2024 Volume 35 Issue 6 Pages 702-710
敗血症は,「感染に対する制御不十分な生体反応に起因する,生命に危機を及ぼす臓器障害」であり,その生体反応に介入し制御を取り戻すことが敗血症治療の根幹である.敗血症病態の進展において,様々な細胞死が関わっているため,制御すべき生体反応として,重要臓器細胞や免疫担当細胞の細胞死をターゲットとして研究がなされてきている.オートファジーはII型プログラム細胞死と言われてはいたものの,その定義としては「細胞の自己成分を細胞内消化器官であるリソソームに運び込み分解する機構」であり,細胞死に関連はするが,オートファジー自体が細胞死を意味するものではない.過剰なオートファジーは細胞死を惹起し得るが,オートファジーは生命維持に必須の生体保護システムであり,敗血症のような大きな侵襲が加わっている環境では,多くの臓器でオートファジーは抑制される傾向となる.したがって,敗血症治療戦略としてオートファジーの停滞を防止することが重要である.
敗血症は,感染に対する制御不十分な生体反応に起因する,生命に危機を及ぼす臓器障害と定義され,その生体反応に介入し制御を取り戻すことが治療戦略の鍵となるといえる.その中でも細胞死に関わるものとして,古くからネクローシス,アポトーシスなどが注目され,それらの制御を目的とした研究がなされてきた.一方,敗血症時に宿主に害をなしうる制御困難な生体反応は,必ずしも細胞死のみではなく凝固異常や補体系過剰活性化なども挙げられる.そして様々な細胞死経路とそれら生体反応は複雑なクロストークを形成し,相互に影響し合っている.敗血症時の生体反応は本来生体保護的に働くはずであるが,時として諸刃の剣となって患者の転帰を悪化させてしまう.例えば敗血症侵襲によって惹起される凝固亢進,これは免疫血栓となって病原体の拡散を防止すると同時に,組織還流障害から組織酸素代謝失調を来すのは好例である.そして本稿のテーマである,II型プログラム細胞死とも呼ばれるオートファジー1)は,飢餓応答,傷害ミトコンドリアの除去,抗原提示能を補助するなど,本来生体保護的である2)が,過剰になるとエネルギー負債を生じ有害となる.本稿では,本来生体保護的なオートファジーの,敗血症時の重要臓器構成細胞や免疫担当細胞,血管内皮細胞での振る舞いに焦点を当て,その功罪から見た敗血症性臓器障害への影響につき考察する.
オートファジーは,細胞の自己成分を細胞内消化器官であるリソソームに運び込み分解する機構と定義される.その分解産物は,アミノ酸や脂肪酸として生体で再利用しえるため,ギリシャ語で自己「auto」を,食する「phagy」ところから「autophagy」(自食)と命名された.オートファジーには,飢餓応答としての栄養供給3)以外にも,不要なオルガネラ(細胞内小器官)の分解,病原微生物の排除,腫瘍抑制などの役割も確認されており,生命維持に必須のシステムである2).哺乳類細胞では,①ミクロオートファジー,②シャペロン介在性オートファジー(chaperone-mediated autophagy: CMA),③マクロオートファジーという3つの主要なタイプのオートファジーが定義されている4)(図1a).ミクロオートファジーは,リソソーム膜が直接陥入して細胞質成分を取り込むもので,窒素欠乏時の細胞小器官維持だけでなく,膜の恒常性維持にも重要である4, 5).CMAでは,シャペロンタンパク質が特定のペプチドモチーフを持つ細胞質成分を識別し,リソソーム表面でその細胞質成分の折り畳み構造がほどかれてリソソーム膜を通過して選択的に分解される5, 6).マクロオートファジーは最もよく研究されているオートファジーで,オートファゴソームを介して細胞質成分を分解するものである2, 7).以下本稿でオートファジーと呼ぶものはマクロオートファジーを指す.基本的には常に低レベルで発生しているが,栄養やエネルギーが欠乏したストレス条件下ではさらに増加し,細胞質を構成する物質や細胞小器官を分解し,生合成またはエネルギー生産のための代謝物を生成する4).マイトファジーは選択的オートファジーの一種であり,余分な,あるいは傷害を受けたミトコンドリアを標的とし,リソソームに輸送して分解する8, 9).マイトファジーではミトコンドリア表面の特殊なシグナル伝達経路と特殊な受容体タンパク質の活性化が必要である.このプロセスの障害は傷害を受けた機能障害のあるミトコンドリア蓄積につながり,活性酸素種(reactive oxygen species: ROS)の増加とそれに伴う細胞ひいては組織の損傷を引き起こす10).すなわちマイトファジーは,損傷したミトコンドリアを除去することで,細胞内の酸化ストレスと炎症反応を軽減させる生体保護反応である.傷害ミトコンドリアは,ミトコンドリア活性酸素種(mtROS)やミトコンドリアDNA(mtDNA)などの炎症誘発因子を放出し,炎症経路を活性化する可能性がある.逆に,それら傷害ミトコンドリアのマイトファジーによる処理は,ミトコンドリアのbiogenesisを改善させ,重要臓器障害の進展防止に寄与すると考えられる.オートファゴソームの形成には,Beclin-1やmicrotubule-associated protein light chain 3(LC3),Atg5蛋白,Atg7蛋白が深く関わっている(図1b).Beclin-1は隔離膜の初期発生に関わっている一方で,LC3やAtg5,Atg7などは隔離膜の伸長やオートファゴソームの形成に必須と考えられている.このようなオートファジー関連分子は,出芽酵母の遺伝子学的解析によりその存在が明らかにされてきている.1993年Ohsumiらによってオートファジー必須遺伝子群(autophagy-related genes: ATG)が酵母の研究で見出されて以降11)急速に解明され,現在までに40種類以上ものATGが発見されている.
オートファジーの進行に伴う膜動態
a.3つのタイプのオートファジー
① ミクロオートファジーはリソソーム膜の内側への陥入によって細胞質成分を取り込む方法.
② シャペロン介在性オートファジー(CMA)は,タンパク質基質を透過膜によって直接リソソーム内膜に送り込む方法.
③ マクロオートファジーは狭義のオートファジーであり,オートファゴソームを介して細胞質成分を取り込む方法.
b.マクロオートファジーの膜動態
Atg5-12やAtg16複合体の存在下で隔離膜が伸長する.そして,LC3-II(Atg8-PE(phosphatidyl ethanolamine))は,Atg5-12複合体依存的に隔離膜に結合し,オートファゴソーム形成に寄与する.その後,Rab7依存性にオートファゴソームとリソソームが融合する.ROS:reactive oxygen species
敗血症では病原体による侵襲とそれに対する生体反応が細胞障害を引き起こし,その細胞障害の総和である重要臓器障害が問題となる.敗血症では,interleukin(IL)-1β,tumor necrosis factor(TNF)などの炎症性サイトカイン発現が優位に上昇するsystemic inflammatory response syndrome(SIRS)と,IL-10,transforming growth factor-β(TGF-β)などの抗炎症性サイトカイン発現が優位となるcompensatory anti-inflammatory response syndrome(CARS),すなわち免疫麻痺の相反する状態が存在し,従来,前者が早期に起きて後者は追従するとされていた.しかし,最近では,それらは感染直後から同時に起きていると考えられるようになっており12, 13),そのSIRS/CARSバランスのベクトルとその偏向の大きさに重症度や転帰が左右される(図2).敗血症蘇生の実臨床では,Hour-1 bundleなどの迅速な普遍的治療の介入14)の浸透などによって,早期の治療は概ね成功することが多くなっているが,免疫麻痺,すなわちCARSの状態に陥った敗血症への対応は確立されていない.
敗血症患者における免疫反応の経時的変化(上)と免疫抑制に至る機序(下)
SIRS,CARSの状態が十分に改善しない状態がCCIである.特に,抗炎症優位が遷延する場合には,免疫抑制,タンパク異化亢進状態(PICS)に陥る.その免疫抑制に至る機序として,T細胞などのアナジー,免疫チェックポイント分子の発現やそれに伴う免疫担当細胞の細胞死(アポトーシス)などが挙げられる.PICSの極期には免疫担当細胞をはじめ重要臓器のオートファジーは停滞していることが示唆される32).文献12, 59)より引用改変.
PICS; persistent inflammation, immunosuppression, and catabolism syndrome, IPI; immune checkpoint inhibitor, SIRS; systemic inflammatory response syndrome, CARS; compensatory anti-inflammatory response syndrome, TNF; tumor necrosis factor, IL; interleukin, TGF; Transforming growth factor, MDSCs; myeloid-derived suppressor cells, sPD-L1; soluble programmed cell death ligand 1, DAMPs; damage-associated molecular patterns, PAMPs; pathogen-associated molecular patterns, VIDD; ventilator-induced diaphragmatic dysfunction
敗血症の病態進行を経時的に見ると,感染成立に際して,様々な病原微生物,内因性のdanger signal(alarmin)を,宿主の監視役である補体や細胞表面受容体が認識することから始まり,最終的に炎症反応の背景病態である高サイトカイン血症に行き着く15).外因性の病原体関連分子パターン(pathogen-associated molecular patterns: PAMPs)や,内因性のalarminなどのいわゆる損傷関連分子パターン(damage associated molecular patterns: DAMPs)が,補体,Toll-like receptors(TLRs),nucleotide-binding oligomerization domain (NOD)-like receptors(NLRs),retinoic acid-inducible gene (RIG)-like receptors (RLRs)などのpattern recognition receptors (PRRs)に結合すると,複雑な細胞内シグナル伝達系が活性化され,全身性の炎症反応が起こる16).DAMPsとしては,病原微生物,あるいは宿主細胞を構成する糖タンパク,リポタンパク,核酸など,生体に存在する様々な物質が挙げられる17, 18).そしてそれらシグナル伝達系が活性化されると,炎症反応や,獲得免疫,自然免疫,細胞代謝に関連する遺伝子群の発現につながる.また,様々な細菌,ウイルス,真菌などの病原微生物のみならず,宿主の組織障害産物は,炎症性メディエーターを動員し,mitogen-activated protein kinase(MAPKs),Janus kinase(JAKs),signal transducers and activators of transcription(STATs)などのリン酸化や,nuclear factor-κB(NF-κB)の核内移行をもたらす.核内移行したNF-κBは,遺伝子発現を調節するプロモーターを活性化するなどの作用を通じて,TNF,IL-1,IL-18,type I interferon(IFN)など,炎症初期に活性化される炎症性サイトカイン遺伝子発現を誘導する.その後サイトカインネットワークがさらに活性化され,IL-6,IFN-γなどの他の炎症性サイトカインや,IL-8,CC-chemokine ligand 2(CCL2),CXC-chemokine ligand 10(CXCL10)などのケモカインのカスケード反応も誘導される.筆者らは,敗血症病態を制御するには,“the cytokine theory of disease”19)に基づき,それら高騰した血中サイトカインをサイトカイン吸着特性を有するヘモフィルターを用いた持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration with a cytokine-adsorbing hemofilter: CAH-CHDF)によって効率的にmodulateすることが効果的であると考えている20)が,ここでは詳細を割愛する.
敗血症病態が遷延すると,リンパ球減少症,幼若好中球出現,サイトカイン産生および抗原提示細胞の喪失や,血中myeloid-derived suppressor cells(MDSCs)の増加21)など,特有の獲得免疫系の変化が引き起こされ,それらは免疫抑制から二次感染の誘因となる.末梢血中に出現する未成熟な骨髄球系細胞は,抗菌活性も低下しており,接着因子の発現や,細菌を捕捉する機構である好中球neutrophil extracellular traps(NETs)の形成も低下している22, 23).そして,未成熟な好中球とMDSCsは,IL-10やTGF-βといった抗炎症性サイトカインを産生し免疫抑制を助長する.また,樹状細胞やマクロファージなどの抗原提示細胞における主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex: MHC)クラスII抗原であるhuman leukocyte antigen (HLA)-DR発現も低下することが多く,単球HLA-DR発現(mHLA-DR)低値遷延は,敗血症の転帰悪化に関与する24).以上は,集中治療後症候群(post intensive care syndrome: PICS)の背景病態として注目され,そのPICSと本質的には同じ病態概念として,一部のグループによって,persistent inflammation, immunosuppression and catabolism syndrome(PICS)とも称されている12)(図2).免疫システムには,免疫応答を活性化する共刺激分子と,不活性化する共抑制分子が存在する.後者は,免疫チェックポイント(immune checkpoint)として機能し,自己の細胞や組織への不適切な免疫応答や過剰な炎症反応を抑制しているが,敗血症においてはリンパ球のプログラム細胞死阻害経路で免疫麻痺へ進行する25)ことが問題となる.その機序の一つとして,まず感染が成立する際,T細胞はMHCを介して抗原提示を受け,CD28を経て二次シグナルを受け活性化される.CD28シグナルのようなT細胞における共刺激経路は,エフェクターT細胞を活性化し抗原排除に寄与する.他方,慢性的な抗原刺激によって,PD-1がprogrammed cell death-ligand 1(PD-L1)と結合すると,CD28を介したT細胞の活性化にブレーキがかかる.PD-1は,CD28ファミリーに属する免疫抑制性補助シグナル受容体であり,活性化したT細胞,B細胞,及び骨髄系細胞に発現し,そのリガンドとの結合によって抗原特異的にT細胞活性を抑制する.つまり,PD-1はエフェクターT細胞にブレーキをかけて免疫抑制を惹起している.
一方,好中球では,敗血症好中球におけるPD-L1の過剰発現は,好中球アポトーシスの遅延に関わり,盲腸結紮穿孔(cecal ligation and puncture: CLP)などの敗血症動物モデルにおいて肺障害増悪を介して死亡率を上昇させる26).さらに敗血症では,アポトーシスの遅延が成熟好中球のネトーシス(a program for formation of NETs: NETosis)やオートファジーを誘導するとの報告もある27, 28).また,caspase-1/11やgasdermin D(GSDMD)に介在されるパイロトーシスもまた生理的に重要な宿主防御ステムであるが,好中球の過剰なパイロトーシスはやはり敗血症病態を進行させてしまう29).そして,様々な細胞死経路を介して好中球は著明に減少し,結果的に敗血症時の免疫抑制を加速させる30).以上のような,T細胞疲弊や好中球細胞死を介した免疫抑制に伴う二次感染などを防ぐことが,敗血症性免疫抑制制御を企図した研究ターゲットとして注目が集まっている31, 32).
オートファジーは本来生体保護的であると前述したが,敗血症侵襲に対する反応は臓器ごとに異なる.Hotchkissらによって,敗血症剖検例の肝臓ではアポトーシスがあまり起きていないという知見33)が得られていたため,筆者らは同じ敗血症患者の剖検肝臓標本を用いて,電子顕微鏡でオートファジーの形態学的検討を行った34).その結果,オートファゴソームやオートリソソームなどのオートファジー構造数は,敗血症患者において非敗血症患者に比し有意に増加していた34).この現象は,CLP手術によるマウス腹膜炎敗血症モデルの肝組織でも再現され,敗血症肝でのオートファジー構造数の増加が確認された34).さらにオートファゴソームの蓄積を示すp62(オートファジーの基質分子)が経時的に上昇し,敗血症刺激でオートファジーフラックスは急性期一過性に亢進し,その後停滞傾向になることが判明した35).同CLPモデルでは,オートファジーをクロロキンで阻害することで,肝機能増悪,死亡率上昇を認めた35).さらに時期特異的・肝臓特異的にオートファジーを欠損したAlb-CreERT2/Atg5f/fマウスとコントロール群マウスにCLP手術を施したところ,Alb-CreERT2/Atg5f/fマウスにおいて個体生存率は有意に低下し,術後24時間でp62はコントロール群に比べて有意に上昇した.ミトコンドリアは蓄積していたことからマイトファジーの停滞が示唆され,結果として,肝細胞におけるアポトーシスは増加していた36).このようなオートファジーの停滞はCLP刺激下での腎37)でも同様であった.
免疫担当細胞に目を移すと,前述の通り,敗血症の亜急性期に免疫担当細胞がアポトーシスに陥ることによって免疫麻痺が起こり,結果的に長期予後が悪化することが知られている38).筆者らは免疫麻痺の病態に関わりが深いとされるT細胞のオートファジーを特異的に欠損させたAtg5コンディショナルノックアウトマウス(CD4-Cre/Atg5f/f)を用いて,敗血症の病態でT細胞のオートファジーがアポトーシスとのクロストークを介して細胞死を抑制していることを報告した39).CD4-Cre/Atg5f/fマウスにおいて,アポトーシス誘導遺伝子であるBIM,PDCD1の発現が亢進する一方で,アポトーシス抑制遺伝子であるBCL2の発現は低下していた.また,CD4-Cre/Atg5f/fマウスの生存率はコントロールマウスに比べて特にCLP術後初期において有意に低下していた.これらの結果から,敗血症病態下ではオートファジーが脾臓T細胞のアポトーシスを抑制し,結果的に生体保護的に働いている可能性が示唆された.したがって,敗血症急性期にこれら重要臓器でのオートファジーは生体防御的に一過性に亢進し,その後停滞に向かうと考えられる.
一方,近年までの侵襲下におけるオートファジーの解釈が上記と全く異なっているのが,骨格筋,横隔膜筋におけるオートファジー動態である.サルコペニアとは,加齢や消耗性疾患に伴う骨格筋量の減少,機能低下と定義され40),敗血症患者でも大きな問題となる.本来オートファジーはアミノ酸投与で強力に抑制されるが,アミノ酸の中でも筋タンパク合成刺激が強いことで知られるロイシン41)は,the mammalian target of rapamycin(mTOR)pathwayを介して,タンパク同化作用を発動し,オートファジーも同時に抑制する.つまり,骨格筋の自食であるオートファジーを免れることにより筋量減少がさらに防止されるといわれている.筋萎縮とオートファジーとの関連として,人工呼吸管理における横隔膜筋萎縮に関して検討されてきている.その筋委縮はventilator-induced diaphragmatic dysfunction(VIDD)42)の一分症とみなされるが,control mechanical ventilation(CMV)に依存することによる横隔膜萎縮の背景に,オートファジー亢進による横隔膜筋細胞減少の関与が示唆されるというのである43).したがって,外科手術後,可及的早期に人工呼吸器を離脱することは,オートファジーを抑制し横隔膜筋萎縮防止に寄与するということになる.さらに,Hickmannらによって,敗血症患者に早期離床,early mobilizationを行うことにより,オートファジー抑制を介して,骨格筋萎縮防止への可能性を示唆する報告がなされた44).それらの知見は,敗血症時の骨格筋においては,前述の肝・腎・Tリンパ球とは正反対のオートファジーの有害性を示すものであり,今後の更なる検証が必要である.
血管内皮細胞は,栄養・酸素の取り込み,および血管恒常性を維持する上で重要な役割を果たしている45).そこでもオートファジーは,血管内皮細胞の生存を維持するために重要な役割を果たしていることが示されている46).オートファジーが不十分な場合には,血流変化に反応して内皮細胞配列は損なわれ,血管内皮細胞のアポトーシスが増加する47).他にも,オートファジー障害がグリコカリックス層の破綻などといった血管内皮細胞の形態異常を誘発し,アポトーシスが惹起される48, 49)といった報告もある.ここでもオートファジーとアポトーシスとのクロストークが注目されている.通常,マイトファジーは損傷したミトコンドリアを除去して細胞のエネルギー代謝と機能を維持し,それによってアポトーシスを阻害している.このため,マイトファジーが機能不全になると,損傷したミトコンドリアが蓄積してシトクロムcやアポトーシス誘導因子(AIF)などを放出し,アポトーシス経路を活性化する50).中程度のマイトファジーは損傷した細胞小器官を選択的に除去し,ATP産生の増加につながる可能性がある51, 52)が,マイトファジーが過剰に活性化されるとエネルギー供給が損なわれ細胞死が引き起こされるという不利益が生じる53).
敗血症で血管内皮障害が顕著な際に現れる凝固異常について,その病態における好中球のオートファジーとNETs形成との関連も報告されるようになってきている54, 55).オートファジーとNETsの相互作用は,最初にRemijsenらによって研究され56),NETsの形成にはオートファジーとスーパーオキシド生成の両方が必要であると提唱された.オートファジーはNETs形成に関与するだけでなく,過剰なNETs放出を阻害している57).例えば,好中球のオートファジーは,敗血症生存例に多く認められ,さらに健常好中球のオートファジーはNETs形成を促進する27)ため,そのオートファジーのNETs形成促進は,生体保護的といえる.そこで,Maoらは,オートファジーのバイオマーカーを調べたところ,主要なオートファジータンパク質であるLC3Bの血清レベルが播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)患者群で低いことがわかった54).さらにオートファジーの上流にあるmTORおよびPS6K経路の構成要素のレベルは,DIC患者で有意に高くオートファジーの停滞を示した54).他方,リコンビナントトロンボモジュリンは,PI3K/AKT/mTOR複合体1シグナル伝達経路を活性化することにより過剰なオートファジーを阻害する58)ことも判明しており,血管内皮オートファジーと凝固系へのアプローチの功罪は,敗血症治療戦略として今後注目に値する.
敗血症時の保護的生体反応としてのオートファジーは,疾患進行とともに停滞しがちであり,その回復が重症化防止に寄与すると考えられる.一方,オートファジーを誘導することによる治療効果を示した報告はなく,その重要臓器を構成する細胞や免疫担当細胞への影響は様々であり,いまだcontroversialである.今後敗血症モデルを用いた基礎医学的データを更に蓄積し,前向き臨床試験に繋げることがオートファジーを調節することによる新規敗血症治療開発のためには必要である.
渡邉栄三:研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(旭化成ファーマ株式会社)
本田剛一:旭化成ファーマ株式会社社員(2022年3月まで)