Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Reviews: Linking the mechanisms of thrombosis and hemostasis to autophagy
Atherosclerosis and autophagy
Hirotaka WATADA
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2024 Volume 35 Issue 6 Pages 682-687

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Abstract

オートファジーは細胞恒常性を保つうえで極めて重要な細胞分解機構であり,本機構の破綻により,神経変性疾患や肝疾患,癌,糖尿病など様々な疾患が発症することが示されている.動脈硬化症の発症においてもオートファジー機能の破綻は疾患促進的に作用することが明らかとなっているが,一方でオートファジーの異常な亢進も疾患促進的に作用することが示されている.本総説においては,動脈硬化に関与する主な細胞である血管内皮細胞,平滑筋細胞,マクロファージに関して,それぞれのオートファジーがどのように調節され,その破綻でどのような現象を引き起こすかに関して,これまでの知見を概説する.現在のところ,臨床的に動脈硬化の治療に用いられるオートファジー関連薬は存在しないが,本機構の全容解明を介して,動脈硬化症に対する革新的な治療法を開発することが求められている.

1.はじめに

動脈硬化は血管壁の慢性炎症性疾患である.動脈硬化の進展に伴い,内腔表面にアテローム性動脈硬化プラークが出現し,プラークの破綻を介して心血管疾患を引き起こす.全世界で心血管疾患による死亡率が死亡原因の上位に位置している現状を考えると,本病態の完全解明は臨床的に極めて重要といえる.病理学的にはアテローム性動脈硬化プラークの形成は,脂肪線条,アテローム性プラーク,不安定プラーク,臨床合併症の4段階に分類される.不安定プラークでは,薄い線維性被膜の中に泡沫細胞が蓄積しているのが特徴である.特にプラークの破裂は直接的な急性の心血管系イベントの主な原因であり,プラーク破裂の制御に関する研究は極めて重要な課題と考えられるが,動脈硬化に関わる細胞が血管内皮細胞,マクロファージ,平滑筋細胞であることを考えるとそれぞれの細胞の恒常性が維持できなくなるいわゆる「細胞の適応障害」がその病態に大きく関与することが予測される.

一般にオートファジーと呼ばれるマクロオートファジーは,細胞ストレスに適応するリソソーム分解プロセスであり,細胞の恒常性維持に重要な役割を果たしている.機能不全に陥ったオルガネラやタンパク質を選択的に除去することで,代謝供給が確保され,細胞の生存が促進される.オートファジーは,オートファゴソーム内に含まれる構成成分の種類に基づいて,マイトファジー,ヌクレオファジー,ペキソファジー,ゼノファジー,フェリチノファジーなどに分類される.現在までにオートファジーの制御不全により,神経変性疾患,炎症性疾患,癌,糖尿病など多様な疾患を引き起こすことが知られ,さまざまの疾患の病因に大きく寄与する可能性が指摘されている.動脈硬化性疾患においてもオートファジーの制御異常がその病態に関与することが多くのグループから報告されている.本総説では,動脈硬化に関与する血管内皮細胞,マクロファージ,平滑筋細胞において,動脈硬化にオートファジーがどのように関与するかに関して,これまでの報告をまとめてみた.

2.オートファジーのプロセス

オートファジーのプロセスは,開始,拡大,分解の3段階に分けられる.開始の段階では,オートファジー活性化キナーゼ1(ULK1)とBeclin1複合体が重要である.栄養が十分な条件下では,ULK1-Atg13-FIP200複合体に組み込まれたmTORC1キナーゼがULK1をリン酸化する.一方,飢餓やラパマイシン処理によってmTORC1が阻害されると,ULK複合体からmTORC1が解離し,mAtg13とFIP200がリン酸化されてオートファジー過程が開始される.ULK1はまた,Beclin1と相互作用するタンパク質であるAmbra1をリン酸化し,Beclin1の小胞体への転位を誘導する.その後,Beclin1はVps34,Vps15,Atg14Lと複合体を形成する.クラスIIIホスファチジルイノシトール3-キナーゼであるVps34は,ホスファチジルイノシトール-3-リン酸を生成し,double FYVE-containing protein 1,WIPI2,Atgタンパク質をリクルートする.オートファゴソームの拡大段階は2つのユビキチン様経路からなる.Atg7はE1様酵素であり,Atg10とAtg3はE2様酵素として働く.Atg12-Atg5-Atg16L1複合体はE3様複合体として働く.Atg8はLC3としても知られるユビキチン様分子である.他のAtgメンバーのE1-,E2-,E3様作用により分離膜にリクルートされた後,LC3は脂質標的であるホスファチジルエタノールアミンに結合し,LC3-IIを形成する.これらの反応はオートファゴソーム形成と並行しておこる.その後,オートファゴゾームが形成されると,リソソームと融合し,リソソーム酵素によって封じ込められたオルガネラや高分子が加水分解される.オートファジーによる細胞物質の分解によって栄養素が利用可能になると,mTORC1が再活性化され,完全なオートファジー・サイクルが完成する.

3.血管内皮細胞とオートファジー

内皮細胞は,血管収縮・弛緩,血管透過性,血管新生,抗凝固,炎症など,多くの生理的・病的状態において重要な役割を果たしている.オートファジーはその内皮細胞がその生理的な役割を果たすために重要なはたらきをすることが示されてきた.具体的にはアテローム性動脈硬化プラークが形成される際,内皮細胞では損傷を受けたミトコンドリアが増えるが,オートファジーを活性化することにより損傷を受けたミトコンドリアをオートファジーが取り込み,シトクロムcの放出の減少を介してアポトーシスを抑制し,細胞保護的に作用することが想定されている1.加齢は動脈硬化の進展因子であるが,血管組織では加齢とともにオートファジーが減少することが示されており2,この仮説を支持する.

内皮細胞では,ミトコンドリアだけでなく,それ以外の細胞内の異常な構成成分を除去するために,オートファジーの誘導が起こる.たとえば,酸化LDLはヒト臍帯静脈内皮細胞においてオートファジーを誘導する3.誘導されたオートファジーが細胞内の酸化LDLの分解を促進し,内皮傷害を保護し,細胞死を減少させることが報告されている.上述したオートファジーに必須な遺伝子であるAtg7を内皮細胞で特異的に欠損させると,血管内皮細胞におけるにLDLおよび酸化LDLの蓄積が認められると同時に動脈硬化病変の拡大が認められると報告されている.これは,生体において動脈に過剰な脂質の蓄積を抑制する必用があり,そのために内皮細胞のオートファジーが重要な役割を果たしていることを示している4

内皮細胞のオートファジーを制御する因子として,アルギナーゼ2(ARG2)の役割が解明されている.内皮細胞でARG2を過剰発現させると,mTORシグナルが上昇し,AMPキナーゼが阻害されることにより,内皮のオートファジーが抑制されると報告されている.逆に,アポリポタンパク質E(ApoE)ノックアウト(KO)マウスでARG2遺伝子発現を抑制すると内皮細胞においてオートファジーが亢進し,動脈硬化の進展が抑制されると報告されている.このことは,ARG2がオートファジーの制御を介して動脈硬化に重要な役割を果たしていることを示している5

このように,基本的には内皮細胞におけるオートファジー活性化は動脈硬化保護的に作用するが,この内皮細胞内オートファジーの活性化とシェアストレスが密接に関係することがわかっている.以前から,動脈硬化病変はシェアストレスが低い部分で優先的に発症し,その領域では,炎症性,アポトーシス性,老化性の内皮細胞の表現型を示すことが知られていた.逆に,シェアストレスの高い部位はプラークの形成から保護される.この現象に関して,内皮細胞のオートファジー活性の点から検討が行われた結果,高いシェアストレスは,ヒトおよびマウスの動脈において内皮オートファジーのフラックスを刺激し,逆に,低いシェアストレスは,mTORの活性化,AMPKαの阻害とオートファジックフラックスの低下をもたらすことが明らかとなっている.興味深いことに,高コレステロール血症マウスでは,内皮オートファジーの欠損は,高シェアストレスのアテローム抵抗性領域でのみプラーク負荷を増加させるが,内皮オートファジーのフラックスがすでに遮断されている領域ではプラークサイズは変わらなかったと報告されており,シェアストレス低下によるプラークの形成に内皮のオートファジー活性の低下が強く関与していることが明らかになっている6

一方で,過剰なオートファジーの活性化は,内皮細胞のプログラム細胞死を誘導し,プラークの不安定性と破裂をもたらし,炎症と血栓の形成を増加させる可能性が指摘されているため7,抗動脈硬化療法としての内皮細胞におけるオートファジーの活性化には慎重な解釈が必要である.

4.マクロファージのオートファジーと動脈硬化

動脈硬化は炎症性疾患であり,白血球がその病態の中心的役割を担っている.中でもマクロファージはその主要な炎症細胞である.動脈硬化に関連する細胞のなかで,オートファジーとの関連に関しては,マクロファージが最も早期から研究されてきている.Razaniらは,動脈硬化症におけるオートファジーの役割を調べる目的で,ApoEKOマウスのプラークにおけるp62の発現を調べた.その結果,p62の発現が増加し,とくに,マクロファージのマーカーとp62が共局在することが明らかとなった.これは,プラークではマクロファージのオートファジー機能不全が存在することを示唆する.次に,オートファジー機能不全がアテローム形成に直接影響するかどうかを調べるため,マクロファージ特異的Atg5欠損マウスを作成しその特徴を調べた.その結果,本マウスではプラークの増加が観察された.このことは,マクロファージのオートファジーが動脈硬化進展抑制に重要であることを示している.さらに,Atg5欠損マクロファージでは,特にコレステロール結晶と同時に培養した場合に,古典的なインフラマソームマーカーが強力に誘導されたことから,マクロファージのオートファジーの欠損は,インフラマソームの活性化を介して,動脈硬化を促進させることが明らかになっている8

さらにLDL受容体KOマウスでマクロファージのAtg5を欠失させると,12週間または16週間の高脂肪食摂取後,マクロファージのアポトーシスとネクローシスが促進され,血清および大動脈のIL-1βレベルが上昇し,動脈硬化巣の形成が促進されることが明らかとなっている.このマウスの表現型もオートファジーの欠損とインフラマソーム活性化との相関を示している9.また,オートファジーはマクロファージにおけるコレステロールの逆輸送に関与しており,コレステロールのリソソームへの輸送を促進し,それによって動脈硬化の進行を抑制することも明らかとなっている10

5.平滑筋細胞のオートファジーと動脈硬化

我々は糖尿病の研究,特に膵β細胞機能に関する研究を継続して行っている.研究テーマの中でも,膵β細胞におけるオートファジーの役割に関する研究は我々の研究テーマの中核であり,世界に先駆けて膵β細胞におけるオートファジーの重要性に関して報告し11,現在もその研究テーマで研究を継続している12.糖尿病診療における大きな問題点は,心血管イベント発症リスクの増加であり,そのためには動脈硬化の制御をいかに実現させるかが重要な課題となる.平滑筋細胞は血管を構成する主要な細胞成分であることから,我々は本細胞におけるオートファジーの役割を検討することとし,その目的で,平滑筋細胞特異的Atg7欠損マウスを作成した.

まず本マウスの平滑筋細胞を単離し,培養した.その結果,本細胞では,細胞死の亢進,細胞老化の促進を示唆するデータが得られた.次に,動脈硬化巣形成における平滑筋細胞のオートファジーの役割を調べるために,本マウスとApoEKOマウスを掛け合わせたAtg7cKO:apoeKOマウスを作成し,14週間高脂肪食で飼育した.ApoEKOマウスは実験で頻繁に用いられている動脈硬化のモデルマウスであり,動脈硬化巣には脂質の沈着を認めるものの形態学的には,1)Fibrous Capが薄い.2)内膜の細胞成分が多い.3)平滑筋の細胞死が認められない.4)外膜の炎症が少ない.等,ヒトの動脈硬化巣とは異なる所見をとるが,その限界を知りながら,本研究に用いた.

その結果,Atg7cKO:apoeKOマウスでは,オイルレッドOで染色された動脈硬化巣の面積の増大が認められた.さらに,一般に動脈瘤形成の主要部位と考えられている上腹部大動脈の最大外径の拡大も認めた.そのためか,Atg7cKO:apoeKOマウスの生存率はコントロールマウスに比べて有意に低下しており,死亡したマウスを解剖した結果,大動脈瘤の破裂の形態を示すマウスもいた.

病理学的検討を行うと,Atg7cKO:apoeKOマウスにみられるアテローム性動脈硬化病変は,マクロファージ由来の泡沫細胞からなる脂肪線条,厚い線維性被膜をもつ複雑なプラークなど,ヒトのアテローム性動脈硬化病変のさまざまな段階の特徴のいくつかを模倣していた.特に本マウスでは線維性被膜が厚くなり,内膜の細胞成分が少なくなり,動脈硬化巣に細胞死が認められ,外膜に炎症細胞が認められるなど,コントロールマウスでは認められない形態を示した(図1).これらのデータから,平滑筋細胞のオートファジーはアポトーシス,細胞老化を抑制する方向に作用し,動脈硬化リスクに暴露されたときの動脈硬化を抑制する方向に作用していると考えられた.特に平滑筋細胞のオートファジー機構の破綻がヒトと全く形態変化の異なるApoEKOマウスの動脈硬化巣の形態を人のそれと近似させたことは,ヒトにおける平滑筋のオートファジー不全がその病態に関与することを連想させる13.興味深いことに,適切な濃度の酸化LDLは平滑筋細胞のオートファジーを亢進させるが,高濃度の酸化LDLはオートファジーを阻害し,細胞のアポトーシスを増加させることが報告されている14

図1

動脈硬化食摂餌下でのAtg7cKO:apoeKOマウスの動脈硬化病変.

(A)コントロールマウスとAtg7cKO:apoeKOマウスの腹部大動脈プラークの代表的組織像を血管平滑筋で主に発現するACTA2抗体で染色した.矢頭の間の領域は線維性被膜を示す.矢印は薄い線維性被膜を示す.コントロールマウスの薄い線維性被膜がAtg7cKO:apoeKOマウスで一般的には厚くなっているが一部,薄い領域もあることが示されている.また,内膜の細胞成分が減少していることが示されている.スケールバー:50 μm.(B)コントロールおよびAtg7cKO:apoeKOマウスの腹部大動脈プラークをマクロファージで主に発現するLGALS3抗体で染色した.炎症細胞は外膜まで存在していることが示されている.スケールバー 50 μm.(C)コントロールおよびAtg7cKO:apoeKOマウスの腹部大動脈のTUNELアッセイの代表的画像.動脈硬化巣に細胞死が認められている.スケールバー:50 μm.

さらに我々は,Atg7cKO:apoeKOマウスで認められた動脈硬化巣の病的意義に関して,検討を進めた.まずは動脈硬化巣のプラークの安定性に関して検討を行うとAtg7cKO:apoeKOマウスで認められた動脈硬化巣のプラークはコントロールに比して,不安定であり,プラーク破裂の頻度が増加すること明らかになった15.一方で,本マウスで認められた動脈瘤に関して,アンギオテンシン2注入モデルを負荷すると,興味深いことにコントロールマウスに比べて,Atg7cKO:apoeKOマウスで生存率が高く,動脈瘤の治癒が促進していることが明らかとなった.詳細なメカニズムは不明であるが,本結果は過剰なオートファジーの抑制はむしろ動脈瘤の治癒過程を促進したものと理解した16.一般に,基礎的なオートファジーは細胞傷害から保護し,細胞の生存を促進すると考えられている.対照的に,平滑筋細胞や内皮細胞のオートファジーの亢進が過剰となると,オートファジーによる細胞死を引き起こし,プラークの不安定化,アテローム血栓症,急性心血管系イベントを引き起こす可能性があることには留意する必要がある17

6.さいごに

血管内皮細胞,マクロファージ,平滑筋細胞のオートファジーの欠損は,それぞれの細胞における恒常性の変化をもたらし,動脈硬化において有害な役割を果たすことが明らかになっている.一方で,過剰なオートファジーの促進も病態の悪化に寄与することが示唆されている.現在,さまざまな疾患に対するオートファジーの影響に関して広く研究されているが,今後,ヒトのアテローム性動脈硬化病変におけるオートファジーの役割の研究の進展も期待される.それを通じて,最終的には患者の臨床経過を改善させることに役立てる必要がある.

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