2025 Volume 74 Issue 2 Pages 187-188
目的:本研究は,山形市保健所所有のデータから新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)流行の産後うつに対する影響および山形市独自のハイリスク妊婦(社会心理学的・精神医学的リスクを伴う妊婦)基準項目の活用状況と課題を可視化し,今後の母子保健行政に活かすことを目的とする. 方法:対象者は,令和元年度(流行前)妊娠届出者1,822名中ハイリスク妊婦876名と令和2年度(流行後)妊娠届出者1,702名中ハイリスク妊婦743名で,データは妊娠届出書・母子健康手帳交付時アンケート,保健師が妊娠届出提出時に産前フォローの要否を判断する山形市独自のハイリスク妊婦基準項目,産後訪問時の育児支援チェックリストおよびエジンバラ産後うつ評価(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)を用いた.流行の影響は両年度のEPDS総得点,EPDS 高得点者(9点以上)および各項目の得点を,ハイリスク妊婦基準項目の活用状況はEPDS高得点者の該当割合をそれぞれ分析し,母子健康手帳交付時アンケート内と育児支援チェックリスト内の自由記載は質的記述的に分析した. 結果:両年度のEPDS総得点平均とEPDS高得点者の割合に差はなかったが,令和2年度のEPDS高得点者の総得点平均が高く,ハイリスク妊婦基準の該当項目数も多かった.ハイリスク妊婦基準項目では,EPDS高得点者で精神科既往歴と育児支援者がいない者の割合が高かったが,年度での差はなかった.自由記載のカテゴリ化分析から,保健師の着眼点は妊婦の健康管理とともに就労生活,公的支援の有無等の多岐にわたり,また対象者の虐待要因として単独育児が確認できた. 結論:実地データからCOVID-19流行の行動制限の産後うつに対する影響の一部が確認された.ハイリスク妊婦基準項目はスクリーニングとして利用されていたが,多項目,アンケートとの重複,過剰判定になりやすい点が課題であった.面談時の保健師の着眼点は系統的に次世代に伝えるとともに,単独育児における虐待のリスクを即時に察知して対策をとる必要がある.