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Guide to effective use of statistics : Part 14: Official macroeconomic statistics
Shoji ASADA
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2012 Volume 55 Issue 5 Pages 354-363

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1. マクロ経済の主要統計

前回までは,家計,企業といった経済単位,産業の業種別の主要公的統計を紹介してきたが,今回はわが国全体のマクロ経済を把握した統計をご紹介する。表1にマクロ経済の主要な統計を示した。

表1 マクロ経済の主要統計一覧

マクロ経済の統計は,これまでのシリーズで紹介してきた調査統計などを組み立てた加工統計である。代表的なものが,内閣府の「国民経済計算」で,一国経済全体をとらえる総合性・一覧性が高いという特徴を持っている。また,SNA(System of National Accounts)体系が国連から勧告され,これに基づきわが国の「国民経済計算」が作成されているため,海外経済との比較も容易となっている。その統計の中でも最も注目されるのが,国内総生産(GDP: Gross Domestic Product)の値である。特に「四半期別GDP速報(QE: Quarterly Estimates)」は,景気判断の材料として,国の政策や企業の意思決定に大きな影響を及ぼしている。「国民経済計算」のうち,支出系列および雇用者報酬について四半期ごとに公表することで,カレントな景気判断を行うための基礎資料となることを目的としている。1次速報は当該四半期終了後から1か月と2週間程度後,2次速報は,1次速報以降新たに利用可能となった基礎資料を用いて,さらに約1か月後に公表される。

「県民経済計算」は,「国民経済計算」に準拠して計算された都道府県レベルの経済活動状況の推計であり,県内総生産,県民所得などの指標が推計されている。「国民経済計算」における海外との輸出入に該当するものが,「県民経済計算」では県外との財貨・サービスの移出入である。概念上は,各都道府県の県内総生産の合計は国内総生産となるが,「国民経済計算」における海外との貿易が税関における通関手続きなどによって正確に把握できるのに対して,都道府県間の取引は把握が困難であることなど推計誤差があるため,県内総生産の合計と「国民経済計算」で推計されている国内総生産には若干の乖離がある。

もう1つの主要な統計が,総務省が取りまとめ10府省庁で共同作成している(以下総務省等)「産業連関表」である。こちらも加工統計で,産業間の取引の状況を総体的に把握するものである。冊子体では,商品(財・サービス)を約500に部門分類した結果が表章されている。インターネット上では,190分類までの集計結果が公開されている。これらは5年に1回の発表である。内閣府の「SNA産業連関表」は,87商品に限るものの国民経済計算計数をもとに推計し毎年数値を発表している。また経済産業省では,総務省等の約500分類の表に基づいて延長推計した「簡易延長産業連関表」を毎年発表している。ただし平成12~15年までの間は休止している。さらに,経済産業省では,地域間の産業別交易構造などを明らかにし,地域間相互依存関係を通じた各種の地域間波及効果分析が可能となる「地域間産業連関表」も作成している。

なお,「国民経済計算」では,名目値と実質値の2種類の数値を明らかにしている。名目値から物価の変動を差し引いたものが実質値であるが,物価の変動を把握するための主要な公的統計の1つが,総務省の「消費者物価指数」である。

同じく内閣府の「景気動向指数」は,生産,雇用などさまざまな経済活動での重要かつ景気に敏感に反応する指標の動きを統合することによって, 景気の現状把握および将来予測に資するために作成された指標である。コンポジットインデックス(Composite Index: CI)とディフュージョンインデックス(Diffusion Index: DI)があり,CIは構成する指標の動きを合成することで景気変動の大きさやテンポ(量感)を,DIは構成する指標のうち, 改善している指標の割合を算出することで景気の各経済部門への波及の度合い(波及度)を測定することを主な目的としている。

財務省の「財政統計」は,国の行う一般行政活動や関連事業活動の実態を,収入・支出,資金運用,債権・債務,財産取得・処分などの諸側面について計数として表示した業務統計である。

日本銀行の「資金循環統計」は,わが国における金融機関,法人,家計といった各部門の金融資産・負債の推移などを,預金や貸出といった金融商品ごとに日本銀行が記録した統計である。

また財務省と日本銀行が共同で作成している「国際収支統計」は,外国との間で行った財貨,サービス,証券等の各種取引や,それに伴う決済資金の流れなどを体系的に把握,記録したものである。モノや資金の外部との出入りを記録するという意味では,一国の対外的な家計簿のようなものである。

2. 主要統計の概説

2.1 国民経済計算(内閣府)

2.1.1 統計の概要

「国民経済計算」は,わが国の経済の全体像を国際比較可能な形で体系的に記録することを目的に,国連の定める国際基準(SNA)に準拠し,統計法に基づいた基幹統計として作成される。

その核となる国内総生産勘定は,ある期間内に新しく生産された財貨・サービスの価額(付加価値額)を推計するもので,GDPと呼ばれている。国内総生産のとらえ方には,以下のように3種類がある。

  1. (1)   生産額から生産のための原材料・燃料などとして使用された額(中間投入額)を差し引いて付加価値を計算する生産面からのアプローチ。
  2. (2)   生産された生産物がどれだけ最終消費され,どれだけ投資へ回されたか輸出入を含め最終需要額をとらえる支出面からのアプローチ。輸入は海外の生産分であり,輸入が増える分だけ国内生産が減るので控除項目となる。
  3. (3)   生産活動に投入された生産要素である資本に対する付加価値の分配分としての営業余剰(利潤),そしてもう1つの生産要素である労働に対しての分配分としての雇用者報酬(賃金)などを集計する分配面からのアプローチ。

この三面からの推計値は理論上は一致する。これを三面等価の原則という。わが国では,生産面と分配面が一致するよう作成され,もう1つの支出面との差を統計上の不突合として表章している。わが国の国内総生産(GDP)というときは,推計精度の高い支出面からの推計結果を指す。どちらの数字を生かすかは,国によって異なり,精度の高い統計のほうを生かしている。国によっては,両方の平均の数字を表章しているところもある。

わが国における公的統計としての国民所得統計は,内閣統計局が昭和3年に「大正14年における国民所得」をまとめたのが最初で,その後,5年,10年と国勢調査年について推計されていた。戦後,経済安定本部へ移された国民所得統計は,昭和28年に,経済審議庁(現内閣府経済社会総合研究所)から「昭和26年度国民所得報告」として発表された。以来毎年公表されるようになった。その後,国連をはじめOECDや諸外国における推計基準の改定など国際的動向を受け,わが国の国民所得統計も改定を重ねてきた。

旧SNAは,国民総生産(Gross National Product: GNP)に代表される国民所得統計(ある一定期間における財貨・サービスの生産,分配,支出の状況を記録した),いわばフロー面だけをとらえた統計であったが,その後,昭和43年(1968年)の国際連合において採択された68SNAを採用し,フロー面の状況を示す国民所得統計だけでなく,期末・期首の資産の状況を示す国民貸借対照表を加えストック面を把握できるようになった。さらに国民所得統計でとらえていた実物取引に加え金融取引を示す資金循環表,財貨・サービスの産業間の取引を示す産業連関表,海外との取引を示す国際収支表も含め,網羅的かつ整合的に把握できるようになった。そして昭和53年には全面的に68SNAに切り替えられた。

しかし,経済社会が大きく変わり,政府の役割の変化,通信・コンピューター等に代表されるサービス活動の重要性の増大,金融市場の複雑化が急速に進んでいることなど,時代に対応した国民経済計算体系を整備する必要が生じてきた。このため,平成5年(1993年)に25年ぶりに新しく国連が提示した93SNAにおける勧告に沿って,表章形式,項目の名称・概念,主要集計量の1つである国内総生産,上記5勘定の整合性の確保等いくつかの変更がなされ,平成12年に93SNAへと移行した。

「国民経済計算」の推計には,暦年および四半期別の確報のほか,「国民経済計算」の一部である国内総生産(支出側)および雇用者報酬に関して四半期ごとに公表される「四半期別GDP速報(QE)」とがある。「四半期別GDP速報」は速報性を重視し,支出系列および雇用者報酬について四半期ごとに公表することで,カレントな景気判断を行うための基礎資料となることを目的としている。

2.1.2 統計からわかること

(1) 国内総生産(支出側)

内訳は,大別すると次の6項目からなる。

  • •   家計(個人企業を含む)等の民間最終消費支出
  • •   政府の公務員の給与,政府による購入額である政府最終消費支出
  • •   建設物,機械装置,住宅建築などの総固定資本形成
  • •   原材料,仕掛品,製品などの棚卸資産の増減である在庫品増加
  • •   財貨・サービスの輸出
  • •   (控除項目としての)輸入

(2) 国内総生産(生産側)

国内総生産(生産側)の内訳は,次の通りである。

  • •   生産の源泉となった労働力への報酬である雇用者報酬と資本への報酬にあたる営業余剰および個人企業の営業余剰である混合所得
  • •   間接税から補助金を控除した純間接税
  • •   生産に当たって使用された生産設備などの資本の年間消費分に当てる固定資本減耗

間接税は,財貨・サービスの生産・販売・購入・使用に関して生産者に課せられる税金であり,その負担が価格として最終購入者へ転嫁されるので国民経済計算に算入される。消費税,酒税,取引所税,印紙税,石油税などがある。一方,補助金は,産業の振興や市場価格を抑えるために,政府から産業に対して給付されるものである。補助金が出た分だけ,市場価格が低く抑えられるので,その分を差し引いて国内総生産(生産側)は計算される。間接税と補助金は,政府の産業への介入の度合いによって大きくも小さくもなり,政府の施策の1つの柱でもある。

固定資本減耗は,企業会計でいうところの減価償却である。構築物,設備,機械などの再生産可能な有形固定資産は,通常の摩損および損傷,予見される滅失,通常生じる程度の事故による損害などからくる減耗分を評価した額であり,その分有形固定資産を代替するための費用を発生させるので,総生産の一部を構成する。

2に示した国内総生産(生産側)の値は,支出側との不突合を調整したものである。

表2 国内総生産勘定(生産側および支出側)

(3) 国民総所得(GNI)

国民総所得(Gross National Income: GNI)は,一国全体を所得の面(分配面)からとらえたものである。

国民(居住者)とは,領土内に6か月以上居住する者と国外に2年未満居住する者のことである。国籍の如何は問わない。企業の所得については,国内に所在する企業すべての所得が対象であり,外資系であるか否かは問わない。なお,平成12年までは,国民総所得(GNI)は後述する国民総生産(GNP)といわれていた。

(4) 海外との取引額

海外との取引は,以下の通りに大別される。

  • •   財貨・サービスの輸出入(輸入された財貨・サービスは,中間消費,最終消費等に向けられる)
  • •   所得の受け払い(利子,配当などの財産所得,雇用者報酬)
  • •   経常移転(国際機関に対する分担支払い金など)
  • •   各種の資本取引(直接投資,借款,対外証券投資など)

(5) 国民資産

ストック編では,資産と負債の状況がわかる。国民経済全体で所有する非金融資産および金融資産の総額を国民資産という。非金融資産は,在庫および住宅,建築物,機械などの有形固定資産,無形固定資産からなる生産資産と土地,森林,地下資源および漁場からなる有形非生産資産に区分される。

(6) 国富

国民の正味資産のことを国富という。正味資産は非金融資産と金融資産の合計である国民資産から負債を控除した額である。国民の金融資産と負債は国民全体としてみれば相殺され,海外との取引による対外純資産だけが残るので,国富は非金融資産と対外純資産の合計に等しくなる。

2.1.3 読む上での注意点

近年では,GDP(国内総生産)で,国力を示しているが,かつてはGNP(国民総生産)が用いられていた。その違いは,一口で言えば,領土で見るか,人で見るかという違いである。日本という領土内で生み出された付加価値の総額がGDPである。領土内で,生み出した主体が居住者(いわゆる日本人)か非居住者(いわゆる外国人)か,日本企業か外国企業かを問わない。

それに対して,GNPは,国民(居住者(含む企業))が生み出した付加価値の総額である。国民総生産は,国内総生産に海外から受け取る要素所得(雇用者所得,投資収益等)を加えて,海外へ支払う要素所得を差し引いたものである。

日本とアメリカは,GNPを用いていたが,国際的な比較のために,ヨーロッパで用いられているGDPを用いるようになった。ヨーロッパの各国は,陸続きで,国境を簡単に越えて労働者が移動するために,人を基準にした統計を取ることは実情に合わないのである。

なお,前述したように,GNPという用語は,現在では使われておらず,代わってGNI(国民総所得)が用いられている。

GDPには,名目と実質の値があるが,その違いは,その時々の価格で評価したものが,名目値であり,物価の値上がり,値下がりを差し引いたものが実質値である。企業などで自社の利益などと比較する場合など一般的には実体経済を映している名目値が参考にされる。数量ベースで経済を見ようとした場合には,実質値が用いられる。エコノミストは実質値を用いるケースが多い。

実質値を割り出すに当たって用いられる値をデフレーターと呼んでいる。実質値とデフレーターの計算方法については,平成16年7~9月期の2次速報および15年度の確報から支出系列に,また16年度確報から生産系列に,それぞれ「連鎖方式」を導入した。それまで採用していた「固定基準年方式」には,基準年から離れるに従って一定方向へのバイアスが生じる性質があり,実質経済成長率が過大に評価される傾向がある(例えば,コンピューター等の価格低下の著しい品目の影響が過大に評価される)。このようなバイアスを取り除き,最近のウエイト構造を反映させるため,93SNAでは実質値およびデフレーターの計算においては連鎖方式を採用することが歓奨されている。「連鎖方式」とは,毎年基準となる年を前年とし,それらを毎年毎年積み重ねて接続する方法のことであり,毎期基準改定しているのと同じこととなるため,「指数バイアス」はほとんど生じないことが知られている。

「国民経済計算確報」は,生産・分配・支出・資本蓄積といったフロー面や,資産・負債といったストック面も含めて,年に1回作成・公表している。「国民経済計算」は数多くの基礎統計を総合的に加工して推計されるものであるので,確報を公表した後においても,新しい統計情報が入手されれば,既公表の計数が変更されることになる。通常,確報時には,確報対象年度の前年度の計数が必ず修正されるが,さらに,5年ごとに公表される「産業連関表」,「国勢調査」(総務省)などが整備されたときには,基準改定が行われ計数が遡及改定されるとともに基準年が変更される。

2.2 産業連関表(総務省等)

2.2.1 統計の概要

「産業連関表」は,日本国内の各産業が生産した,財・サービスを約500部門に分類して,それぞれの産業間における仕入れ・販売の関係を金額で表したものである。一定期間(通常1年間)に行われた財・サービスの産業間取引を1つの行列(マトリックス)に示した統計表で表している。列(縦,407(H17年表))は財・サービスの生産に当たって投入された原材料および粗付加価値の構成,行(横,520)は生産された財・サービスの販売(産出)先の構成が示されており,投入産出表とも呼ばれている。

表3 産業連関表の構造

わが国の「産業連関表」は,昭和26年表が最初で,その後30年表からは関係各省庁(近年では10府省庁)の共同作業により,5年ごとに作成されている。総務省が取りまとめを行っている。

取引基本表,投入係数表,逆行列係数表等からなっており,取引基本表は,産業間で取引された財・サービスを金額で表示したものである。投入係数表は,取引基本表の中間需要の列ごとに,原材料等の投入額を当該産業の産出額で除して得られる係数表である。ある産業において1単位の生産を行うときに必要な原材料等の単位を示すものである。また,逆行列係数表は,ある産業部門に1単位の最終需要があった場合,それが各産業部門に対して直接・間接にどれだけの生産波及を及ぼすかその波及効果の大きさを示した係数表である。「産業連関表」は,取引基本表独自でも産業構造を明らかにすることができるが,さらに,投入係数表や逆行列係数表を用いる産業連関分析によって,経済予測や経済計画の策定など広範に利用されている。

例えば,自動車を作るためにどの産業からどれだけ材料などを仕入れているか,製品としての自動車が最終的にどこに売られたか,どれだけ輸出されたかなどがわかる。そして,産業ごとの国内生産額・輸出入額,雇用者所得,企業の営業利益などの全貌を俯瞰できるようにしたものである。したがって,例えばある産業が何らかの理由で急成長した場合に,どの産業にどれだけの影響が及ぼされるかを推定できる。

統計の制作に当たっては,次のようなプロセスを経ている。

  1. 1)   まず,部門分類の分割・統合という作業を1年余り行う。投入構造と産出構造がほぼ同じものをそれぞれ1つの部門とする。昭和26年に作成したときは182の部門であった。その後300,450,500と増えてきており,昭和45年以降はほぼ500あまりの部門設定になっている。
  2. 2)   次に,「工業統計調査」(経済産業省),「貿易統計」(財務省),「サービス業基本調査」(総務省)を組み替え集計し,その他の一次統計を収集する。そして,投入額と産出額を推計する。一次統計だけでは不十分な部分を特別調査を実施して補完する。1)の作業と並行して行い3年を要する。
  3. 3)   集計された数字を基に,投入側の数字と産出側の数字を調整する。2つの調査があった場合,より精度の高い調査の数字を用いる。基幹統計,一般統計,業務資料の順で用いる。基幹統計や一般統計は政府が責任をもって公表しているものであり,精度が高いといえる。調整するための関係省庁の会議(幹事会)は約40人のメンバーで構成されているが,個別の問題を処理するため,10人前後のメンバーによる検討委員会を適宜設置して進めている。
  4. 4)   最後に過去3回分の調査の接続表を作成する。実質と名目の数値を表示するので,変化をつかむことができる。

海外では50か国以上で作成されているが,その中でも,わが国の「産業連関表」は精緻さにおいてトップクラスといわれている。先進国では5年に1回だがその他の国では10年に1回であったり一度きりの作成にとどまっている。他の国では,部門が産業であったり,産業と商品(財・サービス)のクロスであったりだが,わが国はいきなり商品と商品のクロス表の作成が可能である。これは,わが国は基礎統計が他の国に比べてそろっていることによるものである。

2.2.2 統計からわかること

(1) ある商品を生産するに当たって他のどの商品をいくら購入したか

投入表は,その製品を生産するのに要した費用の構成をつかんだものであり,以下がわかる。

  • •   生産のために原材料をどこからどれだけ買ったか(中間投入)
  • •   雇用者にいくら払い,部門の利潤はいくらか(新たに生まれた価値=粗付加価値)

ある商品の購入額トータルを見ようとすると,投入表から内生部門計を見ればよい。

(2) ある商品を他のどの商品向けにいくら販売したか

産出表は,各産業が生産した商品の販路の構成を示したもので,どこへどれだけ販売したかがわかる。このうち

  • •   各産業へ原材料として販売されるものを中間需要
  • •   家計,政府などで消費されたり,企業などの投資や外国の需要に応じて輸出されたものを最終需要

と呼んでいる。

(3) 各商品の国内生産額

各商品の投入額の合計(国内生産額)と産出額の合計(国内生産額)が表示されており両者は一致している。

(4) 各産業の輸出依存度,輸入依存度

産出表に,国内生産額と輸出額が記されており,生産額に占める輸出の割合がわかる。また,同じ表に輸入額が表示されている。輸入が増えているということは,需要合計は大きくなるが,需要合計に占める国内生産額は相対的に小さくなる。

投入表では,ある産業がある産業から購入した額のうち,輸入がいくらかという内数がとらえられている。

(5) 卸,小売り等の流通マージン

産出表に,生産者価格(生産者の出荷段階での価格表示)と購入者価格が表示されている。その差として商業マージン(卸売り,小売り別),国内貨物運賃(鉄道,道路輸送,沿海,港湾運送,航空,取扱,倉庫別)が表示されている。

(6) 流通在庫の純増

産出表の国内最終需要計の内訳として各種の在庫の純増額が記されている。

(7) 産業ごとの職業別の雇用者数

雇用マトリックスという表に91部門の産業別に288職種ごとの雇用者数が把握されている。逆にある職種の人がどのような産業にどれだけ雇用されているかという表もある。

2.3 消費者物価指数(総務省)

2.3.1 調査の概要

各種の商品やサービスの価格をまとめて見るために考えられたものが物価指数で,そのまとめ方によっていくつかの種類の物価指数を作成している。代表的なものとして2つある。1つは日本銀行で作成している企業物価指数(WPI)で,卸売段階における商品の物価の動きを見るものである。もう1つが消費者物価指数(CPI)であり,家計消費段階における各種の商品やサービスの物価の動きを見るもので,物価全体の平均を表す総合指数や,それを構成する品目別の指数などがある。物価指数は,物価の動きを客観的な方法でわかり易い数値として表すもので,ちょうど温度計が日々の暑さ寒さを測るように,物価の総合的な動きを測る物差しの役目を果たしている。

CPIは,昭和21年8月に作成が開始されて以来, 「経済の体温計」として,わが国の物価や財政・金融政策をはじめとする経済政策を的確に推進する上で極めて重要な指標となっている他,国民経済計算や家計収支などを実質化(物価変動を除去して実質的な価値額を求める)するデフレーターのために利用されている。また,国民年金や厚生年金などの給付額は,物価の動きに応じて改定される物価スライド制が法律によって定められているが,消費者物価指数は,その物価スライドの算出基準として用いられている。その他,公共料金や家賃の改定の際に参考とするなどいろいろな利用目的に応じて官民を問わず幅広く利用されている。

CPIの計算にはラスパイレス方式が用いられている。これは,ある基準となる時点に世帯で実際に購入した商品やサービス全部を買物かごに入れたと考え,その費用を計算しておき,次に,比べる時点において,先ほど用意した買物かごの中身と同じ品物を同じ量だけ買いそろえたとした場合の費用を計算し,両方の費用を比べるという考え方である。買物かごの中身の費用を比べることからマーケット・バスケット方式とも呼ばれている。

CPIは,基準年となるある年次を決めてその消費行動に基づいて,バスケットが決められている。ここからバスケットの中身を固定して,物価の変化のみを測っていくのだが,いつまでも同じにしていると,消費生活の移り変わりの変化に追いつけなくなってしまう。バスケットの中身がどんどん古くなり,現実の消費生活を反映しないものになって意味を持たなくなってしまう。そのために5年ごとに基準年を変えると同時に品目の見直しや指数を計算する際のウエイトの変更を行っている。

CPIは,「家計調査」(総務省)と「小売物価統計調査」(総務省)の2つの調査結果を元に作成する加工統計で,「家計調査」から指数を計算するためのウエイトのデータを,そして,「小売物価統計調査」から月々の価格のデータを得て計算している。「家計調査」は,全国約9,000世帯を対象として,日々の品目別の支出額や収入を調べているもので,「小売物価統計調査」では,全国約26,000店舗で,毎月決まった調査期日に決まった品目・銘柄の小売段階における価格を調査している。

CPIを計算するためには,まずバスケットの中に何を入れるかを決める必要があるわけだが,すべての商品やサービスを対象とするのは不可能だから,世帯が日々購入する品目の中で支出金額の大きい品目を代表選手として選ぶ。現在,CPIで採用されている品目は588品目だが,これは,「家計調査」の結果を元にして,消費支出総額の1万分の1以上の品目が選ばれている。指数の実際の計算方法を簡単に説明すると,各品目ごとに比較時点の価格を基準時点の価格で割ることにより,基準時点を100とした品目ごとの指数を作る。これを「家計調査」から求めたウエイトで加重平均することにより,最終的に消費支出全体の平均指数(=総合指数)となる。このウエイトというのは,家計の消費支出の総額に対する当該品目の割合のことで,加重平均するということは,平均を求めるときに単純平均するのではなく,支出金額の大きさに応じて重みを付けるということである。この例については,本シリーズ第3回「公的統計における推定・加工」で詳しく説明している1)。計算した総合指数は,先ほどのラスパイレス方式の考え方と結果的に同じになる。

2.3.2 統計からわかること

全般的な物価の変動を示す総合指数および588品目の品目別の価格指数がわかる。地域別の指数としては,県庁所在都市別の中分類での指数がわかる。中分類とは,例えば品目である緑茶,せん茶,紅茶,ウーロン茶,インスタントコーヒー,コーヒー豆を中分類では飲料としてくくっているという具合である。他に,世帯主の年齢階級,世帯主の職業など世帯の属性別の指数も分析されている。

総合指数を図1で見ると,平成20年にはいったん上昇したものの,以降下落を続けている。

図1 「消費者物価指数」総合指数の推移(平成22年を100としたもの)

2.3.3 読む上での注意点

ある品目の価格が値上がったために,他の品目に買い替えるとか,さまざまな環境変化によって消費行動が変わるといったことの実態を物価指数に反映させるために,5年ごとに基準改定を行っている。1年ごとの作業としては,連鎖基準方式による消費者物価指数が表章されている。これは,「家計調査報告」の年次報告を受けて,ウエイトづけをし直しているものである。

3. マクロ経済統計の活用

GDPの対前年の伸び率は,経済成長率として,経済規模の推移の物差しとして利用されている。また,1人当たりのGDPは,国際比較などによく利用される。

企業においては,景気の動向は売上の変動など企業経営に密接に関わってくる。例えば,設備投資などは,将来にわたる生産力を決定するので,現在の需要が一時的なものか,趨勢として続くものなのか,また,特殊な要因によるものなのか,経済全体の基調なのかを判断する必要がある。このような場合に経済の状態は全体としてどうだといった数値を提供するのがGDPである。

「産業連関表」は,企業における活用のバリエーションが多い。

ある商品の国内生産額を知りたいといったケースでも利用される。例えば食肉では,生産数量は日本食肉協議会の「食肉関係資料」などに掲載されているが,生産額は記載されていない。「産業連関表」では,金額でとらえており,牛肉,豚肉,鶏肉,その他の肉別にわかる。生産者段階での額と卸,小売のマージン,貨物運賃のそれぞれの額とそれらを含んだ購入者段階の額の両方を表示している。

「需要合計」と表示されているのが,輸入を含んだ額で,「国内生産額」と記されているのが輸入を差し引いたものである。なお,「最終需要」と記されているのは,業者が加工用の材料として仕入れているものではなく,そのまま消費される額のことである。

「産業連関表」の特徴の1つは,商品の販売先がわかることである。例えば,乗用車,トラックがどのような産業にどれだけ販売されているかについては,産出表に,販売先としては,家計消費支出,国内総固定資本形成(民間)というような分類になっている。計数編という分冊に,固定資本マトリックス(公的+民間)という表があり,この表から資本財としての乗用車の販売先として,資本形成部門の食料品,飲料,繊維製品といった部門が表示されているので,こちらから把握が可能である。机が学校にどれだけ販売されているかといったケースでも用いられる。

損害保険の法人向けと個人向けの売上販売割合といったケースでは,「産業連関表」の産出表において損害保険が内生部門に販売した額が法人向けに当たり,国内需要のうちの家計消費に販売されたものが個人向けの売上に相当する。

外食産業における水道・光熱費の額を知りたいというケースでは,「産業連関表」では,投入表に上水道・簡易水道,下水道という産業に対しての支払額,そして,事業用電力,都市ガス,熱供給業に対する支払額が表示されている。

産業別の交際費・接待費を知りたいという場合に,産出表の国内需要のうち家計外消費という項目があるが,これは,企業が家計のような消費をしているものを指し,主に交際費・接待費などであり,おおよその額を知ることができる。なお,このテーマについては,本シリーズの第13回でご紹介した国税庁の「税務統計から見た法人企業の実態」にも接待費・贈答費として調べられている。

どの産業にどういう職業の人が何人いるかについては,「産業連関表」の計数編の雇用マトリックスに91の産業と288の職業の関係が明らかにされている。

次回は,本シリーズの最終回となるが,産業の動向をつかむ上でよく利用されている業界団体の統計について,主に市場規模を把握する観点から,どのように使えるかを解説する予定である。

参考文献
  • 1)   浅田 昭司. 統計情報活用への招待 第3回 公的統計における推定・加工. 情報管理. 2011, vol. 54, no. 6, p. 349.
 
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