2025 Volume 36 Issue 1 Pages 40-47
中等症・軽症型血友病患者では,定期補充療法をしていない重症血友病患者と比較して一般に出血症状が軽度である.それ故に,血友病の診断がなされるまでに期間を要し,小児期から青年期を患者として認識しないまま過ごす場合もある.また,測定法による凝固因子活性の乖離も見られることや,重症度と出血回数が合致しない例もあり,治療に迷うこともある.また,明らかな出血はなくとも,微小な出血を繰り返すことにより,血友病性関節症が徐々に進行し,成人期に関節症に伴う疾痛およびQOLの低下が問題となる.また中等症・軽症型血友病患者では,インヒビターの発生リスクは重症患者と比較して低いが,インヒビターが発生すると,出血症状は重篤化し,頻回の製剤投与を伴う通院・入院治療を要することもある.そして近年,非凝固因子による治療も出現してきており,それぞれの患者に合わせた治療法を選択していく必要がある.本稿では,中等症・軽症患者における診断や治療それらに潜む課題を中心に述べていく.
血友病AおよびBの診断は凝固第VIII因子(FVIII)およびFIX活性の低下により診断される.その重症度は活性によって分類され,1 IU/dL未満は重症,1~5 IU/dLは中等症,5 IU/dL以上は軽症と分類される1).重症の血友病患者は,特に予防的に治療されていない場合,頻繁に自然出血を発症する.しかし,軽症の血友病患者では,出血回数は比較的少なくなり,主に外傷や手術によって出血症状を呈する2).また,年間の関節出血率は,FVIIIおよびFIXの活性レベルが増加するにつれて減少することが報告されている3, 4).
それ故に中等症・軽症の患者において,小児期から青年期を患者として認識しないまま過ごす場合もある.しかしながら,微小な出血を反復している結果として,血友病性関節症が徐々に進行し,成人期に関節症に伴う疾痛が出現したり,可動域制限や運動制限に伴い,QOLが低下したりすることが問題となる.またインヒビターの発生は,出血時等の治療により,ある一定以上の凝固因子製剤の投与によって生じる.しかし,出血頻度の低い中等症・軽症型血友病患者では,重症型患者と比較して,製剤の使用頻度が低いために,生涯にわたりインヒビターの発生リスクを考慮しなければならない.近年血友病A患者においては,エミシズマブの出現により治療状況が大きく変化し,多くの臨床の場面で使用されている5).このエミシズマブで治療された患者は,軽症の血友病に匹敵する止血状態であると考えられている6, 7).しかしながら,出血を繰り返す軽症患者に対するエミシズマブの有用性については,十分に分かっていないところもある.さらに,近年ではエミシズマブの他にも非凝固因子による治療も出現してきており,今後治療の選択肢が広がっていくことが期待される.本稿では,中等症・軽症患者における診断や治療について概説する.
血友病Aと血友病BはそれぞれFVIIIとFIXの遺伝子異常に基づく量的質的異常の先天性凝固障害症である.本疾患の臨床的重症度は当該因子の活性レベルに相関し,重症(<1 IU/dL),中等症(1~5 IU/dL),軽症(5~40 IU/dL)に分類される.血液凝固異常症全国調査(令和4年度報告)によると,本邦において,血友病A患者は5,776例,血友病B患者は1,294例存在する(図1A).重症度に関して,血友病Aで重症62%,中等症16%,軽症21%,不明1%,血友病Bでは,重症53%,中等症24%,軽症22名,不明1%であり,中等症・軽症患者が約40%と報告されている(図1B).重症は高い年間出血率を呈するが,中等症・軽症では著しく減少する.

(A)凝固異常症患者の割合.(B-1)血友病A患者における重症度の割合.(B-2)血友病B患者における重症度の割合.(令和4年度血液凝固異常症全国調査報告書より)
中等症・軽症でも健常人と比べると出血リスクが高く,出血による合併症の発現率も高いことが報告されている.頭蓋内出血を原因とした死亡率について,10ヵ国34施設が参加した国際コホート研究INSIGHT studyにおいて,非重症の血友病A患者2,709名(軽症1,990名,中等症719名,第VIII因子活性の中央値10%)を対象に同年代の男性健常人と比較したところ,中等症・軽症の血友病A患者の方が3.5倍(95%CI:2.0~5.8)高いことが明らかとなった8).特に20歳未満の健常人との比較において大きな差が認められている.
関節障害について,軽症血友病315名と健常人1,529名を対象に比較検討したスウェーデンの疫学調査では,関節障害の発現率が15.6倍(95%CI:6.7~36.5),関節障害による入院率が9.4倍(95%CI:3.3~27.2)と健常人に比較して高いことが報告されている.このように,中等症軽症患者においてQOLの低下や行動制限につながる障害があることを認識し,適切に対応・ケアすることが重要になってきている.
中等症・軽症の患者さんは,出血頻度が低いため,止血治療を出血時補充療法で行っている人もいる(図2).また,自己注射が導入されていないため,様子を見てからの受診となることもあり,止血治療が遅れる傾向もある.血友病A患者を対象にした英国のTHUNDER studyでは,中等症患者が重症患者に比べ年間出血率と年間関節内出血率が高いことが報告されている9).また,重症血友病A患者を対象にしたJoint Outcome Studyでは,微細な関節内出血(micro bleeding)や1回の関節内出血でも関節障害が生じる可能性のあることが報告されている10).これらの観点から,軽・中等症患者でも,出血時の止血管理の遅れや自覚のない微細な出血の繰り返しで関節障害が進行する可能性が考えられる.また,Ossoliらは,軽症血友病患者と血友病でない患者の関節症の割合を比較している.60歳時において,血友病でない群では88.8%に関節症はなかったが,血友病群では50%の患者で関節症を発症していた.また60歳になる前から,血友病患者の方が関節症を発症している割合が高かった11).このことから,軽症であっても早期から関節症を発症する可能性が高いこと,年齢が上昇するにつれて,その可能性が上昇していくことが明らかとなった.

重症度別の治療状況
(A)血友病A,(B)血友病B.(令和4年度血液凝固異常症全国調査報告書より)
凝固因子活性が1 IU/dL未満の重症であっても出血症状が予想以上に少ない患者がいる.その一方で,中等症,軽症であっても時々出血する人,重度の出血をする人がいるなど,凝固因子活性値と臨床症状の乖離が認められることがある.それ故に凝固因子活性値が正しく臨床症状を反映しているのかという疑問も存在する.近年,その一因として測定法によって活性値にバラツキが見られることが指摘され,特に軽症のFVIII活性は,凝固一段法より再現性の高い合成基質法でも測定し,両方を併せて再検証することが勧められている12, 13).その乖離が生じる原因として,遺伝子変異が考えられる14).主に凝固一段法の方が合成発色基質法より活性が高くなる変異として,Ala284Glu/Pro,Ser289Leu,Arg527Trp,Arg531His/Cys,Asn694Ile,Arg698Trp/Leu,Arg1749His,Ser1791Pro,Leu1932Phe,Met1947Val,His1954Leu,Leu1978Phe,Asn2228Lysが挙げられる.これらはFIXaと結合する部位もしくはその近傍に位置する.逆に合成発色基質法の方が凝固一段法より活性が高くなる変異としてGlu321Lys,Tyr346Cys,Ile369Thr,Glu720Lys,Arg1639His,Arg1689Hisが挙げられる.これらはトロンビンによる開裂が起こる部位もしくはその近傍に位置する.
包括的凝固機能検査とは従来のプロトロンビン時間や活性化部分トロンボプラスチン時間などと比較し,より生理的な条件で凝固の過程に評価する検査のことである.包括的凝固機能検査として,トロンビン生成試験,凝固波形解析,トロンボエラストメトリーが用いられる(図3).包括的凝固機能検査の詳細については,これまでに多数紹介されており,詳細は本稿では割愛する.包括的凝固機能検査において,どの検体(血漿,多血小板血漿,全血)を用いるのか,何(トロンビン,フィブリン,全血クロット)を検出するのか各種検査の特性から目的に応じて使い分ける.もしくはそれぞれの結果から,患者の病態把握に導く.ここで包括的凝固機能検査が有効であった例を紹介する.患者は血友病AでFVIII活性が0.9 IU/dLでArg1781His変異を有していた.活性に基づく診断では重症になるが,臨床的には中等症・軽症に相当するものであった.そして,包括的凝固機能検査においても5~10 IU/dL相当の凝固機能を有しており,凝固因子活性より包括的凝固機能検査の方が臨床像と合致していると考えられた15).ここで自験例を紹介する.軽症血友病Aであるものの筋肉内出血を繰り返す患者がいた.FVIII活性は凝固一段法では48 IU/dL,合成発色基質法では18 IU/dLであった.しかしながら,包括的凝固機能検査(トロンビン生成試験および凝固波形解析)においては5 IU/dL未満相当であった.凝固因子活性は重要であるが,凝固因子活性と臨床症状が合致しない場合では,これらの包括的凝固機能検査が一助となる可能性が考えられた.

包括的凝固機能検査(トロンビン生成試験,凝固波形解析,トロンボエラストグラフィ)
治療の考え方として,凝固因子製剤の定期補充療法は行わずに,出血時や出血が予想されるタイミングに絞って治療するという選択肢が挙げられる.基本的には不足するFVIIIおよびFIXを補うものであるが,血友病Aの場合では酢酸デスモプレシン(l-deamino-8-D-arginine vasopressin: DDAVP)も選択肢として考えられる.そして,普段から定期補充療法を行うという選択肢もある.World Federation of Haemophilia(WFH)とUK Haemophilia Centre Doctors’ Organisation(UKHCDO)が発表したガイドラインによると,中等症の血友病患者,特にベースラインが1~3 IU/dLには,重度の血友病の人と同じ基準に基づいて予防投与を受けることが勧められる.また3 IU/dL以上であっても,出血症状にあわせて,補充療法を考慮する必要がある.
UKHCDOの研究では,1996年から2015年の間に誕生した重症血友病の小児患者は,定期補充療法が行われていたため,Hemophilia Joint Health Score(HJHS)の中央値(四分位範囲)は0(0~1)であった.対照的に,同期間に誕生した中等症血友病の小児患者は,HJHSの中央値(四分位範囲)が3(0~9)で,25%以上で重大な関節症を示した9).中等症の小児でHJHSが高い理由は定かでないが重症患者よりも予防が遅くなったためではないかと考えられている.さらに,中等症血友病患者の無症候性出血は,定期補充療法中の重症患者よりも影響を及ぼした可能性があり,結果として関節の損傷に寄与したと考えられる.このことから,中等症で明らかな出血がなくとも関節症が進行するため,注意が必要であると考えられた.
Denらによると,中等度の血友病での活性が1~2 IU/dLの人々は,35%が予防投与を受けているにも関わらず,年間関節出血率の中央値が約5.5回であった.さらに凝固因子活性が2 IU/dLから3 IU/dLに上昇すると,年間関節出血率は約2回に低下した.さらに活性が3~5 IU/dLになると年間関節出血率は約1回に低下した.年間関節出血率が0回に達するには,活性が12 IU/dLに達したときであった4).これらのデータは,中等度の血友病,特にベースラインのFVIII活性が1~3 IU/dLの場合,年間の関節出血率と関連していることを示しており,結果として進行性関節症が見られると考えられた.
これらの結果より,中等症血友病の人々で,凝固因子活性が1~3 IU/dLの人々は,関節またはその他の臨床的に重要な出血を経験した場合,予防投与を提供されるべきと述べている6).また,UKHCDOは,中等症の血友病でベースラインの活性が1~3 IU/dLの小児患者を一次予防に考慮すること,そしてベースラインの活性に関係なく,血友病のすべての患者を最初の関節出血後に予防に考慮して,関節症を発症するリスクを減らすことを推奨している16).また,WFHにおいても,「定期補充療法は,中等症の血友病をする人々の標準治療であり,理想的には出血エピソードの前に開始される」と述べている.
出血を防ぐ定期補充療法中に必要なトラフレベルを考えたときにベースラインの因子活性と予防のトラフレベルを混同しないことが重要である.図4に示すように,ベースライン12 IU/dLとトラフ12 IU/dLは異なることは一目瞭然である.

凝固第VIII因子活性の概略図
(A)ベースラインレベルが12 IU/dLの軽度の血友病患者と(B)目標トラフレベルを12 IU/dL治療した重症血友病患者.
重症血友病A患者ではExposure Dayが10~15日でインヒビター発生リスクが高くなり,Exposure Dayが約50日で,その確率は低くなる17).また,中等症軽症においてインヒビターの発生率は重症より低いものになっているが,約10%の発生率である.そして中等症・軽症血友病A患者のインヒビター発生率を調査した報告では,1,112例での発生率が,投与日数25日には3.5%,重症でリスクが低下してくる50日目で6.7%,さらに100日目でも13.3%であった18).このように,中等症・軽症血友病では生涯にわたりインヒビター発生のリスクがある.さらに遺伝子変異についても研究し,特にA2ドメインにおける変異やC1ドメインにC2ドメインにおける変異において,インヒビターの発症リスクが高いことが報告されている18).
血友病の理想な止血治療製剤としては,長時間作用すること,投与法が簡便であること,インヒビターが発現しないことが考えられる.エミシズマブはこれらの理想に近いものとなっている.しかしながら,エミシズマブ投与下においても,あらゆる出血に対応できるものではなく,外傷などで著明な出血が生じた場合には,さらなる止血治療を必要とする.その観点からは,エミシズマブ投与患者は軽症血友病患者の止血機能と同レベルではないかと考えられる.それに関して,エミシズマブ投与患者と,軽症血友病A患者を比較した報告がある19).両者の間で,年間出血回数に有意差は見られなかった.さらに全血を用いた包括的凝固機能検査であるトロンボエラストメトリーを用いて,両者の凝固機能を比較した結果においても,有意差は見られなかった(表1).ただし,軽症血友病患者では凝固因子活性値および凝固機能に個人差があるため注意が必要である.さらにエミシズマブに関して,中等症・軽症血友病A患者に有効なのかという疑問がある.これに関して,中等症・軽症血友病A患者から得られた血液にex vivoでエミシズマブを添加し,その包括的凝固機能を評価した報告がある20).それによると,中等症・軽症血友病A患者においてもエミシズマブの投与は一定の効果が確認できた.また,血液凝固異常症全国調査(令和5年度)において,ヘムライブラ等non-factor製剤による定期投与が血友病A患者において重症714例,中等症95例,軽症40例に対して行われており,現実的に中等症および軽症患者においてもエミシズマブが使用されている実態が伺われる.
エミシズマブ投与血友病A患者と軽症血友病A患者の比較
| エミシズマブ投与患者(n=63) | 軽症血友病A患者(n=15) | P値 | |
|---|---|---|---|
| 年齢 | 13[5.5, 24.5] | 25[20, 49] | 0.004 |
| 凝固第VIII因子活性 | ― | 13.0[8.5, 17.0] | |
| 年間出血率 | 0[0, 0.45] | 0.3[0, 0.49] | 0.19 |
| ROTEM | |||
| CT | 1,310[1,166, 1,570] | 1,476[1,280, 1,630.5] | 0.21 |
| CFT | 501[412, 619] | 490[422, 650.5] | 0.99 |
| CT+CFT | 1,798[1,657.5, 2,151.5] | 2,077[1,627.5, 2,297] | 0.42 |
データは中央値[四分位範囲]を示す.ROTEM:rotational thromboelastogram,CT:clot time,CFT:clot formation time.(文献19より引用,改変)
さらに最近凝固,抗凝固のリバランスに基づく新規非凝固治療薬が開発されている.生体内の凝固反応系は,凝固促進因子とアンチトロンビン(antithrombin: AT),組織因子経路インヒビター(tissue factor pathway inhibitor: TFPI),Protein C,Protein S,凝固FVなどの凝固制御因子とバランスを取り,出血または血栓を生じないようにバランスを維持している.血友病などの出血性疾患では,当該凝固因子を補充することにより均衡状態に回復する.発想の転換として抗凝固因子を低下させることで,凝固・抗凝固の均衡を維持するというという概念である.最近,si-RNAiを用いた抗アンチトロンビン製剤21),凝固初期相の凝固抑制制御する抗TFPI抗体の非凝固因子製剤が開発された22).
いずれも皮下投与が可能で,血友病Aと血友病Bの双方にも有効である.si-RNAによる抗AT療法RNA干渉薬は,RNAを細胞内に挿入することで,mRNAを破壊してタンパク質の合成を阻害する.血友病Aモデル動物において濃度依存性に後天的に血中AT値を減少させることによりaPTTを短縮する.臨床試験において月1回の皮下投与で血中AT値は減少し,トロンビン生成が増加した.その結果,インヒビター有無に関係なく年間関節出血率を激減させた23).
またTFPIはtissue factor(TF)/activated FVII(FVIIa)複合体およびFXaに結合することにより凝固反応を抑制する.このTFPIの作用を阻害することで,FXaによる凝固反応を促進させる.皮下投与により,血中濃度に相関してfree-TFPIレベルが低下し,トロンビン生成が増加し出血が抑制される24).これらの治療薬も重症度に関わらず選択されていくのか興味深いところである.
中等症・軽症例においても,やはり個別化された治療や対応が必要であると考えられる.UKHCDOガイドラインに基づくと,中等症血友病の小児患者,特にベースラインのFVIIIもしくはFIX活性が1~3 IU/dLの患者には考慮すべきであるとしている6).そのためには,正確な凝固能を評価することが重要ではあるが,凝固因子活性値が臨床症状と合致しない例も存在する.その場合,包括的凝固機能検査がその一助となる可能性も考えられる.関節症を見逃さないということは大事であるが,将来的な関節症を起こさないために早期からの介入も重要であると考える.治療法においては,従来行われてきた凝固因子の定期補充療法に加えて,エミシズマブのような非凝固因子による治療が考えられる.さらに遺伝子治療も出現してきており,治療の選択肢,介入時期なども考慮すると非常に多様な状況である.その最適な治療を選択する上で,それぞれの凝固因子活性値,包括的凝固機能,また運動負荷などの生活スタイルなどを考慮して個別に選択していく必要がある.
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