2023 Volume 34 Issue 1 Pages 36-42
凝固波形解析(clot waveform analysis: CWA)には,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT),プロトロンビン時間(prothrombin time: PT),トロンビン時間(thrombin time: TT)などがあり,エビデンスが集積されつつある.また,生理的な凝固能を評価するために,種々の修正CWAが開発されつつある.修正CWAには,CWA-PT/APTT,CWA-希釈PT(small amount TF induced FIX activation: sTF/FIXa),CWA-希釈TT,global coagulation and fibrinolysis testなどがある.CWA-sTF/FIXaはpeak heightの増加で過凝固状態を,peak timeの延長で血小板減少を示唆する.CWA-希釈TTはトロンビンバーストを反映し,global coagulation and fibrinolysis testは,凝固能に加え線溶能も評価できる.
凝固波形解析(clot waveform analysis: CWA)1–5)には,活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: APTT),プロトロンビン時間(prothrombin time: PT),トロンビン時間(thrombin time: TT)などがあり,それぞれCWA-APTT3),CWA-PT,CWA-TTと呼ぶ.最も普及しているのがCWA-APTTであり,波形異常により播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)やループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant: LA)などの凝固異常の存在が指摘でき,微量凝固第VIII因子(clotting factor FVIII: FVIII)の測定や血友病やインヒビターの診断,肝胆膵外科手術の出血リスクの予測を可能にすることが報告された6–10).現在のところ,CWA-TTやCWA-TTをはじめとして,CWAのエビデンスはまだまだ少ない(表1).また,古典的なCWAに修正を加えた,種々の修正CWAが開発されつつあり,ここでは修正CWAについて紹介する.
名称 | ||
---|---|---|
古典版 | CWA-APTT CWA-PT CWA-TT |
内因系 外因系 フィブリノゲン |
修正版 | CWA-APTT/PT CWA-dPT CWA-dTT CWA-global coagulation and fibrinolysis test |
内因系/外因系 内因系/外因系,トロンビンバースト トロンビンバースト 凝固線溶系 |
CWA, clot waveform analysis; APTT, activated partial thromboplastin time; PT, prothrombin time; TT, thrombin time, dPT, dilute PT; dTT, dilute PT.
止血系には主に3つの機構が存在し,止血・凝固能を調節している.すなわち,カスケード機構,トロンビンバースト11, 12),リン脂質上の凝固因子の濃縮作用である.コンピューター上でのCWAにより,凝固反応を凝固時間だけでなく,フィブリン形成曲線(fibrin formation curve: FFC)として,視覚的に評価できるようになった.また,FFCを微分することにより,速度曲線に相当する一次微分曲線(first derivative curve: 1stDC),加速度曲線に相当する二次微分曲線(second derivative curve: 2ndDC)が得られ,それぞれpeak time,peak heightならびにpeak幅などのパラメーターを解析できる.1stDCは凝固能の強さを示し,2ndDCはリン脂質ならびにFVIIIの影響をよりよく反映する.以上,CWAの普及により上記3つの止血系機構が視覚的に理解しやすくなった.CWA開発の初期には凝固波形の異常パターンに関心が集まり,凝固波形異常パターンと疾患の関係が精力的に検討されたが,凝固波形異常パターンにはあまり疾患特異性がなく,現在では凝固異常の存在を示唆する重要な所見と理解されるようになった.一方,エビデンスの集積によりpeak timeの延長は抗凝固療法の評価に有用であり13),peak heightの低下は出血のリスクを示すことがわかった10).
健常人のCWA-APTTでは,1stDCと2ndDCには数十秒程のpeak幅が存在し,トロンビンバースト現象14, 15)を反映していることが示唆される.トロンビンバースト機構はトロンビン生成試験(thrombin generation test: TGT)などにより注目され,CWAの普及により広く認識されつつある.すなわち,生成された少量のトロンビンはフィブリノゲンに作用するだけでなく,上流の凝固第XI因子(FXI),FVIII,FVを活性し,活性化された活性化FXI(FXIa),FVIIIa,FVaはさらに下流の凝固因子を活性化するため,APTTではトロンビンからFXIa間の活性化サイクルが数十秒間持続することがCWAにより鮮明となった(図1).また,CWAを用いた抗凝固薬の薬効動態解析が報告されている16, 17).
CWA-APTTとトロンビンバースト
FFC, fibrin formation curve; 1stDC, first derivative curve; 2ndDC, second derivative curve; FIIa, activated clotting factor II; CWA, clot waveform analysis; APTT, activated partial thromboplastin time.
APTTやPTの大きな欠点は,過剰のリン脂質や接触因子活性化物質が測定系に入るため,生理的な凝固能を見ることができないことである18).さらに,多くのAPTT試薬が上市されており,リン脂質の組成により凝固時間が異なるなど,APTT試薬の標準化の問題がある19).APTTやPT測定には通常,乏血小板血漿(platelet poor plasma: PPP)を用いることから,血小板の凝固系への影響をみることはできない.また多血小板血漿(platelet rich plasma: PRP)を用いても,試験管内では過剰のリン脂質は血小板の凝固系への作用をキャンセルする18).また,活性化物質による接触因子の活性化は,殆ど生理的凝固反応には関与しないと考えられる.また,CWA-APTTは生体内にない過量のリン脂質を加えることにより,FIXaの生成まで凝固活性化反応を進め,Ca2+の添加により一気に凝固反応を起こす,非生理的な測定法である.エミシズマブ投与例では著しいAPTTの短縮を示し,凝固因子測定や抗凝固療法のモニターができないことが問題になっている.CWA-PTは凝固時間が短いため,充分トロンビンバースト機構を反映できないため,希釈PT(dilute PT)15)が用いられる場合もある.また,APTTは採血条件の影響を強く受けることも問題である.
修正CWAには,APTT試薬とPT試薬を混合して凝固を起こすCWA-PT/APTT20),PT試薬(組織因子[tissue factor: TF]を含有)を希釈した希釈PT(dilute PT)21)や,APTTに組織プラスミノゲンアクチベーター(tissue type plasminogen activator: tPA)を加えた,global coagulation and fibrinolysis test22)などがある.我々はCWA-dilute PTをsmall amount TF induced FIX activation(sTF/FIXa)assay18, 23)と呼んでいる.また,CWA-TTもトロンビンを希釈したCWA-dilute TT5)が検討されている.
1)CWA-dilute PTCWA-dilute PTにはCWA-PT/APTTやCWA-sTF/FIXaなどが含まれる.希釈したTFによる希釈PTを解析するものであり,反応曲線を増幅するためにCWA-PT/APTTでは希釈APTTを,CWA-sTF/FIXaではPRPを使用している.
CWA-sTF/FIXaは,FXを活性化せず,FIXのみを活性化する濃度までTFを希釈し,市販のリン脂質の代わりに患者の血小板を用いる生理的な凝固反能をみるものである1, 2).微量のTFによるFIX活性化は小さな凝固反応を起こし,生成された少量のトロンビンはトロンビンバースト現象を起こし,上流のFXI,FVIII,FVを活性化して,トロンビンからFXIaの凝固活性化サイクルを起こす.CWA-sTF/FIXaを用いてFVIII活性を測定することも可能である23).PRPを用いることにより,血小板の活性化もある程度反映する18)(図2).sTF/FIXaの最も臨床的に有用な点は過凝固状態の診断であり,担癌患者や担癌患者に合併する脳梗塞患者でpeak timeが短縮し,peak heightが著増すると報告22)されている(図3).今後,エビデンスの集積により,抗凝固療法が必要な過凝固状態のカットオフ値が設定されることが期待される.また,血小板減少例では血小板由来のリン脂質が不足して,peak timeが延長し,peak heightは低下する25)(図4).以上,PRPを用いたCWA-sTF/FIXaは血小板由来のリン脂質の影響を強く受けるが,抗血小板剤の影響はあまり受けないようである.
small amount TF induced FIX activation (sTF/FIXa) assay
FX, clotting factor X; FXa, activated FX.
担癌患者におけるsmall amount TF induced FIX activation(sTF/FIXa)assay
実線,担癌患者,点線,健常人,FFC,fibrin formation curve;1stDC,first derivative curve;2ndDC,second derivative;紺,FFC;ピンク,1stDC;水色,2ndDPC.
特発性血小板減少性紫斑病におけるsmall amount TF induced FIX activation(sTF/FIXa)assay
実線,特発性血小板減少性紫斑病患者,点線,健常人,FFC,fibrin formation curve;1stDC,first derivative curve;2ndDC,second derivative curve;紺,FFC;ピンク,1stDC;水色,2ndDPC.
高濃度のトロンビンは直接フィブリノゲンに作用し,フィブリンクロットを生成するが,低濃度のトロンビンは直接のフィブリノゲンへの作用は弱く,FXI,FVIIIならびにFVを活性化することにより起こるトロンビンバースト現象により,フィブリンクロットを形成する.CWA-dilute TTでは,トロンビンバースト現象が血小板により増幅されることを見ることができる.速度曲線にできる2番目のピークが,トロンビンバーストを象徴し(図5),健常人や悪性腫瘍患者のPRPで増強し,ITPでは増強はわずかである.CWA-TTは血小板の活性化も反映することが示唆される.悪性腫瘍患者ではトロンビンバースト現象は著明であり,過度のトロンビンバースト現象は過凝固状態を示し,血栓症のリスク因子と考えられる.CWA-TTはトロンビンバーストをより強く反映し,CWA-TTを用いてFVIII活性測定も可能であり,エミシズマブの影響も受けにくいとの報告もある24).
トロンビン時間の凝固波形解析,トロンビン濃度による凝固波形の違い
FFC,fibrin formation curve;1stDC,first derivative curve;2ndDC,second derivative curve;紺,FFC;ピンク,1stDC;水色,2ndDPC.
CWA-APTTに低濃度のtPAを加えることにより,凝固能に加えて線溶能も評価することができる検査法である22, 27).DICの診断に有用であるとの報告がある.このCWAの模式図(図6)では,最初のピークがAPTTのピークであり,二番目のピークはtPAによるフィブリンクロットの溶解を示す.従って,二番目のピークの低下あるいは延長は線溶能の低下を示し,ピークの増加や短縮は過線溶状態を反映していると考えられる.総合的な線溶能をみるルーチン検査が少ないことから,本検査がさらにエビデンスを集積して,発展することが望まれる.
Global coagulation and fibrinolysis testの模式図
最初の波形はAPTT波形で,2番目の波形は線溶現象を反映する波形.線溶波形は向きが下向きになるところを反転してある.APTT,activated partial thromboplastin time.
CWAは簡易な検査ツールであり,凝固反応を視覚的にとらえることができる.凝固系の常識にはピットフォールが存在し,CWAによる凝固反応の見える化により,これらのピットフォールが発見され,克服されることが望まれる.
和田英夫:研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(Werfen(IL Japan))
本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし