Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Appropriate anticoagulant therapy in patients with nonvalvular atrial fibrillation
Catheter ablation and anticoagulation therapy
Ken OKUMURA
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2020 Volume 31 Issue 6 Pages 577-583

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Abstract

心房細動(atrial fibrillation: AF)に対するカテーテルアブレーションは「薬物治療抵抗性の症候性発作性AF」に対してクラスI適応,「症候性持続性AF」に対してクラスIIa適応で,施行数は年々増加している.AFアブレーションは,AF自体に血栓塞栓リスクがあり,左房内に長時間カテーテルを留置,広範囲に焼灼または冷凍するため,血栓塞栓の発生リスクを伴う.また複数の電極カテーテルを心腔内まで進め,心房中隔穿刺や左房内で比較的複雑なカテーテル操作を必要とするため,心タンポナーデなどの出血リスクを伴う.すなわち高塞栓・高出血リスクの治療手技であり,周術期の適切な抗凝固管理が必要となる.抗凝固薬はワルファリンから直接経口抗凝固薬へとシフトし,その管理は容易となるとともにアブレーションの術直前,術後の投与法に関しても,最近多くのエビデンスが示されている.適切な抗凝固薬管理により,安全なアブレーション施術が可能となっている.

はじめに

心房細動(atrial fibrillation: AF)に対するカテーテルアブレーションの進歩には目覚ましいものがあり,わが国でもアブレーション施行件数が年々増加1, 2,近い将来年間10万件にも達すると予測される.治療成績の向上とともに,最近のコホート研究,レジストリー研究の結果では,アブレーション施行群は非施行群に比して,脳梗塞発症率のみでなく死亡率も低下することが示された3.重症心不全例を対象とした無作為化比較試験の結果では,アブレーションは心不全入院とともに死亡率を低下させた4.脳梗塞既往例に対する二次予防においても,脳梗塞既往を有する47例[77%は直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant: DOAC)服用]と有さない400例(77%はDOAC服用)に対する我々のアブレーションの効果の検討では,急性期合併症,長期再発予防効果に差はなく,平均14ヶ月の経過観察中に両群とも脳梗塞発症を認めなかった5.AFアブレーションは,とくに発作性AF,持続期間1年以内の持続性AF例には効果が高く,生命予後,機能予後の観点からも積極的に適応を検討すべきだろう.

1.AFアブレーションと周術期抗凝固療法

AFアブレーションの適応,術式,成績,合併症等の詳細は最新のガイドライン等を参照されたいが1,手技の面からは高出血および高塞栓リスクのインターベンションに位置づけられる1.出血リスクに関しては,左房内に複数のカテーテルを留置するため,血栓塞栓症予防のために比較的大量のヘパリン投与を必要とすること(活性化凝固時間を300秒以上に維持),カテーテル手技が比較的に複雑で,心臓壁損傷,心タンポナーデのリスクがあること,血管穿刺に伴い穿刺部での出血,血腫形成等が起こりうること,などが挙げられる.心タンポナーデがとくに重篤で,発生頻度は約1%である1, 6.塞栓症に関しては,AF自体が血栓塞栓症リスクであり,左房内カテーテル留置および焼灼または冷凍に伴う心内膜損傷により血栓形成のリスクが生じること,とくに高周波通電ではカテーテル先端に微小凝血塊が形成されるリスクがあること,持続性AFでは洞調律復帰後も心房収縮の回復に時間を要すること,などが要因となる.術後の脳梗塞・TIAの発症頻度は0.4%前後である1, 6

出血リスクに対しては,術中ヘパリン管理と慎重なカテーテル操作等でその低減を図る.一方,塞栓症リスク低減のためには周術期に適切な抗凝固療法を継続実施する必要があり,これにより手技に伴う出血リスクが増大する.わが国の「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」1は,塞栓症リスクを低減するため,「持続性AFおよび高リスク例(CHADS2スコア2点以上)では,ワルファリンあるいはDOACを,少なくとも3週間以上使用すべきである(クラスIIa)」,さらに「術後の抗凝固療法(ワルファリンあるいはDOAC)は,再発の有無にかかわらず,少なくとも3ヶ月間継続することが推奨される(クラスIIa)」と記載している(表11.以下にアブレーション周術期における各抗凝固薬の有効性,安全性に関するエビデンスを概説する.

表1

心房細動(AF)アブレーション周術期の抗凝固療法の推奨とエビデンスレベル.

日本循環器学会,日本不整脈心電学会.不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami191120.pdfから引用(2019年4月閲覧)

2.各抗凝固薬のエビデンス

1)ワルファリン

以前は唯一の経口抗凝固薬であり,周術期にはワルファリンが投与された.ただし,心タンポナーデ等の出血性合併症が発症した場合,ワルファリンの迅速な中和は困難なため(現在は凝固因子補充療法が使用可能),心囊穿刺のみでは不十分で,外科的処置が必要となるケースもあった.そのため,アブレーション手技の2~5日前からワルファリンを中断し,ヘパリンに置換する「ヘパリンブリッジ」が行われた.しかし,ワルファリン中断群と継続したままアブレーションを行う継続群の間で周術期出血性合併症に差がないことが報告され7, 8,さらにメタ解析ではワルファリン継続でアブレーションを行うことにより,脳梗塞・TIAと小出血が有意に減少し〔ハザード比(HR)はそれぞれ0.1および0.38〕,一方で心タンポナーデを含めた大出血は増加しない(HR=0.67)ことが示された9.中和剤(凝固因子補充療法)が適応となったこともあり,現在はワルファリン継続がクラス1適応(レベルA)となっている(表11

慢性腎不全・慢性透析例に対する抗凝固療法:日本透析医学会ガイドラインはワルファリンを原則禁忌としており,必要な場合もPT-INR<2.0に維持することが望ましいと記載している10.一方,DOACは禁忌であり,ワルファリン以外の経口薬はなく,慎重な導入と維持が必要となる.筆者はPT-INR 2.0前後を目標とし,術前に経食道心エコー(TEE)で血栓のないことを確認し,アブレーションを実施している.術後は2ヶ月以内に中止することが多い.

2)DOAC

ダビガトラン(トロンビン阻害薬)が上市され9年以上が経過したが,現在ではリバーロキサバン,アピキサバン,エドキサバン(以上Xa阻害薬)の合計4種類のDOACが使用可能で,非弁膜症性AF例の血栓塞栓症予防の標準的治療薬となっている.ワルファリンと比較し,効果発現が速く(rapid onset),消失も速い(rapid offset)という特徴があり11,術前3週間(以上)という比較的短期間前から開始しても速やかに効果が得られ,周術期管理が容易となる.周術期の有効性,安全性がワルファリンと同等またはそれ以上であれば,DOACはアブレーションにより適した薬剤と考えられる.

ではDOACは継続すべきだろうか,あるいは中断すべきだろうか.ダビガトランには特異的中和剤が使用可能であるが,Xa阻害薬には中和剤がなく,継続したままアブレーション手技を行うと,出血性合併症が生じた場合に止血困難となる可能性がある.一方,術当日のみ投薬を中断することは短期間でもあり,可能と思われるが,ハイリスク例では血栓塞栓症が懸念されるかもしれない.また投与再開のタイミングも問題となる.各DOACの周術期投与法に関する最近の試験結果を以下に述べる.

① ダビガトラン

2017年のRE-CIRCUIT試験で,周術期ダビガトラン継続投与(317例,150 mgを1日2回投与)とワルファリン継続投与(318例,PT-INR2.0~3.0)の有効性,安全性が比較検討された12.その結果,ダビガトラン群は心タンポナーデ(1件対6件)を含めたISTH基準大出血の出現頻度がワルファリン群より有意に少なく(HR=0.22, P<0.001),また塞栓症は両群ともに極めて少なかった(ワルファリン群でTIA 1例のみ)(図1,左から2列目)13.大出血発現の推移を見ると(図2),術中,術直後のみでなく,経過中もワルファリン群で増加,ダビガトラン群では消化管出血1例のみであった.ダビガトランはワルファリンより安全性に優れることが示されたが,下記のようにイダルシズマブで中和可能であり,周術期抗凝固薬としてはダビガトランが望ましいと言える.これを反映し,ガイドラインでもクラスI適応(レベルA)に位置づけられている(表11.一方,わが国からの報告で,ダビガトランの最小の中断(術前1~2回のスキップ)は,ワルファリン継続に比して塞栓症を増加させず,出血性合併症は減少したことが示された(ABRIDGE-J試験)14.少なくとも術直前の投与はスキップしてもいいかもしれない.

図1

RE-CIRCUIT試験,AXAFA-AFNET 5試験,VENTURE-AF試験,ELIMINATE-AF試験のDOAC継続群とワルファリン継続群のイベント発生率(死亡,脳梗塞,大出血).図左端列(Combined studies)は4試験のイベント発生率平均値.文献13より引用.NOAC=新規経口抗凝固薬,VKA=ビタミンK拮抗薬,DABI=ダビガトラン,APX=アピキサバン,RIV=リバーロキサバン,EDX=エドキサバン

図2

RE-CIRCUIT試験におけるワルファリン継続群とダビガトラン継続群の大出血発現の推移.文献12より引用.

注意点は,クレアチニンクリアランス(CCr)が50 mL/分未満の中等度腎機能低下例や70歳以上の高齢者では110 mg 1日2回が投与されることが多いが,RE-CIRCUIT試験と同様の結果が得られるかは不明である.AFアブレーションは75歳以上の高齢者でも多く行われており,ダビガトランの対象患者の選定には注意を要する.さらに1日2回の服薬が必要であり,周術期のアドヒアランスを徹底しなければならない.

ダビガトラン中和剤イダルシズマブ:DOACの半減期は比較的に短く(10~12時間),出血性合併症の多くは圧迫止血などで対応可能である.しかし,服薬中の頭蓋内出血,消化管出血,緊急手術等に際しては,中和剤が使用可能なことが望ましい.イダルシズマブはダビガトラン特異的中和剤で,その有用性はREVERSE-AD試験で前向きに検証され15,ダビガトランの効果が迅速,完全,持続的に中和されることが確認され,一方,投与(静注)自体の凝固促進効果は認められなかった.AFアブレーションに伴い発生した心タンポナーデ等の重大出血性合併症に対し,イダルシズマブ投与により有効かつ安全に止血可能であったことがわが国から報告されている16

② リバーロキサバン

2015年のVENTURE-AF試験で,少数例ではあるものの,周術期リバーロキサバン継続群[114例,1日1回20 mg(海外用量)の夜間投与を推奨]とワルファリン継続群(107例)が比較検討された17.その結果,ISTH基準の重大出血性イベント(各々0例,1例),塞栓症イベント(各々0例,2例)の発生は両群間ともに極めて低く,またすべての出血性イベントも各々21例,18例で同等であった(図1,右から2列目)13.この試験では,リバーロキサバンは夜間に投与され,従って術中にはリバーロキサバン血中濃度は低くなっていたと考えられ,アブレーション手技はリバーロキサバンに影響されず実施可能であったと推察される.わが国のガイドラインでは,検討症例数が少ないこと,投与量が異なること,中等度以上の腎機能低下例は除外されたことなどにより,特異的中和剤がないことより,リバーロキサバン継続投与はクラスIIa適応(レベルB)に位置づけられている(表11

わが国ではアブレーション3週間以上前からリバーロキサバン(1118例,JACRE-R群)またはワルファリン(204例,JACRE-W群,継続投与)が投与された症例を前向きに登録したJACRE研究が実施された17.JACRE-R群でのアブレーション開始から30日間の血栓塞栓症は2例(0.2%),重大出血(ISTH基準)は5例(0.4%)で,複合イベント発生率は7例(0.6%)であった.一方,JACRE-W群では,血栓塞栓症は0例(0%),重大出血は3例(1.5%)であった.Cox回帰モデル(Firth’s correction)で比較検討すると,2群間で差は認められなかった(図3).なおJACRE-R群のほとんどに対してアブレーション前日までと翌日からはリバーロキサバン投与が行われ,アブレーション術日には42%のみに投与され,その多く(38%)は術後であった18.しかし,血栓塞栓症発現率は0.2%と低く,双方ともTIAであった.1日1回のリバーロキサバンの術当日の投与については,中和剤のないことを考慮し,スキップまたは術後に投与しても影響は少ないことが示唆された.

図3

JACRE試験結果.リバーロキサバン群とワルファリン群(継続)におけるイベント発生率の比較.文献18より引用.

③ アピキサバン

2018年のAXAFA-AFNET 5試験で,アピキサバン継続群(318例,1日2回投与)とワルファリン継続群(315例)の有効性,安全性が比較検討された19.その結果,複合エンドポイント(死亡,脳卒中,BARC基準2-5の出血)がアピキサバン群で22例(6.9%),ワルファリン群で23例(7.3%)に認められ,両群間に差はなかった(非劣性P=0.0002)(図1,中央列)13.ISTH基準大出血は,アピキサバン群では10例(3.1%),ワルファリン群では14例(4.4%)に認められた.以上より,アピキサバン継続もワルファリン継続と同等の有効性,安全性が確認された.わが国からもアピキサバン継続投与の有用性が報告され20,アピキサバン継続投与はクラスIIa適応(レベルB)に位置づけられている(表11.なおアピキサバンには現時点では特異的中和剤はなく,術当日の朝の投与をスキップし,術後に止血確認後,投与してもよいと思われる〔クラスIIa適応(レベルB)〕(表11

④ エドキサバン

2019年のELIMINATE-AF試験で,エドキサバン継続(411例,1日1回夜間投与)とワルファリン継続[203例(2:1で割り付け)]の有効性,安全性が比較検討された13.その結果,大出血に差はなく(2.5%対1.5%),脳梗塞をエドキサバン継続群で1例に認めたのみであった(図1,右端列)13.他のDOACとほぼ同様の結果で,ガイドラインではエドキサバン継続投与はクラスIIa適応(レベルB)に位置づけられている(表11

上記のVENTURE-AF試験(リバーロキサバン)17とELIMINATE-AF試験(エドキサバン)13では,1日1回投与のDOACが夜間(夕食後)に投与され,アブレーションの直前には投与されなかった.Xa阻害薬には特異的中和剤は使用できず,安全性の観点からは手技直前の投与は好ましくないだろう.この手技前非投与の有効性・安全性を前向きに検証する目的で,KYU-RABLE研究がわが国で実施された21.本研究のプロトコールは,朝1回投与のエドキサバンをアブレーション前日まで継続し,術当日は手技終了後(止血確認後)4時間で投与し(遅延投与),翌日からは通常投与を行うというもので,国内の多くの施設で取り入れられていたDOAC投与プロトコールが検証された.513例が登録され,術中術後の血栓塞栓症の発生はなく(0%),大出血(心タンポナーデ)を1例(0.2%)に認めたのみであった(穿刺排液で治療され輸血は行われなかった).本研究では,アブレーション直前にエドキサバン血中濃度と凝固マーカー(D-dimerおよびF1+2)が測定された(図421.エドキサバン最終投与からの時間が長くなるほどエドキサバン血中濃度は低下したが,凝固マーカーの増加は認めなかった.短時間(12時間以内)の投与遅延は凝固系の賦活化には至っていず,本プロトコールの妥当性が支持された.

図4

KYU-RABLE試験におけるエドキサバン最終投与からアブレーション開始までの時間とエドキサバン血中濃度(A)および凝固マーカー値[D-dimer(B)およびF1+2(C)]の関連.文献21より引用.CA=カテーテルアブレーション.

以上の4つの臨床試験のDOAC継続群とワルファリン継続群のイベント発生率(死亡,脳梗塞,大出血)をまとめた結果(平均値)を図1左端列に示す13.全体のイベント発生率はDOAC継続群がワルファリン継続群より低値で,DOAC継続療法の有用性が示された.一方,アブレーション直前の投与を術後に遅延投与するか1日スキップすることは塞栓症リスクの増加に必ずしも繋がらない.DOACのアブレーション術日1日の休薬(スキップ)は,継続投与群と比較して有効性,安全性において差がなかったことがわが国から報告されている22.ダビガトラン以外は中和剤がない状況では,とくにXa阻害薬については遅延投与(またはスキップ)がより安全と考えられる.

著者の利益相反(COI)の開示:

講演料・原稿料など(第一三共,日本ベーリンガーインゲルハイム,ブリストルマイヤーズスクイブ,ジョンソンエンドジョンソン),臨床研究(治験)(第一三共)

文献
 
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