Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Topics: A new series “COVID-19 Infecion”
COVID-19 and stroke
Hiroyuki KAWANO
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2021 Volume 32 Issue 6 Pages 723-725

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1.はじめに

SARS-CoV-2ウイルス感染に伴う新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019: COVID-19)は脳卒中に関連することが知られている.COVID-19治療中に発症することが多いが,脳卒中を契機にCOVID-19と診断されることもある1, 2.COVID-19蔓延は脳卒中診療に甚大な影響を与えている.

2.COVID-19合併脳卒中の頻度

COVID-19患者の急性期脳卒中の頻度は0.4~8.1%13で,欧州(1.2%)や北米(1.1%)よりアジアで高い(3.1%)2.インフルエンザ(0.2%)に比べCOVID-19(1.6%)では脳卒中リスクが7.6倍に及ぶ4

3.推定発症機序(図1)
図1

COVID-19における脳卒中の推定発症機序

SARS-CoV-2は,アンジオテンシン変換酵素2(angiotensin-converting enzyme 2: ACE-2)受容体を介して肺,血管内皮,心臓などの細胞内に侵入する.血管内皮細胞への感染による血管内皮障害や血管炎,全身性炎症による血栓形成,重症感染症による凝固異常は脳梗塞のリスクになる.心筋傷害による不整脈や心臓内血栓や,低酸素血症や脳灌流圧低下は脳梗塞のリスクになる2.肺血栓塞栓症や陽圧換気など右房圧が上昇する病態では,卵円孔開存症など右左シャントを介した奇異性脳塞栓症も生じる5.一方,頭蓋内動脈への直接的浸潤による血管壁破綻 2,凝固異常,抗凝固薬使用などは脳出血リスクになる.

4.特徴

COVID-19治療中に発症,つまり院内発症脳卒中が多い(70.4%1,84.1%2).一方で,COVID-19合併脳卒中の1/3以上の症例(30.8%1,37.7%2)は呼吸器症状が乏しく,非COVID-19患者に紛れて受診することを示している.

脳卒中のうち,脳梗塞が最も多く(74.8%6,78.8%1,87.4%2),脳出血(11.6%2,15.0%1,15.7%6),脳静脈血栓症(0.5%2,4.2%6,4.2%7,4.4%1),くも膜下出血(1.9%1,5.3%6)の順である.脳梗塞の内訳は,原因を特定できない脳梗塞(潜因性脳梗塞)が最も多く(22%6,44.7%2),心原性脳塞栓症(21.9%2,27%6),アテローム血栓性脳梗塞(10.6%2,33%6),ラクナ梗塞(3.3%2,10%6)の順である.COVID-19の管理上,通常よりも検査を制限せざるを得ず,原因特定に至らないことも少なくない.

COVID-19患者のうち,非脳卒中症例と比して,脳卒中症例は,年齢が高く,高血圧,糖尿病,冠動脈疾患を有し,COVID-19が重症であった2.脳卒中症例のうち,非COVID-19症例と比較し,COVID-19症例は年齢が低かった2.非COVID-19脳梗塞に比し,COVID-19合併脳梗塞は重症度が高く 2, 8,重度後遺症が残る8.また,院内死亡率が高い(脳梗塞31.5%2~34.4%9,脳出血52.7%10,脳静脈血栓症40%11).

脳梗塞の場合,複数の血管領域に渡る病巣であることが多く(30.9%1,42.5%2,45.8%11),脳内出血合併(20.8%8),頭頸部の大血管閉塞が多い(44.5%6,46.9%1,79.6%2).血液検査では,D-ダイマー(82.1%)やトロポニン(全年齢層で40.5%,50才未満で71.4%)が上昇することが多い1

5.COVID-19蔓延期の脳卒中救急

感染防御を十分に配慮した対応策が重要である.医療従事者の感染を防ぐ意味は,単に医療従事者自身やその家族の健康を守るだけでなく,濃厚接触者の連鎖から引き起こされる就業制限,さらには病院機能縮小による医療崩壊から,本来救われるべき脳卒中患者を守ることにある10.日本脳卒中学会は「COVID-19対応脳卒中プロトコル」を公開している 12

脳卒中診療は甚大な影響を受けている.日本脳卒中学会による脳卒中救急医療体制に関する調査では,何らかの診療制限がかかっている施設が約2割にのぼった13, 14.我が国のTREAT研究グループの報告では,緊急事態宣言前に比べ宣言下は,静注血栓溶解療法は6%減少,機械的血栓回収療法は23%減少した15.海外ではCOVID-19以前の時期と比して,急性期再灌流療法実施は不変16または減少17していた.リハビリが削減される場合ある18

一方で,脳卒中患者数が減る傾向にある15, 18, 19.患者側の受診控えが一つの要因とされ,軽症脳卒中や一過性脳虚血発作にその傾向が強い18, 20.適切な脳卒中予防ができていないことが懸念される.

6.おわりに

COVID-19は脳卒中発症の関与し,診療体制に大きな影響を与えている.現在,日本脳卒中学会の承認のもと,「新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に脳卒中を発症した患者の臨床的特徴を明らかにする研究」が進行中で,我が国の実態が明らかになると思われる.

著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関して開示すべき企業等との利益相反なし

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