2021 Volume 32 Issue 4 Pages 370-375
本態性血小板血症(essential thrombocythemia: ET)は,骨髄増殖性腫瘍の一病型でありWHO 分類2016の診断基準に準拠し診断される.ETの診断には経過および症状,反応性血小板増加症の除外,血液検査,骨髄検査,遺伝子検査が重要である.骨髄検査においてはETと比較し,臨床的に予後不良である前線維化期原発性骨髄線維症との鑑別が特に重要である.骨髄検査における巨核球形態や分布の違いが両者の鑑別ポイントであるが,診断基準が一部オーバーラップしており,実臨床では診断に難渋することも少なくない.遺伝子検査においては約90%の症例でJAK2,CALR,MPLのいずれかのドライバー変異が陽性となり,遺伝子変異の検索は診断に必須である.約10%の症例がtriple-negative ETと診断されるが,反応性血小板増加症の原因が多岐にわたるため,両者の鑑別が臨床上問題となることがある.最近,我々は血小板におけるCREB3L1遺伝子の発現量を解析することで両者を確実に鑑別できることを報告しており,今後の実用化が期待される.
本態性血小板血症(essential thrombocythemia: ET)は,骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms: MPN)の一病型であり,過剰な血小板産生を伴い血栓症および出血性合併症を引き起こす造血器腫瘍である.ETは主にThe 2016 revision to the World Health Organization classification of myeloid neoplasms and acute leukemia1)(WHO分類2016)に準拠し確定診断がなされるため,本総説では,診断基準を基に,実臨床におけるETの診断に関して概説する.
WHO2016分類の診断基準では,以下に記す大基準4項目のすべてを満たす,もしくは大基準のうち最初の3項目を満たし,小基準を満たすことで確定診断に至る(表 1).
WHO診断基準 |
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大基準4つもしくは大基準3つ+小基準で確定診断 |
大基準 |
1.血小板数 ≧45万/μL. |
2.骨髄生検 |
主に巨核球系の増多がみられ,過分葉核を有する,成熟した,大型の巨核球が増多している. 顆粒球系や赤芽球系では増多や左方移動を認めない. grade1の線維化は非常にまれである. |
3.CML,PV,MDS,その他の骨髄系腫瘍の診断基準を満たさない. |
4.JAK2,CALR,MPLのいずれかの遺伝子変異を有する. |
小基準 |
クローナルマーカーの存在,もしくは反応性の血小板増多でないことが証明できる. |
大基準は,①末梢血血小板数45万/μL以上であること,②骨髄検査所見が合致すること,③慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia: CML),真性多血症(polycythemia vera: PV),骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes: MDS),その他の骨髄系腫瘍の診断基準を満たさないこと,④JAK2,CALR,MPL遺伝子のいずれかに変異を有すること,からなる.小基準はクローナルマーカーの存在,もしくは反応性の血小板増加でないことが証明できること,である.
したがって,ETの確定診断には,経過および症状,反応性血小板増加症の除外,血液検査,骨髄検査,遺伝子検査が特に重要であると言える.
ETは慢性の経過をたどる疾患であり,診断時には無症状のことが多く,健康診断時の採血検査の異常で血液内科に紹介受診する場合がしばしば経験される一方で,併発する血栓症や出血性イベントの背景疾患の鑑別を契機に診断される症例も存在し,早期の診断と適切な合併症管理が重要となる.ET患者における代表的な臨床症状としては,微小血管障害により引き起こされると考えられる,血管運動神経症状(vasomotor symptoms)が挙げられる.具体的には頭痛,立ちくらみ,失神,胸痛,肢端触覚異常,網状皮斑,肢端紅痛症,一過性の視覚障害などの症状で,初診時に20%の患者で認めるとの報告がある2).本邦における診断時の年齢の中央値は64歳,女性が55%と女性に多い病気であり3),これは海外の報告でも同様の傾向である4, 5).ET患者において初診時から触知可能な脾腫を認める患者は海外の報告では37.4%4)であるのに対し,本邦では16%3)とやや少数ではあるものの,ETの可能性を示唆する重要な身体所見である.
二次性の血小板増加の原因は多岐にわたることが知られているが,一過性の増加と持続的な増加に分類される.一過性の血小板増加の原因は,急性出血,血小板減少からの回復過程,急性の炎症もしくは感染,運動への反応などが挙げられる6).持続性の血小板増加の原因は,鉄欠乏,溶血性貧血,無脾(脾摘後),悪性腫瘍,慢性の炎症もしくは感染(膠原病,側頭動脈炎,炎症性腸疾患,結核,慢性肺疾患),薬剤性(ビンクリスチン,全トランスレチノイン酸,サイトカイン製剤,増殖因子製剤)などが挙げられる6).しかし,原因の確定に至らない反応性血小板増加症の患者も存在し,後述するtriple-negative ETとの鑑別が問題となる.現状ではそのような症例に対しては骨髄検査を施行し診断を確定することが一般的であるが,最近の報告で末梢血検体を用いた,血小板におけるCREB3L1遺伝子の発現量から反応性と腫瘍性の血小板増加を鑑別できることが示されている(後述)7).今後はより低侵襲かつ精度の高い検査法になることが期待される.また,外来診療においては,鉄欠乏に伴う反応性の血小板増加は比較的多く遭遇するが,患者予後の観点からは,悪性腫瘍による反応性の血小板増加の鑑別は非常に重要である.
ET患者の診断時の血小板数に関しては,海外の報告では中央値100万/μL2),本邦からの報告でも91.7万/μL3)と同様の傾向がみられるが,確定診断例の最少血小板数は45.8万/μLであったことを考えると,軽度の血小板増加を呈する症例であっても注意が必要である.血小板の形態では巨大血小板や奇形血小板がみられ,末梢血中に裸核の骨髄巨核球の破片がみられることもある8).赤血球数,Hb値,Hct値は通常正常であるが,白血球数は正常から軽度の増加を示すことが多い.JAK2変異を有するET患者は他のET患者に比べ,白血球数,Hb値,Hct値が高いことも本邦から報告されている3).白赤芽球症を認める場合は,二次性の骨髄線維症への移行を,好塩基球の増加を認める場合はCMLとの鑑別が必要である.CMLでも100万/μLを超える血小板増加をきたす症例があるため,末梢血好中球FISHによるPhiladelphia染色体の検索もETの診断には重要である.
WHO分類2016におけるETの診断基準では骨髄穿刺のみならず,線維化を正確に評価することができる骨髄生検が必須の検査である.ET患者の骨髄では主に巨核球系の増加がみられ,過分葉核を有する,成熟した,大型の巨核球が増加している(図1-1).顆粒球系の細胞や赤芽球系の細胞の増加を認めないことが,CMLやPVとの相違である.線維化はWHO Myelofibrosis grading1)でgrade 0-1のみ,すなわち,レクチンの増生が線形,もしくは血管の近傍に限局した粗い交差のみであり,ET患者におけるgrade1の線維化は非常にまれであることが明記されている.したがって,ET患者においてgrade1の線維化が認められた場合には前線維化期原発性骨髄線維症(prefibrotic primary myelofibrosis: prePMF)との鑑別が重要である.骨髄生検による両者の鑑別では巨核球の観察が重要とされており,ETではstaghorn-likeと称される過分葉核を有する成熟した大型の巨核球(図1-2)を認めるのに対し,prePMFではcloud-likeと称される円形の分葉核を有する異型のある巨核球(図1-3)の集簇を認める9).prePMFはETと比べ臨床的に予後不良な疾患である10–12)ため,病初期からの両者の鑑別が必要であるとされているが,ETの診断基準(表1)とprePMFの診断基準(表2)は一部オーバーラップしており,その鑑別は時に難渋することもある.実際に,ET患者1,104人を対象とした海外での検討では,16%の症例がprePMFと中央診断されたとの報告がある12).本邦においても同様な検証で,107人を対象とした検討では,12%の患者がprePMFと中央診断された13).ET患者とprePMF患者を比較すると,prePMF患者では白血球数高値,Hb低値,血小板数高値,LDH高値,触知可能な脾腫を有する患者の割合が多いことが海外で報告されている12).本邦からの報告では白血球数高値,Hb低値,LDH高値であることに加えて,JAK2変異陽性例に限ると,prePMF患者はJAK2変異のallele burdenが高いことが示されている3).以上より白血球数高値,Hb低値,LDH高値,触知可能な脾腫,高いallele burdenを示すJAK2変異陽性,の患者をETと診断する際には,質の高い病理診断が求められるため,血液病理医による中央診断等も考慮すべきである.また,grade1に分類される軽度な骨髄線維化は感染症,自己免疫疾患,その他の慢性炎症,有毛細胞白血病を含むリンパ系腫瘍,その他悪性腫瘍の転移などの反応性によっても生じるため,MPNに特異的な所見ではないということも念頭に置く必要がある.
WHO診断基準 |
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大基準3つ+少なくとも1つの小基準で確定診断 |
大基準 |
1.骨髄生検 |
異形を伴う巨核球増多を認める.grade2以上の線維化を認めない. 年齢調整した際に過形成性骨髄である. 顆粒球系の増多がみられ,赤芽球系はしばしば減少する. |
2.CML,PV,MDS,その他の骨髄系腫瘍の診断基準を満たさない. |
3.JAK2,CALR,MPLのいずれかの遺伝子変異を有する. |
遺伝子変異陰性の場合は他のクローナルマーカーをみとめるか,反応性の骨髄線維化を認めない. |
小基準:以下の少なくとも1項目を連続した2点で確認できる |
・他の合併症によらない貧血. ・WBC≧11,000/μL. ・触知可能な脾腫. ・施設基準を超えるLDH上昇. |
ET患者においては,ドライバー変異として,互排他的な3つの遺伝子異常,すなわちJAK2,CALR,MPL遺伝子変異が見出されており,末梢血検体を用いたドライバー変異解析はETの診断に必須である.各々の変異の割合はJAK2変異が50~60%,CALR変異が20~30%,MPL遺伝子変異が3~5%程度であり,JAK2,CALR,MPLのいずれの遺伝子変異も有さない,いわゆる “triple-negative” ET症例が10%前後存在するとされている9, 14, 15).本邦においても212例のET患者を対象とした解析では,JAK2変異が59.9%,CALR変異が26.9%,MPL変異が4.7%,triple-negative ETが8.5%とほぼ同様な結果が報告されている3).WHO分類2016の診断基準に準拠しtriple-negative ETを診断するためには,小項目すなわち,クローナルマーカーの存在,もしくは反応性の血小板増加でないこと(表1)を示す必要がある.ET患者で核型の異常を認める症例はわずか7.7%16)であり,通常診療で施行されているG-band法などによる染色体検査でクローナリティーを証明することは難しいことが多い.また,triple-negative ETの68症例で360の遺伝子に対し,次世代シークエンサーを用い変異解析を行ったところTET2,SH2B3,MPL,FLT3などの遺伝子に変異を認めたとする報告17)もあるが,保険診療の範疇ではこのような検討は難しい.
これまで述べてきたように,triple-negative ET患者においてクローナルマーカーを証明することはこれまで臨床上の課題であったが,2020年,triple-negative ETを含めたMPNの新たな診断マーカーの候補として,CREB3L1遺伝子が同定された7).CREB3L1遺伝子は小胞体ストレスに応答して種々の遺伝子発現を制御する転写因子で,骨形成や血管新生に関わっている.乳がんや膀胱がんでは,がん抑制的に働くことが示されているが,この遺伝子がなぜ,MPN患者の血小板で過剰発現しているのかは未だ明らかになっていない.CREB3L1の過剰発現はドライバー変異の種類に関わらず,また,反応性血球増加の症例では全く発現が見られないことから(図2),これまでは3種類のドライバー変異を解析する必要があったが,CREB3L1発現量を測定することにより,MPNの診断が劇的に容易となる可能性がある.さらに,病理学的にETと診断されたにも関わらずCREB3L1を発現していないtriple-negative症例の中には,経過観察中に血小板数が正常値まで減少する症例が複数例存在し,驚くべきことに,これらの症例では血小板数減少後の骨髄所見が正常化しており,自然治癒する可能性のある一群が存在することが明らかとなった7).CREB3L1測定によって “真” のtriple-negative ETを診断できるかについては,経過観察を含めた今後のさらなる解析が必要であるが,少なくとも,病理学的にETと診断された症例であっても,CREB3L1の発現が認められない症例については積極的な投薬治療は控え,注意深い経過観察が必要である.
CREB3L1発現量.健常人の発現量の平均に対する相対値として表示した.破線はカットオフ値を示す.
本稿では,WHO分類2016の診断基準を軸としたETの診断,経過および症状,除外すべき反応性血小板増加症,血液検査,遺伝子検査に関して概説した.骨髄検査における前線維化期原発性骨髄線維症との鑑別,JAK2,CALR,MPLのいずれの遺伝子変異も有さない,いわゆる “triple-negative” ETの確定診断は依然として臨床上の重要な課題であり,MPN患者の血小板におけるCREB3L1遺伝子の過剰発現のような新たなバイオマーカーの探索により更なる診断精度の向上が期待される.
稿を終えるにあたり,骨髄の顕微鏡写真をご提供頂いた橋本由徳先生に深謝いたします.
小松則夫:講演料・原稿料など(武田薬品工業,ノバルティスファーマ),研究費(ファーマエッセンシア,Meiji Seikaファルマ,(株)ペルセウスプロテオミクス,大塚製薬,中外製薬,協和キリン,大日本住友製薬,(株)WAVE),企業などが提供する寄附講座(ファーマエッセンシアジャパン,Meiji Seikaファルマ),役員・顧問職 社員など(ファーマエッセンシアジャパン)
落合友則:企業などが提供する寄附講座(ファーマエッセンシアジャパン,Meiji Seikaファルマ)
森下総司:企業などが提供する寄附講座(ファーマエッセンシアジャパン,Meiji Seikaファルマ)