2024 Volume 35 Issue 5 Pages 589-596
プロテインC(PC)は肝臓で合成される凝固制御因子であり,生体内ではトロンビン-トロンボモジュリン複合体により活性化プロテインC(APC)へと変換される.APCは活性化凝固第V因子(FVa)および第VIII因子(FVIIIa)を不活化する抗凝固作用と,抗炎症活性,抗アポトーシス活性,内皮バリア機能の維持といった細胞保護作用を有している.先天性PC欠乏症/異常症は,PC遺伝子(PROC)の病的バリアントにより発症する遺伝性血栓性素因であり,常染色体顕性遺伝形式をとる.量的異常(Type I)と質的異常(Type II)に分類され,Type Iが75~80%と多い.患者の多くがヘテロ接合体であり,思春期以降に静脈血栓塞栓症や脳梗塞などの動脈血栓症を発症する.ホモ接合体や複合ヘテロ接合体は極めて稀であるが,生後数時間での新生児電撃性紫斑病,広範な頭蓋内出血,眼内出血や致死性の血栓症を発症する.本稿では,PCの構造や機能といった基礎的な内容と,先天性PC欠乏症/異常症の病態について概説する.
プロテインC(PC)はγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)を含むビタミンK依存性の凝固制御因子である.1976年にStenfloによってウシ血漿から単離され,DEAE-セファロースから溶出した3番目のタンパク質であったことから「C」と名付けられた1).PCタンパク質は2番染色体の2q13-14.3に位置する約10.8 kbのPC遺伝子(PROC)によってコードされ,PROCは9個のエクソンと8個のイントロンから成る.419アミノ酸からなる分子量約62 kDaの成熟PCは,N末端から順に9つのGla残基が存在するGlaドメイン,2つの上皮成長因子(epidermal growth factor: EGF)ドメイン,活性化ペプチド,セリンプロテアーゼドメインから構成される2).血漿中に存在するPCの多くは肝細胞で一本鎖PCとして合成されると,ゴルジ体でフリン様プロタンパク質変換酵素により198Lysと199Argの2アミノ酸が除去される.そして,軽鎖(約21 kDa)と重鎖(約41 kDa)とが183Cys-319Cys間のジスルフィド結合でつながった二本鎖PCとして血中に分泌される3).血中では約85%がこの二本鎖PCとして,残りの約15%が一本鎖PCとして存在する.PCタンパク質は主な翻訳後修飾として,113Aspのβ-ヒドロキシアスパラギン酸化,139Asn,290Asn,355Asn,371AsnでのN-結合型糖鎖修飾を受ける2).
他のビタミンK依存性凝固関連タンパク質と同様に,PCのGlaドメインもCa2+結合によりGla残基がタンパク質構造内部に畳み込まれ,疎水性アミノ酸残基が表面に露出することで,負に帯電したリン脂質膜に結合できるようになる4, 5).現在までに,Gla-domain less活性化PC(APC)の結晶構造が2.8Åの分解能で解明されており,図1にAPCの結晶構造と機能領域を示す6–10).軽鎖のGlaドメイン,EGF-1・2ドメインにはプロテインS(PS)との相互作用部位が存在する6).重鎖のセリンプロテアーゼドメインには,253His,299Asp,402Serの触媒三残基が活性中心として配位している.また,PCの活性化と活性化第V因子(FVa)の不活化に重要な塩基性アミノ酸に富む正電荷領域が存在し,この領域はAPCと各種タンパク質と相互作用するexositeとされている7–10).その中でも,Loop 37(c37Lys-c39Lys),Loop 60(c62Lys, c63Lys, c67Arg),Loop 70–80(Ca2+ site; c70Glu, c72Asp, c75Arg, c80Glu)はトロンビン-トロンボモジュリン複合体によるPC活性化に重要な領域とされる(cはchymotrypsin numberingを示す).Loop 70–80にCa2+が結合することでAPCのコンフォメーションが変化し,c67Argを含む塩基性exositeにトロンボモジュリンの酸性EGF4ドメインが結合する.それにより,トロンビンのPC活性化ペプチドへの結合が促進される7, 9).さらに,この塩基性exositeの中でもLoop 37とLoop 148(Autolysis loop; c142Gly - c153Phe)はFVaのArg506周囲の負電荷領域と相互作用するとされ,この塩基性exosite内のバリアントは,トロンビン-トロンボモジュリンによる活性化が低下し,Arg506開裂は生じなかったが,Arg306での開裂は正常であったと報告されている7–9).
Gla-domain less活性化プロテインCの結晶構造と機能領域
Gla-domain less APCの結晶構造(PDB ID: 1AUT)を元に著者がCueMolで作成.機能領域は文献6–10を参考にマッピングした.
A.Gla-domain less APCの構造と軽鎖に存在するPSとの相互作用部位(115Ile, 137Phe, 157Trp)を示す.今回の結晶構造では表示できなかったが,Gla-domain内のPS相互作用部位(80Leu, 85Lys)も存在する.
B.APCのセリンプロテアーゼドメインの拡大図.Loop 37(c37Lys-c39Lys),Loop 60(c62Lys, c63Lys, c67Arg),Loop 70–80(Ca2+ site; c70Glu, c72Asp, c75Arg, c80Glu),Loop 148(autolysis-loop; c142Gly-c153Phe)から構成される塩基性領域はAPCのexositeであり,トロンボモジュリンやFVaとの相互作用に重要な部位である.他にも,PAR1との相互作用に関与する162 helix(c167Glu, c170Glu),Na+ site(c183Ala-c189Asp, c221Leu-c225Tyr)も明らかとなっている.
SP,セリンプロテアーゼドメイン;EGF1,上皮成長因子ドメイン1;EGF2,上皮成長因子ドメイン2;Gla,γ-カルボキシグルタミン酸ドメイン;TM,トロンボモジュリン;PAR1,プロテアーゼ活性化受容体1
血漿中では,PCは約70 nM(4.3 μg/mL),APCは約40 pM(2.5 ng/mL)の濃度で存在している2, 11).血管内皮細胞上に存在するトロンボモジュリンと結合したトロンビンは,Ca2+存在下においてPCのArg211-Leu212間を切断し,12アミノ酸から成る活性化ペプチドを遊離させ,APCへと変換する.また,トロンビンによるPC活性化反応は,PCが血管内皮細胞プロテインC受容体(EPCR)と結合すると血管内皮細胞上にPCが濃縮され,約20倍促進される12).EPCRに結合したAPCはEPCRから解離し,PSを補酵素として,リン脂質膜上でFVaのArg306,Arg506,Arg679を限定分解することでFVaを不活化する2, 12, 13).Arg506開裂はArg306の切断よりも速度論的に有利であり,PSとリン脂質組成への依存性が低い.一方で,Arg306開裂は遅く,負に帯電したリン脂質とPSに依存し,この部位の開裂によりFVa活性は完全に失活する7).このAPCを介したFVa不活化の重要性は,この切断部位のバリアントであるFV Leiden(p.Arg506Gln),FV Cambridge(p.Arg306Thr),FV Hong Kong(p.Arg306Gly)の血栓症リスクの増加から明らかである8).なお,Arg679開裂の効果は小さいとされる.また,APCはPSと凝固第V因子(FV)を補酵素として,活性化凝固第VIII因子(FVIIIa)のArg336とArg562を限定分解し,FVIIIaを不活化する2, 12, 14).
APCと線溶系との関わりでは,APCがFVaおよびFVIIIaを不活化することにより,最終的に生成されるトロンビン量が減少するため,トロンビン-トロンボモジュリン複合体によるthrombin activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)の活性化が抑制され,線溶が促進される.さらに,APCはplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)を直接阻害することでも線溶促進的に働くことが明らかとなっており15),このようなAPCの作用により血管内の血液は流動性を維持することができる(図2).
活性化プロテインCの抗凝固作用,線溶促進作用,細胞保護作用
(表)細胞保護作用により発現量が変化する遺伝子群は文献17を元に著者が抜粋した.
EPCRにはPCだけでなくAPCも結合可能であり,EPCRへの結合親和性はPCとAPCで同等とされる(解離定数KD=約29 nM)16).EPCRに結合したAPCは,プロテアーゼ活性化受容体1(PAR1)のArg46を切断することで内皮細胞に直接作用し,(1)遺伝子発現プロファイルの変化,(2)抗炎症活性,(3)抗アポトーシス活性,(4)内皮バリア機能の保護など,複数の細胞保護作用を発揮することが知られている17, 18).(1)遺伝子プロファイルの変化としては,炎症性および向アポトーシス経路関連遺伝子の発現抑制と,抗炎症性および抗アポトーシス経路関連遺伝子の発現亢進に関与することが明らかとなっており,代表的なものを図2(表)に示す17, 19).(2)APCの抗炎症性の血管作用としては,内皮細胞に対する作用と白血球に対する作用に分けられる.APCが内皮細胞に作用すると,核内転写因子κB(NFκB)の発現と機能活性を直接低下させることによりサイトカインシグナル伝達が阻害され,炎症性メディエーターの放出抑制とIntercellular adhesion molecule 1(ICAM-1)やvascular cell adhesion molecule 1(VCAM-1)などの血管接着分子の発現が抑制される.それにより白血球の組織への接着と浸潤を減少させ,内皮下層組織への損傷を抑制する.また,APCの白血球に対する作用には,白血球からのtumor necrosis factor-α(TNF-α)やインターロイキン1β(IL-1β)などの炎症性サイトカインの放出抑制があり,全身の炎症反応の開始を抑制する可能性がある17, 20).(3)APCが抗アポトーシス活性を発揮するためには,EPCRとPAR1が必要である.プログラム細胞死であるアポトーシスには,ミトコンドリアに局在するB-cell/CLL lymphoma-2(Bcl-2)ファミリータンパク質を介して制御される内因系経路と,細胞死受容体(death receptor)を介する外因性経路があり,双方にp53が関与しアポトーシスを誘発する21).APCは向アポトーシス作用のあるp53とBcl-2 associated-X protein(Bax)タンパク質を抑制する一方で,抗アポトーシス作用を有するBcl-2タンパク質レベルを維持し,Bax/Bcl-2比が変わることで抗アポトーシスに働く17, 22).このようなAPCの抗アポトーシス活性は遺伝子発現の調節にも一部依存しているとされるが,遺伝子発現に対するAPCの作用,APC特異的シグナル伝達,特定の細胞死受容体やエフェクターの関与についてなど,それぞれの相対的寄与の解明にはさらなる研究が必要である.(4)内皮バリアの破壊は,炎症促進の重要なファクターである.APCの内皮バリアの強化にはEPCR依存性のPAR1活性化が必要であり,スフィンゴキナーゼ-1(SphK-1)の誘導と,スフィンゴキナーゼによるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)形成を促進する23, 24).S1Pは生物学的に活性なスフィンゴ糖脂質であり,血管内皮細胞分化遺伝子(EDG)ファミリーに属するGタンパク質共役型受容体であるS1P受容体1(S1P1)を介してシグナルを伝達する.APCにより発現誘導されたS1PはS1P1を活性化し,内皮細胞の透過性を低下させ,RhoファミリーGTPaseおよびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)の調節に依存する細胞骨格の安定化を介して強力なバリア保護効果を誘導する23–26).
先天性プロテインC欠乏症/異常症は,PROC遺伝子の病的バリアントにより発症する遺伝性血栓性素因であり,不完全浸透の常染色体顕性遺伝形式をとる26).プロテインC欠乏症/異常症は,PC抗原量とPC活性が同程度に低下する量的異常(Type I)と,PC活性のみが低下する質的異常(Type II)に分類され,Type IIはさらに,活性中心や活性化部位の質的異常のType IIaと,PCの基質(FVaやFVIIIa)や補酵素(PS)などとの結合に異常を有するType IIbに分類される27, 28).量的異常であるType Iが75~80%と多く,質的異常の20~25%のうち大部分がType IIa,0.5~1%がType IIbとされる28).
1)疫学PC活性測定により評価された日本人におけるPC欠乏症の頻度は,一般人口においては0.13%,深部静脈血栓症(deep venous thrombosis: DVT)発症患者においては6.48%であり,DVT患者における有病率は一般人口と比べて統計的に高く,PC欠乏症が日本人におけるDVTの危険因子であることが示されている29).また,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)患者と対照群を比較した複数の研究のMeta-analysisにより,PC欠乏症患者のVTEリスクが高いことが証明されている(OR 7.51,95% CI 3.21–17.52,P<0.00001)30).先天性PC欠乏症/異常症患者では,そのほとんどが思春期以降に主にVTEを発症するヘテロ接合体であり,PC活性値が30~50%に低下しているとされる.ホモ接合体や複合ヘテロ接合体は極めて稀(20~40万人に1人)であるが,重症PC欠乏症(PC活性値<1%)と類似した表現型を示し,生後数時間での新生児電撃性紫斑病,広範な頭蓋内出血,眼内出血や致死性の血栓症を発症する31).
2)PROC遺伝子バリアントJapan Thrombosis and Haemostasis Research Consortium: J-THReC血栓止血研究コンソーシアムのJTMDによると,現在までに本邦においては90種類のバリアントが報告されている32).また,Human Gene Mutation Database® Professional 2023.2では,現在までに世界で541種類のバリアントの報告がある.バリアントの種類別頻度は,ミスセンスバリアントが最も多い365例(67.5%),次いで小欠失が51例(9.4%),スプライシングバリアントが43例(7.9%),ナンセンスバリアントが34例(6.3%),小挿入・重複が19例(3.5%),転写調節異常が18例(3.3%)である.先天性アンチトロンビン(AT)欠乏症/異常症(46.4%)や先天性PS欠乏症/異常症(46.9%)に比べて,ミスセンスバリアントが多いのが特徴である(図3A).
HGMD®Proに報告されているPROC遺伝子バリアントの特徴と当研究室でのバリアント同定率(1999年~2024年6月)
A.541個のPROCバリアントの種類と割合(HGMD® Professional 2023.2を引用し著者が作成)
B.当研究室におけるPROC遺伝子バリアント同定率
C.日本人に多いPROC遺伝子バリアント(Hot-spot)の当研究室での同定割合
我々の研究室では1999年から現在に至るまで,遺伝性血栓性素因が疑われた371家系503症例の遺伝子解析を行なってきた33, 34).そのうち先天性PC欠乏症/異常症が疑われた118家系151症例において,PROC遺伝子バリアントが同定されたのは84家系109例(バリアント同定率71.2%)であり,先天性PC欠乏症/異常症の確定診断として遺伝子解析の有用性が示された一方で,バリアントが同定されない症例が約3割存在することも示された(図3B).この結果は,Caspersらの報告と酷似しており,著者らはPC欠乏症が疑われた症例におけるPROCバリアント同定率は65%であり,PC活性値が70%以上ある場合にはPC欠乏症の可能性が低く遺伝子解析を推奨しないと述べている35).また,日本人に多いPROCバリアント(Hot-spot)が複数知られており,当研究室の解析においてもバリアントが同定された84家系のうち,実に57%がHot-spotのいずれかを有していた(図3C).先天性PC欠乏症/異常症が疑われた日本人症例の遺伝子解析では,まずこれらのHot-spotをスクリーニング的に検索するのが効率的と思われる.
また,我々の研究室ではPROCバリアントとしては非常に稀な大欠失症例を1例経験している36).発端者は妊娠8週時点で左足DVTを発症した35歳女性.血栓性素因検査の結果,AT活性123%,PS活性66%と正常であったが(妊婦はPS活性が低下する37)),PC活性38%,PC抗原量35%であり,PC欠乏症Type Iが疑われた.この症例では,遺伝子解析で最初に実施されるエクソンおよびエクソン/イントロン境界領域のサンガーシークエンス法ではバリアントが同定されなかった.そこで,Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification(MLPA)法にてPROC遺伝子の大規模欠失または重複の有無を解析した結果,エクソン7および8の相対コピー数が他のエクソンの約半分程度であり,エクソン7–8のヘテロ接合体性大欠失が同定された.家族歴などから先天性PC欠乏症/異常症が強く疑われるにも関わらずバリアントが同定できない症例の中には,このような大欠失やイントロン深部のバリアントなど,エクソン領域のサンガーシークエンスのみでは同定できないバリアントが存在している可能性があることを念頭に置いておきたい.
3)病態PCが欠乏すると,FVaおよびFVIIIaを不活化できず抗凝固作用が低下し,主にDVTおよび肺塞栓症(pulmonary embolism: PE)など静脈系の血栓症を発症する2).ヘテロ接合体性のPC欠乏症/異常症では,PROCバリアントの種類によってはPC活性の低下が軽度に留まり,成人になるまで無症状の症例も存在するが,患者の約50%は30~40歳までに血栓症を発症する38).また,PC欠乏症は,脳梗塞や心筋梗塞のリスクファクターとして重要であるとの指摘もある39).一方で,ホモ接合性および複合ヘテロ接合性のPC欠乏症/異常症では,新生児期に重篤で致命的な電撃性紫斑病を発症する.この病態は,微小血管血栓症,脳血栓症,および播種性血管内凝固による壊死性皮膚病変が特徴的である38).電撃性紫斑病の治療の遅れは重大な後遺症をもたらす可能性が高いため,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)や乾燥濃縮人活性化プロテインC(注射用アナクト®C)による急性期治療と,ワルファリンによる中長期的な治療が行われる.
ここで,我々の研究室において解析した先天性PC欠乏症/異常症の中で,PROCバリアントが同定された84症例について臨床病態を解説する.血栓症を発症していたのは89.3%(75/84例)であり,血栓症の初発年齢中央値は40(IQR 30~53)歳であった.血栓症の種類と頻度では,約5割でDVT,約3割でPEを発症しており,これまでの報告通りVTEの発症頻度が高いことが示された.特筆すべきは約2割が動脈血栓症を発症している点であり,その内訳は大半が脳梗塞であった.さらに,脳梗塞発症者のうち35.2%(6/17例)が40歳未満の若年性であったことから,若年性脳梗塞は先天性PC欠乏症/異常症における重要な臨床所見であると言えるだろう(図4A).次に,血栓症の誘因について解析すると,特に誘因がない例も多かったが,誘因として挙げられた事項としては,長時間不動(入院,バス移動,デスクワークなど)が約5割を占めた.次いで妊娠中や産褥期,経口避妊薬やホルモン剤内服などがあり,血栓症発症に至る環境要因も留意する必要がある(図4B).
当研究室においてPROCバリアントが同定された先天性PC欠乏症/異常症の臨床的特徴
A.発端者が発症した血栓症の種類と頻度(n=75)
B.発端者の血栓症の誘因と頻度(n=19)
PC欠乏症の診断に際しては,PC抗原量測定のみではType IIを見逃す危険性があるため,PC活性をまず最初に測定する.活性測定法としては,合成基質法と凝固時間法の2種類がある(表1).凝固時間法は特異性が低く,合成基質法ではCa2+,リン脂質,生理的な基質(FVaおよびFVIIIa),補酵素(PS)との相互作用に欠陥を有する稀なType IIb型を検出することができない.しかしType IIbが稀であることから,一般的には合成基質法でのPC活性測定がスクリーニング検査法として推奨されている27).また,S-2366™などの発色基質は,活性化凝固第XII因子,カリクレイン,トロンビンなどAPC以外の他の酵素によっても分解され発色するため,採血困難例におけるクロット,溶血,凝固活性化検体ではPC活性が偽高値となる.反対に,このような検体ではAPTT延長レベルが低下し,凝固時間法ではPC活性が偽低値となる27, 28).さらに,直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant: DOAC)内服中の検体は凝固時間法ではPC活性が偽高値となるが,合成基質法では影響を受けない40).凝固時間法に特徴的な測定干渉物質も存在する.血中の第VIII因子(FVIII)が高い検体ではAPTT延長程度が低下し,PC活性が偽低値となる.この高濃度FVIIIの影響を受けにくいのが,Russell’s viper venomベースのPC活性測定である.RVV-Xは凝固第X因子(FX)を直接活性化するため,FX活性化より上流の凝固カスケードは影響しない27).また,FV LeidenバリアントはAPC抵抗性(APCR)を有するため,APCによる不活化を受けにくく,PC活性が偽低値となる.さらに,ループスアンチコアグラント(LA)陽性検体ではAPTTを延長させるためPC活性が偽高値となる可能性があるが,LAの性質と試薬のリン脂質組成によってはPC活性が偽低値となることもある27, 28, 41).このような測定干渉要因が存在する場合,血漿検体を3倍以上に希釈して直線性を確認する必要がある.
先天性PC欠乏症/異常症診断におけるPC活性・抗原量測定法の特徴と測定干渉物質(文献27を元に著者が作成)
アッセイの種類と特徴 | 活性化剤 | PC欠乏症 | 測定干渉物質など | ||||
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Type I | Type IIa | Type IIb | |||||
PC活性 | 合成基質法 | 小分子量の発色合成基質の酵素的切断を検出 | Protac® | ◯ | ◯ | 検出不可 | 凝固活性化検体* HIL検体** |
凝固時間法 APTT based assay |
・APTT法 ・リン脂質,Ca2+,PS存在下でのFVaおよびFVIIIaの分解を検出 |
Protac® | ◯ | ◯ | ◯ | 凝固活性化検体* HIL検体** LA,高濃度FVIII,APCR,DOAC,高濃度ヘパリン/低分子ヘパリン | |
凝固時間法 RVV based assay |
・RVV法 ・リン脂質,Ca2+,PS存在下でのFVaの分解を検出 |
Protac® | ◯ | ◯ | ◯ | 凝固活性化検体* HIL検体** LA,APCR,DOAC,高濃度ヘパリン/低分子ヘパリン | |
PC抗原量 | 放射免疫拡散法(RID)/免疫電気泳動(IE) | ― | ◯ | 検出不可 | 検出不可 | (IE:EDTA採血が必要) | |
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)/蛍光酵素免疫法(ELFA) | ― | ◯ | 検出不可 | 検出不可 | 非特異結合 HIL検体** |
* 凝固活性化検体:クロット,溶血,APTTが短縮しているような検体
** HIL検体:試薬や装置のメーカーの許容範囲以上の溶血,黄疸,脂質血症
Protac®,Agkistrodon contortrix由来の蛇毒(PC活性化剤);RVV,Russell’s viper venom由来の蛇毒(第X因子活性化剤);LA,ループスアンチコアグラント;APCR,APCレジスタンス(最も一般的なのはFV Leiden);DOAC,直接経口抗凝固薬
測定したPC活性値を評価する際には,患者の年齢を考慮しなければならない.PC活性値は年齢によって変化することが知られており,新生児は健康な満期産児でもPC活性が35%程度で,生後6~12ヵ月までに成人の基準範囲の下限レベルまで上昇する42).したがって,新生児や乳幼児には成人の基準範囲を適用することができない.また,基準範囲は70~140%程度のことが多いが,試薬によって参考基準範囲が異なり,自施設で基準範囲を設定する必要がある27).
本論文発表に関連して開示すべき企業等との利益相反なし