Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Thrombocytosis/Thrombocythemia
Thrombocytosis and platelet function tests
Yuichi IKEDA
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2021 Volume 32 Issue 4 Pages 400-405

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Abstract

止血機構は病的な血栓形成や出血を助長しないために綿密に制御される必要がある.そのため血小板機能は過剰な亢進も低下も止血機構にとっては望ましくない.本態性血小板血症に代表される血小板増加症は出血と血栓の相反するリスクを持つが,それには血小板機能異常が関与している可能性が指摘されている.日常診療において血小板機能異常を疑った場合,血小板凝集能検査を行うことが多いが,血小板凝集能検査で血小板増加症患者の血小板機能を評価することは困難とされている.血小板凝集能検査以外の血小板機能評価法も確立されてきているが,抗血小板薬のモニタリングのために開発されたものがほとんどであった.しかし近年はT-TASをはじめとした生体内に近い環境下で血小板機能を評価する方法も確立しつつあり,血小板増加症での出血・血栓リスクの評価への応用が期待される.

1.はじめに

止血機構は血栓形成や血管修復により失血を防ぐことで,血液循環を維持し生命機能の維持に大きく寄与している.血小板は血栓形成における反応の過程において必須の血球であり,血小板減少や機能低下を来した場合は,一次止血に支障を生じ出血傾向をもたらすことになる.一方,血小板の過剰な機能亢進は血栓症を来し,特に心筋梗塞・脳梗塞など動脈内の白色血栓の原因となる.

止血機構は病的な血栓形成や出血を助長しないために綿密に制御される必要があるため,血小板機能は過剰な亢進も低下も止血機構にとっては望ましくない.そのため抗血小板薬に対するモニタリング同様に,出血・血栓傾向を引き起こしうる血小板機能異常を伴った疾患に対して,血小板機能の評価法は臨床的にも求められてきたが,確立している状況とは言い難い.

本稿では現在知られている血小板機能検査の現状と,血小板増加症に対する血小板機能検査の可能性について概説する.

2.血小板機能検査

1)血小板凝集能検査

歴史的意味合いからも,血小板機能検査のゴールデンスタンダードされているのは1962年に報告された透過光法による血小板凝集能検査(Bornの比濁法)である1.多血小板血漿(platelet-rich plasma: PRP)と乏血小板血漿(platelet-poor plasma: PPP)を作成し,それぞれをガラスキュベットに入れて,PPPを測定した時の光透過率を100%,PRPを測定したときの光透過率を0%に設定する.血小板刺激物質をガラスキュベットに入れたPRPに加えると,血小板凝集塊が形成,成長することで沈下する.それにより浮遊する血小板が減少して,キュベットに照射された光の透過性が亢進する.この変化を経時的に記録することで凝集曲線が得られ,定量化することで血小板機能を評価することができる.血小板刺激物質には生体内でも血小板活性化を惹起するアデノシン二リン酸(adenosine diphosphate: ADP)とコラーゲンに加え,リストセチンが使用される.血小板凝集には凝集が時間経過とともに開始する一次凝集と不可逆的に凝集反応が進行する二次凝集に分けられる2.血小板刺激物質に対する反応,二次凝集の有無などより,本法は特に先天性血小板機能異常症の鑑別に用いられている.本法の問題点としてPRP,PPPの作成が必要であるため,全血検体を用いることができる検査と比較し手技が煩雑であること,乳糜血漿や血小板数が低値の場合評価が困難なこと,検査手技の標準化がなされていないことがあげられる.

2)Verify Now

Verify Nowは全血検体を用いて血小板機能を測定できる装置である.欧米では臨床検査機器として承認されているが,わが国では未承認である.フィブリノゲンコーティングビーズと血小板活性化物質が封入されたカートリッジに血液を吸引させる操作のみで完了するpoint-of-care testで,光透過性の変化により血小板凝集能が測定される.主に欧米では抗血小板薬のモニタリングツールとして用いられており,アスピリンの薬効評価にはアラギドン酸が封入されたアスピリンカセット,チエノピリジン系の薬効評価にはADPとPGE1が封入されたP2Y12カセットを使い分けて薬効を評価する.

3)Multiplate Analyzer

インピーダンス(電気抵抗)法の原理を用いて血小板機能を評価する装置である.インピーダンス法は,攪拌条件下で血小板凝集惹起物質の刺激を加えたのち,電極上に血小板凝集塊が付着したときに生ずるインピーダンスの変化を測定する.PRPを用いる比濁法に比べて,白濁した血漿でも測定でき,採血直後に全血のままでも測定できるなどの利点がある.

4)Platelet Works

全血検体において血小板機能を測定できる装置である.血小板活性化物質を含んだ採血管,およびEDTAが含まれた採血管を2本1セットで採血を行う.血小板活性化物質としてADP,コラーゲン,アラキドン酸などが用いられる.EDTAが含まれた採血管での血小板数を測定し,これを対照とする.同様に血小板刺激物質が含まれた採血管でも単一血小板数を計測する.対照と比較して血小板数が減少した割合である血小板凝集率を血小板機能として評価する.なお血小板数は先述したインピーダンス法を原理とする血球計数装置で計測する必要がある3

5)VASP(Vasodilator Stimulated Phosphoprotein)phosphorylation

クロピドグレルに代表されるP2Y12受容体阻害薬の薬効評価のために用いられている評価法である.ADPは血小板凝集を抑える作用を持つcyclic AMP(cAMP)の生成を抑制する.VASPは静止血小板の状態ではほとんどリン酸化されていない血小板内タンパク質である.プロスタグランジンE1(PGE1)はcyclic AMPを活性化してVASPのリン酸化(VASP phosphorylation: VASP-P)を増加させる.一方でADPはP2Y12受容体への結合を介してcAMPを抑制するのでVASP-Pを低下させる.PGE1が存在する場合VASP-PはADP刺激により減弱するが,P2Y12受容体阻害薬は不可逆的にADPの受容体への結合を阻害するため,ADPのVASP-Pの低下を抑制してVASP-Pを持続させることになる.以上よりADPとPGE1が共存する条件下でP2Y12受容体の阻害活性はVASP-Pと相関するので,VASP-Pの程度を測定することによりP2Y12受容体の薬効を評価することができる3, 4.VASP-Pはリン酸化されたVASPを特異的に認識するモノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーで測定する.

6)Platelet Function Analyzer (PFA)-100

血流下で血小板機能を評価するシステムである.コラーゲンとエピネフリンあるいはコラーゲンとADPが塗布されたアパチャーが内蔵されたカートリッジが用いられる.クエン酸入り全血をそのカートリッジに一定の流速で流し込むことにより,ずり応力下で活性化された血小板はアパチャーを通過する際に血栓を形成する.カートリッジ内が閉塞する時間を測定することで血小板機能を評価する.出血性疾患のリスク・治療の効果の評価や抗血小板薬の効果判定にも用いられる3

7)WBA-Carna

マイクロメッシュ法を採用した全血血小板凝集能測定装置である.全血検体に4種類の濃度の血小板活性化物質を添加し反応させ,その後マイクロメッシュフィルターを通して吸引し,一定以上の数と大きさを有した血小板凝集塊群をフィルターに目詰まりさせる.その目詰まりにより上昇する吸引圧力を測定することにより,血小板凝集能を解析,評価する.

8)Total Thrombus-formation Analysis System(T-TAS)(図1A,B)
図1

A T-TAS plus for RESEARCH USE ONLY(RUO)(FUJIMORI KOGYO CO., LTD) https://www.t-tas.info/より引用.B Principle of T-TAS 一定の流速でチャンバー内に全血を流し込みコラーゲンコーティングされたコームの部分で血栓を形成し閉塞するまでの時間および圧力波形のAUCをもって血栓形成能を評価する.文献6より引用.C PL-chipでの解析 a 本態性血小板血症患者 b 健常人 c 後天性VWD患者

本装置は疑似血管内に血液を流しこみ,血流下という生理的条件に近い環境下で血栓形成過程を解析する装置である.本装置の最大の特徴はPFA-100同様にずり応力下での血小板凝集を評価できることにあるが,複数の血流速度を設定でき,2種類の模擬血管を使い分けることで包括的な評価可能である.そもそも動脈と静脈では血栓の形成過程において血小板・凝固因子の役割は異なる.動脈系での血栓形成は血小板と外因系の凝固反応が活性化し増幅する.凝固因子は血流によって希釈されるが,血小板はずり応力下で活性化されるため血小板の果たす役割は大きい.一方で静脈系は血流が遅く,血小板より凝固因子の関与が大である.疑似血管を模したマイクロチップは回路内がコラーゲンによって固相化されたPL-chipとコラーゲンと組織因子によって固相化されたAL-chipの2種類がある.本装置の測定原理であるが全血をChip内のチャンバーに一定流速で流しこむ.その後チップ内に血栓が形成されて回路内の圧力が亢進していく.その圧力波形を観測し,回路内が一定の圧力に達するまでの時間,および圧力下曲線を測定・定量化を行い血栓形成の成長,安定性,強度といったtotal thrombogenicityを評価する.PL-chipを用いて活性化血小板が関与する白色血栓,AL-chipを用いてフィブリンと赤血球を主体とする赤色血栓の形成過程を定量的,そしてマイクロスコープを用いて視覚的に評価する.これはPL-chipでは血小板機能を主に評価をしており,AL-chipでは凝固・線溶という要因を加えた包括的な評価をしていることを意味している5

本装置の臨床上の有用性は,まず一点は薬効評価である.先述してきた血小板機能検査は抗血小板薬の薬効評価のために開発されたものも多い.しかし,これらはそれぞれの抗血小板薬に対応したカートリッジなどを用いることで一つの抗血小板薬の薬効を評価することは可能であったが,複数の抗血小板薬の総合的な薬効評価をすることは困難であった.T-TASで抗血小板薬の評価を行う場合PL-chipを用いることになるが,血栓の安定性を阻害するアスピリンやクロピドグレルは単独で内服した場合,圧力上昇速度と最大圧力が阻害され,両者を服用した場合血栓の持続性を大幅に低下して特徴的な圧力波形を観察することができ,総合的な抗血小板薬の薬効を評価できることが期待されている6

また現在,抗凝固療法において広く使用されるようになったdirect oral anticoagulant(DOAC)はワルファリンと違い薬効を評価するツールが確立していないことが臨床上の問題点の一つである.AL-Chip内の赤色血栓の形成される際はDOACによる凝固因子の阻害も反映するため,DOACの薬効もその結果に反映される.そのためT-TASはDOACの薬効評価のモニタリングツールとしても期待されている7

もう一点は出血性疾患の機能的診断およびリスク評価で,VWD(von Willebrand disease)の臨床的重症度及び治療モニタリング8, 9やGlanzman血小板無力症のスクリーニングや出血のリスク評価のツールとしても有用性が確立しつつある10

T-TASはすでに欧州数か国で臨床現場に導入されており,また2020年2月には米国においてFDA(Food and Drug Administration)により医療機器承認が取得され,今後一層臨床現場で普及していくことが予想される.

3.血小板増加症における血小板機能検査の有用性

血小板が増加する病態は大きく2つに分けられる.骨髄系細胞が腫瘍性に増殖する結果,血小板が増加する場合と,感染症・自己免疫性疾患などの炎症性疾患や鉄欠乏性貧血など主たる病因に続発した反応性の増加である.血栓・止血リスクが問題になるのは前者であり,その代表的疾患が本態性血小板血症(essential thrombocythemia: ET)などの骨髄増殖性腫瘍である.ETは出血および血栓リスクの両方を併せ持っていることが特徴であり,その予後は主に血栓症リスクによる11, 12.年齢と血栓症の既往の2つで,高リスクと低リスクに分けられる11, 13.それに加えJAK2 V617F変異の有無,白血球11,000/μL以上,冠動脈疾患の有無がadditional risk factorとされている14.治療はリスク評価に基づいて,瀉血,抗血小板薬,細胞減少療法などが選択される.血栓症リスクが適切にコントロールされていれば予後は概ね良好であり,10年生存率はおおよそ70%程度と考えられている15.多くの場合,正常健人と同様な経過を送るが,高リスク群の未治療例では生命に関わる重篤な血栓症を起こす可能性は高くなる.しかし,骨髄増殖性腫瘍の血栓リスクが高まる機序は不明な点も多く,適切な治療介入のためにもそのメカニズムの解明が期待されている.

日常診療において血小板機能異常を疑った場合,血小板凝集能検査を行う場合が多いが,本疾患をはじめとした血小板増加症において血小板凝集能検査を用いて血小板機能を評価することは困難とされている16

まず,血小板凝集能検査において検体の調整に関する統一見解がない.血小板数が多い場合は慣習的に血小板数を調整するが,希釈後の血小板数の基準も,そもそも血小板数を調整すべき理由も明確なものはない.実際にET症例の検体を用いて血小板数の希釈調整を行い,血小板凝集能を検討した報告では,PPPによるPRP希釈を行った場合,希釈前より血小板の活性が低下することが散発的ではあるが報告されている17, 18.本邦では血小板凝集能検査を行う際,PRPの希釈にはPPPを用いることが多い.これはリストセチン凝集の際にVWFが必要であるからであるが19,これらの報告ではPPPでの希釈は何らかのアーチファクトを与え,血小板機能を減弱する可能性を指摘している.

また,末梢循環障害を合併しているET患者での検討では,血小板活性化を反映するといわれているβ-トロンボグロブリン,血小板第4因子,トロンボモジュリンの発現が上昇し,血小板由来血栓形成の指標である尿中トロンボキサンB2が増加しているという報告がある20.これより本疾患の血栓傾向に活性化血小板の関与があると考えられ,ETでは以前より血小板機能異常が存在する可能性は指摘されてきた.またGPIV受容体の発現増加の報告もあり,このことも血栓傾向を来す要因の一つと考えられる21.一方で本疾患の患者の中には出血傾向を来すものもいる.出血傾向を来すET患者の血小板では膜状のGP1b(glycoprotein 1b)やGPIIb/IIIa受容体が減少していると報告があり,この場合は血小板凝集能検査においてリストセチン凝集能が低下する22.血小板凝集能検査で血小板機能亢進と判定する明確な基準もないうえに,本疾患ではこのように凝集能において相反する現象や凝集パターンの変化がみられることが血小板機能を正しく評価できない理由である.

4.T-TASを用いた血小板増加症における出血・血栓リスクの評価

以上より血栓と出血という相反する止血機構の異常をきたす血小板増加症において血小板機能評価を試みる場合,血小板活性化物質に対する相反した現象が起きることや,検査を行うにあたり必要な血小板回収・希釈における問題を解決する必要があることに加え,VWFなど血小板以外の要因も関与しているため包括的に血栓止血機構を評価する必要がある.

こういった点からもT-TASは血小板増加症の止血機構評価においての有用性が期待される.T-TASは先述したように血流下という生体内の条件に近い形で,Chipを使い分け血小板・凝固・線溶の各要因が複合的に解析できる.それに加えて他の血小板機能検査と違いChip内にコラーゲンは固相化されているもののADPをはじめとした高濃度の血小板凝集剤を添加することなく血栓形成過程を観察できるのも利点である.

VWFは血流下での血栓形成に不可欠であるが,VWFの抗原量と活性値は非血流下で測定が行われるため,in vivoでの生理的な機能を完全に反映できず,臨床症状との乖離もしばしば認められることが知られている.ETでは後天性VWDを合併することがあるが,PL-Chipを用いて,得られる圧力波形で血流下での凝固能を評価することにも有用である(図1C).極端に血栓能が低下している場合は正常波形と比較して,圧力波形の上昇は見られない.一方ET患者の中には正常健人と比較して血栓形成が亢進している症例も存在する.その場合血栓形成開始時間が短縮し,圧力下面積は上昇する.

ETの血栓・出血傾向にはVWFを含めた一次止血を構成する要素も関与しているので,臨床的なリスクを評価するにはそれらを包括的に評価することが必要である.症例の集積が必要であるものの過剰な血小板活性物質を加えないうえに,血流条件下で包括的な評価が可能なT-TASは,ETをはじめとした血小板増加症での止血機構の評価に有用な可能性がある.

またT-TASは血小板数が低下している場合既存のPL-Chipでは血栓形成が形成されないという問題があった.しかし血小板数が低い場合はChip内の内腔径を狭くすることで評価が可能であるという報告もされてきており,血小板数に準じた測定条件の検討などについてもデータの蓄積が期待される23

5.終わりに

これまでの血小板機能評価法は先天性の血小板機能異常症の診断や抗血小板薬の薬効を評価することには適していたが,本態性血小板血症などに代表される血小板増加症において出血・血栓リスクを評価することは困難であった.現在,臨床現場で広く用いられている比濁法でも,大量の血小板凝集剤を使用するため生体内とは乖離した反応を観察しており,生体内での止血機構を正確に評価できているとは言い難いのが現状である.現在T-TASをはじめとした新規の測定法も登場している.それぞれの測定法の特性を生かし血小板増加症の出血・血栓リスクの包括的評価が確立していくことが期待される.

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