Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
Online ISSN : 1880-8808
Print ISSN : 0915-7441
ISSN-L : 0915-7441
Reviews: Current and future status of fibrinolysis testing
α2-antiplasmin
Mitsuhiro UCHIBA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2023 Volume 34 Issue 3 Pages 299-303

Details
Abstract

α2-アンチプラスミン(α2-antiplasmin: α2-AP)は線溶反応の重要な制御因子で,プラスミン活性を阻害するとともに,プラスミノゲンのフィブリンへの集積を抑制することでプラスミン産生も抑制する.α2-APはC端及びN端の翻訳後修飾をそれぞれ受け,4種類の分子種から構成される.α2-APの測定法は,合成基質を用いて残存プラスミン活性を測定する方法であり,即時反応性のプラスミン不活化能を測定するものであるため,全ての分子種のプラスミン阻害能を測定しているものではない.またプラスミノゲンのフィブリン集積抑制効果に対しても十分には反映されているものではない.α2-APが低下している病態では出血傾向を呈するが,先天的に低下している場合と,後天的に低下している場合がある.後天的な低下は肝合成能低下の場合と,線溶活性化に伴う消費性の低下がある.一方,炎症性疾患においてはα2-APは上昇する.

1.測定物質について

1)α2-アンチプラスミンとは

α2-アンチプラスミン(α2-antiplasmin: α2-AP)は,α2-プラスミンインヒビター(α2-plasmin inhibitor: α2-PI)とも呼ばれ,血漿中に存在するセリンプロテアセーインビビター(serin protease inhibitor: serpin,セルピン)の一つで,生体内のプラスミンの主要な阻害因子である13.主な産生臓器は肝臓であり,464残基の蛋白質として産生され,分子量はおよそ67,000Da,血中濃度はおよそ70 μg/mL(1 μM),半減期は2.6日である13.一本鎖の糖蛋白であり,Arg376-Met377にserpinとしての活性中心が存在し,プラスミンと不可逆的な複合体を形成する13.またC端側にはプラスミノゲン・プラスミンとの結合に重要なアルギニンリッチな領域があり,N端側のGlu14にフィブリンとの結合部位が存在する13

2)プラスミン阻害様式

α2-APは,他の多くのserpinと同様に,対象となるプラスミンと不可逆性の複合体を形成し,その活性を失活させる.しかしその反応様式は独特である.α2-APによるプラスミン不活化は二段階の反応で,第一段階がα2-APのプラスミン結合部にプラスミンと結合する反応(この反応は可逆的である)であり,第二段階がプラスミンと不可逆的複合体を形成し活性を失活させる反応である13

プラスミン/プラスミノゲンのクリングルドメインと呼ばれる部位には,リジン残基と非共有結合するリジン結合部(lysine binding site: LBS)が存在している.このLBSを介してプラスミノゲンはフィブリンのC端リジン残基へ非共有結合し,その結果,フィブリン血栓上へのプラスミノゲンの集積が起こる4.プラスミノゲンはフィブリン表面で組織プラスミノゲンアクチベータの作用で活性化されプラスミンが生成する.このフィブリン表面で活性化され生成したプラスミンもLBSを介してフィブリン血栓上に存在し,効率的なフィブリン分解を行う.

α2-APのC端側のLys418からLys464間には両端を含め6つのリジン残基が存在しており,このリジンリッチな領域を介して,α2-APはプラスミンのLBSと結合する.この反応は可逆的ではあるが,プラスミンが流血中に存在する場合は,α2-APはプラスミンのLBSと速やかに結合し,第二段階の不活化反応へと移行する.一方プラスミンがフィブリン血栓上に存在している場合には,LBSがフィブリンによって占有されているため,α2-APとプラスミンとの結合が起こりにくく,プラスミンを不活しにくい(後述の様にフィブリン表面でプラスミンの阻害は起こらないわけではない).この様に,α2-APによって,プラスミンはフィブリン表面上では作用を発揮するものの,流血中では作用を発揮できないように制御されており,線溶反応がフィブリン上に限局されている空間的制御に於いてα2-APは重要な役割を果たしている.

3)α2-APのフィブリンへの結合

α2-APのN端側のGlu14にはフィブリンへの結合部が存在し,安定化フィブリン形成過程で活性型凝固第XIII因子の作用により,フィブリン血栓内に固相化される1, 5.このフィブリン血栓内に固相化されたα2-APは,プラスミン結合能および不可逆的阻害能は保持した状態で存在しており1, 5,プラスミンがLBSを介してフィブリン血栓表面上に結合・移動する際に,α2-APのリジンリッチ領域に接触すると,前述の第一段階の反応が起こり,続いて第二段階のプラスミンの不活化反応に進行する.この為,フィブリンに取り込まれたα2-APはプラスミン活性を抑制することで,適切な速度でフィブリン分解が進行する線溶反応の時間的制御に於いてもα2-APは重要な役割を果たしている.

4)プラスミノゲンに対するα2-APの作用

プラスミノゲンのLBSに対してもα2-APは結合することができ,その結果としてプラスミノゲンのフィブリンへの吸着・集積を抑制し,線溶反応をプラスミン生成段階でも制御している可能性も示唆されている3.一方で流血中に存在するプラスミノゲンの主な形態であるGlu-プラスミノゲンのClosed formではα2-APと結合できないとの指摘もあり,α2-APのプラスミノゲンに対する作用を介した線溶抑制効果については議論がある.

5)α2-APの多様性

α2-APは肝臓でアミノ末端にメチオニンを持つ464残基の蛋白質(Met-α2-APと呼ばれる)として産生されるが,流血中においてantiplasmin-cleaving enzyme(APCE)によってPro12-Asn13間で切断され,Asn-α2-APと呼ばれる蛋白質に変換される6.健常者の流血中のα2-APのうち30%程度がMet-α2-APで残りがAsn-α2-APである1.流血中のプラスミン阻害能に関しては両者に大きな違いはないものの,フィブリン結合に関してはMet-α2-APに比しAsn-α2-APが早く,フィブリン表面での線溶制御はAsn-α2-APがより強く関与していると考えられている.さらにα2-APのR6WのSNPによってAPCEによるAsn-α2-AP変換は起こりやすいと考えられており,また肝硬変などではAPCEが上昇し,Asn-α2-APへの変換が起こりやすいとの報告がある.

α2-APはC端側も循環血液中で修飾を受け,プラスミン結合部位が欠落しているα2-AP分子が存在する.このα2-APはプラスミンやプラスミノゲンと結合できないためnon-plasmin/plasminogen-binding α2-AP(NPB-α2-AP)と呼ばれる13.一方,プラスミン結合部位が保持されプラスミンやプラスミノゲンと結合できるα2-APはplasmin/plasminogen-binding α2-AP(PB-α2-AP)と呼ばれる13.健常人のα2-APのうち,60~65%がPB-α2-AP,35~40%がNPB-α2-APであるとの報告がある13.PB-α2-APは前述の第一段階の反応及び第二段階の反応が速やかに進行し,プラスミンを即時的に阻害する.それに対してNPB-α2-APは,serpinとしての活性中心は保たれているためプラスミン活性を阻害することは可能ではあるものの,第一段階の反応が起きないため,その反応速度はゆっくりとしたものである.

2.測定方法・原理

現在臨床検査で用いられているα2-APの測定法は,検体に一定過剰量のプラスミンを加え,検体中のα2-APによってプラスミンを不活化し,一定時間後の残存しているプラスミン活性を,合成基質を用いて測定することで,α2-APのプラスミン阻害活性を測定している.試薬によって異なるものの,検体血漿中のα2-APと試薬中のプラスミンの混和時間は2~10分であるので,即時型の阻害反応を検出していると考えられる7

3.結果の解釈

1)低下する病態

(1)先天性欠損症・低下症

先天的にα2-APが欠損・低下している場合がある 38, 9.線溶反応に対する制御能が低下し,止血血栓のフィブリン分解が早期に惹起されることになる.臨床的には一旦止血するものの再び出血するという再出血や遅延性の出血を特徴とする9.また出生直後の臍帯出血や,女性の場合,月経過多や月経出血の遷延などが報告されている.ヘテロの欠損症でも出血傾向を呈する場合があるが,全く出血傾向が認められない症例から,手術や抜歯後に再出血が認められる例まで様々であると報告されている9.この様な症例では,α2-APと同じく肝臓で産生されるserpinであるアンチトロンビン(AT)は低下が認められず,その比(α2-AP/AT)はヘテロ欠損症で0.5程度,ホモの欠損症では極めて低い値を示す8

(2)肝合成能低下

α2-APは肝臓で産生されるため肝硬変などの肝合成能が低下している場合には低下する.また白血病治療薬であるL-アスパラギナーゼ投与でも肝の蛋白合成が抑制されα2-APは低下する10.この様な症例では,ATもα2-APと同様に低下し,α2-AP/AT比は1に近い値を示す.

(3)消費性の低下

α2-APはプラスミンが多量に生成された場合には消費性に低下する.前述のようにα2-APのモル濃度はおよそ1 μMであるが,プラスミンの前駆体であるプラスミノゲンの健常人における血中濃度はおよそ2 μMである4.このため,例えばプラスミノゲンの30%が活性化されると,0.6 μMのプラスミンが生成することになり,同モル量のα2-APがプラスミン不活化のため消費される.その結果,α2-APは0.4 μM(=40%)に低下することになる.この様に線溶系が強く活性化され,プラスミンが多く産生されるとα2-APは容易に低下することになる.その結果として線溶系の制御が破綻し(線溶制御不能状態),出血傾向を呈する.

このα2-APの低下はATとプロトロンビン/トロンビンとの関係とは対照的であり,AT 2.4 μMに対してプロトロンビン1.0 μMであるので,凝固活性化が惹起され,プロトロンビンの30%が活性化されトロンビンに変換されても,消費性に低下するATは10%程度(低下した後の値は90%程度)と軽度である.このため,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation: DIC)の病態で,著しい凝固系の活性化と線溶系の活性化が同時に惹起される病態では,α2-APが著しく低下する一方,ATの低下は軽度でありα2-AP/ATの値は低下し,しばしば出血傾向を呈する.「線溶亢進」や「線溶優位」なる用語が使用される時があるが,凝固活性化に応じた適切な線溶活性化でも認められる現象であり,「亢進」や「優位」という用語は適切であるのか疑問がある.またAL-アミロイドーシスなどの病態では凝固活性化を伴わない病態(いわゆる一次線溶)が認められ,この場合もα2-APの低下とそれに伴う出血傾向を認める11.α2-APの消費性の低下による線溶制御能の破綻という考え方はDICに関連する病態ではなく,「線溶亢進」や「線溶優位」なる概念より幅広く,また汎用性が高い考え方である.

2)上昇する病態

α2-APは急性相蛋白の一つであるため12,感染症やその他の炎症性の病態では上昇する.一方,アンチトロンビンは負の急性相蛋白であるため,炎症性の病態では低下する.その結果α2-AP/ATの値は上昇する.α2-AP/AT比が低下している病態の予後は一般に不良である.

実臨床ではいくつかの病態が同時に,かつ複雑に存在することも稀ではないため,これまで述べてきた様な単純な解釈では,判断が難しいこともしばしば経験する.例えば感染症にDICを合併した場合には感染症に伴う炎症によるα2-APの上昇と,DICによる線溶活性化に伴う消費性のα2-APの低下が起こるため,見かけ上基準値内の値を示すことも経験する.このためATその他の凝固線溶系のマーカーを含めた総合的な解釈が重要である.

4.ピットフォールと限界

1)ピットフォール

試薬として添加している外因性のプラスミンのα2-APによる不活化後の残存プラスミン活性を測定するため,α2-APによるプラスミンの不活化反応,並びに残存プラスミン活性測定に影響を与える物質が存在する場合はα2-APの測定結果に影響を与える可能性がある.

トラネキサム酸は臨床に於いて頻繁に使用されている線溶阻害物質である.リジン誘導体であり,その作用はプラスミノゲンのLBSをフィブリン上のC端リジンと競合することで,線溶反応の最初のステップであるプラスミノゲンのフィブリンへの結合・集積を阻害することで発現する.トラネキサム酸はプラスミン/プラスミノゲンのLBSとα2-APのリジンリッチな領域の非共有結合(第一段階の反応)に対しても影響を与える可能性が示唆されている13.このため,プラスミンとα2-APの不可逆的反応も低下し,結果としてトラネキサム酸によってα2-APの測定値が低く出る可能性がある.

また,検体中にプラスミン活性を阻害する物質が存在する場合には,残存プラスミン活性が阻害されるため,結果として「偽高値」を示す場合がある.プラスミンを阻害する薬剤は実臨床においては少ないものの,ナファモスタットがこの様な薬剤として挙げられる.ナファモスタットは低分子量の合成セリンプロテアーゼインヒビターで,各種セリンプロテアーゼを競合的に阻害する.トリプシンを阻害(Ki=1.6×10–8 M)するため,膵炎の治療に用いられているとともに,活性型凝固第XII因子(Ki=1.1×10–7 M)や活性型凝固第VII因子(Ki=2.4×10–7 M)を阻害する作用14, 15によりDICの治療や,血液透析及びECMOなどの体外循環の抗凝固薬剤としても使用されている.また近年はCOVID-19の治療薬剤としても研究が進められている.ナファモスタットの線溶系酵素への影響としては,ウロキナーゼを強力に阻害(Ki=1.9×10–8 M)するもののtPA(Ki=1.1×10–6 M)に対する阻害はさほど強いものではない14.プラスミン(3.7×10–6 M)に対する阻害作用も高いものではないが,CHDFやECMO使用量でプラスミンを阻害しうる血中濃度に達する可能性がある16表1は正常血漿にナファモスタットを添加した場合のα2-AP,プラスミノゲン及びATに対する影響を示したものであるが,高濃度のナファモスタットによって,α2-AP値は高値を示す一方,プラスミノゲンは低値を示す.ATは影響を受けない.膵炎治療やDICの治療に用いられる量では,測定に影響を与える濃度には達しない.

表1 ナファモスタットの凝固検査に対する影響
Nafamostat(μg/mL) 0 0.1 0.5 1 5 10
α2-AP(%) 109 106 113 122 >150 >150
Plasminogen(%) 95 90 87 83 62 48
AT(%) 90 90 94 90 97 91
←―――――→
Pancreatitis DIC
←―――――→
CHDF ECMO

正常血漿に既知量のナファモスタットを添加し,各因子活性を測定した.下段の矢印の範囲は報告されている各疾患で使用中のナファモスタットの血中濃度.

2)限界

α2-APの測定法は,液相中のプラスミン阻害活性を測定するものであり,Met-α2-APもAsn-α2-APも測定されうるが,両者を分別して測定しているものではない.このため,フィブリン表面上の線溶制御能の評価は困難である.また反応時間は2~10分であるため,PB-α2-APを主に測定していると考えられるものの,プラスミン阻害に幾許かの時間を要するNPB-α2-APは測定されているかどうか不明である.このため,プラスミノゲンのフィブリン血栓吸着に対する影響に関しては,現在使用されている測定法では必ずしも評価できない.

5.その他

α2-APの活性測定法は,合成基質を使う測定法であるため自動化が可能で,多くの凝固線溶系の汎用測定機器で検査を行うことができる.一方,試薬中のプラスミンの安定性が必ずしも良くないため,試薬溶解後の使用可能期間が短い.このため検査検体数が少ないとリクープすることが難しく,経済的な理由でいわゆる院内取り込みが行われず,外注検査として運用されている施設が多数を占める.前述のように,特に消費性の低下の場合,α2-APは線溶活性化の程度に応じてダイナミックに変動するため,少なくとも検査当日に検査結果を把握しなければ,検査としての有用性(治療介入の必要性の有無の判断や適切な治療法の選択)をベッドサイドに還元することはできない.しかし一般に外注検査の場合,結果が報告されるまでに数日を要するため,検査結果を得た時点では既に病態・病勢が変わっており,治療の方針の決定には寄与しないことが多い.その結果として,臨床サイドの多くがその有用性を実感できず,重要な検査であるとの認識も得られないこととなる.その結果,臨床サイドから院内取り込みを要望することがなくなる.このようなことも,α2-AP検査の普及の障害となっている.

著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関して開示すべき企業等との利益相反なし

文献
 
© 2023 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
feedback
Top