Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
Online ISSN : 1880-8808
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Reviews: von Willebrand Factor (VWF): A Multifaceted Perspective on Hemostasis, Immunity, and Pathophysiology
VWF and complement alternative pathway
Yoshihiro FUJIMURAHideharu SEKINEKoichi KOKAMETomoya HAYASHIYoshihiko SAKURAITaei MATSUI
Author information
Keywords: TMA, VWFA2, C3b, tick-over, factor H
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2025 Volume 36 Issue 4 Pages 493-504

Details
Abstract

凝固系と補体系は共にcascadeで進行し,serine proteaseのアミノ酸配列に相同性があることから,その発生学的近接性が指摘されてきた.しかし両系の研究は異なる抗凝固剤が用いられ独自の深化を遂げた.一方,膜蛋白トロンボモジュリンの発見は同一分子が凝固と補体の両反応系の調節を担うことを示した.1985年,VWF-cDNA cloningがなされ,VWFAドメインのアミノ酸配列相同性が補体FBに同定された(Sadler & Shelton-Inloes).FB(VWFA)はC3bに結合する.生体ではC3bの大半がC3と水が反応して産生される(tick-over).これは補体第二経路(AP)活性化の起点となる.近年VWFA-C3b結合が示され,これは難病のTTP,aHUS,そしてCOVID-19 TMAの病態に関連することから,VWF-AP連関が注目されており,この現況を概説する.

1.はじめに

血液凝固と補体の反応は共にcascadeで進行する.検査には血漿分離が必要であり,凝固系にはCa2+キレート剤として蓚酸Naやクエン酸Naが用いられてきた.しかし共に保存中の補体活性化を十分に阻止できないことから,補体検査にはより強力なキレート剤であるEDTAやEGTAが用いられ,其々の研究は独自深化を遂げた.しかしCa存在下の生理的循環で両反応系因子は併存しているのである.

凝固系と補体系の双方において,serine protease(SP)ドメインのアミノ酸配列相同性が見られ,凝固―補体間の発生学的近接性が早くから指摘されてきた1.また膜蛋白質であるトロンボモジュリンの発見は同一分子が凝固と補体の両反応系の調節を行うことを直接的に示した2.このような背景から,近年では両反応系因子が,お互いにクロストークすることが示されているが,これらの多くは低分子量蛋白である3, 4.これに対し,von Willebrand因子(VWF)は多重体構造をもつ高分子量糖蛋白で,その作用は血栓止血に留まらず,血管新生や白血球との接着活性等を介して炎症にも深く関与することが示され,‘immuno-thrombosis’ という概念も打ち立てられた5.これが特に注目されるようになったのは,2019年の新興感染症であるSARS-CoV-2によるパンデミックと,これに伴う重篤合併症としてのCOVID-19微小血栓症(thrombotic microangiopathy: TMA)である.この重症度モニターとして「VWF著増」と「補体活性化」の二つがそれぞれ独立した危険因子として注目された68.VWFは炎症によって血管内皮細胞から放出されるacute phase reactantの一つで,SARS-CoV-2感染の出現前から,血管内皮細胞上に固相化された超巨大VWF多重体(unusually large VWF multimers: UL-VWFM)は補体第二経路(alternative pathway: AP)活性化のプラットフォームとなる」との知見がex vivoの培養血管内皮細胞を用いた基礎研究9で示された.また「VWF切断酵素であるADAMTS13を遺伝性に欠く先天性TTPではAP活性化が生じている」という臨床研究 10もほぼ同時期に報告された.

1985年にVWF-cDNA cloningがSadler & Shelton-Inloes11, 12によってなされた時,彼らはVWFAドメインの225アミノ酸配列の相同性を補体factor B(FB)に同定している.FB(VWFA)は活性化補体C3bと結合するが,生体ではC3bの大半がC3と水が反応して産生されtick-overと称されるが,これはAP活性化の起点となる.近年VWFA-C3b結合が示され,これが血液難病の血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)や非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome: aHUS),そしてCOVID-19 TMAの病態に関連することから,VWF-AP連関が注目されており,この現況を概説する.

2.VWFとADAMTS13

VWFの詳細は本企画の他項で詳述されているので,ここではその構造と機能ドメインを示す模式図を図1aに記載する.一方,ADAMTS13はVWF特異的切断酵素で,成熟酵素は1353アミノ酸残基からなる糖蛋白である.ADAMTS13-cDNAの構造ドメインはS-P-M-D-T1-C-S-T2-T3-T4-T5-T6-T7-T8-CUB1-CUB2と表現される.この酵素はVWFA2ドメインのTyr1605-Met1606結合を特異的に切断する(図1b).

図1

VWFとADAMTS13の基本構造

(a)VWFの構造―機能ドメインとその結合リガンド(文献8:Fujimura & Hollandより引用,一部改変):成熟VWFサブユニットはアミノ酸残基番号764で始まり2813で終わる(2050アミノ酸残基).以下の構造ドメインを持つ:D’-D3-A1-A2-A3-D4-C1-C2-C3-C4-C5-C6-CK.その下に各リガントの結合ドメインを示す.最下段に補体C3,C3b,及びFHの結合ドメインを示す.強い結合ドメイン部位は黒色で,それ以外は灰色で示してある.Cao et al.の報告36では広範囲のドメインにFH結合能が示されており,強弱が示されていないため,濃い灰色で示してある.

(b)ADAMTS13の構造―機能ドメイン(文献41:秋山&小亀より引用,一部改変):成熟ADAMTS13はアミノ酸残基番号75で始まり1427で終わる(1353アミノ酸残基).以下の構造ドメインを持つ:M-D-T1-C-S-T2-T3-T4-T5-T6-T7-T8-CUB1-CUB2.Mはメタロプロテアーゼドメインで,iTTPのインヒビター(IgG抗体)が結合する部位はC-Sドメインである.

3.補体第二経路(alternative pathway: AP)

補体活性化は古典経路,レクチン経路,第二経路,の3経路でそれぞれ単独に,あるいは共同して起こる13.本稿ではVWFとの関係が注目されている第二経路(AP)を中心に解説する.APの特徴は特別な標的がなく,分子内にthioesterを持つ補体C3が水(H2O)と反応して活性化する点(tick-over)で,最も原始的な生体防御機構と考えられている.この反応は1980年にPangburn & Müller-Eberhard14によって明らかにされた.AP活性化の模式図を図2に示す 15.またこれに関与する補体や補体調節因子の一覧表を表1に示し,以下にその中心的役割を果たす因子を記載する.

図2

補体第二経路(AP)とレクチン経路(LP)(文献15:Sekine, Machida & Fujitaより引用)

APとLPの活性化において3種類のMASP(mannan-binding serine protease)が独立した役割を果たすことを示す.APでは,活性化メカニズムが不明なMASP-3が主に活性型で循環し,Pro-FDを切断して活性型プロテアーゼであるFDに変換する.FDはC3(H2O)またはC3bと複合体を形成しているFBを切断し,APのC3転換酵素C3(H2O)BbまたはC3bBbを形成する.C3が水と反応して活性化するtick-overの機構については図3を参照のこと.

表1

補体第二経路(AP)の活性化とその調節に関与する主な補体とその調節因子

蛋白質(記号) C3 FB FD MASP-3 FP/P FI FH
蛋白質 Complement component 3 Factor B Factor D Mannan-binding serine protease 3 Factor P(Properdin) Factor I Factor H
産生臓器・細胞 肝実質細胞
様々な免疫細胞
血管内皮細胞
肝実質細胞 脂肪細胞
肝臓
マクロファージ
肝臓 T細胞
単球
肥満細胞
好中球
肝実質細胞
単球
線維芽細胞
内皮細胞
ケラチノサイト
肝実質細胞
単球
線維芽細胞
内皮細胞
ケラチノサイト
血小板
網膜色素上皮
分子形態 (1)190 kDaの糖蛋白
(2)α-chain(115 kDa)とβ-chain(75 KDa)がSS結合している.
(1)93 kDaの単鎖糖蛋白 (1)25.5 kDaの単鎖糖蛋白 (1)100 kDaの糖蛋白
(2)A鎖(430 aa)とB鎖(280 aa)がSS結合している.
(1)53 kDaの単一蛋白のオリゴーマー
(2)2量体:3量体:4量体=1:2:1
(1)88 kDaの糖蛋白
(2)H鎖(51 kDa, 317 aa)とL鎖(37 a, 244 aa)がSS結合で連結している.
(1)155 kDaの単鎖糖蛋白
(2)FHは20ヶのCCPまたはSCRと呼ばれる約60個のアミノ酸残基の繰り返し構造を持つ.
血漿(清)中濃度 ~1.2 g/L ~200 mg/L ~1.8 mg/L ~5.9 mg/L 5~45 mg/L ~35 mg/L 200~300 mg/L
生物活性 補体活性化の中心的因子 セリンプロテアーゼ(SP)前駆体 セリンプロテアーゼ(SP) セリンプロテアーゼ(SP) C3bBb及びC3bBbC3b複合体に結合 セリンプロテアーゼ(SP) 補体活性化の制御因子
機能障害(臨床) (1)C3/C5転換酵素(C3bBb及びC3bBbC3b複合体)の構成成分となる. (1)Mg2+存在下にC3b(VWFA)のG229-K265とT355-K235に結合する.(2)FDで切断(R234-K235)される. (1)pro-FDのN末端アミノ酸配列(AAPPRGR ILGGREAE--)が切断され,FD(ILGGREAE--)になる.(2)C3bBのBを切断してBaを放出しC3bBbとなる. (1)pro-FDを切断してFDにする. (1)C3/C5転換酵素(C3bBb及びC3bBbC3b複合体)の安定化を行う. (1)単独ではSP活性は示さないが,FHが結合したC3bやC4bを切断する.(2)L鎖にSPドメインがある.このドメインには,C3bとC4bの特異的切断を担う触媒トリアドHis-362,Asp-411,及びSer-507が含まれている. (1)C3b結合を巡ってFBと競合し,APのC3およびC5転換酵素の形成を阻害する.(2)結合したBbを置換することにより,これらの転換酵素の分解を促進する(崩壊促進活性).(3)C3bの切断および不活性化においてSPであるFIの補因子として働く(補因子活性).
機能障害(臨床) aHUS aHUS aHUS 3MC(Malpuech-Michels-Mingarelli-Carnevale)症候群 ・X連鎖疾患(男性発症)
・髄膜炎感染症
aHUSとARMD aHUS

1)Factor B(FB)

FBはtick-overで生じるC3(H2O),またC3の限定分解産物であるC3bに結合する.FBの構造はBa(complement control protein: CCP1~3)とBb(VWFA+SP)部分からなり,C3(H2O),またC3bへの結合にはBa(CCP1~3)が関わるが,結合後FBは立体構造変化を生じてfactor D(FD)による切断部位が現れ,これにてBaは離断される.この後,BbはBb(VWFA)を介してC3(H2O),またC3bに結合した状態で留まり,C3(H2O)Bb並びにC3bBbが形成される.この状態でBbはSP活性を発現し,C3のArg748-Ser749結合を切断する.FDはそれ自体がプロテアーゼであるが,これは前駆体Pro-FDがMASP-3(mannan-binding serine protease-3)で切断されて生じる.MASP-3はA鎖(430アミノ酸残基)とB鎖(280アミノ酸残基)がdisulfide結合した分子量100 kDaの糖蛋白である.

2)Properdin(PまたはFP)

P(FP)はC3bとBbの結合において,これを安定化させる作用を持つ.AP活性化における唯一の「正の調節因子」である.分子量は53 kDaでトロンボスポンジン(TSP)の繰り返し構造を持つ単鎖蛋白で,血中ではその2量体,3量体,そして4量体として存在し,その比率は1:2:1である.

3)Factor H(FH)

FHはAP活性化に於ける「負の調節因子」であるが,VWFとの関係でも注目されている.産生は主に肝細胞で,血中には200~300 mg/L含まれる分子量155 kDaの単鎖糖蛋白である.分子は20のCCP(complement control protein)或いはSCR(short consensus repeat)と呼ばれる60アミノ酸残基の繰り返し構造からなる.FHは以下の3つの機能特性を持つ.(1)C3b結合を巡ってFBと競合し,APのC3およびC5転換酵素の形成を阻害する.(2)結合したBbを置換することにより,これらの転換酵素の分解を促進する(崩壊促進活性).(3)C3bの切断および不活性化においてSPであるfactor I(FI)の補因子として働く(補因子活性).

4)C3とfactor I(FI)

C3はAP活性化の中心となる成分で,主に肝臓で産生される分子量190 kDaの糖蛋白である.α鎖(115 kDa)とβ鎖(75 kDa)がdisulfide結合で結ばれた構造を持つ.血中濃度は~1.2 g/Lと高い.2025年,Turner & Moake16は,「C3と水の反応(tick-over)で活性化するAPの機能調節におけるFHとFIの重要性」について,in vitroで精製した補体の混液を用いて詳細な解析をした.この紹介と説明を図3に記載する.

図3

液相におけるC3の活性化および不活性化の模式図(文献16:Turner & Moakeより引用)

(a)C3のα鎖内部のthioesterは,C3変換酵素(C3bBb)によるC3aの切断・遊離後に露出し,準安定型(metastable)C3bが生成される.準安定型C3bには以下の3つの反応をする.(1)活性化表面が存在する場合,C3bは標的表面のhyroxyl基と共有結合する.(2)FIとFHが存在しない場合は,液相でC3変換酵素(C3bBb)が形成され,制御不能なAP活性化が生じる可能性がある.(3)外来標的がない場合は,C3bは水と反応し,FIと補因子FHによって速やかに切断・不活性化され,iC3bが生成される.

(b)内部thioesterの水加水分解により,C3はC3(H2O)に変換される.これは機能的には「C3b様タンパク質」で,C3aの離断を伴わずFB結合能を持つ.以下の2つの経過を辿る.(1)FIとFHが存在しない場合,C3(H2O)はFBを結合し,FBがFDによって切断されてBaを放出した後,液相「C3b様転換酵素」が形成される.これはC3をC3bに切断するが,thioesterが露出していないため表面に結合することはできない.(2)FIとFHの両方が存在する状態では,FBはFHによって置換され,C3(H2O)はFIによって直接切断され,不活性化されてiC3となる.

4.VWF-AP連関の臨床背景

血液難病のTTPを遺伝性に生じるものが先天性TTP(congenital TTP: cTTP)で,別名Upshaw-Schulman症候群と呼ばれる.本症はADAMTS13遺伝子の2アレル変異にてADAMTS13活性が著減し,TMAの病理学的3徴候―血小板減少,溶血性貧血,血栓による臓器障害(腎不全など)―を呈する稀疾患である.常染色体潜性遺伝で,患者数は本邦で70人余り,世界でも300名弱が報告されているに過ぎない 17

cTTPの特徴として,生後間も無く交換輸血を必要とする新生児期重症黄疸が患者全体の約40%に見られる.これは生直後に肺呼吸が始まると,胎生期循環に必須の「動脈管」の血流が右→左シャントから左→右シャントに切り替わり,これにて大動脈から高酸素血が流入し,一方で,分娩により胎盤由来PGE2濃度が急激に低下することにより動脈管が収縮し,この狭窄動脈管内で高ずり応力が生ずる.この環境下でcTTP患者は血管内皮細胞で産生されて血中に放出される巨大なUL-VWFMを適切に切断できず,血小板過凝集から血栓を形成すると説明されている18

新生児期を過ぎると,患者のTMA発作は早期(小児)発症型と後期(成人)発症型の2表現型に分かれる.両成因の違いは明らかではないが,共に急性期に重度の腎障害が生ずることがある.このような症例の急性期には可溶性C5b-9(sC5b-9)の血漿レベルが著しく上昇し,腎生検で腎皮質に補体C3と補体活性化の終末産物であるC5b-9の沈着が確認されている10.これらの所見は補体や補体調節因子の遺伝子変異によって生ずるaHUSに類似する.それ故,「ADAMTS13活性欠損症とAP活性化を伴う腎症状の間には強い連関がある」と推定されてきた.これを裏付けるように,ex vivoアッセイで,cTTP患者血清は培養血管内皮細胞表面にC3およびC5b-9の沈着を誘発することが示された10.この沈着は患者血清に予め遺伝子発現ADAMTS13を添加することで消失することから,VWF依存性であることが明らかである.また2015年Pecoraroら19は12才のTMA症状を呈する男児で,血漿中のsC5b-9が上昇し,aHUSと臨床診断し,ADAMTS13活性の結果が得られる前に,抗補体薬エクリズマブを投与し,症状が寛解した症例を報告した.この患者はその後の遺伝子解析でcTTPと判明し,また補体関連遺伝子の結果には異常がなく,最終的にaHUSは否定された.この報告はcTTPのTMA発作時には補体活性化が伴っていることを示した.

5.血管内皮細胞と炎症性サイトカイン:VWF-ADAMTS13軸

2002年,Dongら20は臍帯静脈血管内皮細胞(human umbilical vein endothelial cells: HUVEC)をADAMTS13を含まない培養液でプレート上にコンフルエントになるように培養し,高ずり応力下の流動条件下にヒスタミン刺激すると,UL-VWFMが放出され,細胞表面に糸状に係留されること,またその後に洗浄血小板を流すと血小板はビーズネックレスのようにUL-VWFMに粘着することを示した.この条件下で,精製ADAMTS13を添加すると,このビーズネックレスは即座に切断され消失した.後年,ADAMTS13産生細胞として肝星細胞21の他に,肝実質細胞,血管内皮細胞22,神経グリア細胞,腎タコ足細胞,胎盤合胞体栄養膜細胞23,などの細胞が同定されている.これらの中でTurnerら24は「血管内皮細胞で産生され,そこに局在するADAMTS13」が放出後間もないUL-VWFMの切断に重要と考えられると報告した.しかし上記の観察はこの考えを支持していない.この説明として,Turnerらは後に,「流動条件下では,血管内皮細胞由来のADAMTS13のみでは,局所的に十分な酵素濃度を確保できないため」と述べている.一方,2019年に肝硬変患者に死体肝移植を行い,術後レシピエントがcTTPになるという極めて稀有な報告例25があった.この症例のpost-hoc検証で,ドナーは稀疾患のcTTP患者であった.この報告はUL-VWFMの切断には循環血中のADAMTS13が必須であり,これを補充する臓器が肝臓であることを明確に示している.

2004年,Bernardoら26は前記のフロー条件下に,炎症性サイトカインを用いてHUVECの刺激実験を行い,TNFα,IL-8,およびIL-6/sIL-6R複合体は刺激誘導剤のヒスタミンと同等にHUVECからのUL-VWFM放出を引き起こすことを示した.興味深いことに,高濃度のIL-6は単独ではUL-VWFMの放出を誘導せず,フロー条件下では逆にADAMTS13の作用を著しく阻害した.このメカニズムは未解決であるが,静止系ではIL-6はADAMTS13によるUL-VWFMの切断阻害を示さなかったことから,IL-6の作用はVWFまたはADAMTS13の立体構造変化に依存していると考えられた.この知見は特に重要で,その理由は多数の炎症性サイトカインが高濃度に存在するサイトカインストーム下では,UL-VWFMはADAMTS13によって効率的に切断されず,血管内皮細胞表面に係留されると考えられるからである.この係留蛋白として初期はP-selectin27が注目されたが,その後血管内皮細胞表面を繊毛状に覆うsyndecan-128がVWF-A1ドメインと結合し,係留蛋白として機能することが示された.この結果,血管内皮細胞表面に係留されたUL-VWFMは血小板血栓とAP活性化の両方のプラットフォームとなる.

次にADAMTS13の酵素活性が利用できない病的環境を表2に示す.これには免疫性TTP(immune-mediated TTP: iTTP)に生じたADAMTS13インヒビター(IgG抗体)が「同酵素活性中心の近傍(C-Sドメイン)に結合」して阻害することが最もよく知られているが,一方で,基質である「VWFA2ドメインに結合」して同酵素によるTyr1605-Met1606結合の切断を阻害するものとしてplatelet factor 4(PF4)29及びthrombospondin type 1(TSP-1)30が知られている.また炎症性サイトカイン(IL-6)は肝星細胞のADAMTS13産生を阻害する31.これに対し補体調節因子FHはVWFA2に結合し,これにてADAMTS13による切断がむしろ亢進するという報告 32がある(後述).また活性化補体C3bはVWFAに結合し,AP活性化のプラットフォームになるというイタリアと米国の2研究グループの報告33, 34が注目されているが,この時「C3b-VWFA2結合がADAMTS13の作用を阻害するか否か」については明らかではない.

表2

循環血中のADAMTS13活性低下及び利用障害

先天性要因 ・ADAMTS13遺伝子異常(cTTP)
後天性要因
・ADAMTS13活性阻害 ・iTTP(ADAMTS13インヒビター:IgG型中和抗体) ・DIC等でプロテアーゼ(plasmin/thromin)活性上昇時
・ADAMTS13産生障害 ・重度肝機能障害(肝硬変など) ・IL-6高値
・ADAMTS13消失促進 ・自己免疫疾患(非中和抗体:IgG-IgA-IgM抗体など)
・ADAMTS13利用障害(立体障害を含む) ・VWFA2-PF4結合 ・VWFA2-TSP1結合 ・cytokine storm(IL-6高値)

6.VWF-AP連関

HUVECにはVWFとADAMTS13の他,含有量には大きな幅があるが,C3,C4,C5,FB,FD,FH,FIなど多くの補体成分が存在している.2013年,Turner & Moake9はプレート上でコンフルエントに培養したHUVECをヒスタミンで刺激するとUL-VWFMが放出されて同細胞表面に係留されるが,このUL-VWFM上にC3,C5,FB,FD,FH,FI等のAPに関与する補体及びその調節因子が結合すること,しかし古典経路に必須のC4は全く結合しないことを示した.Nolascoら34はこのVWF分子上のC3結合部位がVWFA3ドメインであると報告している.Turner & Moakeは2015年に総括報告35を行なっており,その結論は内皮細胞に係留されたUL-VWFM上ではC3bBb(C3転換酵素)とC3bBbC3b(C5転換酵素)が形成されて,それぞれC3aやC5aを産生すると述べている.この時,UL-VWFMにはFHとFIも結合するが,両者の結合量がC3に比べて遥かに低いため,C3bはFIで適切に不活性化されないと推論している.

これに対して,Bettoni & Remuzzi33は内皮細胞に係留されたUL-VWFM上のAP活性化に必要なC3分子型はtick-overで生じるC3bであることから,VWF-C3b結合を以下の二方法で解析した.

1)ELISA

彼らは遺伝子発現したVWFA1,VWFA2,VWFA3蛋白を用い,これをプレートに結合したELISA系を確立し,C3bはこれら3つのドメイン全てに結合するが,A2ドメインへの結合が最も強いことを報告した.このVWFA2固相プレートにヒト血清を加えて,全補体成分を補った後に,還元条件下にSDS-PAGE/western blotを行うと,6種の補体成分(C3b/Bb/C5b/C6/C9/FH)が結合蛋白として確認された.これは即ち「VWFA2プレート上でC3/C5転換酵素の形成に必要なすべての成分が結合している」ことを示す.一方,VWFA1及びVWFA3ドメインを固相化したプレートにはこれら因子の結合は全く見られなかった.即ち「VWFA2とC3bの結合が転換酵素形成に必須である」ことを示した.しかし一点,特に重要なことは,EGTA存在下ではVWF単量体及びVWFA2蛋白の双方で,C3b結合もC3bBb形成もなかったことである.これはVWF-C3b結合とそれに引き続き続くC3bBb形成がMg2+/Ca2+などの二価陽イオン依存性であることを示唆する.しかし,この結合は二価陽イオン自体への依存性よりも,両者の構造維持や結合部位の露出状態といったコンフォメーション依存性を反映している可能性もある.実際,VWFA2-C3bの結合様式には明確に言及されていない.これに対しTurner & MoakeグループのNolascoらは共有結合と考えている34.一方,可溶性C3bは静的条件下では血漿由来並びに遺伝子発現VWFMには結合しないことも示された.これらの結果は可溶性C3bがVWFに結合するためにはVWFA2ドメインが分子表面に露出していることが必須であり,VWFのコンフォメーション依存性であることを示している.

2)免疫染色

次にヒト皮膚由来の微小血管内皮細胞(HMEC-1)をプレート上にコンフルエントに培養して,静止系とフロー系の2方法で解析している.まず静止系であるが,未刺激の状態ではVWFは検出されず,一方TMは細胞外ドメインが静止期に発現しているので免疫染色された.このプレートをC5aで刺激すると,染色パターンは逆転し,VWFは強発現し,TMは消失していた.TMの消失はWeibel-Palade体(WPB)から同時放出されるt-plasminogen activatorによってplasminが生成され,これによってTMが切断されるためと説明されている.次はフロー系であるが,HMEC-1をADPで刺激してUL-VWFMを細胞表面に誘導し,その後,正常血清またはcTTP血清,あるいはcTTP血清に様々な抗補体物質を添加したものについて検討した.まずADAMTS13を含む正常血清処理では細胞表面のVWF染色は陰性で,UL-VWFMは同酵素で切断されたと考える.一方,ADAMTS13を欠くcTTP血清処理ではVWF染色は陽性であった.この後,cTTP血清に其々,FH,ADAMTS13,エクリズマブ(抗C5抗体),抗VWF抗体,sCR1(可溶性complement receptor 1, CD35)そしてC5aR拮抗剤(W-54011)を個々に添加して行うとVWF染色は著しく低下することも示した.これらの結果は血管内皮細胞表面でのVWF-AP連関の特異性を示すものである.

以上,米国のTurner & MoakeはVWFA3-C3結合を,またイタリアのBettoni & RemuzziらはVWFA2-C3b結合と,その様式について一部の相違があるが,共に「VWFAドメインがC3bを結合してAP活性化のプラットフォームになる」というシナリオは一致している(図4).

図4

血管内皮細胞に係留されたUL-VWFM上での補体第二経路(AP)の活性化(文献8:Fujimura & Hollandより引用,一部改変)

血管内皮細胞が刺激を受けると,Weibel-Palade体(WPB)はexocytosisにてその内容物を血中に放出する.この時UL-VWFMは血管内皮細胞表面を覆うsyndecan-1にVWF-A1ドメインを介して結合し,血流下に伸展構造となる.この状況でVWFはADAMTS13で切断されるが,同酵素の活性低下及び利用障害時には内皮細胞に係留された状態となる.この係留されたUL-VWFMはAP活性化のプラットフォームとなり,これにtick-overで生じるC3bが結合する.このC3bにFBが結合し,FBはFDによってタンパク質分解され,その後,安定剤としてproperdin(FP/P)がC3b部分に結合してC3転換酵素が形成される.さらにC5転換酵素(C3bBbC3b)の形成によってC5bが生成され,これにC6~C9が結合して最終的にC5b-9(MAC)が形成され,内皮細胞の刺激と障害を引き起こす.WPBにはIL-8,t-PA,angiopoietin-2なども含まれており,放出されたt-PAはplasminを産生し,これが血管内皮細胞表面のトロンボモジュリン(TM)を切断する.以上の経過にて血管内皮細胞の持つ抗血栓性機能は消失し,血栓形成に傾く.

7.VWFとFH

FHはAP活性化に於いて,「負」の調節因子である.UL-VWFMはTTP,そしてFHはaHUSの原因となり,両疾患には症状類似性があることから,VWF-FHの関係も注目されるようになり,現在以下の4点が明らかになっている.

1)VWFA2に結合し,ADAMTS13による切断を亢進する

2013年Fengら32はFHが血漿中のVWF,血漿由来の精製VWF,そして遺伝子発現したVWFA1及びVWFA2(VWF73)フラグメントに結合することを示した.この結合にはFHのC末端部(CCP10-20)が必須であった.そして「FHがこのVWFA2に結合するとADAMTS13による切断が亢進する」ことを報告した.またこの切断亢進はフロー条件下でHUVECのヒスタミン刺激で放出されたUL-VWFMに対しても認められた.これに対し,2025年Caoら 36は少し異なった結果を示している.即ち,「野生型FH」と「aHUSに見られる変異型FH(W1183R)」について比較すると,両者は様々なVWFフラグメント(A1,A1-A2-A3,D‘D3,D’D3-A1)に結合した.しかし,ずり応力下でのADAMTS13によるVWF切断を見ると,「変異型FH(W1183R)添加では切断亢進が確認された」が,野生型FHではかかる効果は見られなかった.彼らはこの結果を,「aHUS患者の血漿ではしばしば高分子量(high molecular weight: HMW)-VWFMが欠損している」という現象の説明に繋げている.

2)FHはVWF多重体の還元物質として働く

VWFは分子量250 kDの単一サブユニットがN末端同士そしてC末端同士でdisulfide結合した多重体である.この多重体構造をプロテアーゼ作用で減じるのがADAMTS13である.2013年,Nolascoら37は正常血漿中には非プロテアーゼ性にVWFの多重体サイズを減ずる還元作用物質があり,これがFHであることを示した.FHが示すこの還元作用は,以下の特徴を示した.(1)Iodoacetic acidとN-ethylmaleimideで阻害されたことよりthiol基依存性である.(2)反応には陽イオンの存在が必要である.(3)VWFコンフォメーション依存性である.(4)HUVECに結合したUL-VWFMに対してはFHの効果は見られなかった.以上より,FHは「液相」で,そしてADAMTS13は「固相」でVWFMサイズを減じると説明している.以下は筆者の意見であるが,FHの血中濃度は200~300 mg/Lと高く,VWFとADAMTS13の濃度はそれぞれが~10 mg/Lと~1 mg/Lと低い.そしてADAMTS13活性を欠くcTTP患者のFH血中濃度は正常と考えられるが,血漿による同酵素の補充療法前には血中にUL-VWFMが存在している.しかし血漿輸注後は,わずか1時間でUL-VWFMが血中から消失し始めるので,「液相」でのFHによるVWFマルチマーサイズ調節効果は限定的と考えている38

3)FH-VWF複合体形成でFIの補因子作用を増強

FIはC3bを分解するプロテアーゼで,FHはFIの補因子として働く.即ち,FHがC3bに結合するとFIにより分解され不活性化(iC3b)される.2014年,Rayesら39は,血管内皮細胞のWPB内でFHとVWFは共貯蔵されており,共に刺激により血中に放出されることを見出した.この両者は複合体として一定量が血中に存在すること,また「FH-VWF複合体では,FHのFIに対する補因子作用が高まり,C3bはより強く分解され,補体活性化は阻害される」と報告した.さらに彼らは「このVWF-FH複合体形成によりADAMTS13によるVWFA2切断が阻害される?」と想定しているが,この考え方はFengらの2013年報告32―「FH結合によりADAMTS13分解が亢進する」―とは相反している.

4)低分子VWFはFIによるC3b不活性化を亢進

Fengらは2015年40,「VWF多重体サイズがFIによるC3b不活性化に影響するか?」を検証した.結果は,「UL-/HMW-VWFMは影響しないが,正常VWFMや低分子のVWF二量体はFI依存性C3b不活性化を明らかに亢進させる」というものであった.この報告ではFH非存在下でもFH存在下とほぼ同等の効果が示されているので,「低分子量VWFはFHの代替え役を担えるのか?」という新たな課題が提起されている.

8.結語

cTTPとaHUSは別疾患であるが共に腎障害の症状を示す.SwedenのTatiら10の臨床研究はADAMTS13活性欠損症における補体第二経路(AP)活性化に伴う腎障害を示した.一方,基礎研究では米国のTurner & Moake9とイタリアのBettoni & Remuzziら 33の2つの研究グループの報告があり,両研究者間で少し相違があるが,共に「C3bはVWFAドメインに結合し,UL-VWFMがAP活性化のプラットフォームとなる」というシナリオは一致している.またFengら40は,「低分子量VWFはFIがプロテアーゼ作用を発現する際に,補因子FHの代替え役を担えるのか?」という新たな課題も提起した.今後の展開が期待される.

著者全員の利益相反(COI)の開示:

藤村吉博:役員・顧問職・社員など(日本赤十字社),特許使用料(アルフレッサ),その他の報酬(カイノス,シスメックス,サノフィ)

関根英治:研究費(受託研究,共同研究,寄付金,治験等)(Visterra)

小亀浩市:本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

林 智也:役員・顧問職・社員など(日本赤十字社)

櫻井嘉彦:役員・顧問職・社員など(日本赤十字社)

松井太衛:その他の報酬(Sysmex)

文献
 
© 2025 The Japanese Society on Thrombosis and Hemostasis
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