Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Aiming to improve the quality of life of patients with hemophilia
Collaborative efforts in hemophilia care in the Kyushu-Okinawa region: expanding coordination with orthopedics in hemophilic arthropathy
Rie SHIRAYAMAYasumi KASHIWABARA
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2024 Volume 35 Issue 1 Pages 71-77

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Abstract

血友病の重大な合併症である血友病性関節症の診療には整形外科医との連携が不可欠であるが,それが十分行えていないとの意見もある.血友病診療における整形外科との連携の現況を把握するために,2022年2月に日本血栓止血学会血友病診療連携委員会の九州・沖縄ブロックで,ブロック内の拠点病院と地域中核病院の13施設14科を対象に血友病性関節症診療に関するアンケート調査を行ったところ,半数の7科が整形外科との連携に課題があると回答した.この結果を受けて,地域中核病院の整形外科医向けに血友病性関節症に関するセミナーを複数回開催し,各病院の血友病担当医から整形外科に連携強化のためのアプローチも行った.その結果,2022年9月に行った調査では,7科が整形外科との連携が強化できたと回答した.今回の取り組みは,血友病診療連携委員会の活動が血友病性関節症の診療向上につながったと考えられため,その詳細を紹介する.

1.はじめに

2020年にグローバルなガイドラインであるWorld Federation of Hemophilia(WFH)の血友病診療ガイドラインが8年ぶりに改訂され,第3版が発表された.その1章の第1項目に,血友病診療の原則として,① 包括的な血友病ケア,② 血友病診療施設のネットワーク,③ 国内の血友病患者レジストリ,④ 治療薬の確保があげられている.また,2章には包括的な血友病ケアは血友病患者の身体的・心理社会的な健康,高いQOLを提供し,合併症罹患率や死亡率を減少させると記載されている1.血友病患者が診療経験豊富な血友病センターに集約される欧米と対照的に,本邦では5人以下の血友病患者を診療する施設が大多数を占めている2.血友病患者が居住地近くの施設で治療を受けることができるという利便性を損なうことなく包括的かつ個別化された専門的な治療を受けるためには,血友病診療を専門的に行う病院とかかりつけ医療機関との連携が重要なポイントである.この連携強化をはかるため,2018年4月に血栓止血学会内に血友病診療連携委員会が発足した.血友病診療連携委員会では各ブロック(北海道,東北,関東甲信越,東海・北陸,近畿,中国・四国,九州・沖縄)に血友病センターといえるブロック拠点病院と血友病手術に特化した特殊機能型病院を設け,さらに各地域の血友病診療豊富な施設を地域中核病院と定めている.各ブロックの代表者などで中央運営協議会が,各ブロックの拠点病院と血友病中核病院の代表者からなるブロック運営協議会がそれぞれ構成され,最新の包括的な血友病診療の提供拡充を目指しての連携が始まった.地域中核病院は,公募で申請を受け施設認定審査後に中央運営協議会によって承認されると定められており,2023年9月時点で47都道府県すべてにブロック拠点病院または地域中核病院が存在し,都道府県内の診療連携の核となっている3

筆頭筆者が委員を務める九州沖縄ブロックの血友病診療連携委員会では,以前からアンケートを活用して課題を抽出し共有してきた.今回は,前述のWFHガイドラインの中で包括的な血友病ケアの中心の一つにあげられている血友病関節症診療1をテーマにしたアンケートを実施することで課題を抽出し,課題解決に向けて取り組むことで効果が得られたため,その取り組みの詳細を紹介する.

2.第1回血友病性関節症診療アンケート調査

1)背景

九州・沖縄ブロックのブロック拠点病院である産業医科大学病院(福岡県北九州市)では,血友病の包括ケア提供のため,血友病診療医,リハビリテーション科医,整形外科医,歯科口腔外科医,理学療法士,血友病ナースコーディネーターによる診療・検査,アドバイスを受けられる血友病総合診察外来(以下,包括外来)を月1回開設している(図1).新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック以前は,福岡県のみならず九州の他県からも1,2年に1度,定期的に包括外来を受診する患者が多かったが,COVID-19の流行によって県をまたぐ移動が制限され,2020年は,特に遠方の患者の包括外来への受診控えがみられた(図2).そうした状況のなかで,地域中核病院に包括的血友病ケアとくに血友病性関節症診療のニーズが高まったことを九州・沖縄ブロック 血友病診療連携委員会ブロック運営協議会(以下,ブロック連携委員会)を通して医療者サイドから,また,直接患者サイドからも聞くようになった.そのため,ブロック連携委員が勤務する施設での血友病性関節症診療の現状と課題を明確にし,各県での包括診療の向上を目指す取り組みを検討するためにアンケート調査を行った.

図1

産業医科大学の血友病総合診察外来

産業医科大学では1984年から血友病の包括診療外来を月1回行っている.図のように各科で診察・相談を行い,血液検査や画像検査など必要な検査を行う.血液検査時に注射手技の確認を行うこともある.包括外来受診後に評価会議を行い,患者自身とかかりつけ医療機関(かかりつけが当院でない場合)に結果を報告している.

・Nsコーディネーター:血友病ナースコーディネーター

図2

産業医科大学の血友病総合診察外来の県別年間受診者数

2)方法

2022年2月~3月にブロック連携委員会を構成するブロック拠点病院・地域中核病院13施設14科の血友病診療医(代表者各1名)を対象に,血友病関節症診療をテーマにしたアンケート調査を実施した.アンケートは九州・沖縄ブロックのメーリングリストと郵送の両方で配布し,Web上のGoogle formもしくはアンケート用紙郵送のいずれかを選択して回答していただいた.内容は血友病性関節症診療についての現状と課題であり,質問の詳細は結果とともに表1に示す.現状については選択式アンケートを行い,各施設の課題は自由記載とした.

表1

血友病性関節症診療をテーマとしたアンケート調査の質問内容とその結果

質問 結果(回答数)
関節評価は誰が行っていますか.(複数回答可) 自身(6),院内連携(6),院外連携(3),未施行(2)
関節評価を定期的に行っていますか. 定期的に実施している(6),定期的に実施していない(8)
関節症の評価で何を行っていますか.(複数回答可) 単純X線(11),関節超音波(8),関節MRI(7),理学所見(7)
関節症の手術を行ったことがありますか. ある(2),ない(12)
理学療法士は関節症診療に関わっていますか. 関わっている(4),関わっている(8)
理学療法士の関りがある場合はどういった内容ですか.(複数回答可) 外来理学療法(1),入院理学療法(4),在宅リハビリテーション指導(1),筋力や可動域の測定(1),装具の相談(1)
血友病性関節症の診療に関する課題は何ですか.(自由記載) 整形外科・リハビリテーション科との連携(7),関節超音波検査の導入・運用(3),関節MRIの運用(1),患者が重要性を認識していない(1),マンパワー不足(1)

3)結果(表1

14科の代表14名すべてのから回答が得られ,回収率は100%であった.すべての質問に回答していないものも採用した.関節評価を定期的に行っていると回答した施設は6科(43%)であった.また,血友病性関節症の評価方法として11科(79%)が単純X線検査,8科(57%)が関節超音波検査,7科(50%)がMRI,7科(50%)が理学所見診察(可動域や筋力測定)を行っていた.血友病性関節症診療の課題については,自由記載で14科中7科(50%)が整形外科・リハビリテーション科(理学療法士など)との連携に課題があるという結果であった.

4)アンケートの評価と取り組み(図3
図3

血友病関節症診療向上を目的としたPDCAサイクル

ブロック連携委員会で結果を共有し,各施設内の取り組みとして整形外科に血友病関節症についての診療連携の強化を依頼した.また,ブロック連携委員会全体の取り組みとして,2022年度には整形外科との連携強化を目標に血友病中核病院の整形外科医向けに血友病関節症診療と血友病包括診療をテーマにブロック拠点病院の整形外科医を講師にしたWebセミナーを複数回開催した.さらに,各県内でも血友病包括診療をテーマに対面やWebでの研究会を開催し,整形外科医に参加を依頼した.初回のアンケート調査から約半年後に効果を評価する目的で次回のアンケート調査を行う方針とした.次回以降のアンケート調査では,血友病性関節症診療の内容に加え,ブロック連携委員会であがった関節症診療以外の課題についても順次アンケート調査を行う方針とした.

3.2回目の血友病性関節症診療アンケート調査

1)方法

2022年9月~10月に初回と同様の方法でブロック拠点病院・地域中核病院13施設14科の血友病診療医(代表者各1名)を対象に,アンケート調査を実施した.2回目のアンケートのテーマの主軸は血友病性保因者ケアの各施設の現状調査であったが,前回のアンケート調査および調査後の取り組みを経て直近3か月での血友病性関節症診療の変化を調査した(自由記載).

2)結果

14科の代表13名から回答が得られ,回収率は93%であった.無記名可のアンケートであり1回目の調査で整形外科・リハビリテーション科との連携に課題があると回答した7科と合致するかは評価できなかったが,13科中7科の代表者が患者を整形外科に紹介した・併診したと記載していた.また,2科で関節の理学所見を評価するようになり,2科では関節超音波検査について導入を進めていると記載した.今後の血友病性関節症診療の課題については,関節超音波検査の導入が5科(38%),整形外科の連携が1科,疼痛コントロールが1科であった.

3)アンケートの評価と取り組み(図3

これまでの取り組みで整形外科への連携が進んだ施設が増えたと判断した.血友病性関節症診療に興味をもった2施設の整形外科からはブロック拠点病院の包括外来での整形外科診療見学の依頼もあり,今後見学していただく予定としている.整形外科へのアプローチには一定の効果があったと考え,ブロック連携委員会の各施設内での連携強化と整形外科医向けのセミナーを継続する方針とした.また,関節超音波検査の導入についてニーズが初回のアンケート調査よりも高まったと評価し,中核病院の血友病診療医や検査技師向けにハンズオンセミナーを行うこととし,第1回目のセミナーを開催したところである.今後もアンケートやブロック連携委員会のミーティングを通して九州・沖縄ブロックで連携して課題を抽出し,ブロックの血友病診療の向上に取り組んでいくことをブロック連携委員会で確認した.

4.考察

血友病センターを受診した血友病患者は,血友病センター非受診者と比較してQOL,全生存期間,関節機能維持が良いと報告されている1, 4, 5.また,米国で実施された血友病センターを受診中の患者の診療コアチームの各スタッフに対する満足度に関する調査では,血友病担当医,看護師,ソーシャルワーカーおよび理学療法士のそれぞれに対して97.3%,95.1%,95.1%および95.6%が満足していると回答しており,血友病センターは患者からも評価されていると考えられた6.欧米では血友病患者は専門的で包括的な血友病ケアを提供する血友病センターで診療を受けることが一般的であり,2010年のWFHのGlobal Surveyによると英国,カナダ,スウェーデン,イタリア,オランダ,オーストラリアでは,血友病センター受診率はほぼ100%,米国で70%,隣国の韓国で85%と報告されている.一方,2009年の本邦の調査では,血友病診療経験が豊富な17施設に受診歴のある患者数は多く見積もって約50%という結果であった7.しかし,本邦ですべての血友病患者を血友病センターのみに集約化することはアクセシビリティや通院アドヒアランスの観点から困難であり,患者の利便性を損なわずに質の高い包括的な血友病診療を提供するためには,患者の居住する地域の医療機関と血友病の包括的ケアを提供できるセンター病院との診療連携,つまり日常診療はかかりつけ医療機関で行い,包括的ケアの提供はブロックや県内の血友病診療経験が豊富な医療機関で定期的に行うという方針が重要と考えられた2.欧州では各血友病センター間,国家間で提供できる血友病の医療ケアに大きな差があったことから,欧州血友病ネットワーク(2023年10月現在34か国167の血友病センターが参加)を組織し8, 9,地域の日常ケアが提供できるHemophilia treatment centreと,より包括的かつ専門的な医療を提供できるHemophilia comprehensive care centreを基準に沿って認定し,診療の質の保証と標準化をすすめている9, 10.これをモデルの一つとして本邦では2018年4月に血栓止血学会内に血友病診療連携委員会が発足し,血友病センターを担うべきブロック拠点病院と血友病センターの機能を部分的に担当する地域中核病院が選定された3.ブロック間の連携は中央運営協議会で行われ,血友病部会や各ワーキンググループからの決定・依頼事項の確認や各ブロックの活動報告,患者会との連携を行っている.ブロック内の連携についてはブロック連携委員会に任されており,ブロック内の課題とニーズに即した連携と対策が重要であると考える.九州沖縄ブロックではアンケート調査を活用し,あらかじめ課題を抽出してから効率的にミーティングを行う取り組みを行っており,今回の関節症診療のアンケート調査については対策を講じて効果が得られたと評価している.

今回のアンケート調査のテーマを関節症診療とした背景としては,前述のパンデミックによる遠方の患者の包括外来受診控えに加えて,関節診察を受けたことがない血友病患者が約30%存在するという令和2年度の国内の調査結果11がある.1施設で数人のみの血友病患者を診療している血友病診療施設が多いことが本邦の特徴であり,包括的ケアが提供できる血友病センターへの通院が少ないことが一因かもしれない.血友病診療において,包括的ケアの提供はWFH血友病診療ガイドライン第3版においても原則の1つとされており重要性が高いといえる.また,包括的ケアのキーコンポーネントとして,① インヒビターの予防,併存症・合併症の治療,② 出血と関節傷害の予防,出血時の適切な治療(リハビリテーションも含む),③ 筋骨格系の合併症のマネジメント,④ 痛みのケア,⑤ 歯科口腔ケア,⑥ 患者/ケアギバーへの継続的な教育とサポート,⑦ QOLの評価と心理的なサポート,⑧ 遺伝カウンセリングと診断の8つが示されており1,このうち,①,②,③,④,⑦は血友病性関節症に関わる.一次定期補充療法が関節症の予防に良いと結論付けられたJoint outcome study12の継続試験であるJOS-C studyから,一次定期補充でも血友病性関節症の進行を完全に防ぐことが難しいことが示されており13,本邦の令和2年度のQOL調査でも,幼少期から定期補充療法を受けられている世代でも10代から20代にかけて足関節痛が増加するという結果が得られた11.ファクター製剤による定期補充療法,ノンファクター製剤による定期投与が拡充し,関節内出血の頻度が減少した2023年現在でも,進行した血友病性関節症をもつ成人患者のみならず,小児・青年に対する関節症の包括的ケアは重要である.関節診療を受けていない患者が約30%にのぼるという結果11は,我が国の血友病診療の改善すべき喫緊の課題であり,整形外科やリハビリテーション科との連携を推進する全国講演会や地域の勉強会も複数開催された.それにより,血友病担当医間で関心が強まっていたこともあり,今回のアンケート調査のテーマは関節症診療に設定した.

九州沖縄ブロックではパンデミックのなかで開催することになった2022年4月のwebミーティング(ブロック連携委員会の血友病診療担当医・担当看護師が参加)前に関節評価に対する前述のアンケート調査を行い,その結果を共有し対策を議論した.そのなかで,パンデミック前は九州内の他県(特に中核病院以外の施設)からも前述のようにブロック拠点病院である当院の包括外来を受診し,関節症の包括診療を受けていたが県外への移動が制限されたことで包括外来を受診できなくなった血友病患者が,各中核施設での関節症の包括的診療を希望したため,今回のアンケート回答後に整形外科やリハビリテーション科との連携を課題ととらえて整形外科にアプローチしている施設がみられた.また,アンケート結果を共有したのちに県内での関節症診療についての議論が進んだという報告もあった.まずは血友病診療担当医や担当看護師が包括的な関節症診療の提供を各施設で拡充しなくてはならないという当事者意識をもてたのがこのアンケートとミーティングの成果だったと考える.それに加えて,ミーティング後に血友病診療担当者(ブロック連携委員会の委員)から各施設の整形外科・リハビリテーション科に包括的な関節症診療に協力してほしいというアプローチを行い,そこで興味を持っていただいた整形外科・リハビリテーション科向けにブロック拠点病院の整形外科医から勉強会や講演会で血友病性関節症診療についての実際を講義したところ,質問や議論も活発で勉強会後に整形外科医から血友病性関節症診療に立候補していただけたこともあり,血友病診療の連携をより強化することもできた.半年後のアンケートでも7施設で整形との連携が進んだという回答を得ており,施設内とブロック全体のアプローチのいずれもが奏功したと考えられた.

今後も整形外科・リハビリテーション科との連携は継続的な課題と考えており,実際に整形外科との連携の強化が始まった施設では血友病関節症の診療を行うにあたって整形外科医サイドから具体的な診察・検査・治療,受診間隔など実臨床で新たな疑問点が生じたという声があり,当院の包括外来の具体的な診療内容について九州・沖縄ブロック向けに資材を作成し配布した.そのうえでの疑問点に対しては,可能であれば現場を見学していただき,直接ブロック拠点病院の整形外科医や血友病担当医,コーディネーターナースなどから回答する方針としている.今後もより現場に即した整形外科・リハビリテーション科への情報提供をブロック内で進めていきたい.また,ブロック連携委員会のWebミーティングでは,整形外科・リハビリテーション科との連携以外にも保因者のケアやトランジッション,県内の連携など血友病診療に対する課題が抽出されており,それらに対してもアンケート調査を通じて現況を把握し,ブロック連携委員会でディスカッションを行いながら対策を講じていきたいと考えている.

謝辞

アンケート調査とミーティングにご協力いただきました酒井道生先生,石村匡崇先生,内場光浩先生,尾形善康先生,上村幸代先生,末延聡一先生,高田三千尋先生,中村達郎先生,橋口照人先生,東美幸先生,舩越康智先生,松尾陽子先生,右田昌宏先生,森島聡子先生,屋宜孟先生に深謝申し上げます.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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