Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Okamoto Prize 2024 Utako Award The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
Molecular genetics of coagulation disorders and hemophilia
Keiko SHINOZAWA
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2024 Volume 35 Issue 4 Pages 497-511

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Abstract

血液凝固異常症は,凝固因子または抗凝固因子の欠乏や分子異常を特徴として,出血または血栓を発症する稀少疾患群である.先天性血液凝固異常症は,凝固因子や抗凝固因子の遺伝子変異・遺伝子バリアントが病因となる.私達は,これら疾患群のうち特に第VIII因子(FVIII),第IX因子(FIX),第V因子(FV),第VII因子(FVII),アンチトロンビン(AT)などについて,遺伝現象を遺伝子レベル・分子レベルで取り扱う分子遺伝学に基づき,病因と病態を解明してきた.1.先天性FV欠乏症の遺伝子変異:(1)15家系の分子遺伝学的解析は,重度FV欠乏症の出血症状の重症度が遺伝子変異の病原性の強さと血小板FVに関連することを示唆した.(2)2008年日本で初めて,重篤な深部静脈血栓症の若年日本人患者にFV-W1920R変異(FV-Nara)を同定し,FV-W1920Rが活性化プロテインC抵抗性(APCR)を強く示すことを発見した.2.血液凝固異常症と血友病の多様な遺伝子変異:(1)日本血友病インヒビター研究(J-HIS)の326例のFVIII遺伝子型を同定し,Null変異とインヒビター発生の関連性を証明した.(2)FIX遺伝子プロモーター領域のONECUT転写因子結合部位のc.-35G>A点変異をもつ患者兄弟のFIX活性推移が,思春期にFIX活性が上昇する一般的な血友病B Leyden変異よりも早い乳児期/幼児期に軽症/中等症程度に上昇することを見出した.3.女性の血友病に関連する遺伝子変異:(1)2007年から血友病の保因者診断を目的とした遺伝子解析の検査システムを構築し検査体制を整え,患者の病因遺伝子変異を同定し,患者の変異に基づき105家系160人の女性の保因者判定を行い,遺伝情報を提供した.孤発例のde novo変異発生率は20.8%であった.(2)X染色体不活性化の分子遺伝学的解析法を確立し,トリソミーXの中等度女性血友病A患者が,母親由来の変異(p.R1800H)があるX染色体と父親由来の完全に不活性化された2本のX染色体の複合異常により,FVIII活性が低下し出血症状を示した病態を解明した.以上,私達はこれまでに約1,000例の血友病を含めた血液凝固異常症の遺伝子解析を行い,その遺伝情報を臨床の場に提供してきた.これらの分子遺伝学研究で得た遺伝子情報は,血液凝固異常症の学術的な理解を深めるとともに,患者とその家族の診断と最適なケアに役立つことを実証した.このような私達の分子遺伝学の実装研究は,基礎医学と臨床医学を結ぶ総合的・横断的な学問としての臨床検査医学の実践であり,遺伝子変異の情報が個別化医療の基盤となる重要性と必要性を証明した.

1.はじめに

血液凝固異常症(Blood Coagulation Disorders)は,凝固反応系に関与する凝固因子または抗凝固因子の量的欠乏や分子異常に基づき,凝固因子活性が低下することにより,出血傾向または血栓傾向をきたす疾患群と定義される1.それは先天性(遺伝性)と後天性(症候性)の原因による.先天性血液凝固異常症は,特定の凝固因子や抗凝固因子の遺伝子変異・遺伝子バリアントが病因となる.通常の診断は,①出血または血栓傾向(臨床所見),②単一の凝固因子活性低下(検査所見),③家族歴聴取(遺伝形式)などにより確定できるが,病因遺伝子変異の同定が確実な診断である.しかし,これらの稀少疾患群の各原因遺伝子には多数の遺伝子バリアントが存在し,病的な遺伝子変異の同定が難しいケースが多々ある.さらに,このようなケースの病因同定や病態解明のためには,原因遺伝子のDNA配列レベルの解析に留まらず,RNAやエピジェネティクスなどの分子生物学的解析を行わなければならない特殊なケースも多い.

私達は,血液凝固異常症の疾患群のうち,特に第VIII因子(FVIII),第IX因子(FIX),第V因子(FV),第VII因子(FVII),アンチトロンビン(AT)などについて,遺伝現象を遺伝子レベル・分子レベルで取り扱う分子遺伝学に基づき,病因と病態を解明してきた.本稿では,これまで私達が取り組んできた血液凝固異常症の分子遺伝学的解析による主な研究について概説する.

2.先天性FV欠乏症の遺伝子変異

FVは,凝固反応の促進(procoagulant)と制御(anticoagulant)の相反した2つの機能を備えていることから,ローマ神話の頭の前後に反対向きの顔を持つ双面のヤーヌス神に例えられて,欧米においては “Janus Faced Protein” として知られている2, 3.FV遺伝子(F5)変異を病因として発症する先天性FV欠乏症・分子異常症は,FVがprocoagulantにおいて重要な役割を担っていることから,一般的に出血傾向を示す.一方,活性化プロテインCレジスタンス(activated protein C resistance: APCR)4の原因として1994年に発見されたFV Arg506Gln(FV-Leiden)5変異は欧米白人の主な血栓性素因の1つであり,F5に同定された最も有名なanticoagulantに関連する変異である.

1)出血に関連する先天性FV欠乏症

1947年Owrenにより先天性FV欠乏症患者がparahemophiliaとして初めて報告され6,2003年この最初の患者の名前が称されたMary’s mutation(Pro2070Leu変異)がホモ接合体で同定され報告された7.近年,EAHAD(the European Association for Haemophilia and Allied Disorders)のF5バリアントデータベース(https://f5-db.eahad.org/index.php)には,443症例からの209の遺伝子バリアントが登載されている.タイプ別の割合は,点変異(ミスセンス55.5%,ナンセンス13.4%,スプライスサイト7.2%)が75.6%を占める.ケース毎の出血症状の重症度は,不明22.1%であるが,重度13.1%,中等度4.5%,軽度14.4%,無症状45.8%である.F5遺伝子は全長約80 kbで第1染色体q23-24に位置し8,25のエクソンから構成されている.F5遺伝子上には700以上のSingle Nucleotide Pholymorphisms(SNPs),エクソン内だけでも少なくとも68 SNPsが存在する.さらに,R2ハプロタイプと呼ばれる幾つかのSNPsがAPCRやFV活性に影響を及ぼす16 SNPsも含まれている911

2002年当科(東京医科大学病院臨床検査医学科)に小児期から通院していたFV欠乏症患者の遺伝子解析に着手した12.患者は40代女性で,小児期により鼻出血,紫斑,血尿が認められ,13歳時には腹腔内出血を繰り返し経験し,新鮮凍結血漿(FFP)による予防的治療下で卵巣摘出術を行った.37歳時には自然発症する血尿を呈した.両親は血族間結婚ではなく,出血歴はなかった.遺伝子解析の基本的な方法として,白血球からDNAを抽出し,25エクソンとエクソンとイントロンとの境界領域を含んだ領域をPCRで増幅し,精製したPCR産物をサンガー法でシークエンスした.後年,遺伝子コピー数や大きな欠失の確認のためにMultiplex Ligation-dependent Probe Amplification(MLPA),Deep intoronic variantsの解析のためにNext Generation Sequencing(NGS)を実施した.検出した点変異,欠失や挿入については,F5 complete cDNAが入ったpMT2ベクターを野生型としSite-directed mutagenesisを用いて変異体プラスミドを作製し,HEK293細胞やCos1細胞にリポフェクション法で一過性発現させた.トランスフェクション62~72時間後の培養液(Culture Media: CM)と細胞溶解液(Cell Lysates: CL)を回収し,FV抗原量と活性を測定し,分子生物学的実験を行った.スプライス部位変異の検出には,白血球を用いたRT-PCR法を中心にmRNA解析を行った.各変異に関して様々なin silico解析や頻度解析を行った.その結果,この患者の病因は,Val1813Met変異(c.5521G>A, p.Val1841Met)と5-bp欠失(c.6247-6251 del.ACCCT)の複合ヘテロ接合体であり,2つの変異がともに欠乏を示す病態であることを解明した12

このように,FV欠乏症15家系25名の分子遺伝学的解析を行った(表1).同定した15の病因遺伝子変異は,FV蛋白質のHeavy Chain(H鎖)とLight Chain(L鎖)の広範囲に検出され(図1),13バリアントに対しては組換え変異体蛋白質発現実験,2つのスプライス部位変異に対してはmRNA解析などを行い,15家系の発端者全員とその家族員におけるFV欠乏症分子異常症の病因病態を解明した.しかし,特にFV活性5%未満の症例では,血漿FV活性と出血症状の重症度との間には関連性が認められないことが判った.そこで血小板α顆粒のFVが局所止血に重要な役割を担うという考えに基づき,血小板FVに注目し,患者の血小板FVの抗原量と活性値を半定量的に測定した12.結論として,血漿FV活性5%未満のFV欠乏症の出血症状の重症度は,F5遺伝子変異と血小板FVの両者に影響され,血漿FV活性1%未満の重症FV欠乏症においては血小板FVに関連することを示唆した.

表1

先天性FV欠乏症15家族(25人)の病因遺伝子変異(東京医科大学臨床検査医学分野)

No. FV F5 location Nucleotide and amino acid change (HGVS) Legacy No. Zygosity Plasma
FV:C (%)
Plasma
FV:Ag (%)
Bleeding Symptom Expression Study Novel Comments
1 A3 Exon 17 c.5521G>A, p.Val1841Met V1813M C.H <1 4 Severe compl N Parents
C2 Exon 22 c.6247_6251 del. ACCCT 5-bp deletion compl
2 A3 Exon 17 c.5521G>A, p.Val1841Met V1813M Homo <1 4 Severe compl N
3 C2 Exon 25 c.6605G>T, p.Arg2202Leu R2174L Homo 1 5 mild compl N
4 A3 Exon 14 c.4937C>G, p.Pro1646Arg P1618R C.H 1 1 mild compl N Parents and brother (C.H)
Intron 7 c.1118+5G>C IVS7+5G>C Donor Splice site
5 A2 Exon 10 c.1487A>G, p.Asn496Ser N468S Homo 3 3 Asymptomatic compl N
6 A1 Exon 3 c.286G>C, p.Asp96His D68H Homo 4 4 Asymptomatic compl N
7 A3 Exon 14 c.4934G>T, p.Gly1645Val G1617V C.H <1 <1 Severe compl N Parents and 2 sisters
A3 Exon 16 c.5259dupA, p.Gly1754ArgfsTer5 1-bp insertion compl c.5255_5259 ins.A
8 A1 Exon 5 c.653T>C, p.Phe218Ser F190S Homo 4 3 Asymptomatic compl
9 A1 Exon 5 c.653T>C, p.Phe218Ser F190S Homo 4 2 Asymptomatic compl
10 A1 Exon 5 c.653T>C, p.Phe218Ser F190S Hetero 3 - Asymptomatic compl Unknown other variant
11 A1 Exon 5 c.653T>C, p.Phe218Ser F190S Hetero 30 35 Asymptomatic compl p.Asp2222Gly (R2)
12 A2 Exon 8 c.1267A>T, p.Ile423Phe I359F Homo 31 37 Asymptomatic compl N consanguineous
13 C1 Exon 21 c.6046A.G, p.Met2016Val M1988V Homo 5 - Asymptomatic compl N
14 A2 Exon 13 c.2032A>G, p.Lys678Glu K650E Hetero 50 45 Asymptomatic compl Innocuous variant (?)
15 C2 Exon 23 c.6293C>A, p.Pro2098His P2070H C.H 1 3 Asymptomatic compl N Thrombosis (?)
Intron 13 c.4797-1G>A IVS13-1G>A Mother, Acceptor Splice site

* C.H: compound heterozygote, Homo: homozygote, Hetero: heterozygote, compl: completed, N: novel

図1

15のユニークなF5遺伝子変異とFV蛋白質

当分野で同定した15の病因遺伝子変異は,FVのHeavy chainとLight chainの広範囲に検出された.

小括すると,出血に関連するFV欠乏症は,F5遺伝子変異によりFVの発現と機能が障害される.F5変異のヘテロ接合体のFV欠乏症は無症状であるが,血漿FV活性5%未満のFV欠乏症の出血症状の重症度は,F5変異の病因としての強さと血小板FVの両者によって有意に影響される.

2)血栓に関連するAPCRを示したFV-Trp1920Argの発見

2008年患者は日本人10代男性で,下肢に広範囲で重篤な深部静脈血栓(deep venous thrombosis: DVT)がみとめられた.血漿FVは,活性10%,抗原量40%と低下していた.シークエンシングの結果,患者のF5エクソン20にTrp1920Arg変異(c.5842T>C, p.Trp1948Arg)をホモ接合体で検出した(図213.その他にもR2ハプロタイプを含んだSNPsも検出された.両親から各々Trp1920Arg変異をヘテロ接合体で検出した.Novelなミスセンス変異であったので健常コントロール100 alleleの頻度解析を行い,遺伝子多型では無い変異であることを確認した.APCはFVのAPC開裂部位(Arg306, Arg506, Arg679)14, 15を限定分解し,活性化FV(FVa)を不活性化する.検出したミスセンス変異は,FVのH鎖のAPC開裂部位や近傍に起きた変異ではなく,L鎖のC1ドメインで起きた変異であった(図2).

図2

FV-Trp1920Arg(FV-Nara)のシークエンスとFV蛋白質構造モデルにおける位置

左:患者のシークエンスはF5エクソン20にTrp1920Arg変異をホモ接合体で有しており,両親はヘテロ接合体であった.右:FV高次構造モデル(RasMol)におけるTrp1920はC1ドメインに位置している.

「なぜ,Trp1920Arg変異が血栓症を引き起こしたのか?」2008年当時,日本人にはFV-Leiden変異が検出されなかったことから,日本人の血栓性素因にAPCRやFV変異が関連するという概念はなかった.しかし,実際には,APCRの約90~95%はFV Leiden変異を保持している1618.つまり,APCRという疾患概念(病態)とFV-Leiden変異保持者はまったく同一ではない.ループスアンチコアグラントによる偽陽性やプロテインS(PS)異常症を除外した後,2008年,福武勝幸教授(東京医科大学臨床検査医学分野)が未報告のTrp1920ArgとAPCR研究はFV血栓症に関連した重要な発見につながる可能性があることを強く示唆した.APCR検査の実施を私達に勧めてくれて,海外よりAPCR試薬を取り寄せてくれた.最初にaPTT-based APCR assayを原理とするAPCTM-resistance V Hemos IL(Instrumentation Laboratory)を用いてAPCRを評価した.その結果,患者血漿は,FV-Leiden患者血漿と同等のAPCRであることが判明した(表2).血栓既往歴の無いヘテロ接合体の両親の血漿は軽度APCRを示し,さらに発現させ精製した組換えTrp1920Arg変異体タンパク質においても顕らかなAPCRを示した.乏血小板血漿(PPP)と多血小板血漿(PRP)を用いたthrombin generation-based APCR assayにおいても,患者がAPCRであることを確認した13.したがって,Trp1920Arg変異はAPCRの病態を示す稀な変異であることを発見した.Trp1920Arg変異がAPCRを示すメカニズムについて,嶋緑倫教授,野上恵嗣教授,荻原建一先生,松本智子先生,奈良県立医科大学小児科学教室の先生方と共同研究の結果,重篤な深部静脈血栓症を伴うTrp1920Arg(FV-Nara)は,FV-Leidenに比較して,より強力なAPCRであることを明らかにした13.これはAPCおよび/またはPSとの相互作用不全による,APCおよびAPC補因子活性に対するFVaの感受性の著しい損失から生じることが原因であることを証明した13.このように,FV-Naraの強力なAPCRの分子メカニズムを解明した.しかし,この変異はAPC切断部位の変異ではないのに,どのようにしてAPCRを示し血栓症発症を引き起こすのかという疑問は残った.最終的に,FVa-NaraはAPCとPSとのリン脂質膜結合複合体に取り込まれる効率が低く,それによってFVaの不活性化が損なわれることが証明された19

表2

aPTT-based APCR assay(APCTM-resistance V Hemos IL)における評価

APCsr (ratio)
(plus/minus APC)
APTT (sec)
minus APC plus APC
Patient 1.64 79.7 131.0
Father 2.26 43.3 98.0
Mother 2.67 39.0 104.8
Brother 3.06 32.2 98.4
Sister-1 3.28 32.6 107.0
Sister-2 3.10 32.2 99.8
FV Leiden Patient-1 (R506Q hetero) 1.63 35.2 57.2
FV Leiden Patient-2 (R506Q hetero) 1.66 36.8 61.2
FV deficient patient-1 3.16 39.2 124.0
FV deficient patient-2 3.07 38.4 118.0
Healthy Controls Male (n = 17) 3.32 ± 0.11 32.6 108.4
Healthy Controls Female (n = 15) 3.24 ± 0.08 33.5 108.6
Recombinant FV-Wild-type 2.2 35.2 79.0
Recombinant FV-Nara (W1920R) 1.7 45.0 74.4
Recombinant FV-Leiden (R506Q) 1.3 36.4 46.0
Control Plasma level 1 2.8 31.8 89.2
Control Plasma level 2 1.5 33.4 51.8

小括すると,FVに関連した静脈血栓症のリスクはAPCRがあげられる.その病態を示す原因として,F5変異がAPCによるFV(a)の切断の阻害や,FV(a)のリン脂質への結合を低下させることがある.

3.血液凝固異常症と血友病における多様な遺伝子変異

血液凝固異常症の病因となる遺伝子変異は,ユニークで多彩である20.ミスセンス変異,ナンセンス変異,スプライス部位変異,欠失,挿入などの一般的な変異の他にも,プロモーター領域の変異,深いイントロンにある変異,サイレント変異など様々な変異が病因となる.

1)Null変異とインヒビター発生の関連性

血友病はX連鎖潜性遺伝の出血性疾患であり,関節出血や筋肉出血などの深部出血を特徴とする.血友病AはFVIII遺伝子(F8),血友病BはFIX遺伝子(F9)の遺伝子変異が病因となり発症する.2008年J-HIS(日本血友病インヒビター研究)が開始された(後ろ向き(J-HIS1)と前向き(J-HIS2)多施設コホート研究).J-HISに登録された326人の遺伝子解析を実施した20.日本人血友病A患者におけるF8変異の種類の割合は(図3A),人種間の遺伝的距離は無く,他国からの報告の割合と同様であった21, 22.血友病Aの特徴的な変異であるイントロン22の逆位も,重症型の約40.9%にみとめられた20.重症血友病AにおけるNull変異の累積インヒビター発症率は42.4%で,Non-null変異よりも有意に高く,Null変異におけるインヒビター発症の相対リスクは2.89を示した(図3B)20.本研究によって,Null変異とインヒビター発生の関連性が証明された.

図3

J-HIS(日本血友病インヒビター研究)2の遺伝子変異とインヒビター発生の関連性

A.日本人血友病A患者(326人)におけるF8変異の種類の割合

B.J-HIS 2における重症血友病患者におけるインヒビター発生とF8遺伝子変異の遺伝的影響

J-HIS2の重症血友病AのNull変異の累積インヒビター発症率は42.4%,Non-null変異よりも有意に高く,Null変異のインヒビター発生の相対リスクは2.89であった.

2)乳児期/幼児期にFIX活性が上昇した血友病B Leyden変異

当科を中心とした血友病Bの69家族で同定したF9の異なるタイプ別の変異の割合は,点変異が84.2%を占めている23, 24.F9遺伝子のプロモーター領域における点変異の血友病B Leydenは,FIX活性が小児期には低いが,思春期以降に自然に上昇する25.血友病B Leyden変異とそれらが結合する転写因子部位を示した(図4A).私達は,血友病B兄弟症例でONECUT転写因子結合部位に相応するc.-35 G>A点変異を同定した26.c.-35G>Aを有する兄弟のFIX活性は,新生児期/乳児期には重症であったが,乳児期/幼児期には軽症/中等症に相当し出血傾向が改善した(図4B)26.この点変異を持つ兄弟症例が他の血友病B Leyden症例よりもかなり早い時期にFIX活性が上昇するのは,ONECUT転写のブーストが早期におこることが推測された.

図4

血友病B Leyden c.-35G>A変異を有する日本人兄弟例におけるFIX活性値の早期上昇

A.血友病B Leyden変異とF9プロモーター領域の転写因子結合部位

B.c.–35G>A変異をもつ兄弟例のFIX活性の推移

左:患者のシークエンス.右グラフ:横軸は年齢,縦軸はFIX活性値.一般的な血友病B LeydenのFIX活性は,小児期は低いが,思春期以降に自然上昇する.兄弟症例は乳児期/幼児期からFIX活性値の上昇が認められる.

3)Synonymous変異とCodon Usage Bias

アミノ酸置換を伴わない同義的変異(サイレント変異)は,従来,タンパク質機能に影響を与えないと考えられていたが,一部の同義的変異が,mRNAスプライシング,mRNAの安定性,タンパク質フォールディングや翻訳効率に影響を与えるCodon usage biasが病因となることが判ってきた27, 28.軽症血友病Aで同定したp.Leu40=(c.120C>A)は,患者白血球mRNAスプライシングパターンに変化が認められたが,mRNAレベルの低下は認められなかった29.しかし,組換え変異体発現実験におけるCMのFVIII活性は野生型に比べて約60%に低下していた.ゆえに,この新しいSynonymous変異が軽症血友病Aの病因となったことを証明した29

4)FVII活性低下に影響するF7プロモーター変異とCommon Variants

先天性FVII欠乏症13家系28人の家族員の遺伝子解析を行い,15のFVII遺伝子(F7)変異を同定した30, 31.ある重症患者(FVII活性<1%,FVII抗原量6%)の遺伝子解析で,–96C>T変異(g.4956C>T)とIVS4+1G>A変異(c.316+1G>A, g.12991G>A)の複合ヘテロ接合体を同定した30.–96C>Tをヘテロ接合体でもつ患者の兄のFVII活性が57%と低下していたことから,Electrophoretic Mobility Shift Assay(EMSA)を行い,5'フランキング領域のプロモーター変異がSp1結合を破壊し,FVII活性を低下させることを解明した30

F7遺伝子には,FVIIレベル低下に影響する遺伝子多型が存在する32, 33.私達が解析したFVII欠乏症家系の発端者は,His348Gln変異(c.1224T>G, p.His408Gln)はヘテロ接合体であったが,FVII活性低下に関与する遺伝子多型を保持していたことから,FVII活性23%,FVII抗原量24%に低下した31

小括すると,①日本人患者にみられたF8変異のスペクトルは,遺伝的距離に関係なく他国と同様であった.②F8 Null変異は,インヒビター発生に影響を与える.③プロモーター変異は,転写因子との結合により転写を促進するか,転写因子との結合を破壊することにより,凝固因子活性に影響を与える.④Codon Usage Biasの機能的評価はSynonymous変異に不可欠である.⑤病因遺伝子変異と遺伝子多型の複合ヘテロ接合体は凝固因子活性の低下を引き起こすことがある.

4.女性の血友病に関連する遺伝子変異

血友病保因者(Hemophilia Carrier)とは,X染色体の1本に血友病の病因となる遺伝子変異を持つ女性と定義される.血友病保因者全体の約1/3が,紫斑,過多月経,口腔内出血,術後出血,分娩後出血,血腫,関節内出血などの出血症状がある3436

1)遺伝子解析による血友病保因者診断の検査体制の構築(東京医科大学臨床検査医学分野)

2007年から血友病保因者診断の検査体制を構築し遺伝子解析を実施している37.手順は保因者診断の申請により遺伝子解析実施が可能かどうかを当分野で相談し,当科受診を調整する.申請者の来院を原則として,血友病と遺伝の説明,遺伝相談面接,インフォームドコンセントのために,通常の外来時間以外の時間を設ける.遺伝子解析による検査後,再び結果説明時間を設ける.血友病保因者診断の基本は,各家系における患者の病因遺伝子変異を,保因者診断希望者がヘテロ接合体で持っているかどうかの有無に基づいて決定することを基本とした37.2023年には当科に,血友病保因者診断を含んだ血液凝固異常症遺伝相談外来が開設された.

これまでに105家系の保因者診断希望者160名(血友病A 122名,血友病B 38名)の遺伝子解析をし,保因者であるかどうかを判定した37.遺伝子解析では,最初に患者の病因遺伝子変異を同定した上で37,保因者診断を希望する女性に患者の病的変異があるかどうかに基づいた保因者判定を行っている.世界血友病連盟(The World Federation of Hemophilia: WFH)のガイドラインにおいても,「保因者診断は以前に同定された患者の遺伝子変異に基づき遺伝子検査を提供する」ことが推奨されている38.私達の研究で,遺伝子変異の検出した保因者と変異が検出されなかった非保因者に対して,血液検査による保因者判定を再検した結果,「血液検査のみで非保因者であることを判定してはいけない」という事実が明確化され37,それとともに遺伝子解析による保因者診断の必要性が明らかになった.一方,血友病A孤発例患者の母親37人中30人に,血友病B孤発例患者の母親11人中8人に,孤発例患者の持つ病的遺伝子変異を検出し,孤発例の母親の79.2%が保因者であることを明らかにした37.逆に,孤発例の母親に変異が検出されなかった10例(20.8%)の患者はde novo変異による発生が考えられた(表3).しかし,F8 p.Lys444Asn(c.1332A>T)の母親は,サンガー法では変異が検出されなかったが,デジタルPCRを用いると2%の変異が確認された.この低頻度変異は,白血球,尿や口腔内粘膜サンプルからも同程度で検出された.したがって,F8 p.Lys444Asnの孤発例患者の母親は,高感度な遺伝子解析法により低頻度モザイク症例であることが証明された.

表3

孤発例患者で検出されたde novo変異

No. Pathogenic gene variant HGVS
Hemophilia A 1 F8 Inversion (type1) Intron 22
2 F8 p.Arg2182Cys c.6544C>T Exon 23
3 F8 p.Trp791* c.2372G>A Exon 14
4 F8 p.Trp1836* c.5580G>A Exon 16
5 F8 p.Lys444Asn c.1332A>T Exon 9
6 F8 p.Leu1897Val fs*6 c.5689–5690 del CT Exon 17
7 F8 Inversion (type1) Intron 22
Hemophilia B 1 F9 c.252+5G>A Donor splice site Intron2
2 F9 p.Glu420Arg fs*9 c.1258–1259del GA Exon 8
3 F9 Large Deletion Exon 1

2)極端に偏ったX染色体不活性化により中等度血友病AをもたらしたトリソミーX

X染色体不活性化(X-chromosome inactivation: XCI)は,雌の哺乳類においてX染色体の1本が不活性化され遺伝子発現が抑制される現象である3941.患者は10代日本人女性で,乳児期より紫斑,口腔粘膜出血,関節内出血を発症した(FVIII活性2%,VWF抗原101%)42.家族には出血のエピソードがない孤発例であった(図5A).患者のF8シークエンス結果p.R1800H(c.5399G>A)が検出され,G分染法でX染色体が3本存在することが判明した.したがって,患者はトリソミーXを有する女性血友病Aと診断した42.家族の血友病保因者診断の結果,母親と姉がp.R1800H変異をヘテロ接合体で持つ保因者であった(図5A).患者と両親の染色体異数性についてMLPAを用いた解析結果で,患者のX染色体だけが3倍体であることを確認した(図5B).したがって,トリソミーX患者の余分なX染色体(extra X)は,初期胚発生時における非分裂(nondisjunction)と呼ばれる細胞分裂時のランダムエラーによって引き起こされたものであることを推測した.次に,デジタルPCRでp.Arg1800Hisのオリジナルなデザインのprimer-probeに基づくF8変異を有するX染色体の起源を決定した.その結果,患者は,2本の野生型X染色体と1本の変異型X染色体を有していた(図5C)42.野生型:変異型(2:1)の比率は,白血球,尿,口腔粘膜の異なる組織由来のサンプルにおいても同じであった.次のステップとして,PGK1遺伝子のハプロタイプを利用したメチル化感受性HpaII-PCRを行い,XCIの程度を電気泳動で評価した(図5D).患者では,母親由来のHpaII消化バンドは完全に消失し活性型Xを示したが,父親由来のHpaII消化バンドは全く消化されなかった.したがって,父親由来の2本のX染色体は完全に不活性化されていることが示唆され,患者のXCIが極端に偏っていることが明らかになった.extra Xの起源は,減数分裂における遺伝的非分裂による父方のアイソダイソミーと考えられた42.XCIの程度を定量化しXCIパターンを評価するために,AR遺伝子のCAGリピートに基づくメチル化感受性システムを改良した方法を確立し,血液,尿,口腔粘膜のサンプルを測定した.その結果,患者は様々な体細胞においてもXCIが極端に偏っていることが明らかになった(表442.結論として,患者がF8変異を有する活性化している母親由来の1本のX染色体と,完全に不活性化された父親由来の2本のX染色体を持っていることを分子遺伝学的解析により証明し,トリソミーXを有する症候性女性血友病患者は極端に偏ったXCIに起因したFVIII活性低値をもたらした病態であることを解明した.

図5

極端に偏ったX染色体不活性化により中等度血友病AをもたらしたトリソミーX

A.患者の家系図(FVIII活性とVWF抗原量(VWF:Ag)を含む)

患者(II-2)は遺伝学的に血友病A保因者であることが確認され,中等度女性血友病Aと診断された.遺伝子解析による保因者診断により,母親(I-3)と姉(II-1)が保因者であった.

B.MLPAによる異数性の評価

患者はX染色体が3コピー(47,XXX)あることが確認された.

C.F8バリアントを用いたデジタルPCRによる野生型と変異型の比率の検証

女性家族から得られた異なる組織の各DNAから検出されたFAM(青:変異型)およびVIC(赤:野生型)の全コピー数(/μL)に対するコピー数(/μL)のパーセント(%)を示した.トリプルXの患者(II-2)の比率は,野生型67%,変異型33%であった.

D.メチル化感受性HpaII-PCRアッセイによるX染色体不活性化の評価

HpaII消化バンドは父親(I-4)には現れず,活性型X(FI:2.35)であった.保因者の母親(I-3)の2本のバンド(468-bp)のFIはHpaII消化後に減少した(減少率;64%).非保因者の妹(II-3)は,父方と母方の明瞭なXのFIが減少し(減少率;各々70%,80%),2つのXCIがほぼ均等であった.患者は母方のHpaII消化バンドは完全に消失し活性型Xを示唆したが,父方のHpaII消化バンドは全く消化されなかった.FI:蛍光強度(×103).

表4

患者と家族のX染色体不活性化パターン(XIP)によるXCIの定量的評価

XCI (%) [ ratio] Assessment
Blood Urine Oral mucosa
Patient (Carrier) 100 [100:0] 95 [95:5] 95 [95:5] Extremely skewed XCI
Mother (Carrier) 64 [64:36] 60 [60:40] 68 [68:32] random XCI
Younger sister (Non-carrier) 62 [62:38] 55 [55:45] 49 [49:51] random XCI
Older sister (Carrier) 60 [60:40] 50 [50:50] 53 [53:47] random XCI

(n = 3)

小括すると,①遺伝子解析は保因者診断のゴールドスタンダードである.②保因者診断では,患者の同定された遺伝子変異に基づいて遺伝子検査を行う.③孤発例血友病患者におけるde novo変異の発生率は20.8%と一般に考えられているよりも低い.④極端に偏ったXCIは保因者の凝固因子活性を低下させ,出血症状を引き起こす.

5.考察―現在のゲノム解析における血液凝固異常症の遺伝子変異による診断―

2018年米国のMy Life Our Future(MLOF)は,7,137人の血友病患者のうち,重症型血友病Aで0.6%,非重症型血友病Aで2.9%,非重症型血友病Bで1.1%の患者に,変異が検出されなかったことを報告している43.他方,国際的に一般住民の前向きコホートにおける全ゲノム解析実施の重要性は広く認識され,イギリスのUK Biobank44が20万人,日本の東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)45が5万人,そして米国のAll of Us46が25万人の全ゲノム解析が終了している.All of Us研究プログラムの中のMLOFではHemophilia Projectの成果が世界に発信されている 43, 47.2024年All of Usでは10億以上の遺伝子変異を同定し,その中には2億7,500万以上の未報告の遺伝子変異が含まれていることを発表している48.このように,全ゲノム解析を行いビックデータが各国で収集されることは,全ゲノム解析の新規技術開発と解析の高速化が実現されていることを証明している.

一方,私達は,ある1人の非重症型血友病A患者のShort-read NGSを実施し,その結果F8遺伝子の中に104のバリアントを検出し,その中で最も病的なバリアントをVariant Studioなどのソフトウェアを駆使しながら,c.5374-19 dupTと同定した.すると偶然にも,この変異が低頻度の変異であるにもかかわらず,この患者と非血縁関係の血友病患者にも病的なバリアントとして検出されたことから,この2名の患者についてサンガー法を用いて再シークエンスした.その結果,1人の患者には,12のチミン(T)連続配列のうちの1つのTが欠失して,効果としてスプライシング異常が考えられるNGSの結果と同様であったが,もう1人の患者には12のT配列には欠失も挿入も認められなかった.つまり,現状のShort-read NGSを用いた解析は,ゲノム難読領域(同じ塩基単位の繰り返しからなるリピート配列やGCリッチ配列など)の解読や,リード長を超えるサイズのゲノム構造変化(リピート伸長,挿入,欠失,重複,転座,逆位)を十分な感度と精度で検出することが困難である.重症血友病Aの約40%にみとめられる逆位は,現在のShort-read NGSでは検出できないことも,再認識する必要がある.これらのように,Short-read NGSのメリットとデメリットを知り,特に難読部位に注意をし,サンガー法による再検が必要である.Long-read NGSにおいてもRearrangement構造変異の検出が正確にできるよう改良,開発が進められているが,今後の新しいゲノム技術に関しては,常に注意深く確認していく必要性がある.

Human Genome Variation Society(HGVS)は,変異(Mutation)と遺伝子多型(Polymorphisms)という用語は使わず,ニュートラルな用語としてバリアント(Variant)の使用を推奨している49.MutationとPolymorphismsは頻度を定義しているので,学問的にこのこと自体は正しい.しかし,診断として用いられてきたことにより,徐々に各々が病原性と良性といったような誤った解釈になり混乱を招くというのが理由である.American College of Medical Genetics and Genomics(ACMG)は診断のために,バリアントという用語に,①病的Pathogenic,②病的と思われるLikely pathogenic,③重要性不明Uncertain significance,④良性と思われるLikely benign,または⑤良性Benignという修飾語を付けることを推奨している.このように2015年ACMGとAssociation for Molecular pathology(AMP)は共同で,遺伝子バリアントの解釈のための標準化とガイドラインを出しており50,バリアントを5つに分類し,機能的なデータや頻度データなどを駆使して点数化してバリアントを解釈するよう推奨している.2023年,ベイラー医科大学とイルミナの共同研究から,180例の異なるエクソームコホートでレビュー候補となるバリアント優先順位付けにおいて97%の精度を示すことが報告されている51.但し,ACMG/AMPのバリアント解釈をすべての疾患において本来の評価ができるかという検討は大きな課題である.実際に,このACMG/AMPのバリアントの解釈が,神経性疾患におけるX連鎖潜性遺伝に関連するバリアントの評価において,本来の評価とは異なるという調査結果がある52.したがって,血友病,血液凝固異常症においてもACMG/AMPガイドラインに単に当てはめるだけではなく,疾患特有の遺伝子バリアントの解釈が必要であり,その上で,AIと機械学習が稀少疾患のゲノム解釈をより合理化できる可能性を探していかなければならないと考える.

2000年Centers for Disease Control and Prevention(CDC)のACCEモデルが公表された53.遺伝学的検査を正当に評価する基準の分析的妥当性,臨床的妥当性,臨床的有用性,倫理的,法的,社会的事項44を遵守して,血液凝固異常症,血友病の遺伝子解析を行わなければならないと考えている.

2024年現在,新世代NGSや新規技術は解析の高速化を実現し,単一遺伝子から全ゲノム解析へと研究対象を変容させた.現行の遺伝子解析から,今でも血液凝固異常症の遺伝子からNovelで多彩なバリアントが多数検出され,病的な遺伝子変異の同定には,多大な解析時間と血友病や血液凝固異常症の専門知識が必要である.バイオインフォマテックスは進化を遂げ,血液凝固異常症の正確に病的なバリアントを迅速に簡単に判定してくれる日は近い.それゆえ,正確な遺伝子解析を実施し,血友病の専門知識と遺伝医療における倫理性を持って,血液凝固異常症のユニークで多様なバリアントから,正しく病的なバリアントを丁寧に判定することが重要である.そして,分子遺伝学的解析を通じて,これらのデータを集積していくことが,稀少疾患群である血液凝固異常症,血友病の遺伝子解析を遺伝学的検査につなげることができると考える.

6.おわりに

本稿では,血液凝固異常症の遺伝子変異を中心とした分子遺伝学の私達の研究を紹介した.

私達はこれまで血友病と血液凝固異常症約1,000例の遺伝子解析を行い,その遺伝情報を臨床の場に提供してきた.これらの分子遺伝学研究で得た遺伝子情報は,血液凝固異常症の学術的な理解を深めるとともに,患者とその家族の診断と最適なケアに役立つことを実証した.このような私達の分子遺伝学の実装研究は,基礎医学と臨床医学を結ぶ総合的・横断的な学問としての臨床検査医学の実践であり,遺伝子変異の情報が個別化医療の基盤となる重要性と必要性を証明した.

私は東京医科大学臨床病理学教室(現:臨床検査医学分野)にて血液凝固異常症の蛋白質研究を開始した後1994年に蛍光標識自動塩基配列決定法(HITACHI SQ5500 DNAシークエンサー)を用いた遺伝子解析で初めてATIII欠乏症のAla94Val変異(c.377C>T, p.Ala126Val)を同定した54.それから長い時間,一貫して継続し血液凝固異常症の遺伝子変異をみつけてきた.30年経った2024年現在,最初に同定したAT欠乏症患者家系4世代30名の遺伝子診断を行ってきた.将来,分子遺伝学的技術は進化し続けるだろうが,この最初に同定された変異は,家族の大事な遺伝情報として,遺伝子検査の基礎であり続けるだろう.

謝辞

本研究成果をまとめることができたのは福武勝幸先生,木内英先生が東京医科大学臨床検査医学分野の研究チームに私を入れてくださったからこそであり,また真摯かつ温かい御指導を賜わった結果です.ここに心より深く感謝申し上げます.稲葉浩先生,天野景裕先生,萩原剛先生には長年にわたり応援と勇気をいただきました.東京医科大学臨床検査医学分野の先生方,教室員の皆様の御協力のもとに,研究を進めることができました.ここに心より厚く御礼申し上げます.

国内の多くの研究者の先生方と共同研究の機会をいただけたことは,本研究を大きな成果としてまとめあげることにつながりました.日本血栓止血学会や研究会での発表や議論の機会をいただいたことは,本研究をより素晴らしい方向へと導く力となりました.ここにお名前を挙げさせていただいていない多くの先生方にも多大な御支援と御教示をいただきました.この場をお借りして心より厚く御礼申し上げます.

大森司先生,嶋緑倫先生,野上恵嗣先生,荻原建一先生,松本智子先生,矢田弘史先生,新谷憲治先生,小坂嘉之先生,田村彰広先生,高橋芳右先生,沖本由里先生,宮田敏行先生,吉岡章先生,白幡聡先生,瀧正志先生,松下正先生,小嶋哲人先生,田中朝志先生,西田恭治先生,福武勝博先生,藤巻道男先生,新井盛夫先生,鈴木隆史先生,緇莊和子先生.

2007年2月~2020年3月まで,私はバクスター/バクスアルタ/シャイアー㈱,CSLベーリング㈱の寄附講座に所属し東京医科大学で研究することができました.本研究の一部は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構研究費,日本臨床検査医学会学術プロジェクト,バクスター学術教育研究基金などの助成を受けました.ここに厚く御礼申し上げます.

著者の利益相反(COI)の開示:

本論文の発表内容に関連して開示すべき企業との利益相反なし

文献
 
© 2024 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
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