Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Clinical aspects of thrombotic microangiopathy (TMA)
Genetic diagnosis of TMA: TTP and aHUS
Toshiyuki MiyataKoichi Kokame
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2020 Volume 31 Issue 1 Pages 17-27

Details
Abstract

血栓性微小血管症の遺伝子研究はこの15年余りの間に大きな進捗が見られた.すなわち,本症の病因は多岐にわたるものの,患者を血栓性血小板減少性紫斑病および非典型尿毒症症候群などの病因別に分類することができ,疾患発症に関わる遺伝子の病的バリアントが同定されるようになった.これらの研究の中で,日本は特に先天性血栓性血小板減少性紫斑病患者の遺伝子研究で世界をリードしエビデンスを蓄積してきた.また,本邦の非典型尿毒症症候群ではC3 p.Ile1157Thrが多くの患者に見られるという欧米の症例には見られない特徴を示した.遺伝子診断において病的バリアントの判定が重要であるが,非典型尿毒症症候群ではその判定に難しい場合があり,その判定の注意点を述べた.

1.はじめに

血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は,破砕赤血球を伴う溶血性貧血,消費性血小板減少,微小血管内の血小板血栓による臓器傷害の3主徴を示す病態であり,病因は多岐にわたる.厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患等政策研究事業)血液凝固異常症に関する調査研究班TTPグループによりまとめられた「血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療ガイド2017」では,TMAはその病因により,ADAMTS13欠損TMA,感染症合併TMA,補体関連TMA,凝固関連TMA,二次性TMA,その他のTMAに分類される1.これらの中で遺伝的要因が考えられるのは,ADAMTS13欠損TMAのうちADAMTS13遺伝子の機能喪失変異による先天性血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP),補体関連TMAのうち補体因子遺伝子の機能獲得変異やその制御因子遺伝子の機能喪失変異による非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome: aHUS),凝固関連TMAに分類されるdiacylglycerol kinase ε (DGKE)遺伝子異常によるDGKE欠損TMA,および代謝関連TMAに分類されるmethylmalonic aciduria and homocystinuria type C protein(MMACHC)遺伝子異常によるMMACHC欠損TMAである.表1にTMA発症に関わる遺伝子バリアントが同定されている因子の諸性質を示した.これらの中で,先天性TTP,DGKE欠損TMA,MMACHC欠損TMAは常染色体劣性遺伝形式をとる.一方,aHUSは病的バリアント保有者でも発症が見られず浸透率が低い例が見られる.病的バリアントは疾患の表現型を一義的に決定するのではなく発症の素因と考えられ,これに先天性もしくは後天性の要因が重なるとTMAが発症すると考えられる24

表1 TMA発症の原因や素因となる病的バリアントが同定された遺伝子とそのタンパク質の諸性質
タンパク質名
(遺伝子名)
分子量
(kDa)
アミノ酸残基数 血中濃度
(μg/mL)
主な機能
ADAMTS13(ADAMTS13) 190 1427 0.5–1 ずり応力依存的にVWFを切断する血漿メタロプロテアーゼ
Factor H(CFH) 155 1231 400 補体第二経路のC3転換酵素C3bBbの負の制御因子.C3bに結合しC3bBbを解離させる.CFBのC3bへの結合を阻害する.C3bのiC3bさらにC3dgとC3cへの分解・不活化においてCFIのコファクターとして働く
MCP(CD46) 45–70 392 細胞表面でCFIによるC3bの分解・不活化のコファクターとして働く1回膜貫通型糖タンパク質
Factor I(CFI) 88 583 20–50 CFH,MCP,CR1,トロンボモジュリンというコファクターの存在下,C3bとC4bを切断し不活化するセリンプロテアーゼ
C3(C3) 187 1663 1,200 補体系の中心となる因子.プレプロC3:1663残基,β鎖:645残基(残基番号23-667),α鎖:992残基(残基番号672-1663).C3転換酵素C3bBbおよびC2bC4bによりC3aとC3bに切断される.C3bは侵入した微生物などの水酸基とアミノ基に共有結合しオプソニン化する
Factor B(CFB) 90 764 300 CFBはFDaによりBa(234残基,残基番号26-259)とBb(739残基,残基番号260-764)に切断される.Bbはセリンプロテアーゼ領域を含み,C3bと結合しC3転換酵素C3bBbを形成する
Diacylglycerol kinase epsilon(DGKE) 64 567 シグナル分子であるアラキドン酸含有ジアシルグリセロールをホスファチジン酸に変換する細胞内酵素
Thrombomodulin(THBD) 100 575 血管内皮細胞に発現する1回膜貫通型糖タンパク質.トロンビン-トロンボモジュリン複合体を形成し,プロテインCを活性化し,プロテインC抗凝固系を発動させるとともに,TAFIを活性化し線溶系の抑制とC3aとC5aの分解に働く.CFHもしくはC4BPの存在下でCFIによるC3b切断のコファクターとして働く
Plasminogen(PLG) 91 810 200 フィブリンを溶解する線溶系酵素.C3を分解する作用も持つ
Methylmalonic aciduria and homocystinuria type C protein(MMACHC) 32 282 必須の補因子であるメチルコバラミン(MeCbl)とアデノシルコバラミン(AdoCbl)の前駆体であるシアノコバラミンの脱シアノ化を触媒する酵素.先天性欠損症はメチルマロン酸尿症とホモシスチン尿症を示す

本稿では,遺伝的背景が明らかになっているTMAに絞って,その現況を解説し遺伝子診断に向けた期待や問題点を述べたい.aHUSに関してはすでに本誌に優れた総説が発表されているのでご覧いただきたい5

2.先天性TTP

先天性TTPはADAMTS13遺伝子異常により血漿ADAMTS13活性が著減し,全身の微小血管に血小板血栓が形成される遺伝性疾患と定義され,常染色体劣性遺伝形式を示す1.ADAMTS13はvon Willebrand因子(VWF)マルチマーを切断する酵素であり,その活性が著減することでVWFマルチマーの血小板凝集活性を正常に調節することができなくなり,血小板の病的凝集につながる.

複数回の測定で常に血漿ADAMTS13活性が低く(正常プール血漿の10%未満),かつインヒビター(ADAMTS13に対する自己抗体)が陰性の場合,先天性TTPの可能性が高い.患者両親のADAMTS13活性が低下(30%~70%)していると,その可能性はさらに高くなる.先天性TTPの遺伝子解析で対象とする遺伝子はADAMTS13のみである.ダイレクト・シーケンシング法で全エクソン(29個)の塩基配列を調べると,約9割の症例で両アレルの異常,すなわち複合ヘテロ接合性あるいはホモ接合性の病的バリアントが見つかる.ダイレクト・シーケンシング法で両アレルのバリアントが見つからない場合,ゲノム定量PCR法6や次世代シーケンシング等を行うことでADAMTS13遺伝子の構造異常が見つかる場合もある.

本邦ではこれまで56家系の先天性TTP患者が見つかっており,うち52家系で両アレル性の病的バリアントが確認された.同定されたバリアントは64種類で,その内訳はミスセンス変異が最多で半数以上を占め,フレームシフト変異,ナンセンス変異,スプライシング異常と続く.バリアントの種類はバラエティに富むが,3家系以上に同定された病的バリアント(p.Arg193Trp:11家系,p.Cys908Tyr:10家系,p.Gln449*:3家系,p.Ile673Phe:3家系)もある.日本人のADAMTS13遺伝子には6種類のミスセンス多型(p.Thr339Arg, p.Gln448Glu, p.Pro475Ser, p.Pro618Ala, p.Ser903Leu, p.Gly1181Arg)が存在し7,これらは患者に見つかっても病的バリアントと見なさない.先天性TTP患者に腎傷害が見られる例もあるが,これらの患者にはaHUS患者に見られる病的バリアント(下記参照)は同定されなかった8

3.aHUS

1)補体第二経路の過剰な活性化による血管内皮細胞傷害

aHUSでは,i)補体制御因子の機能喪失変異,ii)補体因子の機能獲得変異,iii)補体制御因子CFHの自己抗体,のいずれかにより,血管内皮細胞上で過剰な補体反応が進行し,膜侵襲複合体C5b-9形成による内皮細胞傷害が起こるとともに,アナフィラトキシンC5aにより好中球や単球が局所に遊走され炎症と血栓形成が進行する(図1).

図1

補体因子と補体制御因子の病的遺伝子バリアントにより生じる血管内皮細胞傷害の考えられる機序

血管内皮細胞上に結合したC3bはCFHもしくはMCPが結合することによりCHIにより分解・不活化される(図の左部分).補体因子もしくは補体制御因子に病的バリアントがあると,内皮細胞上でのC3bの分解が不十分になり,C5転換酵素であるC3bBbC3b複合体が形成されC5aとC5b-9が形成される.C5aは白血球走化因子活性,血管透過性活性,平滑筋収縮活性に加え,血管内皮細胞のC5a受容体(C5aR)を介したWeibel-Palade小体のexocytosisを惹起する.その結果,VWFが放出され,一部のVWFは内皮表面に係留し,Pセレクチンは細胞表面へ提示され,好中球・単球・血小板がそれぞれ内皮に結合する.細胞膜での膜侵襲複合体(MAC)C5b-9の形成は,膜外層に酸性リン脂質ホスファチジルセリン(PtdSer)を露出させ,内皮細胞上にプロトロンビナーゼ複合体(FXa-FVa複合体),内因系Xase複合体(FIXa-FVIIIa複合体),外因系Xase複合体(FVIIa-組織因子複合体)形成のための場を提供する.これら一連の内皮細胞傷害の結果,微小血管に血栓が形成されると考えられる10

補体反応は古典経路,第二経路,レクチン経路という3つの活性化経路がある9, 10.このうち,第二経路は活性化因子を必要とせず,tick-overと呼ばれるC3の自己活性化で開始する9.すなわち,C3のチオエステル結合はH2Oと反応してC3(H2O)を形成し,CFDで活性化されたBbがこれに結合し,液相でC3転換酵素活性をもつC3(H2O)Bb複合体ができる.これがC3をC3aとC3bに切断・活性化する.C3bは露出したチオエステル結合により非特異的に周辺の,例えば微生物の表面の水酸基やアミノ基に共有結合することにより微生物をマクロファージ等に取り込まれやすくする(オプソニン化する)とともに,C5転換酵素(C3bBbC3b)を形成し,膜侵襲複合体C5b-9を形成し微生物膜にポアをつくり殺菌する.一方,C3bが血管内皮細胞上に結合すると細胞傷害が進行するため,膜上で起こる補体の活性化を阻止する必要がある.内皮細胞に結合したC3bには内皮細胞の膜上に存在する補体制御因子CFHもしくはMCPが結合し,プロテアーゼCFIによる分解をうけiC3bさらにC3dgとC3cに変換される.これらのC3b分解物はC5転換酵素を形成できないので補体反応が進行せず内皮細胞傷害は阻止される.aHUSでは,補体制御因子(CFH, MCP, CFI)の機能喪失変異,CFHの自己抗体,補体因子(C3, CFB)の機能獲得変異により,血管内皮細胞上での迅速なC3b分解・不活化が起こらず,その結果C5aとC5bが産生され膜侵襲複合体C5b-9の形成による内皮細胞傷害が生じTMAを示すこととなる(図110

2)CFHの機能喪失変異によるaHUS

CFHは血管内皮細胞上での補体活性化を阻止する因子として最も重要である(表1).CFHは60個程度のアミノ酸からなるshort consensus repeat(SCR)とよばれるドメインが20個繋がった,血漿中の可溶性補体制御因子である9, 10.CFHのN末端側のSCR1-4はC3bに結合する領域である.セリンプロテアーゼCFIは液相中や細胞膜上に形成されたC3b-CFH複合体のC3bを切断・不活化する.CFHはC3bに結合するのでC3転換酵素(C3bBb)からBbを解離させるdecay accelerating factor能を有する.CFHのSCR20は細胞膜上にあるシアル酸を末端にもつ糖鎖やヘパラン硫酸グリコサミノグリカン鎖に結合する領域である.CFHの内皮細胞上への結合は補体の活性化の抑制に極めて重要である.病的バリアントもしくはCFHに対する自己抗体によりCFHが細胞上に結合できないと内皮細胞上で過剰な補体の活性化がおこり,内皮細胞傷害が進行し重篤なaHUSを示す.エクリズマブが使われる以前の研究では,CFHバリアント保有者(多くはSCR20のバリアント保有者)は早期にaHUSを発症し再発率が高く最も予後が悪いと報告されている4, 11, 12.一方,CFHのSCR1-4のバリアントは液相での補体活性化の抑制が不完全になりC3の活性化が進行する.aHUS患者はSCR19-20にバリアントが集中しておりSCR1-4のバリアントは少ない13.一方,加齢性黄斑変性症やC3腎症ではSCR1-4に多くのバリアントが同定されている13, 14.したがって,aHUSは細胞膜上での,加齢性黄斑変性症やC3腎症は液相での補体の過剰な活性化が病因と考えられる.このように,CFHは3つのメカニズム,すなわちi)C3bのCFIによる分解促進,ii)C3bとCFBの会合阻害,iii)C3bBb複合体の解離促進,を通してC3転換酵素を阻害する9

染色体1q32領域にはSCRを有するregulator of complement activation(RCA)タンパク質をコードする遺伝子が集中して存在し,それらの塩基配列相同性は高い.なかでもCFH遺伝子の近傍には相同性が高いCFHR3遺伝子とCFHR1遺伝子が存在し,特にCFH SCR19-20・CFHR3 SCR4-5・CFHR1 SCR4-5のアミノ酸配列の同一性は極めて高い.CFH遺伝子とCFHR3遺伝子やCFHR1遺伝子の間で組み換えが起こると,SCR19-20を欠失する短鎖CFHや,CFH-CFHR3キメラタンパク質,CFH-CFHR1キメラタンパク質などが産生される.これらのCFHバリアント分子はCFH SCR19-20を欠くため内皮細胞への結合能を示さずaHUS発症の極めて強い遺伝要因となる.これらのCFH病的バリアント保有者の血清の溶血活性を測定すると,強い溶血が観察される.

表2に日本人と欧米人のaHUSの遺伝子解析の結果をまとめた.CFHのバリアントは欧米の患者では20%~28%に見られるものの,本邦の患者では10%(104人中10人)にしか同定されていない15

表2 各国のaHUS患者(補体関連TMA)の遺伝子バリアントと抗CFH抗体の保有者の頻度
日本 フランス イタリア 米国 欧州コンソーシアム*
CFH,% 10 28 24 27 19.8
MCP,% 5 10 7 5 8.1
CFI,% 0 10 4 8 5.8
C3,% 31 8 4 2 5.6
CFB,% 0 2 <1 4 1.1
2つの遺伝子の変異,% 6 4 3 n.d. 3
抗CFH抗体,% 19 6 3 n.d. n.d.
変異と抗体保有者,% 65 60 46 46 40.4
aHUS総数 104 214 273 144 795

文献37の表に文献15のデータを加筆した.*フランス,イタリア,イギリス,スペイン,n.d.:not determined.

3)CFHの機能を阻害する自己抗体によるaHUS

RCA領域では遺伝子組み換えによりCFHR3とCFHR1の両遺伝子の欠損が起こりやすい.欧米では両遺伝子の完全欠損者にCFHの自己抗体が統計学的に多くみられるとの報告がある16.しかし,日本人ではCFHR3とCFHR1の遺伝子欠損の頻度は低いので,自己抗体産生と完全欠損の統計学的な関連は示されていない.本邦のaHUS患者104人中,20人が抗CFH抗体を保有していたが,この20人は病的遺伝子バリアントを保有していなかった15

4)MCPの機能喪失変異によるaHUS

MCP(CD46)は一回膜貫通領域をもつ膜タンパク質で細胞外領域に4つのSCRをもち,SCR3-4がC3bの結合領域である(表1).本邦のaHUS患者では104人中8人にMCPのバリアントが同定された.このうち3人はホモ接合体,1人は複合ヘテロ接合体であり,3人はaHUSの病的バリアントC3 p.Ile1157Thrも保有していた(表315.このように,MCPバリアントはホモ接合体や複合ヘテロ接合体,他の病的バリアントをあわせ持つ例がこれまでにもよく観察されている17.エクリズマブが使われる以前の研究では,MCPバリアントを保有する小児では再発は見られるものの予後が良く4, 12腎移植の転帰も良いと報告されている18

表3 1998年から2016年に日本で登録されたaHUS患者104人に遺伝子解析を行い48人に同定された27バリアント
遺伝子 人数 対立遺伝子 アミノ酸変異 SNP rs 日本人での頻度(ToMMo)
C3(32人) 1 heterozygote p.Ser179Pro
1 heterozygote p.Ser182Pro
1 heterozygote p.Pro214Ser
1 heterozygote p.Arg425Cys rs200967589 0.0012
1 heterozygote p.Val555Ile rs767334972
1 heterozygote p.Arg1042Leu
1 heterozygote p.Lys1105Gln
24 heterozygote p.Ile1157Thr
1 heterozygote p.Glu1160Lys
CFH(10人) 1a heterozygote p.Phe176Leu rs762132970
1 heterozygote p.Arg232Gln
1a heterozygote p.His651Tyr 0.0012
1 heterozygote p.Asp798Asn rs55931547 0.0015
1 heterozygote p.Ser1191Trp
1 heterozygote p.Glu1198Val
1 heterozygote p.Glu1198Asp
2 heterozygote p.Arg1215Gly rs121913051
3 heterozygote p.Arg1215Gln
THBD 1a heterozygote p.Thr500Met 0.0001
MCP(8人) 2 homozygote p.Cys64Tyr
3a heterozygote p.Thr98Ile rs116800126 0.0015
1 homozygote p.Asn170Metfs*9c
1b heterozygote p.Tyr189Asp rs202071781
1a heterozygote p.Pro195Ser rs773860894 0.0003
1b heterozygote p.Ala359Val rs767322836
DGKE(1人) 1b heterozygote p.Leu24Cysfs*145d
1b heterozygote p.(Ala405-Glu428del)e

文献15を一部改編した.ToMMo:https://jmorp.megabank.tohoku.ac.jp/201909/,アミノ酸番号は開始Metを1とする.a 病原性が知られている他のaHUSバリアントも保有,b 2つの異なる病原性バリアントをもつ(複合ヘテロ接合体),c c.509delAによるフレームシフト変異,d c.71delTによるフレームシフト変異,e c.1213-2A>Gによるスプライシング異常.

5)CFIの機能喪失変異によるaHUS

CFIは血中を循環する2本鎖の補体制御セリンプロテアーゼである(表1).CFIは前駆体から活性型への変換に必要な限定分解を必要とせず,触媒ドメインであるL鎖に基質C3bやC4bが結合するとH鎖のアロステリックな阻害がなくなり活性型へとコンフォメーションが変化する19.これまで本邦のaHUS患者にCFIの病的バリアントは報告されていない(表2).

6)C3の機能獲得変異によるaHUS

CFHおよびMCPとの結合能が低下するC3のバリアントは,CHIによるC3bの分解が遅延し補体系が過剰に活性化されるので機能獲得変異でありaHUS発症の病的バリアントである.欧米のaHUSではC3バリアント保有者は少ない(2%~8%,表2)が,本邦のaHUS患者104人中には32人(31%)がC3バリアントを保有していた(表215.そのうち,16家系24人にp.Ile1157Thrという同一の病的バリアントを認めた(aHUS患者全体の23%に相当)(表3).三重大学では14家系19人に本バリアントを認めている20, 21.C3b-CFH SCR1-4複合体の立体構造からみると22, 23,C3 p.Ile1157ThrはCFH SCR4との結合部位に位置するので,C3バリアント分子はCFH結合能が低下し,過剰な補体活性化能(すなわち機能獲得)を示すと考えられる24.事実,組み換えC3 p.Ile1157Thrバリアント分子のCFH結合能とMCP結合能はともに約50%に低下しており25,CFHとMCPへの結合の低下のため血管内皮細胞上でC3bが分解されず,C3転換酵素とC5転換酵素が形成され,C5b-9による膜侵襲複合体形成による細胞傷害が生じaHUSを発症すると考えられる.C3 p.Ile1157Thrをもつ患者はaHUSの再発を認めるもののフォローアップでよりよい転帰を示し,多くは支持療法や血漿療法で寛解に入った(それぞれ65%および35%)15, 20.海外にも本バリアント保有者が見られる.患者には頻回にaHUSの再発が見られるものの,20年間にわたり蛋白尿や高血圧を示さず正常な腎機能を保持している26

7)CFBの機能獲得変異によるaHUS

CFBはプロテアーゼ前駆体であり,Mg2+存在下でC3bに結合しC3転換酵素C3bBb複合体を形成する(表1).aHUSではCFBのバリアントはまれであり,海外では<1%~4%と報告されている(表2).CFBの病的バリアントはC3転換酵素の機能亢進と補体制御因子に対する抵抗性の獲得で説明される.本邦ではaHUSを発症する大家系にCFB p.Lys350Asnが同定されている27.この家系のバリアント保有者8人のうち2人はaHUSを発症したが6人はaHUSを発症していない.本バリアントはVWF type A(VWA)ドメイン内のMg2+ adhesion site近傍にある.組み換え体の機能解析により,CFBバリアント分子はC3bに強く結合し高い溶血活性を示し,CFHによるC3b-CFBバリアント分子の解離は弱く,C3転換酵素活性を示すiC3bBbバリアント分子複合体を形成し,バリアント分子を含む血清は血管内皮細胞上へのC3の高い沈着が観察された28.これより本バリアント分子は,C3転換酵素の機能亢進とCFHに対する抵抗性の両機能を獲得したと考えられた.CFBのVWAドメイン内の他のバリアント分子もC3bに強く結合するので,この領域内のバリアント分子は同様の機序で機能を獲得すると考えられる.本邦ではC3糸球体腎炎の女児と膜性増殖性糸球体腎炎の履歴をもつ母にVWAドメイン内のp.Ser367Argが同定されている29

CFBバリアントの発現機能解析が行われ,バリアントの病因が検討された.それによると,15個のバリアントのうち9個は病因に関係しないという30.バリアントの機能を予測するin silico解析は機能解析結果と一致せず,その使用は慎重になるべきだと述べている.

4.凝固関連TMA

1)DGKE欠損TMA

1歳未満で高血圧を伴うaHUS患者の遺伝子解析よりDGKEバリアントのホモ接合体/複合ヘテロ接合体が同定された31.DGKEは細胞内シグナル分子であるアラキドン酸含有ジアシルグリセロールをホスファチジン酸に変換する酵素である(表1).本邦のaHUS患者にもDGKEバリアント複合ヘテロ接合体が報告されている15, 32.DGKEバリアントはC3腎症の患者にも同定される33.DGKEの病的バリアントによるTMAが凝固関連TMAに分類されるかは議論がある.DGKEはあらゆる組織に発現するが,なかでも精巣・心筋・骨格筋・腎に高発現し,腎ではpodocyteと内皮細胞に高発現する.DGKE遺伝子欠損マウスは出産可能で見かけ上の異常は見られないものの,糸球体を詳しく観察すると内皮細胞が傷害を受けやすく,加齢により糸球体基底膜の肥厚を伴う糸球体のうっ血と局所毛細管の閉塞が観察された34.DGKE遺伝子欠損マウスの腎ではシクロオキシゲナーゼ2とプロスタグランジンE2の誘導が阻害され,抗血栓性を示すPECAM-1の発現が低下していた.

2)THBD関連TMA

凝固系との関連でaHUS患者にトロンボモジュリン(遺伝子名:THBD)の機能喪失変異が同定され,遺伝子バリアントとaHUSとの関連が注目を集めている35.トロンボモジュリンはCFHもしくはC4BP存在下でCFIによるC3bの切断・不活化を促進し,トロンボモジュリンバリアント分子はC3b不活化促進活性が低下することが示された35.しかし,発現実験が行われてaHUSの病的バリアントの1つとされたp.Asp486Tyrの吹田研究でのアレル頻度は1.1%であり,まれなバリアントではないためaHUSの素因とは考えにくい36.その後の海外の研究では,トロンボモジュリンの機能喪失変異がaHUSの病的バリアントであることを支持する報告は見当たらない37.本邦の研究では,aHUS患者にTHBD p.Thr500Metを認めるが,本バリアントを保有する患者は病的バリアントCFH p.Arg1215Glnをあわせ持つため,THBD p.Thr500MetのaHUS発症への意義は不明である15

3)PLG関連TMA

aHUS患者にプラスミノーゲン(遺伝子名:PLG)のミスセンス変異が比較的多く同定されたので,プラスミノーゲンがaHUSの候補遺伝子である可能性が報告された38.しかし,その後これを支持する報告はない37.日本人約25人に1人にみられるプラスミノーゲン異常症(p.Ala620Thr)はaHUSと関連を示さなかった39

5.代謝関連TMA

コバラミンの代謝に関連するMMACHC遺伝子に機能喪失変異が生じるとコバラミン欠損症を伴うメチルマロン酸尿症とホモシスチン尿症が見られ,慢性TMAを含む種々の傷害が観察される(表12, 40.MMACHCは必須補因子であるメチルコバラミン(MeCbl)とアデノシルコバラミン(AdoCbl)の前駆体であるシアノコバラミンの脱シアノ化を触媒する酵素である.MeCblはホモシステイン代謝に必須で,AdoCblはメチルマロン酸-CoAの分解に必須なので,本酵素の先天性欠損症は血中のホモシステインとメチルマロン酸が高値を示す.

6.遺伝子診断におけるバリアント判定の注意点

ヒト遺伝子には極めて多くのバリアントがあり,それらの多くは疾患に関連しない.aHUSの遺伝子診断では7個程度の候補遺伝子を対象にバリアントを同定するため,ほとんどの解析例で幾つかのミスセンス変異が同定される.一般住民にもまれなバリアント(minor allele frequencyが1%以下のバリアント)が数多く見られるので,疾患群で見いだされたまれなバリアントが病的かどうかの判定は難しい.aHUSを例として,バリアントの判定に関して注意すべき6つの点をあげたい.

1)一般住民でのアレル頻度

aHUSはまれな遺伝性疾患である.したがって,原因となる病的バリアントはその頻度が極めて低いと予想される.aHUSの病的バリアントの判定において頻度は重要なポイントである.欧米人と日本人でバリアントの頻度が大きく異なる場合があるので,頻度は日本人を対象に求められた値を用いるべきである.日本人のバリアントの頻度は東北メディカル・メガバンク機構が日本人約4,700人の全ゲノム解析を行ったデータベースIntegrative Japanese Genome Variation Database(iJGVD)に示されている(https://www.megabank.tohoku.ac.jp/)41.さらに日本人ゲノム配列のバリアントとそれに関係する疾患情報や関連論文などを収集・整理したデータベースであるTogoVar(日本人ゲノム多様性統合データベース)も参考になる(https://togovar.biosciencedbc.jp/).

2)バリアントと家系内aHUS発症および強い溶血活性とのcosegregation

疾患に強くリンクするバリアントは浸透度が高い.大きくない影響を与えるバリアントは浸透度が低い.variants of unknown significanceに分類されるバリアントでも高い浸透度を示す場合は病的と考えられる.aHUSは必ずしもメンデル遺伝形式を取らないのでaHUSの病的バリアント判定は難しい.aHUS患者に同定される遺伝子バリアントはヘテロ接合体であり,保因者は必ずしもaHUSを発症するものではなく,不完全な疾患発症の浸透度を示す.aHUS患者では赤血球溶血活性は有用なマーカーである.本邦では奈良医大が開発した定量的羊赤血球溶血活性が用いられている.本法で強い溶血活性が認められるaHUS患者は,CFH SCR19-20内のバリアント,CFH自己抗体,C3 p.Lys1105Glnのいずれかを保有していた24

3)バリアントのタンパク質機能への影響

バリアントがタンパク質機能に影響を与えることを明らかにすることはバリアントの評価に極めて有用である.CFH42,C325,CFB30でaHUS患者に同定されたミスセンス変異を持つバリアントタンパク質の大規模な機能解析が発表されている.しかし,トロンボモジュリンの項で紹介したように,発現実験で機能低下を示すバリアントが必ずしもaHUSの病的バリアントであるとは限らないことに注意が必要である.

4)de novoバリアントの同定

両親には見られないものの小児に見られるde novoバリアントはaHUSではまれだが,病的バリアントであることを強く示唆する37

5)タンパク質の立体構造情報を用いたバリアントの評価

補体は複合体として機能する場合が多い. C3b-CFH-SCR1-422, 23,C3bBとC3bBD*43,C3d-CFH19-20 44,C3b-MCP-SCR3-423,C3b-CFH-SCR1-4-CFI45などの補体複合体の立体構造が決定されている.複合体のタンパク質の接触面にバリアントが位置すると複合体形成が妨げられる場合が多いので24,複合体でのバリアントの立体構造での位置を知ることは機能への影響を考える上でたいへん重要な情報を与える.

6)in silicoの構造予測

Polyphen2,SIFT,Mutation Tasterなどバイオインフォーマティクスを用いて,バリアントがタンパク質に影響を与える度合いを数値で示すプログラムがある.新規のバリアントやvariants of unknown significanceに分類されるバリアントはこれらの手法を用いて評価する.しかし,これらの値をあまり信用できないという論文もある30.最近凝固V因子欠損症east Texas bleeding disorderおよびFactor V Amsterdamが一塩基置換による新規スプライス部位でのスプライス異常であると報告された46, 47.バリアントを評価する際にはin silicoを用いてスプライスへの影響も検討するべきであろう.

7.おわりに

TMAは病因に沿った患者の類別が可能となってきた.遺伝子から見ると,常染色体劣性遺伝形式をとる先天性TTP,DGKE欠損TMA,MMACHC欠損TMAは遺伝子解析により診断をしやすい.一方,補体関連TMAのaHUSは浸透率が低い例があるので慎重な判定が求められる.病的バリアントや自己抗体の有無は,aHUSの重症度予測や移植後の再発リスクの予測,また抗補体薬エクリズマブの選択を考える上で重要性は増している.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

宮田,小亀:特許使用料(株式会社ペプチド研究所,株式会社カイノス,株式会社エスアールエル,Peptides International, Inc)

文献
 
© 2020 by The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
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