2021 Volume 32 Issue 1 Pages 3-11
近年,血友病の新規止血治療製剤の出現により血友病医療においてパラダイムシフトが起こっている.ヒト型bispecific抗体(emicizumab;ヘムライブラ®)は,抗原結合部位の片方に活性型第IX因子(FIXa),もう片方に第X因子(FX)が結合することにより,活性化第VIII因子(FVIIIa)の補因子機能を代替する非凝固因子製剤である.Emicizumabは皮下投与製剤で,インヒビターの有無に関係なく長時間作用する.臨床試験では著明な出血抑制効果を示し,現在,先天性血友病A患者の出血予防の定期投与として使用されている.しかし,emicizumabの特性から血友病の止血モニタリングである活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: aPTT)およびFVIII活性を正確に評価できない.この課題に対して,いくつかの包括的凝固機能検査の有用性もすでに報告されており,現在,臨床現場でも少しずつ活用されつつある.今後,これらの包括的機能検査が止血モニタリングとして臨床現場で簡便に利用可能となることを望む.
血友病Aは血液凝固第VIII因子(FVIII)の質的・量的異常により生じる遺伝性の先天性凝固障害症であり,乳幼児期から関節内や筋肉内などの深部出血をきたす.関節内出血を反復すると慢性滑膜炎を発症し,さらに進行すると非可逆的な血友病性関節症に至る.血友病の止血治療製剤が目覚しく進歩し,出血予防を図る目的のFVIII製剤の定期補充療法が乳幼児期から行われることにより,関節症発症が著しく抑制され,quality of lifeが大きく向上してきた1).一方,FVIII製剤の血中半減期が短いために頻回の静脈投与が必要であること,血管アクセスの問題(特に乳幼児期),製剤投与により20~30%の重症血友病A患者に出現する抗FVIII同種抗体(インヒビター)等が,血友病医療のunmet needsであった.これら課題を克服のために非凝固因子製剤であるFVIIIa代替ヒト化モノクローナルbispecific抗体のemicizumabが創薬された2).本製剤はインヒビターの有無に関係なく長時間作用し,皮下投与により著明な出血抑制効果を示す3, 4).現在,本邦で先天性血友病A患者の出血予防での定期投与として普及している.Emicizumabの出現により,血友病医療はまさにパラダイムシフトが起きている.しかし,emicizumabの作用機序の特性から従来の血友病の止血モニタリングとして行われてきた活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: aPTT)およびFVIII活性が正確に評価できないため,止血モニタリング法の確立は急務である.本稿ではemicizumabおよびその止血モニタリングの現在の状況について概説する.
血液凝固過程の内因系凝固機序において,FVIIIはFIXaがFXを活性化するtenase複合体(FIXa/FVIIIa/FX-リン脂質/Ca2+)における必須の補因子である.トロンビンにより活性化されたFVIII(FVIIIa)のFX活性化反応を2×105倍以上に増加させる.ゆえにFVIIIが欠乏する血友病Aはtenase機能活性が障害されてトロンビン生成が著しく減弱するために重篤な出血症状を呈する.FVIIIaは活性化された血小板膜上で,FIXa(酵素)とFX(基質)が最適な位置関係を保持するように補因子として機能する.Emicizumabは,一方の抗原結合部位にFIXa分子を,もう一方の抗原結合部位にFX分子を結合させることにより,FVIIIa補因子機能をまさに代替し,血液凝固反応を促進させる作用機序を有するbispecific抗体である2).

EmicizumabのFVIIIa補因子代替の作用機序
FVIIIaはリン脂質膜上でFIXa(酵素)とFX(基質)を反応しやすい位置関係を保持し,FXがFXaに活性化される,emicizumabは一方の抗原結合部位にFIXa,もう一方の抗原結合部位にFXを結合させてFVIIIa補因子機能の代替機能を発揮する.
Emicizumab研究から明らかになった最近の知見を以下に示す.
・FVIIIa代替作用を有し,トロンビンによるFVIII活性化過程を要しないため,活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を著しく短縮させる2).
・Von Willebrand因子(VWF)は本来FVIIIの安定化および保護作用を有するが,emicizumabはVWF非依存性に血中に存在する2).
・Emicizumab-FIXa-FX複合体はリン脂質膜上でのみFXa機能を発揮することができる2).循環血漿中ではemicizumabの凝固促進機能は示さず,活性化血小板が存在する傷害部位上で機能する.
・Emicizumab惹起フィブリンおよびその安定性はFVIII惹起フィブリンと同程度の物性を示す(in vitro)5).
・Emicizumab惹起凝固反応はFVIII/FVIIIaが存在しないため,凝固制御機構における活性型プロテインC(APC)によるFVIIIa不活化反応は存在しない.その代償としてPC/PS凝固制御におけるAPC惹起FVa不活化反応が凝固制御として十分に機能しうる6).
・凝固制御系のアンチトロンビンおよび組織因子経路インヒビター(TFPI)のFIXaまたはFXaの不活化反応にemicizumabの影響を全くうけない7).
・Emicizumabはpoint mutationを有する軽症・中等症血友病A血漿において,変異FVIIIの影響を受けずに凝血学的改善効果を示す(ex vivo)8).
・Emicizumab-FIXa-FX複合体は,FVIIIa軽鎖-FIXa-FX複合体の立体的構造を代替している9).
・Emicizumabは高ずり応力下にて血友病A患者全血で局所的にトロンビン生成を増加させることにより止血機能を改善させる.また単発のバイパス止血製剤との併用により過剰な血栓形成は惹起しない10).
・Emicizumabは後天性血友病A血漿の凝固能を増強させる効果を有する(ex vivo)11).
・EmicizumabはFXI欠乏血漿の凝固能を増強させる効果を有する(ex vivo)12).
現在,emicizumabの投与レジメンは1回3 mg/kg(体重当たり)を1週間隔で計4回皮下投与し,以降は1回1.5 mg/kgを週1回,1回3 mg/kgを2週に1回,あるいは1回6 mg/kgを4週に1回投与する.国際共同第III相臨床試験のHAVEN 1-4試験13–16)と本邦実施のHOHOEMI試験17)によると,上記の用法および用量に基づくレジメンで治療された際の血漿中emicizumab濃度のトラフ値は,定常状態においていずれの投与レジメンでも約50 μg/mL前後を推移していた.そして血漿中のemicizumab濃度と年間出血回数の間には顕著な関係を示さなかった13–17).このことから,本製剤は通常の定期的な血漿中emicizumab濃度の測定を行わずに投与可能であると考えられる.
FVIIIaの補因子機能代替作用を有するemicizumabは,トロンビンによるFVIII活性化ステップを要することなく補因子活性を発揮するため,血友病における止血モニタリングとして一般に使用されるaPTTが製剤投与中では著しく短縮する2).ゆえにaPTTに基づいた測定原理を利用する血液凝固系検査はemicizumabの影響を大きく受けることに留意する必要がある.特に臨床現場ではaPTTに基づく凝固一段法で測定するFVIII活性値やベセスタ法でのインヒビター値は全く評価できないことを十分に注意する必要がある.逆にemicizumab存在下でもaPTTが延長している場合は,まず抗emicizumab抗体(anti-drug antibody: ADA)の出現を考慮する必要がある.国際共同第III相臨床試験におけるADAの出現は3.5%程度と報告されており,なかでもemicizumabへの中和活性と推測されるADAの出現は3例のみに報告されている13–17).したがって,ADAの存在を強く疑った場合,emicizumabの血中濃度(ELISA法により測定)を評価する必要があり,メーカーを通じて測定することは可能である.最近,血中emicizumab濃度の測定可能なキットも海外で販売されている.一方,病態的にも播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC),ビタミンK欠乏症,大量出血および抗凝固剤(ヘパリンなど)の影響などもaPTTが延長している時は鑑別として考慮しなければならない.

Emicizumabに対する抗emicizumabイディオタイプ抗体
Emicizumabのanti-FIX(a)領域とanti-FX領域に対して作製した2種類のモノクローナル抗体(抗イディオタイプ抗体)を添加することにより,本来のemicizumab機能活性を完全に阻害させることができる.
Emicizumab定期投与下でのFVIII活性値やFVIIIインヒビター値は上述の機序によりそれぞれ過大評価および過小評価になる.しかしながら,臨床現場では下記の様々な状況で正確な値が必要になることが考えられる.
Emicizumab定期投与下での,
・インヒビター力価への影響
・インヒビター力価による出血時の止血治療製剤(バイパス止血製剤かFVIII製剤による中和療法)の選択
・中和療法時のFVIII活性値およびインヒビターの免疫既往反応によるFVIII活性値の変動
・Emicizumabで治療を開始したFVIII製剤未投与(PUPS)患者の出血症状に対して,FVIII製剤投与した場合のインヒビターの出現の評価
・免疫寛容導入療法時でのインヒビターやFVIII活性値の評価
・非重症型血友病Aインヒビターでのインヒビター推移とFVIII活性値の評価
・DICやビタミンK欠乏症の診断およびその病勢をemicizumab効果によりマスクされ,確定診断および治療選択を遅らせる可能性
そこで我々は,emicizumabのanti-FIX(a)領域とanti-FX領域に対するそれぞれの抗emicizumabイディオタイプ抗体を作製した18).これら2種類の抗イディオタイプ抗体をemicizumab存在下検体に添加して混和し,emicizumab機能活性を完全に中和させることにより,FVIII活性値とインヒビター値の参考値を評価できる測定法を世界で初めて確立した18).現在,臨床現場ではヘムライブラ・インヒビター測定プログラム実施体制が組まれ,利用可能となっている.欧米では製剤の特性を生かし,emicizumabが結合しないウシの凝固因子(FIXaとFX)を利用した合成基質法によるFVIII活性およびインヒビター測定が行われている.
上述したemicizumabの作用機序の概念から,定期投与下ではaPTTが著しく短縮するため,凝固能を正確に評価することはできないが,カニクイザルの後天性血友病Aモデルにおいてemicizumab投与による止血効果作用からFVIII活性換算によると2.5~5 μg/mL/IU/dLと算定された19).実際の臨床用量から想定されるemicizumabの血中濃度は約50 μg/mLであるため,FVIII活性換算によると約10~20 IU/dL相当と推測されることになる.しかしながら,FVIIIa活性からFVIII活性を直接換算することは困難であるとともに,emicizumabの適切な止血モニタリング法がないため,実際はこの換算値が血友病A患者で妥当な範囲であるかどうかは未だ議論中である.この解決のために,現在,種々の臨床研究の面からの検証が行われている.
一方,第III相臨床試験で重篤な有害事象として3例に血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy: TMA)と2例に血栓症(TE)を認めた.いずれも破綻出血時に活性型プロトロンビン複合体製剤(activated prothrombin complex concentrate: aPCC)を高用量(>100 U/kg/day)かつ頻回(>24時間)投与されていた13).しかしながら,遺伝子組み換え活性型FVIIa(rFVIIa)単独使用例での発症例はなかった.事象発症後,i)aPCC製剤またはFX加活性型第VII因子製剤(FVII/FX;日本のみ)の併用を避けて,rFVIIa製剤を第1選択薬とすること,ii)バイパス止血製剤の1回投与量は最低用量を超えないこと,iii)バイパス止血製剤併用時は十分止血モニタリングを実施すること,などのリスク軽減策を行うことが推奨されている.
さらにこれに加え,emicizumab定期投与下における下記の状況では止血モニタリングが必要になることが想定される.
・Emicizumab定期投与中における患者自身の包括的凝固機能の評価
・重篤出血時の止血管理(FVIII製剤やバイパス止血製剤との併用時)
・手術時における周術期止血管理
・抗emicizumab抗体の出現時の凝血学的機能評価
近年,動的ならびに包括的な血液凝固機能評価の測定法が血友病診療にも応用されている.トロンボエラストグラフィ,凝固波形解析,トロンビン生成試験が代表的な評価法であり,最近では血流下血栓形成測定法の臨床応用もされつつある.すべてコンピューター化され,凝固過程の定性的評価,さらに算出したパラメータによる定量的評価も可能である.Emicizumab定期投与患者の凝血学的評価もこれら包括的凝固機能検査を用いての評価が臨床現場で行われつつあるとともに,将来的に大いに期待されている.そこで,現在,臨床現場において用いられている下記の3つの包括的凝固検査でのemicizumabの止血モニタリングについて紹介する.
1)凝固波形解析(clot waveform analysis: CWA)(図3)
凝固波形解析での凝固波形22)
凝固波形解析の透過度変化量(Y軸)を補正することで凝固速度に及ぼすフィブリノゲン濃度差の影響を低減する.
A)従来の凝固波形解析による凝固波形(左)と一次微分波形(右)
B)後凝固相を0%に調整された凝固波形(左)とその一次微分波形(右)
一般的な凝固機能検査には凝固時間,プロトロンビン時間(prothrombin time: PT),aPTTなどを用いるが,いずれの検査もCaCl2添加から凝固開始までの凝固前相を反映しているにすぎない.しかし凝固は凝固前相,凝固開始後に一定速度でフィブリン形成を生じる凝固相,凝固反応が終結後に生じる凝固後相に至るすべての過程で進行していくため,全過程を評価することが重要である.CWAは通常のPTやaPTT測定反応系のフィブリン形成過程における血漿の透過度の変化をモニタリングし,凝固の全過程を凝固波形として描出する.データをコンピューター解析して,凝固波形の各ポイントにおける透過度を一次微分して凝固速度,二次微分して凝固加速度を算出し,その最大値が最大凝固速度(|min1|)や最大凝固加速度(|min2|)など種々のパラメータが得られる20).この凝固波形とパラメータにより凝固の動的過程を質的量的に把握することができる.
我々は汎用性の高いCWAを用いたバイパス止血療法の止血モニタリングの有用性をしてきた.aPTTに基づくCWAはバイパス止血製剤の効果を十分に反映できないため,微量の組織因子(tissue factor: TF)にエラジン酸を添加し,内因系・外因系の両者を反映させるトリガー試薬(混合法)によるCWAを確立した21).混合法を用いることにより,aPCCおよびrFVIIa製剤の輸注効果をモニタリングすることが可能になった.また,本法を用いて両者のパラメータ(CTと|min2|)をモニタリングすることにより,周術期止血管理を行うことができた21).
このCWAを用いて,我々はemicizumab存在下での凝血学的評価法の確立に成功した9, 22).Emicizumab存在下検体の測定の際,従来の混合法に2つのmodificationがなされている.一つは,フィブリノゲン濃度は本来凝固波形の%透過度に影響を及ぼすため,後凝固相の透過度を0%と調整し,フィブリノゲンの影響を極力少なくするように工夫された.もう一つは従来aPTT試薬を使用するが,emicizumabはaPTTに影響を及ぼすため,本測定には外因系反応(PT試薬)で凝固を惹起させ,内因系(aPTT試薬)で凝固を増強させてフィブリンを生成させるという,内因系と外因系を適切な比率に合わせた混合試薬を作製し(PT:aPTT:buffer=1:15:135),それをトリガーとしてCWAを行った.得られた波形からパラメータとしてはadjusted|min1|がemicizumab機能活性を極めて反映しており,一般の臨床検査で使用されている全自動凝固測定機器で測定できるため従来からCWAは汎用性が高いと考えられる.Emicizumab単独またはFVIII製剤またはバイパス止血製剤との併用下での包括的凝固機能も評価可能となった(図4)22, 23).Emicizumabが安全に臨床現場で使用できることのエビデンス創出のために,インヒビター保有血友病A患者を対象とした,emicizumab投与下における破綻出血時/手術時止血管理におけるバイパス製剤投与時の凝固能測定に関する研究(UNEBI study)が実施されている.

Emicizumab共存下でのFVIII,rFVIIa,aPCC製剤添加における凝固波形解析22)
FVIII欠乏血漿に各濃度のemicizumabおよびFVIII(A),rFVIIa(B),aPCC(C)を添加した.さらにaPTT/PT混合試薬を添加後,CaCl2で凝固反応を開始した.得られた凝固波形をからAd|min1|を求めた.NPは正常血漿を表す.
TEGは凝固過程中での凝固の粘性や弾性変化をモニタリングして,凝固過程を波形として描出することにより,凝固機能を評価する方法である.古くから凝固・線溶・血小板機能の評価として利用されてきた.本法は全血で測定可能であるが,再現性が悪く,また同時に多数の検体を測定することが困難であった.そこで,TEGの改良型であるrotational thromboelastometry(ROTEM)が開発され,コンピューター化されることにより,clotting time(CT),clot formation time(CFT),maximum clot firmness(MCF)の種々のパラメータの算出や解析が可能となった.さらに,リアルタイムの生波形を処理することにより,凝固波形,最大凝固速度,最大凝固速度時間などのパラメータの算出が可能で,定性かつ定量的な解析がさらに可能となった.測定方法は,CaCl2添加(non-activated thromboelastometry: NATEM),カオリンまたはエラジン酸添加(intrinsic thromboelastometry: INTEM),イノビン®添加(extrinsic thromboelastometry: EXTEM)があり,用途に合わせ施行される24).我々は,ROTEMを用いて,emicizumab存在下での凝血学的評価の有用性を報告してきた(図5)23, 25).NATEMモード(Ca2+トリガー)を利用して,emicizumab投与下の患者の全血の凝固能を検討し,濃度依存的にCT+CFTの改善が認められた.ROTEMのパラメータからの評価にて臨床血中濃度50 μg/mLとしてFVIII活性換算によると約10~30 IU/dL相当と推測されることを示した25).全血を用いた生理的に近い条件下での評価法であり,さらに救急医療の臨床現場ではeasy-to-useにてpoint-of-care(POC)として利用されており,今後の普及に期待されている.

Emicizumab添加における重症血友病A患者全血の改善効果(ROTEM)25)
重症血友病A患者全血に各濃度のemicizumabを添加した.EXTEM, INTEM, NATEMモードにて凝固反応を開始した.得られたトロンボエラストグラムを示す.NATEMモードがEXTEMやINTEMより凝固機能を評価するのに適しているのがわかる.
3)トロンビン生成試験(thrombin generation assay: TGA)トロンビンが血液凝固反応系の中心的存在であるため,内因性のトロンビン生成量を測定することは,凝固機能を包括的に評価することにつながる.開発されたcalibrated automated thrombogram(CAT)システムは蛍光発色基質の使用で脱フィブリン処理が不要であり,多検体の測定や自動的にリアルタイムな測定が可能である26).TGAはフィブリン形成の前段階のトロンビン生成を高感度に検出することができ,フィブリノゲンに影響されない.また,本法は乏血小板血漿(platelet poor plasma: PPP)のみならず多血小板血漿(platelet rich plasma: PRP)の検体でも測定可能であり,血小板存在下にて生理的に近い状態での凝固反応も評価できる.血液凝固機序の概念として,TF存在下でFVIIaにより凝固反応が始動し,微量のトロンビンが産生後,内因性FX複合体およびプロトロンビン複合体反応が増幅されてトロンビンバーストが起こり多量のフィブリンが生成されるという細胞基盤型凝固27)が現在支持されており,TGAによる凝固機能評価は本機序に基づいている.TGAではTF惹起にて凝固反応を開始させ,凝固過程におけるトロンビン生成率をモニタリングして波形として描出する.Lag time(潜時),peak thrombin(トロンビン頂値),time to peak(ピークに達する時間),ETP(総トロンビン生成量)のパラメータが算出でき,より定量的に評価することができる.TFトリガーまたFXIaトリガーによるトロンビン生成試験はemicizumabのモニタリングとして,臨床試験から用いられてきたが2–4, 23),他の測定法同様に濃度依存的にパラメータの改善を認めている.また,最近我々は,TFとエラジン酸の合わせた混合法によるトロンビン生成試験の有用性も報告した28).現在でも欧米では臨床的に用いられているが,特別な専門施設にのみ測定可能であり,その測定には十分なテクニックを要する.
上述したように,現在の血友病医療はemicizumab出現により,パラダイムシフトが起きているが,止血モニタリング法の確立は当初から課題であった.しかしながら,emicizumabの基礎的な研究を進めていくことにより,モニタリングについて一歩ずつその問題点を解決できてきていると思われる.包括的凝固機能検査のモニタリングの有用性の報告されており,今後,これらの包括的機能検査が止血モニタリングとして臨床現場で簡便に利用可能となっていくことを望む.
講演料・原稿料など(中外製薬,Sanofi, NovoNordisk, Takeda, Bayer),臨床研究(治験)(中外製薬,NovoNordisk, Sanofi, Takeda, KMB, Pfizer),研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(中外製薬,NovoNordisk, Sanofi, Bayer, CSL, Sysmex, KMB),企業などが提供する寄附講座(Takeda, CSL)