Abstract
血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は血小板減少・臓器障害・溶血性貧血を呈する比較的稀な病態であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP),志賀毒素産生大腸菌による溶血性尿毒症症候群(Shiga toxin-producing Escherichia coli-hemolytic uremic syndrome: STEC-HUS),非典型溶血性尿毒症症候群(atypical HUS: aHUS),二次性TMAに分類される.類似の症状をきたす病態としては播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)の頻度が高く,TMAもDICも早期治療が予後を左右するため,これらの早期鑑別が問題になることがある.血小板減少・臓器障害・溶血性貧血の診療においてはTMAを疑うことが大切であり,そのために最も重要な点は溶血性貧血に気付くことである.溶血性貧血に気付くことが出来れば,ADAMTS13活性など確定診断に必要な検査を提出し,その結果を得るまでにTMAおよびDICの早期鑑別診断を進める.PLASMIC score,腸炎症状,原因疾患,家族歴・既往歴,溶血所見・凝固異常の程度などを指標に可能性の高い疾患を選び出して早期治療を開始しつつ,確定診断が得られるまでは常に他のTMAやDICの可能性も念頭に置いて,治療経過の中で繰り返し判断することが重要である.
TMAとDICの鑑別のポイント
☑血小板減少・臓器障害・溶血性貧血の診療において大切なのはTMAを疑うことであり,そのために最も重要な点は溶血性貧血に気付くことである.
☑TMAもDICも早期治療が予後を左右するため,早期鑑別して治療を開始しつつ,確定診断までは常に他のTMAやDICの可能性も並列で考えながら,治療経過の中で繰り返し判断する姿勢が重要である.
☑TTPの早期鑑別診断:TTP診断のゴールドスタンダードはADAMTS13活性だが,その結果を得るまでに,特に後天性TTPと敗血症性DICの早期鑑別が問題となる場合があり,PLASMIC score,溶血所見の程度(LDH,Hb),線溶抑制の程度(FDP, D-dimer)が早期鑑別に有用である.
☑STEC-HUSの早期鑑別診断:STEC-HUS診断のゴールドスタンダートはSTECの確認だが,その結果を得るまでに,腸炎症状を伴うDICや他のTMAとの早期鑑別が問題となる場合があり,画像検査(著明な大腸壁肥厚)が早期鑑別に有用である.
☑二次性TMAの早期鑑別診断:二次性TMAをきたす原因を特定して診断するが,原因の種類や併存症によってはDICやaHUSとの鑑別が問題となることがあり,DICとの鑑別では溶血所見・凝固異常の程度を,aHUSとの鑑別では治療反応性を指標に早期診断する.
☑aHUSの早期鑑別診断:aHUSの確定診断は遺伝子検査だが,結果を得るのに時間を要するため,補体関連異常の家族歴・既往歴および補体価(C3低下)を確認し,治療反応性も含めて他のTMAとDICを除外し,臨床的aHUSと早期診断する.DICとの鑑別では,溶血所見・凝固異常の程度を指標にする.
はじめに
血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は,全身の微小血管で血小板血栓が形成された結果,血小板減少,血小板血栓性臓器障害,微小血管障害性溶血性貧血を呈する疾患群である1).一方,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)は,敗血症や悪性腫瘍などの原因疾患に伴って凝固活性が亢進し,全身の細小血管内でフィブリン血栓を生じ,その結果として消耗性血小板減少,血栓性臓器障害,消耗性凝固因子欠乏(出血傾向)をきたす病態である2).TMAは血小板血栓,DICはフィブリン血栓が本態であるがいずれも血小板減少と臓器障害を呈し,またDICでも軽度の溶血を伴うことがある.さらに,TMAでも病勢が強ければフィブリン血栓も伴い凝固異常を呈し,DICでも血小板血栓を伴うため,検査値も類似することがある.
以上のように,TMAとDICの早期鑑別が臨床上で重要となるため,まずTMAとDICの病態・治療について触れ,その次に両者の早期鑑別診断について述べる.
1.TMAの病態と治療
各TMAについては別稿に記載があるため,本稿では簡単に触れる.TMAは,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP),志賀毒素産生大腸菌による溶血性尿毒症症候群(Shiga toxin-producing Escherichia coli-hemolytic uremic syndrome: STEC-HUS),非典型HUS(atypical HUS: aHUS),二次性TMAに分類される3).
TTPはvon Willebrand factor(VWF)の切断酵素であるADAMTS13の活性が著減して血小板血栓を形成する疾患であり,ADAMTS13活性が10%未満のものがTTPと定義される4).TTP患者の救命には早期治療が重要であり,特に後天性TTPでは早期の血漿交換,さらに難治例でリツキシマブの投与が必要となるが効果発現までに時間を要する5).そのため,ADAMTS13の結果を待つまでに治療開始が必要となり,早期診断および難治例の早期判別が重要となる.
HUSは血小板減少・急性腎障害・溶血性貧血の臨床症状を呈する疾患であり6),多くはSTECの経口摂取で発症するSTEC-HUSである7).STEC-HUSは志賀毒素(Shiga toxin: Stx)の蛋白合成阻害8)により血管内皮障害を生じることで発症し9),STECの証明により確定診断する.STEC-HUS治療の基本は支持療法(点滴などの全身管理)だが,脳症合併時には血漿交換を要する例もあり10, 11),確定診断の検査結果を得る前に早期治療を要することがある.
aHUSは,補体関連因子の異常で自己の血管内皮が障害されることで発症する12).「aHUS診療ガイドライン2015」13)では,TMAのうちTTP,STEC-HUS,二次性TMAを除外したものがaHUSと定義された.aHUSは末期腎不全に至る予後不良の疾患であり早期治療が必要だが,確定診断のための遺伝子検査結果を待つことは難しく,他のTMAおよびDICを臨床的に除外し治療を開始する.aHUSでは血漿交換およびエクリズマブが有効だが14),二次性TMAではエクリズマブは適応とならず15),DICも治療法が大きく異なるため,これらとの早期鑑別が特に重要となる.
二次性TMAは自己免疫疾患,感染症,悪性腫瘍などの原因があって発症するTMAと定義される16).原因が確定しにくい場合,DICやaHUS との鑑別が問題になる.二次性TMAは原因に対する治療が基本であり(膠原病による二次性TMAに対するステロイド治療など),重症例で血漿交換が必要となることがある.
2.DICの病態と治療
DIC診断のゴールドスタンダードは定まっていないが,旧厚生省DIC診断基準(旧基準),国際血栓止血学会DIC診断基準(ISTH基準),日本救急医学会急性期DIC診断基準(急性期基準),日本血栓止血学会DIC診断基準(JSTH基準)などが用いられる2, 17, 18).ただ,ISTH基準は感度に問題があり,旧基準は敗血症において感度が悪いとされる.急性期基準は敗血症において感度が良いが,特異度が低い(当科でTTPと確定診断した症例において7割近くが初療時に急性期基準を満たしていた).近年,これらの問題点を踏まえ原因疾患別に診断基準を設定したJSTH基準が作成され,活用されるようになってきている.
DICは線溶反応の程度により,線溶抑制型・線溶均衡型(中間型)・線溶亢進型に分類される19).線溶亢進型DICでは,凝固活性亢進によりD-dimerや thrombin antithrombin complex(TAT)も高値となるが,それ以上に線溶亢進によるfibrin and fibrinogen degradation products(FDP)やplasmin-α2 PI complex(PIC)の増加が著しいため20),FDP上昇とD-dimer上昇の程度などを参考に線溶抑制型DICと線溶亢進型 DICを鑑別する.線溶亢進型DICを呈する疾患としては,前立腺癌・肺癌などのplasminogen activator(PA)産生腫瘍や,PA以外の線溶物質を伴う急性前骨髄球性白血病などがあり,出血症状は高度であるものの臓器症状は少ない.線溶抑制型DICを呈する代表疾患は敗血症であり,凝固活性が亢進する一方でplasminogen activator inhibitor-I(PAI-I)が著増し,線溶が抑制されることで血栓性(虚血性)臓器症状が出現しやすく,重症例や治療開始が遅れた場合には多臓器不全に至り予後不良となる.そのため,特に感染focusがはっきりしないものの敗血症性DICが疑われる状況でTMAとの早期鑑別が問題となる.
敗血症性DICでは早急な全身管理と感染巣コントロールが必要となり,Surviving Sepsis Campaign Guidelineで推奨される敗血症バンドルに沿った治療が行われる21).敗血症バンドルのうち,乳酸値測定,血液培養採取,広域抗菌薬投与,低血圧・高乳酸血症への晶質液投与の項目については3時間以内の達成が目標とされており,達成までの時間と死亡率が相関することが示されている22).さらに,敗血症性DICでは過剰な炎症・凝固などの生体防御反応を適度に制御することも重要となる.例えば,アンチトロンビン(AT)活性が低下している敗血症性DICは予後不良であり23),重症例においてAT製剤による生存率の改善が報告されている24, 25).また,抗凝固治療として用いられるリコンビナントトロンボモジュリン(rTM)は抗炎症作用やAT温存効果も期待され26),重症例でrTM製剤が併用されることがある27).
実際には,血小板減少と臓器障害をきたす疾患としては敗血症性DICの頻度が高いため,血小板減少と臓器障害を認め敗血症性DICが疑われた場合,まず先述の敗血症性DICに対する治療を行いながら,一方で比較的稀なTMAについても並行して疑っておく必要がある.そして,経過からTMAも疑われる状態であれば,TMAとDICの早期鑑別診断(後述)に沿って繰り返し判断することが重要となる.
3.血小板減少・臓器障害・溶血性貧血を呈する病態(TMAとDIC)の早期鑑別診断(図1)
血小板減少と臓器障害を呈する病態の中で,TMAは比較的稀であり,DICの頻度が高い.また,TMAとDICはいずれも救命のために早期治療介入が必要だが両者の治療法は異なるため,TMAとDICをいかに早期に鑑別し適切な治療を開始できるかが予後を左右する.つまり,血小板減少・臓器障害・貧血を呈する症例に遭遇した際に,頻度の高いDICのみならず比較的稀なTMAも疑えるかどうかが重要となる.そして,TMAを疑うことが出来るか否かで重要となるのが,「溶血性貧血」に気付くことである.溶血性貧血に気付くためには,Hb,LDH,尿潜血,破砕赤血球に普段から注意する必要がある.日々の診療において,Hb低下があっても顕著でなければすぐには貧血の原因が厳密に鑑別されないことがある.LDHは溶血以外の原因で上昇することも多く,LDH上昇が著明でなければ溶血所見として意識されにくい.尿潜血も他の病態でもよく認められるため,溶血所見として捉えられにくい.破砕赤血球は少数であれば検査室で目視されないことも多く,目視を依頼することが必要である.また,ハプトグロビンが溶血性貧血の診断に有用であるが,日常のルーチン検査に含まれることは少なく,すぐに結果が得られないこともあり,むしろ溶血にある程度気付いた状況で測定されることが多い.そのため,まず溶血性貧血を疑えるかどうかがkey pointであり,Hb低下・LDH上昇のバランスなどを日々の診療の中で意識しておくことが重要である.溶血所見に気付くことが出来れば,TMAおよびDICの鑑別に進むことが出来る.
血小板減少・臓器障害・溶血性貧血を呈する病態(TMAとDIC)の早期鑑別診断フローチャートを示す(図1).まずクームス試験が陰性であればTMAおよびDICの鑑別に進み,各TMAおよびDICの早期鑑別点に沿って早期診断し治療を開始する(図1の①~⑤,詳細後述).ただし,これらの鑑別点のみで他のTMAおよびDICを完全に除外するのは難しい.そのため,早期鑑別診断で可能性の高い疾患を選び出して治療を開始し,確定診断までは常に他のTMAおよびDICの可能性も並列で考慮し,治療反応性も含めて判断しながら,ADAMTS13活性や確定診断に必要な検査の結果を待つ.
①TTPのPLASMIC scoreを用いた早期鑑別診断 ~特に後天性TTPと敗血症性DICの早期鑑別~
TTPの早期診断に,最近はPLASMIC scoreが用いられる.TTPの早期診断で問題となりやすいのが後天性TTPと敗血症性DIC(特に感染focusがはっきりしないcase) の鑑別であり,TTPで溶血所見が強く敗血症性DICで凝固異常が強い傾向はあるものの,両者の特徴は類似しており鑑別が難しい(表1)28).そこで,血小板減少をきたす疾患の早期鑑別の必要性を背景に,TTP(ADAMTS13活性10%未満)を予測するPLASMIC scoreが提唱され29),その有用性が示された30).なお,PLASMIC scoreの詳細については別稿に記載があるため本稿では割愛する.
表1
後天性TTPと敗血症性DICの特徴
|
後天性TTP |
敗血症性DIC(線溶抑制型DIC) |
臨床症状 |
臓器症状(精神神経症状,腎障害) |
臓器症状(特に腎障害) |
血小板数 |
著減 |
著減(急激な低下) |
FDP |
正常~軽度上昇 |
軽度上昇 |
PT |
正常~軽度延長 |
延長 |
APTT |
正常 |
正常~軽度延長 |
アンチトロンビン |
正常(肝不全があれば低下) |
低下 |
LDH |
増加(特徴的) |
原因疾患や併存症(横紋筋融解など)により上昇することあり |
破砕赤血球 |
あり(特徴的) |
時に軽度あり |
ハプトグロビン |
感度以下(特徴的) |
通常正常(肝不全があれば低下) |
TTP: thrombotic thrombocytopenic purpura, DIC: disseminated intravascular coagulation, FDP: fibrin and fibrinogen degradation products, PT: prothrombin time, APTT: activated partial thromboplastin time, LDH: lactate dehydrogenase.
(文献28より引用;一部改変)
TTPのPLASMIC scoreを用いた早期鑑別診断フローチャートを示す(図2).PLASMIC scoreの全7項目のうち6点以上であればTTPの可能性が高いと判断し,血漿交換を開始しつつADAMTS13活性の結果を待つ.PLASMIC scoreが5点以下の場合でもTTPの否定はできず31),自験例でもPLASMIC scoreが5点以下で最終診断がTTPの症例があった.一方で,PLASMIC scoreが5点で最終診断がDICの症例もあった.そのため,当科ではPLASMIC scoreと併せて,溶血性貧血の程度(Hb低下とLDH上昇のバランス)および凝固線溶異常のパターン(FDP上昇とD-dimer上昇のバランス)も指標としている.DICはTTP(および他のTMA)よりも溶血性貧血が顕著ではないため,Hb低下の程度に比してLDH上昇が軽度であり,TTPと比べてLDH/Hb比が低い傾向を示す.また,敗血症性DICは線溶抑制が強いためFDPが著増せず19, 32),TTPと比べてFDP/D-dimer比が低い傾向がみられる.さらに,敗血症性DICではAT活性がTTPより低値になることが多い.以上から,PLASMIC scoreが5点以下の症例では,これらの指標も用いて後天性TTPと敗血症性DICを鑑別し,早期治療を開始する.
②STEC-HUSの腹部画像検査を用いた早期鑑別診断~腸炎症状を伴うDIC・TMAの早期鑑別~
血小板減少・臓器障害・溶血性貧血に加え,典型的な臨床症状(腹痛,下痢,血便など)があればSTEC-HUSを疑うことは比較的容易である.STEC感染症では著明な大腸壁肥厚が特徴的であり(図3)10),STEC-HUSの早期診断に画像評価(腹部CT,超音波検査)が有用である33).また,STEC-HUSではLDH上昇が早期からみられることも特徴である34).
STEC-HUSと腸炎症状を伴うDICや他のTMA との鑑別を要する場合があり,早期鑑別診断の手順を示す(図4).溶血所見(LDH,Hb,破砕赤血球数,ハプトグロビンなど)が軽度で凝固異常(PT,FDP,D-dimer,ATなど)が高度であれば,腸炎症状を伴うDICとして治療を開始する.次に,腸炎症状を伴う他のTMAとの鑑別として画像検査(腹部CT検査,超音波検査)を行い,著明な大腸壁肥厚を認めればSTEC-HUSとして治療を開始しつつ,便培養,菌体抗原,Stxなどの結果を待つ.
③二次性TMAの早期鑑別診断 ~特に二次性TMAとDICおよびaHUSの早期鑑別~
二次性TMAをきたす明らかな原因を認める場合には診断は難しくなく,原因となり得るものを知っておくことが重要である(表2)13, 35, 36).ただ,原因がすぐに確定できない場合や併存症がある例で,特にDICおよびaHUSとの鑑別に難渋することがある.例えば,感染が疑われる症例では敗血症性DICとの鑑別が問題となる.また,妊娠を契機にaHUSを発症することもあるので注意を要する.
表2
二次性TMAの原因
自己免疫疾患(膠原病など) |
全身性エリテマトーデス:腎障害例で腎生検が鑑別に有用 強皮症:腎クリーゼ(悪性高血圧)もしくは強皮症による血管内皮障害 多発筋炎/皮膚筋炎,抗リン脂質抗体症候群,血管炎など |
感染症 |
細菌:肺炎球菌(直接クームス試験陽性),百日咳,溶連菌など ウイルス:HIV,インフルエンザ,HCV,CMV,VZVなど |
悪性腫瘍 |
消化器系癌,乳癌,前立腺癌,肺癌など(進行固形癌が多い) |
移植後 |
造血幹細胞移植(同種移植で多い,カルシニューリン阻害薬の関与) 臓器移植(腎,肝,心,肺,小腸など) |
妊娠 |
HELLP症候群,子癇:妊娠契機のTTPおよびaHUSとの鑑別が必要 |
薬剤 |
抗悪性腫瘍薬:シスプラチン,チロシンキナーゼ阻害薬,VEGF阻害薬,ゲムシタビン,マイトマイシンC 抗血小板薬:チクロビジン,クロピドグレル 免疫抑制薬:シクロスポリン,タクロリムス,シロリムス その他:バラシクロビル,キニーネ,経口避妊薬,インターフェロンなど |
その他 |
悪性高血圧,コバラミン代謝異常症,急性膵炎など |
HIV: human immunodeficiency virus, HCV: hepatitis C virus, CMV: cytomegalovirus, VZV: varicella zoster virus, HELLP: hemolysis, elevated liver enzyme levels and a low platelet count syndrome, VEGF: vascular endothelial growth factor.
(文献13,35,36より引用;一部改変)
二次性TMAの早期診断について述べる.PLASMIC scoreや腸炎症状などからTTPおよびSTEC-HUSを鑑別し,原因疾患によって二次性TMAとDICを鑑別する.二次性TMAとDICの原因がすぐに確定し難い場合は,溶血所見・凝固異常の程度を指標に早期診断して治療を開始しつつ,原因検査(抗核抗体,ウイルス抗原・抗体,血液培養,画像検査など)の結果を待つ.aHUSとの早期鑑別が困難な例もあり,その際には治療経過も含めて判断する必要がある(後述).
④aHUSの早期鑑別診断 ~特にaHUSとDICおよび二次性TMAの早期鑑別~
aHUSを疑った際には確定診断のために遺伝子検査を行うが,その結果を待って治療開始するのは現実的でなく,臨床的に他のTMAおよびDICを除外し,臨床的aHUSと診断して治療を開始する.aHUSを疑うにあたって,すぐに確認できるものとしては補体関連異常の家族歴・既往歴および補体価(C3低下)が重要である.しかし,C3 低下例は約半数程度であり,一方でC3 が正常でもaHUS を否定することはできない.また,羊赤血球を用いた溶血試験も有用であるが施行できる施設が限られる37).
臨床的aHUSの早期診断について述べる.PLASMIC scoreや腸炎症状などからTTPおよびSTEC-HUSを鑑別し,原因の有無によって二次性TMAおよびDICとの鑑別をする.また,DICとの鑑別においては,溶血所見・凝固異常の程度も指標にする.そして,家族歴・既往歴およびC3低下も参考にし,他のTMAおよびDICが除外できた時点で臨床的aHUSとして早期治療を開始する.
ただ,補体関連異常の家族歴・既往歴が明らかな場合には早期治療(エクリズマブ投与)をすぐに開始できる症例もあるが,実際には他のTMAおよびDICを完全に除外するのがすぐには困難なことが多い.例えば,発症の初期に溶血所見が乏しく敗血症性DICとして治療されるも,後に溶血所見が顕在化してaHUSと診断された症例もある38).二次性TMAと診断された症例において,遺伝子異常が報告された例もある39).また,aHUSを発症する遺伝子異常がすべて解明されているわけではなく,既知の遺伝子異常がみつからなくともaHUSを否定できない40).一方で,補体関連の遺伝子異常を有していてもaHUSを発症しないこともある41).そのため,実際には,DICや二次性TMAとして治療を開始しつつ,治療反応性や経過も含めての判断を必要とすることが多い.つまり,治療経過がDICや二次性TMAに合致しない場合にこれらを臨床的に除外し,臨床的aHUSと診断する.
おわりに
TMA領域は近年大幅に病態の解明が進み,詳細に分類・定義されるようになった.しかし,aHUSや二次性TMAなどは未だ病態が不明な点も多く,また,確定診断に必要な検査について結果を得るのに時間を要するものも多いため,鑑別診断に難渋する例がある.一方で,病態の解明に伴って治療法も進歩し,早期治療介入により予後改善が得られるようになってきている.その分,臨床医にとっては早期診断の力量を問われると感じる.
今回,血小板減少・臓器障害・貧血の診療において,よく遭遇するDICと比較的稀なTMAの早期鑑別を中心に,一刻も早く診断・治療を行いたいと思う臨床医の視点を含めてまとめた.繰り返しになるが,血小板減少・臓器障害・溶血性貧血をみた際にまず重要な点は,「溶血性貧血」に気付くことである.そのためには,日常診療の中でHb低下とLDH上昇のバランスなどを普段から意識することが重要となる.溶血性貧血に気付くことが出来れば,TMAを鑑別に挙げることが可能となる.そして,血小板減少・臓器障害・溶血性貧血の早期鑑別の要点を押さえ可能性が高い疾患を選び出し,早期治療を開始しつつ,確定診断が得られるまでは常に他のTMAやDICの可能性も念頭に置いて,治療経過の中で繰り返し判断していく姿勢が大切である.
著者全員の利益相反(COI)の開示:
本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし
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