Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Update on clot waveform analysis (CWA)
Laboratory diagnosis of fibrinogen disorder using clot waveform analysis
Shinpei ARAINobuo OKUMURA
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2023 Volume 34 Issue 1 Pages 22-28

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Abstract

フィブリノゲン(fibrinogen: Fbg)は,臨床検査において活性値または抗原量として測定されている.Fbg異常の判断に両者の測定が有用であるが,多くの検査室ではClauss法に基づいた活性値のみを測定しているため,先天性Fbg異常症(congenital fibrinogen disorder: CFD)の見逃しが懸念される.近年,プロトロンビン時間(prothrombin time: PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT)の凝固波形解析(clot waveform analysis: CWA)が精力的に研究され,様々な凝固異常や抗凝固薬の研究に応用されるようになった.筆者らはこのCWAをClauss法に応用し,CFDにおけるCWAパラメーターの特性を明らかにした.さらに,CWAパラメーターから抗原量に相当するFbg値を算出するシステムが開発され,日常診療で鑑別対象となる後天性Fbg低下症と質的異常を呈するdysfibrinogenemiaおよびhypodysfibrinogenemiaを鑑別可能であった.今後も本システムの検証は必要ではあるが,Clauss法におけるCWAを活用することでFbgの質的異常を評価できる可能性が示唆され,CFDスクリーニングに応用されることが期待される.

1.はじめに

フィブリノゲン(fibrinogen: Fbg)は,プロトロンビン時間(prothrombin time: PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT)とともに,生体内の血液凝固能を評価するために欠かせない凝固検査項目の一つである.近年,凝固波形解析(clot waveform analysis: CWA)の研究が精力的に行われ,PTやAPTTにおけるCWAが様々な凝固異常や抗凝固薬の解釈に応用されている1.一方で,Fbg測定におけるCWAの研究報告はいまだに少ない.本稿では,Fbg異常,特に先天性Fbg異常症(congenital fibrinogen disorder: CFD)スクリーニングにおけるCWAの試みについて,筆者らの研究を交えながら概説する.

2.Fbg異常値の解釈

血中Fbg濃度は様々な病態によって大きく変動し,正常範囲を逸脱した異常値に遭遇することはそれほど珍しくない.日常診療では特に低値域の病態鑑別が重要視されており,その多くは合成低下や消費亢進などの後天性要因に伴うFbg低下症(acquired hypofibrinogenemia: aHypo)である.しかし,50 mg/dLを下回るような異常低値や低値の原因となる病態を説明できない場合にはCFDの可能性を考える必要がある.

臨床検査におけるFbg測定値には,Clauss法に基づいたフィブリンへの転化活性を反映する活性値2と,蛋白としての絶対量を反映する抗原量3の2種類が存在する.両者を測定することでCFDをはじめとするFbgの質的異常の鑑別が可能であるが,多くの検査室では活性値による測定のみが行われているのが現状である.抗原量測定が普及していない理由として,測定試薬の追加コストや維持コスト等の検査室側の負担に加えて,CFDの有病率が低く日常診療で遭遇する頻度がそれほど多くないこと4も影響しているのではと考えている.このような国内における測定系の事情によって,日常診療でCFDが見逃されている可能性は十分予想される.

3.CFDの診断

CFDの診断は,抗原量測定による表現型分類に加えて,Fbg遺伝子における病因変異の同定によって行われる.表現型は活性値と抗原量の組み合わせによって4つの型に分類される(表1).厳密に検証されたカットオフ値というわけではないが,慣習的に抗原量150 mg/dL未満の場合を量的異常と判断し,活性値/抗原量比が0.7未満の場合に質的異常と判断する5, 6.遺伝子解析は,患者末梢血白血球からDNAを抽出し,FbgのAα鎖,Bβ鎖,γ鎖をそれぞれコードする遺伝子(FGAFGBFGG)のエクソンならびにエクソン・イントロン境界部のダイレクトシークエンスを行う.発見されたvariant(変異と遺伝子多型の総称)を評価して,Fbg低値をきたす病因変異の同定を行う7

表1 先天性Fbg異常症の表現型分類
活性値 抗原量 活性値と抗原量の乖離
Afibrinogenemia(欠損症) 感度未満 感度未満
Hypofibrinogenemia(低下症) 低下 低下 なし
Dysfibinogenemia(機能異常症) 低下 正常 あり
Hypodysfibrinogenemia(低下+機能異常症) 低下 低下 あり

Fbg値150 mg/dL未満を「低下」,活性値/抗原量比0.70未満を「乖離あり」と判断する.

4.CFDの凝固波形

光学的検出法の種類によって描出される波形パターンは異なるが,Clauss法もPTやAPTTと同様に試薬添加後からフィブリン転化までの一連の光量変化を凝固波形として観察することが可能である.凝固検査だけに限った話ではないが,異常値に遭遇した場合には反応曲線を確認することは重要な習慣である.そこで,実際に筆者らの研究室で同定したFbg機能異常症(dysfibrinogenemia: Dys)について,透過光方式を採用している分析装置CS-2400(シスメックス株式会社)で得られた凝固波形を紹介する(図18.なお,本稿で紹介する症例の病因変異は,シグナル配列を除いた成熟型タンパクのアミノ酸残基として表記している.通常,透過光方式の凝固波形は逆S字状を示し,Fbg濃度が高くなるにつれて透過光変化の開始点が早くなり,波形の振幅も大きくなる傾向である.図1に示した症例はいずれも活性値が低いにも関わらず,振幅の大きさは健常人検体と同等もしくはそれよりも大きい波形を示し,JacqueminらもγArg275Cysの症例で同じ現象を報告している9.変異の種類によって凝固波形の形に差異は認められるものの,低い活性値と大きい振幅という一見矛盾するような検査所見はDysを推測することが可能な簡便かつ重要な手がかりではないかと考えている.

図1

Fbg機能異常症の凝固波形

*の症例(Bβ Ala68Thrホモ接合体)を除いて,いずれもヘテロ接合体の症例である.

aHypo:後天性Fbg低下症

Arai S et al. 20218より改変引用

5.Clauss法におけるCWAパラメーターの検討

前述のようにCFDで特徴的な波形を認めたことから,筆者らはClauss法におけるCWAをCFDスクリーニングに応用できないかと考えた.PTやAPTTのCWAではすでに様々なパラメーターが利用されているが,Clauss法でそれらのパラメーターを使用するには注意が必要である.Clauss法は測定時に10倍希釈した試料を用いるため,PTやAPTTと比較して測定試料中に含まれるFbg絶対量が少なく,つまり,フィブリン転化に伴う光量変化が乏しくなる.一次微分で得られるパラメーターは良好な再現性が得られるものの,二次微分では解析波形の揺らぎが大きくなってしまうことで再現性不良となる傾向にある.そこで,筆者らはシスメックス株式会社の自動分析装置でCWAの検討を行うにあたり,凝固波形の振幅(透過光変化量)を表すdH(図2A),一次微分波形で得られる凝固速度の最大値|min1|(図2B)に着目して検討を進めた8

図2

Clauss法におけるCWAパラメーターと|min1|検量線

Arai S et al. 202111より改変引用

Clauss法のCWAはSuzukiらによって初めて検証され,|min1|は試料中の干渉物質(ヘモグロビン,ビリルビン,乳び等)の影響を受けにくく,抗原量と最も強い相関性(r=0.9831)を示したことが報告された10.さらに,抗原量既知の試料を用いて|min1|の校正を行うことで,|min1|の値から抗原量を推算するアプローチも提案された.筆者らは,日常診療で鑑別対象となるaHypoを比較対照として,CFD 24例(Dys 19例,Hypodys 4例,Hypo 1例)におけるClauss法のCWAの特徴を解析した8図1に示した特徴的な波形を反映するように,dHはDysで有意に高い数値を示していた.一方,|min1|では有意差を認めなかったが,同様にDysで高値傾向を示した.これら2つのパラメーターを単純に使用するだけではaHypoと区別できないCFD症例が散見されたが,活性値とこれらのパラメーターの比(活性値/dH比,活性値/|min1|比)を用いることでaHypoとDysを鑑別することが可能であった.

6.CWAパラメーターから算出するFbg値の性能評価

Suzukiらと筆者らの研究成果をもとに,|min1|から従来の抗原量に相当するFbg値(本稿では|min1|cと呼ぶ)を演算するソフトウェアがシスメックス株式会社によって開発された.|min1|cは活性値測定用の標準物質を用いて検量線が作成され(図2C),Clauss法による活性値の測定と同時にmin1cが測定される画期的なシステムである.筆者らはこのソフトウェアを搭載した分析装置CN-6000を用いて,|min1|cの性能を評価する機会を頂いたので,その研究結果を紹介する11

初めにaHypo 131例を対象に抗原量と|min1|cの相関性を確認した.|min1|cは抗原量と比較して高値になる傾向を認めたものの,良好な相関性(r=0.822)を示した(図3A).この結果は,抗原量の代替検査法として一部で利用されているPT誘導法12の値と抗原量との相関性(r=0.682)と比較しても良好な成績を示していた.続いて,CFD 24例(Dys 18例,Hypodys 2例,Hypo 4例)を用いた検討では,抗原量より約100 mg/dLほど低値に乖離を示す6症例が認められ,相関性はr=0.689であった(図3B).乖離を示した症例はAα Arg16Cys,Aα Arg16His,Bβ Gly15Cys,γ Arg275Cysの変異を有しており,いずれもフィブリン重合反応に重要な残基の変異であった1315.これらの症例を除いた18例の|min1|cは抗原量と非常に近似した値を示し,相関性はr=0.881であった.

図3

抗原量と|min1|cの相関性

aHypo:後天性Fbg低下症,CFD:先天性Fbg異常症

Arai S et al. 202111より改変引用

さらに,質的異常の評価するための活性値/抗原量比に倣って活性値/|min1|c比を検証した.前述の活性値/dH比と活性値/|min1|比ではDysのみをaHypoと鑑別可能であったが(図4A,B),新たに検証した活性値/|min1|c比はDysに加えてHypodysも鑑別可能となった(図4C).aHypo 131例とDys+Hypodys 20例を対象とした活性値/|min1|c比のROC解析において,カットオフ値0.55を使用することで感度 0.90,特異度1.00,AUC(area under the curve)0.90の成績を示した.そして,このカットオフ値を使用して表現型分類を行ったところ,Dys 18例中15例(83%),Hypodys 2例中2例(100%),Hypo 4例中4例(100%)が抗原量を用いた従来の表現型分類と一致し,CFD 24例の全体一致率は88%となった.最後に,表現型分類が一致しなかったDys 3例の凝固波形を図5に示す.Aα Arg16Cysは,|min1|cが150 mg/dL未満を示したことでHypodysと判定したが,凝固波形は特徴的な大きい振幅(dH)を示しており,Dysの可能性を推測することは十分可能であると思われた.一方で,Bβ Gly15Cysは低濃度のコントロール試料と類似した波形を示し,|min1|cは抗原量と大きく乖離しただけでなく,活性値よりも低い値を示していた.この変異においては,現状のCWAでは抗原量を反映するようなパラメーターを見出すことは困難であり,引き続き検証を行っているところである.

図4

活性値/dH比,活性値/|min1|比,活性値/|min1|c比の比較

aHypo:後天性Fbg低下症,Dys:Fbg機能異常症,Hypodys:Fbg低下+機能異常症,Hypo:Fbg低下症,*:p<0.05,**:p<0.01

Arai S et al. 202111より改変引用

図5

表現型が不一致となった症例の凝固波形

Arai S et al. 202111より改変引用

7.今後の展望

Clauss法と同時に|min1|cを測定するシステムについて,直近でSuzukiらによって約1,000検体から構成されるコホートを用いたバリーデーションが実施された16.カットオフ値を0.65と設定した場合に,感度1.000,特異度 0.996,AUC 0.9996の成績を示し,臨床応用に耐えうる性能を有していることが報告された.ソフトウェアが搭載可能な分析装置という制限はあるが,抗原量の測定を実施していない検査室にとってClauss法でCFDをスクリーニングできる可能性が示唆され,今後の普及が大いに期待される.

筆者らは長野県内および県外の施設からコンサルテーションを引き受け17,これまでに約100例に及ぶCFDの解析に従事してきた.このような経緯もあって,一連の研究で計48症例のCWAを解析する機会に恵まれ,CFDスクリーニングにおけるCWAの有用性だけでなく,スクリーニング困難な症例の存在も明らかにしてきた.Aα Arg16とBβ Gly15はトロンビンによる加水分解部位,すなわちFPA・FPB放出部位であり,γ Arg275は1つの分子のD領域が別分子のD領域と長軸方向に結合(D:D結合)するために重要なアミノ酸である.これらの残基に変異を有した症例では,前述した通り|min1|cは抗原量と乖離し,表現型分類も不一致となった.そして,これらの残基はFbg遺伝子における変異のホットスポットでもあるため,CFDの中でも遭遇する可能性が高く,注意が必要である.また,活性値と抗原量に乖離を示さないHypoの凝固波形は,aHypoと類似していることからCWAでのスクリーニングは難しいと考えている.それらの症例は引き続き抗原量の測定ならびに病因変異を同定することで正確な診断に繋げていく必要がある.臨床検査における標準化の視点で考えると解決すべき課題は少なくないが,Fbg研究に携わる者として,Clauss法におけるCWAが大いに発展することを期待したい.

8.おわりに

Clauss法におけるCWAの試みについて概説した.PTやAPTTに限らず,Clauss法におけるCWAも有用であることが示唆され,今後の臨床応用に向けて様々な検証とさらなる発展が期待される.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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