Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Two case of hemophilia carriers treated with coagulation factor VIII/IX
Makoto KANEDAToshiaki OKA
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2021 Volume 32 Issue 6 Pages 731-736

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Abstract

X連鎖劣性遺伝疾患の血友病では,血友病の父親を持つ女性は保因者となる.本報告では,父親がそれぞれ血友病A患者およびB患者で,低値の凝固第VIII/IX因子(FVIII/FIX)活性を認めた確定保因者2名に凝固因子製剤を投与した結果を報告する.症例1は3歳,女児.関節腫脹を主訴とし,整形外科を受診したが改善せず,当院で関節内出血と低FVIII活性を認めたため,rFVIII製剤を投与したところ関節腫脹と疼痛が改善した.関節内出血を繰り返したが,定期補充療法を開始した後は関節内出血を認めていない.症例2は39歳,女性.妊娠16週で来院.低FIX活性を示したが,rFIX製剤の投与による出血管理により帝王切開で出産した.予備的な試験投与で投与量をあらかじめ検討し,緊急帝王切開にも対応できた.確定保因者に対して早期の凝固因子活性の評価を行うことで,症状への適切な対応が可能であることが示唆された.

Translated Abstract

In hemophilia, an X-linked recessive disorder, women whose fathers have hemophilia are carriers. This report describes the results of administering clotting factor products to 2 confirmed carriers with low levels of coagulation factor VIII/IX (FVIII/FIX) activity whose fathers were hemophilia A and B patients, respectively. Case 1 was a 3-year-old girl. The patient visited the orthopedic department with a chief complaint of joint swelling, but the symptoms did not improve. Since bleeing in the knee joint and low FVIII activity were confirmed during the initial visit to our hospital, rFVIII preparation was administered and the swelling and pain in the knee joint improved. Though the joint bleeing was repeated, it was not observed since the start of prophylactic factor replacement therapy. Case 2 was a 39-year-old woman. The patient visited the hospital at 16 weeks of gestation. Although she showed low FIX activity, she delivered by cesarean section due to bleeding control by administration of rFIX preparation. It was possible to deal with the urgent cesarean section by examining the dose beforehand in the preliminary trial administration. In these cases, it was suggested that assessment of coagulation factor activity in confirmed carriers would enable appropriate management of symptoms.

1.緒言

血友病はX連鎖劣性遺伝疾患のため,通常,男性に症状が現れ,女性は保因者とされている1.保因者は家族歴から保因者であることが明らかである「確定保因者」と保因者の可能性はあるが確定できない「推定保因者」に分類される.保因者の診断には家族歴,凝血学的検査が参考になるが,確定診断には遺伝子解析が必要である.しかし,遺伝子解析は倫理的な問題に加え,時間と費用,検査可能な施設が限定されているなどの問題があり,普及していないことが今後の課題である.一方,近年,凝固第VIII/IX因子(FVIII/FIX)活性が低く出血症状を有する症候性保因者が存在することが注目されてきており,世界血友病連盟(WFH)は多くの保因者は異常出血の経験があるとして注意喚起を促している2.欧米では症候性保因者に対し,臨床診断名を「女性血友病(woman with hemophilia)」としたほうがその後の適切な治療につながるという考えもあるが,このような保因者の多くは月経過多や抜歯後の出血などの出血症状を当たり前と思っていることから受診に至ることが少なく,症例報告も限られている3.今回われわれは,父親がそれぞれ血友病A患者あるいはB患者である確定保因者2名においてFVIII/FIX活性が低値であることを認め,凝固因子製剤を投与した経過について報告する.

2.症例

1)症例1

年齢3歳,女児.3歳6か月,自宅で左膝をひねり,その後,左膝関節の腫脹と疼痛を認めた.近医の整形外科を受診したが,症状は改善しなかった.受傷後2日目に当院を受診し,整形外科医が単純レントゲン写真にもとづいて左膝関節内出血と診断した.凝固検査ではAPTTが66.3秒と延長し,FVIII活性は7.0%と低値であった(Table 1).父親が血友病A患者であり,患児が確定保因者であることは既知であったため,FVIII活性をもとに軽症血友病相当の症候性保因者であることを確認した.

Table 1 Blood test in case 1
WBC 11,100/μL PT 12.6 sec FVIII activity 7%
RBC 485 million/μL APTT (control) 66.3 sec (26.8 sec) FIX activity 86%
Hb 12.2 g/dL APTTR 2.5 VWF activity 100%
Ht 37.0% VWF antigen 122%
Plt 28.9 million/μL

APTT: activated partial thromboplastin time, APTTR: activated partial thromboplastin time ratio, Hb: hemoglobin, Ht: hematocrit, PT: prothrombin time, RBC: red blood cell, VWF: von Willebrand factor, WBC: white blood cell, Plt: platelet.

止血剤は投与せず,RICE処置(安静,圧迫,およびアイシング)のみで経過観察を行ったが,受傷後9日目に当院を受診した時も左膝関節の腫脹が改善していなかったため,家族と相談の上,凝固因子製剤投与を行った.患者の体重は当時16 kgであり,凝固因子製剤として遺伝子組換え第VIII凝固因子(rFVIII)製剤を出血時補充療法として投与した.Rurioctocog alfa 500単位を隔日で3回投与したが,その後,腫脹と疼痛が収まらず,同剤750単位を隔日で6回投与して改善した.製剤補充の開始が受傷後9日目と,治療開始が遅れたこともあり,症状改善に時間を要したと考えられる.初回投与から4週間後に確認したところ,インヒビターの発現は認められなかった.

4歳2か月,鉄棒に足をかけてぶら下がっていたことを契機に右膝関節内出血を発症した.当日に右膝関節の膨張が見られたが,当院の受診は受傷後2日目であった.rFVIII製剤(Rurioctocog alfa 1,000単位)を1回,750単位を2回,計3回連日投与した.その後,右膝関節の膨張と疼痛は改善した.

4歳10か月,保育園で右膝をひねったことにより右膝関節内出血を発症し,その日に当院を受診した.受診当日に再びrFVIII製剤(Rurioctocog alfa当日1,000単位,翌日750単位,各1回)を投与した.4歳2か月時に2回目の関節内出血となった時点で,患者家族に対し次に関節内出血を起こした場合には定期補充療法を開始することを勧めていたため,受傷1週間後に定期補充療法を開始することを決定した.4歳11か月より,遺伝子組換えヒト血液凝固第VIII Fc融合タンパク質(rFVIIIFc)製剤(Efraloctocog alfa 1,000単位,週1回)による定期補充療法を開始した.患者の体重は18.5 kgであった.定期補充療法を開始後,約1年が経過しているが,関節内出血は認められていない.定期補充療法の開始以降,複数回測定したFVIII活性のトラフ値は4.8~6.9%であった.活性値として,ピーク値の測定はしていない.経過観察中に出血していないことから,投与量は変更していない.インヒビターについては,定期補充療法の開始1か月後,3か月後,および1年後(各1回)に確認を行ったが,発現は認められていない.

2)症例2

年齢39歳,女性.妊娠16週.初産.胎児エコー検査により,胎児は男児であることがわかっていた.妊婦の父親は軽症血友病B患者である.既往歴としては,鼻出血の止血に時間がかかったことと,智歯抜歯で止血しづらいことがあったが,それぞれ翌日には止血された.近隣の産婦人科病院に通院していたが,胎児が血友病の場合に十分な対応ができないことから当院に転院した.周産期における母体と胎児へのリスクを十分に説明し,患者と配偶者の希望により経腟分娩を試みることになった.初診時(妊娠16週)のAPTTは29.5秒,FIX活性は35%であった(Table 2).妊娠28週,34週のFIX活性はそれぞれ37%,34%であった.分娩時に半減期延長型遺伝子組換え血液凝固第IX因子アルブミン融合製剤(Albutrepenonacog alfa)を投与することを選択し,妊娠34週目に試験投与を施行した.1,000単位の試験投与(体重67 kg;15単位/kg)で22%のFIX活性上昇[生体内回収率:IVR 1.47(IU/dL)/(IU/kg)]を認めたことから,経腟分娩の場合は分娩直前に1,000単位,帝王切開の場合は入室前に3,000単位を投与し,以後はAPTTの変動や術中出血量を参考に投与量を検討することとした.妊娠39週6日,自然陣痛が発来して入院したが,分娩停止のため緊急帝王切開に切り替えた.帝王切開直前のFIX活性は34%であり,Albutrepenonacog alfa 3,000単位を投与し(体重70 kg),帝王切開直後の活性は98%に上昇した[IVR 1.49(IU/dL)/(IU/kg)].麻酔は脊髄麻酔を行い,術中の出血量は羊水込み508 mLと正常の範囲内であり,止血も速やかであった.児の出生体重は2,832 g,アプガースコアは1分9点,5分9点であった.妊婦には帝王切開12時間後および36時間後にAlbutrepenonacog alfaそれぞれ2,000単位の投与を行い,帝王切開12時間後(製剤投与前),36時間後(製剤投与前),84時間後の活性はそれぞれ73%,90%,84%であった(Table 3).臍帯血FIX活性は31%,日齢2における児本人血のFIX活性は83%であった.このことから男児が血友病であることは否定された.母親は予定通り術後8日目に退院した.帝王切開1か月後に母親のインヒビターを確認したが,発現は認められなかった.

Table 2 Blood test in case 2
PT 10.8 sec FVIII activity 176%
APTT (control) 29.5 sec (26.3 sec) FIX activity 35%
APTTR 1.1 VWF activity 202%
VWF antigen 201%

APTT: activated partial thromboplastin time, APTTR: activated partial thromboplastin time ratio, VWF: von Willebrand factor.

Table 3 Bleeding control before and after cesarean delivery in case 2
Before the cesarean delivery Immediately after the cesarean delivery 12 hours 36 hours 84 hours
Albutrepenonacog alfa (IU) 3,000 2,000 2,000
FIX activity (%) 34 98 73a 90a 84
APTT (sec) 29.3 26.3 27.9 29.6 29.1

APTT: activated partial thromboplastin time, FIX: coagulation factor IX. aBefore administration of albutrepenonacog alfa

3.考察

血友病はX連鎖劣性遺伝形式を示す先天性凝固異常症であり,患者は通常,男性で,女性は保因者となる1.血友病保因者数は血友病患者の1.6~5倍といわれ,本邦では1~3万人程度存在すると考えられている4.そのうちの20%がFVIII/FIX活性30%未満の出血傾向を有する有症状保因者であると推定される4.この中には,保因者健診や告知が行われていないケースも多く,出血症状を保因者自身が認識していない可能性が考えられる.したがって,保因者の出血症状の現状は明らかになっておらず,血友病保因者に対する凝固因子製剤投与に関して,現在コンセンサスは得られていない.一方,血友病保因者に対するケアの重要性も説かれている5.今回報告した症例は,いずれも血友病として公費申請を行っている.いずれも凝固因子活性が低く,出血の可能性が高い症例であり,特に症例2では出産時に凝固因子の補充を必要とすることが明らかであったことから,高額な医療費用が見込まれた.経済的負担を正当に軽減するためにも,必要な患者においては公費申請を行うべきであると考える.

症例1では,血友病A保因者の女児に対し,rFVIIIFc製剤による定期補充療法が有効であることが示された.本症例の患者は,初診時のFVIII活性は7.0%と低値であったが,左膝関節腫脹/疼痛に対して整形外科を受診し,血友病との関連付けが遅れたため,凝固因子製剤治療の開始が遅れて症状改善に時間を要した.血友病では凝固因子活性(%)の程度に応じて重症(1%未満),中等症(1~5%),軽症(5~40%)に分類され6,本症例は診断時に軽症と判断したが,観察期間において中等症に相当するFVIII活性が測定されている.家族は患者が保因者とは認識していたものの加療が必要とは認識していなかった.保因者健診や適切な告知によって低FVIII活性であることを医師,患者間で共有できていれば,早期の症状改善が実現できた可能性がある.本症例では,関節内出血時にrFVIII製剤の投与を繰り返し,最終的にはrFVIIIFcの定期補充療法により関節内出血の予防に成功している.本症例は,凝固活性低値の血友病保因者に対する定期補充療法の有効性を示す1例である.rFVIIIFc製剤を定期補充療法的に投与する場合,3~5日間隔での投与を原則とするが,患者の状態により週1回の投与とすることも可能である.本症例は診断時のFVIII活性に基づくと軽症血友病に相当する症例であったため,まずは週1回から開始したが,定期補充療法を開始する前の出血頻度(関節内出血のみ)が8か月に一度と高かったため,今後,出血を繰り返すようであれば2回/週の投与も視野に入れている.

症例2では,血友病B保因者妊婦(初診時FIX活性35%)の帝王切開分娩においてAlbutrepenonacog alfaの補充を行い,出産に至った.経腟分娩,帝王切開の選択において,どちらが母児へのリスクが少ないかの議論については結論が出ておらず,状況に応じて考慮すべきであると考えられている7.本症例では両親の希望で経腟分娩が選択されたが,分娩停止により帝王切開となった.本邦においては,日本血栓止血学会と日本産婦人科・新生児血液学会とが協働し,適切な血友病の周産期管理を目指した「エキスパートの意見に基づく血友病周産期管理指針2017年版」が作成されており,経腟分娩では分娩前に活性値を50%以上,分娩中は活性値トラフ値を50%以上に維持,産褥期も3日間は血中活性値を分娩時と同レベルに維持するよう示されている.また,帝王切開分娩では活性値を術中80~120%に維持できるよう手術直前に上昇させ,術後5日間はそのトラフ値が50%以上になるよう維持することが推奨されている8.欧州においては,分娩時の凝固因子活性値として最低でも50%,80~100%まで補充するのが望ましいとされ,分娩後の凝固因子活性としては最低3日間,帝王切開の場合は5日間,50%以上に維持することが望ましいとの基準がガイドラインで示されている7.一方,各製剤における具体的な周産期管理方法までは言及されていない.本症例では,帝王切開の12時間後および36時間後のFIX活性はそれぞれ73%,90%といずれも50%以上であったが,追加でAlbutrepenonacog alfa 2,000単位の投与を行っている.活性値からは追加投与は不要であったと考えるが,活性値を院内で測定しておらず即日結果が得られなかったために追加投与を行った.

また,血友病AとBの保因者妊婦で,それぞれ凝固因子の動態が異なることにも注意が必要である9.血友病A保因者の場合,妊娠から出産にかけて生理的に第VIII因子活性が上昇し,ほとんどの場合,活性値は正常範囲となる.ただし,生理的に上昇した凝固因子活性も出産後には低下するため,分娩後の管理には注意を要する.一方で血友病B保因者の場合,生理的なFIX活性の上昇は少なく,凝固因子補充療法が必要となる場合がある.本症例では妊娠34週目に実施した試験投与から,FIX活性を,経腟分娩の場合は50%以上,帝王切開の場合は100%までの補充に必要な投与量を定め,それぞれ1,000単位,3,000単位のAlbutrepenonacog alfa投与を行うこととした.本症例では分娩停止のために緊急帝王切開となり,3,000単位の投与を行い,帝王切開後のFIX活性は98%であった.本症例では予備的な試験投与の結果のおかげで,緊急帝王切開に適切に対応できたといえる.

本邦における血友病保因者の分娩出産報告は2報あり,それぞれ血友病A保因者1例および血友病B保因者1例10と血友病B保因者1例11の経膣分娩が報告されている.森らの報告した2例では,凝固因子補充は行われておらず,1例では産後弛緩出血を起こして出血性ショックとなり,輸血が行われた 10.西森らの報告では,分娩開始時から遺伝子組換え凝固第IX因子の予防的補充投与が行われ,出血は認められなかった.本症例は低凝固因子活性の血友病B保因者に対する緊急帝王切開に対し,半減期延長製剤の試験投与によって適切に対処できた本邦初の報告である.血友病保因者の出産には産科医と血液内科医の連携が必要であり,また,医療チームと保因者妊婦・家族でリスクベネフィットを勘案した上で分娩方法などを決定することが重要である.医療従事者にとっても保因者妊婦にとっても安心できる分娩を行うために,本症例報告が本邦の医療環境に照らし合わせた現実的かつ周到な周産期管理の一助となれば幸いである.

4.結語

凝固因子活性が低値の血友病保因者2名に対し,1例では,保因者であることの認識不足から関節内出血の治療開始が遅れ改善までに時間を要した.もう1例では,周産期管理における凝固因子製剤の試験投与の有用性が示唆された.いずれの症例においても,早くから医師と患者間で凝固因子活性が低値であることを共有することの重要性が示された.保因者健診の時期や告知については様々な議論があるが,少なくとも父親が血友病で確定保因者であることがわかっている場合は,生後できる限り早期に凝固因子活性の評価を行うことを勧めたい.ただし,FIX活性は出生時には低値であるため,生後半年頃に再検査が必要となる8.患者への情報提供,啓蒙には遺伝カウンセラーが大きな役割を担うことが期待されるが,本邦には血友病医療を熟知した遺伝カウンセラーが少なく,さらなる育成,充実が望まれる.また,保因者への凝固因子製剤の使用機会が増えることによるインヒビター発現の頻度など,保因者への定期補充には医学的な課題も多く,さらなる研究が必要である.

謝辞

本論文のメディカルライティング補助は,CSLベーリング社の資金提供のもとシュプリンガー・ヘルスケア,inScience Communications(鈴木裕,Ph.D.)が行った.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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