Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Technical Lecture
Current status and progress of laboratory testing for ADAMTS13
Masayuki KUBOMasanori MATSUMOTO
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2024 Volume 35 Issue 4 Pages 484-488

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1.はじめに

ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13)は肝の星細胞で産生されるメタロプロテアーゼであり,von Willebrand因子(VWF)を基質とする.VWFは主に血管内皮細胞で産生され,超高分子量VWF重合体(ultra-large VWF multimers: UL-VWFM)として血液中に分泌されると,直ちにADAMTS13によって切断される.VWFと血小板との結合能はVWFの分子量に依存するため,高分子量VWFの存在は血栓形成につながるが,ADAMTS13はVWFを適切な分子量に切断することによって血栓形成を制御している.

ADAMTS13検査は主として,血栓性微小血管症が疑われる場合に,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)の診断を目的として実施される.TTPはADAMTS13活性低下に起因して発症する致死的な血栓性疾患であり,先天性TTPはADAMTS13遺伝子異常によって1,後天性TTPは抗ADAMTS13自己抗体によって活性が低下する2.ADAMTS13活性著減によってVWFは適切に切断されず,UL-VWFMが血中に残存することとなり,高ずり応力の発生する微小血管内で活性化して血小板血栓が形成される.原因不明の血小板減少,溶血性貧血を認めた場合にはADAMTS13活性を測定し,10%未満に著減していればTTPと診断する3.続いて抗ADAMTS13抗体検査を実施し,陽性であれば後天性TTPと判断する.本稿ではADAMTS13検査の中でもADAMTS13活性および抗ADAMTS13抗体検査について述べるとともに,近年報告された新規検査法について解説する.

2.検体の採取,保管

ADAMTS13検査に用いる検体を採取する際は3.2%クエン酸ナトリウムを抗凝固剤として,クエン酸ナトリウムと血液を1:9の比率で混和する.エチレンジアミン四酢酸(EDTA)はADAMTS13を不活化し,偽陽性(ADAMTS13活性著減)となるため,使用に適さない.採取後は速やかに遠心分離し,血漿を用いて測定を行うが,すぐに測定しない場合は–20°C以下,長期に保管する場合は–80°Cで冷凍保存する.

3.ADAMTS13活性検査

ADAMTS13活性は正常血漿の活性を100%(1 IU/mL)とした単位で示され,ADAMTS13国際標準血漿(12/252)が較正に使用される4.ADAMTS13活性測定はVWF合成基質を用いて実施され,蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer: FRET)法とchromogenic enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法が広く用いられるが,我が国では一般的に後者による測定が行われる.これらの測定法では,被検血漿をVWF基質と反応させ,検体中に含まれるADAMTS13によって基質を切断させた後,その切断を定量的に測定する.以前は基質として全長のVWFが用いられ,反応に長時間を要したが,現在ではVWF A2ドメインのADAMTS13切断部位を含む短いVWF合成基質を使用することで,数時間で結果が得られるようになった.複数のVWF合成基質が報告されているが,73のアミノ酸残基からなるVWF73が主に使用されている5

FRET法では,ADAMTS13による切断部位を挟んだ両側に蛍光基と消光基を結合させたVWF基質が用いられる.ADAMTS13による基質切断前は蛍光基と消光基が近接しており,FRETを生じるため,励起光による蛍光は弱い.しかし,切断が生じると蛍光基と消光基間でのFRETが生じにくくなり,強い蛍光が認められるようになる(図1A)6.切断活性に比例した蛍光強度の増大からADAMTS13活性を測定する.FRET法の測定下限は報告により1~5%とされている7

図1

(A)FRET法,(B)ELISA法によるADAMTS13活性の測定,(C)ベセスダ法によるインヒビター力価の測定

(A)ADAMTS13による基質切断前は蛍光基と消光基が近接しており,蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を生じ,励起光による蛍光は弱い.切断が生じると蛍光基と消光基間でのFRETが生じにくくなり,強い蛍光が認められる.

(B)被検血漿中のADAMTS13によってVWF73が切断され,露出した切断断端を特異的に認識するモノクローナル抗体を結合させる.このモノクローナル抗体はhorseradish peroxidase(HRP)標識されており,発色基質を加えることで発色する.

(C)患者血漿を非働化した後に,正常血漿と等量混和し,残存するADAMTS13活性を測定する.正常血漿と非働化した正常血漿を等量混和したものをコントロールとし,活性が50%低下する場合の力価を1 Bethesda unit(BU)と定義する.

ELISA法では,被検血漿中に含まれるADAMTS13によってVWF73が切断され,露出した切断断端を特異的に認識するモノクローナル抗体を結合させる.このモノクローナル抗体はhorseradish peroxidase(HRP)標識されており,発色基質を加えることでHRPと反応させ,発色体の吸光度を測定する(図1B)8.我が国で用いられているELISA(ADAMTS13-act ELISA「カイノス」)における測定下限は0.5%とされる.

また,これらの測定法への干渉物質の影響に留意する必要がある.高ビリルビン血症は色調の影響により,FRETS-VWF73法においてADAMTS13活性が低く測定される原因となる9.そのため,検体希釈やビリルビンオキシダーゼの添加などの方法がとられることがあるが,検出感度の低下や妥当性確認が十分でないといった点が問題とされている7.一方で,ELISA法では洗浄過程を有することからビリルビンの影響を受けにくい.

4.抗ADAMTS13自己抗体検査

後天性TTPにおいて認められる抗ADAMTS13自己抗体には,活性を阻害する中和抗体(インヒビター)と,活性を阻害せずADAMTS13に結合することでクリアランスを高める非中和抗体が存在する10.我が国では一般的に,ベセスダ法を用いて前者の測定が行われる.手順としては,患者血漿を非働化した後に,正常血漿と等量混和し,患者血漿中に含まれるインヒビターと正常血漿中のADAMTS13とを反応させ,残存するADAMTS13活性を測定する(図1C)11.正常血漿と非働化した正常血漿を等量混和したものをコントロールとし,活性が50%低下する場合の力価を1 Bethesda unit(BU)と定義する.通常,インヒビター力価0.5 BU/mL以上を陽性と判定するが,問題点として,1 BU/mL以下の低力価の場合は判定が困難となることがある.また,ベセスダ法では活性を阻害しない非中和抗体を同定できない.このような抗体を測定する方法としては,ADAMTS13に結合するIgG型の抗ADAMTS13抗体を抗ヒトIgG抗体を用いて検出するELISA法があり,我が国においては研究室レベルでのみ検査が可能である.この測定法は感度が高く,後天性TTP患者の97%で陽性となる一方で,健常人の4%,全身性エリテマトーデス患者の13%でも陽性となり,特異度が低いことが指摘されている12.また,後天性TTPの抗ADAMTS13抗体の一部にIgAやIgM型の抗体の存在が知られているが13,本測定法ではこのような非IgG型の抗体を同定することができない.

5.新規検査法

上述のADAMTS13活性検査および抗ADAMTS13抗体検査はTTPの診断において必須であるが,用手的に実施され,測定に数時間を要する.加えて,これらの検査を自施設にて実施可能な医療機関は限られており,多くは外部委託されるため,結果の判明には数日を要する.しかし,TTPは重篤な疾患であり,血漿交換開始の遅れが予後を悪化させるとの報告がある14.さらに近年ではカプラシズマブにおいても同様の報告がみられることから15,TTPが疑われる際にはADAMTS13活性の結果を待たずして,治療を開始しなければならない状況に遭遇する.その際に,PLASMICスコアやFrenchスコアといったADAMTS13活性低下を予測する指標の有用性が示されているが16, 17,高齢TTP患者では若年患者と比較して血小板数,血清クレアチニン値が高い傾向があり,60歳以上では感度が低下するといった予測スコアの限界が指摘されている18.そのため,従来の測定法よりも簡便で迅速にADAMTS13活性の結果が得られる新規検査法が期待され,その代表としてADAMTS13半定量検査法,全自動ADAMTS13検査法の有用性が報告されている.

1)ADAMTS13半定量検査法

Technoscreen® ADAMTS-13 ActivityはELISAと類似の原理を利用したフロースルーアッセイであり,検体の発色強度が,0,0.1,0.4,0.8 IU/mLのいずれの指標(カラーカード)と合致するかを目視で判定する半定量検査法である.専用の機器を要さず,30分以内に結果が判明することからPoint of care(POC)検査として有用とされる.TMAが疑われる患者220名を対象に半定量検査法を従来のADAMTS13活性測定法と比較した研究では,感度88.7%,特異度90.4%,陽性的中率74.6%,陰性的中率96.2%と報告されており19,TTPの除外に有用と考えられる.問題点としては,検体の発色の程度をカラーカードと目視で照らし合わせるため,判定が主観的であることが挙げられる.また,溶血,黄疸による色調変化が危惧されるが,ヘモグロビン200 mg/dL以下,非抱合型ビリルビン15 mg/dL以下では影響はみられなかった.

2)全自動ADAMTS13検査法

これまでに,化学発光免疫測定法(chemiluminescent immunoassay: CLIA)を測定原理としたHemosIL® AcuStar ADAMTS13 Activity assayとFRET法を測定原理とするTechnofluor® ADAMTS-13 Activity assayの2つの全自動検査法が海外で販売されている.特に前者と従来の用手的なADAMTS13測定法との比較を行った研究が複数報告されている2023.CLIA法はGST-VWF73基質を磁性粒子に結合させ,ADAMTS13によるVWF切断断端を認識するイソルミノール標識した抗体を用いて化学発光を検出する測定法である.ELISA法およびFRET法との相関は良好であり,TTPの診断基準となるADAMTS13活性10%をカットオフとした場合に高い一致率が報告されている.539検体を用いてFRET法との比較を行った研究では,感度90.1%,特異度99.7%,陽性的中率99.2%,陰性的中率96.6%と良好な結果が示された23.一方で,CLIA法によるADAMTS13活性の自動測定結果がFRET法と比較して有意に低値であったとの報告もあり24,CLIA法によってTTPと診断される症例において,TTPに非典型的な臨床像がみられる場合には,従来の測定法によるADAMTS13活性の確認が必要とされる.

現在,新規に化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay: CLEIA)を測定原理とした全自動測定法の開発が国内で進められている.既に上市されている測定装置に試薬を追加することでADAMTS13活性の測定が可能であり,最短17分で結果が得られる.我々はこの新規測定法をFRET法,ELISA法と比較し,ADAMTS13活性,インヒビター力価ともに高い相関性および診断の一致率を示すことを確認しており25,今後の展開が期待される.

ADAMTS13活性測定法について代表的な従来の用手的測定法と全自動測定法の特徴を表1にまとめる21, 26

表1

ADAMTS13活性測定法の比較21, 26

FRETS-VWF73 ADAMTS13-act ELISA HemosIL® AcuStar ADAMTS13 Activity Technofluor® ADAMTS-13 Activity
測定原理 FRET法 chromogenic ELISA法 CLIA法 FRET法
測定法 用手的 用手的 全自動 全自動
測定機器 蛍光分光光度計 分光光度計 BIO-FLASH/AcuStar Ceveron s100
試料 クエン酸血漿 クエン酸血漿 クエン酸血漿 クエン酸血漿
基質 FRETS-VWF73 GST-VWF73 GST-VWF73 VWF73 based substrate
測定限界 3.3% 0.005 IU/mL(0.5%) 0.1% 0.4%
測定範囲 3.3~105% 0.005~1.00 IU/mL(0.5~100%) 0.2~150% 1~125%
正常範囲 45~147% 0.78~1.57 IU/mL(78~157%)(n=73) 60.6~130.6%(n=129) 60~121%(n=124)
測定時間 約1時間 約3.5~4時間 33分 25分

FRET, fluorescence resonance energy transfer; ELISA, enzyme-linked immunosorbent assay; CLIA, chemiluminescent immunoassay

6.おわりに

近年,新規薬剤の登場によってTTPの治療に進歩がみられており,それに伴って,ADAMTS13検査の重要性は高まっている.後天性TTPでは血漿交換開始後にADAMTS13インヒビター力価が再上昇する現象(inhibitor boosting)がみられることがあり,難治性の原因となる.そのような例ではリツキシマブの併用が推奨されており3,治療経過中もADAMTS13検査を実施することによって早期の対応が可能となる.また,カプラシズマブの使用においては,血漿交換終了後30日以降もADAMTS13活性の低下が持続する場合,同剤の中止によるTTP再燃の可能性が高く27,4週間までを目安とした継続投与が可能となっている.ADAMTS13検査は診断時だけでなく,その後の治療選択の判断においても指針となる検査であり,簡便かつ迅速に結果を得ることができる新規検査法の需要は以前にも増して高くなっている.我が国においても今後の導入が期待される.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

久保政之:本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

松本雅則:特許使用料(アルフレッサファーマ),講演料・原稿料など(サノフィ,武田薬品,アレクシオンファーマ),奨学寄付金(中外製薬,旭化成ファーマ),共同研究費(サノフィ,アレクシオンファーマ)

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