Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Topics: A new series “COVID-19 Infecion”
The comparison between first wave of COVID19 and second wave due to Delta variant in India
Shizuko MATSUOKA
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2022 Volume 33 Issue 6 Pages 683-687

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1.緒言

インド国内には約1万人の邦人が在住しており,死亡するリスクのある新型コロナウイルスが感染症1が2020年1月以降,感染拡大する中,在インド日本国大使館において健康危機管理と邦人援護は中心の課題であった.インドでは公開情報のみだけでは実際の感染状況,臨床症状および治療を含めた医療体制を迅速に把握することは難しい.公開情報より早めに注意喚起を邦人社会に発信をするため,2月に現地の医療サービス会社と連携し,邦人の新型コロナウイルスの感染状況,臨床症状,検査結果情報,病院の医療体制等を把握するシステムを構築した.インドでは,従来型による第1波とデルタ株による第2波を比較したところ,第2波では感染者数および死亡者数が増加し2, 3,かつ45歳以下の若年層の死亡数増加が報告された3.COVID19の病態を理解するために,インド国内で発症した邦人感染症例を調査し従来株とデルタ株を比較検討した.

2.対象と方法

インド国内の邦人感染症例の症状,検査,治療内容,経過を調査した.検査内容だが重症化マーカーであるリンパ球数,LDH,CRP,フェリチン,D-dimer,IL-6が医療機関によっては測定され,胸部CTによる肺炎の確認が行われた.インドからの帰国者の検疫の変異株の公開情報とインド政府による変異株確認情報をもとに,従来株による第1波を2020年6月~2021年2月とし,デルタ株による第2波を2021年3月~11月とした.なお,全症例に重症化マーカーの検査や胸部CTは施行されていない.

また,第2波後に,邦人が在住している主要都市の医療機関を視察訪問し,COVID19を診療した医師より,第1波と第2波のCOVID19患者の比較に関する情報を収集した.

3.結果

第1波による邦人累積感染者数は73人,第2波では244人あり,エピカーブもインドの公開情報で作成されたエピカーブと類似した(図1).第1波で14人が胸部CTで肺炎が確認されたが,そのうち,呼吸困難を訴え入院した症例は8人(1人はICUに入院)であった.入院症例のうち,6人がフェリチンの上昇を認めるが,D-dimerの高値も認めたのはICUに入院した1例のみであった.初発症状が結膜炎であった症例が1例,蕁麻疹であった症例が1例あった.小児の症例は2例のみであり,2例とも家庭内感染であった.第2波では,胸部CT等で肺炎が確認されたのは30人であり,そのうち,ICUに入院した重症肺炎は14人であった.レムデシビル,デキサメタゾン,バリシチニブが入院例には使用された.また,急変後に初めて医療機関を受診し,コロナ感染が確認され死亡した症例が1例であった.小児の症例は13例であった.第2波では重症化マーカーのうち,CRP,フェリチンの上昇の他,Dダイマーの異常高値が特徴的であった.軽症の場合は,自宅でオンライン診療を受け,比較的早期に(3日以内)抗ウイルス薬(ファビピラビル)が処方された.Dダイマー高値症例には抗凝固薬が投与された.邦人症例に明らかな血栓症は確認されなかった(表1).

図1

インド国内の邦人新型コロナウイルス感染累積患者数

表1 第1波(従来株)と第2波(デルタ株)の邦人感染の臨床症状と検査所見の比較
第1波 第2波(1例死亡)
患者総数 73例(男性68例・女性5例) 患者総数 245例(男性(206例・女性39例)
小児 2例 小児 13例
平均年齢 46.0±13.3歳 平均年齢 43.0±11.7歳
無症状患者数 13.7% 無症状患者数 15.6%
発熱 69.9% 発熱 69.8%
24.6% 31.0%
咽頭痛 11% 咽頭痛 13.9%
関節・筋肉痛 16.4% 関節・筋肉痛 11.8%
倦怠感 16.4% 倦怠感 12.7%
頭痛 19.2% 頭痛 9.0%
嗅覚・味覚障害 12.3% 嗅覚・味覚障害 9.8%
下痢・腹痛 6.8% 下痢・腹痛 5.3%
肺炎 19.2%(ICU入院1人) 肺炎 12.2%(ICU14人入院)
その他の症状 結膜炎・蕁麻疹・胸痛 その他の症状 初期PCR陰性・鼻水・眼痛・耳痛・胸痛
重症化マーカーの特徴 フェリチンの上昇 重症化マーカーの特徴 CRP,フェリチン,D-dimerの高値

在日本国大使館および在日本国総領事館があり,邦人が在住しているインドの主要都市であるコルカタ,デリー,ムンバイ,ベンガルールの代表的医療機関との情報交換において,6医療機関より,第1波に比較しデルタ株による第2波の患者の多くにD-dimerの異常高値が認められたという確認が得られた.(表2)また,重症肺炎症例には肺塞栓症が20~25%と併発したという統計データを示す医療機関が二つあった.その他,末梢動脈の塞栓症が認められた症例を経験した医療機関もあった.第2波の流行期には,脳梗塞や冠動脈症候群の症例が増加したと印象を持つ医療機関もあった.

表2 邦人在住主要都市の代表的医療機関からの情報収集
都市名 病院名 内容
コルカタ AMRI病院 第2波で1,500人以上の入院患者・基礎疾患を問わず35歳~45歳の重症化と死亡.重症肺炎のみならず,重症肺炎の20%に肺塞栓症が合併.Dダイマーの高値の症例は多数見られた.
コルカタ Apollo病院 第2波で747床ある病床の400床をCOVID19専用として対応.35歳~45歳の重症化と死亡.Dダイマーの異常高値が見られた.典型症例でもPCR陰性となる例が多数認められた.
デリー Sir Garum病院 第2波では30歳から40歳代が重症化し死亡.第1波では血小板減少がみられたが第2波ではDダイマー異常高値.第2波では脳卒中と心筋炎の症例数が増加した.
ムンバイ Hiranandani病院 州政府の命令で第2波では病院全体がCOVID19病院に置き換わった.第2波ではDダイマーの高値を示し,塞栓症が多発した.
ムンバイ JASLOK病院 従来型と違い重症化する肺炎が多発したので,州政府と連携し酸素確保を行った.ムンバイではデリーのような酸素不足は州政府の迅速な対応で起こらなかった.病院全体がCOVID19病院となった.
ムンバイ Saifee病院 第2波ではDダイマー異常高値を示す症例が多発.抹消動脈の塞栓症や肺動脈塞栓症,脳梗塞,冠動脈疾患症例が増加.基礎疾患をもたない若年者の重症例が認められた.
ベンガルール Sakura病院 第2波では300床の内270床がCOVID19専用になった.第1はの致死率は5%であったが,第2波では15%.重症例の25%に肺塞栓症が認められた.

4.考察

2020年1月20日,武漢に渡航歴のないCOVID19感染者が北京市,上海市で確認された4ことを受け,COVID19がヒトからヒトへ感染を起こす感染症と認識した.したがって,インド国内へのCOVID19の感染拡大は必須と想定.1月21日には,大使館内でCOVID19のタスクフォースを立ち上げ,この新しいウイルスに対する危機管理の準備を開始した.武漢でのCOVID19の入院症例の臨床症状や検査所見が報告される中,感染者は回復する症例から,死亡する症例まで重症度が多岐にわたることがわかってきた1, 5, 6.また,非生存症例のリンパ球数低下,D-dimerの高値が,生存例に比較し有意に認められたと報告された6.治療法が確立されていないCOVID19でもあり,インドはECMO等の日本レベルの高度医療が期待できない.2月に入り,日系の医療サービス会社2社と連携し,邦人の感染状況と邦人が利用する外国人向けの医療機関のベッドの空き状況確認し報告してもらうシステムを構築した.3月23日よりインド政府はインドの全土封鎖を開始した.生活必需品以外の調達の外出は許可されない世界最大のロックダウンであり,その間の経済活動はほぼ停止した.また,インド政府から,すべての医療機関に対し,COVID19患者を診療するようにという指示が出された.3月24日のインド国内の累積感染者数は536人で,死亡数は11人であったが2,世界最大の封鎖の中でも,インドの感染は拡大し続けた.5月中旬には,インド政府は経済活動継続を考慮し,段階的なロックダウン解除を開始した.

PCR検査で陽性が確認された邦人初症例は,6月10日にムンバイ市で発症した症例であった.2020年7月ごろより,インド国内では私立医療機関によるオンライン診療・デリバリー検査・薬剤のデリバリーのシステムが発展し始めた.最初の邦人肺炎症例は7月末に発症した37歳の男性である.39°C以上の高熱が持続するために胸部CTを施行したところ,肺炎が認められ,7月よりインド国内で認可されたファビピラビルが治療薬として投与された.2020年5月に発行された新型コロナウイルス感染症・診療の手引き第2版において,有用な重症化マーカーとして,①D-dimerの上昇,②CRPの上昇,③LDHの上昇,④フェリチンの上昇,⑤リンパ球の低下,⑥クレアチニンの上昇が示されたので,邦人コロナ感染者が医療機関を受診する際は,この6つの検査を施行するよう医療サービス会社を介して医療機関に依頼した.これらの検査結果をもとに重症化する可能性のある症例を想定し,支援する体制を7月以降に整えた.従来株の蔓延期では,11月にICUに入院した邦人重症肺炎が1例発生.呼吸療法が行われ,レムデシビル,デキサメタゾンが投与され,回復した.

従来株による第1波は,9月16日に1日新規感染者数97,894人をピークに徐々に減少し,2021年2月16日には1日の新規感染者数が1万人を下回った.ところが,2月末より,急な感染拡大が認められるようになり2,主にマハラシュトラ州では,エピカーブの急峻な立ち上がりが観察された.3月17日,マハラシュトラ州のコロナ患者のサンプルの20%にE484QtとLA452Rの2重変異株が認められ,新たなvariant of concern(VOC)として認証すべきであるとインド国立Center for Disease Controlがインド政府に警鐘を鳴らしたことが報道される.ところが,24日,インド政府は,急な感染拡大と2重変異株の関連性を否定する見解を示した.3月中旬,フェリチンのみならず,CRPとD-dimerが異常高値を示す基礎疾患のない30代邦人男性2症例に遭遇した.公式な発表がない中,新たなより毒性の強い変異株の流行の可能性を考慮し警戒した.

3月末になると,在インド日本国大使館のあるデリー準州で,エピカーブが立ち上がり始めた.それと並行するように,在留邦人が多数在住するデリーとグルガオンでは,邦人のコロナ感染が急増し始めた.大使館からは,邦人社会に対して,インド国内の感染状況と邦人が利用する病床の占有率情報を発信し,第2波に対する警鐘を投げかけた.また,大使館領事班,医務班,総領事館,医療サービス会社2社と連携し,重症化する邦人症例に対する早期治療・対応の準備を開始した.4月に入り,新規邦人感染がさらに急増した.後ろ向き研究では第1波を2020年4月~6月,第2波を2021年3月~5月とし両者を比較している7.第2波は第1波と比較し,感染者数が2.4倍に増加,肺炎は重症化し,呼吸管理を必要とする症例も多く,死亡率も2.7~3.5倍と上昇したと示された2, 3, 7.実際,第2波における邦人のエピカーブもインドのエピカーブと類似しており,邦人社会においても感染拡大のインパクトは大きかった.各私立病院のオンライン診療では,パルスオキシメーター測定を指示され,酸素飽和度が90%以下に低下した際には入院という手順を確立していたが,4月に入るとベッド確保が困難を極め,この手順は破綻.邦人コロナ感染症例でも,酸素飽和度が低下する重症化症例が増加したため,大使館と医療サービス会社とで連携し,酸素吸入可能な医療機関の病床確保に当たった.

また,COVID19では血液凝固異常のみられる頻度が高く,血栓症が多発していることが知られている.肺の微笑血栓形成をD-dimerが正常値上限の倍異常増加する変化を察知し,他に臨床症状が乏しくとも積極的に抗凝固療法を行うことが推奨されていた8, 9.第1波では重症肺炎1症例以外は認められなかったD-dimerの異常高値が,第2波では肺炎症例のみならず,臨床症状が乏しい症例にも認められたため,抗凝固剤投与を,医療機関に働きかけ行ってもらった.邦人症例においては,明らかな血栓症例はなかった.一方,代表的なインド国内の医療機関では,COVID19患者に併発した肺塞栓症,冠動脈血栓症,脳梗塞を経験していた.5月に入ると,新規感染者数が徐々に低下し始めた.5月22日以降,6月中の邦人感染症例報告はなかった.6月初旬,インドで経験したデルタ株の感染性と毒性のインパクトについて,デルタ株が流行する前の各国の在外公館への医務官に対し発信した.

日本では,2021年7月~10月までにデルタ株による第5波が発生し,重症者,死者数が増加した.第5波の重症COVID19患者は若年者であったにも関わらず,救命率が低かったとあり,インドの状況と類似していた.早期に治療介入が必要な患者も医療体制の破綻により病院受診ができず,自宅待機中に未治療のまま重症化した可能性が考えられた10.インドでは,私立病院のオンライン診療と薬剤デリバリーが第2波の時には発達していたこともあり,邦人症例の場合,自宅待機中に早期に治療の介入と血液検査は可能であったことで,重症化する邦人患者の監視は可能であった.2021年5月ごろ,インドでのデルタ株の感染状況や毒性を迅速に把握し,情報を入手するシステムが,日本国内で確立されていなかった可能性がある.COVID19の流行は今なお遷延しており,新たなVOCであるオミクロン株が出現し,世界的な感染拡大が続いている.変異株の病態を迅速に把握することで,その病態に則した感染対策の向上が望まれる.

5.結論

デルタ株の邦人症例で認められたDダイマー等の重症化マーカーの異常値が,デルタ株の予後に寄与した可能性が示唆された.新型コロナウイルス感染症は変異株により病態に変化が生じ,世界的な感染拡大する感染症である.変異株が日本国内で感染拡大する前に早期に情報を入手するシステム構築が必要であると思われた.(外務省としての見解ではない.)

著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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