血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は血小板減少,細血管障害性溶血性貧血,血小板血栓による臓器障害を三徴候とする症候群である.様々な病態を包括し,ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motif 13)活性著減を原因とするもの,補体が関与するもの,背景に何らかの基礎疾患を有する二次性のものなどに分けられる.TMAは診断に難渋する症例も散見されるが,死亡することもあり,適切な治療を速やかに選択することが求められる.
近年,TMAの治療は知見が集約したことにより,病因によっては死亡率の改善を認めるものも出現した.病因により使用できる薬剤や治療法が異なるが,血漿交換療法やEculizumabなどの登場により,飛躍的にその死亡率が改善した病型も存在する.Caplacizumabの登場により,ADAMTS13活性低下を原因とするTMAにおいて新たな介入の選択肢が増えたが,先述のとおり,TMAは様々な病因を有する疾患を包括する概念であり,個々の症例において病因に合わせた治療介入が求められる.
血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は血小板減少,細血管障害性溶血性貧血,血小板血栓による臓器障害を三徴候とする症候群であり,病理学的には細動脈や毛細血管レベルにおける血栓症とその内皮障害が認められる1).TMAはその病因により分類され,ADAMTS13活性著減を原因とするもの,補体が関与するもの,何らかの基礎疾患に起因する二次性のものなどに分けられる(表1)2).
病因によるTMAの分類と臨床診断
| 病因による分類 | 病因 | 原因 | 臨床診断 | 臨床診断に重要な所見 |
|---|---|---|---|---|
| ADAMTS13欠損TMA | ADAMTS13活性著減 | ADAMTS13遺伝子異常 | 先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群) | ADAMTS13遺伝子異常 |
| ADAMTS13に対する自己抗体 | 後天性TTP | ADAMTS13活性著減,ADAMTS13自己抗体あり | ||
| 感染症合併TMA | 感染症 | 志賀毒素産生大腸菌(STEC)(O157大腸菌など) | STEC-HUS | 血液や便検査でSTEC感染を証明 |
| 肺炎球菌(ノイラミニダーゼ分泌) | 肺炎球菌HUS | 肺炎球菌感染の証明 | ||
| 補体介在性TMA | 補体系の障害 | 遺伝的な補体因子異常(H因子,I因子,MCP,C3,B因子) | Atypical HUS | 補体因子遺伝子異常C3低値,C4正常(これらは全例で認める訳ではない) |
| 抗H因子抗体の証明 | 抗H因子抗体 | |||
| 凝固関連TMA | 凝固系の異常 | Diacylglycerol kinase ε(DGKE),THBD遺伝子異常 | Atypical HUS? | 遺伝子異常の証明 |
| 二次性TMA | 病因不明 | 自己免疫疾患 | 膠原病関連TMAなど | SLE,強皮症などの膠原病が多い |
| 造血幹細胞移植 | 造血幹細胞移植後TMA | 血小板輸血不応,溶血の存在(ハプトグロビン低値など) | ||
| 臓器移植(腎臓移植,肝臓移植など) | 臓器移植後TMA | 原因不明の血小板減少と溶血の存在(ハプトグロビン低値など) | ||
| 悪性腫瘍 | 悪性腫瘍関連TMA | 悪性リンパ腫,胃がん,膵がんなどに多い | ||
| 妊娠 | 妊娠関連TMA,HELLP症候群 | HELLP症候群は妊娠30週以降に発症し,高血圧を合併することが多い. | ||
| 薬剤(マイトマイシンなど) | 薬剤性TMA | 薬剤使用歴 | ||
| その他のTMA | 病因不明 | その他 | TTP類縁疾患,他 | TTPの古典的5徴候の存在,など |
TMA:thrombotic microangiopathy
TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura
HUS:hemolytic uremic syndrome
SLE:systemic lupus erythematosus
THBD:thrombomodulin
HELLP症候群:hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelets症候群
血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド
臨床血液 2023; 64(6) 445–460より抜粋
ADAMTS13活性低下によって発症するTMAは,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)である3, 4).遺伝的にADAMTS13活性が障害された先天性TTP(congenital TTP: cTTPまたはUpshaw-Schulman syndrome: USS)と後天的に獲得されるADAMTS13に対する自己抗体によりその活性が障害される後天性TTPに分けられる3–6).先天性TTPは極めてまれな疾患であるため,臨床的に遭遇するのは圧倒的に後天性TTPが多い.後天性TTPは致死的な経過をたどる可能性の高い疾患であったが,血漿交換(plasma exchange: PEX)の導入によりその治療成績が改善し7),最近では抗von Willebrand factor(VWF)ナノボディであるCaplacizumabが登場し,PEXに係る期間の短縮も期待される8, 9).
溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)もTMAに含まれ,志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin-producing Escherichia coli: STEC)が産生する志賀毒素の血管内皮障害に起因するSTEC-HUSが最も症例数が多い10).しかし,STEC感染を認めない例や,家族性に発症する例が報告され,非典型溶血性尿独奏症候群(atypical HUS: aHUS)と呼ばれ,HUSと区別されるようになった11).その後,aHUSは補体第二経路の異常活性化による血管内皮障害や血小板減少がその本態であることが判明し12),補体C5をターゲットとしたEculizumabやRavulizumabが本邦では治療薬として保険適用されている.
二次性TMAの原因として,自己免疫疾患や造血幹細胞移植,臓器移植,悪性腫瘍,妊娠,薬剤が知られており,二次性TMAの原因を背景に有する血小板減少をみたときには二次性TMAの可能性も鑑別に入れる必要がある2).原因不明の溶血性貧血と血小板減少をみた時には以下に示すアルゴリズムが参考となる(アルゴリズム1).
本稿では臨床的に問題となりやすい疾患を中心に解説する.
TTPはADAMTS13活性低下によって生ずる致死的疾患である.現在の診断基準における正確な発症率はよく分かっていないが,年間新規発症患者の大部分は後天性TTPであると考えられる2, 13, 14).
先天性TTPは常染色体劣性遺伝形式をとり,ADAMTS13遺伝子変異のホモ接合体変異もしくは複合ヘテロ接合体で発症する15).新生児重症黄疸および血小板減少を契機に新生児期に診断されるケースが多いが,妊娠を契機として胎児発育不全やTTP発作を起こし,診断に至る例があり,その発症様式には多様性がある2, 16).一方で,後天性TTPはADAMTS13に対する自己免疫を機序として生じるADAMTS13活性低下を本態とする疾患である2).
ADAMTS13は血栓生成にかかわるVWFの切断にかかわる蛋白質分解酵素であり,VWFのA2ドメイン内1,605番目のチロシンと1,606番目のメチオニンの間のペプチド結合を切断する17).VWFは血管内皮細胞で生成され,多量体を形成し,単量体同士でジスルフィド結合している部位で折りたたまれた構造を有している.VWFは血管内皮細胞から血管内へ放出されると血流によって生じるずり応力のため引き延ばされることで血小板と相互作用を起こし,血栓形成に寄与する17).しかし,血管内皮細胞から放出されたVWFは超高分子量VWF重合体(unusually large VWF multimer: UL-VWFM)を形成していると考えられ,血小板との相互作用により過剰な血栓を生じる可能性がある.そのため,ADAMTS13はずり応力によって露出したA2ドメインでVWFを切断し,過剰な血小板血栓を抑制していると考えられている17).TTPではADAMTS13活性が著減しており,微小血管内では高ずり応力条件となるため,ADAMTS13活性低下により生じたUL-VWFMは微小血管内でより血小板血栓を生じると推察され,これに伴う循環不全により,脳・心臓・腎臓といった重要臓器の障害をきたすと考えられる.
2)診断TTPでは血小板減少・溶血性貧血・発熱・腎障害・精神神経症状が古典的5徴候とされるが18),その臨床像は多彩であり,すべての徴候がそろわない症例も珍しくない.特に,精神神経症状は多様であり,頭痛程度から譫妄・錯乱・人格変化・意識障害をきたす例まであり,四肢麻痺や痙攣までみられる可能性がある.また増悪緩解を繰り返すといった動揺性もみられ,その症状の出現様式は幅広い.血小板減少は多くの症例で1~3万/μL程度まで減少している19).溶血性貧血は大量の血管内血栓による機械的溶血であり,末梢血中の破砕赤血球の出現,網赤血球の増加,LDH・間接ビリルビンの上昇,ハプトグロビン低下を認め,直接クームス試験は陰性となる.腎障害も尿蛋白陽性から血清クレアチニン上昇をきたす例がみられるが,血清クレアチニン値は2 mg/dL程度までであることが多く,腎代替療法を要する急性腎不全例は少ないと考えられている19).また,臓器虚血による症状が出現する可能性があり,心虚血による胸痛や消化管虚血による腹痛もみられ,心筋逸脱酵素であるトロポニンの上昇が死亡リスクとなる可能性が報告されている20–22).
原因不明の血小板減少と溶血性貧血を伴う患者では,臨床症状からTTPを疑い,ADAMTS13活性が10%未満へ著減していればTTPと診断し,さらに抗ADAMTS13抗体が陽性であれば後天性TTPと診断される.後天性TTPでは全身性エリテマトーデス(SLE)といった膠原病や,チクロピジンをはじめとする薬剤関連でADAMTS13自己抗体が産生されることがあり,後天性二次性TTPと呼ばれる.基礎疾患がなければ後天性原発性TTPと診断する2).ADAMTS13自己抗体陰性の場合は,活性阻害抗体(インヒビター)が陰性となっているだけで,ADAMTS13に結合し,そのクリアランスを高めることでADAMTS13活性を低下させる非阻害抗体を保有している可能性がある.先天性TTPの診断はADAMTS13自己抗体(インヒビター,非阻害抗体)陰性を確認した上で,ADAMTS13遺伝子解析をもって判断する.
3)治療後天性TTPの急性期治療は1991年にPEXの優れた治療成績が報告されたことにより,標準治療となった23).PEX開始についてはできるだけ早期に行うことが望ましく,後天性TTPを疑った場合にはできるだけ早期にPEXを開始する23).現在,ADAMTS13活性が判明するまでに数日を要する場合が多く,検査結果を待たずに治療を開始する必要がある2).TTP治療を遅延なく開始するため,FrenchスコアやPLASMICスコアが有用であり,ADAMTS13活性が著減している可能性を評価することができる24).PEXを行う際には新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)50~75 mL/kgを置換液とする.PEXによるADAMTS13の補充,ADAMTS13に対する自己抗体やUL-VWFMの除去を目的に1日1回連日行い,血小板数が15万/μL以上に改善して2日後まで(採血2ポイントまで)継続することが推奨される2).
2022年9月にはVWF A1ドメインをターゲットとした1本鎖ヒト化モノクローナル抗体(ナノボディ)であるCaplacizumabが承認され25),VWFと血小板の結合を阻害することでUL-VWFMによる血栓形成を抑制し,薬理効果を発揮する.PEX以外で初めて二重盲検試験で後天性TTPの死亡率を減少させることが報告された26).ただ,注意しなければならないのは,Caplacizumab投与により血小板の回復が得られたとしても,ADAMTS13活性が低下した状態でCaplacizumab投与を中止すると,体内で産生されているUL-VWFMと血小板の結合が再開されてしまい臨床症状が再現されることがPhase II臨床試験で示されている.必ずADAMTS13活性が10~20%以上となり病勢が安定していることを確認の上,Caplacizumabの投与中止を行う2).
自己抗体産生抑制を目的として副腎皮質ステロイドの投与をPEX,Caplacizumabに併用することが多いが,ステロイドパルス療法と高用量ステロイド投与のいずれが優れているのかについては明確な結論には至っていない.なお,ステロイド投与については本邦では保険適応外となっている(2023年7月現在).
抗CD20モノクローナル抗体であるRituximabも自己抗体産生低下を目的に難治例を中心に広く使用されている.本邦では再発・難治例に対してのみの保険収載(2023年7月現在)であるが,複数のシングルアーム試験の結果から,急性期にRituximabを併用すると再発リスクが軽減されたとする報告がある27, 28).また,ReSTAR研究でもRituximab投与群では再発が低いとする報告がされた29).PEXを5回以上行っても血小板数が5万/μL以上に回復しない場合,もしくは15万/μL以上に回復した後,再度5万/μL未満へ低下した場合は再発難治TTPとしてPEXに加えてRituximabの追加投与を考慮する.RituximabはB型肝炎ウイルス(HBV)再活性化のリスク薬であり,HBV関連抗体(HBs抗体,HBc抗体),HBs抗原,HBV DNAの計測をRituximab投与前に評価する必要がある.
TTPではVWFと血小板の結合がその病態を形成していると考えられ,本邦では保険適応外(2023年7月現在)であるが,抗血小板薬も有効である可能性がある.イタリアのグループによる研究ではAspirinとDipyridamoleを急性期に使用したところ治療反応性については変化がなかったが,死亡率の低下がみられたとする報告がある30).しかし,急性期の使用により出血症状が認められたとする報告もあることに留意する必要がある31).また,TiclopidineやClopidogrelによる後天性TTP発症が報告されており32, 33),これらの薬剤の使用はTTP患者では避けるのが望ましいと考えられる.また,血小板数5万/μLへ回復後にTTP再発予防を目的としたAspirinの経験的投与は効果が明らかではない34).なお,AspirinとCaplacizumabの併用は出血を助長する可能性があるため避けるべきである2).
輸血については赤血球輸血についてはHb 7.0 g/dL未満を目安に行うが,心疾患が存在する場合は8.0 g/dLを目安とする.血小板輸血については致死的出血がある場合には適応となるが,それ以外の予防的使用は血栓症増悪の可能性があるため原則禁忌と考えられる.
再発・難治例ではRituximabの他,CyclophospamideやVincristine,Cyclosporinの投与も考慮されるが,Rituximabを除き保険適応外(2023年7月現在)である.以前は,脾摘やImmunoglobulin大量療法も実施されていたが,Rituximabの登場後は実施されることが少なくなっている2).
先天性TTPではFFPの継続的輸血が必要な例から増悪時のみのFFP輸血で対処できる例まであり,血小板数の増減や尿潜血の程度などを加味して個々の症例でFFPの投与量・投与間隔を決定する2).
4)重症度分類USS,後天性TTPにおける重症度分類を表2,表3に示す2).
先天性TTP重症度分類
| 1)重症 |
| 維持透析患者,脳梗塞などの後遺症残存患者 |
| 2)中等症 |
| 定期的,または不定期に新鮮凍結血漿(FFP)輸注が必要な患者 |
| 3)軽症 |
| 無治療で経過観察が可能な患者 |
血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド
臨床血液 2023; 64(6) 445–460より抜粋
後天性TTPの重症度分類
| 1.ADAMTS13インヒビター 2 BU/mL以上 | |
| 2.腎機能障害 | |
| 3.精神神経障害 | |
| 4.心臓障害(トロポニン上昇,ECG異常等) | |
| 5.腸管障害(腹痛等) | |
| 6.深部出血または血栓 | |
| 7.治療不応例 | |
| 8.再発例 | |
| 〈判定〉 有1点,無0点 | |
| 重症 | 3点以上 |
| 中等症 | 1点~2点 |
| 軽症 | 0点 |
血栓性血小板減少性紫斑病診療ガイド
臨床血液 2023; 64(6) 445–460より抜粋
後天性TTPは無治療の場合,90%以上が死亡する致死的疾患であったが,PEXが導入され80%前後の生存率が得られるようになった7, 19, 35–37).ADAMTS13活性10%未満の症例では,血清クレアチニン高値,インヒビター2 BU/mL以上が予後因子として報告されている35).
急性期における臨床症状として,古典的5徴候のほか心血管イベントが出現することもあり,致死的となることもあることから心筋トロポニンの検索が必要であり34),トロポニン高値で心筋虚血が疑われる場合は突然死に注意する.
先天性TTPは適切に診断を行いFFPによる治療が行われれば予後は比較的良好であると考えられ,本邦では報告された70例中に死亡例が10例みられ,うち5例が血液透析導入後であることから,腎機能障害の悪化を予防することが予後改善に寄与する可能性がある2).本邦ではFFP輸注によるADAMTS13同種抗体産生例は報告されていないが,ADAMTS13同種抗体が産生された場合はFFP輸注の効果が低下する恐れがあるため,定期的なADAMTS13インヒビター検査が必要であると考えられる2).
HUSは血小板減少,溶血性貧血,急性腎障害を三徴候とする疾患であり,溶血性貧血はTTPと同じく,細血管障害性とされる38).HUSはSTECに由来するShiga toxinによる血管内皮細胞障害から発症に至ると考えられる.本邦では腸管出血性大腸菌感染症は感染症法における第三類感染症にあたり,報告が義務づけられている.STEC感染症は,発症者・保因者を含め年間4,000人前後が報告され39),その1~10%程度がSTEC-HUSへ移行すると推定されている39).小児例が多く,STECの血清型はO-157が最も多いが,近年ではその他の血清型の増加がみられる39).
2)診断先に述べたようにHUSは血小板減少,溶血性貧血,急性腎障害を三徴候とし,溶血性貧血は細血管障害性である.急性腎障害は小児例では年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5倍以上,成人例では急性腎障害の診断基準を以って判定する39).STEC-HUSではSTEC感染に伴う出血性大腸炎を呈し,腹痛・水溶性下痢・血便がみられる.また,頭痛や意識障害などの中枢神経症状,心筋障害による心不全症状を来す症例もみられる39).
STEC-HUSの診断時には便検体からの大腸菌分離培養や志賀毒素直接検出法,抗リポポリサッカライド抗体(抗LPS抗体)によりSTEC感染症を証明する.また,超音波検査での大腸壁の著明な肥厚やエコー輝度上昇も参考となる39).また,STEC-HUS診断において,STEC感染を証明する必要があることは先に述べたが,菌の便中排泄は下痢発症後数日のみにとどまるため,発症から長時間経過した例や抗菌薬投与が行われている例においては便培養から菌が同定されないことがあり得る.この場合は血液中の抗LPS抗体検出などの補助的診断法も参考となる39).
3)治療STEC-HUSに対する特異的治療はなく,補液や血圧管理といった支持療法が中心となる.STECでは出血性腸炎に伴う下痢・嘔吐,水分摂取量の低下から来る脱水症のため,急性腎不全になる可能性があり,HUS発症前より輸液療法が重要となる39).重度の急性腎障害を呈する例では腎代替療法が必要となり,内科的治療に反応しない乏尿,緊急是正を要する電解質異常,尿毒症症状,代謝性アシドーシス,肺水腫や心不全といった溢水などがみられる場合は適応となる39).
HUSはSTECに由来するShiga toxinによる内皮細胞障害から発症に至ると考えられていたが,STEC感染を認めないにも関わらず,同様の症状を来す例や家族性に発症する例が報告されており,これらはaHUSと呼ばれ,STEC-HUSと区別される.その後,aHUSの病態として補体制御系の異常があることが報告され,現在では補体第二経路の異常活性化により血管内皮障害や血小板の活性化を生じ,発症に至ると考えられている38, 40).このため,aHUSは補体関連HUSとも呼ばれており,薬剤や自己免疫疾患,妊娠に伴う二次性TMAとは区別される38).
2)診断aHUSはTMAの診断後にTTP,STEC-HUS,二次性TMAを除外して臨床的に診断を行うことに留意する必要があるが,原因不明の腎不全やTMAの家族歴を有する場合はaHUSを疑うべきかもしれない.また,aHUSでも虚血性腸炎を呈する例や,消化器染症を契機とした発症例もみられることに留意する必要がある39).血液検査では補体第二経路活性化を反映してC3低値,C4基準値内となるがC3が低下する例は約50%にとどまるため,遺伝学的検査および抗H因子抗体(抗CFH抗体)の測定を行い,確定診断を行う.既知の原因遺伝子として,第二経路に関連する抑制因子の機能喪失変異(H因子,I因子,MCP/CD46,トロンボモジュリン)のほか,活性化因子の機能獲得変異(B因子,C3)が同定されている38).また,補体系との関連が明らかとなってはいないが,凝固関連因子であるDiacylglycerol kinase ε(DGKE),プラスミノゲンも原因遺伝子と考えられ38),これらの遺伝子変異についても解析を行う.さらに,H因子の機能を阻害する自己抗体が一部に認められ41),同抗体についても検討を要する.
ただ,気を付けなければならないのは,既知の遺伝子変異が同定されない患者も約50%存在することが知られ,遺伝子変異が認められないことがaHUSの否定とならない42).また,遺伝子検査の結果が確定するまでには時間を要することから,aHUSを疑う場合は,確定診断を待たずに治療開始が考慮されなければならない.
3)治療aHUSに対する治療として,従来から血漿交換や血漿輸注が行われてきた.血漿療法は正常な補体関連因子の補充,異常な関連因子・抗CFH抗体の除去を目的としているが,原因遺伝子の変異ごとに治療効果が様々であり,効果が十分とはいえなかった.しかし,発作性夜間血色素尿症治療薬である抗補体C5モノクローナル抗体EculizumabのaHUSに対する有効性が報告され43),本邦では2013年9月に保険適用となった.Eculizumabは補体C5に結合し,その分解を抑制することにより,C5aと膜侵襲複合体の産生を抑制することで効果を発揮する.近年では長時間作用型の抗C5モノクローナル抗体製剤であるRavulizumabも承認された.抗C5モノクローナル抗体製剤による治療の際には,髄膜炎菌感染症の危険性が指摘されており,原則として,製剤使用前に髄膜炎菌ワクチン接種を行うが,緊急的に使用を開始する場合は抗菌薬の予防投薬を行う39).本邦の4価髄膜炎菌ワクチンは血清型B群に対するカバーがされておらず,抗C5モノクローナル抗体製剤を使用中の患者に発熱・頭痛・嘔気などの症状を認める場合は髄膜炎の可能性を疑い,速やかに抗菌薬加療を開始する必要がある.当該患者には発熱・頭痛・嘔気などの症状を認める場合は速やかに医療機関を受診するように患者に十分な説明を行う.なお,血小板輸血はTTPと同様に病状を悪化させる可能性があるため,原則禁忌と考えられる.
TA-TMAは造血幹細胞移植後に発症するTMAであり,病態の理解と病名の整理が進んだことから,TTPやHUSとは別の二次性TMAに分類されている.先に述べたように,TTPではADAMTS13酵素活性が10%未満に著減し,aHUSは補体制御因子の異常により補体経路が活性化されるため,TA-TMAとは別の分類となっている.
造血幹細胞移植後は,移植前処置や,活動性の感染症,免疫抑制剤,移植片対宿主病(graft versus host disease: GVHD)などの移植関連合併症,補体の活性化といった様々な要因で血管内皮細胞の障害が惹起される.その結果,血管内皮細胞からUL-VWFMの分泌が亢進することで,血小板血栓の形成が促進され,微小循環不全による臓器障害を来すと考えられている(図1).移植前処置として使用されるCY(cyclophosphamide)やBU(Busulfan),またTBI(total body irradiation)により血管内皮障害が誘発され,血管内皮細胞が末梢循環血中で検出されることが,移植患者や動物実験で示されている44, 45).移植前処置強度がTA-TMA発症頻度に寄与するか否かについては様々な報告が混在しており,明らかとなっていない46, 47).TA-TMA発症の危険因子としてBUが報告されているが46),CYを含むその他のいかなる抗がん剤でもTA-TMAの原因となりうることに注意する必要がある.また,TBIを含む移植前処置もTA-TMA発症のリスクとして報告されている48).

移植前処置,感染症,免疫抑制剤,GVHDをはじめとする移植関連合併症,補体活性化などの要因で血管内皮障害を来し,血管内皮細胞からのUL-VWFが分泌促進されると考えられている
造血幹細胞移植時には免疫抑制のためカルシニューリン阻害薬が使用されるが,血管内皮細胞障害をもたらすことで血栓形成を促進することも知られている49).また,培養血管内皮細胞において,カルシニューリン阻害薬によりIL-6をはじめとする各種炎症性サイトカインの産生が刺激されたとする報告があり49),フィブリン血栓や血小板血栓の形成が促進されると考えられる.加えてタクロリムスの使用自体がTA-TMA発症のリスク因子であることに留意する必要がある46).
また,感染症に伴い好中球から放出されるneutrophil extracellular traps(NETs)も血小板凝集を惹起し,TA-TMAの病態形成に寄与している可能性が報告されている43).感染症合併時や造血幹細胞生着時,GVHD合併時は種々のサイトカインストームが生じており,TNF-αやIL-1βは血管内皮細胞のアポトーシスを誘導することが知られている48, 50).これらの炎症性サイトカインはUL-VWFMの分泌を促進するとされており,一方でIL-6はADAMTS13によるUL-VWFMの切断を抑制することが知られており51),血小板血栓が促進すると考えられる.また,炎症性サイトカインで内皮細胞が障害を受けると血液凝固を抑制するthrombomodulin(TM)の発現が減弱することに加え,凝固促進因子である組織因子(tissue factor: TF)やプラスミノゲン活性化抑制因子1(plasminogen activator inhibitor-1: PAI-1)の発現が亢進することからフィブリン血栓形成も促進する49).
造血幹細胞移植において,何らかの感染症に罹患することは珍しくないが,真菌,アデノウイルス,サイトメガロウイルス,BKウイルスなどの様々な感染症がTA-TMAの原因となり得ることが知られている52–54).また,感染症合併時は好中球からDNA,ヒストンなどの核内蛋白や各種プロテアーゼなどから構成されるNETsが放出され,内皮細胞障害を来し,血小板凝集を惹起し,血栓形成を促進することが報告されている49).また,単施設の後方視的解析で,TA-TMA発症患者はそれを発症していない移植患者に比べ血清中NETsが増加していたとする報告がある55).ただ,GVHD発症時にもNETsが増加することに留意する必要があり56),NETsのバイオマーカーとしてシトルリン化ヒストンH13の測定が可能であるが現在のところ保険収載されていない49).
造血幹細胞移植の合併症であるGVHDも血管内皮障害を惹起する57).GVHD発症例は非発症例に比べTA-TMA発症頻度が4倍高かったとする報告もあり58),Grade II–IVの急性GVHDはTA-TMAのリスク因子と考えられる46, 58).
近年,TA-TMA発症に補体系の異常がその病態に関与している可能性が指摘されている.造血幹細胞移植がきっかけにaHUSを発症したとする報告や49),小児TA-TMA患者の約70%の症例で,血漿中の補体複合体C5b-9の増加がみられたことが報告されている59).また,抗補体C5ヒト化モノクローナル抗体であるEculizumabが有効であったTA-TMA症例が存在することから,TA-TMAの病態形成に補体経路が関与している可能性が示唆される60, 61).
2)診断現在提唱されている主要なTA-TMA診断基準を表4に示す49).TA-TMAの診断基準は米国Blood and Marrow Transplant Clinical Trial Network(BMT-CTN)とEuropean Group for Blood and Marrow Transplantation(EBMT)から報告されたが,診断感度が十分ではない62, 63).韓国のグループからは診断感度を上げるため,必ずしも腎障害や神経学的障害を必要としない “probable TMA” という新概念が提唱され64),この診断基準を用いた前方視的に単一施設100例を評価した報告によると,39例(39%)が発症中央値32日でTA-TMAを発症しており,診断基準を満たす前からLDHの上昇,尿蛋白(>30 mg/dL)の出現,高血圧を認めており,TA-TMAの早期診断マーカーとして有用である可能性が示された59).また,同時に,TA-TMA診断時の尿蛋白(>30 mg/dL)と補体活性化(血漿C5b-9の上昇)が予後不良因子とする解析結果が報告された59).この結果に基づきJodeleらは表4にまとめる診断項目7項目中5項目以上を満たせばTA-TMAとする診断基準を提唱している60).
TA-TMA診断基準
| BMT-CTN | IWG of the EBMT | TMA by Cho et al | TMA by Jodele et al | |
|---|---|---|---|---|
| 破砕赤血球 | 強拡大≧2/視野 | >4% | 強拡大≧2/視野 | あり |
| LDH | 上昇 | 急速に出現,遷延性の上昇 | 上昇 | 上昇 |
| 腎機能 | 血清Cre値の2倍上昇,またはCcrが移植前より50%低下 | NA | NA | 尿蛋白30 mg/dL以上もしくは尿蛋白/Cre≧2 mg/dL |
| 高血圧 | NA | NA | NA | >140/90 mmHg |
| 血小板低下 | NA | <5万/μL,または50%以上の低下 | <5万/μL,または50%以上の低下 | 新たな血小板減少,または血小板輸血の増加 |
| 貧血 | NA | Hbの低下,または赤血球輸血の増加 | Hbの低下 | 新たな貧血,または赤血球輸血の増加 |
| 中枢神経障害 | あり | NA | NA | NA |
| Coombs試験 | 陰性 | NA | 陰性 | NA |
| ハプトグロビン | NA | 低下 | 低下 | NA |
| DIC | NA | NA | なし | NA |
| 補体活性化 | NA | NA | NA | C5b-9上昇 |
100例の連続的な移植症例を対象とした心臓超音波検査をday 7に施行した単施設前向き試験では,右室圧とTA-TMA発症が有意相関を示したとする報告があり65),心臓超音波検査による右室圧の評価もTA-TMA発症の早期診断に有用である可能性がある.
TA-TMAでは血小板輸血を行っても血栓形成に血小板が消費されることから,血小板数の増加がみられない.血小板輸血翌朝の補正血小板増加数(corrected count inclement: CCI)を評価し,血小板輸血抵抗性がみられる場合はTA-TMAやSOS(sinusoidal obstruction syndrome)を疑うべきである49).
また,移植後造血器腫瘍が寛解状態にあるにも関わらず,末梢血中に赤芽球を認める場合もTA-TMA発見に寄与する可能性がある49).
可溶性TMもTA-TMA発症時の細胞障害マーカーとされているが,これは血管内皮障害時に細胞表面から脱落し,血中を循環しているものをみており,内皮細胞表面に存在するTMは減少しており,加えてTFの発現が増加していることから生体は過凝固に傾いている.ただ,PAI-1の増加で線溶系が抑制されるため,fibrin/fibrinogen degradation product(FDP)やD-dimerの上昇は抑えられ,播種性血管内凝固の診断基準を満たすことは稀と考えられている49).
腸管にTA-TMAを発症した場合(腸管型TA-TMA)の臨床症状は腹痛,大量の下痢,血便となり,腸管GVHDとの鑑別に難渋する可能性がある66, 67).腸管型TA-TMAでは破砕赤血球の出現やハプトグロビン低下を認める頻度が低く,前述表4の診断基準による診断が困難とされる49).腸管型TA-TMAと腸管GVHDの鑑別は腸粘膜生検が必須であり,前者では虚血による陰窩消失を伴う微小血管障害を認め,後者ではCD8陽性T細胞を同定することが診断根拠となる49).
3)治療・PEとカルシニューリン阻害薬の減量
TA-TMAの治療は未だ確立していないが,原因となり得る要素の排除,あるいは最小限とする対応が望ましい.例えば,感染症が併存する場合はTA-TMAを悪化させる要因となり得るため対処する必要がある.カルシニューリン阻害薬の投与はTA-TMAのリスク因子とされているが,同薬の中止や減量を支持する確実なエビデンスはない49).大規模後方視的研究によると,単変量解析でシクロスポリンの中止によりTA-TMAの転機を改善したが,多変量解析ではその効果は認められていない48).ただ,多くの症例でTA-TMAとGVHDが併存しているため,カルシニューリン阻害薬の中止・減量については細心の注意が払われるべきである.また,TA-TMA時にはカルシニューリン阻害薬から副腎皮質ステロイドへの変更よりもカルシニューリンを継続し,慎重に減量するか別のカルシニューリン阻害薬へ変更する方がOSやTA-TMA関連死亡率の比較では良いとする報告もある68).
TA-TMAはTTPと異なりADAMTS13活性が10%以上であることから,一般にPEに対する反応性に乏しい.ADAMTS13が10%以上残存する二次性TMA患者でPEを行った71例とPEを施行されなかった115例の治療成績をプロペンシティスコアでマッチングを行い解析すると,PEの有効性は認められなかった69).
・ディフィブロチド(defibrotide: DF)
豚小腸粘膜よりDNAより作成されたオリゴヌクレオチドの混合物であるDFはin vitroであるが,抗炎症作用による血管内皮細胞保護作用があることが知られており70),肝類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome: SOS)に対する有用性が報告されている71).DFの投与を受けた12例のTA-TMA患者の治療成績が後方視的に解析され,5例(41%)で完全寛解が得られたとする報告がある49).なお,本邦ではTA-TMA治療目的のDFの治療は保険適応外である.
・遺伝子組み換えトロンボモジュリン(recombinant thrombomodulin: rTM)
rTMはDIC治療薬として保険収載されており,抗凝固作用の他,抗炎症作用,血管内皮細胞保護作用を有する.SOSやTA-TMAに対する有効性が報告されているが72),本邦では保険適応外である.
・Rituximab
抗CD20モノクローナル抗体であり,小規模後方視的臨床試験や症例報告で有効性が報告されているが49),TA-TMAに対する薬理機序は不明である.本邦では保険適応外である.
・Eculizumab
抗補体C5モノクローナル抗体であり,C5aとC5b-9産生を抑制する.aHUSに対して本邦では保険収載されている.TA-TMAでは血漿中の補体複合体C5b-9の上昇と腎糸球体および腎細動脈へのC4dやC5b-9の沈着が報告され,病態への補体系関与が示唆されている49, 59).
TA-TMAに対してのEculizumabの有効性については報告されており73, 74),Eculizumabに遺伝子改変を加えて作成した半減期延長型抗C5モノクローナル抗体RavulizumabのTA-TMAに対する効果と安全性を評価する国際他施設共同試験が2020年12月に開始された49).
ただ,Eculizumab,Ravulizumabは共に,TA-TMAに対する投与は保険適応外であり,日本血液学会と日本造血細胞移植学会は共同で「TA-TMAに対するEculizumabの安易な投与は厳に慎むべき」との声明文を発表しており,EculizumabやRavulizumabのTA-TMAに対する投与は臨床試験以外では行われるべきではない.
TMAは複数の病因を持つため,その病因により治療の選択や効果が変化するだけではなく,適正に診断されなければ患者の生命を脅かすことも珍しくない.しかし,一方で,時には診断に難渋することも少なくなく,臨床的に問題になることもあり得る.ただ,徐々に知見が集約されつつある分野でもあり,その治療の選択においては適切に議論される必要がある.
松本雅則:特許使用料(アルフレッサファーマ),講演料・原稿料など(武田薬品工業,サノフィ,アレクシオンファーマ),研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(サノフィ,アレクシオンファーマ)
安積秀一,酒井和哉:本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし