Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Appropriate anticoagulant therapy in patients with nonvalvular atrial fibrillation
Current situations of and how to deal with polypharmacy in non-valvular atrial fibrillation
Shinya SUZUKINaomi HIROTA
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2020 Volume 31 Issue 6 Pages 591-598

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Abstract

心房細動の有病率は高齢者ほど高いことが知られており,社会の高齢化に伴って心房細動患者は増加を続けている.高齢者では,薬物動態の加齢性変化による分布容積の低下や,代謝・排泄の低下による薬物の血中濃度上昇が起こりやすい.さらに併存疾患が多いため,ポリファーマシーとなる傾向にあり,薬物動態の予測が困難である.この問題は抗凝固療法にも当てはまる.ワルファリンは多数の薬物相互作用を認め,高齢者独特の薬物動態の不安定さやポリファーマシーの影響は大きい.直接経口凝固薬(direct oral anticoagulants: DOAC)は血中濃度の推移が比較的安定しており,用量調整不要とされる.一方で,P糖蛋白阻害薬,CYP代謝競合薬や腎代謝薬が多数併用され得るポリファーマシーは,薬物代謝に影響する高年齢,低体重,腎機能低下などが重複しやすい高齢患者においては出血リスクを有意に増加させる危険因子であり,いかに対応するかはDOACのunmet needsと考えられる.最後に,現時点で考えられる高齢者へのDOAC投与について,J-ELD AF研究の結果を踏まえて言及する.

1.ポリファーマシーの現状―なぜMultimorbidityとPolypharmacyに注目するのか?

心房細動の有病率は高齢者ほど高いことが知られており,社会の高齢化に伴って心房細動患者は増加を続けている.高齢者で心房細動が増加する理由は,さまざまな要因が心房リモデリングの進行に集約されるところにある.それは加齢性変化として起こるものであるとともに,心疾患(心不全,冠動脈疾患,心臓弁膜症)や高血圧症,糖尿病などに複合的に罹患することで加速されるものでもある.さらには,肥満,睡眠時無呼吸症候群,呼吸器疾患,癌や膠原病などのあらゆる慢性疾患が,高齢者には併存しやすく,かつ,それらの進行が心房内圧亢進や全身性炎症亢進によって心房リモデリングを促進することで心房細動を増加させる.

心房細動の重大な合併症である脳梗塞に対しては抗凝固療法が必要である.とくに高齢心房細動患者は高い塞栓症リスクを有し,抗凝固療法は必須となる.一方で,高齢心房細動患者では,加齢による生体機能低下から薬物代謝能が低下する上に,複数の慢性疾患の併存(multimorbidity)のためにpolypharmacyとなりやすい.これは,抗凝固療法を安全に行う上で大きな懸念事項である.

ワルファリンにおいては薬物相互作用の多いことが広く認識され,頻回のモニタリングと用量調整を要する.とくに高齢者ではワルファリンの用量調整は難しく,塞栓症や出血などのイベント増加,アドヒアランスの低下,医師による使用不十分(underuse)と低用量(underdose)などさまざまな問題が生じてきた.このようなワルファリン治療において,polypharmacyは用量調整をより困難にしてきた.一方で,直接経口凝固薬(direct oral anticoagulants: DOAC)は薬物動態が安定しており,薬物相互作用が少ないとされることから,ワルファリンで見られたさまざまな問題を解決し得る薬剤という期待とともに登場した.実際のところ,DOACの登場により高齢者に対する抗凝固療法の投与率は上昇し,塞栓症や大出血の発生率は低下したというのが現場の実感だろう.ただ,高齢者にDOACを投与する際,polypharmacyがどれくらい影響するのかという問題はこれまであまり意識されてこなかった.しかしながら,polypharmacyはDOAC投与下の出血リスクを増大させ,どのように対応すべきかは高齢心房細動患者へのDOAC安全投与におけるunmet needsである.本稿では,「非弁膜症性心房細動のpolypharmacy」というトピックの中でも,とくに核心的な課題となると思われる「高齢心房細動患者に対する抗凝固療法におけるpolypharmacy」の影響と対応をテーマに述べる.

2.ポリファーマシーの定義について

まず,polypharmacyの定義について簡単にふれておきたい.polypharmacyの定義には,薬の数に注目する「量的」な視点と,薬の内容に注目する「質的」な視点がある.本稿の後半にも示すように,これまでのpolypharmacyに関する研究では服薬数に注目したものが多い.内服する薬剤の数が増えるほど高齢者の予後は悪化するというのがほぼ一貫して報告される内容であり,polypharmacyの定義は「服薬数5剤以上」とすることが多い1.一方で,とくに循環器分野においては,二次予防のために投与されるβ遮断薬やスタチンなどの治療薬が数多く存在することから,薬剤数のみを問題とするのではなく投薬の「質」に目を向けた議論が進められている.たとえば,BeersクライテリアやSTOPPクライテリアは循環器分野における併用注意薬を含めて,多剤併用で問題となりやすい薬剤の組み合わせをリストアップしている.一方で,冠動脈合併心房細動患者への抗凝固療法と抗血小板薬併用問題にみられるように,治療薬を最小限とするためのエビデンスを構築するための議論も近年のhot topicである.冠動脈ステント留置に伴う抗血小板薬2剤併用に対して抗凝固薬による代用が可能であるとのエビデンスから,ステント留置後1~3か月後に抗血小板薬1剤+抗凝固薬の2剤に(出血リスクが高い症例ではステント留置直後から可能),12か月以降は抗凝固薬単剤とする流れがすでに確立された.これも広義ではpolypharmacyの議論の一つと考えられるが本稿では扱わない.

本稿では,ワルファリンや直接経口抗凝固薬(DOAC)に関連するエビデンスとしては「薬剤数」によって定義されたpolypharmacyのデータがほとんどであることから,そのような報告で用いられることの多い「服薬数5剤または6剤以上」をpolypharmacyと定義して取り扱い,服薬数過多としてのpolypharmacyと予後という観点のエビデンスを扱う.また,polypharmacyと関連しやすいmultimorbidityの問題も,基本的に並存疾患の数として扱う.一方で,ワルファリンやDOACに対して薬物動態的に影響を与えうる薬剤について言及することで,「質的」な視点を担保しようと意図した.

3.高齢心房細動患者の抗凝固療法における3つの課題

日本人の心房細動患者は,高齢者が多く,かつ平均体重が欧米と比較して軽く,出血リスクも高いとされる.そのため,日本の診療現場においては抗凝固療法のunderuseとunderdoseがワルファリン時代から指摘されてきた.Fushimi-AFレジストリは登録患者の約半数が75歳以上の高齢心房細動患者であり,そのデータは高齢化が進んだ日本の縮図とも言える.Fushimi-AFレジストリの試験開始時点である2011年において抗凝固療法施行率は53.1%であったが,抗凝固療法施行が推奨されるCHADS2スコア1点以上の患者に対する施行率も1点で40%台,2点で50%台,3点以上で60%前後にとどまっていた.さらに,抗凝固療法がおこなわれた患者のうち9割以上(全体の50.6%)の患者に対してワルファリンが処方されていたが,PT-INRが治療域であった患者の割合は54.4%であった.つまり,underuseかつunderdoseが示唆された2.同レジストリにおいて,脳卒中または全身性塞栓症の発生率,および大出血の発生率は,抗凝固療法の有無で違いがなかった(図1).これも同コホートのワルファリン投与にunderuseがあったことを示していると考えられる.

図1

抗凝固薬有無と脳卒中・全身塞栓症および大出血の発生率:Fushimi AF Registry

文献1(Akao M, et al; Fushimi AF Registry Investigators. Circ J. 2014; 78: 2166–72.)より引用

抗凝固療法のunderuseとunderdoseの問題は,簡便に投与できるDOAC時代には解消されることが期待された.しかし,Fushimi-AFレジストリにおいて,DOAC登場後に抗凝固療法施行率が10%程度上昇したものの,その間に脳梗塞や大出血の発生率に明らかな変化は認められなかった3.これは,DOAC低用量処方が多く,かつ,その約半数が減量基準に該当しなかったことから,大出血への懸念のために不適切な減量が行われ,治療効果が不十分となっていたと推測された.

なぜこのような状況になるのだろうか?その理由として,高齢者は冒頭にも述べた通り,(1)内皮機能低下や凝固活性亢進による塞栓症リスクの上昇がある一方で,(2)血管脆弱性や血圧上昇,抗血小板薬併用などの出血リスクを有し,(3)さらには加齢による生体機能低下から薬物代謝能が低下し,抗凝固薬の血中濃度が上昇しやすい,という3つのリスクを有する.そして,とくに(2)や(3)への懸念から出血を回避しようと,抗凝固薬の使用を回避したり,低用量で用いようとしたりするという傾向が生じるのだと言える.

4.Multimorbidityとpolypharmacyが3つの課題を増強する

Multimorbidityとpolypharmacyは互いに密接に関連し,塞栓症および出血リスクを加重させる.さらに,抗凝固薬投与中の患者に対しては,抗凝固薬の血中濃度にも影響する.つまり,multimorbidityとpolypharmacyは上述の「高齢者における抗凝固療法の3つのリスク」を増強するのである.

1)Multimorbidityの抗凝固療法への影響

65歳以上の高齢者は平均して3つの慢性疾患に罹患しているといわれ4,心不全,冠動脈疾患,心房細動などの心疾患や,慢性腎臓病,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患,認知機能障害,不眠症,うつ病,など多様な併存疾患を日常的に抱える.心房細動患者の併存疾患数をみたARISTOTLE試験のサブ解析では,64%の患者は3つ以上の併存疾患を有するmultimorbidityの状態であった.また,併存疾患数が多いほど高齢者および併用薬剤数が多くなり,また,塞栓症リスクスコアも高値であった.そして,併存疾患数が多い群は併存疾患が少ない群と比較してイベントが増加しており,疾患数0~2群に対する疾患数3~5群および疾患数6以上群のハザード比(95%信頼区間)は,脳卒中・全身性塞栓症では1.42(1.15~1.76),1.64(1.20~2.23),全死亡では1.66(1.44~1.92),3.56(2.99~4.23),大出血では1.35(1.14~1.60),1.89(1.51~2.37)であった5

スウェーデンの国家データベースを用いてワルファリン使用中の患者における重大な出血の発生リスクを解析した研究において,過去の出血既往(調整後ハザード比:1.85),腎不全(調整後ハザード比:1.82),アルコール依存症(調整後ハザード比:1.79)のほか,高血圧症,糖尿病,末梢動脈疾患,うっ血性心不全,肝不全,脳梗塞・一過性脳虚血発作,慢性閉塞性肺疾患,悪性腫瘍など,高齢者で有病率の高い数々の併存疾患が重大な出血の独立危険因子として同定された6

2)Polypharmacyと出血リスク

高齢者ほど,個々の患者が服用する薬剤数が増加する傾向がみられる.そして,一般にpolypharmacyといわれる6剤以上の薬剤併用時には転倒のリスクが1.3倍となる7ことや心血管死のリスクが1.3倍となる8こと,また,併用薬剤数増加に伴って出血リスクが上昇することが指摘されている9, 10.高齢者においては,薬物動態の加齢性変化による分布容積の低下や代謝・排泄の低下による血中濃度上昇をきたしやすい.ROCKET AF試験のサブ解析では,併用薬剤数の増加にしたがって出血リスクが上昇した11.さらに,ROCKET-AF試験とARISTOTLE試験を用いたメタ解析では,図2に示すように,併用薬剤数の増加にしたがって出血イベントだけではなく死亡イベントも増加(薬剤数0~4種類:5.8%,4~9種類:7.9%,10種類以上:10.0%)することが示された10

図2

抗凝固療法施行中の併用薬剤数と有効性・安全性

文献9(Harskamp RE, et al. Cardiovasc Drugs Ther. 2019; 33: 615–23.)より引用

3)Polypharmacyのワルファリンへの影響

ワルファリンは200種類以上の薬剤との間に相互作用を起こしうることが報告されており,polypharmacyの症例においては予測できない合併症の出現に注意する必要がある12.データマイニングを用いてワルファリン投与患者のPT-INR変動の要因となった新規開始薬を検討した報告では,61,190の処方箋(うち,薬剤は220種に分類)が調査され,PT-INRを上昇させる薬剤として,III群抗不整脈薬,オピオイド,ステロイド,アゾール系抗真菌薬,ペニシリン系抗生剤(βラクタマーゼ阻害剤配合薬も含む)の関与が指摘された13.ワルファリンの主要な代謝酵素としてCYP2C9が知られており,代謝経路が拮抗する薬剤(アミオダロン,抗真菌薬など)の併用によりワルファリンの生体利用率が上昇し,特に抗真菌薬使用時には出血性合併症が増加することが指摘されている1416.尿路感染症や呼吸器感染症などで使用されるキノロン系,マクロライド系抗生物質は,腸管でのビタミンK産生を抑制することによりPT-INR延長の原因となる15, 17.高齢者で使用頻度の高い非ステロイド性消炎鎮痛薬の併用では,血小板活性が抑制されることにより出血リスクが増加することも知られている18, 19

4)PolypharmacyのDOACへの影響

DOACの薬物動態に強い影響を与える薬剤として,P糖蛋白やCYP3A4などを誘導・阻害する薬剤が挙げられる.とくに強力なP糖蛋白阻害薬については,単剤の併用でもDOACに対する禁忌または減量基準の対象として認識されている.一方で,P糖蛋白やCYP3A4の誘導・阻害薬が多数併用された場合,薬物動態の変化は予測困難と言えるが,現在のところDOAC使用上の用量設定を含めた判断基準の対象となっていない.高齢者のpolypharmacyで起こり得る,DOAC安全使用上のunmet needsといえる.

ARISTOTLE試験のサブ解析では,使用薬剤数の中央値は6であり,全体の76.5%に5種類以上の併用薬を認めた.併用薬剤数増加に伴ってイベント発生率(100人年)は統計学的に有意な増加を認めており,脳卒中・全身性塞栓症は薬剤数0~5種類:1.29,6~8種類:1.48,9種類以上:1.57(P=0.004),大出血は薬剤数0~5種類:1.91,6~8種類:2.46,9種類以上:3.88(P<0.001),総死亡は薬剤数0~5種類:3.01,6~8種類:3.80,9種類以上:4.70(P<0.001)であった9

さらに,ARISTOTLE試験,ENGAGE AF-TIMI48試験,RE-LY試験,ROCKET AF試験のデータを用いて,アミオダロン,P糖蛋白阻害薬,5種類以上のpolypharmacyがDOACとワルファリンの有効性,安全性,総死亡に及ぼす影響を検討したメタ解析では,アミオダロン併用の有無,P糖蛋白阻害薬併用の有無によらず,DOACのワルファリンに対する有効性,安全性,総死亡に対する優越性(または傾向)は一貫していたが,polypharmacy(5種類以上)では該当例と非該当例においてDOACの安全性(大出血や頭蓋内出血の減少効果)が低下した20

ここで改めて注目すべきことは,「polypharmacy」という患者背景には,塞栓症リスク,出血リスク,血中濃度上昇,という3つのリスクが集中するということである.PolypharmacyによってDOACの血中濃度が上昇することは,塞栓症予防には有利に働く可能性があるが,出血しやすい背景とDOAC血中濃度上昇が重なることで出血増加につながるものと考えられる.このような患者に対しては,採血によるモニタリングや併用薬の必要性についての見直しを繰り返し行う必要がある.

しかし,このような課題を検討するための高齢心房細動患者のエビデンスは不十分な現状にある.なぜならば,とくに日本では低体重で腎機能の低下した高齢患者が多いが,そのような患者は国際的な大規模臨床試験において登録患者数が少ないからである.したがって,日本の高齢心房細動患者を対象とした実臨床のエビデンスが必要である.

5.高齢患者へのDOAC投与のために

ここまで,高齢心房細動患者に生じやすいpolypharmacyが,抗凝固療法に及ぼし得るリスクについて見てきた.とくにDOAC投与下のpolypharmacyへの対応を考える上では,低体重・低腎機能の特徴をもつ日本人高齢患者の実地データに基づく考察が重要である.

ANAFIE Registryは,75歳以上の高齢心房細動患者約30,000人を全国から登録した多施設観察研究であり,多数のサブ解析とサブコホート研究によって,認知機能低下によるアドヒアランス低下やポリファーマシーなど,多方面に及ぶ高齢者特有の課題が今後検討されていく予定となっている21.J-ELD AF研究は,高齢心房細動患者(75歳以上)約3,000人を全国から登録した多施設観察研究である22

ここからは,高齢心房細動患者へのDOAC投与のためにわれわれは何を行うことができるか,J-ELD AF研究の結果を踏まえながら考察する.

1)添付文書通りの用法用量を守って投与開始

J-ELD AF研究は,上にも述べたとおり,高齢心房細動患者(75歳以上)約3,000人を全国から登録した多施設観察研究である.添付文書に定められた減量基準を遵守してアピキサバンを投与された通常用量群(5 mg 1日2回,1,284人)と減量用量群(2.5 mg 1日2回,1,747人)の間で,1年間の経過観察を行った.減量用量群は,通常用量群と比較すると高齢(84.1歳vs 78.5歳),低体重(体重51.2 kg vs 63.3 kg),低腎機能(クレアチニンクリアランス[CCr]38.7 mL/分 vs 57.3 mL/分)であり,総死亡発生率(100人年あたり)も有意に高かった(4.46 vs 1.41,P<0.001)が,同等の効果(脳卒中または全身性塞栓症:1.56 vs 1.67,P=0.813)と安全性(入院を要する出血:2.25 vs 1.42,P=0.141)が示された22

2)減量しても血中濃度が上昇する患者は出血リスクが高い

J-ELD AF研究において,アピキサバンのトラフ血中濃度を測定された943人の中で,通常用量を投与された患者を,アピキサバントラフ血中濃度の中央値(130 ng/dL)以上と未満に分けると,入院を要する出血の発生率(100人年あたり)は1.49 vs 0.98(P=0.652)であり有意な差を認めなかった.一方で,減量用量を投与された患者を,アピキサバントラフ血中濃度の中央値(86 ng/dL)以上と未満に分けると,入院を要する出血の発生率(100人年あたり)は4.64 vs 0.42(P=0.004)であり大幅な違いを認めた(図3).調整後ハザード比は12.12(95%信頼区間,1.56~94.22)であった23

図3

アピキサバントラフ血中濃度(抗Xa活性アッセイによる)と入院を要する出血発生の関係

A:通常用量を投与された患者をアピキサバントラフ血中濃度の中央値(130 ng/dL)以上と未満に分割.入院を要する出血の発生率(100人年あたり)は1.49 vs 0.98(P=0.652,log-rank検定)であった.

B:減量用量を投与された患者をアピキサバントラフ血中濃度の中央値(86 ng/dL)以上と未満に分割.入院を要する出血の発生率(100人年あたり)は4.64 vs 0.42(P=0.004,log-rank検定)であった.

文献22(Suzuki S, et al; J-ELD AF Investigators. Eur J Clin Pharmacol. 2020. Online ahead of print.)より引用

ここで,通常用量の患者では血中濃度が上昇しても必ずしも出血の発生につながらないことが75歳以上の高齢患者で確かめられたことは興味深い.一方で,減量が必要な患者は高齢,低体重,低腎機能で出血リスクが高く,このような患者の中で血中濃度上昇がすると出血の発生につながっている.このような患者像は,polypharmacyの患者像とも重なってくる.凝固マーカーによって血中濃度の上昇した患者を同定することは,出血リスクの高い患者背景を持つ患者においては意味があると考えられる.

3)腎機能などの経時的な変動に気を付ける

CCr 30 mL/分未満の患者は大規模臨床試験からは除外されることも多く,十分なエビデンスがない.J-ELD AF研究の登録患者のうち,466人の患者がCCr 30 mL/分未満であった.この患者群のイベント発生率(100人年あたり)は,脳卒中または全身性塞栓症が1.67(全体1.58),入院を要する出血の発生率が3.13(全体1.90),総死亡が7.87(全体が3.13)であった24

DOAC投与に腎機能の確認は必須であるが,腎機能は経時的にゆるやかに低下する(1年あたりeGFR 1~2 mL/min/1.73 m2)ため,少なくとも1年に1回は腎機能の確認を行う25.高齢者(75歳以上)では半年に1回,CCr 60 mL/分未満の患者ではXヶ月に1回(X=CCr/10)採血し25,肝機能,血小板なども併せてチェックする.

4)Polypharmacy解消のための努力は大切

高齢者では個人差が大きいこと,薬剤の代謝・排泄能が経時的に変動しうることを念頭におきつつ,可能な限り必要最低限の薬剤使用を心がけ,投薬内容の見直しを行うことを心がけたい.

6.おわりに

高齢心房細動患者におけるpolypharmacyと抗凝固療法の関係について概説した.高齢心房細動患者における抗凝固療法は,高齢患者が塞栓症リスクと出血リスクともに高いことに加え,抗凝固薬を投与した場合にはその血中濃度が上昇しやすいという3つのリスクを抱える.それに加えて,高齢者に生じるmultimorbidityと,そこから必然的に生じるpolypharmacyは3つのリスクを増強する.

高齢心房細動患者を対象としたJ-ELD AFレジストリにおいて,「DOACを減量しても血中濃度が上昇する患者」で明らかな出血リスクの上昇を認めたことは,低体重・低腎機能の患者が多い日本の高齢心房細動患者におけるunmet needsがあることを示している.その1つがpolypharmacyの問題であることが強く示唆され,今後さらなる検討が必要と考えられる.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

鈴木信也:講演料・原稿料など(第一三共,ブリストルマイヤーズスクイブ),受託研究・共同研究費・寄付金など(第一三共,田辺三菱製薬,日本ベーリンガー)

廣田尚美:本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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