Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Topics: A new series “COVID-19 Infecion”
Neurologic manifestations of long COVID
Ichiro NOZAKIKenjiro ONO
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2022 Volume 33 Issue 4 Pages 421-425

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1.はじめに

新型コロナウイルス感染症(Coronavirus Disease 2019: COVID-19)に罹患した患者は多くの場合,後遺症を残さず治癒するが,中には急性期を過ぎた後も全身的な痛みや呼吸器系,心血管系,消化器系,精神神経系など多岐にわたる臓器の症状が持続する人々がいる.この状態はさまざまな呼称があり,long COVID,long-haul COVID,post-acute sequela of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2),post-COVID syndromeなどと呼ばれる1, 2.また,国際疾病分類第10版および11版(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems 10th Revision, 11th Revision: ICD-10, ICD-11)では,2020年9月から“post-COVID condition”として分類され,「通常COVID-19発症から3か月の時点で,少なくとも2か月以上持続する症状で,ほかの診断では説明がつかないもの」と世界保健機構(World Health Organization: WHO)により定義されている2.また,イギリスのNational Institute for Health and Care Excellence(NICE)では,post-CVID syndromeとして「COVID-19感染中もしくは後に発症した症候,症状が12週間以上持続し,ほかの診断では説明がつかないもの」と定義されている3.本稿では,以降,long COVIDという用語で統一し,その特徴などを述べていく.

2.疫学

感染後長期にわたり症状が持続する患者(発症・診断・入院後60日以上あるいは急性期からの回復・退院後30日以上経過しても症状が持続している患者)について,9,751例のシステマティックレビューでは,1つ以上の持続症状を呈する患者の割合の中央値は72.5%であり,54.0%が男性,年齢の中央値は60歳未満であり,併存疾患として糖尿病,高血圧を有している患者に多かったと報告されている4

25,031例のシステマティックレビューにおいて,感染後も何らかの症状が持続している患者の割合は,感染1か月後あるいは6か月以上経過後も中央値でともに54.0%であり,長期間にわたって一定割合で存在している5.こういった感染後の持続症状を呈する患者は,COVID-19自体の重症度とは関連せず,軽症から重症まで幅広く存在した4, 5

3.症状

報告が多い症状[( )内は症状を呈する人の割合の中央値]としては,息切れ(36.0%),疲労・倦怠感(40.0%)や,嗅覚障害(23.6%),味覚障害(15.6%),記憶障害(28.3%),集中困難(22.0%),認知機能障害(17.6%)といった神経症状,睡眠障害・不眠(29.4%),不安(22.1%),うつ(14.9%)などの精神症状であった4

神経筋症状に注目すると,57論文を対象としたlong COVIDのシステマティックレビューでは,上記と同じく嗅覚障害(13.4%),味覚障害(11.2%),集中困難(23.8%),記憶障害(18.6%),認知機能障害(17.1%)に加え,頭痛(8.0%),神経以外の筋症状として疲労あるいは筋力低下(37.5%),筋痛(12.7%)があり,中央値で54.0%が6か月以上経過しても症状が持続していた5

これらの症状のうち,大脳症状を表す言葉として “brain fog” という用語が用いられている.Brain fogは精神的に遅い,曖昧な,ぼーっとした感覚を指す一般用語で6,記憶障害,集中困難,喚語困難といった認知機能に関わる様々な症状を表し,明確な定義や説明は難しい7.Brain fogに関与する因子として,女性,呼吸器症状で発症,集中治療室入室が挙げられているが6,COVID-19感染症の重症度とは関係なかったという報告もある7.COVID-19感染3か月後の患者で7.2%に「集中困難と,集中力と思考力の悪化」といったbrain fogが認められたとする一方で 6,感染から回復した患者の約1/3に近時記憶障害,混乱,複数課題の遂行困難,睡眠障害といったbrain fogの症状が認められたという報告もある7

Brain fogは,慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome: CFS)の一部として扱われている報告もある.CFSとは,6か月以上続く,のどの痛み,新規発症の頭痛,持続的な筋痛・関節痛・筋力低下・疲労,易疲労性,集中困難,忘れやすさ,不眠,リンパ節の痛みなどを呈する疾患である.COVID-19後のCFSは,患者の年齢とは関連がないが,女性,COVID-19急性期の症状の数が多いこと,急性期の精神神経症状(めまい,頭痛,四肢筋力低下)が発症の予測因子となりうる8.軽度の認知機能障害をスクリーニングする際に使用される簡易認知機能検査,Montreal Cognitive Assessment(MoCA)を用いた場合,急性期の精神神経症状がMoCAの低スコアと関連し,特に遅延再生の項目で低下していたが,COVID-19急性期の症状の数や重症度とは関連していなかった8.COVID-19後に疲労を示す患者の神経精神機能を評価すると,アパシー,遂行機能障害,全般的認知機能低下が見られた9

COVID-19後6か月間は神経疾患,精神疾患の発症率も高くなり,それぞれ33.6%,12.8%になる10.236,739人のCOVID-19罹患者で,診断後6か月以内に[( )内は罹患率]脳出血(0.6%),脳梗塞(2.1%),パーキンソニズム(0.1%),認知症(0.7%),不安障害(17.4%),神経症性疾患(1.4%)の発症が認められた10

4.Long COVIDと類縁疾患

1930年代にロサンゼルスでポリオに似た流行性神経筋無力症を呈する患者が多数発生し,その症状は疲労,うつ,筋痛,頭痛,麻痺などであった11, 12.当初非典型ポリオと呼ばれていたが,1956年にこの疾患を「良性筋痛性脳脊髄炎」と呼ぶことが提唱された11.「良性」というのは死者がいなかったからだが,1988年にその身体機能障害の重篤さから「良性」が取れて「筋痛性脳脊髄炎(myalgic encephalomyelitis: ME)」として疾患定義が発表された11.MEは通常呼吸器や消化器からのウイルス感染に伴って始まり12,2011年の国際コンセンサス基準では,運動後の神経免疫性疲弊(身体および認知機能の易疲労性,運動後の症状増悪,運動後の疲弊,回復に時間がかかる,身体的・精神的疲労の閾値が低い),思考緩慢,集中困難,近時記憶障害,頭痛や筋痛といった痛み,睡眠障害,感覚の認識障害,筋力低下,胃腸・泌尿器の障害といったものが項目として挙げられている13

1948~49年に北アイスランドのAkureyriという町でポリオ脊髄炎に似た症例が465例と多数報告され,この町の人口の6~7%にも上った14.患者は15~19歳が最も多く,麻痺,微熱,四肢・体幹の痛み,筋痛,不眠,精神の不安定さ,記憶障害が主な症状であった14.「Akureyri病」もしくは「アイスランド病」と呼ばれた本疾患に類似した疾患の報告が1950年代に相次いだ14.これらは,MEとの類似性から同じ症候群であると考えられるようになった.

一方,1984年から88年にかけて米国ネバダ州北部と,隣接するカリフォルニア州の地域で似たような症状を示す400人以上の患者が発生した.その症状は,重度で長引く疲労,頸部リンパ節腫脹,繰り返すのどの痛み,集中困難や記憶障害に代表される認知機能障害,筋痛,巧緻運動障害であり,1988年にCFSという名前が提唱された11, 15.その後,MEとの類似性から,2003年カナダ臨床基準ではME/CFSとして定義されている16.同様の病態は,ほかにも流行性自律神経炎,ウイルス感染後疲労症候群,縫線核脳症,全身性労作不耐症など様々な名前で呼ばれている12

2015年のアメリカ医学アカデミーのME/CFSの診断基準を表117に示すが,臨床症状からもウイルス感染と頻繁に関連することからもlong COVIDと類似点が多い.また,COVID-19以外のほかのコロナウイルス感染症(SARS,middle east respiratory syndrome: MERS)でも感染後にME/CFS様の症状が多数の患者(30%)でみられたことがある18.しかしながら,COVID-19生存者でME/CFSの診断基準を満たす割合は13~85%と報告によってさまざまであり18,ME/CFSと同一の病態かどうかは今後のさらなる調査が必要である.

表1 アメリカ医学アカデミーのmyalgic encephalomyelitis(ME)/chronic fatigue syndrome(CFS)診断基準(文献17より改変)
ME/CFS診断基準
診断には患者が以下の3つの症状を有していることが必要である.
1.職業的,教育的,社会的,個人活動度が病前に従事していたレベルより大幅に低下もしくは障害されている.この状態は,しばしば重度となる疲労を伴って,6カ月以上持続し,新規に発症したもので(生まれた時からのものではなく),進行中の過剰な労作による結果ではなく,休息で十分に改善しない
2.労作後の倦怠感
3.疲れの取れない睡眠
以下の2つの特徴のうち少なくとも1つが必要である.
1.認知機能障害
2.起立不耐症

5.診断

Long COVIDは,WHOやNICEにより臨床的特徴,経過で定義されており,検査データや画像所見で特徴的なものはない.しかし,これらの定義にもあるように鑑別が重要である.今後の治療に関わるものであることから,類似のME/CFS様症状を呈する他の疾患を臨床検査,画像所見等で慎重に鑑別していかなければならない(表2).

表2 Long COVIDと類似の病態を示す疾患(文献17より改変)
内分泌・代謝性疾患 原発性副腎不全,Cushing症候群,甲状腺機能亢進症あるいは低下症,糖尿病,高カルシウム血症
感染性疾患 ヒト免疫不全ウイルス感染症,ライム病などのダニ媒介性疾患,B/C型ウイルス性肝炎,結核,ジアルジア症,ウエストナイル熱,Q熱,コクシジオイデス症,梅毒,Epstein-Barrウイルス感染症,パルボウイルスB19感染症
消化管疾患 セリアック病,食物アレルギー/不耐症,炎症性腸疾患,小腸内細菌異常増殖症
毒性物質曝露による疾患 薬物乱用による亜急性疾患,重金属(鉛,水銀),真菌/マイコトキシン,薬剤の副作用,湾岸戦争症候群
リウマチ性疾患 全身性エリテマトーデス,関節リウマチ,多発筋炎,リウマチ性多発筋痛症
睡眠障害 睡眠時無呼吸症候群,ナルコレプシー,周期性四肢運動障害
心血管系疾患 心筋症,冠動脈疾患,肺高血圧症,心臓弁膜症,不整脈
呼吸器疾患 気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患
腫瘍性疾患 原発性および二次性悪性腫瘍
神経疾患 多発性硬化症,Parkinson病,重症筋無力症,ビタミンB12欠乏症,脳脊髄液減少症,Chiari奇形,外傷性脳損傷,脊柱管狭窄症,頭蓋頸椎移行部不安定性,てんかん
内因性精神疾患 不安症,うつ病,双極性感情障害
血液疾患 貧血(鉄欠乏やほかの治療可能な原因による),鉄過剰症
その他 高度肥満,過労,オーバートレーニング症候群

6.病態

Brain fogを含むCFSを引き起こすメカニズムは明らかにはなっていないが,血液脳関門から直接嗅球を通じて侵入したSARS-CoV-2ウイルスが脳内炎症を引き起こす説や,ウイルス自体ではなく免疫系の過活性化が考えられている7.免疫系の異常としては,急性期疾患に引き続いて活動性の低い慢性神経炎症の状態にあるという説や,脳以外の部分にウイルスが炎症を引き起こし,それが体液や迷走神経を通じて脳内の自然免疫反応を活性化する説が挙げられている8

疲労症候群においてはGamma amino butyric acid(GABA)作動性とドパミン作動性神経ネットワークの不均衡が示されており,COVID-19関連炎症によるGABA作動性神経の機能障害が疲労,アパシー,遂行機能障害の原因となる可能性が指摘されている 9.また,これまでの動物実験等のデータから神経炎症による様々なサイトカインを通じて,疲労を引き起こしうることが指摘されている(図119.その一つがinterleukin-6(IL-6)であり,long COVIDの精神神経症状を引き金となりうる20.IL-6は急性期においても重症化に関連しており,重要なサイトカインであるが,ヘルパーT(Th)細胞であるTh17を活性化して制御性T細胞を抑制することでTh17/制御性Tのバランスを崩し,あるいはTh17や制御性T細胞の反応欠如を引き起こす20.IL-6は記憶過程に影響し,うつに関連する前部帯状回を活性化し,睡眠関連経路にも影響する20

図1

炎症による疲労発生の推定メカニズム(文献19より改変)

末梢からのサイトカインは,神経伝達物質の前駆体であるアミノ酸の生物学的利用を変化させることで,間接的に中枢神経伝達に影響を及ぼす.また,免疫・脳連絡経路を活性化し,脳が血液脳関門の障害なく末梢の免疫状態について感知できるようにする.さらに,中枢神経系の血管内皮細胞,マクロファージ,ミクログリアからプロスタグランジン,サイトカインといった炎症性メディエーターの産生,放出を促す.これらの炎症性メディエーターは神経細胞に直接,あるいはアストロサイト,オリゴデンドロサイト,血管内皮細胞などの細胞機能を変化させることで間接的に影響を及ぼす.自然免疫細胞やT細胞の関与する全身性炎症と神経炎症によりミクログリア活性化を中心とした炎症により神経細胞などの障害が起こり,炎症性メディエーターを介して疲労など行動反応につながる.

7.治療とその展望

根本的な治療法はなく,現在のところ薬物療法,非薬物療法を含めた対症療法のみである.しかし,2回のSARS-CoV-2ワクチン接種により,28日以上症状が続くリスクを減少させたと報告されている(オッズ比0.51,95%信頼区間0.32~0.82)21

8.おわりに

COVID-19が世界的に蔓延してはや3年になろうとするものの,まだ新しい感染症で,long COVIDはさらにそれに付随して登場した疾患概念であり,未解明の部分が極めて多い.しかし,CIVID-19患者の増加に伴い,long COVIDに苦しむ患者の増加も予測される.現在in vitroin vivo研究などを中心にエビデンスが集積されつつあり,早急な治療法の開発等が待ち望まれるところである.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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© 2022 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
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