Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Cancer and fibrinolysis—From experimental to clinical medicine—
Clinical aspect of cancer and fibrinolysis
Seiji MADOIWA
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2022 Volume 33 Issue 3 Pages 321-328

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Abstract

がんは,増殖や浸潤,転移の過程で止血と創傷治癒を担う血小板-血液凝固-線維素溶解(線溶)系を利用する.線溶系は,フィブリンを適切なタイミングと速度で溶解することにより,臓器血流を維持しつつ創傷治癒へと結びつける生体防御機構である.線溶系はがんに合併するさまざまな臨床症状と関連し,その病態ががん患者の生命予後に大きな影響を及ぼす.線溶系が抑制されるような病態はフィブリンの除去が遅延し血栓症のリスクとなり,がんが起点となる線溶系の活性化はがん患者に致死的な出血をもたらす.Urokinase-type plasminogen activator(uPA)やplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)は,がん患者の生命予後の予測や治療を選択するためのバイオマーカーとして活用されつつあり,またuPA receptor(uPAR)の画像診断への応用も期待される.がんが周辺組織への浸潤や転移,増殖する際に用いるuPAやuPAR,PAI-1を標的とするユニークながん治療薬の開発が進められている.

1.はじめに

生体は,外傷や微生物の侵入などの外的侵襲に対して血小板とフィブリンを主とする止血栓を形成し,血液成分の血管外への漏出を防ぎ,病原体などの播種を阻止する.線維素溶解(線溶)反応は,活性化因子とその制御因子から構成される統合的なシステム(線溶系)を形成する.線溶系は,フィブリンを適切なタイミングと速度で溶解することにより,臓器血流を維持しつつ創傷治癒へと結びつける生体防御機構であり,多彩な生命現象や様々な病態にも深く関与する.

がんは「治癒することのない創傷」と表現されるように,その増殖や浸潤,転移の過程で血小板-血液凝固系-線溶系を利用する.1878年Billrothは,腫瘍細胞がフィブリン塊の中に存在することをみいだし,フィブリンが腫瘍の増殖と浸潤を促進するという仮説を立てた1.以来,線溶系因子ががんに合併する様々な臨床症状と関連することや,予後に大きな影響を及ぼすことも明らかにされつつある.

本稿では主に臨床的観点から,がんに生じる線溶病態と止血異常との関連性を論じ,がん診断における線溶系因子の応用,さらに線溶系を標的とするがん治療の可能性について概説する.

2.がんの止血異常と線溶

1)線溶系による血栓溶解と血管外タンパク分解

血管内腔が生理的な状態にある限り,線溶反応が自律的に活性化することはない.これは,反応の開始点となる組織型プラスミノゲンアクチベーター(tissue-type plasminogen activator: tPA)に比して,その制御因子であるプラスミノゲンアクチベーターインヒビター-1(plasminogen activator inhibitor-1: PAI-1)が過剰に存在することや,プラスミノゲンの活性化反応に補因子としてフィブリンを必要とするためである.何らかの要因により凝固反応が活性化し,生じたフィブリンにより血流が途絶するような場合,虚血刺激は血管内皮細胞に対してtPAの産生と分泌を促す.tPAの放出量がPAI-1による中和能を凌駕すると,tPAはフィブリンのγ鎖に結合しプラスミノゲンもα鎖やγ鎖に結合する.これらがtPA-プラスミノゲン-フィブリン三量体を形成することで,tPAによるプラスミノゲンの効率的な活性化反応が生まれる.生成したプラスミンはフィブリンを分解するが,この過程でフィブリンのα鎖のカルボキシル末端部にリジン(Lys)残基が多数露出し,プラスミノゲンがこのLys残基に向けて次々と結合していく.その結果,tPAによるプラスミノゲン活性化反応が一段と進行するため,大量に生じたプラスミンによるフィブリンの分解が加速度的に進む.これら一連の反応は,開始段階でPAI-1,作用部位ではα2プラスミンインヒビターやthrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)などで制御されており,止血栓を維持しつつ血管閉塞を回避するという巧みに調節された血栓溶解を可能にしている.

線溶系による血管外のタンパク分解反応において,ウロキナーゼ型プラスミノゲンアクチベーター(urokinase-type plasminogen activator receptor: uPA)と特異的に結合するuPA受容体(uPA receptor: uPAR)が反応の「場」を提供する.uPARは,線維芽細胞,血管平滑筋細胞,白血球や骨髄細胞のなどに存在する膜タンパクである.uPARは,互いに相同性の高い3つの領域(D1, D2, D3)と,それらのカルボキシル側にあるグリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidylinositol: GPI)アンカーを介して細胞膜に結合している.uPARは細胞内領域を持たないが,シグナル伝達に関与する膜タンパクの多くが集中するラフトと呼ばれる部位に存在する.この部位は細胞が浸潤する際の先端部分に相当し,uPARがuPAを結合させることで反応系に空間的な極性が生まれる.酵素活性を持たない1本鎖uPAは,プレカリクレインや活性型第XII因子により活性をもつ2本鎖uPAへ変換され2,プラスミノゲンを活性化することで生じたプラスミンが,マトリックスメタロプロテアーゼ-3(matrix met al.:loprotease-3: MMP-3)やMMP-9を活性化する.uPARを発現する細胞では,一連の反応により生じた活性型MMPsが細胞外マトリックス(extracellular matrix: ECM)を分解すると同時に,高分子量キニノゲンによりuPA-uPARを介するビトロネクチンとの接着が解除されることで,浸潤と遊走能を獲得する.

2)がんに生じる血栓と線溶病態

がん患者に合併する血栓塞栓症は,がん関連血栓症(cancer-associated thrombosis: CAT)と呼ばれ,がん患者の予後に大きな影響を及ぼす3.このうち静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)は,腫瘍による圧排や臥床状態などによる血流の停滞,薬物療法などによる内皮障害とともに,がん自体がもたらす血小板-血液凝固系の活性化が危険因子となる.これらに加えて,線溶系が抑制されるような病態が生じると,フィブリンの除去が遅延し血栓症のリスクがさらに高まると考えられる4

ある種のがんでは,様々な遺伝子変異やがん組織に生じる低酸素状態により,MET oncogeneが恒常的に活性化した状態にある5, 6.その産物で受容体型チロシンキナーゼであるc-METは,Src family kinaseを介しPAI-1の発現を亢進させる6.活性型MET oncogeneを導入したマウスでは,腫瘍が形成されると同時に腫瘍由来のPAI-1が止血栓の難溶化をきたし静脈血栓塞栓症に到ることが示されている7図1).卵巣がん患者ではがん自体やがん周辺組織においてPAI-1産生が亢進していることや8,リンパ腫患者の血漿中の活性型PAI-1濃度が高いこと,さらにクロット溶解時間が延長することなどが報告されている9.またVTEを高頻度に合併する膵がん患者では,血漿中のPAI-1抗原量と活性値のピークレベルが血栓症の発症率と関連することや10,活性型PAI-1濃度とVTEの発症リスクが正相関することなどが報告されている11

図1

がんによる血液凝固系の活性化と血栓形成機序(文献62, 63より引用,改変)

がん細胞が産生する組織因子や組織因子を含むマイクロパーティクルは,宿主の凝固系と血小板を活性化し血栓形成をもたらす.がん組織における低酸素刺激は,がん細胞に対しMETがん遺伝子を活性化させ,組織因子とともにPAI-1やCOX-2の発現,さらには腫瘍由来のサイトカイン産生を充進させることにより,凝固系の活性化.線溶系の抑制と内皮細胞障害をもたらす.

3)がんに生じる出血と線溶病態

前立腺がんや肺がんなどでは,腫瘍が産生するuPAにより線溶系が過度に活性化され致死的な出血をきたすことがある12, 13.急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia: APL)でみられる臓器出血は,ATRAなどの分子標的薬が治療に導入された今日においても早期死亡に繋がる重篤な合併症である.APLでは造血障害による血小板減少や,芽球由来の組織因子による播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)を合併するとともに,線溶系の非生理的な活性化による止血異常をきたす.これは,APL芽球やマイクロパーティクル上でアネキシンA2が過剰に発現することで,フィブリンの補因子機能を介さないプラスミノゲンの活性化反応が生じるためである14.アネキシンA2は本来,血管内皮細胞においてカルシウム依存性にリン脂質膜に結合するタンパク質である.細胞上のアネキシンA2は,S100A10とヘテロ四量体を形成し15,S100A10のカルボキシル末端部のLys残基にtPAとプラスミノゲンが結合し,tPAによるプラスミノゲンの活性化を効率良く進めることで,血管内に生じ得る血栓の制御を担う16.APLを引き起こすPML/RARα融合タンパクがS100A10の発現を誘導する可能性が指摘されているが,その詳細な機序は明らかでない17.APLに類似する線溶病態は,アネキシンA2を高発現するがん細胞が血管内皮を置換する血管内膜がん症(vascular intimal carcinomatosis)でもみられる18

3.がんの診断と線溶系因子

がんの有無や病期の評価とともに,治療法の選択やその効果判定,予後を予測するなどのために,がん診療において各種のバイオマーカーが活用されている.乳がん組織のuPAやPAI-1の多寡が悪性度や全生存率などと関連し,予後の指標となることが明らかにされている19, 20.米国臨床腫瘍学会は,新規発症のリンパ節転移のない乳がん患者に対して,予後予測や術後のアジュバント治療を選択するためのバイオマーカーとして,病理標本を対象にELISA法によるuPAおよびPAI-1抗原の定量を推奨している21.また,卵巣がんや膵がんにおいてもuPAやPAI-1の発現と予後との関連性が示されている22, 23

uPARは正常組織では僅かにしか存在せず,組織修復や炎症など様々な病態で発現が亢進することから,バイオマーカーに適した性質をもつ.循環血液中にはuPARとして,GPIアンカー部分が切断された完全長型の可溶性uPAR(full-length soluble uPAR: fsuPAR)と,fsuPARがさらに切断されD2とD3領域からなる切断型の可溶性uPAR(cleaved suPAR: csuPAR)が存在する24.uPARのD1領域がuPAなどのリガンドとの結合に重要であることから,D1領域を持つfsuPARとこれを持たないcsuPARでは背景となる病態が異なるが,市販されているELISA測定キットの多くは両者を区別できない2.suPARは,炎症や自己免疫疾患,ウイルス感染症,慢性腎疾患などで増加する25.また大腸がんや肺がん,前立腺がん,乳がん,卵巣がんでも高値を示し,その多寡が予後と関連することが明らかにされている2629.興味深いことに,血清中のsuPARのD1領域抗原量が小細胞肺がんの発症リスクと関連することも報告されている30

uPARを標的としたがんの画像検査が開発されている.AE105は,9個のアミノ酸(D-Cha-F-s-r-Y-L-W-S;大文字はL体,小文字はD体を示し,Chaはβ-cyclohexyl-(L/D)-alanineの略)から成るユニークなペプチドで,uPARのD3領域に親和性を持ちuPAのuPARへの結合を阻害する31.このペプチドを1,4,7-triazacyclononane-1,4,7-triacetic acid(NOTA)などで標識し68Gaでラベルすることでプローブとして用いるPET検査は,がんの浸潤や転移,悪性度の評価に有用であることが示され32, 33,複数の臨床試験が実施されている(表1).なお,AE105はuPAが結合したuPARには結合しないため,uPARを発現するがん病変を過少に評価する恐れがある.また,uPARに対する抗体(ATN-658)やuPAに対する抗体(ATN-291)などを用いたがんの画像検査も開発されつつある3436.ペプチド由来のAE105の半減期は数時間と短いが,ATN-658やATN-291などは抗体に由来する診断薬であるため,それらの半減期は数日間と長い.ATN-658はuPAとuPARの結合の有無に影響を受けないため,AE105と比較してがんの浸潤範囲などをより正確に把握できる可能性がある.

表1 公開されているがんの画像診断に対するuPARの臨床試験
ID 臨床試験名 対象疾患 方法 Phase 状態
NCT02945826 uPAR-PET/MRI in Glioblastoma Multiforme • Glioblastoma Multiforme • Drug: 68Ga-NOTA-AE105
• Device: PET/MRI
2 Unknown status
NCT03278275 PET/CT Imaging of uPAR-expression in Patients With Neuroendocrine Tumors Using 68Ga-NOTA-AE105 • Neuroendocrine Tumors • Drug: 68Ga-NOTA-AE105
• Device: PET/CT
2 Completed
NCT02965001 Phase II Trial: uPAR-PET/CT for Prognostication in Head- and Neck Cancer • Head and Neck Cancer • Drug: 68Ga-NOTA-AE105
• Device: PET/CT
2 Recruiting
NCT02681640 uPAR PET/CT for Preoperative Staging of Breast Cancer Patients • Breast Cancer • Drug: 68Ga-NOTA-AE105
• Device: PET/CT
2 Completed
NCT02964988 uPAR PET/CT in Radium-223-dichloride Treatment of Patients With Metastatic Castration-resistant Prostate Cancer • Prostate Cancer Metastatic
• Bone Metastases
• Drug: 68Ga-NOTAAE105
• Device: PET/CT
2 Terminated
NCT02805608 uPAR PET/CT and FDG PET/MRI for Preoperative Staging of Bladder Cancer • Urinary Bladder Neoplasms • Drug: 68Ga-NOTA-AE105 or 18F-FDG
• Device: PET/CT or PET/MRI
2 Unknown status
NCT02960724 uPAR PET/CT for Staging Advanced and Localised Oral and Oropharyngeal Cancer • Oral Cancer
• Oropharyngeal Cancer
• Head and Neck Neoplasms
• Drug: 68Ga-NOTA-AE105
• Device: PET/CT
2 Unknown status
NCT03307460 uPAR-PET/MRI in Patients With Prostate Cancer for Evaluation of Tumor Aggressiveness • Prostate Cancer • Drug: 68Ga-NOTA-AE105 2 Active, not recruiting
NCT02755675 uPAR-PET for Prognostication in Patients With Non-small Cell Lung Cancer, Malignant Pleural Mesothelioma and Large Cell Neuroendocrine Carcinoma of the Lung • Non-small Cell Lung Cancer
• Malignant Pleural Mesothelioma
• Large Cell Neuroendocrine Carcinoma of the Lung
• Drug: 68Ga-NOTA-AE105
• Device: PET/CT
2 Recruiting
NCT02437539 Evaluation of a New Radiotracer (68Ga-NOTA-AE105) for Diagnosing Aggressive Cancer With Positron Emission Tomography • Breast Cancer
• Prostate Cancer
• Urinary Bladder Cancer
• Drug: 68Ga-NOTA-AE105
• Device: PET/CT
1 Completed
NCT02139371 Evaluation of a New Radiotracer (64Cu-DOTA-AE105) forDiagnosing Aggressive Cancer With Positron Emission Tomography • Breast Cancer
• Prostate Cancer
• Urinary Bladder Cancer
• Drug: 64Cu-DOTA-AE105
• Device: PET/CT
1 Completed

4.がんの治療と線溶系因子

がんが周辺組織への浸潤や転移,増殖する際に用いるuPAやuPARを標的とするユニークな治療薬の開発が行われている.これらの薬剤は,基礎研究においてがんの増殖や転移を抑制する効果が示されているものの,臨床研究が十分に進んでいない.

1)uPAを標的とするがん治療

前立腺がんの動物モデルでは,uPAの酵素活性を阻害する化合物や活性を消失させた変異アナログにより転移や増殖が抑制されることが明らかにされている37, 38.一方,進行期の前立腺がん患者を対象に,uPA活性の阻害薬をプロドラッグ化した経口薬WX-671の第2相臨床試験や進行期の頭頸部がんを対象とした臨床研究では,いずれも有効性を示されていない39, 40

がんでは,uPA遺伝子のプロモーター領域に存在するCpGアイランドのメチル化が低下し,uPAの発現が亢進した状態にある.サプリメントとして用いられるS-adenosylmethionine(SAM)はメチル基を供給することで,がんでみられる低メチル化状態を解除しuPAの発現を低下させる41.ヒト乳がん細胞を移植したマウスモデルでは,SAMを経口投与することで腫瘍の増殖や転移が抑制される42.またがんでは,メチル化DNAに結合するmethyl-CpG-binding domain protein 2(MBD2)の発現が亢進状態にある.乳がんや前立腺がんのマウスモデルにおいて,MBD2に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドがuPAの発現を低下させることで,がんの増殖や転移を抑制することが示されている43, 44

2)uPA/uPARを標的とするがん治療

uPA/uPARの相互作用を阻害するような薬剤は,がんの画像診断のみならずがん治療への応用が期待される.uPAの136番から143番目のアミノ酸配列に相当するペプチドÅ(KPSSPPEE)45やuPARのD3領域に結合するペプチドなどは,いずれもuPAのuPARへの結合に作用しがんの増殖を抑制する可能性が示されている31, 45.また抗ヒトuPARモノクローナル抗体ATN-658とそれを完全にヒト化したhuATN-658や,抗腫瘍薬を結合させた抗体2G10は,マウスモデルにおいて原発性乳がんや前立腺がんの転移や増殖を抑制した4648

がんは,その細胞上に発現するuPA/uPARとビトロネクチンとの結合を介して自らの接着活性を変化させるだけではなく,上皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor: EGFR)に結合することでRAF-MEK-ERK経路を介するシグナル伝達系を介して,血管新生を促進,アポトーシスを回避しながら増殖する49, 50.実際に,uPAとuPAR遺伝子の発現を低下させると,がん細胞がアポトーシスに陥ることが報告されている51.uPARを高発現する高悪性度神経膠腫に対して,ウイルスベクターを用いてuPAR遺伝子のantisense oligonucleotides(aODNs)を導入すると,腫瘍の増殖が抑制される52.前立腺がんのマウスモデルにおいてuPARの18-mer(5'-CGG CGG GTG ACC CAT GTC-3')のaODNsがuPARの発現量を抑制し,骨転移を減少させた53.またsmall interfering RNA(siRNA)をもちいてuPAおよびuPAR遺伝子の発現を抑制することにより,PI3K/AKT/mTORのシグナル伝達が阻害され,Fasリガンドを介するアポトーシスが増加することがin vitroで示されている54.基礎データが蓄積されてきており,臨床への展開が待たれる.

3)PAI-1を標的とするがん治療

線溶系の制御因子であるPAI-1とがん患者の予後との間には負の相関が存在し,がんの進展がuPA/uPARによる過剰な細胞外タンパク分解作用だけでは説明できない55.がんが産生するPAI-1は,周辺組織の血管新生を促進し細胞内シグナル伝達経路を介しアポトーシスを抑制,細胞接着や遊走能を制御すると推測されている.PAI-1の作用を特異的に阻害することにより,がんの増殖,転移を制御しようとする薬剤の開発が進められてきた.低分子PAI-1阻害薬であるXR5967やTiplaxtinin(PAI-039),TM5441やTM5275,IMD-4482,さらにPAI-1の産生を阻害するSK-216などは,血管新生の阻害やアポトーシスの誘導,がんの浸潤や転移,増殖を抑制する作用をもつことが,様々ながん細胞株を用いたin vitroやマウスモデルで示されている22, 5660.一方,PAI-1に対するRNAアプタマーであるSM-20やWT-15は,PAI-1とビトロネクチンとの結合を阻害することにより,がんの浸潤と移動を抑制するという61

5.おわりに

新しい学際領域である腫瘍循環器学(oncocardiology)が誕生し,がん診療に併発する不整脈や心筋傷害などの循環器疾患の発症機序の解明とともに診断,治療法の開発などが精力的に行われている.CATは特に重要な研究テーマであり,線溶系の病態は患者の生命予後に大きな影響を及ぼす.がんの病態と臨床を線溶系の視点から捉えるようなユニークな研究が,我が国から積極的に発信されることを期待したい.

著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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