Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Technical Lecture
Chromogenic assay in hemopihilia treatment
Mika OGAWAAtsuo SUZUKINobuaki SUZUKITakayuki NAKAYAMA
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2022 Volume 33 Issue 1 Pages 75-79

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1.はじめに

血友病は凝固因子活性により重症度が分類される.活性値は臨床的出血症状とよく相関し,血液凝固因子製剤の補充療法など治療へ反映されるため,その精確性は極めて重要である.血液凝固因子活性の測定は,古くから主に凝固一段法により行われており,本邦では自動化が進んでいることからも広く普及している.一方,欧州で主に用いられてきた合成基質法は,自動分析装置に搭載可能な試薬が開発されたことを皮切りに,本邦でも2017年に合成基質法による第VIII因子(FVIII)活性測定,2018年に同じく合成基質法による第IX因子(FIX)測定が保険収載された.ここでは血友病における凝固一段法と合成基質法の特性や,合成基質法による凝固因子活性測定の現状と今後の最適な臨床応用について述べたい.

2.凝固因子活性の測定法(図1)

世界的にみて最も普及している凝固一段法は,プロトロンビン時間(PT)あるいは活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)の原理に基づく手法である.ある凝固因子欠乏血漿の凝固時間が,標準血漿あるいは被検血漿の添加により補正される程度を比較することで被検血漿中におけるその凝固因子活性を求める.例えば,FVIII活性測定では希釈した検体血漿とFVIII因子欠乏血漿を混和し,APTT試薬を添加してインキュベーションを行なった後,カルシウムを加え凝固時間を測定する.測定した凝固時間を,あらかじめFVIII活性が判明している標準血漿を用いて作成した検量線と対応させることで検体血漿のFVIII活性を求める.通常,自動分析装置による測定では,単一の希釈倍率で実施するsingle-dilution analysisが主流であるが,WFHのガイドライン1では3種類の異なる希釈系列で測定を行い,標準血漿の希釈系列に対しparallelになるかを確認する手法(multi-dilution analysis, parallel-line analysis)が推奨されている.この方法はループスアンチコアグラント(LA)や抗凝固剤の影響を受けやすく,その存在を検証することが可能である.

一方の合成基質法は,2段階の反応により構成される.一段階目で被検血漿中のFVIIIあるいはFIX活性に依存した活性化第X因子(FXa)が生成され,二段階目でFXaに対する特異的な発色性合成基質と反応させることにより,生成したFXaを定量する.FVIII活性測定を例に挙げると,一段階目で希釈した被検血漿にFVIII活性化のためのトロンビンと活性化FIX,FX,リン脂質およびカルシウムを加えインキュベーション時間を長くとる.十分なFXaを生成させたところで二段階目として発色性合成基質を加え,その発色を定量することで生成したFXaを測定する.このFXa量は検体血漿中のFVIII活性に依存するため,自動分析装置では吸光度や吸光度変化率等を用いて,あらかじめ標準血漿を用いて作成した検量線からFVIII活性を算出する.合成基質法は検体血漿の希釈を十分にすることで,時に凝固一段法で問題となるLAの干渉やヘパリンの影響を,受けにくいことが大きな利点の一つである.

図1

凝固一段法と合成基質法

凝固一段法:患者血漿に凝固因子欠乏血漿を基質として加え,APTTを測定.この際,APTTが患者血漿中のFVIII活性依存性に短縮することを利用し,その凝固因子活性を定量する方法.

合成基質法:内因系凝固過程においてFXがFIXa,Ca,リン脂質およびFVIIIの存在下でXaに変換される.Xaは合成ペプチド基質を特異的に分解し合成基質を遊離,その吸光度がFVIIIの活性に依存することを利用する方法.

著者作成.

3.凝固一段法の問題点

凝固一段法は,測定に用いる試薬(APTT試薬・凝固因子欠乏血漿を含む)や分析装置などが測定値の差を生じる要素であることが知られている.また,採血手技により偽高値となることや,LAの干渉を受け偽低値となることがある2.その他,APTTが延長するヘパリン製剤や直接トロンビン阻害薬(ダビガトラン)の使用ではその評価は困難である.

また,軽症血友病A患者の30%3,あるいは軽症または中等症血友病A患者の15~39%4では,凝固一段法と合成基質法とでその活性値に乖離が生じることが知られている.これらの患者の臨床症状は合成基質法の第VIII因子活性とよく相関するとされており5,凝固一段法の測定のみでは正常な活性を示し血友病と診断されない,あるいは実際の出血リスクよりも軽症とみなされる可能性がある.したがってWFHガイドラインでは,血友病Aの診断の際には凝固一段法と合成基質法の両者を用いてFVIII活性を評価することが推奨されている1

さらに近年,半減期延長型製剤(extended half-life: EHL)や抗体製剤の開発がすすみ,活性の精察はさらに困難になっている.様々な分子修飾されたEHL製剤においては,APTT試薬中の活性化剤の差が活性値の差として顕現することがあり,結果的に凝固因子製剤によって測定結果に差異が生まれる6, 7.抗体製剤では,トロンビンによる第VIII因子活性化を要することなくprocoagulant活性を示すため,APTTに基づいた凝固一段法ではその活性値の評価はできなくなる8

4.本邦における合成基質法の現状

凝固因子活性の測定は血友病拠点病院を中心に院内の検査室で施行され,2種の合成基質試薬はいずれも毎年採用施設が増えており,2021年時点で全国数十施設までFVIII活性測定試薬の採用が進んでいる.本邦での測定試薬の販売はそれぞれ一種類のみであり,現状,測定装置も限定される.また,多くの施設では外部委託が一般的であり,合成基質法を選択し依頼することが可能であるが,測定受託件数は2021年時点で合成基質法は5%程度にとどまっている(図2).

図2

外部委託検査件数(FVIII活性測定:凝固一段法と合成基質法)

著者作成.

院内検査室での合成基質法による凝固因子活性測定を実現するにあたって,当面の課題はそのコスト(採算性)である.もともとの検査件数が少ないことから,凝固因子活性測定自体を院内で実施していない施設が多い上に,合成基質法キットの試薬コストが凝固一段法に比して高いことからさらにハードルが高くなっている.この試薬コストの問題については海外でも一つの課題となっており,Kitchenらのシミュレーションデータでは,1バッチあたりの測定件数によって凝固一段法と合成基質法の1テスト費用は大きく変わり,およそ2倍程度の差が生じると示されている9.現在販売されている合成基質法キットは,溶解後の試薬を凍結して保存し,再融解して使用することが可能であるため,できるだけ1バッチあたりの検体数を確保し,コスト削減に努めるほかないというのが現状である.

とはいえ,実際の診療の際にはコスト以上に臨床症状を反映していることが重要である.血友病の診断時やEHL製剤のモニタリングなど,どのような機会に合成基質法による測定をするべきか検討が必要である.

5.二つの活性測定法で活性値が乖離する症例には注意が必要

現在の血友病治療における最も重要な目的は,定期補充療法などの予防療法を最適化することにより,関節内出血を極力抑え,血友病性関節症を予防することである.しかし,最近の研究では関節出血の減少が血友病性関節症の発症を完全には予防しないことを示唆している10.このような背景から,関節内出血の発症既往がない中等症以上の血友病でも,サイレントに血友病性関節症が進行するのか,またこれらの患者のFVIII活性値を名古屋大学医学部附属病院に通院する血友病A症例を対象に調査した11.対象症例は患者本人に関節内出血のエピソードがなく,さらに関節内出血の治療を受けた診療記録と製剤投与記録が一度もない成人血友病A患者であり,15症例がリストアップされた.この15症例に対し,両肘,膝,足関節のレントゲン評価を行い,血友病性関節症の有無を確認した.この関節評価はpettersson score(PS)にて一人の整形外科医師が評価を行った.結果はPSがゼロ(血友病性関節症がない)の症例が10例,PSあり(血友病関節症あり)の症例が5例であった.PSあり症例は全体的に年齢が高く,FVIII活性値やFVIII抗原量も低値という傾向があったが,統計上の有意差はなかった.しかし,興味深いことに,PSありの症例は合成基質法と凝固一段法の活性値の値に大きな乖離があり,合成基質法の値が凝固一段法の値の2倍程度高いという特徴を有していた(表1図3).この研究結果から中等症以上の関節内出血を発症しないような症例においても,凝固一段法と比較して合成基質法で活性値が高い症例では,サイレントに血友病性関節症が発症し進行するリスクがあり注意が必要と考えられた.このような結果となった理由として,合成基質法では活性測定の際にFVIIIを活性化させるためのインキュベート時間を十分に確保し,最終的なFXaの生成量を評価する検査法であるため,FVIIIが活性化しトロンビン生成が開始されるまでの時間的な評価は含まれない.一方,凝固一段法はフィブリン形成までの時間を測定するAPTTの測定原理を利用した検査法であり,フィブリンクロット形成までにかかる時間は評価されるが,生成したトロンビンを含めた量的な評価はされない.したがって,凝固一段法より合成基質法で活性値が高くなる症例は,最終的なFXa生成量はある程度保たれていても,生成するまでの時間を要するという特性が考えられる11.微小な関節内出血などを発症した際には,痛みとして認知される前に止血が得られるものの,止血までにある程度の時間がかかるため,それを繰り返すことにより,長期的には血友病性関節症の発症につながるのではないかと考えられた.このように,評価方法の異なる二つの活性測定法は,評価している対象も異なるため,その結果の違いが血友病の臨床症状にも影響を与える可能性が示唆された.

表1 臨床的に明らかな関節出血を認めない患者のPSに与える影響
PS negative (N=10) PS positive (N=5) P-value
mean±SD median [IQR] mean±SD median [IQR]
Age (years) 42.2±16.1 34 [31.8, 56.8] 57.4±15.7 67 [40.5, 69.5] 0.342
FVIII: C(CSA) (%) 7.6±5.1 9.3 [1.7, 11.2] 4.5±1.2 4.6 [3.4, 5.7] >0.999
FVIII: C(OSA) (%) 8.6±4.0 8.9 [7.3, 10.8] 2.4±0.4 2.2 [2.1, 2.9] 0.118
FVIII: C ratio(CSA/OSA) 0.9±0.4 1.0 [0.5, 1.1] 1.9±0.3 1.8 [1.6, 2.2] 0.020
FVIII:Ag (%) 19.3±20.5 10.8 [6.9, 25.2] 5.2±2.9 4.9 [2.4, 8.2] 0.120
PS 0.0 0.0 [0.0, 0.0] 6.8±5.1 9.0 [1.5, 11.0]

CSA:合成基質法,OSA:凝固一段法,FVIII活性:FVIII: C,FVIII抗原:FVIII: Ag,PS:Pettersson score

Mann-Whitney U test(Bonferroni correction)

Ogawa, M., et al., Thromb. Res. 188 (2020) 103–105.

図3

臨床的に明らかな関節出血を認めない患者におけるPSとFVIII活性(FVIII: C)

Ogawa, M., et al., Thromb. Res. 188 (2020) 103–105.

6.おわりに

血友病診断時には凝固一段法と合成基質法の両アッセイを評価する必要がある.これらの乖離を認める患者では,より慎重な関節症の経過観察と補充療法の強化が必要な可能性があり,組み合わせることで類推が可能である.また,血友病の新しい治療オプションにより,合成基質法による評価の重要性は増しており,今後その評価の妥当性の検討が必要である.

著者の利益相反(COI)の開示:

鈴木伸明:臨床研究(治験)(サノフィ)

その他著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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© 2022 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
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