Journal of Kansai Physical Therapy
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Resting excitability of spinal motor neuron function affects the inhibitory effect of Acupoint Stimulation Physical The
Resting excitability of spiral motor neuron function affects the inhibitory effect of Acupoint Stimulation Physical Therapy
Tomomi HASEMarina TODOMakiko TANITomohito IJIRIToshiaki SUZUKI
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2025 Volume 25 Pages 45-51

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関西理学 25: 45-51, 2025

安静時における脊髄運動神経機能の興奮性の違いが経穴刺激理学療法抑制手技の効果に影響を及ぼす

長谷 朋美 1, 2) 東藤 真理奈 1) 谷 万喜子 1)

井尻 朋人 2) 鈴木 俊明 3)

Resting excitability of spiral motor neuron function affects the inhibitory effect of Acupoint Stimulation Physical Therapy

Tomomi HASE, RPT, MS1,2), Marina TODO, RPT, Ph.D.1), Makiko TANI, LAc, Ph.D.1),

Tomohito IJIRI, RPT, Ph.D.2), Toshiaki SUZUKI RPT, DMSc3)

Abstract

This study investigated the effects of inhibitory techniques in acupoint stimulation physical therapy (ASPT) based on individual differences in the excitability of the spinal motor neuron function at rest. ASPT inhibition techniques were applied to 19 healthy participants during a 25% MVC pinch movement, and the excitability spinal motor neuron function was evaluated using F waves. Individual differences in ASPT inhibition effects were examined by analyzing the correlation between resting F/M amplitude ratios and the reduction in F/M amplitude ratios after the pinch movement. The higher the amplitude of the resting F/M ratio, the greater the reduction in the F/M ratio immediately after ASPT (rs=0.75, p< 0.01). It has been reported that there are individual differences in the excitability of motor neuron function, and it has been shown that individuals with high resting excitability are sensitive to inhibitory effects. Therefore, in this study, the results showed that the higher the resting excitability of spinal motor neurons function, the greater the inhibitory effect of ASPT.

————————————————————————————————— J. Kansai Phys. Ther. 25: 45-51, 2025

Keywords: acupoint stimulation physical therapy, correlation coefficient, amplitude F/M ratio

はじめに

脳血管障害患者に認められる代表的な臨床症状として痙縮があり、日常生活活動の円滑な遂行を妨げる要因となる。痙縮のような筋緊張異常に対する理学療法にはストレッチング1)や低周波刺激 2)、振動刺激 3)などがあり、経穴刺激理学療法(Acupoint Stimulated Physical Therapy:ASPT)もその一つの方法として用いられている。ASPT とは、鍼灸医学における循経取穴の理論を

  1.   

    関西医療大学大学院 保健医療学研究科

  2.   

    医療法人寿山会 喜馬病院 リハビリテーションセンター

  3.   

    関西医療大学

受付日 令和7 年5 月31 日 受理日 令和7 年8 月16 日

応用し、鈴木ら4)が独自に開発した新しい理学療法の手 技である。循経取穴とは、症状のある部位を同定し、そ の経絡上に存在する経穴を治療部位とする考えである5)。 ASPT ではこの循経取穴の理論を用いて、罹患筋を通る 経絡上にある遠位の経穴に対して指を使って刺激するこ とで筋緊張をコントロールする。この圧刺激の具体的な 方法として、経穴を垂直方向に刺激すると罹患筋の筋緊 張を抑制させ、経穴を罹患筋に向けて斜め方向に刺激す ると筋緊張を促通させる4)。ASPT による筋緊張の変化

  1.   

    Graduate School of Health Sciences, Kansai University of Health Sciences

  2.   

    Rehabilitation Center, Kiba Hospital, Medical Corporation, Juzankai

  3.   

    Kansai University of Health Sciences

を神経生理学的に検討する方法の一つとして、脊髄運動神経機能の興奮性の指標とされる誘発筋電図のF波が用いられている。F波とは脊髄運動神経に最大上の電気刺激を与えることですべての運動神経が発火し、そのインパルスが求心性に伝導し、再び遠心性に伝導することで支配筋から得られる複合活動電位である6)。脳血管障害の痙縮を呈す患者に対して理学療法をおこない、手指の随意性が向上したものでは、介入前と比較して介入後で振幅F/M 比が低下したと報告されており7)、F波は痙縮の評価として有用性を示すとされている。

ASPT 抑制手技の効果に関して、高森ら8)は脳血管障害患者の麻痺側母指球上の筋群の筋緊張抑制を目的に循経取穴の理論から選穴した手太陰肺経上の尺沢へ1分間のASPT の抑制手技を試行し、脊髄運動神経機能の興奮性についてF 波を用いて検討した。その結果、振幅 F/M比は ASPT 試行前の安静時と比較して ASPT 試行中と試行後で有意に低値を示したと報告しており、ASPT 抑制手技が脳血管障害片麻痺患者の脊髄運動神経機能を抑制させる有用な方法であることが示唆されている。また、田坂ら9)は健常者に対して最大収縮強度(Maximal Voluntary Contraction:MVC)の 30%強度で母指と示指でのピンチ動作を実施させ、短母指外転筋の等尺性収縮により脊髄運動神経機能の興奮性を高めた状態で疼痛閾値の 75%強度で ASPT の抑制手技をおこなった。その結果、ASPT 抑制手技をおこなった条件ではASPT 抑制手技をおこなわなかった条件と比較してF波出現頻度相対値が低値を示し、脊髄運動神経機能の興奮性が抑制されたと報告している。このように、脳血管障害片麻痺患者と筋収縮中の健常者へのASPT 抑制手技は抑制効

図1 手太陰肺経に所属する尺沢

尺沢は肘前面で肘窩横紋上、上腕二頭筋腱外方の陥凹部に存在する。

果を示すとされている。健常者における筋収縮は、大脳皮質から錐体路を通り脊髄前角細胞を介して筋に伝達され生じるので、脳血管障害片麻痺患者における痙縮とは生理学的機序が異なるが、脊髄運動神経機能の興奮性が増大するという点は共通している。また、健常者における 25%MVC でのピンチ動作の振幅F/M 比や出現頻度は、脳血管障害片麻痺患者の振幅F/M 比や出現頻度と同等の値になることが示されており7,8,10)、脳血管障害片麻痺患者を対象に検討する前段階として、健常者における25%MVC でのピンチ動作中にASPT の効果を検討することは有用であると考える。

先行研究では、健常者の筋収縮中にASPT の抑制手技をおこなうと脊髄運動神経機能の興奮性が低下すると報告されている9,11)。しかし、臨床場面においてASPT 抑制手技を実施するなかでは、その効果に個人差があることを経験した。健常者におけるF 波のパラメーターの正常値には個人差があることから12-14)、ASPT の抑制手技の効果の個人差について、安静時の脊髄運動神経機能の興奮性の違いに着目した。本研究では安静時の脊髄運動神経機能の興奮性の違いが、ASPT の抑制手技の効果に影響を与えるか否かを脊髄運動神経機能の興奮性の指標であるF 波を使用して検討した。

対象と方法

  1.   

    対象

本研究の意義と方法を充分に説明し、同意を得られた神経学的・整形外科的に疾患のない健常者 19 名(男性 13 名、女性6名、年齢 23.2 ± 1.3 歳)とした。被験者は全員右利きであったため、先行研究9)にならって、非利き手である左手を計測肢とした。

本研究の対象者にはヘルシンキ宣言に基づいて、本研究の意義・目的を充分に説明して文書で同意を得た。また、関西医療大学研究倫理審査委員会(承認番号:23-23)の承認を得ておこなった。

  1. 2.  

    方法

1)事前検査

検査姿勢は背臥位にて、左肩関節軽度外転位、左肘関節屈曲伸展中間位、左前腕回外位、左手関節掌背屈中間位とした。ピンチ力の計測には、デジタルキッチンスケールを使用した。左側母指と示指にてデジタルキッチンスケールをつまみ、前方に設置したピンチ力を表示しているデジタルキッチンスケールの液晶画面を写したモニターを見ながら、10 秒間持続して把持できる最大のピンチ力を計測した。計測された結果より、25%MVC を算出し、これを本研究の運動課題とした。なお、母指と示指以外の3指はピンチ動作に参加させないように口頭指

図2 F波刺激試行

ASPT 条件、コントロール条件ともに安静時とピンチ動作中、ピンチ動作直後、5分後、10 分後、15分後にF波を計測した。ASPT条件ではピンチ動作中にASPT抑制手技をおこなった。

示をおこない、目視にて確認した。経穴刺激として、短母指外転筋を通る手太陰肺経上の経穴の一つである尺沢

(肘前面で肘窩横紋上、上腕二頭筋腱外方の陥凹部)を選穴した(図1)。刺激強度の設定において、疼痛閾値の測定には、組織硬度計OE-220(伊藤超短波社製)を用いた。組織硬度計にて、抑制手技である垂直方向への刺激を左尺沢に対しておこない、疼痛を感じたところで被験者の右手で把持したスイッチを押してもらい、疼痛閾値を算出した。それを3回繰り返し、計測した値の平均を疼痛閾値とした。先行研究8)と同様に、この疼痛閾値をASPT 抑制手技試行時の刺激強度に設定した。

2)F 波計測方法

F波の計測方法は以下の通りとした。被験者は背臥位にて 10 分以上の充分な休息をとった後、解剖学的基本肢位にて、非利き手側の正中神経に電気刺激を与えて短母指外転筋よりF波を導出した(安静時試行)。つぎに前方に設置しているデジタルキッチンスケールのモニターを見ながら25%MVC でのピンチ動作を実施させた状態で、組織硬度計を用いて疼痛閾値の強度でASPT 抑制手技である垂直刺激を左尺沢に対して実施し、刺激中のF波を測定した(ASPT 試行)。また、ASPT 試行の直後、5分後、10 分後、15 分後(post0 試行、post5 試行、post10 試行、post15 試行)の安静時のF 波を計測した(ASPT 条件)。同被験者を対象に、別日にコントロール条件として同様の手順でF 波測定をおこない、ASPT試行時はASPT の抑制手技をおこなわず、ピンチ動作のみを実施した(ピンチ動作試行)(図2)。

F波の計測には、Neuropack S3(日本光電社製)を使 用した。刺激条件は、刺激部位を左手関節部の正中神経、刺激頻度 0.5Hz、刺激時間 0.2msec、刺激強度は最大上

刺激(M 波の最大振幅が得られた強度の 1.2 倍)、刺激回数は 30 回とした。記録条件として、探査電極を左短母指外転筋の筋腹上、基準電極を左第1 中手骨背側、接地電極を左前腕中央部に貼付し、帯域周波数は 20Hz~ 5kHz、サンプリング周波数は10kHz とした。

3)検討方法

F波の分析項目は、振幅F/M 比とした。振幅F/M 比はF波振幅の平均を最大M波振幅で除したものである。本研究では、F波振幅の平均として、出現していないF波を0mV と換算した30 回刺激での平均値を用いた。

検討方法は、ASPT 条件とコントロール条件の各6 試行における、振幅F/M 比の条件内比較をおこなった。また、ASPT 条件とコントロール条件のピンチ動作試行、 post0 試行、post5 試行、post10 試行、post15 試行につい て、それぞれ条件間比較をおこなった。この際、ASPT 条件とコントロール条件の計測を別日で実施しているた め、安静時に対する振幅F/M 比相対値を用いて検討し た。ASPT 抑制手技の効果の個人差について、安静時に おける振幅F/M 比とピンチ動作後の振幅F/M 比低下量 との相関関係を検討した。振幅F/M 比低下量は、安静 時における振幅 F/M 比からpost0 試行時の振幅F/M 比 を引いた値をpost0 低下量とし、post5 試行、post10 試行、 post15 試行時の低下量も同様に算出した(post5 低下量、 post10 低下量、post15 低下量)。

  1. 3.  

    統計学的検討

条件内比較では、Shapiro-Wilk 検定にて正規性が棄却されたため、Friedman 検定を実施し、主効果が有意な場合にはBonferroni 法で補正した Wilcoxon の符号付き順位検定による多重比較をおこなった。また、条件間比

図3 振幅F/M 比の条件内比較の結果

ASPT 条件におけるASPT 試行、コントロール条件におけるピンチ動作試行の振幅F/M 比は、各条件の安静時試行、post0 試行、post5 試行、post10試行、post15 試行の振幅F/M 比と比較して有意に増大した(p <0.01)。

図4 振幅F/M 比相対値の条件間比較の結果

ASPT 条件とコントロール条件の振幅F/M 比相対値は、すべての試行で有意な差を認めなかった。

較では、Shapiro-Wilk 検定にて正規性が棄却されたため、 Wilcoxon の符号付き順位検定を実施した。ASPT 抑制 手技の効果の個人差を検討するために、安静時における 振幅F/M 比とpost0 低下量、post5 低下量、post10 低下量、 post15 低下量との関係をSpearman の順位相関係数にて 検討した。有意水準はいずれも5%とし、統計解析ソフトSPSS ver.19(IBM 社製)を用いた。

結 果

ASPT 条件では、ASPT 試行の振幅F/M 比は安静時試

行、post0 試行、post5 試行、post10 試行、post15 試行と 比較して有意に増大した(p <0.01)。コントロール条件 においてもピンチ動作試行の振幅F/M 比は安静時試行、 post0 試行、post5 試行、post10 試行、post15 試行と比較 して有意に増大した(p <0.01)(図3)。ASPT 条件とコ ントロール条件の条件間比較において、振幅F/M 比相対 値はすべての試行で有意な差を認めなかった(図4)。ま た、安静時における振幅 F/M 比と post0 低下量、post5 低下量、post10 低下量、post15 低下量との相関について、有意な強い相関を認めたのはASPT 条件の安静時における振幅 F/M 比と post0 低下量であった(rs=0.75,

図5 ASPT 条件における安静時の振幅F/M 比とpost0 低下量、post5 低下量、 post10 低下量、post15 低下量との相関の結果

有意な強い相関を認めたのはASPT 条件の安静時における振幅F/M 比とpost0 低下量であった(rs=0.75, p<0.01)。

p <0.01)(図5)。コントロール条件においては、全試行で相関を認めなかった(図6)。

考 察

ASPT 条件、コントロール条件の条件内比較において、 ASPT 試行とピンチ動作試行の振幅F/M 比は安静時試 行、post0 試行、post5 試行、post10 試行、post15 試行と 比較して有意に増大した。健常者において、等尺性収縮 をおこなうと収縮強度の増加に伴い脊髄運動神経機能の 興奮性が増大すると報告されている10)。そのため、本研 究ではピンチ動作による短母指外転筋の等尺性収縮によ り、脊髄運動神経機能の興奮性が増大したと考える。ま た、ASPT 条件において刺激中に脊髄運動神経機能の興 奮性低下を認めなかった要因として、ASPT 実施の刺激 強度が関係すると考えた。Bement ら15)は、疼痛刺激に

より運動誘発電位 (Motor Evoked Potential:MEP)が促通されたと報告している。これはMEP が皮質を磁気刺激して筋より導出される波形であることから、疼痛刺激により皮質の興奮性だけでなく、脊髄運動神経機能の興奮性も促通されていることを示している。また、桂木ら16)は健常者の尺沢へ疼痛閾値強度と疼痛閾値の 50%強度でASPT の抑制刺激における脊髄運動神経機能の興奮性変化を比較し、疼痛閾値強度の振幅F/M 比は、疼痛閾値の50%強度での刺激と比較して有意に高値を示したと報告している。このように、疼痛閾値強度の刺激で脊髄運動神経機能の興奮性は増大するとされている。本研究においてもASPT 抑制刺激を疼痛閾値の強度でおこなっていることから、ASPT 試行において脊髄運動神経機能の興奮性が抑制されず、ピンチ動作試行と同様に振幅F/M 比の増大を認めたと考える。

ASPT 条件とコントロール条件の条件間比較におい

図6 コントロール条件における安静時の振幅F/M 比とpost0 低下量、post5 低下量、 post10 低下量、post15 低下量との相関の結果

コントロール条件では、全試行で相関を認めなかった。

て、振幅F/M 比相対値はすべての試行で有意な差を認 めなかった。しかしASPT 条件では、安静時における振幅F/M 比とpost0 低下量において有意な強い正の相関 を認めた。このことから、健常者の筋収縮中にASPT 抑 制手技をおこなうと、安静時の脊髄運動神経機能の興奮 性が高いほど、刺激直後での振幅F/M 比低下量が大き いことが示唆された。安静時の脊髄運動神経機能の興奮 性が高いほど、振幅F/M 比低下量が大きくなることに ついて、神経生理学と東洋医学の観点から考察する。ま ず、神経生理学的観点について述べる。安静時にASPT 抑制刺激をおこなった先行研究において、髙森ら8)は脳 血管障害片麻痺患者に対してASPT 抑制手技をおこなう と、刺激中から刺激直後において刺激前と比較して振幅 F/M 比が有意に低値を示したと報告している。しかし鈴 木ら17)は健常者の安静時にASPT 抑制刺激をおこなうと、振幅 F/M 比、出現頻度ともに安静時に対して ASPT 刺 激試行と刺激後において低下傾向を認めたが、有意な変

化はなかったと報告している。脳血管障害片麻痺患者の振幅F/M 比は5%以上であり18)、健常者における振幅F/ M 比は1~5%とされている12)。先行研究によるASPT抑制手技後の変化を踏まえると、安静時でも脊髄運動神経機能の興奮性が高い脳血管障害片麻痺患者においては、ASPT 抑制手技の抑制効果が高くなっていることが考えられる。前述したように健常者の振幅F/M 比は1~

5%と個人差がある 12)。また、アスリートと一般人から導出したF波を比較した場合、アスリートでは安静時の F波の振幅値は一般人より高いと報告されており19)、健常者でも日常的な筋収縮頻度や筋の発達の違いなどにより脊髄運動神経機能の興奮性が変化することが考えられる。また Greenhouse ら 20)は、MEP と抑制性神経伝導物質であるγ - アミノ酪酸(Gamma-Amino Butyric Acid:GABA)の関係性について、安静時の MEP 振幅が高いほど一次運動野でのGABA 濃度が高いと報告している。GABA は皮質脊髄路の興奮を抑制するもので

あり、MEP 振幅が高く本質的に興奮しやすい皮質脊髄 路ほどGABA 濃度が高いことで、皮質脊髄路の過剰な 興奮が制御されていると考えられている。このことから、本質的に興奮しやすい人ほど抑制がかかりやすいことが 考えられ、安静時の脊髄運動神経機能の興奮性が高い人はASPT 抑制手技の抑制効果が高く、安静時の脊髄運動 神経機能の興奮性が低い人はASPT 抑制手技の抑制効果 が低くなったと考える。

つぎに東洋医学的観点について述べる。東洋医学には、健康でより安定した恒常性の状態を指す中庸という概念 がある21)。東洋医学では中庸を最も理想の状態としてい る。鍼治療とホルモン分泌の関係を検討した先行研究で は、鍼治療をおこなうとホルモンの過剰な分泌は抑制さ れ、ホルモンの分泌低下に対しては分泌を高めるような 中庸化作用が示されると報告されている22)。本研究では 鍼治療を用いていないが、経穴への刺激という点では先 行研究と一致している。そのことから、本研究において 安静時における脊髄運動神経機能の興奮性が高い人には ASPT 抑制手技の効果が高くなり、安静時の脊髄運動神 経機能の興奮性が低い人にはASPT 抑制手技の効果が低 くなる中庸化作用が示されたと考える。

おわりに

本研究では健常成人 19 名を対象に、安静時の脊髄運動神経機能の興奮性の違いに着目し、ASPT 抑制手技の効果を、安静時における振幅F/M 比とピンチ動作後における振幅F/M 比低下量との相関係数にて検討した。その結果、安静時における振幅F/M 比とASPT 抑制手技直後における振幅F/M 比低下量に強い正の相関を認めた。このことから、健常者における脊髄運動神経機能の興奮性が高いほど、ASPT 抑制手技の抑制効果が高いことが示唆された。

本研究は健常者での検討であり、脳血管障害片麻痺患者における痙縮筋に対して検討がおこなえていない。そのため、臨床場面においても、安静時の振幅F/M 比が高いほどASPT 抑制手技の効果が高くなるかは明確に言及することが困難である。今後、ASPT 抑制手技の効果についてより詳細に検討するために、F波をさまざまな対象者や分析方法で検討していきたいと考える。

利益相反

開示すべき利益相反はない。

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