2004 Volume 8 Issue 2 Pages 108-116
近年, ミネラルウォーターの消費は急速に伸びてきており, 国産品の生産量および輸入量を合わせると1982年には87,163klに過ぎなかったものが, 1992年には345,594klと4倍の伸びを示し, 2002年には1,374,578klと1982年と比べほぼ16倍もの飛躍的な増加を見せている((社)全国清涼飲料工業会, 日本ミネラルウォーター協会, 財務省関税局, 2002). 買われているミネラルウォーターは, 成分を重視して選択されているというよりはむしろ嗜好面に重点がおかれて選択されており, おいしい水が好まれる傾向にある. 現在では多種多様のミネラルウォーターが商品化されている(サントリー, 2002). また, ミネラルウォーターの品質表示ガイドラインが示され(農林水産省, 1995), 安全面にも注意が払われている.
飲料水の報告については, 川合ら(1994a, 1994b, 1995)の多変量解析による自然水や市販ミネラルウォーターの解析や, 上脇ら(1992)の市販ミネラルウォーター, 水道水, 井戸水の無機成分組成などがある. 上脇らはその報告の中で, 水のまずさはかび臭と無機成分によるカルキ臭であると報告している. 他に浄水器・整水器を通した水の機能と安全性に関する報告も多くなされている(Quark, 1994;たしかな目, 1994, 1995a, 1995b, 1997). しかし, これまでに市販ミネラルウォーターがどのような場合に高い頻度で飲まれているか, また市販ミネラルウォーターの味質は識別されているのか, などについてはまだ報告されていない.
本報告では, 女子大生が水分を補給する場合, ミネラルウォーターは他の飲料と比較して摂取頻度が高いのか, また市販ミネラルウォーターを購入する場合, 味質の違いを考慮に入れて選択しているのか, などについて検討するためにアンケート調査ならび官能評価を行った.
1) アンケート調査
ミネラルウォーターに対する女子大生のイメージを明確にするために, 表1に示す30項目について9段階尺度によるアンケート調査を実施した. 結果は主成分分析を行ない, 抽出された第1主成分の中の因子負荷量が0.5以上の4つの質問項目について, クロス集計を行い, 相関係数はPearsonの方法により算出した. ウーロン茶, むぎ茶等, スポーツ系ドリンク(ポカリスエット, アミノサプリメント, アクエリアス等), 紅茶, コーヒー, 炭酸飲料等の摂取頻度などを把握するために表2に示すように順位法によりアンケート調査を行った. 結果は馬場の方法(1986)による順位グラフを描き7アイテムの有意水準5%棄却楕円を用いて有意性の検定を行った. お茶と他の飲料についての有意性の検定はクラスカル・ウォリスの検定を行った.
2) 官能評価
水の識別能力を調べるために, 25℃の室温に2時間保存したS社の軟水, K社のアルカリイオン水, N社の硬水, 世田谷区の水道水を試料として官能評価を行った. パネルは昭和女子大学生活科学科4年に在籍中の68人とし, 試験は個室で3点識別試験法により1日に3回行った. 同じ組み合わせの水については合計18回繰り返して官能評価を行った. 検定は3点識別試験法の検定表を用いて行った.
(1) ミネラルウォーターに対する意識
30項目の質問のうち, 評価が極端に片寄ったNo.18, 19, 22, 23, 26, 28, 29, 30の8項目の質問を除く, 残り22項目の質問について主成分分析を行った. なお, No.18, 19, 22, 23の質問項目では「−5」と答えた評価者が, 各々73.5%, 76.5%, 72.0%, 69.1%であった. 一方, No.26, 28, 29, 30の質問項目では「+5」と答えた評価者が66.1%, 77.9%, 44.8%, 77.9%, 89.7%であった. No.28は「+5」の回答割合が44.8%であったが, 「+4」の回答が10.4%であり合計55.2%であった.
固有値1以上の主成分を抽出し, 表3に示した. その結果7個の主成分が得られ, 7個の主成分の累積寄与率は65.1%であった. 第1主成分の寄与率は15.6%で質問1「水をよく飲むか」, 質問17「外出時のミネラルウォーターの携帯」, 質問8「水の成分を考えるか」, 質問7「水は意識して飲むようにしているか」などの質問項目が0.5以上と高い因子負荷量を示し, ミネラルウォーターへの意識や摂取状況を示唆する主成分が得られた. 第2主成分としては「料理には浄水器の水をよく使うか」「料理には水道水の水をよく使うか」「浄水器の水を飲むか」「飲料水と生活用水を使い分けているか」などの水の使い方を示唆する主成分が得られ, 第2主成分の寄与率は13.5%であった. 第3主成分としては「日本の名水を買うか, 海外の名水を買うか」「軟水と硬水の違いが分かるか」などのミネラルウォーターの種類を示唆する主成分が得られ, 第3主成分の寄与率は9.3%となった. 第4主成分は「近年はミネラルウォーターのブームだと思うか」「ミネラルウォーターは高価だと思うか」などの水に対する意識を示唆する主成分が得られ, 第4主成分の寄与率は7.8%であった. 第5主成分としては「自宅にミネラルウォーターを常備しているか」のミネラルウォーターの常備についての主成分が得られ, 第5主成分の寄与率は7.0%であった. 第6主成分としては「水は自宅でよく飲むか外出先でよく飲むか」の水を摂取する場所についての主成分が得られ, 第6主成分の寄与率は6.2%であった. 第7主成分では「夏によく飲むか冬によく飲むか」の水の摂取と環境温度との関係が得られ, 第7主成分の寄与率は5.7%であった. 第1主成分と第2主成分について質問項目と回答者の散布図を図1-a, bに示した.
高い主成分として得られた第1主成分であるミネラルウォーターへの意識や摂取状況をさらに検討するために, 表1の質問1「水の摂取状況」, 質問17「外出時に携帯する飲料の種類」, 質問8「水の成分に対する関心度」, 質問7「水分摂取における意識」の4項目に関して図2に度数分布図に示し, 各質問項目間の相関も検討した.
水分の摂取を水でするのか水以外でするのかに対しては, 水以外の飲料で摂取する「−5」と答えた女子大生が46.8%と高く得られた(図2-a). この質問1と最も高い相関が認められたのは質問17「外出時に携帯する飲料の種類」(r=0.411)であった. 質問17ではミネラルウォーター以外の飲料を携帯すると答えた女子大生が53.2%と多く, 水以外の飲み物を飲む人は外出時もミネラルウォーター以外の飲み物を携帯していることがわかった(図2-d). 質問1とやや相関が認められたのは質問7「水を摂取する際の意識」(r=0.300)と質問8「水の成分に対する関心度」(r=0.281)であり, 水は意識して飲むのか喉が渇いた時のみ飲むのかに対しては喉が渇いた時のみ飲む「−5」と答えた女子大生が27.4%, 「0」と答えた女子大生が21.0%, 「+5」と答えた女子大生が11.3%であった(図2-b). 水以外の飲み物を飲む人は喉が渇いた時以外は水を飲まないことが分かった. 質問8については水の成分を考えないで摂取している「−5」と答えた女子大生が32.3%と比較的多かった(図2-c). 各質問項目間で最も相関が高かったのは質問8と質問17(r=0.466)であり, 水の成分を考えて買う人は外出時にもミネラルウォーターを携帯していることが分かった. また, やや相関が認められたのは質問7と質問8(r=0.380), 質問7と質問17(r=0.250)であり, 水を意識して飲む人は水の成分を考えて買っており, 外出時もミネラルウォーターを携帯していることが分かった.
(2) ミネラルウォーターの摂取頻度
順位グラフを図3に示した. お茶は, 平常時とお風呂上がり時では, 他の飲料より有意に高い頻度で飲まれていた(P<0.001). しかし, ミネラルウォーターの飲まれる頻度は平常時では高くなく, スポーツ時とお風呂上がり時では高かった. スポーツ系ドリンクはスポーツ時で飲まれる頻度は高く, 平常時はスポーツ時ほど高くなかった. 紅茶とコーヒーは平常時に飲む女子大生は多かったが, スポーツ時およびお風呂上がり時での摂取頻度は低かった. また, 炭酸飲料はいずれの場合でも摂取頻度が高くないことが判明した.
近年のミネラルウォーター消費の急激な伸びから(日本ミネラルウォーター協会, 2002), 調査前にはミネラルウォーターは健康志向にマッチした嗜好飲料と同様に購入されていると予想された. しかし, アンケート調査の結果からは, 女子大生のミネラルウォーターの摂取量は月平均2.8lであり, 月平均15.0l以上摂取する女子大生は5人のみで, 全く摂取しない女子大生が26人と多く, 飲み物を購入する場合には, ミネラルウォーターよりは生理的に機能性の高いと考えられる飲料や飲み慣れた嗜好性の高いお茶などが選択され, これらの飲料による水分の摂取が高いことが明らかとなった.
(3) 水質の識別
S社の軟水, K社のアルカリイオン水, N社の硬水および世田谷の水道水を用いて識別試験を行った結果を表4に示した. また, 試験に用いた各種飲料水の成分を表5に示した.
軟水とアルカリイオン水では3回行ったすべての評価で有意差が認められなかった. 軟水と硬水では1回目の評価では有意差が認められなかったが, 2回目では5%の有意水準で差が認められ, さらに3回目では1%有意水準で差が認められた. アルカリイオン水と硬水は, すべて1回目から3回目まで 1%の有意水準で差が認められた. 水道水については, 軟水との間に1回目では5%の有意水準で有意差が認められ, 2回目と3回目では 1%で有意差が認められた. 水道水とアルカリイオン水では1回目と3回目で1%の有意水準で有意差が認められた. 水道水と硬水では3回とも1%の有意水準で有意差が認められた. 発泡性ミネラルウォーターは3種の市販試料との間で識別試験を3回行った結果, 3回とも全員100%の正解率であった.
これらの結果から, 軟水とアルカリイオン水の味質は識別が難しく, 味質は非常に近いと考えられた. 一方, 硬水は軟水やアルカリイオン水との間で識別が容易であったことから味質が異なると考えられる. また, 水道水は, 識別の正解率が高かったことから他の水とは味質が明らかに異なると判断された. これは, 上脇ら(1992)が報告しているように水道水にはわずかに塩素臭, 塩素味などの異味臭があるためではないかと考えられる. 発泡水は他の飲料水との識別に関して正解率が100%と高く得られた. これは発泡水には泡が含まれているために, 口に含むと泡のはじける刺激があり, 刺激のない他の飲料水との間に明らかな差があると考えられる.
アンケート調査では軟水と硬水の違いが分かるかどうかについての質問に対して, 「+5」分かるの回答は19.1%であったが3点識別試験の結果からは, 軟水と硬水の味質の違いは2回目以降から識別されていた. 以上の結果から女子大生は味質の非常に近い軟水とアルカリイオン水を除いて水の味質を識別する能力を有していることが判明した.
日常生活の中でミネラルウォーターはお茶ほど摂取する頻度は高くなく, 摂取する際も水の成分を認識して味わって飲む習慣がないこと, さらに水の味質の識別能力を有しているにもかかわらずその把握が出来ていないことなどから, 水の購入の際には識別して購入されていないことが分かった. その根拠としては, 日本は水資源に恵まれ良質な水に固まれて生活しており, 高い金額を払ってまでも安全で美味しい水を購入しようという意識がないためではないかと考えられる. しかし, この点についてはさらに詳細な検討を加える必要があると考えられた.

ミネラルウォーターに関するアンケート調査用紙

水に関するアンケート調査用紙

主成分分析による因子負荷量

主成分分析による散布図
a:主成分負荷量による質問項目の布置
b:主成分得点によるパネルの布置

ミネラルウォーターの意識や摂取状況の度数分布
a:水の摂取
b:水分摂取における意識
c:水の成分の意識
d:外出時のミネラルウォーターの携帯

飲料の摂取順位

3点比較法による各種飲料水の識別

各種飲料水の成分
女子大生の水分摂取状況は, お茶による摂取がどの状況下でも高かった. ミネラルウォーターは平常時では摂取頻度が低かったが, スポーツ時, お風呂上がり時では摂取頻度は高かった. 水を摂取する際には水の成分を意識せずに摂取する割合が約半数を占めた. アンケート調査では軟水と硬水の違いが明確に分かるとの回答が低かったが, 3点比較法による官能評価の結果, 水の味質の識別は軟水とアルカリイオン水を除いて, 5%の有意水準で識別されていた.
本研究を遂行するにあたり, 有益な御指導賜りました千葉県立衛生短期大学 井上裕之教授に深謝いたします.