Journal of Information Processing and Management
Online ISSN : 1347-1597
Print ISSN : 0021-7298
ISSN-L : 0021-7298
Meeting
ORCID Outreach Meeting in Tokyo
Nobuko MIYAIRI
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2015 Volume 57 Issue 10 Pages 765-768

Details

  • 日程   2014年11月4日(火)
  • 場所   国立情報学研究所(東京)
  • 主催   ORCID, Inc

1. はじめに

世界中の研究者に一意の識別子を付与することでその学術的貢献を明確にしようとする国際的非営利組織ORCID(http://orcid.org/)が2014年11月4日,アジアで初となるアウトリーチ・ミーティングを東京で開催した。ORCIDとは何か,またこれまでの活動の詳細については,『情報管理』に掲載された前回のシカゴでの集会報告1)をはじめ,すでにいくつかの文献2)3)にまとめられているのでここでは割愛する。本稿では,今回のミーティングで報告されたアジア各地でのORCID導入への取り組みを中心にまとめた。

2. 現地プログラム委員会の発足

今回の会合は,ORCID主催の国際会議としては通算13回目,アウトリーチ・ミーティングとしては8回目となる。会合に向けて,約半年前から現地プログラム委員会が発足し,筆者もその1人として参画した。まずは委員会よりミーティングで取り上げるべきトピックが主催者であるORCIDに打診され,話し合いを重ねていった。国際会議であることを意識して,ORCIDメンバー機関を中心にアジア各地から発表者の候補を募り,プログラムが完成したのは9月初旬であった。日本,香港,韓国,台湾などからのスピーカーに加えて,各セッションのモデレーターはORCID理事が中心となった当日のプログラムについてはイベントページ(http://orcid.org/content/tokyo2014)を参照されたい。

3. アジア初のORCID国際会議

技術的報告やメンバーシップの拡大を目的とする毎年2回のORCIDアウトリーチ・ミーティングはこれまで,米国,あるいはヨーロッパ諸国での開催が通例だったが,初めてのアジアでの開催となった今回のミーティングでは,日本をはじめアジア各地から研究助成機関,学術出版社や図書館員,研究者など約100名が参加し,東京・一ツ橋の国立情報学研究所(以下,NII)で開催された(1)。

開会の辞とともにNII副所長である安達淳氏が,目録所在情報サービス(NACSIS-CAT/ILL),学術機関リポジトリポータル(JAIRO)や科学研究費助成事業データベース(KAKEN)などNIIが提供する各サービスを紹介した。NIIが学術総合センター当時より果たしてきた日本の学術コミュニティーへの情報基盤提供と密接に関連するORCIDの意義が確認された。

図1 ORCIDアウトリーチ・ミーティング in Tokyo 会場の様子

4. ORCIDアップデート

引き続いて,ORCID事務局長であるLaurel Haak氏よりORCIDの活動状況が報告された。開催時点で160を超えるメンバー加入機関のうち,アジアが占める割合は15%であり,中国語,韓国語に加えて日本語の翻訳サイトも稼働して今後ますますアジアへのアウトリーチが盛んになるという展望が示された。加入メンバーである出版社や学会,情報システムサービスなどに対してサービスを提供するORCIDの役割をplumber(配管工)にたとえて,数ある研究者プロファイルシステムとは異なる,国際的な非営利機関が運用するORCIDの中立性が強調された。ORCID iDは個人による登録よりも,ORCIDメンバー加入機関を介した登録数が伸びており,これに応えるように,2015年リリースの新機能の中には,さらなるユーザビリティーの向上やAPIの充実とともに,加入機関向けのレポート出力などが予定されている。

5. なぜORCIDが必要か?

最初のパネルセッションでは,日本と韓国からの事例をもとに,ORCIDの必要性についての報告があった。まずNII教授,ジャパンリンクセンター(JaLC)運営委員会委員長,ORCID理事など数々の要職を務める武田英明氏より日本の事例が報告された。NIIが提供する各サービスや各大学のリポジトリ,Googleなど外部サービスに散在する研究者情報を紐(ひも)付けるツールとして,科研費研究者番号を基礎とする研究者リゾルバ―(http://rns.nii.ac.jp/)が紹介された。ORCIDとの連携インターフェースをすでに実装した研究者リゾルバ―により,研究者情報とそれに付随する研究成果情報がリンクされ,さまざまなデータベースが相互にIDを介してつながっていく将来像が提示された。

淑明女子大学校のChoon Shil Lee氏からは,Kim,Lee,Parkの3つの姓だけで人口の45%を占めるという韓国における著者名をめぐる深刻な課題が,KoreaMed(http://www.koreamed.org/)やSynapse(http://synapse.koreamed.org/)における事例をもとに紹介された。韓国人の著者名は,アルファベット表記によりあいまいさが増幅され,たとえばKim JHという著者名表記はKoreaMed内に1万回以上出現するという。2014年9月よりORCIDとの連携を開始したSynapseは,ORCID iDを検索キーとして加えるとともに,過去レコードへのORCID iDの遡及(そきゅう)入力や,Synapseがホストする145の学会誌のエディターを対象とするセミナーを開催するなど,国内的な課題の解消のみならず,韓国からの国際研究発信を視野に入れてORCIDの活用に取り組んでいる。

モデレーターを務めたCrossRef事務局長のEd Pentz氏は,DOI(Digital Object Identifer)がそうであったように,ORCIDが真に有用となるためには出版社や助成機関,各大学が積極的にORCIDを導入してネットワーク効果を高める必要があると示唆した。出版社によるORCID導入によって,出版時にORCID iDが著者名に付与された論文レコードはすでに13万を超えており,CrossRefによりこうした出版情報をORCIDレジストリ内の各研究者レコードにフィードバックする新たなワークフローが年内には実施される。これにより,研究者が新たな論文レコードを追加する手間が大幅に軽減されることが期待できる。

6. 既存の情報基盤へのORCID導入

昼食を挟んで午後のセッションでは,機関レベル,あるいは国レベルでのORCIDの導入について,具体的な事例とともにディスカッションが進んだ。物質・材料研究機構(NIMS)の谷藤幹子氏はORCIDの試験的導入事例として,個人プロファイリングシステムORCID de Ninja Project(https://ninja.nims.go.jp/)を紹介した。すでに稼働している同機構の研究者データベースSAMURAI(http://samurai.nims.go.jp/)と連動しつつ,特に若手研究者の流動性を念頭に置いて,生涯を通じて利用できる個人識別子としてのORCIDをキーとして他のプロファイルシステムや文献管理サービス,アカデミックSNSとのシームレスな連携を目指した。無料で利用できるWeb APIによる運用がどこまで可能かという谷藤氏の報告は,今後同様の運用を目指す機関への示唆に富んでいる。

つづいて,科学技術振興機構(JST)の水野充氏が,助成金情報,論文書誌情報やフルテキスト,そして研究者情報を核とするJSTの知識基盤について紹介した。約24万人の研究者情報が登録されているresearchmap(http://researchmap.jp/)は,190機関がデータ交換に応じている(いずれも2014年10月現在)。すでにORCIDからresearchmapへのインポートは実装済みで,今後もその他の情報源への拡大を予定している。2015年度に公開予定の助成金情報データベースやJaLCとの連携,2017年府省共通研究開発管理システムe-Rad(https://www.e-rad.go.jp/)やFundRef(http://www.crossref.org/fundref/)など内外の助成金情報との連動など,将来への展望が述べられた。

韓国科学技術情報研究院(KISTI)のChoi Seon Heui氏は,国家科学技術知識情報サービス(http://www.ntis.go.kr/)においてすでに研究者に付与されているIDや,各大学が運用する研究マネジメントシステムとのORCID連携について紹介した。韓国科学技術団体総連合会(KOFST)が運用する学術ジャーナル基準にすでにORCID準拠が条件として加えられたこともあり,国内学会が発行するジャーナルが続々とORCIDを論文投稿システムに導入している。先のLee氏の報告にもあったように,研究者情報の整備は韓国にとって重大な課題であり,先行する国内システムとの親和性が,韓国におけるORCID普及に向けたもっとも重要な点であるとChoi氏は述べた。

チャルマース工科大学のJonas Gilbert氏のモデレーションによる質疑応答では,情報源としてのORCIDと,それを活用する各システムの役割分担についてのディスカッションが目立った。ORCIDレジストリ内では各個人がどこまで情報を公開するかを細かく選択することが可能であり,ORCIDは公開可能な情報についてクリエイティブ・コモンズのライセンス“CC0”のもとに提供する。それを利用する機関がデータの運用について責任を負う必要があることが確認された。

7. 大学,学会におけるORCID導入

最後のパネルセッションでは,2つの大学と学会連合組織におけるORCID新規導入の体験が紹介された。香港浸会大学のChris Chan氏は,比較的小規模である同大学(教員約800名)において図書館が中心となって進めたORCID導入について報告した。当初,図書館側の体制が整う以前に,研究者全員にORCID iDを取得させるという方針がアナウンスされてしまったため,その対応に追われるというスタートであったが,試行錯誤を重ねて2015年2月の本格導入に向けて準備を進めているという。今後導入を目指す機関へのアドバイスとして,(1)上層部の支持や各学部の協力など,組織としてのサポートを得る,(2)APIの実装に必要な技術スタッフを確保する,(3)教授会に出向いての説明や,ORCIDの意義について研究者の視点に立った説明をする,といった点があげられた。

つづいて,国立台湾師範大学のHao-Ren Ke氏からも,学内のフルタイム教員を対象として学内で運用しているシステム上にORCIDを導入した経験が報告された。2014年1月にORCIDメンバー加入機関となり,図書館員を対象としたトレーニングを実施するとともにORCIDのテスト環境を利用して試行を続けた。5月に学長名でのアナウンスがあり,7月にはORCID iDの一括登録が行われた。すでにORCID iDを取得済みの研究者についてはOAuth経由でそれを図書館側のシステムに登録してもらうなど,図書館から研究者への細やかなサポートが提供された。一括登録されたORCID iDについては各研究者による認証が必要だが,11月時点で約半数がこれを済ませているという。ORCID iDの取得に難色を示す教員の説得や,科技部(日本の文部科学省に相当)への業績報告に利用されている学内システムならびにVIVO(http://vivo.cornell.edu/)とのORCIDを介した連携などを今後検討している。

次に,日本地球惑星科学連合のMyJpGU(http://mypage.jpgu.org/)というアカデミックSNSについて,情報システム委員会副委員長を務める近藤康久氏より報告があった。同連合は50の関連学会からなり,約8,700名の所属会員がいる。毎年の年会では,すでにFacebookやTwitterを使ってのコミュニケーションが行われていた。また,新しいジャーナルを2013年に創刊したこともあり,そのプロモーションについてもSNSの活用が検討されていた。MyJpGUにはFacebook,Twitter以外にもLinkedInやresearchmapにリンクするアイコンが,ORCIDレコードへのリンクとともに表示されている。2014年3月に稼働したMyJpGUは,5月の年会前後には利用が進んだものの,それ以降は徐々に減っていった。9月発行のニュースレターで告知を行ったところ,8,000ページビューを超える反響を得たが,実際にプロフィールの登録を済ませた会員は50名余りにすぎない。これを受けて,年会でのORCIDチュートリアルの実施など,さらに利用を促すための活動が計画されている。国際的な連携と,異なるシステムとの互換性を基本コンセプトとしたMyJpGUは日本の学会組織が初めてORCIDを本格的に導入した好例である。

コーネル大学図書館のSimeon Warner氏の進行によるディスカッションでは,科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の林和弘氏より,研究者は通常,所属組織を異動したとしても長く同一学会にとどまる傾向があることから,プロファイルのホスト機関として適切であるとの指摘があった。これに対してHaak氏より,すでにアメリカ地球物理学連合(http://sites.agu.org/)や北米神経科学学会(http://www.sfn.org/),IEEE(https://www.ieee.org/)ではORCIDを会員プロファイルに導入しているとの紹介があった。

8. おわりに

2012年10月に正式稼働して2年余りが過ぎ,当時よりORCIDアウトリーチ運営委員会に参加している筆者としては,初のアジアでのミーティングが成功裡(せいこうり)に終わり感無量である。11月17日には,ついにORCID iD登録数が100万人を超えたことが報じられた。

ミーティング全体を通じて感じられたのは,ORCIDの普及には技術的な困難よりも,国や組織としての運用方針やサポート体制の確立,また何よりも研究者の視点に立ったガイダンスが不可欠であるということだ。これは,Haak氏の“Technical part is easy, social part is tough”という言葉に象徴されている。

非営利組織として限られた人員で事務局を運営するORCIDは,メンバー機関の協力と理解,ボランティアとして活動するアンバサダーによる啓蒙(けいもう)によるところが非常に大きい(2)。今回の東京でのミーティングを契機に,より多くのORCIDメンバーやアンバサダーがアジアから出ることを願う。次回のORCIDアウトリーチ・ミーティングは,2015年5月18日から20日にかけて,スペインのバルセロナで開催される。

(ネイチャー・パブリッシング・グループ 宮入暢子)

図2 会議終了後,パネリスト,モデレーター,アンバサダー,現地プログラム委員会のメンバーとともに
参考文献
 
© 2015 Japan Science and Technology Agency
feedback
Top