Journal of Information Processing and Management
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Opinion
Towards a new information paradigm at the Legislative Assembly of Ontario : an innovative, collaborative approach
Yasuko ENOSAWA
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2013 Volume 56 Issue 8 Pages 545-548

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はじめに

情報通信技術の進歩は,社会,文化,政治あるいは経済といった,われわれの生活のあらゆる側面に多大な影響を与えている。公的機関の例として真っ先に挙げられるであろう議会は,情報技術がもたらす社会環境の変化に適応し続けるため,増大するプレッシャーと常に闘っている。議員や一般市民は,より開かれた,より信頼できる議会を望んでおり,議会はその増え続ける要求にいかに対応すべきかの検討を迫られている1)。情報通信技術を通じて必要ならば簡単に即時に情報を入手できる現在,議会において長い間,よしとされてきた伝統的な情報のワークフローやサービスは,効率的かつ効果的ではなくなってきている。信頼でき,よりアクセスしやすい議会へ向けて,議会が効率的かつ効果的に業務を遂行するためには円滑な情報とコミュニケーションの流れが不可欠である。

これらの変化に鑑みて,2012年オンタリオ州議会(Legislative Assembly of Ontario)は情報技術サービス部門(Information and Technology Services Division)の再編成に乗り出した。この再編成は,情報伝達や情報配信のための最新方法の考察,成功事例の調査,外部の専門家との協議の結果,図書館,情報技術,情報サービスおよび研究調査の各部署がより効果的な業務を行うことで,より高レベルなサービスを提供することを目標としている。

なぜ,改革が必要だったのか?

情報技術サービス部門そのものは,オンタリオ州議会の情報サービスと情報技術サービスの統合を目指して誕生した。まず,2007年6月,州議会の情報管理に関する業務全般を監督する目的で設立された情報管理室(Office of Information Management: IMO)が,州議会図書館(Legislative Library)と州議会研究調査サービス(Legislative Research Service)からなる部門の一部に加わった。その後,州議会情報システム部(Legislative Information Systems)もその部門に加わった。その結果,州議会は情報インフラストラクチャー,情報管理,情報伝達にかかわる業務を初めて1つの傘下に収めることとなった。

この統合の効果は,ほぼすぐに現れ始めた。新しい情報サービスの提供に不可欠な情報インフラストラクチャーが改良された。ユーザー中心のWeb設計の原則やより高度なWeb技術を採用して州議会のWebサイトやイントラネットを整備するという事業は,情報技術サービス部門が統合される以前から着手されていたが,さらに大々的に行われることとなった。また,州議会内でのワイヤレスの利用可能範囲が拡大され,州議会の情報資産の可動性,アクセシビリティ,インタラクティブ性が増した。オンタリオ州議会議事録を含む州議会情報の電子化が進み,電子情報をより重要視することで,州議員やスタッフに対する情報リポジトリや情報サービスを拡張する可能性が広がった。

しかし,技術進歩のスピードは,依然として,情報技術サービス部門のサービス向上にプレッシャーを与え続けた。タイムリーかつ正確な情報サービスのために,情報技術サービス部門はどう取り組むべきかの検討が求められた2)。多くの州議員は,スマートフォンやタブレットなどの携帯端末を使って,どこにいても必要な時に必要な情報にアクセスできることを望んでいた。多くの州議員が自らの活動を直接州民に伝えるための媒体としてときどきYouTubeを使用していることもあり,州議会の生中継や過去の収録中継をビデオ配信できないかと要望し始めた。州議会図書館は,その収書方針にのっとり,歴史的資料から現在に至る,紙や電子媒体を含むコレクションの収集や提供に努めてきた。しかし,ReynoldsとChiddicksの行った図書館資料利用調査3)によれば,州議会におけるレファレンスサービスや研究調査の業務で必要とされた情報の多くは図書館外の情報源から得られているという結果であった。また,州議会において,情報セキュリティを含む情報インフラストラクチャーの向上2)は,より効率的かつ効果的な情報管理や情報サービスの基盤として,必然的な課題であった。この他,情報技術サービス部門の構造体系そのものが真の意味での情報の共有や共同作業の妨げになっているのではないかとも考えられた。

情報技術サービス部門の新構造

情報技術サービス部門の構造改革の目的は,情報技術や情報管理実務を最大限に利用すること,州議員,スタッフおよび州民に対して議会情報の永続的かつ容易なアクセスを確保すること,より質の高い図書館業務や研究調査サービスを提供することである4)5)。情報技術サービス部門は,それらの目的を達成するために,情報のライフサイクルに基づき,業務の機能性を重視して改革を行った。新しい構造では,コレクションあるいはその形態といった情報の形としての見方を取り除き,情報はいかなる形態でも,いかなる媒体でも,あるいはいかなる場所であろうとも,管理でき,利用者に提供できる,形態に依存しない,流れとしてとらえられている。また,念のため前もって情報を収集する(just-in-case)という方針から,必要な時に,必要とされる正確な情報を提供する(just-in-time)という方針に移行しつつある4)6)

この構造改革において,以前は2つの部として存在していた州議会図書館と州議会研究調査サービスが統合された。常に両部署が協力し合って研究調査に取り組んできたことや共に研究調査に携わることと,利用者に直接サービスを提供するという共通点によるものである。閲覧,レファレンスサービス,調査研究のそれぞれのスタッフがより密になることによって,利用者により効率的かつより信頼性のある情報やサービスの提供ができると考えた。

州議会情報システム部は,主な機能別に分割された。テクノロジーサービス部(Technology Services)はデータベース管理,ネットワークインフラストラクチャー,ネットワークセキュリティ,および技術サポートを業務として行う。この部署は,情報生成,情報管理,情報伝達の礎として,それらをサポートするのに必要不可欠な情報技術やネットワークインフラストラクチャーを提供し,メンテナンスするという重要な機能として位置づけられる。

情報サービス部(Information Services)は新たに設置された部署であり,情報アーキテクチャー(Information Architecture),コンテンツマネージメント(Content Management),Webパブリッシング(Web Publishing),システム開発(Systems Development)の4グループと記録文書管理(Records and Document Management)プログラムからなる。

情報アーキテクチャーグループは,情報体系化の原則や基準を構築する役割を担っている。コンテンツマネージメントグループは多様なシステム間において議会情報が相互利用できるよう,また利用者がそれらの情報に簡単にアクセスかつ検索できるようにするためのメタデータスキーマや分類スキーマを構築し,その付与を行う役割を担っている。

Webパブリッシンググループは,州議員や州民が情報にアクセスするためのチャンネルとしての,州議会のインターネット,イントラネットおよびその他の州議会のWebサイトの管理を担っている。システム開発グループは,情報アーキテクチャーグループで構築された原則や基準にのっとり,州議会における情報システムやツールを構築する役割を担う。

記録文書管理プログラムは州議会情報の適切な保存と廃棄を請け負い,また,情報プライバシーに関する政策や情報公開へのリクエストを受け付ける役割を担っている。

この改革で新たに設置されたポートフォリオマネジメントオフィス(Portfolio Management Office)は,議会全般にかかわる情報管理や情報技術に関するプロジェクトが円滑に運営されるよう,統轄,監督する役割を担っている。

情報技術サービス部門の新しい組織構造は情報のライフサイクルを反映したもので,情報の流れや業務がより円滑で効果的に行われるようになると考えられる。

図1 記録および情報の7段階のライフサイクルLibrary and Archives Canada Webサイトより  http://www.bac-lac.gc.ca/eng/services/government-information-resources/information-management/Pages/records-information-life-cycle/introduction.aspx

構造改革後の現況

情報技術サービス部門の構造改革はごく最近行われたものではあるが,すでにいくつかの成功を収めている。もちろん,構造改革以前から着手されていたプロジェクトも多いが,この改革により成功をより早く導き出すことができた。

Webパブリッシンググループは,情報アーキテクチャーグループの助言をもとに,デザインを一新させすべての情報を更新した州議員に対するオリエンテーションサイトを発表した。このWebサイトでは新しく選出された州議員やそのスタッフに必要な情報や資料をわかりやすく提供している。また,スマートフォンやタブレット用の携帯版もある。

議会のイントラネット上で利用可能な研究調査資料は,形態や所蔵を問わず,研究テーマに関する情報を満載した情報パッケージとなった。以前はテキスト主体であったそれらの調査資料は,州議会図書館の所蔵する資料やリポジトリの情報だけでなく,インターネット上の有用な情報やビデオファイルへのリンク,ビジュアル化された統計データなども提供している。

また,資料購入モデルの代替案として,電子コレクションやオンデマンドによる情報提供を重視することにより,資料と予算を50%削減することにも成功した。

図2 研究調査資料の一例:Issue Binders

このほか,オンタリオ州議会のWebサイト上で,審議会の生中継が可能となった。現在,情報アーキテクチャーグループは,収録したビデオクリップをYouTubeを介して州議員に配信することが可能かどうかを見極めるための試験的なプロジェクトに着手している。まず,初段階として,収録された議会質問(Question Period)をYouTubeを通して配信しているが,生中継および収録版ともにアクセス数が増加しており,幸先よいスタートを切った。

おわりに

オンタリオ州議会の新しい情報技術サービス部門は,情報の理論と実務の急速な変化によく対応したものとなっている。州議会が情報に関連する挑戦に挑むとき,この新しい構造によって,効果的かつ信頼できる解決策を打ち出すことができるであろう。まだ多くの課題が残されているが,少なくとも,州議会の情報技術サービスのあらたな一幕が上がったことは間違いない。

執筆者略歴

榎沢 康子(えのさわ やすこ)

慶應義塾大学文学研究科図書館情報学修士課程卒業。慶應義塾大学三田メディアセンター,日本橋学館大学図書館勤務後,渡加。セネカカレッジ図書館情報学専攻にてpostgraduate diploma取得後,ジョージブラウンカレッジ図書館を経て,2005年よりオンタリオ州議会情報技術サービス部門に勤務。目録およびオンタリオ政府刊行物に関する業務全般に携わる。トロント大学大学院情報学科にて情報学修士(MISt)を修了。

参考文献
  • 1)  Global Centre for ICT in Parliament. "Executive Summary". World e-Parliament Report 2012. United Nations, 2012, p. vii. http://www.ictparliament.org/WePReport2012, (accessed 2013-09-08).
  • 2)  Information and Technology Services Division. iDivision priorities for information management and information technology, 2011-2012 and 2012-2013: Presented to ITAC on 2010-12-21, 7p.
  • 3)  Reynolds, W; Chiddicks, E. Report on the use of the library's collection by the iDivision's legislative research and library client services. Legislative Library, Ontario Legislative of Assembly, 2012, 4p.
  • 4)  Whitmell, V. Restructuring the Information and Technology Services Division at the Legislative Assembly of Ontario: Presented to Special Libraries Class, March 2013. Legislative Library, Ontario Legislative of Assembly, 2013, 2p.
  • 5)  Whitmell, V. Open Library Doors: Poles the Library in a Parliament or Legislature: Presentation to APLIC, July 2013. APLIC-ABPAC and Parliamentary Researchers Conference. Manitoba, Canada, 2013-07-03/04, 23p.
  • 6)  Legislative and parliamentary libraries: Ontario. APLIC Bulletin, 2013. no. 59, p. 12-13.
 
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