Journal of Information Processing and Management
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Meeting
World Library and Information Congress: 79th IFLA General Conference and Assembly
Takashi KOGA
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2013 Volume 56 Issue 8 Pages 556-561

Details

  • 日程   2013年8月17日(土)~23日(金)
  • 場所   シンガポール国際コンベンション・エキシビションセンター(SUNTEC)
  • 主催   国際図書館連盟(International Federation of Library Associations and Institutions: IFLA)

1. はじめに

2013年のIFLA年次大会は,アジア諸国の中でも独自の国際的・多民族社会制度を構築し,また情報技術活用の先進国としても知られるシンガポールで,「未来の図書館:無限の可能性(Future Libraries: Infinite Possibilities)」をテーマとして開催された。日程は上記の通りだが,大会の中心は開会式が行われた18日~閉会式のあった22日の5日間で,17日はIFLA内の分科会等の事務会合に,23日は隣国マレーシアを含めた自由参加の図書館見学(3章で後述)に割り当てられた。大会参加者は120か国から約3,750名を数え,日本からは40名を超える参加があった。発表についても,日本国内からは確認の限りで8件の口頭発表,6件のポスター発表が行われた。

本稿においては,筆者が参加できた限りでの各発表セッション等の内容,および現地の図書館の模様などをまとめることとしたい注1)。なお例年通り,『図書館雑誌』『国立国会図書館月報』などにもIFLA年次大会の模様が掲載される予定なので,これらもあわせてご参照いただきたい。

2. 分科会等での発表

(1) 政府情報に関するもの

筆者は2007年のIFLA年次大会より,IFLAの政府情報・官庁刊行物分科会(GIOPS)委員を務めており,また「政府情報へのアクセス」を中心的な研究テーマとしていることもあり,「政府情報」や「政府刊行物」に関する発表を,これまでのIFLA年次大会の場で多く聴講してきた。

図1 開会式(18日)のアトラクションの様子

今大会においてもこの方面のセッションがいくつか開催されたが,その中でも特筆されるのは,政府機関図書館分科会が法律図書館分科会・GIOPSと共催したセッション「オープンガバメントの声としての政府機関図書館」である注2)。このセッションでは「(1)発展途上国における政府情報へのアクセス」「(2)デマンドサイド(受け手側)にとってのオープンガバメント」「(3)政府情報へのアクセス(オープンガバメント)における情報技術の活用」「(4)公共図書館での政府情報へのアクセス」という4つのテーマについて,セッションの参加者どうしで各々グループを作り,情報交換や討議を行う,という形式が取られた。筆者が参加した(2)のグループでは,IREXという米国の国際NGOが取り組む「政府情報へのアクセスと情報技術の活用を通じた地域・国家開発,およびそこでの公共図書館の役割」が話題の中心であった注3)。具体的にはウクライナやルーマニアなどの事例が取り上げられたが,「オンラインの政府・自治体サービス」の存在自体を政府・自治体の職員自身が知らない場合も多く,こうした職員が公共図書館での端末を通じてサービスの内実を理解する場合がある,といった実態も語られた。

(2) 著作権に関するもの

「著作物の利用,およびそれを促す図書館・文書館等の立場で,著作権の制限・例外規定の拡張を求める」という取り組みは,ここ数年のIFLAの重要課題の1つとなっている。具体的にはTLIB(Treaty Proposal on Copyright Limitations and Exceptions for Libraries and Archives)という条約案を世界知的所有権機関(WIPO)に提示するなどの取り組みを行っているが注4),これに関連した動向として,2013年6月に「盲人,視覚障害者及び読字障害者の出版物へのアクセス促進のためのマラケシュ条約」がWIPOにおいて採択されたことが挙げられる注5)。今大会では,TLIBに中心的に取り組む,著作権等法的問題委員会(CLM)のセッションにおいて,TLIBやマラケシュ条約の意義について発表された。これらに加え,環太平洋パートナーシップ(TPP)協定を含む「二国間ないし多国間の貿易協定における知的財産の扱い」についても発表があり,特に「こうした協定の策定に際しては,限られた利害関係者のみが関与しがち(特に知的財産については利用者の利害は反映されにくい)で,しかも条約などに比べて,事前交渉の内容が明らかになりにくい」という点に懸念が表明された。

また,国立図書館分科会として「デジタルアーカイブ」を扱ったセッションでは,日本の国立国会図書館やシンガポールなどの取り組みとあわせ,EUを中心に法律面での論点も提示された。具体的には,著作権者の所在が確認できなくなった「孤児著作物(orphan works)」の扱いのみに焦点を当てた法制度よりも,著作物全体の利用を促進するために「拡張された集中許諾(extended collective licensing)」の手法が有効である,との提案があった。この手法は,「代表的な集中管理団体から許諾を得ることによって,当該団体が代理権を有しない権利者についてもその合意が法的拘束力を有する等の仕組み」とされ1),北欧諸国などで運用されている。また,「忘れられる権利(the right to be forgotten)」など,デジタルアーカイブの「データ保護・保全(integrity)」を志向する取り組みは,著作権以上にデジタルアーカイブの利用を妨げることにつながる懸念,言い換えれば「データ保護・保全の法制度を理解した,限られた数の研究者だけが,デジタルアーカイブを自由に利用できる」といった方向に行きかねない懸念がある,という問題提起がなされた。

(3) ポスター発表

ポスターについては企業・団体などによる展示スペースの一角にブースが設けられ,130点のポスターが掲示された。20・21日の昼には「コアタイム」として,各発表者がポスターの前で説明を行った。筆者も「図書館・文書館・博物館の連携:日本からの視点(Collaboration of Libraries, Archives and Museums: A Perspective from Japan)」のテーマで発表を行ったが注6),ブースの混雑もあり,効果的なアピールの難しさを痛感した。なお,福島県立図書館の鈴木史穂氏によるポスター「福島の図書館員たち(The Librarians of Fukushima)」が,今大会でのベストポスター賞に選出された。

(4) その他

IFLA会長のIngrid Parent氏(カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学図書館長)は今大会をもって2年間の会長任期を終えたが,その締めくくりとなる取り組みとして,「トレンドレポート」を今大会中に発表した。ここでは「新たな技術」「オンライン教育」「データ保護・プライバシー」「高度接続社会(hyperconnected society)」「グローバルな情報環境」の5点にわたって国際社会を取り巻く論点を提示し,あわせてこのレポートに基づき図書館関係者などの議論を促すよう要請した。このレポートや「オンライン議論」の場はWebサイトで公開されている注7)

図2 筆者のポスター(左側)

大会の「全体会(Plenary Session)」として開かれた2つの講演も大変刺激的であった。ジャーナリスト・大学教授のCherian George氏は,オーウェル『1984』や日本を含めた「権威主義的ポピュリズム」の勃興に言及しつつ,21世紀に入ってから「真実らしさ」がいっそう不確かになっている社会情勢を分析した注8)。また,地政学・情報社会など多方面で研究・著述を行っているParag Khanna氏は,IQやEQ(心のIQ)に代わる“TQ”(技術面のIQ)の概念に触れつつ,特に「オンライン教育」によって教育の形が大きく変わりつつある現状に図書館は対処すべきだと説いた。

その他,韓国国立中央図書館の提唱で結成された「情報・図書館関連国家政策特別課題グループ」のセッションや,日本でも選定事例が出てきた「世界記憶遺産」などの取り組みを紹介・議論したユネスコのセッションなども筆者としては興味深く感じたが,紙幅の都合で割愛させていただく。

3. 図書館見学

(1) シンガポール国立大学中央図書館

IFLA年次大会での図書館見学は,以前は参加申込時に指定する方式だったが,数年前より「現地の大会窓口において,先着順で見学先を指定」という方式となっている。筆者は大学図書館への関心から,国内西部にキャンパスを置くシンガポール国立大学(NUS)の中央図書館への見学を申し込んだ。なお,NUSはこれ以外にも法学図書館,医学図書館,ビジネス学図書館など複数の図書館を擁しており,それぞれが見学先として設定されていた。

中央図書館は,NUS全体の蔵書数約275万冊(タイトル数では約136万点)のうち,約157万冊(同 約82万点)を有する(数字は2012年6月時点,当日資料より)。見学時に新学期が始まったばかりということもあり,館内には多くの学生の姿があった。いわゆる「ラーニング・コモンズ」的なエリアはなかったものの,コンピューター端末のエリアが入り口のすぐ近くにあり,大半の閲覧席にもノートPCなどのための電源コンセントが取り付けられていた(ただし訪問時は稼働準備中)。一方で「静粛」を求めるエリアもあり,利用者のニーズに即したエリア設定が感じられた。それ以上に印象的だったのがNUS図書館の「組織のマネジメント」の側面であり,館内には「電子メールでの問い合わせには1就業日以内に回答する」「対面の問い合わせの95%に対しては3分以内で対応する」など7項目の「サービスの誓い」が張り出されていた。また,NUS図書館はさまざまな面での評価活動を行っているが,評価システムとしては日本国内でも採用例があるLibQual+に加え,「LibQual+に比べ調査対象者に負担を掛けず,効率的な評価作業ができる」ということでオーストラリア発祥の“Insync Surveys” も利用している,と担当者は説明していた注9)

(2) シンガポール国立図書館・中央公共図書館

3.1で記した公式の見学とは別に,シンガポール国立図書館・中央公共図書館などを擁し,市中心部(大会会場からも近い)にある「国立図書館ビル」にも,個人的に訪れた。

図3 シンガポール国立大学(NUS)図書館の「サービスの誓い」

国立図書館ビルは地上15階,地下3階から成り,上記2つの図書館のほか,国全体の図書館を統括する「国家図書館委員会(National Library Board)」に加え,劇場や2つの海外大学(ESSECビジネススクール,米国ネバダ大学ラスベガス校)の分校なども入居している。国立図書館のうち,利用者スペースは7階~13階に“Lee Kong Chian Reference Library” として設けられており,階ごとに言語・主題などで資料を分けてサービスを提供している。また,展示スペースも階ごとに設けられており,訪問時には「家系学(genealogy)」「中国語での風刺漫画」などのテーマで展示が行われていた。この「レファレンス・ライブラリー」が調査・研究用に特化しているのに対し,中央公共図書館は多様な年齢層に即した貸出用の資料を備えている。地下1階の1フロアのみで座席数も多くはないが,児童書のスペースが凝ったデザインをしており,この地でも子ども向けサービスに力を入れていることが印象的であった。なお,“My Tree House”と名付けられたこの児童書のスペースは,世界で初めての子ども向けの“Green Library”,すなわち「設備面等で環境に配慮しつつ,環境問題を利用者に考えてもらうための図書館」とされている注10)

4. おわりに

今回のIFLA年次大会を通じて,図書館のみならず,政府情報,著作権や情報社会を含めた,国際的な広い動向を把握することができた。あわせて,本稿冒頭に「アジア諸国の中でも独自の国際的・多民族社会制度を構築」していると記したシンガポールの実情について,現地の様子から伺い知ることができ,またそれが図書館にもある程度反映されていることを感じ取れた。2.1で触れた「図書館での情報技術の活用を通じた地域・国家開発」については,内容の異同はあれシンガポールにもある程度当てはまるものと考えられ注11)―すなわちトップダウンの側面が強いシンガポールの動向と,IREXのような「政府の手が届きにくい領域を補う,ボトムアップの活動」の違いを意識する必要がある―,筆者としてはこの方面の今後の動向が気になるところである。

図4 国立図書館ビル

なお今後のIFLA年次大会は,2014年8月にフランス・リヨン,2015年8月に南アフリカ・ケープタウンでの開催が予定されている。

付記

筆者の今大会への参加,およびポスター発表は,以下の助成を得て行った。平成25年度科学研究費補助金 若手研究(B)「オープン・ガバメント時代の政府情報アクセス制度・政策と図書館・文書館等の役割」(課題番号25730191,研究代表者:古賀 崇)

(天理大学人間学部総合教育研究センター 古賀 崇)

本文の注
注1)  発表ペーパーの一部は大会Webサイトで公開されている。また,「IFLA Express」として,会期中の模様をリアルタイムで更新したコーナーも設けられている。http://conference.ifla.org/past/2013/ifla79.htm,(URL,2013年9月22日に確認)。

注2)  「オープンガバメント」とは,一般的には「情報技術を活用しつつ政府の情報公開・住民参加・官民連携を促す取り組み」と定義されがちだが,このセッションでは「政府情報へのアクセスを高めること」と広く捉えていたと考えられる。こうした「オープンガバメント」の定義の揺れについては,筆者が下記の発表で論じた。古賀崇.「オープンガバメント」時代の政府情報アクセスとアーカイブズに関する予備的考察. 日本アーカイブズ学会2013年度大会(自由論題研究発表会), 学習院大学, 2013年4月21日. 発表資料は筆者のWebサイトで公開。http://researchmap.jp/T_Koga_Govinfo,(URL,2013年9月22日に確認)。

注3)  IREXの活動については,Webサイト(http://www.irex.org/),および同団体のプロジェクト"Beyond Access"(http://beyondaccess.net/)を参照。(URL,2013年9月22日に確認)。

注4)  TLIBなどの取り組みについては下記のサイトを参照。IFLA. "Copyright Limitations and Exceptions for Libraries & Archives". http://www.ifla.org/copyright-tlib,(URL,2013年9月22日に確認)。

注5)  マラケシュ条約については例として下記を参照。河村宏. 障害者のアクセス権と著作権の調和をはかるマラケシュ条約. カレントアウェアネス-e. 2013, no. 241. http://current.ndl.go.jp/e1455,(URL,2013年9月22日に確認)。

注6)  このポスターも,注2に挙げた筆者のWebサイトで公開している。

注7)  IFLA Trend Report. http://trends.ifla.org/,(URL,2013年9月22日に確認)。

注8)  講演原稿は下記で公開。George, Cherian. "The Unknowing of Public Knowledge". Media Asia. Aug. 20, 2013. http://www.mediaasia.info/the-unknowing-of-public-knowledge/,(URL,2013年9月22日に確認)。

注9)  Insync Surveysは自らをあらゆる組織に適用できる評価システムとうたっており,教育・図書館に特化したWebページも設けている。Insync Surveys. "Education and Libraries". http://educationandlibraries.insyncsurveys.com.au/,(URL,2013年9月22日に確認)。

注10)  "My Tree House: World's First Green Library for Kids". Little Day Out, June 1, 2013. http://www.littledayout.com/article/my-tree-house-worlds-first-green-library-for-kids.html,(URL,2013年9月22日に確認)。

注11)  シンガポールの図書館事情については日本でもさまざまな論考が刊行されているが,概説書として下記を参照。ラス・ラマチャンドランほか. シンガポールの図書館政策:情報先進国をめざして. 日本図書館協会, 2009, 155p.

参考文献
  • 1)  著作権分科会 過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会(第1回)議事録・配付資料. “資料6 裁定制度以外での対応策として出された提案について”. 文部科学省, 2008-03-14. http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/bunka/gijiroku/024/08031816.htm, (accessed 2013-09-24).( 2. 諸外国等の状況,④その他で言及)
 
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