2023 Volume 34 Issue 6 Pages 654-661
本邦の妊産婦死亡絶対数は減少し続け,中でも直接産科的死亡の割合が低下してはいるが,世界的に産科DICは増加傾向にある.その基礎疾患は様々で,表現される形式も異なるのが特徴である.HELLP症候群や妊娠高血圧症候群は胎盤形成不全が関与し,高度な血管内皮障害を伴うことで微小血栓形成が亢進,線溶抑制型DICを起こす.特にHELLP症候群では,近年常位胎盤早期剝離と同様,胎盤剝離により組織因子が母体循環に侵入することでDICが惹起されるとも考えられている.羊水塞栓症は羊水内の血液凝固促進物質が母体の凝固カスケードに無秩序な活性化を起こし,線溶亢進型DICとなる.他には,産科異常出血において,大量の晶質液投与などを行うと希釈性凝固障害を起こし,同じく線溶亢進型DICとなる.早期診断のため暫定版DIC診断基準が新たに策定・公開され,今後の普及が待たれる.そして各病態に対してどのようなアプローチをしていくのか研究を重ねていく必要がある.
本邦の妊産婦死亡は周産期医療や救急医療の発展に伴い,絶対数は減少し続けており,2021年には21人(妊産婦人口10万人あたり2.5人)であったが,世界的には産科危機的出血やそれに伴うdisseminated intravascular coagulation(DIC)は依然として妊産婦の主な死因である1–3).日本産婦人科医会の妊産婦死亡症例検討評価委員会が2010年以降続けている調査によると,2021年は初めて間接産科的死亡が直接産科的死亡を上回ったことから,頭蓋内出血や大動脈解離などの発症予測や治療が難しい症例の比率が増えていることが伺える4).ただし,2020年から産科危機的出血による死亡が増加傾向に転じており,今一度産科危機的出血への対応について見直す必要があると言える.
近年,循環不全,いわゆるショックの蘇生時に,大循環(macrocirculation)と微小循環(microcirculation)が一貫性(coherence)を保てているかどうかが,予後に影響を与え得るとして注目を浴びている.通常,蘇生時には主に平均動脈圧や心拍出量,乳酸値,中心静脈血酸素飽和度(central venous oxygen saturation: ScvO2)などの循環管理指標を基にしていると思われるが,大循環が安定しても,微小循環が安定化しない,いわゆる「循環の一貫性の喪失(loss of coherence)」である場合がある.実際に,敗血症性ショックにおいては微小循環障害の重症度や持続期間が予後に影響を与えるとの報告も存在する5).産科領域においては産科危機的出血が積極的な蘇生を要する代表疾患であり,母体救命のために高次医療機関や複数診療科を含めた迅速な対応が必要である.その他にもHELLP症候群や急性妊娠脂肪肝,心肺虚脱型羊水塞栓症,子宮内感染,妊娠高血圧症候群なども母体もしくは胎児も脅かす疾患であり,いずれもDICを引き起こし得る6).微小循環不全に関わる特徴的な病態である産科DICについて,今回は病態生理に着目して解説したい.
国際血栓止血学会(以下,ISTH)の学術標準化委員会によりDICの定義が提唱されてから20年ほど経過したが7),そこで強調されているのは,①背景疾患が存在し,常に二次的に生じること,②本来内皮障害部位に限局される凝固及び線溶過程が全身に無制限に播種すること,③微小血管内皮機能障害に伴う微小血栓により臓器症状が現れてくること,などである8).その中で産科DICはHELLP症候群や産後出血,septic abortion,妊娠急性脂肪肝,子宮内感染,妊娠高血圧症候群(hypertensive disorders of pregnancy: HDP)などに続発する急性DICの総称である.世界的には,発展途上国では妊娠高血圧腎症やHELLP症候群が,先進国では胎盤剝離や産後出血が,それぞれ産科DICの主要な原因であると言われている9).本来,胎盤内に限局するはずの凝固及び線溶過程が胎盤外,すなわち母体循環内に播種することで発症すると考えられている.
1)疫学一般にDICは,産科DICを起こし得る周産期を除いて女性よりも男性に多い10).産科DICの発症率は0.03%~0.35%と報告されており8),過去に米国で行われた調査によると1998年から2009年にかけて産科DICの発症率は0.092%から0.125%へと約35%増加し,妊産婦死亡の4分の1近くと関連していた11).他の研究においても敗血症性DICは発症率が横ばいか,もしくは減少しているが,産科DICは増加傾向であったことが報告されており12),病態が認知されてきたことや産科独自のスコアリングシステムの確立なども影響していると思われる.
産科DICの原因疾患は前述した通り様々で,さらにその原因疾患により表現されるDICの形式も異なるのが特徴である.常位胎盤早期剝離,羊水塞栓症などは極めて急速なトロンビン生成が起きることで線溶亢進型の,HDPやHELLP症候群などは過剰だが比較的緩徐なトロンビン生成が起きることで線溶抑制型(凝固優位型)のDICを示すことが多い.もちろん他のDICと同様,線溶と凝固が同時に進行する可能性もあり,その場合の臨床症状はその時点での優勢な機序によって決まる(線溶均衡型)8).
2)病態生理総論まず他のDICと異なる大きな要素は胎盤という臓器の存在である.胎盤形成は胎盤胞期の栄養外胚葉から始まり,胚盤胞が子宮内膜に着床すると,合胞体性栄養膜細胞(syncytiotrophoblast: ST),細胞性栄養膜細胞(cytotrophoblast: CT)に分化する.CTはさらに絨毛栄養膜細胞(villous trophoblast)と絨毛外栄養膜細胞(extravillous trophoblast: EVT)に分化し,EVTは脱落膜と子宮筋層内へと移動し,母体血管内へ侵入する血管内EVTとらせん動脈を取り囲む血管外EVTに分類される.これらのEVTが血管内皮細胞や血管平滑筋を置換し,plasminogen activator inhibitor-2(PAI-2)の産生を増加させ,らせん動脈をリモデリングすることで安定的な血流を確保する13).マウス胎盤の光学顕微鏡写真を示したが,血管内皮を隔てて大きさの違う母体赤血球と胎児赤血球が隣り合っている(図1).これを走査型電子顕微鏡で観察すると,胎盤は幾多の微小血管が密集しており,その内腔を赤血球がひしめき合って存在しているのが分かる(図2A,B).さらにその上で,母体-胎児間の十分なガス交換と栄養供給を行うために絨毛間腔の血液層流を維持しなくてはならないため,胎盤内の線溶系が機能せねばならない.一方で母体胎児界面での出血を防止し,かつ分娩時に起きる大量出血に備え,胎盤内の局所に生理的な範疇で凝固系が機能している14).このバランスが取れている限り,胎盤に異常がある場合を除いて,胎盤床に血栓が形成されることはない15).

胎盤の光学顕微鏡像
健常マウスの臍帯および胎盤の光学顕微鏡像.(右下)大きさの異なる赤血球が胎盤を形成する微小血管の中に存在している(右下図の矢印は母体赤血球を示す).(岐阜大学大学院医学系研究科救急・災害医学分野岡田英志先生より供与いただいた)

胎盤の走査型電子顕微鏡像
健常マウスの胎盤の走査型電子顕微鏡像.(A)微小血管が密集し,幾多の赤血球がひしめき合っている,(B)直径の大きい母体赤血球と小さい胎児赤血球が血管内皮を隔てて隣り合っている.(岐阜大学大学院医学系研究科救急・災害医学分野岡田英志先生より供与いただいた)
例えば,HDPの一病型である妊娠高血圧腎症(preeclampsia: PE)は血管内皮障害に起因した臓器障害を起こし,線溶抑制型のDICを起こす.PEの病態生理には胎盤形成不全が関わっているとされ,まずEVTの侵入不全により,らせん動脈のリモデリングが不十分となり,胎盤血流不全が生じる.さらに不十分な胎盤形成がSTから分泌される胎盤増殖因子(placental growth factor: PlGF)を低下させ,血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)と拮抗する作用のある可溶性fms様チロシンキナーゼ1(sFlt1)の上昇を惹起,そして全身の血管内皮障害を引き起こすとされる16, 17).
本来,敗血症ではtumor necrosis factor-α(TNF-α)やinterleukin-1(IL-1),interleukin-6(IL-6)などの炎症性サイトカインに反応して,血管内皮細胞や単核球から組織因子(tissue factor: TF)の発現が促進され,TF/第VIIa因子経路を介した凝固カスケードが無制御な活性化を引き起こし,大量のフィブリン形成につながる18).完全に明らかとなってはいないが,TFは単核球や血管内皮細胞上だけでなく,線維芽細胞などの血管内皮下組織やがん細胞,そして胎盤でも発現している18).実は正常妊娠においても,母体白血球は活性化しており,いわゆる敗血症様になることでTFを発現しているが,栄養膜細胞(trophoblast)が白血球を不活性化することで母体の炎症をバランスの取れたものに維持している19, 20).正常妊娠中において胎盤からのPAI-2産生が持続的に上昇する中で,t-PAの増加は伴わないため線溶系が抑制され,血栓促進状態となっている.その状態でtrophoblastの完全性が破壊されると,母体循環内に大量のTFが放出されることで凝固カスケードが進み,DICにつながる可能性がある8, 21, 22).典型的には胎盤剝離がこのメカニズムによりDICを発症すると考えられるが,近年HELLP症候群においても同様の説も提唱されてきている23).
線溶抑制型DICを起こす産科疾患の一つであるHELLP症候群は溶血,肝酵素上昇,血小板減少を呈する,高度の血管内皮障害を伴う多臓器不全のことである24).有病率自体は全妊娠の0.5~0.9%程度であるが,重症妊娠高血圧腎症患者に限ると,そのうち10~20%がHELLP症候群を発症すると言われている25, 26).DICや胎盤剝離,脳出血,被膜下肝血腫などの合併が多いことが特徴であり,周産期における重要疾患の一つである.
筆者は以前,HELLP症候群の血管内皮障害の程度を評価するため,HELLP症候群患者の血清シンデカン-1(SDC-1)濃度を分娩直前から分娩後まで測定し,検討を行った.その症例では帝王切開術による分娩前後で,血清SDC-1濃度は通常妊娠経過と同じく急激に低下したが,分娩直前から分娩後48時間程度まで比較的高値で推移した.さらにその後,肺動脈血栓塞栓症を併発し,抗凝固療法を要する症例であり,母体の全身の血管内皮障害による微小循環不全が示唆された27).
SDC-1は,健常な血管内皮を覆う糖タンパク質や多糖類から構成される血管内皮グリコカリックス(eGCX)の一部であり,過去の臨床研究で,敗血症や心血管系疾患,急性腎障害などにおける内皮障害を示す脱落マーカーとして用いられてきた28–31).そしてSDC-1は胎盤のST頂膜および細胞質に発現していることから,妊娠経過とともに血中濃度が上昇すると報告されており,妊婦の血清SDC-1濃度は非妊娠時の100倍以上に増加,妊娠37~41週で最高値に達し,分娩後7~11時間で急激に減少することが分かっている32–34).PEにおける血清SDC-1濃度は通常妊娠と比較すると,妊娠期間を通して低く,分娩で急激に低下するものの産褥期には高いと報告されている35).これはPE患者では,胎盤STのSDC-1発現が低下していることやSTにおける細胞骨格のアクチンネットワークが変化し,SDC-1の血中への放出が減少しているためと考えられている36, 37).機序自体はほとんど解明されていないものの,胎盤形成不全が関わっている可能性が示唆されている.
一方でHELLP症候群においては,分娩前の血清SDC-1濃度は通常妊娠と比較すると有意に高いことが観察研究で報告されており,同時にヘパラン硫酸やヒアルロン酸,可溶性腫瘍壊死因子レセプターなどの他の内皮糖鎖成分の濃度も上昇していた34).また,HELLP症候群では,von Willebrand因子の血中濃度も高く,血小板凝集を亢進させ,血管内膜への血小板付着を促進させる38).これらが交互に作用して血栓性微小血管症を引き起こす可能性が指摘されており,やはりHELLP症候群の病態が高度な血管内皮障害を伴う多臓器不全を意味していると筆者は考えている39).
完全に解明されていたわけではないが,HELLP症候群のDIC発症メカニズムは従来,肝不全に起因するものと考えられてきた.可溶性血管内皮増殖因子レセプター1(sFlt-1)やエンドグリンなどの胎盤由来の血管新生阻害因子や血管作動性物質は,全身の炎症状態を亢進させ,肝類洞内皮細胞(liver sinusoidal endothelial cell: LSEC)を含めた全身の血管内皮障害を起こす39, 40).それがLSECと肝細胞の間にあるDisse腔への赤血球の滲出を可能とし,洞閉塞症候群を引き起こす.微小血栓形成が亢進し,肝細胞が虚血状態に陥ることで最終的には肝不全になると考えられている41, 42).ただし,近年は肝不全よりも胎盤剝離の関与が提唱されてきており,前述したように胎盤の完全性が破綻し,trophoblastが母体循環に侵入して大量のTFが放出されることでDICが惹起される.実際にHELLP症候群患者の観察研究において,胎盤剝離発生率がDIC非合併例では5.6%であったが,DIC合併率では42.9%と高率であった43).
2)線溶亢進型DIC(非凝固性分娩後異常出血,常位胎盤早期剝離,羊水塞栓)産科異常出血,特に産科危機的出血は,主に出産後に起きる生命を脅かす大量出血である.妊産婦の約5%に発症し,80%近くが弛緩出血であると言われている1, 2).筆者が以前まとめた自験例においては,3次周産期医療機関単施設に転院搬送された分娩後異常出血273例のうち,37.7%が産科危機的出血に該当していた.全体の原因疾患は,最多が弛緩出血(63%),次いで胎盤卵膜遺残(19.8%),腟壁血腫(8.8%),帝王切開術後出血(4%),子宮内反症(2.9%),腹壁血腫(2.2%),会陰裂傷(2.2%)などであった44).産科異常出血の過半数が弛緩出血により生じることが分かるが,2018年の本邦の7施設におけるコホート研究で産科異常出血の中で産科DICをきたした症例のうち,常位胎盤早期剝離が33.3%,次いでDIC型(非凝固性)分娩後異常出血16.7%,羊水塞栓症8.3%,HDP8.3%であったと報告がある45).
すなわち線溶亢進型の中でも,常位胎盤早期剝離や羊水塞栓症は,発症頻度自体は低いが高率にDICを合併するということである.どちらも母体-胎児間バリアの完全性が破綻することで,胎盤や羊水内に存在する血液凝固促進物質が母体循環内に流入し,凝固カスケードが無制御な活性化を引き起こすことで大量のフィブリンが形成される消費性凝固障害の形式をとる.特に羊水塞栓症は,子宮の損傷部位や胎盤付着部位,子宮頸管内静脈などから羊水が母体血中に流入して,白血球や血小板,補体系,凝固系の活性化が生じ,弛緩出血に加えて肺水腫や急性心不全などを起こすことで,急激な経過でショックや心肺停止に至る.発症頻度は米国や欧州では1.5万~5万分娩中1例,本邦や豪国では10万分娩中5例程度であり,母体死亡率は低下してきてはいるものの,近年でも20~40%と産科領域においては非常に高い46, 47).おそらく炎症や凝固活性の程度は,侵入した羊水の総量と性質(胎脂や胎便,産毛,プロテアーゼ,TF)に応じて強くなり,母体肺微小血管を物理的に塞栓するだけではなく,血管攣縮を起こすことで肺高血圧や急性右心不全,結果的に両心不全を起こすとされる48).それにより深刻なV-Qミスマッチが生じ,低酸素血症などから多臓器不全につながる.
弛緩出血や前置・癒着胎盤などによる分娩後大量出血では,早期から血中フィブリノゲン値が低下し,凝固障害が進む.したがって,各種の止血戦略に加えて,早期のフィブリノゲン補充療法が重要であるが,大量の晶質液投与や新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)/赤血球液(red blood cell: RBC)比が低いと希釈性凝固障害が惹起され,DICにつながる.さらにいくつかの研究で,fluid overloadがeGCX傷害を引き起こし,血管外漏出をもたらすことが示されている49, 50).筆者は以前,FFPの濃縮製剤であるクリオプレシピテート(CRYO)によるフィブリノゲン補充療法が,産科異常出血患者の輸血や輸液の総必要量を減少させ,臨床転帰を改善させるかどうかを単施設後方視コホート研究で検討した51).その結果,CRYO使用により,有意差は無いものの初療から24時間の累積体液バランスが低下する傾向があり,サブ解析では造影CT検査で判別した活動性出血の無い患者において,同指標が有意に低下していた.
1896年にStarlingにより提唱された静水圧較差と膠質浸透圧較差による毛細血管から間質への体液移動の原理は,近年eGCXの発見とそれに伴い毛細血管の構造が複雑化したことで,新たに改訂Starling法則として提唱されている52).従来,圧較差を生み出していた間質液膠質浸透圧がeGCX直下の膠質浸透圧に置き換わり,微小な血管における細胞内外の静水圧の調節にeGCXが関与しているとされ,その層が破綻すると透水性が上昇し,血管外漏出が増えることになる.それなら血管内皮障害を防げるのかどうかというと,eGCXの回復は比較的早いため53),最も確実な保護は原疾患の治療だと思われる.ただし複雑な病態を呈する状況や,産科危機的出血のように外科的もしくは経カテーテル的に止血を行いながら大量輸血を行わないと救命できない状況では容易ではない.過去に行われたラットの実験では,FFP輸血による蘇生は,出血性ショックにおいて生理食塩水や乳酸リンゲル液,5%アルブミン投与と比較してeGCXの厚さを保持するというものであった.大量出血やストレスでも血管内皮障害は生じるが,逆にfluid overloadも同じく起こすとすると,病態生理からすればFFP/RBC比の高い輸血戦略やCRYOなどの濃縮製剤がfluid overloadを避けつつ,血管内皮障害を軽減させる可能性が考えられる.
2022年6月に日本産婦人科・新生児血液学会ワーキンググループと日本産婦人科学会周産期委員会の合同委員会によって,暫定版産科DIC診断基準が策定及び公開されている(表1).これまでの産科DIC診断基準では基礎疾患が不明であるとDICが診断できない,もしくはDICが先行して凝血塊を伴わないサラサラの出血が持続するDIC型(非凝固性)分娩後異常出血は診断が難しいことが指摘された54, 55).そこで新たな産科DIC診断基準では煩雑だった臨床症状項目を削除し,基礎疾患及び病態として羊水塞栓症と常位胎盤早期剝離に加え,非凝固性分娩後異常出血が同比重で記載されている.注釈に「分娩後異常出血のうち,出血に凝血塊を伴わないものを指す.膿盆などの容器に集めて凝血塊(血餅)が形成しないことを確認することが望ましい」とある.この所見が確認できれば,フィブリノゲン値がまだ低下していなくともDICと認知ができ,より迅速な治療につながると予想される.
暫定版産科DIC診断基準
| I.基礎疾患・徴候 | 点数 | II.凝固系検査 | 点数 | III.線溶系検査 | 点数 |
|---|---|---|---|---|---|
| フィブリノゲン(mg/dL) | a. FDP(μg/mL) | ||||
| a. 常位胎盤早期剝離 | 4 | 300≦ | 0 | <30 | 0 |
| 200≦ <300 | 1 | 30≦ <60 | 1 | ||
| b. 羊水塞栓症 | 4 | 150≦ <200 | 2 | 60≦ | 2 |
| 100≦ <150 | 3 | b. D-dimer(μg/mL) | |||
| c. 非凝固性分娩後異常出血 | 4 | <100 | 4 | <15 | 0 |
| 15≦ <25 | 1 | ||||
| 25≦ | 2 |
・止血困難な分娩後異常出血の産褥婦に対して,基礎疾患・徴候,凝固系検査,線溶系検査各項目の該当するものを1つだけ選び合計する.8点以上となった産褥婦をDICと診断する.
・非凝固性分娩後異常出血;分娩後異常出血のうち,出血に凝血塊を伴わないものを指す.膿盆などの容器に集めて凝血塊(血餅)が形成しないことを確認することが望ましい.
・この診断基準は分娩後異常出血の管理に「産科危機的出血への対応指針(最新版)」と併せて利用することを目的に作成されている.
産科DICは今回触れなかった急性妊娠性脂肪肝や劇症A群溶連菌感染症などによる母体敗血症なども含めて,様々な病態を持つ.今後は新たな産科DIC診断基準がどこまで普及していくのか,そして各種病態に対してどのようなアプローチをしていくのか研究を重ねていく必要がある.
本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし