Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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Topics: “New Medical Modalities” series
Hemostatic monitoring under Emicizumab treatment
Yuto NAKAJIMAKeiji NOGAMI
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2025 Volume 36 Issue 1 Pages 48-54

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1.はじめに

血友病Aは血液凝固第VIII因子(FVIII)の質的・量的異常により生じる最も頻度が高い先天性凝固障害症であり,乳幼児期から関節内や筋肉内などの深部出血をきたす.関節内出血を反復すると慢性滑膜炎を発症し,さらに進行すると非可逆的な血友病性関節症に至る.血友病治療製剤の開発と治療の進歩により,出血予防を図る目的のFVIII製剤の定期補充療法が乳幼児期から行われることにより,関節症発症が著しく抑制され,QOLの向上に大きく貢献した1.一方,FVIII製剤の血中半減期が短いために頻回の静脈投与が必要であること,血管アクセスの問題(特に乳幼児期),抗FVIII同種抗体(インヒビター)等が,血友病治療の大きな課題であった.これらの課題を克服するために,非凝固因子製剤である活性化FVIII(FVIIIa)代替ヒト化モノクローナルbispecific抗体のEmicizumabが創薬された2.本製剤はインヒビターの有無に関係なく長期間作用し,皮下投与により著明な出血抑制効果を示し3, 4,インヒビター非保有・保有先天性血友病A患者の出血予防の定期投与として使用されている.Emicizumabの出現により,血友病医療はまさにパラダイムシフトが起きている.しかし,Emicizumabの作用機序の特性から従来の血友病の止血モニタリングとして行われてきた活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time: aPTT)を著しく短縮するため,Emicizumabの凝固機能の評価が困難である.近年,動的ならびに包括的な血液凝固機能評価の測定法が血友病診療にも応用されている.本稿では包括的凝固機能検査の基本的な測定原理と,Emicizumabの凝固機能の評価における有用性について概説する.

2.Emicizumabの作用機序

血液凝固過程の内因系凝固機序において,FVIIIはFIXaがFXを活性化するtenase複合体(FIXa/FVIIIa/FX-リン脂質/Ca2+)における必須の補因子である.トロンビンにより活性化されたFVIII(FVIIIa)は活性化血小板リン脂質膜上において,一方のFIXa分子を,もう一方でFX分子と結合することによりFIXaによるFXa生成効率を2×105倍以上に増加させる.ゆえにFVIIIが欠乏する血友病Aはtenase機能活性が障害されてトロンビン生成が著しく減弱するために重篤な出血症状を呈する.Emicizumabは,一方の抗原結合部位にFIXa分子を,もう一方の抗原結合部位にFX分子を結合させることにより,FVIIIa補因子機能をまさに代替し,血液凝固反応を促進させる作用機序を有する二重特異性(bispecific)抗体である2

3.Emicizumabの凝固機能の評価について

1)合成基質法を用いたEmicizumabの凝固能の評価

Emicizumabは,臨床的な投与量以下の血漿中濃度でもaPTTが正常化される為に,aPTTに基づく検査結果はEmicizumabの臨床的な止血機能を反映しないことが問題点の1つである.そこで,Emicizumabに感受性がないウシ凝固因子(FIXa, FX)を用いた合成基質法によるFVIII活性およびインヒビター力価の測定が開発された5.最近,Yamaguchiらは標準血漿を用いた基礎実験において,ヒト合成基質法とTGAのいずれにおいても,Emicizumab血中濃度とFVIII活性が,高い精度をもって線形に相関することを報告しており,ヒト合成基質法においてもEmicizumabの凝固能を評価できることを報告した6.現在,Emicizumab投与下の止血モニタリングをヒト合成基質法で有効に行うためのエビデンス創出のために,CANADE studyが実施されている.一方,Emicizumab存在下でaPTTが延長している場合は,抗Emicizumab抗体の出現を考慮しなければならない.抗Emicizumab抗体の出現を強く疑った場合は,Emicizumabの血中濃度(ELISAで測定)についてメーカーを通じて測定することは可能である.また,Emicizumabの血中濃度の測定が可能なキットが海外で販売されている.最近我々は,aPTTにもとづく凝固一段法を用いてEmicizumabの検量線を作成し,簡便にEmicizumabの血中濃度を測定する方法を開発した7

2)抗Emicizumab抗体でのaPTT法を用いたFVIII活性やインヒビター測定

我々は,Emicizumabのanti-FIX(a)領域とanti-FX領域に対する抗Emicizumab抗体を作製し,Emicizumab機能活性を完全に中和する事によりFVIII活性およびインヒビター力価を評価できる方法を世界で初めて確立した8.また,Ogiwaraらは抗Emicizumab抗体を用いて,FVIII活性およびインヒビター力価だけでなくFIXやFXIなどの凝固因子活性及びPCやPSなどの抗凝固因子活性の測定も可能であることを報告した9.これらの簡便な検査が,今後さらに活用されることを期待している.

4.包括的凝固機能検査について

1)包括的凝固機能検査の必要性

PT,aPTTは,組織因子,シリカやエラグ酸などの接触因子活性化剤,活性化血小板膜を代替した陰性荷電リン脂質などが高濃度に含まれる試薬をトリガーとし,フィブリン形成までの時間を測定することにより凝固能を評価しようとする検査である.血友病ではaPTT測定原理を用いた凝固一段法によるFVIIIやFIXの凝固因子活性を元に重症度を評価するが,凝固因子活性と臨床的重症度の乖離をしばしば経験する.また,インヒビター保有血友病症例においてバイパス止血製剤で止血治療を行った場合には,凝固因子活性値による凝血学的評価は困難となる.このような様々な臨床上の問題点を解決するため,包括的凝固機能検査が発展してきた.トロンボエラストメトリー,凝固波形解析,トロンビン生成試験が代表的な評価法であり,これら3つの検査について紹介する.

2)トロンボエラストメトリー(rotational thromboelastometry: ROTEM)

トロンボエラストグラフィとは,凝固過程における血栓の粘性や弾性の変化をモニタリングし,経時的に波形として描出することにより凝固能を評価する検査である.古くから凝固,線溶機能の評価法として用いられてきた.クエン酸加全血にCaCl2を添加するという簡便な検査であるが,生理的範囲を超えたトリガー試薬を含まないため,より生理的な条件下で生体内の凝固反応を再現できることが一番の特徴である.近年その改良版であるrotational thromboelastometry(ROTEM)が登場し,従来のTEGで問題とされていた再現性の悪さや複数検体の同時測定などの点が解決された.ROTEMでは,clotting time(CT),clot formation time(CFT),maximum clot firmness(MCF),α angle等のパラメータの算出・解析が可能である.CTは凝固活性化から初期フィブリン産生までの時間であり,PTやaPTTに相当する.CFTはCTから振幅が20 mmに到達するまでの時間であり,短いほど血餅形成が速いことを示す.MCFは振幅の最大値であり,検体中のフィブリノゲン濃度と血小板数で規定される.外因系凝固(extrinsic thromboelastometry: EXTEM)や内因系凝固(intrinsic thromboelastometry: INTEM),あるいは線溶能などの評価も可能であり,臨床の現場で幅広く使用されている.

3)トロンビン生成試験(thrombin generation assay: TGA)

TGAは,フィブリン形成の前段階であるトロンビンの生成を,合成発色基質を用いて高感度に検出することにより凝固機能を包括的に評価することができる.微量の組織因子(tissue factor: TF)をトリガーとした細胞基盤型凝固10に基づく評価法であり,トロンビン生成率をモニタリングして描出された波形から,Lag time,Peak thrombin(トロンビン生成頂値),Time to peak(ピークに達するまでの時間),Endogenous thrombin potential(ETP:総トロンビン生成量)などのパラメータを算出することで凝固の過程を定量的に評価できる.近年登場したcalibrated automated thrombogram(CAT)システムでは,蛍光発色基質を用いることで脱フィブリン処理が不要で,多検体の測定や自動化が実現した11.また乏血小板血漿(platelet poor plasma: PPP)だけでなく多血小板血漿(platelet rich plasma: PRP)でも測定することができ,さらに生理的な条件下での凝固を評価することも可能である.本測定法は,患者個々の凝固機能特性を評価できるため,止血治療製剤や抗凝固療法などのモニタリングにも有用である.

4)凝固波形解析(clot waveform analysis: CWA)

一般的にPTやaPTTを測定する場合,CaCl2添加から凝固開始までの時間(凝固前相)で評価することになる.しかしその後にも,一定の速度でフィブリンを形成し(凝固相),凝固反応が集結後に生じる凝固後相に至るまでの過程が存在している.凝固波形解析(clot waveform analysis: CWA)はPT・aPTTの測定時に,フィブリン形成による透過光の変化を経時的に測定することにより,凝固の全過程を凝固波形として描出し,その変化量に一次微分あるいは二次微分波形の演算処理を加えることにより,凝固の全体像を定量的にモニタリングすることが可能である.代表的なパラメータとして,凝固波形を一次微分して得られる凝固速度,二次微分して得られる凝固加速度の他に,最大凝固速度(|min1|),最大凝固加速度(|min2|)等が得られる.なお現在,国内でもCWAが搭載されている装置は増えてきており,今後さらに活用されることが期待されている.

5.Emicizumab定期投与下における包括的凝固検査の有用性

1)Emicizumabにおける包括的凝固モニタリングの確立

FVIIIa代替抗体であるEmicizumabの定期投与中は,その作用機序からaPTTが著しく短縮するため,実際の凝固能を正確に評価することはできない.しかし包括的凝固機能検査では,そのトリガーをより生理的な条件に近づけて測定していることから,Emicizumab単独の凝固能はもちろん,止血治療時に他剤を併用した場合にも正しく評価できると考えられている.そこで現在,臨床現場においても用いられている3つの包括的凝固検査(CWA,ROTEM,TGA)でのEmicizumabの止血モニタリングについて紹介する.

2)EmicizumabにおけるCWAの有用性

我々は,微量のTFにエラジン酸を添加し,内因系・外因系の両者を反映させるトリガー試薬(混合法)によるCWAを確立した12.混合法を用いることにより,activated prothrombin complex concentrate(aPCC)およびrFVIIa製剤の輸注効果をモニタリングすることが可能になった.また,本法を用いて両者のパラメータ(CTと|min2|)をモニタリングすることにより,周術期止血管理を行うことができた12.このCWAを用いて,我々はEmicizumab存在下での凝血学的評価法を開発した13.Emicizumab存在下検体の測定の際,従来の混合法に2つのmodificationがなされている.一つは,フィブリノゲン濃度は本来凝固波形の%透過度に影響を及ぼすため,後凝固相の透過度を0%と調整し,フィブリノゲンの影響を極力少なくするように工夫された.もう一つは従来aPTT試薬を使用するが,EmicizumabはaPTTに影響を及ぼすため,本測定には外因系反応(PT試薬)で凝固を惹起させ,内因系(aPTT試薬)で凝固を増強させてフィブリンを生成させるという,内因系と外因系を適切な比率に合わせた混合試薬を作製し(PT:aPTT:buffer=1:15:135),それをトリガーとしてCWAを行った.波形から得られるパラメータであるadjusted|min1|(Ad|min1|)がEmicizumab機能活性を極めて反映していることを報告した.Furukawaらは,EmicizumabとFVIII製剤またはバイパス止血製剤との併用下でのモニタリングに有用であったと報告した14.EmicizumabとFVIII製剤併用下でのモニタリングについて,Yamadaらが治療中のAd|min1|の経過(図1)を報告している15.また,NakajimaらはEmicizumab定期投与患者と軽症血友病A患者の両群を比較し,出血パターンやAd|min1|などの凝固能が同等であり,Emicizumabの止血効果は軽症血友病Aと同等であると結論付けた7.一方,shimonishiらはEmicizumab存在下に形成されたフィブリン塊について走査型電子顕微鏡撮影と凝固波形解析で評価したところ,FVIII欠乏血漿におけるFVIII添加時とEmicizumab添加時のフィブリン塊が質的に同等であることを示した16.現在,Emicizumabが安全に臨床現場で使用できることのエビデンス創出のために,インヒビター保有血友病A患者を対象としたUNEBI study17とインヒビター非保有血友病A患者を対象としたCaguyama study18が実施されている.

図1

Emicizumab定期投与中の血友病A患者に第VIII因子製剤を投与したときのFVIII:C及びCWAパラメータの変化(文献15より引用.一部改変)

rFVIII製剤のボーラス投与及び持続投与を受けたEmicizumab定期投与中のインヒビター非保有血友病A患者のFVIII:CとAd|min1|の変化.グラフ中のグレーは正常範囲を示す.入院期間中,Ad|min1|は正常範囲内で推移している.臨床上での止血効果も良好であった.

3)Emicizumabにおけるthromboelastographyの有用性

我々は,ROTEMを用いて,Emicizumab存在下での凝血学的評価の有用性を報告してきた.NATEMモード(Ca2+トリガー)を利用して,Emicizumab投与下の患者の全血の凝固能を検討し,濃度依存的にCT+CFTの改善が認められた.ROTEMのパラメータからの評価にてEmicizumabの臨床血中濃度を50 μg/mLとして,FVIII活性換算によると約10~30 IU/dL相当と推測されることを示した19.Takeyamaらは,後天性血友病A患者血漿にEmicizumabを添加した時の凝固能をROTEMとCWAで測定し,Emicizumabが後天性血友病A患者にも有効であることを示した20.また,NakajimaらはEmicizumab定期投与患者と軽症血友病A患者の両群を比較し,ROTEMの凝固能が同等である(表1)と報告した7.FurukawaとNakajimaらは,ROTEMもCWAと同様,Emicizumabとバイパス止血製剤との併用下でのモニタリングに有用であると報告した14, 21.一方,Ogiwaraらは抗FVIII抗体添加健常全血を用いたROTEM測定時にtissue plasminogen activator(tPA)同時添加を行い,Emicizumab存在下の線溶反応を評価したところ,tPAに対する止血栓安定性はFVIII存在下と同等であったことを示した22.今後も臨床及び研究面で活用されることが期待される.

表1

Emicizumab定期投与患者と軽症血友病A患者の包括的凝固能の比較(文献7より引用.一部改変)

Emicizumab投与患者(n=63) 軽症血友病A患者(n=15) P values
FVIII:C(IU/dL) 13.0[8.5, 17.0]
ROTEM
 CT(秒) 1,310[1,166, 1,570] 1,476[1,280, 1,630.5] 0.21
 CFT(秒) 501[412, 619] 490[422, 650.5] 0.99
 CT+CFT(秒) 1,798[1,657.5, 2,151.5] 2,077[1,627.5, 2,297] 0.42
 MCF(mm) 52[47, 55] 47[42, 55] 0.07
 α(°) 31[27, 35] 29[24, 33] 0.37

63名のEmicizumab定期投与患者と15名の軽症血友病A患者の包括的凝固能について,ROTEMを用いて比較検討したところ,両群の包括的凝固能が同等であることが示された.

4)EmicizumabにおけるTGAの有用性

Tissue factor(TF)トリガーまたはFXIaトリガーによるTGAは,Emicizumabのモニタリングとして,臨床試験から用いられてきた.Mizumachiらは,Emicizumab定期投与中のインヒビター保有血友病A患者の周術期止血管理について後方視的にCWAとTGAを使用し,両方のassayがモニタリングに有用であることを報告した23.また,Takeyamaらは,後天性血友病A患者血漿にEmicizumabを添加した時の凝固能をTGAで測定し(図2),Emicizumabが後天性血友病A患者にも有効であることを報告した24.最近Ogiwaraらは,TFとエラジン酸を合わせた混合法によるTGAがEmicizumabの凝固能を反映することも報告している25.Takeyamaらは混合法のTGAとCWAを用いて,Emicizumabが乳児や新生児の血漿に抗FVIII抗体を添加してFVIIIを中和させた血友病A血漿モデルを作成し,Emicizumabがそれらの血漿の凝固能を改善することを報告した26, 27

図2

後天性血友病A患者血漿にEmicizumabを添加したときのTGAパラメータの変化(文献24より引用.一部改変)

(A)aは正常血漿のPeak thrombin値から市販重症血友病A血漿のPeak thrombin値を引いた値,bは市販重症血友病A血漿にEmicizumab(20 μg/mL)を添加した時のPeak thrombin値から市販重症血友病A血漿のPeak thrombin値を引いた値を示し,b/aをRecovery rateと定義する.(B)16名の後天性血友病A患者血漿にEmicizumab(30, 100, 300 μg/mL)を添加した時のPeak thrombin値のRecovery rateを示す.(C)16名の後天性血友病A患者血漿にEmicizumab(2.5, 5, 10, 20 μg/mL)を添加した時のPeak thrombin値のRecovery rateを示す.(B)(C)の結果から,EmicizumabはTGAにおいて後天性血友病A患者血漿の凝固能を増強させることが分かった.

6.おわりに

2018年に本邦でEmicizumabが上市され,使用患者が増えてきている.現在の血友病医療はEmicizumab出現により,まさにパラダイムシフトが起きている.止血モニタリング法の確立は当初から課題として挙げられていたが,これらの包括的凝固機能検査を用いることにより,その問題点を解決できてきていると思われる.今後,これらの検査が止血モニタリングとして臨床現場で簡便に利用可能となり,エビデンスが蓄積されることを期待している.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

野上恵嗣:講演料・原稿料など(ノボノルディスクファーマ,サノフィ,CSLベーリング,中外製薬,武田薬品工業),臨床研究・治験(ファイザー,ノボノルディスクファーマ,サノフィ,CSLベーリング,中外製薬,武田薬品工業,KMバイオロジクス),研究費(受託研究,共同研究,寄付金等)(中外製薬,サノフィ,積水メディカル,藤本製薬,武田薬品工業,ノボノルディスクファーマ,KMバイオロジクス)

中島由翔:本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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