2024 Volume 35 Issue 4 Pages 489-496
私は自治医科大学の卒業ですので,へき地の診療所医師になるため幅広い医学領域の教育を受け,実際に医師一人のへき地診療所に4年あまり勤務しました.その間に血栓止血学の研究を開始し,義務年限終了後も研究を続け,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)という狭い領域の専門家になるという両極端な医師として道を歩んでいます.研究対象も,最初は血栓性疾患であるTTPの病態解析をテーマとしてきましたが,最近では出血性疾患である後天性von Willebrand症候群(AVWS)に興味を持っています.これは,ADAMTS13という酵素が効かないか,効きすぎるかという両極端な働きをすることで,両極端な病態を示すということで導かれたのかもしれません.本稿では,私が継続してきましたvon Willebrand因子(VWF)とその切断酵素であるADAMTS13軸からのTTPとAVWSの病態解析について報告します.そして,今後の夢として,これらの疾患に対する実臨床で有効な治療薬を開発したいと思っていますので,その現状につき報告いたします.
私は血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)の診断のため,von Willebrand因子(VWF)やその切断酵素ADAMTS13の研究を開始した.TTPではADAMTS13活性が低下するためVWFが適切に切断されずにVWFの機能が亢進して血栓症となる1).当初はTTPやその類縁疾患である血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)などの血栓症の研究を続けていたが,その後ADAMTS13でVWFの切断が亢進することにより出血傾向を呈する後天性von Willebrand症候群(AVWS)に注目するようになった2, 3).VWFに対するADAMTS13の効果によって,出血にも血栓にも傾くという両極端に興味を持ったからである.その後,思った以上に多くの様々な基礎疾患によりADAMTS13過剰切断によるAVWSが発生することが明らかになりつつある.本稿では,VWFとADAMTS13軸から見たTTPとAVWSの病態解析について述べる.
VWFは血液中の止血因子で,止血過程の最も初期段階で血小板との接着によって血栓を形成する4).また,第VIII因子のキャリア蛋白質としての機能もあり,一次止血,二次止血ともに関係している.その産生部位としては血管内皮細胞と骨髄が知られているが,VWFは,主として血管内皮細胞から超高分子量VWFマルチマー(unusually large VWF multimers: UL-VWFM)として産生される5).VWFは1つのサブユニット上に血小板と結合する部位や第VIII因子と結合する部位などが存在するが,サブユニットのC末端同士,N末端同士がジスルフィド結合することで様々な分子量の重合体(マルチマー)となる(図1)6).VWFはずり応力によってその構造が変化することが報告されており7),ずり応力が低いところでは折り畳まれた球状の構造である.高ずり応力が発生する部位では引き伸ばされて伸展構造をしていることが知られている.ずり応力は,血流の速さに比例し,血管内半径に反比例することから,細い動脈では高いずり応力が発生し,VWFは伸展構造をとることになる.それによって,VWFの血小板と結合する部位が表面に現れて,血小板と結合しやすくなり,血小板血栓が形成されやすい状態となる.
VWFの構造
A.VWFの成熟サブユニット.1つのサブユニット上に第VIII因子と結合する部位,血小板のGPIbやIIb/IIIaと結合する部位,コラーゲンと結合する部位などが存在する.ADAMTS13はA2ドメインを切断する.
B.VWFマルチマー構造.VWFのサブユニットがC末端やN末端でジスルフィド結合することによって,重合体(マルチマー)となる.
VWFはその分子量が大きければ大きいほど,血小板凝集能が高いことが報告されている8).UL-VWFMなどの高分子量VWFが存在することは血小板血栓を形成しやすいことから血栓症のリスクとなる.逆に,高分子量のVWFが欠損すると出血性疾患であるtype 2Aなどのvon Willebrand病(VWD)と同様の病態となる.この分子量を調整する因子として,ADAMTS13が知られている9).
ADAMTS13は,a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13の略称であり,ADAMTSファミリーで13番目に発見されたメタロプロテアーゼである10).もともとは,VWF特異的切断酵素とも呼ばれていたが,現在までADAMTS13の基質はVWF以外に報告されていない.図2に示すように様々なドメインを持っており,ADAMTS13は常に活性化しているが,VWFの構造が切れやすい状態に変化することで切断反応が行われる.すなわち,高ずり応力下ではVWFは伸展構造となり,血小板と結合しやすいが,同時にADAMTS13による切断も行なわれることで,病的な血栓を形成しないように絶妙にコントロールされている.
ADAMTS13のマルチドメイン構造
SとPはフリンによって切断され血液中のADAMTS13には存在しない.MPが触媒ドメインであるが,後天性TTPで産生される自己抗体はCやSpを認識するものが多い.
S:シグナルペプチド,P:プロペプチド,MP:メタロプロテアーゼ,D:ディスインテグリン,T1-T8:トロンボスポンジン1,C:システインリッチ,Sp:スペーサー
TTPは,本年から100年前の1924年に米国で最初の症例が報告された11).血小板減少,溶血性貧血,腎機能障害,発熱,そして精神神経障害の古典的5徴候で知られている.この5徴候は1966年にそれまでに報告されたTTP症例の90%以上で認められる徴候であったが12),その当時の死亡率は90%以上と非常に予後不良の疾患であった.その後,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)を置換液とした血漿交換が治療法として有効であることが徐々に明らかとなり,1991年にカナダで二重盲検試験により有効性が示され13),死亡率は20%未満となった.しかし,TTPの病態が解明されていないため,なぜ血漿交換が有効であるのか不明であったが,1982年にMoakeらによりTTP患者血液中にUL-VWFMが認められること14),1985年に浅田らにより剖検所見によってTTP患者で血小板とVWFを中心とした血栓が認められること15)など,TTPとVWFの関連が注目されていた.1996年にTTPでADAMTS13(当時はVWF切断酵素)活性が著減することが示され,1998年に後天性TTPでは自己抗体(インヒビター)の存在によってADAMTS13活性が著減することでTTPが発症することが報告された16, 17).TTPではADAMTS13活性が低下しているのでUL-VWFMが切れ残り,微小血管で進展構造となり血小板血栓が形成され,腎機能障害や中枢神経障害などの臓器障害が発生する(図3).後天性TTPの病態が明らかになったことにより血漿交換の有効性が説明できるようになった.すなわち,血漿交換によりADAMTS13を補充するとともに,ADAMTS13インヒビターとUL-VWFMを除去することが主とした効果であると考えられる18).
TTPにおける血小板血栓形成機序
血管内皮細胞から分泌直後のVWFは,UL-VWFM(unusually large VWF multimers)であり,ずり応力の高い細動脈などでは伸展構造を取り,血小板と結合しやすくなる.TTPではADAMTS13活性が著減しているため,切断されずに血小板血栓が形成され,臓器障害などを引き起こす.
TTPを含むTMAは,表1のようにその病因によって分類されている19).TTPはADAMTS13欠損TMAと分類できる.現在では,原因不明の血小板減少と溶血性貧血を認めた場合にADAMTS13活性が10%未満に著減していればTTPと診断する.もともと古典的5徴候でTTPと診断しており,ADAMTS13活性が10%未満に低下していない症例はその他のTMAと現在は分類される.我々は臨床的にTTPが疑われた症例で,ADAMTS13活性が著減している群と著減していない群を比較したところ,著減している群が予後良好であることを報告した20).
病因によるTMAの分類と臨床診断
病因による分類 | 病因 | 原因 | 臨床診断 | 臨床診断に重要な所見 |
---|---|---|---|---|
ADAMTS13欠損TMA | ADAMTS13活性著減 | ADAMTS13遺伝子異常 | 先天性TTP | ADAMTS13遺伝子異常 |
ADAMTS13に対する自己抗体 | 後天性TTP | ADAMTS13活性著減,ADAMTS13自己抗体あり | ||
感染症合併TMA | 感染症 | 志賀毒素産生大腸菌(STEC)(O157大腸菌など) | STEC-HUS | 血液や便検査でSTEC感染を証明 |
肺炎球菌(ノイラミニダーゼ分泌) | 肺炎球菌HUS | 肺炎球菌感染の証明 | ||
補体介在性TMA | 補体系の障害 | 遺伝的な補体因子異常(H因子,I因子,MCP,C3,B因子) | Atypical HUS | 補体因子遺伝子異常C3低値,C4正常 (これらは全例で認める訳ではない) |
抗H因子抗体 | 抗H因子抗体の証明 | |||
凝固関連TMA | 凝固系の異常 | Diacylglycerol kinase ε (DGKE),THBD遺伝子異常 | Atypical HUS? | 遺伝子異常の証明 |
二次性TMA | 病因不明 | 自己免疫疾患 | 膠原病関連TMAなど | SLE,強皮症などの膠原病が多い |
造血幹細胞移植 | 造血幹細胞移植後TMA | 血小板輸血不応,溶血の存在(ハプトグロビン低値など) | ||
臓器移植(腎臓移植,肝臓移植など) | 臓器移植後TMA | 原因不明の血小板減少と溶血の存在(ハプトグロビン低値など) | ||
悪性腫瘍 | 悪性腫瘍関連TMA | 悪性リンパ腫,胃がん,膵がんなどに多い | ||
妊娠 | 妊娠関連TMA,HELLP症候群 | HELLP症候群は妊娠30週以降に発症し,高血圧を合併することが多い. | ||
薬剤(マイトマイシンなど) | 薬剤性TMA | 薬剤使用歴 | ||
その他のTMA | 病因不明 | その他 | TTP類縁疾患,他 | TTPの古典的5徴候の存在,など |
TMA:thrombotic microangiopathy,TTP:thrombotic thrombocytopenic purpura,HUS:hemolytic uremic syndrome,SLE:systemic lupus erythematosus,THBD:thrombomodulin,HELLP症候群:hemolysis, elevated liver enzymes, and low platelets症候群
TTP診療ガイド2023 松本雅則他 臨床血液 64; 445–460, 2023
後天性TTPのADAMTS13自己抗体について,我々は日本人と白人を比較した.後天性TTP患者で認められる自己抗体はIgGがほとんどであるが,白人ではIgG1とIgG4が多いのに対して,日本人ではIgG3とIgG4が多いことを報告した21).また,この自己抗体の認識部位は,シスリッチとスペーサードメインが白人と同様に日本人でも最も多いことを確認した21).また,後天性TTPは自己免疫疾患であることから,HLAとの関係が予想される.白人ではDRB1*11が疾患感受性HLAであることが報告されていた.日本人で解析したところDRB1*08:03を疾患感受性HLAとして同定した22).白人と日本人で違ったHLAが検出されたが,なぜ同じ後天性TTPという疾患となるのか,現在解析を続けている23).
VWDは遺伝的にVWFの量的・質的な異常により発症する出血性疾患である24).注意しなければならないのは,2006年の定義の変更により,VWDの遺伝子異常はVWF遺伝子に限らないということである24).VWDと同様の病態を種々の基礎疾患に伴って後天的に発症する場合があり,AVWSと呼ばれている25).表2にAVWSの基礎疾患と病因を示す.歴史的には多発性骨髄腫や意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)などのリンパ増殖性疾患,全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患が基礎疾患で抗VWF抗体が産生されることが病因のAVWSが有名であった.ただし,かなり頻度の低い疾患との認識であった.その後,大動脈弁狭窄症(aortic valve stenosis: AS)などの循環器疾患に伴うAVWSが注目されるようになり,その病因が過度のずり応力が発生することでADAMTS13によるVWFの過剰切断であることが明らかになった.このような循環器疾患に伴うAVWSは,高齢化などによりその症例数はかなり多いと考えられる.それにもかかわらず,臨床的に問題となっていないのは,臨床医のこの疾患に対する認識の低さ,VWFの検査の難しさなどが原因ではないかと思われる.
AVWSの分類
原因 | 基礎疾患 | マルチマーによる分類 |
---|---|---|
VWF産生低下 | 甲状腺機能低下症 | type1 |
抗VWF抗体 | リンパ増殖性疾患(MGUSなど) 自己免疫性疾患(SLEなど) |
type1 type2 |
高ずり応力によるVWF過剰切断 | 循環器疾患(大動脈弁狭窄症など) 体外循環(PCPS,LVAD) ET |
type2 |
血小板や腫瘍細胞への高分子量VWFの吸着 | 骨髄増殖性腫瘍(PV,ETなど) | type2 |
AVWS: acquired von Willebrand syndrome
MGUS: monoclonal gammopathy of undetermined significance
PCPS: percutaneous cardio pulmonary support
LVAD: left ventricular assist device
PV: polycythemia vera
ET: essential thrombocytosis
ADAMTS13によるVWF過剰切断が原因のAVWSは,高分子量のVWFが欠損することが特徴であるが,軽症の場合はVWF活性であるリストセチンコファクター(VWF:Rco)が明らかな異常にならず,診断が難しい.VWFマルチマー解析を行ったとしても,なぜ高分子量のマルチマーが欠損しているのか原因が不明であった.我々は,ADAMTS13の活性測定を開発した時に,ADAMTS13によるVWFの切断断端を認識するモノクローナル抗体を作成し,ELISA法を開発した26).その同じモノクローナル抗体を用いてVWFの切断産物を検出するELISA法を確立した27).このELISA法を用いて,本態性血小板血症(essential thrombocythemia: ET)に合併するAVWSはADAMTS13の過剰切断によって発症していることを明らかにした28).ETは,血小板数が100万/μL以上にもなる疾患であり,血小板に高分子量VWFが吸着するのではないかと考えられていた.このような疾患でもADAMTS13の過剰切断によるAVWSが存在することは驚きであった.
また,ASにおけるAVWSの合併について奈良医大で重症ASのため弁置換術を行う症例9例について連続で解析してみると,6例は明らかに高分子量のVWFが欠損しており,弁置換術後にはこの欠損が消失した29).このことから重症AS患者の半数以上はAVWSであると考えられる.ASの患者数は60~74歳で人口の2.8%,75歳以上で13.1%と報告されており30),日本のAS患者数は約284万人で手術を要する重症の患者数は約56万人との推計がある.このことから,数十万人のAVWS患者が存在する可能性がある.
体外循環である機械的補助循環(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO),経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support: PCPS)の使用によってもAVWSが発症する.我々のPCPSのポンプを用いた基礎解析から,PCPSではほぼ全例でAVWSを発症しているのではないかと予想される.実際,PCPS刺入部からoozingがしばしば認められるが,使用しているヘパリンによる影響と間違った判断がされている.また,COVID-19感染で血栓症が増加することが報告されているが31),そのような状況でECMOを装着するとAVWSが発症するのか興味のあるところである.我々はCOVID19症例で当院最初のECMO装着症例を解析し,ECMO装着により高分子量VWFが欠損しており出血傾向を示すことを報告した32).
このようにADAMTS13過剰切断によるAVWSの症例数は多く,治療を要する症例もあるが,現状では有効な治療法が無い.FFPや遺伝子組み換えVWF製剤でVWFを補充するがすぐに切断されてしまう.そのため,ADAMTS13活性を阻害するモノクローナル抗体を使用した治療法の開発を目指している.マウスモノクローナル抗体を作成し,それをヒト化することに成功した33).
以上のようなVWF/ADAMTS13軸からの病態解析に加えて,現在までに日常臨床での検査・治療への貢献も目指して研究してきた.検査に関しては,ELISAによるADAMTS13活性測定法を開発し26)保険適用になった.現在これを発展させ,汎用機器を用いた17分で測定できる全自動の方法を開発済みであり,保険適用を目指している.また,リツキシマブの適応拡大34),カプラシズマブの保険承認のための国内治験35),そして遺伝子組み換えADAMTS13の国際共同治験36)に関与した.今後は,TTP,AVWSの治療薬を開発したいと考えている.まず,TTPに対して国内のベンチャー企業とともにVWF A1ドメインに対するアプタマーを開発している37).VWF A1ドメインに対する抗体製剤であるカプラシズマブよりも安価で,半減期の長い製剤となることを期待している.また,ADAMTS13過剰切断によるAVWSに対する治療法として,ADAMTS13活性阻害抗体の製剤開発をAMED研究費を使って継続している.現在までに抗体のヒト化に成功し,in vitro,in vivoでの基礎解析にて有効性と安全性を確認した.現在,前臨床試験を実施中であり,終了後に医師主導治験を行い,臨床に応用したいと考えている.全く新しい機序の薬剤であり,画期的な治療法となることを期待している.
ここで紹介させていただいた研究は,奈良県立医科大学で実施し,学内外の多くの共同研究者の先生とご協力とご指導によって進めることができました.特に研究者としての手技のみではなく,心構えまで教えていただいた奈良県立医科大学輸血部の藤村吉博先生に感謝いたします.また,TTP研究に関してご指導いただいた宮田敏行先生,小亀浩市先生,およびTTPの臨床的なことをご指導いただいた上田恭典先生,和田英夫先生に感謝いたします.AVWSに関しては,東北大学の堀内久徳先生,山家智之先生,医薬基盤・健康・栄養研究所の安居輝人先生との共同研究です.最後に,奈良医大での研究をサポートしていただいた嶋緑医学部長,吉岡章前学長に御礼申し上げます.
本研究の一部は,厚生労働科学研究費,文部科学研究費,日本医療研究開発機構(AMED)の助成をいただいて実施しました.特に,TTP研究に関しては厚生労働科学研究費 血液凝固異常症研究班の研究費を継続していただきました.歴代研究代表者である池田康夫先生,村田満先生,森下英理子先生に御礼を申し上げます.
講演料(サノフィ,武田薬品,アレクシオンファーマ),特許料(アルフレッサファーマ),奨学寄付金(中外製薬,旭化成ファーマ),共同研究費(サノフィ,アレクシオンファーマ)