Abstract
歯周病は歯周病原細菌による感染症であり,慢性炎症による歯周組織の破壊は歯の喪失を引き起こす.歯周組織に遊走する好中球は,歯周病原細菌の感染に対してneutrophil extracellular traps(NETs)を産生する.非炎症状態の歯周組織においてNETsは感染防御に作用し恒常性を維持するが,デンタルプラークの成熟に伴い歯周病原細菌が増加すると,好中球は遷延的にNETsを産生し歯周組織は慢性炎症に陥る.また,歯周病原細菌はDNaseやプロテアーゼを産生しNETsを不活化することで,NETsによる殺菌を回避する.歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisが産生するプロテアーゼのジンジパインは,多彩な病原性を発揮し歯周病のみならず関節リウマチやアルツハイマー型認知症など全身疾患の病態増悪に関わる.本稿は歯周病と全身疾患におけるNETsの役割について概説する.
1.歯周病の病態
1)歯周病の病因
いわゆる歯周病は歯肉炎と歯周炎に分類される.歯肉炎は歯を支える歯周組織(歯肉,歯槽骨,歯根膜とセメント質)の破壊を伴わない歯肉に限局する炎症であるのに対して,歯周炎は歯周組織が不可逆的に破壊され歯の喪失に至る疾患であり,世界の人口の約50%が罹患する1).歯周病は歯周病原細菌による感染症であるが,歯周病における歯周組織破壊は歯周病原細菌に対する免疫応答の結果もたらされる慢性炎症が原因である.口腔には約700種類,約100億個の細菌が常在しており,歯周病原細菌の多くは歯と歯肉の境界部である歯肉溝に棲息する.歯周病原細菌はデンタルプラーク(以下,プラーク)という不溶性グルカンから成るバイオフィルムで菌体周囲を取り囲み,免疫担当細胞,抗菌薬や唾液の抗菌作用から逃れ,口腔での生存を可能にする.形成初期のプラークは通性菌である口腔レンサ球菌が主体であり,う蝕の原因菌Streptococcus mutansは食物のスクロースから不溶性グルカンを生成して歯や歯根に粘着する.バイオフィルム内は時間の経過とともに内部が嫌気性に変化し,グラム陽性球菌を主体とした口腔常在細菌叢から,グラム陰性嫌気性桿菌である複数の歯周病原細菌から成る病原性細菌叢に変化することでプラークの成熟化が完了する.この細菌叢の多様性の低下(dysbiosis)は,主として歯周病原細菌Porphyromonas gingivalisが関わる2).また,加齢,宿主の免疫状態および喫煙,ストレスや食事などの環境因子も歯周病の惹起に影響を及ぼす.成熟プラークの歯周病原細菌は歯周組織に慢性炎症を誘導し,長い時間をかけて歯周組織は徐々に破壊され,歯肉溝は深化し歯周ポケットとなる.歯周ポケット内の粘膜は潰瘍化していることから容易に出血し,歯周病原細菌は潰瘍面から血液中に侵入する3).
2)歯周病原細菌とNETs
歯周炎の病態に最も深く関与する歯周病原細菌は,レッドコンプレックスと呼ばれるP. gingivalis,Treponema denticolaとTannrella forsythiaの3菌種である4).歯周病の病態形成にP. gingivalisが深く関わる理由の一つとして,同菌から産生されるジンジパインというシステインプロテアーゼがある.P. gingivalisは糖分解能を持たず糖を栄養源にできないため,ジンジパインにより宿主細胞のタンパク質を分解し,発育のため赤血球のヘモグロビンから鉄を摂取する.興味深いことに,ジンジパインはプラーク細菌叢の構成を変化させるほか,免疫応答を活性化ないし不活化することで感染防御をエスケープするユニークな特徴を示す.P. gingivalisは少数の感染であっても歯周病の惹起に関わる重要な因子と位置づけられることから,建築物の構造を支える要石という意味でキーストーン病原体と称される 5).無菌マウスの解析からP. gingivalis単独では歯周炎を引き起こすことができないことから,歯周炎の誘発には口腔常在微生物叢の存在が必要であることが示唆される5).
口腔において好中球は主に歯周病原細菌の感染に際してneutrophil extracellular traps(NETs)産生を誘導することが明らかにされており6),歯周病の罹患により歯周ポケットにおけるNETs産生は亢進することから,NETsは歯周病の感染防御および病態形成に関わることが示唆される6).細胞壁成分のリポ多糖(lipopolysaccharide: LPS)はToll-like receptor 4を介してNETsを強力に誘導するが,ほとんどの歯周病原細菌はグラム陰性菌である7).実際,デンタルプラークの上清はNETs誘導能があり8),若年から急速に歯周組織破壊が進行する侵襲性歯周炎患者は血中LPSレベルが高い9).筆者らは,歯周病原細菌Fusobacterium nucleatum感染によりヒト好中球が産生するNETsはmacrophage migration inhibitory factor(MIF)を著明に発現し,F. nucleatum由来LPSが同作用を担うことを見出した(論文投稿準備中).MIFはIL-1β,TNF-αやIFN-γなどの炎症性サイトカイン誘導を司ることから10),F. nucleatumにより誘導されたNETsにおける炎症誘導能を調べたところ,NETsのMIF依存的な血管内皮を介する好中球のtransmigration亢進やlow density lipoproteinによる泡沫細胞の形成促進を示すことが明らかとなった(論文投稿準備中).

黄色ブドウ球菌11)や肺炎レンサ球菌12)はDNaseを産生してNETsを破壊することが知られるが,歯周病原細菌Prevotella intermediaもDNaseを産生することが報告されている13).実に歯周病原細菌の約80%はDNaseを発現することから14),歯周病原細菌にとってNETsは歯周組織での生存を妨げる役割を担うことが考えられる.他方,P. gingivalisのジンジパインは好中球のprotease-activated receptor-2(PAR-2)を介してNETs産生を誘導する15).興味深いことに,ジンジパインで誘導されたNETsは殺菌活性を喪失しており,ジンジパインはNETsに発現する抗菌分子を分解することが示唆される15).ジンジパインによるNETsの不活化は,プラーク内でP. gingivalisと共生する口腔細菌がNETsにより排除されることを防ぐ.また,新たな歯周病原細菌として同定されたグラム陽性嫌気性桿菌のFilifactor alocisは16),好中球のNETs産生能を抑制させる17).以上より,歯周病原細菌は多様なメカニズムでNETsによる殺菌を回避する.
2.歯周病におけるNETsの役割
1)歯周組織における好中球サブセット
健康な歯周組織では,1分間に約3万個の好中球が循環血液中から歯肉溝を経て口腔内に流入する 18).口腔に局在する好中球(oral PMNs: oPMNs)は,血液中を循環する好中球(circulatory PMNs: cPMNs)と機能が異なることが明らかにされている 19).oPMNsは常に口腔細菌の刺激を受けることから,恒常的にプライミング状態にあり歯周病原細菌の感染に際して速やかにNETsを産生する.それに対して,cPMNsは通常ナイーブ状態であり,血液中への病原体侵入に伴い活性化する.Fineらによると健康な歯周組織におけるoPMNsサブセットは,cPMNsと性質が類似する非炎症タイプ(para-inflammatory type 1 oPMNs: Para 1)とプライミングタイプ(para-inflammatory type 2: Para 2)が存在するが,慢性歯周炎の歯周組織では活性化タイプ(pro-inflammatory type: Pro)が多数を占める19).各サブセットを比較すると,活性化マーカー(CD55とCD63),脱顆粒,貪食能(貪食によるCD16内在化)とNETosis誘導はPara 1<Para 2<Proの順に高くなる19).また,oPMNsは非炎症状態でもNETsを産生しており,cPMNsに対してoPMNsのNETs産生能は非炎症状態で32倍,PMA存在下で13倍を示すことから18),口腔は恒常的にNETsが供給される臓器の一つと捉えられる.P. gingivalisをマウス口腔に感染させると,SPFマウスは歯槽骨が吸収されるが無菌マウスは歯槽骨が吸収されないことから20),oPMNsによる口腔細菌の認識がPara oPMNsからPro PMNsへの変換に必要であると推察されるが,具体的なメカニズムは明らかにされていない.なお,oPMNsは口腔洗浄液から採取可能で患者の侵襲を伴わないことから,好中球マーカー発現を歯周病重症化リスクの指標として,予防や診断に活用できる可能性が考えられる.
2)NETsによる歯周病の感染防御
歯周病患者の歯周ポケットには歯周病原細菌が常在し,歯周ポケットに集積する免疫担当細胞の80~95%は好中球である21).遺伝子異常によるPapillon-Lefévre症候群とHaim-Munk症候群は好中球セリンプロテアーゼのカテプシンC遺伝子異常と抗菌ペプチドhCAP-18/L-37発現低下を伴い22),morbus Kostmann病は好中球減少と機能障害を伴う 23).これらの疾患では,乳幼児期から歯肉炎や歯槽骨の破壊をきたし歯周炎が重篤化するが,その理由として好中球による脱顆粒およびNETsの機能が歯周病に対する感染防御を担っていることが示唆される.また,好中球エラスターゼをコードするELANEの変異はNETs形成障害を引き起こすが24),同様にELANE変異では歯周病の罹患リスクが増大するという事実は興味深い25).一方,慢性肉芽腫症はNADPHオキシダーゼの変異により好中球の酵素活性がほぼ消失しており,活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)依存的なNETs産生が障害され易感染性を呈する26).ところが,慢性肉芽腫症患者368人を対象とした調査では,歯肉炎と歯周炎に罹患した者はわずか9例であった27).Papillon-Lefévre症候群と対照的に,慢性肉芽腫症患者の好中球はNADPHオキシダーゼ非依存性経路28)もしくはROS非依存性経路 26)を介してNETosis誘導が可能である.よって,歯周組織の恒常性維持は好中球の感染防御能のすべてが関わるのではなく,NETs産生が必須であることが示唆される.以上をまとめると,口腔においてNETsは口腔細菌ならびにその代謝産物を捕捉・排除し,歯周組織への感染を防ぐ役割を担う.
興味深いことに,唾液はNETs産生を誘導することが報告されている.Mohantyらによると,唾液によるNETosis誘導は唾液のムチンに含まれる糖鎖抗原シアリルルイスグループsialyl Lewis X(CD15s)と好中球L-selectinの結合を介しており,PMA刺激によるNETosis誘導と異なりNADPHオキシダーゼかつ好中球エラスターゼ非依存性である29).さらに,唾液誘導NETsはDNase耐性を示し,抗菌ペプチドhCAP-18/LL-37発現が高いことから,口腔内で殺菌に特化した役割を担うことが考えられる29).唾液はそれ自身が分泌型IgAやリゾチームなど殺菌活性を示すが,NETs産生も促すことにより歯周組織の恒常性は維持されていると考えられる.
3)好中球による歯周組織の破壊
前述の通りNETsは口腔の感染防御に関わる.しかしながら,好中球の過剰な活性化や好中球のクリアランス異常によるNETsの持続的な滞留は歯周病を増悪させる.好中球の活性化が過剰もしくは遷延化する原因として,第一に炎症終息後も好中球の活性化が持続することが考えられる.通常,炎症の終息に際してNETs同士は凝集することにより,NETsに発現するサイトカインやケモカインが好中球セリンプロテアーゼにより分解される負のフィードバック機構(aggregated NETs)が働く30).ところがPapillon-Lefévre症候群患者では好中球セリンプロテアーゼが機能しないため,aggregated NETsによる不活化ができず31),活性を保持したNETsは長時間歯周組織に滞留し,炎症誘導が遷延化すると考えられる.一方,難治性慢性歯周炎患者の好中球は健常者や一般的な慢性歯周炎患者の好中球と比較して,PMA刺激による好中球のROS産生が亢進することから32),歯周病原細菌によるoPMNsのプライミングが好中球のNETs産生を増強させる可能性が想定されるが,詳細なメカニズムはまだ解明されていない.
第二に加齢に伴い歯周組織に流入する好中球の増加が挙げられる.歯肉溝に浸潤する好中球は加齢に伴い増加するが,その要因の一つに血管内皮細胞が発現するdevelopmental endothelial locus 1(Del-1)の発現低下がある.Del-1は血管内皮細胞のICAM-1と好中球のLFA-1を介する接着を拮抗阻害する分子で炎症の制御に関わる33).Eskanらはマウスによる解析から,若齢マウスの血管内皮細胞はDel-1発現が高く歯周組織への好中球遊走が抑制されるが,老齢マウスではDel-1発現が低下するため歯周組織への好中球遊走が亢進することを示した21).また,老齢マウスの歯周組織では好中球のIL-17A産生が亢進しており,IL-17AはDel-1産生を阻害する21).さらに好中球はTh17細胞をリクルートし34),歯周組織の局在するTh17細胞が産生するIL-17Aは破骨細胞を活性化することで歯槽骨が破壊される35).
第三に,好中球による歯周組織の創傷治癒遅延が推察される.歯周病と双方向的な関連性がある糖尿病では,創傷局所に遊走する好中球によるNETs産生が創傷治癒を遅延させる36).またNETsに結合するdsDNA,ミエロペルオキシダーゼやMMP-9は血管内皮細胞を傷害するほか,ヒストンによる血管内皮細胞の傷害は敗血症におけるDICの病態形成にも関わる37).
以上をまとめると,非炎症状態の歯周組織では常在微生物や唾液により誘導されるNETsが恒常性を維持し,軽度の歯周炎に際して歯周病原細菌の刺激により一過性に誘導されるNETsが感染防御に働く.しかしながら,重度の歯周病原細菌の感染に陥り歯周炎が慢性化してくると,好中球は遷延的にNETsを歯周ポケット内に供給するようになり,歯周ポケットの創傷治癒は遅延し歯周組織は破壊される.
3.NETsがつなぐ歯周病と全身疾患
Periodontal medicineと呼ばれる歯周病と全身疾患の関連性を研究する領域が1990年代から発展し,今日も歯周病と全身疾患の病態の関連性に関する研究が活発にされている.本稿では,歯周病が全身疾患に及ぼす影響について,関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA) とアルツハイマー型認知症 (Alzheimer’s disease: AD)との関連を概説する.
歯周病による全身疾患への関連で多く研究されている疾患の一つがRAである38).歯周病とRAは,共に疫学的な関連に加えて慢性炎症による骨破壊を呈することから病理学的特徴が類似する.ただ,歯周病は歯周病原細菌の感染による慢性炎症であるのに対して,RAはシトルリン化タンパク質と自己抗体の抗環状シトルリン化タンパク抗体(anti-cyclic citrullinated protein antibodies: ACPA)による自己免疫疾患であり病因は異なる.RA発症の要因として,シトルリン化酵素(peptidylarginine deiminase: PAD)による宿主タンパク質アルギニン残基のシトルリン化によるシトルリン化タンパク質の生成とACPAの産生がある.シトルリン化タンパク質とACPAは免疫複合体を形成し,自己免疫応答により滑膜に炎症が誘導される.RA患者のP. gingivalisに対する血清抗体価は高値であり39),RA罹患と歯肉縁下P. gingivalisの検出,抗P. gingivalis抗体ならびにACPAのレベルは相関することから40),RAと歯周病は関連することが示唆される.そして歯周病がRAの病態に関わる重要な知見として,P. gingivalisはPAD(P. gingivalis PAD: PPAD)を産生することができる唯一の細菌という事実である41).P. gingivalisのジンジパインは宿主タンパク質のC末端側のアルギニン残基を切断するジンジパイン-R(Rgp)と,リジン残基を切断するジンジパイン-K(Kgp)に分類されるが,興味深いことに内因性PADはC末端側のアルギニンをシトルリン化することができないため42),Rgpに分解された宿主ペプチドは内因性PADによるシトルリン化を受けないと考えられる.PPADによるタンパク質のシトルリン化はRgpと協調して行われ,PPADはRAの発症に関与する宿主タンパク質のフィブリノゲンとα-エノラーゼをシトルリン化に関わることが明らかにされている43).歯周病患者の歯周ポケットにはP. gingivalisが高い頻度で局在しており,PPADとジンジパインは歯周病患者の歯肉溝浸出液から検出されることから,歯周病患者の歯周組織ではACPAが産生されていると想定される.実際,RAを発症する歯周病患者の歯周組織と滑膜の両方で,シトルリン化タンパク質レベルの亢進が確認されている44).また,宿主タンパク質のカルバミル化も自己抗体産生を誘導しRA惹起に関わると考えられている.RA患者ならびに歯周病患者は,ともに血清中のカルバミル化タンパク質とNETsレベルが有意に亢進しており,これらの血清レベルは歯周組織破壊の指標となる歯周ポケットの深さと正の相関を示し45),歯周病治療により血清カルバミル化タンパク質およびNETsのレベルは低下した45).
他方,侵襲性歯周炎の原因菌Aggregatibacter actinomycetemcomitansの検出と歯周組織のシトルリン化タンパク質レベルは相関することから46),RAの病態に関与する可能性が示唆される.A. actinomycetemcomitansが産生する外毒素leukotoxin A(LtxA)は,好中球の細胞膜を溶解し細胞内タンパク質をシトルリン化する46).LtxAにより生成されたシトルリン化タンパク質はRA患者の滑膜で検出されるシトルリン化タンパク質と構造が一致しており,ヒト好中球をLtxAで処理するとNETsに類似したシトルリン化タンパク質とDNAの細胞外放出が確認されている46).一方,オランダのRA患者の集団調査では,RA発症とLtxA曝露に関連性は認めらないとする報告もある47).
シトルリン化タンパク質はRA以外にADや多発性硬化症などの病態とも関連する.PPADによるシトルリン化タンパク質の生成は,ADの病態にも関与する可能性が示唆されている48, 49).興味深いことに,AD患者の脳にはジンジパインが蓄積し,タウタンパク質の蓄積と相関することが明らかにされた 50),血液脳関門が損傷するapolipoprotein E欠損マウスの口腔にP. gingivalisを感染させると,海馬にP. gingivalisの局在を認め,脳組織が傷害されたことから51),P. gingivalisは血液脳関門を突破する可能性がある.また,アストロサイトの細胞骨格フィラメントを構成するグリア線維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein: GFAP)は内因性PAD2によるシトルリン化の基質となり52),シトルリン化GFAPは血液脳関門の損傷に関わる.PAD2は歯周病患者の歯肉溝浸出液からACPAとともに検出され歯周炎の重症度と相関することから53),P. gingivalisは内因性PAD2と連携して血液脳関門の破綻ならびに脳におけるシトルリン化タンパク質の生成に関わる可能性がある.
4.歯周病とCOVID-19
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は人類の歴史に残るパンデミックを引き起こしている.歯周病はCOVID-19よりはるかに多くの罹患者がおり,口腔は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の侵入・感染経路であり,唾液からSARS-CoV-2が検出されることから,歯周病とCOVID-19の関連性を明らかにすることは将来予想されるCOVID-XXによる被害を軽減する上で重要である.歯周病とCOVID-19の関連についてカタールで568名を対象に行われた症例対照研究によると,歯周病に罹患するCOVID-19患者は血中の白血球数,D-dimer,CRPが有意に上昇し,ICUと人工呼吸の必要度が上昇することから,歯周炎とCOVID-19は関連すると報告されている 54).また,COVID-19患者の気管支肺胞洗浄液から歯周病原細菌の一種であるCapnocytophagaやVeillonellaが検出されることから,SARS-CoV-2と口腔細菌は重複感染する可能性が示唆される55).興味深いことに,マウス肺に肺炎レンサ球菌と共に歯周病原細菌Prevotella intermediaの上清を刺激すると,肺の炎症は悪化しTNF-αやMIP-2レベルが相乗的に亢進する56).また,COVID-19の典型的な臨床症状である肺の低酸素状態は,歯周病原細菌のような嫌気性菌の増殖を促進させることが推察される.特に高齢者はCOVID-19重症化と誤嚥性肺炎のリスクがともに高く,肺におけるSARS-CoV-2と歯周病原細菌の重複感染のリスクが高まるため,口腔ケアの対策は必須と言える.また,SARS-CoV-2のスパイクS1タンパク質は,宿主細胞のアンジオテンシン転換酵素II(angiotensin-converting enzyme 2: ACE2)を受容体として吸着するが57),口腔粘膜はACE2を発現しており,特に舌の上皮細胞にACE2発現が高いことが明らかにされている58).
5.おわりに
口腔において好中球が産生するNETsは歯周病原細菌からの感染防御に重要な役割を担う反面,歯周病の特徴である慢性炎症に陥るとNETsは歯周組織の破壊に作用する.また,NETsは歯周病と全身疾患の病態に関連する重要な因子である可能性がある.今後,NETsを基軸とした口腔疾患と全身疾患の研究を発展させることにより,口腔の健康維持が単にう蝕や歯周病の予防にとどまらず,全身疾患の発症・増悪の予防につながることを強く発信できると期待される.
著者の利益相反(COI)の開示:
本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし
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