Journal of Information Processing and Management
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Opinion
On Japanese fair use in Japanese copyright law (a followup article)
Wataru SUEYOSHI
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2013 Volume 55 Issue 10 Pages 767-770

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1. はじめに

筆者は,前回「情報解析と著作権」1)で,平成24年著作権法改正における日本版フェア・ユースの挫折について解説した。重要な問題であるから,ここに再論し,今回は改正法の解釈を検討する注1)

2. 日本版フェア・ユースと改正法の対比

前回述べたとおり,平成24年著作権法改正では,権利制限規定として新たに「日本版フェア・ユース」が立法化される予定であった。ここで,A類型,B類型およびC類型の3類型が想定されていた(文化審議会著作権分科会報告書2)・2011年1月)。この3類型を,表1 の左欄に示す。また,上記報告書は,この3類型における想定局面をいくつか示していた(A類型で1つ,B類型で2つ,C類型で3つ)。上記各想定局面と,上記改正法の対応関係について,同表の右欄に示す。このように作成した同表で両者を対比してみよう。

表1 「文化審議会著作権分科会報告書」(2011年1月)と改正法との比較
報告書の3類型 想定局面と改正法
A その著作物の利用を主たる目的としない他の行為に伴い付随的に生ずる当該著作物の利用であり,かつ,その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの ●「写り込みの適法化」
→具体的個別規定たる著作権法30条の2(付随対象著作物の利用)となる
B 適法な著作物の利用を達成しようとする過程において合理的に必要と認められる当該著作物の利用であり,かつ,その利用が質的又は量的に社会通念上軽微であると評価できるもの ●「著作権者の許諾に基づく利用をするための検討過程における利用」
→具体的個別規定たる著作権法30条の3(検討の過程における利用)となる
●「個別権利制限規定に基づく利用をするための検討のための利用」
規定なし
C 著作物の種類及び用途並びにその利用の目的及び態様に照らして,当該著作物の表現を知覚することを通じてこれを享受するための利用とは評価されない利用 ●「映画・音楽の再生に関する技術開発や検証のために必要な映画や音楽の複製」
→具体的個別規定たる著作権法30条の4(技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)となる
●「ネットワーク上で複製等を不可避的に伴うサービス開発・提供行為等に含まれる著作物の利用行為」
→具体的個別規定たる著作権法47条の9(情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用)となる
●「技術の急速な進歩への対応やインターネット等を活用した著作物の利用」
規定なし

上記想定局面のうち,2か所において,規定が設けられていない(B類型で1つ,C類型で1つ)。後述のとおり,前者は当然に著作権が及ばないと考えられたため規定されなかったが,後者には,そのような事情はない。

3. 改正法の解釈

それでは,改正法条文を検討してみよう(なお,下記条文には適宜,筆者が下線を施している)。

(付随対象著作物の利用)

第30条の2 写真の撮影,録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて,当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は,当該創作に伴つて複製又は翻案することができる。ただし,当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製又は翻案の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。

2 前項の規定により複製又は翻案された付随対象著作物は,同項に規定する写真等著作物の利用に伴つて利用することができる。ただし,当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。

本条1項の典型例としては,写真を撮影する際にポスターや絵画が写り込む場合や映像を撮影する際に音楽が録り込まれる場合等がある。

「分離することが困難である」とは,ある「写真等著作物」を創作する際に,創作時の状況に照らして「付随対象著作物」を除いて創作することが,社会通念上困難であると客観的に認められることをいう注2)

「軽微な構成部分」とは,著作物の種類等に照らし,個別の事案に応じて判断されるものであり,あらかじめ定量的な割合が決まっているものではない。

本条1項ただし書は,著作権者の著作物の利用市場と衝突するか,あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するとの観点から,最終的には司法の場で個別具体的に判断される。

本条2項の典型例は,例えば,ある著作物が写り込んだ写真をブログに掲載する,この写真をプリントアウトして友人に配布する等である。

撮影後に画像処理で消去可能だとしても,本条2項は適用される。

営利目的でもいいが,本条2項ただし書を充足しなければならない注3)

(検討の過程における利用)

第30条の3 著作権者の許諾を得て,又は第67条第1項,第68条第1項若しくは第69条の規定による裁定を受けて著作物を利用しようとする者は,これらの利用についての検討の過程(当該許諾を得,又は当該裁定を受ける過程を含む。)における利用に供することを目的とする場合には,その必要と認められる限度において,当該著作物を利用することができる。ただし,当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は,この限りでない。

B類型のうち「個別権利制限規定に基づく利用をするための検討のための利用」の想定局面につき規定を設けていないが,これは,当然,権利侵害にならないと理解されたためである。

主体は,著作権者の許諾を受けた者と,著作権法の裁定制度により裁定を受けて著作物を利用しようとする者とである。

「利用しようとする者」であればよく,最終的に利用が行われることは要件でない。

「必要と認められる限度」とは,著作物の種類や利用態様等に照らして個別の事案ごとに司法判断されるが,企画検討の過程において,合理的な範囲の者を超えて広く頒布する場合には限度を超える注4)

(技術の開発又は実用化のための試験の用に供するための利用)

第30条の4 公表された著作物は,著作物の録音,録画その他の利用に係る技術開発又は実用化のための試験の用に供する場合には,その必要と認められる限度において,利用することができる。

対象は,公表著作物だけである。

「その他の利用に係る技術」とは,例えば,著作物の送信や通信に関する技術,上映に関する技術,視聴や再生に関する技術,翻訳や翻案に関する技術等である。

「開発又は実用化のための試験の用に供する」とは,技術の開発のための試験や,技術の実用化のための試験における検証のための素材として著作物を用いる等をいい,技術の開発を検討する際の参考文献として論文を複製することは本条の対象ではない。

「必要と認められる限度」については,例えば,上映技術の試験のため,広く観客を集めた上映会はこの限度を超える注5)

(情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な情報処理のための利用)

第47条の9 著作物は,情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合であつて,当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理を行うときは,その必要と認められる限度において,記録媒体への記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)を行うことができる。

主体・客体に限定はない。

「情報通信の技術を利用する方法により情報を提供する場合」とは,情報通信技術,典型的にはインターネットを利用して情報を提供する場合全般をいい,例えば,動画共有サイトやソーシャルネットワーキングサービス,掲示板サイト等である。

「当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機による情報処理」とは,例えば,動画共有サイトにおいて,さまざまなファイル形式で投稿された動画を提供する際に,統一化したファイル形式にするための複製,ソーシャルネットワーキングサービスにおいて投稿コンテンツを整理等するために必要な複製,高速化のための分散処理に必要な複製等である。

「記録又は翻案(これにより創作した二次的著作物の記録を含む。)」に限られ,自動公衆送信等は本条の対象外である注6) , 注7)

4. おわりに

以上のとおり,今回の改正法は,かなり限定されたものとなってしまった。また,C類型の想定局面のうち,「技術の急速な進歩への対応やインターネット等を活用した著作物の利用」に対応した立法手当はない。

Peter Ganea博士は,東京美術倶楽部鑑定書事件注8)での「引用」の解釈等に言及し,日本の判例が著作権の限界の確定に実質的な機能を発揮していることを,フェア・ユースの文脈で示した注9)

今後の,フェア・ユース的な判例法の展開や,日本版フェア・ユースの立法に期待したい。そのために,著作権の権利制限規定の必要性を,皆様から情報発信していただきたいと心から思う。

執筆者略歴

末吉 亙(すえよし わたる)

1956年10月11日生まれ,1981年3月東京大学法学部卒業,1983年4月弁護士登録。現在,潮見坂綜合法律事務所所属。文部科学省文化審議会著作権分科会法制問題小委員会委員,知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員,東京大学法科大学院非常勤講師。

本文の注
注1)  解釈に当たっては,文化庁長官官房著作権課「著作権法の一部を改正する法律(平成24年改正)について」コピライト618号(2012年10月)16頁以下を主に参照する(以下「解説」として引用する)。なお,ここで紹介する新しい権利制限規定の施行日は,いずれも2013年1月1日である。

注2)  被写体の背後に絵画が掛かっているという場合,絵画を外して写真撮影することは社会通念上困難とする見解がある(池村聡「著作権法の一部を改正する法律(平成24年改正)について」NBL983号(2012年8月15日)18頁以下,特に21頁)。

注3)  以上,本条につき解説22頁。

注4)  以上,本条につき解説23頁。

注5)  以上,本条につき解説23~24頁。

注6)  本条による情報提供において,結果的に著作権を侵害する情報が含まれていたとしても,本条の適用はある(上掲池村論文,22頁)。

注7)  以上,本条につき解説24頁。

注8)  知財高判平成22年10月13日平22(ネ)10052判時 2092号135頁(絵画の鑑定書に絵画の複製が添付された場合において,権利制限規定の引用に当たるとされた)。

注9)  Moritz Bälz他編『BUSINESS LAW IN JAPAN-CASES AND COMMENTS』(Wolters Kluwer,2012年)497頁以下,特に501頁以下。著名な最高裁判例パロディ写真事件に関する解説。同書は,マックス・プランク外国私法・国際私法研究所のHarald Baum教授の還暦記念論文集であり,72件の日本のビジネス判例を英語で解説する800頁を超える大著である。

参考文献
 
© 2013 Japan Science and Technology Agency
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