Japanese Journal of Thrombosis and Hemostasis
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The Young Investigator Award for the Year of 2025
Cure of congenital purpura fulminans via expression of engineered protein C through neonatal genome editing in mice
Tomoki TOGASHI
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2025 Volume 36 Issue 4 Pages 545-551

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Abstract

プロテインC(PC)をコードするPROCの両アレル異常は致死的な血栓症を引き起こす.PC欠損症の根治療法は未確立で,革新的な治療法の開発が待たれている.本研究では,ゲノム編集治療の有効性をマウスモデルで検証した.効率よく治療するために野生型PCを改変し,活性体として分泌させることを可能にした.アデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)ベクターにより野生型マウスに改変型PCを発現させると,用量依存的に第V因子活性の低下と凝固時間の延長が認められ,病的な血栓形成を抑制した.新生児期に治療効果を維持するために,CRISPR-Cas9と改変型PCをそれぞれ搭載したAAVベクターをPC欠損マウスに投与し,ゲノム編集治療を行った.肝臓で遺伝子発現が活発なアルブミン遺伝子座に改変型PCをノックインすることで,PC欠損マウスが生存し,血栓症が改善した.本手法はPC欠損症の治癒を実現可能な新たな治療法として期待できる.

1.はじめに

抗凝固因子であるPCは前駆体として血中を循環し,血栓部位でトロンビンとトロンボモジュリンの複合体により活性化される.活性化PCはプロテインS(PS)を補因子として活性化凝固第V因子(FVa)と活性化凝固第VIII因子(FVIIIa)を分解し,血栓形成を抑制する.PC遺伝子(PROC)のヘテロ接合体性の異常は,成人期に静脈血栓塞栓症の発症リスクが上昇する.PROCの両アレル異常は,生後まもなく致死的な血栓症を引き起こす1.動物モデルにおいても,PC欠損マウスは生後まもなく死亡する2.PCの血中半減期(前駆体:6~8時間,活性体:20分)は短く3,頻回の静脈注射または持続投与を強いられる.ワルファリンを用いた過剰な抗凝固療法は,逆に出血合併症のリスクが伴う.加えて,肝移植が奏功した症例が報告されているが4,ドナー不足と侵襲性の高さから全ての患者への適用はほぼ不可能である.よって,重症PC欠損患者に対する革新的な治療法の開発が求められている.

近年,難治性疾患に対する治療として,遺伝子治療とゲノム編集治療が注目されている.PCは凝固因子と同様に肝臓細胞で産生されるため,血友病Bに対するゲノム編集治療の技術を5,PC欠損症に応用できる可能性がある.我々は,重症PC欠損症の治癒を目指し,PC欠損モデルマウスを用いて,ゲノム編集治療の開発を行った.

2.改変型PCは活性体として分泌され,凝固時間を延長する

活性化PCの血中濃度は約40 pmol/Lと,PC全体のわずか1/1,700である6.我々はPCを前駆体ではなく活性体として分泌できれば,より効率的に治療できると考えた.ヒトPC(hPC)を活性体にするために,野生型hPC(hPC-WT)のアミノ酸改変を試みた.フーリンで切断されるペプチド配列(KR, RKR, KRRKR, RKRRKR [2RKR], RKRRKRRKR [3RKR], RKRRKRRKRRKR [4RKR], RHQR, RSKR)またはP2A配列をPCのトロンビン切断部位に挿入した(図1A).これらの改変型hPCを安定発現するHEK293細胞を樹立し,培養上清のhPC活性を測定した.抗凝固能の比較には,リン脂質との結合能を高めた既報のhPC変異体(H10Q, S11G, S12N, E23S, N32E, N33D, H44Y; hPC-QGNSEDY)を用いた8.hPC活性はhPC-WT,hPC-QGNSEDYおよびいくつかの改変型hPCで測定できた(図1B).hPC活性は蛇毒により活性化されたhPCが合成基質を切断して測定される.改変型hPCが活性体となるか確認するために,蛇毒非存在下でhPC活性を測定した.hPC-WTまたはhPC-QGNSEDYのhPC活性は感度以下まで低下したが,hPC-KRRKR,hPC-2RKR,hPC-3RKRおよびhPC-4RKRではhPC活性を測定可能であった(図1C).これらのうち,分泌効率の良いhPC-2RKRを選択し,治療に用いることにした(図1B,C).

図1

アミノ酸改変による改変型プロテインCの作製

(A)ヒトプロテインC(hPC)改変の概要.フーリンの切断配列をhPCのトロンビン切断部位に挿入した.(B)改変型hPCを安定発現するHEK293細胞より得られた培養上清のhPC活性(hPC:C)(n=3~4).(C)蛇毒非存在下で測定したhPC:C(n=3~4).P値はDunnettの多重比較検定を用いた一元配置分散分析により野生型(WT)と比較し算出された.(D,E)hPC-WT,既報のhPC変異体(H10Q, S11G, S12N, E23S, N32E, N33D, H44Y; QGNSEDY),または改変型hPC(hPC-2RKR)を任意の濃度で正常ヒト血漿と混和し,37°Cで15分間反応させた.APTT(D)およびPT(E)(n=3).(F)プロテインS欠乏血漿に任意の濃度でhPCまたはhPC-2RKRを添加しAPTTを測定した(n=3).P値はBonferroniの多重比較検定を用いた二元配置分散分析によりWTと比較し算出された.実験データを平均値±SEMで表記した.hPC:C,プール血漿に対するhPC活性.図は文献7より引用.

ヒト血漿におけるhPC-2RKRの凝固阻害効果を検討した.正常ヒト血漿に培養上清から得られたhPC-WTまたはhPC-2RKRを混和し,APTTとPTを測定した.hPC-WTとhPC-QGNSEDYを添加した場合に,APTTとPTは変化しなかった.一方,hPC-2RKRを添加した場合に,hPC濃度依存性にAPTTとPTが有意に延長した(図1D,E).加えて,PS欠乏血漿にhPC-2RKRを添加してAPTTを測定すると,正常血漿と同様にAPTTが延長した.よって,hPC-2RKRの抗凝固能にPSの補因子活性は必須でないことが示唆された(図1F).

3.生体内における改変型PCの抗凝固能および病的な血栓形成の抑制

PC-2RKRの抗凝固能を生体内で評価するために,我々は野生型マウスPC(mPC)またはhPC-2RKRに相当する改変型mPC(mPC-2RKR)を搭載したアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)ベクターを作製し,野生型の成マウスに異なる用量(low,4.0×1010 vg/マウス;medium,1.2×1011 vg/マウス;high,4.0×1011 vg/マウス)で投与した.mPC発現マウスでは,mPC抗原量がベクター用量依存性に増加したが,APTTは変動しなかった(図2A,B).対照的に,mPC-2RKR発現マウスでは,抗原量の上昇が軽度であったが,APTTがベクター用量依存性に延長した(図2A,B).さらに,mPC-2RKR発現マウスでは,FV活性が有意に低下し(図2C),FVIII活性もFV活性と比較して軽度であるが低下した(図2D).肝臓におけるAAVゲノム量は,両群間に差がなかった(図2E).

図2

改変型プロテインC発現によるマウスの病的血栓形成の抑制

HCRhAATプロモーター制御下で野生型マウスPC(mPC)または改変型mPC(mPC-2RKR)を発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを7週齢の野生型マウスに静脈内投与した(low,4.0×1010;medium,1.2×1011;high,4.0×1011 vg/マウス).(A)ベクター投与後4週時点の血漿mPC:Ag(n=4)をELISAで測定した.(B~D)APTT(B),FV: C(C)およびFVIII: C(D)(n=4,ただし,mPC medium[n=2]およびmPC-2RKR high[n=3]のFVIII: Cを除く).(E)ベクター投与後8~12週時点における肝臓のAAVゲノム(n=4).同じベクター投与量でmPCとmPC-2RKRを比較し,P値をBonferroniの多重比較検定を用いた二元配置分散分析により算出した.(F)レーザー照射で誘導される活性酸素(ROS)により,精巣静脈に生じた病的な血栓形成を生体顕微鏡で観察した.スケールバーは20 μmである.(G)血管内における血栓の面積(n=3~4).P値をTukeyの多重比較検定を用いた一元配置分散分析により算出した.実験データを平均値±SEMで表記した.HCRhAAT,Apo E/C1遺伝子の肝コントロール領域とヒトα1-アンチトリプシンプロモーターで構成されるキメラプロモーター;mPC:Ag,野生型マウスプール血漿に対するmPC抗原量;FV:C,野生型マウスプール血漿に対する凝固第V因子活性;FVIII:C,野生型マウスプール血漿に対する凝固第VIII因子活性;vg,ベクターゲノム.図は文献7より引用.

我々はmPC-2RKRの発現が,生体内で病的な血栓形成を抑制するか検討した.AAVベクターを4.0×1010 vg/マウスで投与したマウスを用いて,病的な血栓形成の抑制効果を検討した.mPC-2RKR発現マウスはAPTT延長が軽度であったが(図2B),精巣静脈における病的な血栓形成を有意に阻害した(図2F,G).一方,mPC発現マウスは血栓形成を阻害しなかった(図2F,G).これらのデータはPC-2RKRが効率的に凝固反応を抑制することを示している.

4.アルブミン遺伝子座を標的としたノックインゲノム編集

従来のAAVベクターを用いた遺伝子治療では新生児期に治療効果を維持できないため,ゲノム編集技術を利用した.肝臓で治療遺伝子の高発現を可能にするアルブミン遺伝子(Alb)の終止コドン直後のイントロン14に治療遺伝子を挿入する9.目的遺伝子は相同組換え(HDR)を介して挿入された場合のみ発現するように設計されている.目的遺伝子の挿入効率を評価するために,Staphylococcus aureus由来のCas9(SaCas9)とsingle guide RNA(sgRNA)を発現するAAVベクターと,Albの終止コドンの代わりにP2Aを付加したEGFP cDNAドナー配列を搭載したAAVベクターを新生仔マウスに投与した(図3A).その結果,肝臓でAlbEGFPが融合したmRNAが発現し(図3B),翻訳後にP2AによりアルブミンとEGFPが独立して発現した(図3C).免疫染色により全肝臓細胞の7.08±0.92%にEGFPの発現が観察された(図3D,E).加えて,PCRによりゲノムへのドナー配列の挿入を確認した(図3F).

図3

新生仔マウスにおけるアルブミン遺伝子を標的とした遺伝子ノックイン

(A)ゲノム編集実験の概要.Staphylococcus aureus由来のCas9(SaCas9)でDNA二本鎖切断(DSB)を誘導し,P2A配列を付加したEGFP cDNAを相同組換え(HDR)を介して挿入した.(B~F)SaCas9とAlbイントロン14を標的とするsgRNAを搭載したAAVベクター(6.0×1010 vg/マウス)と,EGFPを搭載したAAVドナーベクター(2.0×1011 vg/マウス)を作製した.AAVベクター投与なし,ドナーAAVベクターのみ投与(EGFP donor),およびSaCas9とsgRNAを搭載したAAVベクターとドナーAAVベクターを投与(SaCas9 and EGFP donor)の3群に分けて,新生仔マウスに腹腔内投与した.(B)肝臓におけるAlbEGFPが融合したmRNAの発現(n=3).コントロールには未処置のマウスの肝臓を用いた.(C)肝臓サンプルを用いたイムノブロッティングによるEGFPの検出(n=3).コントロールには未処置のマウスの肝臓を用いた.*全てのサンプルで60 kDaに非特異的なバンドが観察された.(D)肝臓のEGFP免疫染色.スケールバーは200 μmである.(E)BZ-X 700イメージングソフトウェアを用いて,EGFP陽性細胞を定量し,平均値±SEMで表記した(EGFP donor,n=2;SaCas9 and EGFP donor,n=4).P値を対応のないStudent t検定により算出した.(F)ベクター投与後6週時点において,肝臓のゲノムDNAを用いたPCRにより,HDRと非相同末端結合(NHEJ)による標的領域へのEGFPの挿入を検出した.vg,ベクターゲノム.図は文献7より引用.

5.ゲノム編集治療によるPC欠損マウスの表現型改善

AlbにmPC-2RKRを挿入するゲノム編集治療により,Proc–/–マウスの表現型を改善できるか検証した.ゲノム編集で作製したProc–/–マウスは1週間以内に死亡した(図4B).SaCas9とsgRNAを発現するAAVベクターと,P2Aを付加したProc-2RKR cDNAドナー配列を搭載したAAVベクターを,Proc+/–マウス同士の交配で得られた新生仔マウスに投与した.しかし,全てのProc–/–マウスはベクター投与後2~3日で死亡し,Proc–/–マウスはゲノム編集による治療効果を得る前に死亡すると予想され,治療効果を得るまで生存させる必要があった.興味深いことに,Proc–/–マウスとFVIII欠損(F8–/–)マウスの交配で得られたPCとFVIIIの二重欠損(Proc–/–F8–/–)マウスは長期に生存することを見出した(図4B).そこで,我々は抗FVIII抗体が胎盤を通過して胎仔に移行することを期待して,Proc+/–妊娠マウスに抗FVIII抗体を定期的に投与し,新生仔にAAVベクターと抗FVIII抗体を投与した(図4A).その結果,Proc–/–マウスの生存期間が延長し,表現型が改善した(図4B).ベクター投与から6週時点でProc–/–マウスのmPC抗原量は286.5±87.6%まで上昇し(図4C),FV活性が有意に低下した(図4D).しかし,FVIII活性の低下(図4E)とAPTTの延長(図4F)はわずかであった.さらに,1/10量のAAVベクターでゲノム編集したProc–/–マウスも数匹生存できたが(図4B),FV活性は低下しなかった(図4D).Proc–/–F8–/–マウスは有意にAPTTが延長しFVIII活性が低下した(図4E,F).

図4

ゲノム編集治療によるプロテインC欠損マウスの表現型改善

(A)Proc+/–メスマウスに抗FVIII抗体(#GMA8015;20 μg/マウス)を投与し,Proc+/–オスマウスと交配した.抗FVIII抗体の投与は出産まで7日ごとに繰り返した.全ての新生仔マウスに,SaCas9とAlbイントロン14を標的としたsgRNAを発現するAAVベクター(6.0×1010 vg/マウス[high dose]または6.0×109 vg/マウス[low dose]),mProc-2RKRを搭載したAAVベクター(2.0×1011 vg/マウス[high dose]または2.0×1010 vg/マウス[low dose]),抗FVIII抗体(1 μg/マウス)を投与した.(B)Proc–/–マウス(n=13),ゲノム編集治療されたProc–/–マウス(high dose,n=9;low dose,n=10),およびProc–/– F8–/–(n=10)のKaplan-Meierの生存曲線.P値をProc–/–との比較でLog-rank検定により算出した.(C~F)血漿のmPC: Ag(C),FV:C(D),FVIII:C(E),APTT(F)(n=5~10,ただし,ゲノム編集治療されたProc–/–マウス[low dose],n=2を除く).P値をWTとの比較でDunnettの多重比較検定を用いた一元配置分散分析で算出した.実験データを平均値±SEMで表記した.mPC:Ag;野生型マウスプール血漿に対するmPC抗原量,FV: C;野生型マウスプール血漿に対する凝固第V因子活性,FVIII: C;野生型マウスプール血漿に対する凝固第VIII因子活性,vg;ベクターゲノム.図は文献7より引用.

最後に,我々はゲノム編集治療したProc–/–マウスの血栓および出血傾向を評価した.肝臓と肺において,微小血管の血栓形成は観察されなかった(図5A).高用量のベクターでゲノム編集したProc–/–マウスおよびProc–/–F8–/–マウスは,テールクリップアッセイによる出血時間が延長した(図5B,C).一方,1/10量のベクターでゲノム編集したProc–/–マウスでは,出血が促進されなかった(図5C,D).治療効果と出血リスクのバランスを考慮し,最適なベクター投与量を決定することは今後の課題である.

図5

ゲノム編集治療で生存したPC欠損マウスの血栓および出血傾向

ゲノム編集治療されたProc–/–マウスの血栓症の改善と出血リスクを評価した.(A)肝臓および肺のヘマトキシリン・エオジン染色の組織像.スケールバーは100 μmである.(B)テールクリップ後の出血時間を記録したろ紙の代表画像.(C,D)出血時間および出血量(n=3~7,ゲノム編集治療されたProc–/–マウス[low dose]n=2を除く).P値をWTとの比較でDunnettの多重比較検定を用いた一元配置分散分析により算出した.実験データを平均値±SEMで表記した.図は文献7より引用.

6.おわりに

我々はPCを活性体として分泌することを可能にし,活性型PCを発現させる新生仔ゲノム編集治療によりPC欠損マウスの治癒に成功した.難治性疾患に対する効果的なゲノム編集治療の開発には,治療に用いるタンパク質とゲノム編集ツールの改良が鍵となる.我々は遺伝子サイズが小さいAcidibacillus sulfuroxidans由来のCas12f(AsCas12f)を改変し,ゲノム編集治療に利用できることを報告した10.AsCas12fは遺伝子サイズが小さいため,単一のAAVベクターで血友病Bマウスのノックインゲノム編集治療が可能である.この技術はPC欠損症やオルチニントランスカルバミラーゼ(OTC)欠損症など,他の致死的な先天性疾患にも応用できるかもしれない.

謝辞

本研究は自治医科大学医学部生化学講座病態生化学部門を中心とした研究チームの成果です.ご指導いただきました大森司教授,森下英理子教授をはじめ,共著者の皆様,病態生化学部門のスタッフ全員に心より感謝申し上げます.なお,本論文のデータはArteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biologyに原著論文として掲載されています.二重投稿を避けるために,本研究について総説的に記載しました.

著者の利益相反(COI)の開示:

本論文発表内容に関連して開示すべき企業等との利益相反なし

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