Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
Online ISSN : 1880-8808
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ISSN-L : 0915-7441
Review
Complement-related thrombosis
Toshiyuki MIYATANorimitsu INOUE
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2021 Volume 32 Issue 6 Pages 695-707

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Abstract

自然免疫系を担う補体系は50種以上の可溶性および膜結合性のタンパク質が活性化や制御にかかわり,凝固系や血小板との相互作用を通して血栓症や凝固異常症を惹起・修飾する.補体の大きな役割は侵入する細菌やウイルスに対応して,幾つかの巧妙な方法でそれらを殺菌・排除することにあるが,逆に自己細胞をも攻撃することがあり,幾つかの疾患で中心的な役割を果たすことが最近の研究により明らかになってきた.ここでは,補体系と血栓症・凝固異常症との関わりを中心に解説する.

はじめに

補体は自然免疫系の主要な自己防衛機構で細菌やウイルスなどの感染から生体組織を防御している.補体には,細菌などの病原体の表面に共有結合し食細胞であるマクロファージなどに貪食されやすくするC3の分解産物のオプソニン作用,白血球を局所に呼び寄せるC5aの細胞遊走作用,細菌の菌体膜に穴をあけるC5b-9の細胞溶解作用がある14.C3aとC5aには局所の炎症を惹起する作用もある.しかし,これらの機能の制御が不十分で補体が働き過ぎると,組織を傷害し各種の疾患の発症に繋がる.補体が引き起こす疾患をcomplementopathyとよぶ.これは補体病といわれ,補体の活性化が疾患の病因であり,補体系を阻害すると疾患の進行を阻止できる場合に用いられる5.血栓止血領域で知られているcomplementopathyとして,赤血球膜での補体活性化の制御不全による発作性夜間ヘモグロビン尿症,血栓性微小血管症である非典型溶血性尿毒症症候群,ブラジキニンの過剰産生による遺伝性血管性浮腫,抗リン脂質抗体症候群などが知られており,SARS-CoV-2や敗血症による血栓症にも補体が関与する 5, 6.本稿では,まず補体の活性化機序を概説し,凝固系・血小板活性化との関わりについて述べ,complementopathyのなかの幾つかの疾患を解説したい.補体と凝固に関しては幾つか総説を発表しているので,それらも参考にしていただきたい79

1.補体活性化経路

補体系は古典経路,レクチン経路,第二経路で活性化する(図11, 3.古典経路はC1qがパターン認識分子として働く.C1qはA鎖,B鎖,C鎖の各6本のポリペプチド鎖からなる分子量約460 kDaの巨大なタンパク質であり,N末端領域の短いコラーゲン様ヘリックスとC末端領域の6つの球状ドメインで構成される10, 11.C1qは,抗原抗体複合体やnatural IgM,自己抗体,CRP,リポ多糖などのpathogen-associated molecular patterns(PAMPs),アポトーシス細胞などに由来するdamage-associated molecular patterns(DAMPs)が,主に球状ドメインに結合する.これによりC1qが構造変化を起こしセリンプロテアーゼ前駆体のC1rとC1sが活性化される12

図1

補体系の活性化とその制御機構

補体活性化の3つの経路を示す.それぞれ独立して活性化されるが,C3活性化の段階で合流する1.古典経路とレクチン経路はパターン認識分子の活性化で始まる.パターン認識分子が結合する因子群を点線で囲った.パターン認識分子で活性化されたプロテアーゼ(C1sとMASP-2)はC4とC2を活性化しC3転換酵素C4b2aを生成する.第二経路はC3のチオエステル結合の加水分解型であるC3(H2O)を継続的に生成しC3転換酵素C3(H2O)BbとC3bBbを形成する.これらのC3転換酵素により次々とC3bが生成し反応が増幅する(増幅反応).補体活性化の抑制に働く因子も示した.C1インヒビター(C1-INH)は活性化されたC1rとC1sを阻害し,ポリリン酸はC1-INHによるC1sの阻害を促進する.C3bはFHやMCP,CR1に結合するとセリンプロテアーゼFIによりiC3bに分解され不活性化される.トロンボモジュリンはFHに結合したC3bのFIによる分解を亢進する.FIはC4BP,MCP,CR1の存在下でC4bを分解する.C3aとC5aはTAFIaなどのカルボキシペプチダーゼ活性によりC末端Arg残基が切断・除去され活性を失う.C5b-9はビトロネクチン,クラステリン,CD59,ポリリン酸によりその形成が阻害される.MBL:マンノース結合レクチン,MASP:mannose-binding lectin-associated serine protease,C3(H2O):チオエステル結合加水分解型C3,CR1:complement receptor 1,C4BP:C4b binding protein,MCP:membrane cofactor protein,DAF:decay accelerating factor,TAFIa:activated thrombin-activatable fibrinolytic inhibitor.

レクチン経路では,コレクチン(マンノース結合レクチン[mannose-binding lectin: MBL],コレクチン-10[CL-10],コレクチン-11[CL-11])およびフィコリン(ficolin-1, -2, -3)が,パターン認識分子として,細菌表面の糖鎖などのPAMPsやDAMPsに結合し,MBL-associated serine proteases(MASP-1とMASP-2)が活性化される.collagen-like lectinにその名が由来するコレクチンはコラーゲン様構造をもつレクチンの総称で,MBLの研究が最も進んでいる 13.これら古典経路とレクチン経路により活性化したC1sとMASP-2がC4とC2を切断し,C3転換酵素であるC4b2aが形成される(図1).

第二経路はC3の分子内チオエステル結合の加水分解型であるC3(H2O)を継続的に生成する.C3(H2O)はFBと結合し,結合したFBは活性型FDによって活性化されC3転換酵素であるC3(H2O)Bbになる.最近,セリンプロテアーゼ前駆体のpro-FDはMASP-3により切断され活性化されることが明らかになった14.こうして3つの経路によって形成されたC3転換酵素はC3をさらに活性化し,生成したC3bは第二経路を通ってC3bBbを形成しC3の活性化が増幅される(図1).このように,古典経路とレクチン経路で始まった補体の活性化も第二経路により増幅される2, 6, 15.C3a(分子量約9 kDa)は炎症性メディエーターとして血小板の活性化や白血球の遊走を行う.

C3転換酵素にC3bが結合してC4b2a3bまたはC3bBbC3bが形成されると,これらをC5転換酵素とよぶ(図1).C5転換酵素はC5をC5aとC5bに活性化する.C5aは分子量約9 kDaのペプチドで,強力な炎症性メディエーターとしてC5a受容体(C5aR1)を発現する細胞に働き,各種のサイトカインの生成を促すとともに,炎症局所に好中球などをリクルートし炎症性のミクロ環境を作る.一方,産生されたC5bは,これにC6,C7,C8およびC9が重合し細菌などの膜に膜侵襲複合体(C5b-9)を形成し,細胞に穴をあけ傷害を与え破壊する 6, 15, 16

膜侵襲複合体の形成に加えて,補体系には細菌などと戦う別の機能がある.C3の分解産物による細菌のオプソニン化である.C3の分子内チオエステル結合は自然に水解するだけでなく,周辺に水酸基(-OH基)やアミノ基(-NH2基)があると非特異的に反応し共有結合する.細菌などの菌体表面の水酸基にC3bが共有結合すると,食細胞である好中球やマクロファージに貪食される際の目印となる.これをオプソニン化とよぶ.C3の血漿濃度は極めて高く約1 g/Lであるが,1時間でその1~2%がC3(H2O)へと活性化される.2~3分で1個の細菌などに100万個以上のC3bが結合(固相化)し好中球やマクロファージによる貪食が迅速に進む2

2.補体制御機構

C3bの非特異的な共有結合が自己の細胞(例えば血管内皮細胞や赤血球)に起こると,このC3bを起点として膜侵襲複合体が形成され自己細胞が傷害されるため好ましくない.そこで,自己細胞に結合したC3bは迅速に分解され無害化される必要がある.その際,C3bに可溶性のFHや膜結合性のMCP(membrane cofactor protein: CD46)がコファクターとして結合すると,セリンプロテアーゼFIによりC3bがiC3bへと分解され失活する(図1図2A)1, 7.その際,トロンボモジュリンはFHのコファクター活性を増強する.

図2

補体活性化産物C5aとC5b-9による血管内皮細胞の血栓能の獲得

(A)補体が活性化されC3bが自己細胞である血管内皮細胞上に結合すると,FHもしくはMCPがC3bに結合しセリンプロテアーゼFIによりiC3bに分解・不活化され,補体の活性化は阻害される.(B)補体制御因子に機能喪失バリアント,もしくは補体因子に機能亢進バリアントが生じると,内皮細胞上でのC3bの分解が十分に進まず,C5転換酵素C3bBbC3bが形成されC5よりC5aとC5bが形成される.C5aは白血球走化因子活性,血管透過性活性,平滑筋収縮活性に加え,血管内皮細胞内のWeibel-Palade小体のexocytosisを惹起する.その結果,VWFが放出され一部は内皮表面に係留しGPIbを介して血小板が結合する.また,Pセレクチンは内皮細胞の表面に提示される.血小板は活性化するとPセレクチンを細胞膜に提示する.これらのPセレクチンは好中球と単球のP-selectin glycoprotein ligand-1(PSGL-1)に結合し自然免疫細胞が関わる血栓が進行する.膜上のC5bの形成は膜侵襲複合体C5b-9の形成に繋がり,膜の外側に酸性リン脂質であるホスファチジルセリンが露出し(C5b-7でホスファチジルセリンの露出が起こる),内皮細胞上にプロトロンビナーゼ複合体など凝固反応が促進する場を提供する.aHUSではこれら一連の内皮細胞傷害の結果,微小血管に血栓が形成されると考えられる 7, 9.MCP:membrane cofactor protein,MAC:membrane attack complex(膜侵襲複合体),C5aR1:C5a受容体,PtdSer:ホスファチジルセリン,N:細胞核.

C3bBb複合体にFH,CR1,DAF(decay accelerating factor: CD55)のいずれかが結合すると,C3bBb複合体の解離が促進されC3転換酵素活性が失われる(decay accelerationという)1.C4b2a複合体では膜結合性のDAF,CR1および可溶性のC4b結合タンパク質(C4BP)の結合により,複合体が解離しC3転換酵素活性を失う.また,CR1,MCP,C4BPはFIによるC4bのiC4bへの分解のコファクターとして働き,古典経路とレクチン経路を阻害する(図1).

これらの補体活性化抑制因子のなかでも,FHは液相系および自己細胞上でのFIによるC3bの分解とC3bBbの解離に中心的な役割を果たす.C3およびC4の制御因子はRegulator of Complement Activationタンパク質ともよばれ,FH,C4BP,CR1,MCP,DAFはshort consensus repeat(SCR,別名CCP[complement control protein]ドメイン,スシドメイン)とよばれる60アミノ酸残基程度のドメインを複数個もつ.SCRは凝固XIII因子B鎖やβ2-glycoprotein Iなど血液凝固に関わる因子にも見られる.FHは20個のSCRから構成され,C3bへの結合能を有するSCR1-4の病的バリアントはC3腎症や加齢黄斑変性の患者に見られることが多い.一方,FHは塩基性のC末端ドメイン(SCR19-20)を介して内皮細胞上のヘパラン硫酸やシアル酸などに結合し,細胞表面上での補体活性化を制御する(図2A).したがって,SCR19-20に病的バリアントをもつFHは内皮細胞結合能が低下し,そのため補体による内皮細胞傷害が進行し非典型溶血性尿毒症症候群の発症に繋がる.

セルピンであるC1インヒビターは古典経路で活性化されたC1rとC1s,およびレクチン経路で活性化されたMASP-1とMASP-2を阻害する.活性化血小板より放出されるポリリン酸はC1インヒビターによるC1sの阻害を促進する(図1).

ビトロネクチンとクラステリンはC5b-7複合体に結合し,細胞膜との結合を阻害し,膜侵襲複合体の形成を阻害する.ポリリン酸はC5b6を不安定化しC5b-9形成を阻害する17.Glycosylphosphatidylinositol(GPI)により細胞膜にアンカーしているCD59はC9のC5b-8複合体への結合を阻害する18図1).

3.補体系と凝固系の関わり

血管が傷害された部位に露出したコラーゲンにフォンビルブランド因子(VWF)が結合し,血小板がこれら両タンパク質に粘着・凝集することにより血小板血栓が形成される(一次止血).次いで凝固系が発動し血小板の周りにフィブリンが形成されて強度の高い止血栓が形成される(二次止血).

凝固系は外因系と内因系から構成される19.外因系凝固反応は組織因子が血中の活性型VII因子(VIIa)に結合することにより開始される.C5aは白血球に組織因子を発現させ凝固反応を惹起する(表1).また,C5b-9は活性化した血小板や活性化した血管内皮細胞の細胞膜の外側に,酸性リン脂質であるホスファチジルセリンを露出させ凝固反応を促進する.すなわち,ホスファチジルセリンが露出した細胞(主に活性化血小板と考えられる)上に,Xa-Va複合体(プロトロンビナーゼ複合体),VIIa-組織因子複合体(外因系Xase複合体),IXa-VIIIa複合体(内因系Xase複合体)が形成され,プロトロンビン,IX因子,X因子が効率良く活性化され,大量のトロンビンが生成される.

表1 C5aとC5b-9の細胞への作用
血小板 内皮細胞 好中球 単球
インテグリン活性化
ホスファチジルセリン表出
ポリリン酸放出
Pセレクチン露出
VWF放出
マイクロパーティクル産生
VWF放出と係留
Pセレクチン露出
ホスファチジルセリン表出
内皮透過性亢進
炎症部位へ集積
オプソニン化細菌の貪食
NETosis
免疫受容体群の発現増加
組織因子発現
組織因子発現
マイクロパーティクル産生

VWFは血管内皮細胞で合成され,血小板凝集能が高い超高分子量VWF(ultra-large VWF: ULVWF)多量体としてWeibel-Palade小体(WPB)に貯蔵され,各種の刺激により分泌される(表1).その際,一部のVWFは細胞表面に係留する.ULVWF多量体は血中でADAMTS13により止血に必要な適度のVWF多量体へと切断され循環する.内皮細胞に係留したVWFには,補体第二経路に関わる因子群が結合し活性化する20.C4は結合しないので古典経路とレクチン経路は関与しない.一方,VWFはFHと結合しFIによるC3bの分解不活化を亢進するとの報告もある21.この一見相反するVWF依存性のC3bの制御は,ULVWF多量体では補体の活性化は起こるもののFIでのC3bの分解はみられない.一方,分子量がより小さいVWF多量体ではFIによるC3bの分解不活化が起こると報告され22,これで説明できるかもしれない.

凝固系と補体系は,ともにタンパク質を限定分解し活性化するカスケード反応を持つことから進化的な関連性が認められ,補体が凝固系に関与することはこれまでに多くの研究により明らかにされている 6, 15.なかでも,MASP-1は精製系でプロトロンビン,XIII因子,TAFI(thrombin-activatable fibrinolytic inhibitor,別名carboxypeptidase B2),血小板トロンビン受容体を活性化すると報告されている.マウスを用いた研究では,レクチン経路のMBL系を阻害すると,脳梗塞,血栓,心筋梗塞から保護的に働くことが示されている2325.しかし,マウスとヒトのレクチン経路では,パターン認識分子のMBLとフィコリンの種類と血中量が異なり,その結果マウスはMBLに偏り,ヒトはフィコリンに偏っているので注意が必要である15.コレステロール血症は補体の活性化を通してC5aR1を介して単球に組織因子を発現する26

マウスでは下大静脈を狭窄し血流を20%程度に低下させる静脈血栓モデルが確立されている.この静脈狭窄モデルをC3欠損マウスとC5欠損マウスに用いたところ,血栓量とフィブリン量は減少した27.また,出血時間はともに延長した.この静脈狭窄モデルでのフィブリン形成は,白血球に発現する組織因子に依存し,組織因子活性の発現にはprotein disulfide isomerase(PDI)とC5が必要であった27.この組織因子活性の発現はPDIによる組織因子のCys186とCys209間のジスルフィド結合の架橋形成と,C5によるホスファチジルセリンの細胞の外側への露出によると説明されている28.好中球から放出されるneutrophil extracellular traps(NETs)が血栓形成に関わるかについて,NETsを放出しないPeptidylarginine deiminase 4欠損マウスに静脈狭窄を施したところ,フィブリン形成に差は見られなかった27.静脈狭窄モデルは静脈血栓の初期相を観察しているので,好中球のNETsは静脈血栓初期の凝固活性化には寄与しないと結論づけられた.また,C3a受容体(C3aR)欠損マウスを用いた研究では,脳梗塞巣と心筋梗塞巣の減少が示された29.これらの一連のマウスでの結果は,静脈および動脈の血栓形成に補体が関わることを明確に示した.

生体内での凝固系と補体系のクロストークは霊長類のヒヒでも示されている.ヒヒに大腸菌を投与する重症敗血症モデルでは補体系と凝固系の両経路の活性化が示され,C3活性化を阻害する環状ペプチドのコンプスタチンおよびC5活性化を阻害する環状ペプチドRA101295の投与により,補体活性化マーカーの抑制だけではなく凝固活性化マーカーも抑制され,RA101295の投与では組織障害と死亡率が低下した30, 31.また,マウスを用いた研究やin vitroの研究でトロンビンとプラスミンがC5aを産生すると報告されていた32, 33.しかし,ヒヒの生体内でトロンビンとプラスミンを生成させた研究はそれを支持しなかった34.すなわち,活性化X因子(FXa)とリン脂質の静注(トロンビンを生成する群),もしくは大腸菌の静注(組織因子などを細胞レベルで発現させる群)を用いて,ヒヒの生体内でトロンビンとプラスミンを生成させて補体の活性化を調べた報告によると,FXa/リン脂質静注群では生体内でトロンビンとプラスミンは生成されたものの補体の活性化は検出できず,一方,大腸菌静注群ではトロンビンとプラスミンの生成に加えC3b,C5a,C5b-9の生成が確認された.したがって,生体内では単にトロンビンとプラスミンが生成しても補体を活性化しないと結論づけられた.

4.血小板に対する補体の作用

補体因子と血小板は相互に作用する15, 16, 35.血小板は核を持たないので刺激依存性にタンパク質の生合成を行わないものの,細胞内には300種以上のタンパク質を含むα顆粒と,ADP,ATP,セロトニン,ポリリン酸などの低分子物質が貯蔵されている濃染顆粒をもち,刺激依存性にこれらの内容物を放出し,放出された物質は凝固系や血小板自身だけでなく補体系にも作用する.α顆粒はVWFやV因子などを放出し,膜タンパク質Pセレクチンを細胞表面に提示する.濃染顆粒は血小板凝集アゴニストのADPおよび内因系凝固反応を活性化するポリリン酸を放出する.

血小板での補体の役割について,次のような報告がある(表1図3).

図3

血小板の活性化と補体系の活性化と抑制

活性化した血小板では,インテグリンαIIbβ3の立体構造変化による活性化(フィブリノーゲン結合能の獲得),α顆粒と濃染顆粒からの内容物の放出,細胞膜の外側へのホスファチジルセリンの露出がおこる(赤矢印).補体との関連は本文を参照のこと.TxA2:トロンボキサンA2,C3aR:C3a受容体,C5aR1:C5a受容体,PAR:protease activated receptor,P2Y12:ADP受容体,TxA2R:トロンボキサンA2受容体,GPVI:糖タンパク質VI,CLEC-2:C-type lectin-like receptor 2,VWF:フォンビルブランド因子,PSGL-1:P-selectin glycoprotein ligand-1,II:プロトロンビン,MCP:membrane cofactor protein,DAF:decay accelerating factor.

1)血小板に複数のC1q分子が結合すると,血小板インテグリンαIIbβ3の活性化,血小板凝集,Pセレクチンの細胞表面への提示,細胞の外側へのホスファチジルセリンの露出が報告されている36.C1qの球状ドメインには抗原抗体複合体やPAMPs,DAMPsが結合する(図1).これらの結合によりC1qに構造変化が生じ,コラーゲン様ドメインに結合しているC1rとC1sが活性化する.その機序が最近立体構造から明らかにされた12.これらの活性化セリンプロテアーゼは,C1インヒビターと複合体を形成するとコラーゲン様ドメインより離れる.血小板および細胞には主に2つのC1q受容体が存在する.C1qの球状ドメインには3量体で存在するgC1qR(分子量33 kDa)が結合する11, 37.一方,C1rとC1sが離れて露出したコラーゲン様ドメインにはcC1qR(分子量約60 kDa)が結合する.cC1qRは小胞体に存在するシャペロンであるcalreticulinと同一のタンパク質である11.これら2つのタンパク質は血小板および細胞上でC1q依存性に作用を発現すると考えられるものの,膜貫通領域やGPIアンカーを持たないので,シグナルを伝達する「受容体」というより,膜に会合するC1q結合タンパク質であり,細胞上の他の分子と結合して機能を発揮すると考えられる10, 11, 37

2)活性化血小板膜上のPセレクチンは白血球の細胞膜上のP-selectin glycoprotein ligand-1(PSGL-1)のリガンドなので,白血球はPSGL-1を介してPセレクチンを提示する活性化血小板や活性化血管内皮細胞に結合し,炎症部位にリクルートされる.PセレクチンはC3bを結合する能力があり,またPセレクチン自体は補体第二経路の活性化能を示す38

3)活性化血小板ではα顆粒より可溶性の補体制御因子であるC1インヒビター,FH,クラステリンが放出される.敗血症のごく初期では,単球が刺激を受けてポドプラニンを発現し,これが血小板のCLEC-2に結合して血小板を活性化させ,α顆粒より上述の補体制御因子を放出し,これらが炎症を減弱させ補体による攻撃から肝機能を保護することがマウスモデルを用いて示された39

4)濃染顆粒より放出されるポリリン酸は内因系凝固反応を活性化させるが,補体系に対してはC1インヒビターによるC1s阻害活性の増強,C5b6複合体の不安定化,C5b-9の膜への挿入の低下を通して補体活性を抑制する機能を有する17図1).

5)血小板は他の血液細胞と同じように膜結合性の補体制御因子であるMCP,DAF,CD59(後者2因子はGPIアンカー型タンパク質)を細胞膜にもち,補体の活性化は抑制されている.

6)活性化血小板や有核細胞(特に好中球)ではC5b-9を “ectocytosis” によりマイクロパーティクルとして除去する能力を持つ40ので,C5b-9の影響は限定的である.

7)C4aの生物学的機能や受容体は長い間不明であったが,最近protease activated receptor-1(PAR1)とPAR4がC4aの受容体であると報告された41.血管内皮細胞では,C4aはPAR1とPAR4を介してカルシウムを動員し,ストレスファイバー形成を促進し,血管内皮の透過性を亢進した.しかし,ごく最近の報告によると,C4aはヒト血小板ではPAR1とPAR4に依存した血小板凝集を惹起せず,細胞内カルシウムの動員も見られなかった42

5.血管内皮細胞に対する補体の作用

C5aとC5b-9は血管内皮細胞を傷害する.すなわち,1)exocytosisにより細胞内WPBからULVWF多量体を分泌・係留し,Pセレクチンを細胞膜上へ提示し,2)内皮細胞膜上に提示されたPセレクチンへPSGL-1を発現する白血球が結合し,3)内皮細胞膜の外側へのホスファチジルセリンの露出による凝固因子活性化を促進し,4)内皮細胞の透過性を亢進する(図2B)(表17, 43.このように,C5aとC5b-9により,血管内皮細胞は血栓性を獲得すると考えられる.

有核細胞はC5b-9に攻撃されても細胞死に抵抗すると述べた.ヒト血管内皮細胞前駆細胞では,C5b-9で攻撃されると細胞内のWPBの膜と細胞膜とが融合することにより,傷害ダメージが和らげられ細胞死に抵抗することが示されている44

溶血性疾患はしばしば血管障害に続き多臓器不全に繋がる.溶血性疾患では補体の活性化が観察される.溶血で血管内に遊離したヘムはDAMPと考えられる.血管内溶血を起こしたマウスは肝障害を示すが,このマウスの肝血管内皮細胞にはC3断片(C3b, iC3b, C3(H2O)様)が沈着しており,C3欠損マウスやC5阻害薬によりC3断片の沈着と肝障害が低減した 45.このヘム依存性の血管内皮細胞上へのC3断片の沈着は,Toll-like receptor 4(TLR4)の活性化によるPセレクチンの細胞表面への提示が必要であり,Pセレクチンの機能を抗体で中和すると肝障害が減弱された.溶血性疾患での肝障害は,内皮細胞上での補体の活性化阻害,TLR4阻害,Pセレクチン阻害により低減できる可能性を示した45

6.好中球に対する補体の作用

好中球は細菌などを殺菌しその増殖を阻止することで生体防御の第一線で働く.好中球は補体活性化の産物に対して多様な反応を示すとともに,自己の細胞死を伴うNETsを形成する46.好中球はC5aにより炎症部位に集積し,complement receptor 1(CR1)およびCR3を介してC3bもしくはiC3bが結合した(すなわちオプソニン化した)細菌を貪食する(表1).好中球はC5aやtumor necrosis factor α(TNFα)により免疫受容体群(TLRや補体受容体)などの発現を誘導し免疫複合体や抗体によるNETs形成を亢進する46.C3欠損マウス,TLR2欠損マウス,C3aR欠損マウスはNETsを形成しない47, 48ので,NETs形成と補体系は緊密に関連していると考えられる.

血栓形成に関しては,NETsを構成する染色体DNAによりXII因子が活性化され内因系凝固反応が開始する.好中球は刺激依存性に組織因子を発現し外因系凝固反応が進行する.抗リン脂質抗体は補体を活性化しC5aを産生し,C5a受容体を介して好中球にシグナルが入り組織因子を発現させるというマウスを用いた研究が発表されている49.急性呼吸促迫症候群では,C5a依存性に好中球に組織因子が発現し,フィブリンの沈着を引き起こし,病態の悪化を導くと報告されている50

7.補体因子異常で生じる血栓症・補体が関わる血栓症

1)発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria: PNH)

PNHは溶血・血栓・骨髄不全を3徴とし,血栓は肝静脈等深部静脈や門脈に起こることが多く,PNHの主たる死因の1つで,アジア人と比較して特に欧米人に多く見られ,欧米人にとって大きな問題である51.患者の血液細胞では細胞膜上の全てのGPIアンカー型タンパク質が欠損する.血栓の原因として主に3つが考えられる5153.第1に,一酸化窒素(NO)の強力なスカベンジャーである遊離ヘモグロビンによるNOの枯渇である.血管内皮細胞で合成されるNOは平滑筋細胞を弛緩し血小板の活性化と凝集を阻害する.溶血で見られる遊離ヘモグロビンがNOをスカベンジャーすると,平滑筋細胞の緊張と血小板の活性化と凝集が起こり易血栓性になる.第2に,血小板上での補体の活性化により血小板の活性化やホスファチジルセリンの露出がおこり,さらに溶血による赤血球由来のマイクロパーティクルにより凝固系が活性化する.第3に,C5aの産生によるインターロイキン6やTNFαなどのさまざまな炎症性サイトカインの産生である.多くの症例で,補体の活性化を抑制する抗C5抗体の投与により血栓症を著しく予防可能であることから,補体の活性化が血栓の原因と考えられる.ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベータ受容体や組織因子経路インヒビターβなどの線溶や凝固制御に関わるGPIアンカー型タンパク質の欠損が血栓に関わることは,抗C5抗体により血栓症が予防されることより考えにくい.

2)非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome: aHUS)

血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は,破砕赤血球を伴う溶血性貧血,消費性血小板減少,微小血管内血小板血栓による臓器障害を示す病理診断名である.TMAを示す疾患として,ADAMTS13酵素活性が10%未満に著減する血栓性血小板減少性紫斑病,志賀毒素を産生する病原性大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli: STEC)による溶血性尿毒症症候群,aHUS,自己免疫疾患や感染症などによる二次性TMAがある54

aHUSは補体活性化の制御異常により内皮細胞上で補体第二経路が活性化され,C5aとC5b-9により内皮細胞傷害が進行し発症に繋がる(図29, 15, 43.内皮細胞膜上での第二経路の過剰な活性化の要因として,補体制御因子(FH,FI,MCP,トロンボモジュリン)の機能喪失バリアント,補体因子(C3,FB)の機能獲得バリアント,もしくは後天性の抗FH抗体が挙げられ,aHUSは補体関連TMAともよばれる.aHUS患者の約半数に病的遺伝子バリアントが同定されている.aHUSの発症は,病的遺伝子バリアントもしくはFHに対する自己抗体に加え,疾患発症の引き金となる妊娠,感染,手術などの要因による “2-hit” で発症すると考えられている.最近,HELLP症候群や劇症型抗リン脂質抗体症候群にも,aHUSに見られる補体制御因子の遺伝子に病的バリアントが報告され55, 56,これらの疾患も遺伝的な背景が考えられるかもしれない.

3)遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema: HAE)

HAEはC1インヒビターをコードするSERPING1の遺伝子異常により,遺伝性C1インヒビター欠乏症患者では過剰にブラジキニンが産生され血管性浮腫を生じる57, 58.C1インヒビターは活性化したC1r,C1s,MASP-1,MASP-2を阻害する(図1)だけでなく,内因系凝固反応に関わる活性型XII因子と血漿カリクレインも阻害する.したがって,C1インヒビターの遺伝的欠乏症患者では血漿カリクレインが十分に阻害されず,その結果高分子キニノーゲンよりブラジキニンが産生される.C1インヒビターの活性・抗原量がともに低下する症例をHAE I型,活性は低下するが抗原量は正常域を示す症例をHAE II型とよぶ.極めてまれであるが,C1インヒビターの活性・抗原量に異常を認めない症例があり,これをHAE III型とよぶ.HAE III型にはXII因子,プラスミノーゲン,高分子キニノーゲン,ANGPT1,MYOFの遺伝子に病的バリアントが同定されている58.HAEは一般に常染色体優性(顕性)遺伝形式をとる.

C1インヒビターの遺伝子に病的バリアントをヘテロ接合性にもつ場合,血中のC1インヒビター活性は理論的には50%前後になるはずだが,HAE患者ではより低値の20%~30%を示すことが多い.C1インヒビターが低値を示す機序として以下の2つが考えられる57.第1に,C1インヒビター欠乏症患者では,C1インヒビターで阻害されるプロテアーゼが継続的に少量ながら活性型で存在し,C1インヒビターはこのプロテアーゼと複合体を形成するので,血中の活性が低下するという機序である.HAE I型とII型の患者ではC4が低下しているので,C1インヒビター欠乏により継続的にC1sが活性化されC4が低下すると考えられ,C1インヒビターが活性型プロテアーゼに結合し消費性に低下すると考えられる.第2に,C1インヒビターに同定された幾つかのバリアントでは,バリアントの生合成の過程で野生型をも巻き込んだ重合体をつくり,これが原因で血中の正常C1インヒビターの肝細胞での分泌量が低下する機序である59.C1インヒビターはセルピンとよばれるセリンプロテアーゼインヒビターファミリーに属し,セルピンは幾つかの立体構造をとるmetastableな重合化しやすいタンパク質として知られている.重合化の有名な例は,欧米で多く見られるα1-アンチトリプシンZ型と呼ばれるp.Glu342Lys変異のホモ接合体である60.本バリアントは小胞体内で重合し分泌不全を示し,その結果肺での好中球エラスターゼを十分に阻害できなくなり肺気腫に繋がる.

4)ヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia: HIT)での補体系の関与

抗凝固薬として投与されるヘパリンは硫酸基を持つ陰電荷物質であり,血小板第4因子(PF4)は4量体で存在する塩基性タンパク質なので,PF4-ヘパリン複合体は静電的に結合した巨大複合体である.HITはPF4-ヘパリン複合体に対する抗体(IgG抗体)がPF4-ヘパリン複合体に結合し,この免疫複合体がFcγRIIA受容体を介して血小板や単球を活性化し,トロンビンを過剰産生することにより血栓塞栓症を誘発する61.ヘパリン治療を受けた患者ではPF4-ヘパリン複合体への免疫反応に違いが認められているが,その機序は明らかではない.最近,PF4-ヘパリン複合体は補体を活性化し,B細胞に結合することが示された62.すなわち,PF4-ヘパリン複合体は多価反応性のIgM(natural IgM)により認識され結合し構造変化を起こし,これにC1qが結合し補体古典経路が活性化しC3bもしくはその分解産物が形成され沈着し,それらで覆われたPF4-ヘパリン-IgM複合体はcomplement receptor 2(CR2, CD21)を介してB細胞に結合した.注目されるのは,血漿中のIgM量と生成するC3bもしくはその分解産物量が相関するという点であり,IgMがHITの免疫反応の違いを説明するバイオマーカーになる可能性を示唆した.

さらに研究が進められ,PF4-ヘパリン-IgG抗体からなる免疫複合体は好中球と単球の表面にIgG抗体とC3bもしくはその分解産物を沈着させることを認めた63.単球はこの免疫複合体の結合により組織因子を発現したが,抗C1q抗体やCp40(低分子C3阻害剤)により組織因子の発現は阻害された.一方,抗C5抗体は組織因子発現を阻害しなかった.このことは,HITによる血栓塞栓症の予防に補体の阻害が選択肢として考えられることを示唆した.HITにおいて免疫複合体のFc依存性effector機能の制御に,補体の活性化が重要な役割を果たすことが示されたことは,免疫複合体が介在する他の血栓性疾患にも補体が重要な役割を果たす可能性があり,こういった疾患では補体系が抗凝固以外の治療標的になるかもしれない.

新型コロナワクチン接種後に極めてまれに見られる血栓性血小板減少症(vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia, or VITT:本邦ではthrombosis with thrombocytopenia syndrome or TTS)患者にPF4に対する抗体が同定されている64.HITだけでなくCOVID-19でもPF4抗体は注目を集めている.

5)Severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2)による補体活性化と血栓症

SARS-CoV-2ウイルス感染により補体が活性化し,また補体系がcoronavirus disease 2019(COVID-19)に関わることは多くの総説や原著論文で議論されている4, 65, 66.SARS-CoVウイルスをマウスに感染させると,感染後1日で肺にC3活性化産物が観察され体重減少が観察され,C3欠損マウスでは野生型マウスより肺傷害と体重減少が少なく,SARS-CoV感染により補体が活性化され肺での症状が亢進すると考えられた67.また,COVID-19では,呼吸器障害を示した患者に全身性の補体の活性化が報告されている68

COVID-19は血栓との関連も多く発表されている 69, 70.COVID-19患者の血漿ではNETs,組織因子活性,sC5b-9の上昇が観察され,自然免疫細胞が関わる血栓の形成が想定され,補体C3阻害薬により好中球組織因子の発現が抑制されたと報告されている71.COVID-19で死亡した患者(35%)の心臓にはフィブリンとC5b-9に富んだ微小血栓による壊死が認められている72

SARS-CoV-2の細胞へ侵入する際の受容体はアンジオテンシン転換酵素2(ACE2)であり,ウイルスはスパイク(S)タンパク質の受容体結合ドメインを介してACE2に結合する.Sタンパク質は同じドメインでヘパラン硫酸にも結合し,この結合がACE2への結合を促進すると報告された73.さらにヘパラン硫酸やヘパリン類は,宿主細胞へのSタンパク質の結合やSARS-CoV-2ウイルスの感染を阻止することが示された.ヘパラン硫酸は細胞上のグリコカリクス層に存在するので,ウイルスがヘパリン硫酸へ結合能を示すことは細胞への感染に極めて有利であると考えられる.

SARS-CoV-2感染による補体の活性化に関して,Sタンパク質が補体第二経路を活性化し標的細胞死を起こしたが,C5もしくはFDの阻害は細胞死を阻止し,FHは補体の攻撃を軽減したと報告された74.これは次のように説明された.FHはヘパラン硫酸やシアル酸などへの結合を介して血管内皮細胞表面に結合しており(図2A),C3bが細胞上に結合するとFHはC3bに結合し,FIによるC3bのiC3bへの分解・不活化を促進する.一方,SARS-CoV-2がSタンパク質を介して細胞上のヘパラン硫酸に結合する 73と,細胞上に結合していたFHが細胞から離れてしまい,細胞が補体の攻撃を受けやすくなると説明された74.この機序でSARS-CoV-2による多くの臨床的なイベントを説明できるかもしれないと述べている.

レクチン経路がSARS-CoV-2により活性化されると報告された75.レクチン経路のパターン認識分子であるMBL,コレクチン-11(CL-11),フィコリン-2は,SARS-CoV-2のS-タンパク質およびN-タンパク質に結合し活性化し,C3bとC4bの沈着をおこした.また,MASP-2はSARS-CoV-2のN-タンパク質に直接結合し活性化された.このレクチン経路の活性化をMASP-2の中和抗体で阻害すると補体の活性化は阻害された.

おわりに

本稿では補体系と凝固系や血小板などとの関わりを解説し,complementopathyとしてPNH,aHUS,HAE,HIT,SARS-CoV-2による血栓症を解説した.補体の作用は極めて多彩であり,血栓症と凝固異常症に限っても,抗リン脂質抗体症候群や敗血症などでの補体系が果たす役割に関しては本稿では触れていない.加齢黄斑変性症の全ゲノム関連解析でFHが疾患関連遺伝子として2014年に同定されてから,補体は極めて多様な疾患の病因に関わることが明らかにされている.現在,各種の抗補体薬がcomplementopathyと考えられる疾患に対して治療薬として期待されている.今後ますます注目されると思われる.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

宮田敏行:特許使用料(株式会社ペプチド研究所,株式会社カイノス,Biokit,Peptides International, Inc.)

井上徳光:研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(アレクシオンファーマ株式会社)

文献
 
© 2021 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
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