180-185.
  • 山西貞(1992)お茶の科学. 裳華房, 東京, 144-160
 
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