2004 Volume 8 Issue 2 Pages 102-107
食品を食べたときに感じる感覚には, 通常, テクスチャーとして捉えられる歯ごたえ, 舌触りや味, 風味など種々の属性が関係している. 当然, これら属性は製造直後と賞味期限当日で同じでなくてはならない. 食品を食べた時に感じる印象は, これら属性とともに, 人の経験, 知識, 感情などの影響を受けていると考えられる. これらを総称して「食感品質」(Eating Quality)と捉えることができる.
加工された食品は, 購入されてから喫食されるまでに調理の過程を通して摂取されるが, この調理後の時系列的な変化により, 人間の食品に対する評価構造が変化していく(井上・神宮, 2002).
食品は, 微生物学的, 化学的, 物理的な側面から危害が制御され, 品質を管理されているが, 食品の保存に関しては, 食品を一定の温度条件下で保存できる保温庫に入れ, 細菌学的な観点から賞味期限が設定され, 商品に明記されている(斎藤・高間, 1990;健康産業新聞社編, 1995;社団法人日本食品衛生協会編, 2003).
本研究においては, ハンバーグを用いて, 製造直後の商品と賞味期限当日の商品との官能評価を実施し, その官能上の変化から, 食感品質と賞味期限との関係を明らかにすることを目的とする.
サンプルは, 異なるソースがそれぞれ特徴であるオニオン, デミグラス, トマトの 3種類で, 商品名としても記載されている市販の商品を評価の対象とした. 賞味期限は, 製造後45日間のもので, 使用されるパティは, 3種類ともに同一の原料構成からなる.
2.2 官能評価方法製造直後の商品に関して, 所定の評価用紙に感じた度合いを評価してもらった. それから, 冷蔵庫に賞味期限当日まで保存した商品を, 製造直後と同様に評価してもらった.
製造直後と賞味期限当日の実験で用いた評価用紙は, 同一のものとした. パネルは, 20代前半の大学生18名であった.
評価用語としては, 以下の20項目を設定した. 評価尺度としては, 感じない(+1), あまり感じない(+2), 少し感じる(+3), かなり感じる(+4), とても感じる(+5)という5段階片側尺度を用いた(表1参照).
パネル1人に対して3種類の試料を, 半分ずつ食べてもらった. 実験の組み合わせに配慮し, 日程間隔をおいて, 他の種類の試料に関して実験を行なった. パネルが商品を評価する際, 以前評価した試料の影響が残らないように, 試料, 日程を調整し, 同じ条件で実験に参加できるように, 条件を設けた. パネルに先入観を持たせないために, どのような種類なのかなど, 情報は実験後も含めて与えなかった.
ハンバーグの主成分負荷量, 固有値, 寄与率, 累積寄与率
得られたデータから, 3種類のハンバーグの製造直後と賞味期限当日のそれぞれのデータを合わせて主成分分析し, 固有値が1.0以上のものを抽出した. 表1は, これらハンバーグの主成分負荷量, 固有値, 寄与率, 累積寄与率である. 主成分分析した結果, 6主成分が抽出され, 累積寄与率は0.663であった. これら主成分の内, 評価項目内の絶対値の最大が抽出された主成分は, 第1から第5の主成分であった.
主成分1に関しては, 見た目のよさ, ソースの絡み具合, ソースの肉との相性, こんがり感, コク, ふっくら感, 弾力感, ジューシー感, しっとり感, うまみ, おいしさ, 食べたさの主成分負荷量が高かった. 主成分2は, 油っぽさ, 肉の硬さ, パサパサ感, 粉っぽさ, みずみずしさの主成分負荷量が高かった. 主成分3は, つや・てりを, 主成分4は味の濃さを, 主成分5は香ばしさをそれぞれ示しているものと考えられる.
また, おいしさ, 食べたさがどの程度のものかをそれぞれ把握するために, 各々の評価結果の平均と標準偏差を算出した(図1参照). 標準偏差の結果から, 製造直後と賞味期限当日のおいしさ, 食べたさに, 大きなばらつきは見られなかった. さらに, 平均の差の検定により, 製造直後と賞味期限当日のおいしさ, 食べたさで有意差があるのか分析した. 平均の差の検定結果では, トマトソースの食べたさに関して5%水準で有意な差が見られた(t=1.85, df=17, p<0.05)が, その他は, 有意な差が見られなかった.
分析の結果, トマトソースの食べたさに大きな差は見られたが, 平均値の結果から, おいしさは, オニオンソース, デミグラスソース, トマトソースの順番であり, 賞味期限当日のものは, 製造直後のものに比べてどの試料も下回っていた. 食べたさに関しては, オニオンソースは製造直後のものよりも, 賞味期限当日のもののほうが上回っていた.
おいしさ, 食べたさの平均値と標準偏差
各ソースに対する主成分1の主成分得点と標準偏差
各ソースに対する主成分2の主成分得点と標準偏差
各ソースに対する主成分3の主成分得点と標準偏差
各ソースに対する主成分4の主成分得点と標準偏差
各ソースに対する主成分5の主成分得点と標準偏差
これらの抽出された主成分上で, 製造直後と賞味期限当日の各サンプルがどの程度変化しているのかを見るために, 主成分得点の平均値と標準偏差を算出し, 図2から図6に図示した. 賞味期限当日の商品は製造直後の商品に比べて, 全サンプルの主成分1, 主成分3, 主成分5では評価が僅かに負の方向に変化していることがわかる. 主成分2に関しては, 表1の主成分負荷量からも, 主成分得点が正の値になる程, 油っぽく, 肉が硬く, 粉っぽくなったと考えられる. 図3に示した各サンプルの主成分得点の平均は負の方向に変化しているが, 実際の評価は上昇しており, 肉を柔らかく感じているものと考えられる. トマトソースの主成分4に関しては, 評価が上昇していた. 主成分の方向から, ほとんどの主成分において, 食感品質が変化しているという結果であった. 変化が見られなかったのは, デミグラスソースの主成分1であった.
平均の差の検定により, 製造直後と賞味期限当日の各サンプルにおける主成分得点の平均の差に関して, 有意差があるのか分析した. 平均の差の検定結果では, トマトソースの香ばしさに関して5%水準で有意な差が見られた(t=2.60, df=17, p<0.05)が, その他は, 有意な差が見られなかった. この結果から, トマトソースの香ばしさは, 賞味期限当日以前の段階から大きく変化していた可能性がある.
図1のように, オニオンソースの食べたさの平均値は, 賞味期限当日のもののほうが高い結果であった. しかし, 食べたさを含めた主成分得点の平均は, 製造直後から賞味期限当日の方向へ変化し, 平均値の結果とは逆の評価となった. このように, 単なる食べたさの評価は上昇するものの, 官能特性間の関係を含んだ総合的な食べたさは, 評価が下降するものと考えられる. 食感品質における官能特性間の関係性が食べたさに影響していることから, 食べたさの評価に違いが生じたものと考えられる.
統計的に有意な差が見られなかったことから, 製造直後と賞味期限当日では劣化というほどの大きな差はなく, 賞味期限内であれば目立った変化はないという結果であった. しかし, 時間の経過とともに食感品質における官能特性が僅かに変化する傾向が見られた.
サンプルがどのように変化するのかを主成分得点の布置図内で表現し, サンプル間の大きさを算出し比較することで, 食感品質の僅かな変化の程度を把握することができた. パティが同一のものであるハンバーグでも, 使用されているソースの違いにより, 官能評価の結果が異なり, 賞味期限当日の商品では, 食感品質の変化が顕著に表れるサンプルも見受けられた.
食感品質として, おいしさ, 食べたさを含めて解析した結果, 各主成分として抽出された評価用語からも, 肉の硬さ, 油っぽさ, 粉っぽさなどの舌や歯を媒介とした物性的な特性を感じる触覚と, 見た目のよさ, 味の濃さ, 香ばしさなどの味覚, 視覚, 嗅覚, そして, おいしさ, 食べたさなどの総合評価につながる風味感覚が配置されるというような, 評価の階層性が考えられる.
本研究で用いたハンバーグに関しては, 主成分負荷量からも食感品質に最も寄与する評価用語は, こんがり感, うまみ, おいしさ, 食べたさ, 粉っぽさであった. こんがり感, 粉っぽさ, うまみにつながると思われる加熱・焼成工程は, 微生物学的, 化学的, 物理的側面からの危害が多く重要管理点として工程管理されることが一般的であり, これら危害と関連が深いものと考えられる.
商品に記載される賞味期限は, 微生物学的な側面から決定され, 官能評価の結果は外観, 色調, 肉質, 香り, 味の評価項目が陽性(正常か, あるいは良好か)という判定を示すのみに留められている. 官能評価法からも, 訓練された検査員が行なうように規定されているが, 消費者の食感品質に対する官能的な側面を把握し, どの程度の食感品質の変化を消費者が感じ取るのかを把握することで, 消費者の満足を向上させる食品になり得るという可能性があることが明らかになった.
官能評価により食感品質という視点から官能評価を行い, その結果に基づいた賞味期限の設定が必要であろう.
研究の場を与えていただきました弊社代表取締役社長小見山岳氏, 専務取締役橋本秀雄氏に深謝致します.