Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
Online ISSN : 1880-8808
Print ISSN : 0915-7441
ISSN-L : 0915-7441
Reviews: Thrombosis after disaster in Japan
Positive rate of below-the-knee deep vein thrombosis in the Japanese general population without disaster in recent years
Kazuhiko HANZAWAMaiko IKURA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 33 Issue 6 Pages 675-682

Details
Abstract

災害の無い地域一般住民の下腿深部静脈血栓症(below the knee deep vein thrombosis: BKDVT)を検討した.対象は男性477人,女性998人,不明4人,平均年齢61.3±16.0才で,BKDVTはエコー検査で確認した.BKDVTは64人(男性15人,女性49人,平均年齢73.2±8.5才)(4.3%)に認め,ヒラメ筋静脈56人,腓骨静脈5人,膝窩静脈2人,ヒラメ静脈と腓骨静脈が1人,片側49人,両側15人であった.BKDVTは65才を超えると増加し単変量解析によるリスク因子は年齢>70才,ヒラメ筋静脈最大径8.5 mm以上,高血圧,心臓病,虚血性心疾患,睡眠導入薬であった.多変量解析では女性,年齢>70才,心臓病または虚血性心疾患,であった.検査を予約で行った会場の陽性率(5.7±1.7%)は呼び込みだけで行った会場(2.4±2.8%)より有意に多かった(P=0.0373).BKDVT調査では年齢と被験者の集め方に注意が必要である.

1.諸言

日本の災害後において車中泊,避難所,仮設住宅などで避難を余儀なくされた被災者に超音波検査による下肢静脈検査(下肢静脈エコー検査)を行うと下腿深部静脈に頻度高く血栓が見つかることが多い14.しかし下腿深部静脈血栓症(below the knee deep vein thrombosis: BKDVT)の増加が災害および避難生活が原因なのかどうかを明らかにするためには平時の一般住民に対して被災地と同様に行った下肢静脈エコー検査結果が必要である.そこで大きな災害が20年以上発生していない地域の一般住民に災害被災地で行っているのと同様の方法で下肢静脈エコー検査を用いてBKDVTの陽性率を明らかにすることを目的とした.なお本研究は文部科学省科学研究費補助金事業の予算で行い,新潟大学倫理委員会の承認後に行った.

2.対象

2011年11月5日に横浜市栄区本郷中学校で開催された栄区祭りの会場にて呼び込みで募集してエコノミークラス症候群予防のための検査を説明し下肢静脈エコー検査などの検査を希望された230人(図1),2012年3月25日に栃木県壬生市の獨協医科大学で開催された市民公開講座のホームページで下肢静脈エコー検査などについて事前に案内し予約された140人,2012年9月22日に新潟県新発田市月岡温泉のホテル会場で開催された日本健康運動指導士会研修会にて呼び込みで募集し下肢静脈エコー検査を希望された76人,2012年9月28日に横浜市泉区福祉医療センターで開催された健康づくり活動フェアで行う下肢静脈エコー検査をホームページで事前に案内し予約された220人,2012年10月20日に新潟市の新潟大学大学祭の会場にて呼び込みで募集して下肢静脈エコー検査を希望された82人,2012年12月16日に広島市国際会議場で開催された広島脳卒中市民シンポジウム会場にて呼び込みで募集して下肢静脈エコー検査を希望された32人,2013年3月31日に栃木県壬生市の獨協医科大学で開催された市民公開講座のホームページで事前に下肢静脈エコー検査を予約された133人,2013年11月15日に開催された瀬谷区健康フェアのホームページで事前に下肢静脈エコー検査を予約された100人,2013年11月16日に横浜市西区一本松小学校で行うエコノミークラス症候群予防のための下肢静脈エコー検査のチラシを横浜市西区の町内会長から配布してもらい検査希望された180人,2013年12月1日に埼玉県大宮市で開催された埼玉県医学検査学会の会場にて呼び込みで募集し下肢静脈エコー検査を希望された145人,2013年12月3日に佐賀大学で開催された異分野融合地域防災研究シンポジウム会場にて呼び込みで募集し下肢静脈エコー検査を希望された14人,2014年2月21日に横浜市瀬谷区区役所の健診フロアで行う下肢静脈エコー検査をホームページで案内し事前予約された151人,2014年3月29日に新潟市の医療講演会会場にて呼び込みで募集し下肢静脈エコー検査を希望された9人の計1,501人に検査を実施した.うち過去の他地域での被災経験や欠測データを含む対象者を除外した1,479人を解析対象とした.

図1

Questionary for subjects

3.方法

検査受診者には本研究の概要について説明して承諾書を取得し,既往歴,症状,生活習慣についてのアンケート調査票を配布し記入されたものを回収した(図2).その後に血圧と酸素飽和度を測定,下肢静脈超音波検査(下肢静脈エコー)を行った.下肢静脈エコーは携帯型超音波装置LOGIC500(GEメディカル),CX50(フィリップスメディカルシステムズ),HS-171(本多電子),HS-1600(本多電子),サイプレス(シーメンス)7.5 MHz以上の周波数のリニアプローブを用い,被災地での検診と同様の方法で座位姿勢において膝窩静脈を含む下腿の深部静脈を押しつぶす圧迫法で血栓の有無を確認した.下肢静脈エコーを行う臨床検査技師者は新潟県中越地震,新潟県中越沖地震,東日本大震災などの被災地での検査経験者とした.見つかった血栓の性状は①静脈内に円形に見えて静脈直径の半分以上を占拠する浮遊血栓,②静脈壁に付着している壁在血栓,③静脈内に紐状に存在する索状血栓の3つに分けて記載した.さらに左右下腿のヒラメ筋静脈のうち最大径を記載した(図2).統計解析については,対象者の群間比較は,連続変数や順序変数の場合にはt-testあるいはMann-Whitney U-testを,カテゴリー変数の場合にはχ2-testあるいはFisher’s exact testを用いた.BKDVTに関与する危険因子を明らかにするために,多重ロジスティック回帰分析を用いた.有意水準はp<0.05を有意とみなした.すべての統計解析には,JMP14(SAS Institute Japan Ltd, Tokyo JAPAN)を用いた.

図2

State of examination (Hongo junior high school, Sakae-ku, Yokohama city, November 5, 2011)

4.結果

対象の性別は男性477人,女性998人,不明4人で全体の平均年齢は61.3±16.0才,男性の平均年齢は59.5±18.3才,女性の平均年齢は62.1±14.8才であった.下肢静脈エコーによる膝窩静脈を含む下腿深部静脈血栓(本稿のBKDVTとする)は64人(男性15人,女性49人,平均年齢73.2±8.5才)で陽性率は男性で3.1%,女性で4.9%,男女合わせて4.3%であった.各年代の膝窩静脈を含む下腿深部静脈血栓(本稿のBKDVTとする)を図3に示す.40才を超えるとBKDVTが検出され始め,65才を超えると急激に増加し,80才を超えると陽性率は10%を超えた(図3).

図3

Age and frequency of BKDVT

BKDVTの位置は膝窩静脈2人(3.1%),腓骨静脈5人(7.8%),ヒラメ筋静脈56人(87.5%),ヒラメ静脈と腓骨静脈が1人(1.6%)であった(図4).また片側が49人(76.6%,右側21人,左側28人),両側15人(23.4%)であった(図4).BKDVTの性状は浮遊血栓が29人(45.3%),壁在血栓または索状血栓が28人(43.8%),浮遊血栓と壁在または索状血栓が混合したものが6人(9.4%),性状不明1人(1.6%)であった(図5).

図4

Number of positions in BKDVT

図5

Number of thrombus morphology

単変量解析によるBKDVTの有意なリスク因子は年齢>70才,ヒラメ筋静脈最大径8.5 mm以上,高血圧,心臓病,虚血性心疾患,睡眠導入薬であった(表1).一方,日本の災害後のBKDVTは女性に多いことから14,多変量解析では女性,年齢>70才,ヒラメ筋静脈最大径8.5 mm以上,高血圧,心臓病または虚血性心疾患,睡眠導入薬で解析した.その結果,女性,年齢>70才,ヒラメ筋静脈最大径8.5 mm以上,心臓病または虚血性心疾患が有意な独立したリスク因子であった(表2).

表1 Mono-variate analysis of risk factors for BKDVT
BKDVT (n=64) non-BKDVT (n=1,415) p-value odds ratio (95%CI)
age 73.5 (68.25–79) 65 (52–72) <0.0001**
age > 70 46 (71.9%) 482 (34.1%) <0.0001* 4.93 (2.83–8.60)
male 15 (23.4%) 462 (32.7%) 0.1196 1.59 (0.88–2.87)
SOLV > 8.5 mm 22 (37.9%) 322 (23.7%) 0.0127* 1.97 (1.14–3.39)
exercise habits 36 (57.1%) 784 (55.8%) 0.8338 1.06 (0.63–1.76)
smoking 2 (3.1%) 85 (6.0%) 0.5824 0.50 (0.12–2.09)
alcohol 17 (26.6%) 535 (38.0%) 0.0659 0.59 (0.34–1.04)
varicose vein 17 (26.6%) 301 (21.3%) 0.3136 1.34 (0.76–2.37)
leg trouble 41 (67.2%) 859 (63.1%) 0.511 1.20 (0.69–2.07)
hypertension 29 (45.3%) 428 (30.5%) 0.0124* 1.89 (1.14–3.13)
diabetes mellitus 8 (12.5%) 118 (8.4%) 0.2508 1.56 (0.73–3.35)
hyperlipidemia 23 (37.1%) 368 (26.5%) 0.0667 1.63 (0.96–2.77)
heart disease 24 (37.5%) 297 (21.2%) 0.0020* 2.23 (1.33–3.77)
ischemic heart disease 10 (15.6%) 36 (2.5%) <0.0001* 7.09 (3.35–15.04)
anticoaglant 6 (9.8%) 65 (4.7%) 0.1175 2.21 (0.92–5.33)
antiplatelet 9 (15.3%) 74 (5.3%) 0.0052* 3.19 (1.51–6.74)
drug for sleep 13 (21.3%) 138 (10.2%) 0.0107* 2.38 (1.26–4.50)
toilet supplies inavailable 17 (27.0%) 264 (19.3%) 0.1332 1.55 (0.87–2.74)
elastic stoking 15 (24.2%) 261 (19.0%) 0.3139 1.36 (0.74–2.46)
recent hospitalization/childbirth 2 (3.2%) 29 (2.1%) 0.3929 1.54 (0.36–6.59)

MDSOLV: maximum diameter of soleal vein

表2 Multi-variate analysis of risk factors for BKDVT
For BKDVT odds ratio 95%CI p value
gender 2.13* 1.08–4.18 0.0290
age > 70 5.02** 2.58–9.77 <0.0001
hypertension 1.30 0.73–2.33 0.3693
heart disease or IHD 2.08* 1.17–3.74 0.0133
SOLV > 8.5 mm 1.79* 1.01–3.16 0.0464
drug for sleep 1.20 0.59–2.44 0.6209

IHD: ischemic heart disease, MDSOLV: maximum diameter of soleal vein

次に検査会場ごとのBKDVT陽性率と被験者の集め方を表3に示す.当日の呼び込みだけで行った7検査会場での被験者数は計557人(男性222人,女性331人,不明4人,54.3±18.8才)で13人にBKDVTが見つかり陽性率は2.3%であった(図6).下肢静脈エコー検査について事前予約または事前にチラシなどで周知した6検査会場の被験者数は計922人(男性255人,女性667人,65.5±12.3才)で51人にBKDVTが見つかり陽性率は5.5%であった.一方,当日の呼び込みだけで行った7検査会場でのBKDVT陽性率は2.4±2.8%であり,事前予約または事前にチラシなどで周知した6検査会場での平均BKDVT陽性率は5.7±1.7%で,事前予約または検査周知した会場で有意に多かった(p=0.0373).また事前予約または事前周知有り群では静脈瘤,下肢腫脹・疼痛,心臓病,高血圧が多かった(表4).

表3 Differences of BKDVT in how to collect subjects at the examination site
Examination place Frequency of BKDVT Reservation of examination Advance notice
Sakae-ku, Yokohama city 3.0% × ×
Niigata University, Niigata city 0.0% × ×
Hiroshima city 0.0% × ×
Dokkyo Medical University, Mibu town 5.0%
Izumi-ku, Yokohama city 5.0%
Seya-ku, Yokohama city 9.0%
Nishi-ku, Yokohama city 5.6% ×
Saitama city 1.6% × ×
Saga University, Saga city 7.1% × ×
Dokkyo Medical University 2, Mibu town 5.3%
Seya-ku 2, Yokohama city 4.0%
Chu-o-ku, Niigata city 0.0% × ×
Shibata city 4.8% × ×
図6

Positive rate of BKDVT with or without reservation or advance notice

表4 BKDVT with or without reservation/advance notice
varicose vein leg edema, pain heart disease diabetes mellitus hypertension dislipidemia
Reservation/advance notice (+) 26.7% 64.0% 25.2% 8.4% 34.3% 28.5%
Reservation/advance notice (–) 12.9% 55.7% 16.0% 7.7% 25.3% 23.0%

5.考察

本研究において一般住民の希望者を募って検査した場合のBKDVT陽性率は4.3%であった.しかし,これは一般住民の罹患率ではなく検査を希望した一般住民の陽性率である.検査を希望するには理由があると考えられ,選択バイアスがあることから罹患率より高くなっていると考えられた.また女性の方が男性よりも約1.5倍多かった.女性で多いことは欧米でも報告があり5,ホルモン環境,妊娠・出産などが影響している可能性がある.なお男性で平均年齢が59才,女性62才であり年齢が影響している可能性もあるが,本研究結果では男女の55才から59才と60才から64才のBKDVTの陽性率に差は認めなかったことから男女における年齢の影響は少ないと考えられた.また血栓の見つかった位置はヒラメ筋静脈が87.5%,ついで腓骨静脈7.8%,膝窩静脈3.1%であった.BKDVTは左側に多く見つかったが,左右差は少なかった.BKDVTの有意なリスク因子は年齢>70才,ヒラメ筋静脈最大径8.5 mm以上,高血圧,心臓病,虚血性心疾患,睡眠導入薬であった.一方,災害後のBKDVTは女性に多いことから多変量解析では女性,年齢>70才,ヒラメ筋静脈最大径8.5 mm以上,高血圧,心臓病または虚血性心疾患,睡眠導入薬で解析したところ,女性,年齢>70才,ヒラメ筋静脈最大径8.5 mm以上,心臓病または虚血性心疾患が有意な独立したリスク因子であった(表2).また高血圧も単変量解析では有意なリスク因子となっていることから動脈硬化がBKDVTと関連している可能性も示唆された.なお高血圧は新潟県中越地震後のDVT検診結果でBKDVTの有意なリスク因子となっていた6.さらに心不全は静脈鬱滞を合併しやすいことなどからDVTの原因になると報告されており7,また女性の心不全の方がDVTを合併しやすいという報告もある8.虚血性心疾患および心臓病では心不全合併が影響してBKDVTの独立したリスク因子となった可能も考えられるが心エコー検査や血中BNP値などの心不全検査を行っていないので不明である.また本研究結果において静脈瘤は単変量解析,多変量解析ともにBKDVTのリスク因子ではなかった.これは本研究で行ったアンケート調査では静脈瘤の重症度がわからなかったこと,さらに一般住民が対象であったので軽症の静脈瘤が多かったことで関連が認められなかった可能性がある.本研究はイベント会場などで呼びかけて下肢静脈エコー検査を受けてもらう場合と,あらかじめ検査方法や検査場所を周知するなどしてから下肢静脈エコー検査を受けてもらう場合の2つを設定した.なぜなら災害急性期では避難所などで呼びかけて下肢静脈エコー検査を行うが,慢性期では周知してから検査会場に来てもらい検査することが多いからである.本研究結果においてBKDVTの陽性率は事前予約や事前周知せずに呼び込みのみで検査した群では2.3%,事前予約や事前周知を行った群では5.5%であった.一方,本研究で呼び込みのみで行った時の被験者平均年齢は54.3才で,事前予約および事前周知で集めた被験者平均年齢は65.5才でありBKDVTは図2のように年齢と強い相関を認めたことから年齢の影響も考えられる.そこで被験者の年齢とBKDVT陽性率でみると呼び込み群の平均年齢が含まれる50~59才におけるBKDVT陽性率は1.6%(3/184)であり,呼び込み群におけるBKDVTの陽性率2.3%との差は小さい.しかし事前予約および事前周知群の平均年齢が含まれる60~69才のBKDVT陽性率は3.3%(15/462)であり,事前予約または事前周知した群のBKDVT陽性率5.5%との差は大きい.これは事前予約または事前周知群では年齢以外の要因が影響している可能性を示唆していると考えられ,これは事前予約や事前周知群で静脈瘤,下肢腫脹,下肢疼痛,高血圧,心臓病が多かったことが影響している可能性がある(図6).下肢腫脹は心不全と関連する可能性があり,下肢腫脹で下肢疼痛を伴うことも少なくない.また高血圧も心不全の原因となる.事前予約または事前周知群では心不全が多かったことでBKDVTが多かった可能性がある.また事前予約または事前周知群では静脈瘤が多かった.一般に静脈瘤は下肢静脈血鬱滞の原因の一つであり関連性は否定できないと考えられた.以上のことから事前周知または予約を行うと検査対象の年齢は高く,疾患を持っている人が多くなりBKDVT陽性率が高くなる可能性が考えられた.以上のことから下肢静脈エコー検査を災害後の検診として行う場合は被験者の年齢と対象の集め方で陽性率に違いがあることに注意が必要であると考えられた.

謝辞

本研究についてご協力いただいた横浜市,横浜市保健所,新発田市,獨協医科大学,広島大学,新潟県内外の臨床検査技師ならびに医師の皆様に感謝いたします.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

榛沢和彦:講演料・原稿料など(第一三共(株)),企業などが提供する寄附講座(輝城会,橋本電子工業(株),JMR(株),(株)青海製作所,志成データム(株),オンヨネ(株))

伊倉真衣子:企業などが提供する寄附講座(社会医療法人輝城会,橋本電子工業株式会社,福助株式会社,志成データム株式会社,JMR株式会社,株式会社青海製作所,オンヨネ株式会社)

文献
 
© 2022 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
feedback
Top