2024 Volume 35 Issue 1 Pages 78-82
近年の血友病治療の進歩は目覚ましいものがあり,様々な特徴を持つ血液凝固因子製剤のほか,凝固第VIII因子の機能を代替する抗体製剤も日常診療で使用されている.その結果,血友病の出血/止血管理は従来の標準的治療から,一人ひとりの薬物動態やライフスタイルに合わせた個別化治療に進化している.日本血栓止血学会では,血友病患者が居住地近くの施設で引き続き治療を受けることができるという利便性を損なうことなく,最新の個別的包括的ケアを受けることができるようにするため2018年に血友病診療連携委員会を設置して,血友病診療連携体制を構築した.本体制は,血友病患者が血友病診療ブロック拠点病院あるいは地域中核病院を受診し,診療方針の提示を受けることを基本としているが,遠方に在住している患者にとっては,時間的経済的負担が大きい.今回,直接受診を補完するものとして,血友病における遠隔診療(オンライン診療)連携の可能性を考えた.
近年の血友病治療の進歩は目覚ましいものがあり,様々な特徴を持つ血液凝固因子製剤のほか,凝固第VIII因子の機能を代替する抗体製剤も日常診療で使用されている.さらに,アンチトロンビンや組織因子経路インヒビター(tissue factor pathway inhibitor: TFPI)の阻害により間接的に凝固活性を高めるnon-factor製剤や遺伝子治療の導入も目前に迫っている.その結果,血友病の出血/止血管理は従来の標準的治療から,一人ひとりの薬物動態やライフスタイルに合わせた個別化治療に進化している.個別化治療を提供するためには,ガイドラインだけでは不十分であり,血友病診療に深い経験を持つ専門医の直接的な関わりが必要である.また,血友病性関節症をはじめとして様々な問題を抱える患者やその家族には,出血/止血管理のみならず包括的ケアの提供が必要であるが,少人数の血友病患者を診ている施設が包括的ケアを提供するのは難しい.一方,我が国では約6,000名の血友病患者が800前後の医療機関を受診しており,その結果,旧態依然とした治療を受け続けている患者が少なくない.そこで,日本血栓止血学会では,血友病患者が居住地近くの施設で引き続き治療を受けることができるという利便性を損なうことなく,最新の個別的包括的ケアを受けることができるようにするため2018年に血友病診療連携委員会を設置して,血友病診療連携体制を構築した.本体制は,非専門医あるいは当該医療機関では対応できない問題を抱えている血友病患者が血友病診療ブロック拠点病院あるいは地域中核病院を受診し,診療方針の提示を受けることを基本としているが,遠方に在住している患者にとっては,時間的経済的に負担が大きい.また,コロナ禍などで遠隔地への移動が制限されることもある.そこで,直接受診を補完するものとして,血友病における遠隔診療(オンライン診療)連携の可能性を考えた.
血友病診療連携委員会が設置された目的は,血友病診療施設の連携体制を構築することで,血友病患者さんが,日常診療を居住地近くの施設で受けることができるという利便性を損なうことなく,最適かつ必要な個別的・包括的ケアを受けられるようにすることである.
血友病診療連携施設の構成は,ブロック拠点病院と地域中核病院,診療連携施設,整形外科や歯科などに特化した特殊機能型病院に大別され,各施設が自施設の診療機能に合わせて連携する.ブロック拠点病院の主要機能は,①血友病の診断と治療,②包括医療の提供,③人材育成,④それぞれの地域における診療ネットワークの構築とデータベースの収集,⑤臨床研究・臨床試験の推進であり,各ブロックに1施設以上とし,2023年時点で14施設が認定されている.特殊機能型病院は,包括医療の提供はできないが,血友病診療の特定の分野で全国的に重要な役割を担っている施設で,東京大学医科学研究所附属病院が整形外科領域の診療施設として認定されている.地域中核病院は,ブロック拠点病院と連携してそれぞれの地域の血友病診療の中心になる施設で,施設認定基準は表1に示すとおりであり,現在,各都道府県に1施設以上が認定されている.
地域中核病院認定基準(日本血栓止血学会ホームページより)
1.ブロック拠点病院との円滑な連携・相談体制を築けている. |
2.自院もしくは近隣の病院と連携して,重篤な出血時に対応できる. |
3.ガイドラインに基づく標準的治療を提供できる. |
4.近隣の血友病診療連携施設から止血管理,生活指導および制度利用に関する相談や紹介を受けることができる. |
5.血友病診療について専門的知識を持つ内科医もしくは(および)小児科医がいる. |
6.血友病診療について経験を持つ看護師がいる. |
7.ブロック拠点病院と協力して全国および地域の患者会をサポートできる. |
8.代表者(血友病診療担当責任医師)は日本血栓止血学会会員であることが望ましい. |
愛媛県では,定期的な血友病治療の評価と血友病専門医から患者に最新情報を適切に届ける目的で,2016年より愛媛大学医学部附属病院を中心に愛媛県血友病診療連携を立ち上げた.愛媛大学医学部附属病院は血友病診療連携委員会から地域中核病院と認定されている.2023年現在,15病院の血友病診療施設が参加している.通常は自宅の近くの診療所,病院で診療,治療を行うが,年に1回,愛媛大学医学部附属病院を受診してもらう.当院での血友病包括外来(図1)では,内科,小児科,整形外科,リハビリテーション部門,歯科を受診し,出血や関節の状態を評価すると共に,看護師,臨床心理士と面談することで精神的・身体的・社会的課題を抽出し,個別の課題の解消に努めている.具体的には,内科,小児科では,輸注記録を見せてもらい,年間出血回数を確認し,その出血が関節出血か非関節出血か,もしくは自然出血か外傷性出血かを聴き取る.それにより,標的関節があるかどうかを確認する.治療に関しても,輸注記録を見ながら,補充療法の内容やアドヒアランスを確認する.その他,現在の仕事の内容や,学校生活,特にクラブ活動について聴き取るようにしている.整形外科では,血友病関節症について,X線検査を施行して評価している.必要時は,定期通院してもらい,MRIや関節エコーで評価している.リハビリテーション部門では,関節可動域や筋力の測定を行っている.歯科では,X線検査を施行し,歯と口腔内の検診を行っている.その上で,口腔ケアの指導を行い,定期的に地域の歯科を受診するように勧めている.看護師は,注射技術達成度チェックリストを用いた注射手技の確認,家庭や学校,職場での状況確認を行っている.家族歴や母親・姉妹の出血症状の聴き取りも行う.臨床心理士は,患者や家族と面談するとともに,心理テストを行っている.定期検診を受けた患者については,院内で合同カンファレンスを実施し,情報を共有している.各診療部門の包括外来の責任者だけでなく,患者を担当した整形外科医や理学療法士,歯科医,歯科衛生士の先生方にも参加していただき,検査結果などを報告していただく.また,看護師や臨床心理士,薬剤師,社会福祉士からは,患者や家族から聴き取った情報なども紹介してもらう.定期検診の結果についてはレポートを作り,かかりつけ医と患者にそれぞれ返信している.その結果を日常診療に役立てでもらいたいと考えている.また,年に1回,愛媛県で血友病診療にあたっている医療スタッフが一同に集まり,情報交換を行っている.
愛媛大学医学部附属病院血友病包括外来
愛媛県は東西に長く当院まで公共交通機関で5時間かけて通院してくる患者さんもいる.四国内の他県から当院の血友病包括外来を受診にくる患者さんもいる.
遠隔診療は,医師から医師を支援するD to D(Doctor to Doctor)と患者の診察を行うD to P(Doctor to Patient)の2種類がある.D to Dとしては,画像診断として放射線画像や病理標本を共に見たり,波形診断としてホルター心電図,12誘導心電図,脳波などを共に見たりすることで診断の助けとなる.一方,D to Pには,オンライン診療,電話等再診,遠隔モニタリングがある.また,その応用形態として,患者側に医師が介在した遠隔の医師による診療D to P with D(Doctor to Patient with Doctor)や患者側に看護師が介在した遠隔の医師による診療D to P with N(Doctor to Patient with Nurse)などがある.
オンライン診療は遠隔医療の一つであり,リアルタイムで実施する診断,説明,処方などの診療行為である.厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」2)ではオンライン診療の定義を「遠隔医療のうち,医師―患者間において,情報通信機器を通して,患者の診察及び診断を行い診断結果の伝達や処方等の診療行為を,リアルタイムにより行う行為」としている.また,オンライン診療を実施する医師は厚生労働省が指定する研修を受講しなければならない.
平成30年度診療報酬改定3)で「オンライン診療料」が新規に保険収載され,「対面診療の原則のうえ」で,これを補完する制度設計となっていた.必要事項として,オンライン診療開始前に「6ヶ月」にわたって毎月の対面診療が求められた.令和2年度診療報酬改定4)では事前条件が「3ヶ月」に緩和されたものの,オンライン診療開始後も「3ヶ月以内」の対面診療を続けていく必要があった.ところが,令和4年度診療報酬改定5)では,初診によるオンライン診療が認められた.これに伴い「オンライン診療料」が廃止され,「初診料」,「再診料」,「外来診療料」について「情報通信機器を用いた場合」の点数が新設された.さらに,情報通信機器を用いて行った医学管理料として,オンライン診療で算定できるものについては対面診療の約87%の点数が認められた.このように保険診療によるオンライン診療は診療報酬改定のたびに変革を遂げており,制度設計は発展しつつある.
専門医によるオンライン診療の際に,かかりつけ医が患者の傍らに同席するD to P with Dでは,かかりつけ医からの情報もリアルタイムに得ることができるため極めて効率的である上に,専門医の診療方針に対してかかりつけ医自身の理解も深まるメリットがある.
「D to P with D」は令和2年度診療報酬改定4)で「遠隔連携診療料」として保険算定が可能となった.希少性の高い疾患等,専門性の観点から近隣の医療機関では診断が困難な疾患に対して,かかりつけ医のもとで,事前の十分な情報共有の上で遠隔地の医師が情報通信機器を用いた診療を行う場合について,新たな評価を行う.対象患者はてんかん(外傷性を含む)の疑いがある患者と指定難病の疑いがある患者である.対面診療を行っている医療機関の医師が,診断を目的として,指定難病又はてんかんに関する専門的な診療を行っている医療機関の医師と情報通信機器を用いて連携して診療を行った場合に,当該診断の確定までの間に3月に1回に限り算定できる.普段はかかりつけ医のもとで対面診療を受けている患者について,かかりつけ医から遠隔地の連携先の医師に診療情報提供を行い,その結果に基づいて,かかりつけ医のもとへ通院した際にリアルタイムで遠隔地の医師から助言を受けるシステムである.対面診療と遠隔診療を組み合わせた方法である.てんかんについては,遠隔地の診療機関は「てんかん診療拠点機関」とされている.また,令和4年度診療報酬改定6)では,算定条件の一部が改訂され,「知的障害を有するてんかん患者」について,かかりつけ医とてんかん診療拠点機関の医師が連携して診療を継続する場合の評価に「遠隔連携診療料2(その他の場合)」が新設された.1年の限度が設けられているが,治療過程についても専門医からの助言が可能となった.一方,指定難病については,遠隔地の診療機関は「難病診療連携拠点病院」とされている.難病診療連携拠点病院は各都道府県が地域の実情に合わせて指定しているが,地域によって指定施設の数に格差が大きい.その上,多くの都道府県では1~2施設程度が難病診療連携拠点病院に指定されているが,すべての臓器分野の難病を1~2施設でカバーすることには限界があるため,難病診療分野別拠点病院や難病医療拠点病院が活用されているのが実情である.
血友病診療連携においても,血友病診療に深い経験を持つ専門医の数が少ない上に,血友病診療ブロック拠点病院あるいは地域中核病院は限られており,特に血友病診療ブロック拠点病院や地域中核病院から遠方に在住している血友病患者にとっては,受診することが時間的経済的な負担が大きくなっている.そこで,専門医によるオンライン診療の際に,かかりつけ医が患者の傍らに同席するD to P with Dが,かかりつけ医からの情報もリアルタイムに得ることができるため極めて効率的であるし,専門医の診療方針に対してかかりつけ医自身の理解も深まるメリットがあるため,血友病診療連携においても魅力を感じる.
以上のことから日本血栓止血学会血友病診療連携委員会では,オンライン血友病診療連携WGを発足し,「観察研究:血友病における遠隔診療(オンライン診療)の役割の研究」を行うことを計画している.
本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし.