2024 Volume 35 Issue 4 Pages 522-529
横紋筋融解症は,骨格筋の壊死・融解に起因する致死的な症候群で,最も重篤な合併症は急性腎障害である.近年,横紋筋融解症誘発急性腎障害の増悪に血小板が関与していることが報告された.その機序は,「骨格筋細胞から放出されたヘムが血小板を活性化し,その血小板がマクロファージ細胞外トラップを誘導することで腎障害の増悪をきたす」というものであるが,ヘムが血小板を活性化する機序は不明であった.私たちは,ヘムに構造が似た低分子化合物が血小板上のCLEC-2に結合するという過去の知見に着想を得て,CLEC-2がヘムの受容体なのではないかと考え研究を開始した.その結果,ヘムはCLEC-2,GPVI両者に結合して血小板を活性化し,これらの受容体は横紋筋融解症誘発腎障害の病態において重要な役割を担っていることが判明した.本稿では,研究の詳細について考察を交えて解説する.
血小板は,止血機構や血栓形成において重要な役割を担うだけでなく,血栓止血領域以外でも機能を持つことが近年明らかにされている.大久保らは,2019年に横紋筋融解症よる急性腎障害(rhabdomyolysis-induced acute kidney injury: RAKI)の増悪に血小板が関与していることを報告した1).その機序は,「骨格筋から放出されたヘム(実際には体内でヘミンに変換される)が血小板を活性化し,その血小板がmacrophage extracellular traps(METs)を誘導し,腎障害を増悪させる」というものであるが,ヘムが血小板を活性化させる機序は不明であった.
筆者が所属する山梨大学臨床検査医学講座では,血小板活性化蛇毒ロドサイチンの受容体がC-type-lectin-like receptor 2(CLEC-2)であること,またCLEC-2の生体内リガンドが膜タンパクpodoplaninであることを見出した2, 3).以降,CLEC-2が,胎生期の血管・リンパ管分離,腫瘍細胞の血行性転移の促進,赤血球造血など,様々な血栓止血領域外の役割を持つことを明らかにしてきた4–6).また,臨床応用の試みの一環として,低分子化合物Cobalt hematoporphyrin(Co-HP)がCLEC-2に結合してpodoplaninとの相互作用を阻害することを報告した7).私たちは,ポルフィリン環を有するCo-HPの構造がヘムに類似していることから着想を得て,ヘムがCLEC-2に結合して血小板を活性化させるという仮説のもと,本研究に着手した8).
まず,血小板凝集試験でヘムによる血小板活性化の機序を推定した.ヘムはヒト洗浄血小板を用量依存的に凝集させた(図1A).この反応は,インテグリンを介した血小板凝集を阻害するペプチド(RGDS)によりほぼ完全に阻止され,へムが血小板「粘着」ではなく,真に「凝集」を引き起こしていることを確認した(図1B).さらに,ヘムによる凝集は,SFK阻害剤(PP2及びSU6656),SYK阻害剤(R406)によっても阻害された.次に,ウェスタンブロット法でヒト洗浄血小板のSYK,PLCγ2のリン酸化レベルを解析した.両者のリン酸化レベルは,ヘムによる刺激によって上昇したが,あらかじめPP2を作用させるとベースライン相当にまで抑制された(図1C,D).これらの結果は,ヘムがSFK-SYK-PLCγ2経路を介してヒト血小板を活性化することを示唆しており,その経路を下流に有するCLEC-2がヘムの受容体である可能性が高まったと思われた.

ヘムはSFK-SYK-PLCγ2経路を介してヒト血小板を活性化させる
(A)ヒト洗浄血小板を用いたヘム惹起透過光血小板凝集試験.凝集曲線(左)と最大光透過率(右)を示す.(B)ヘム(7.5 μg/mL),collagen related peptide(CRP 0.25 μg/mL),及びロドサイチン(Rhod 10 nM)惹起血小板凝集に対するRGDS(0.2 mM),PP2(50 μM),SU6656(10 μM),及びR406(1 μM)の抑制効果.凝集曲線(上)と最大光透過率(下)を示す.(C)リン酸化SYK,リン酸化PLCγ2,総SYK,総PLCγ2のウェスタンブロット.ヒト洗浄血小板をヘム(7.5 μg/mL)で刺激し,PP2によるリン酸化抑制効果を解析した.(D)ウェスタンブロットで得られたバンドをデンシトメトリーで定量し,リン酸化SYK及びリン酸化PLCγ2の値を総SYK及び総PLCγ2で正規化した.Mean±SD(A,B,D),n=3-4,Tukeyの多重比較検定(A,D)又はStudentのt検定(B),*p<.05,**p<.01,***p<.001.図は文献8)より引用,改変.
SFK-SYK-PLCγ2を下流の経路として有する血小板上の受容体としては,CLEC-2だけではなく,コラーゲン受容体であるGPVIが知られている.そこで,ヒトCLEC-2又はヒトGPVIをコートした表面にヘムを灌流し,表面プラズモン共鳴法で直接結合を評価した.その結果,ヘムはCLEC-2とGPVIの両者に直接かつ用量依存的に結合することが示された(図2).

ヘムはCLEC-2とGPVIに直接結合する
ヒトCLEC-2(左)又はヒトGPVI(右)を固相化した表面にヘム(0, 0.1, 0.5, 1.0 μg/mL)を灌流し,表面プラズモン共鳴法で直接結合を評価.Resonance Unit(RU)の変化をグラフに示す.図は文献8)より引用,改変.
ここまでの結果から,CLEC-2のみならずGPVIもヘムの受容体である可能性が浮上した.そこで,受容体を欠くマウスを利用してヘム惹起血小板活性化への両受容体の寄与を検証した.ヘムは,ヒトで観察されたのと同程度の濃度で,野生型マウスから得られた洗浄血小板を凝集させた(図3A).さらに,マウスに抗CLEC-2抗体(2A2B10)を投与することによりCLEC-2を消失させた血小板(CLEC-2欠損と表記),遺伝的にFcRγを欠くマウスの血小板(同時にGPVIの発現を欠くためGPVI欠損と表記),CLEC-2欠損FcRγ(GPVI)欠損血小板(以後は二重欠損と表記)を用いて凝集試験を行った.その結果,ヘムによる血小板凝集作用は,CLEC-2欠損血小板で有意に減弱し,GPVI欠損血小板ではさらに減弱した(図3B).さらに,二重欠損血小板では,ヘムによる血小板凝集はほぼ認められなくなった.これらの結果は,へムによる血小板活性化がCLEC-2及びGPVIの両者に強く依存していることを示している.

ヘム惹起血小板活性化に対するCLEC-2とGPVIの寄与
(A)野生型マウス洗浄血小板のヘム惹起血小板凝集試験.(B)野生型(WT)マウス,CLEC-2欠損マウス,FcRγ(GPVI)欠損マウス,二重欠損(DKO)マウスの洗浄血小板を用いたヘム惹起血小板凝集試験.(C)FcRγ(GPVI)欠損マウスの洗浄血小板を用いたヘム(10 μg/mL)又はRhod(5 nM)惹起血小板凝集に対するCo-HP(0.8 μg/mL)の抑制効果.(D)CLEC-2欠損マウスの洗浄血小板を用いたヘム(10 μg/mL)又はCRP(0.125 μg/mL)惹起血小板凝集に対する抗GPVI抗体(10 μg/mL)の抑制効果.(A-D)凝集曲線と最大光透過率を示す.Mean±SD,n=3,Tukeyの多重比較検定(A,B)又はStudentのt検定(C,D)で統計解析,*p<.05,**p<.01,***p<.001.図は文献8)より引用,改変.
次に,CLEC-2及びGPVIのヘム結合部位が,既知のリガンドの結合部位と共通かどうかを明らかにするため,2種類の競合的阻害剤を用いた.一つは前述のCo-HPであり,CLEC-2とポドプラニンの結合を競合的に阻害する7).もう一つは抗マウスGPVIモノクローナル抗体(JAQ1)で,GPVI上のCollagen related peptide(CRP)結合部位と同一又は類似のエピトープを認識し,CRP惹起血小板凝集を競合的に阻害することが報告されている9).阻害効果を鋭敏に検出するため,GPVI欠損血小板とCLEC-2欠損血小板をそれぞれ血小板凝集試験に用いたところ,ヘムによる血小板凝集は,Co-HP及びJAQ-1により有意に阻害された(図3C,D).これらの結果は,ヘムがCLEC-2及びGPVIに対する既知のリガンドと結合部位を少なくとも一部共有していることを示唆している.
前述の通り,2019年の報告では,ヘムで活性化された血小板が腎尿細管でのMET形成を誘導し,RAKIを増悪させることが示されている1).そこで,今回ヘムの受容体であることが判明したCLEC-2及びGPVIが,RAKIの病態形成に関与しているかを検証した.野生型及び二重欠損マウスの大腿四頭筋にグリセロールを注射することでRAKIモデルマウスを作製した.野生型マウスの腎臓は蒼白で,虚血の所見を呈していたが,二重欠損マウスでは,グリセロールのかわりに超純水を注射した非横紋筋融解症マウスと同様の色調を示した(図4A).さらに,野生型マウスと比較し二重欠損マウスでは,血清クレアチニン値がより低く(図4B),傷害尿細管の割合も有意に低かった(図4C).また,腎臓の切片で細胞外トラップマーカーであるCitrullinated Histone H3(CitH3),マクロファージ(F4/80)及びDNA(DAPI)を検出することにより,MET様構造の免疫蛍光イメージングを行った.腎臓のMET様構造の数は,二重欠損マウスでは有意に少なかった(図4D).これらの結果は,血小板上のCLEC-2とGPVIがRAKIの増悪に重要な役割を果たしていることを強く示唆している.

二重欠損マウスでは,横紋筋融解症による腎障害とMET形成が減少する
野生型(WT)及び二重欠損(DKO)マウスのRAKIモデル表現型解析.(A)腎臓の代表的な外観.最上段は超純水を注射した(横紋筋融解症を起こしていない)野生型マウスの腎臓である.(B)グリセロール注射48時間後の血清クレアチニン(Cre)レベル.(C)グリセロール注射48時間後の腎尿細管傷害をPAS染色で評価.scale bar:50 μm.グラフは傷害尿細管の割合を示す.(D)グリセロール注射8時間後の腎尿細管におけるMET形成.シトルリン化ヒストンH3(CitH3,赤),F4/80(緑)及びDAPI(青)の免疫蛍光染色像とそのmerge画像で,矢印はMET様構造を示す.Scale bar:50 μm.グラフは1視野あたりのMET様構造の頻度を示す.(B-D)Mean±SD,Studentのt検定,*p<.05,**p<.01.図は文献8)より引用.
最後に,血小板のSFK経路がMET形成促進に寄与しているか検証するため,THP-1由来マクロファージを用いたin vitro MET形成アッセイを行った.ヘムにより活性化させた血小板の存在下では,THP-1から分化したマクロファージのうち8.4%にMET様構造が観察された.これは,細胞外トラップを誘導することが知られているプロテインキナーゼC活性化剤(Phorbol 12-myristate 13-acetate: PMA)で刺激した場合(陽性コントロール)と同程度であった.対照的に,ヘム単独あるいはrestingの血小板存在下では,MET様構造は有意に少なかった.さらに,ヘムによる刺激の前に血小板をPP2で処理するとMET形成は抑制されたのに対し,PP2がPMA誘導MET形成を抑制することはなかった(図5).これらの結果は,PP2は血小板の活性化を阻害することで間接的にMET形成を阻害するが,マクロファージには直接影響しなかったことを示している.総合すると,ヘムにより活性化された血小板がMETを引き起こすのに,「血小板の」SFKシグナル伝達経路が必要であることが示唆された.

ヘム惹起活性化血小板によるMET形成には,血小板のSFK経路の活性化が必要である
THP-1細胞から分化させたマクロファージを,Resting血小板(b),ヘム(c),ヘムで刺激した血小板(d),PP2処理の上へムで刺激した血小板(e),PMA(f),PMA及びPP2(g)で刺激した.(A)SYTOX Green(明るい灰色)とHoechst 33342(暗い灰色)による染色像で,矢印はMET様構造を示す.Scale bar:50 μm.(B)MET様構造を呈する細胞の割合.Mean±SE,Holm-Sidak多重比較検定,*p<.05,**p<.01.図は文献8)より引用,改変.
本研究により,ヘムはCLEC-2とGPVIの両者に結合し血小板を活性化すること,またこの経路がRAKIの増悪に関与していることが明らかになった.CLEC-2がヘムの受容体であるという仮説からスタートした研究であったが,思いがけず2種類の受容体が関与しているという興味深い結果が得られた.一方で,高濃度のPP2処理や二重欠損血小板でわずかに凝集が残存していたことから,本研究で示したものとは別のメカニズムがわずかに存在する可能性は残されている.さらに,活性化した血小板がMETsを誘導する機序については,マクロファージのMac1と血小板のGPIbα,同じくPSGL-1とP-selectinの相互作用など,いくつかの仮説が成り立つが,既に前述の報告内で否定されており1),今後の検討課題である.
RAKIの治療は,補液と腎代替療法が主体で選択肢が限られており,病態形成の分子基盤が一部明らかになったことは治療戦略上も重要であると考えている.近年では,溶血性疾患における血栓形成という文脈でも,ヘムと血小板の関係が論じられており10),横紋筋融解症の他にもヘムとCLEC-2/GPVIのinteractionが寄与する病態・疾患があるのではないかと想像している.
本研究を行うにあたり,ご協力を頂きました著者の皆様,実験のサポートを頂きました大塚貴子様に感謝申し上げます.また本研究は,日本透析医会及び日本血液学会の研究助成を受けて行われました.本論文中に示した実験データは既にBlood Advances誌に原著論文として投稿されています.二重投稿となることを避けるため,研究の概要について考察を交えて総説的に記載しました.
本論文の発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし