Journal of Information Processing and Management
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Opinion
Research administration and research information resources of university libraries
Masako TORIYA
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2014 Volume 57 Issue 3 Pages 193-195

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図書館の研究情報資源の活用方法?

昨年(2013年)10月末に開催された第15回図書館総合展にて,「大学における研究戦略の取り組みと図書館データベースの活用」という題で講演の機会をいただいた。この話をいただいたときには,「リサーチ・アドミニストレーターの私に,なぜ図書館総合展での講演依頼が?」と不思議に思ったものだ。大学上層部が図書館職員にデータベースを用いた研究力の分析を依頼することが,最近多くなってきているという背景がある。多くの図書館職員は,依頼を受けても何を分析すればよいのか,上層部のニーズがわからず戸惑うのだという。そこで研究戦略立案にどうデータベースを活用するのかという実例や,研究力分析がどのような背景に,より求められるのかということを知りたいということだった。

リサーチ・アドミニストレーターとは

ところで読者の皆さんは,リサーチ・アドミニストレーターという言葉,職名をご存知だろうか。文部科学省の事業等でその名を見かけたり,もしくは所属機関にリサーチ・アドミニストレーターが配置された,ということで知ったという方もいらっしゃるかもしれない。リサーチ・アドミニストレーターという言葉が一般的になり始めたのは,2011(平成23)年度に文部科学省「リサーチ・アドミニストレーター(University Research Administrator: URA)を育成・確保するシステムの整備」事業が始まったころからだろう。リサーチ・アドミニストレーターの業務は一言ではなかなか言い表せないが,あえて言うなら,研究組織の活性化,研究力の強化,研究成果の社会還元等を目的としたさまざまな活動である。たとえば,外部資金申請書の作成支援や機関の研究力分析,産学連携支援活動などがあげられる。

特に最近,われわれリサーチ・アドミニストレーターには,外部資金申請支援に加え,機関全体や特定分野の論文数・被引用数の推移,国内外でのその位置付けなどを分析することが求められるようになってきている。これは,国が研究機関を格付けし,経費の再配分の判断を行う,という考え方に対応していくためである。

文部科学省は2013(平成25)年度から,世界水準の優れた研究活動を行う大学群を増強し,国全体の研究力の強化を図るという目的のもとに,研究活動状況を測る指標を用いて大学等を格付け・選定し,対象機関にのみ支援を行う「研究大学強化促進事業」を開始している。たとえば,この事業の選定指標1)に,「論文数におけるTOP10%論文数の割合」注1)と「論文数における国際共著論文の割合」がある。したがって大学執行部は,これらの指標によって自分たちの機関がどのくらいに位置付けられているのか,ということを把握しておかなければならない。

一方で,国が直面するさまざまな社会的課題に対応するべく,大学はミッションを再定義し,機能を再構築する改革が求められている。この文脈においても,どのような分野に強み・特色を見いだすのか,研究力分析が求められる場合がある。もちろん,外部資金申請の際に関連の研究グループ・分野の優位性をエビデンスベースで示すための研究力分析が必要とされることもあるだろう。

このように大学等研究機関は,自らの研究状況を相対的に把握し自身の特色を明確にするための研究力分析を行い,それに基づく研究戦略立案を重視するようになっている。

図書館の新しい機能?

さて冒頭の話題に戻る。図書館は電子ジャーナル,論文データベース,学内学術情報リポジトリなどの論文情報,いわば研究情報資源を有している。論文データベース分析システムを有しているところもあるかもしれない。最近,これらのデータベース等を活用して,研究力分析を行うことが図書館員に期待され始めているのだという。

慶應義塾大学の理工学メディアセンター(図書館)では,図書館職員が研究者と身近に接し,研究者のニーズを聞く機会に恵まれていることから,図書館職員が著者同定のための名寄せを行い,所属研究者の研究業績の把握に貢献するなど,研究分析支援を行っているという2)。このような事例はまだ珍しいかもしれないが,特に研究力分析を担当する部署というものが整備されていない機関においては,図書館職員の業務の幅が今後広がっていくかもしれない。

図書館総合展では,今までのいわゆる図書館関連業務以外に,研究力分析という新たな図書館サービスの可能性を模索する,図書館職員の方々の熱気を感じた。会場ではリサーチ・アドミニストレーターと図書館が連携する具体的な事例があれば教えてほしいという質問もあがっていた。残念ながら筆者自身には研究力分析に関しての図書館との連携経験はないのだが,リサーチ・アドミニストレーターと図書館との連携による研究活性化が京都大学でも提案されている3)。複眼的な視点からの研究資源の提供,リポジトリ分析を用いた研究者間の連携促進などのほかに,リポジトリには人文・社会学系のデータも集積していることに着目し,人文・社会学系分野の評価に活用できるのではないかとの提案もなされている。

リサーチ・アドミニストレーターら研究戦略・研究推進にかかわる者と図書館関係者が連携し,どう研究の活性化に寄与していくのか,今後の発展を期待したい。

どのような分析を行うか

では,リサーチ・アドミニストレーターや図書館職員らには,具体的にどのような研究力分析を行うことが求められているのか。たとえば,①研究・国際戦略立案の参考,②外部資金申請のためのアピール,③共同研究の促進,といった目的が考えられる。

自機関の中で優れた研究者・研究グループ・分野を見いだすため,論文データベースを用い,各研究者の論文数,1論文あたりの被引用回数を調べる場合もあるだろうし,ある分野での被引用回数が上位1%に入る論文を有する研究者を抽出するということも考えられる。分析方法には単純なものから高度なものまでさまざまなものがあるが,こういった分析が機関内における研究経費の配分にあたり参考にされるなど,研究戦略につながることもある。

研究機関ごとの国際共著論文を比較することで,機関の国際化の状況を把握することもあるだろうし,共同研究の多い海外の機関を同定し,連携協定を締結する候補を選ぶこともあるかもしれない。

外部資金の申請書に,これくらいのインパクト・ファクターの論文を何本発表している,などと示すことで,その研究グループ・研究組織の研究レベルをわかりやすく示すこともできるだろう。

さらに,機関内における共著関係を洗い出すことにより,共同研究プロジェクトの立ち上げに活用することもできるかもしれない。

こうしたさまざまな分析が,目的に合わせて必要とされている。各大学の具体的な事例は,三輪,安藤の報告で詳しく紹介されているので,参照されたい2)

実際は……

このように書き連ねていくと,いかにも知的な業務のようであるが,多くは地道な単純作業のうえに成り立っている。便利な分析システムが開発されてきてはいるものの,同姓同名の著者の論文を振り分ける名寄せ作業,多くの共著者の中から自機関の中心研究者を抜き出し所属を同定する作業,部局ごとに研究者の論文情報を集める作業など,オートマチックとはいかずに手作業で行わなければならないことも実際には多い。ほとんど人海戦術で対処しなければならないこともある。

現場の労働量を考慮せず,単なる好奇心で分析依頼をされてはたまらない。担当者が不毛さを嘆きながら分析作業をこなす,なんてことにならないよう,分析依頼をする側には,その分析結果の活用方法もよく考えたうえで依頼をしてもらいたい,というのが現場の正直な思いである。その一方で,現場の方も依頼者が何を求めているのか,背景を読み取ったうえで,型どおりではない,次にどのようなアクションを起こすべきかまでも提案できるような分析をしたいものである。

研究力分析の関連部署

研究力の分析は研究評価の文脈でも行われてきており,評価室が担当部署として対応している場合もあるだろう。また,研究戦略室で研究力分析を行うという機関もあると思われる。研究評価および研究戦略については,また別の機会で触れたいと思う。

執筆者略歴

鳥谷 真佐子(とりや まさこ)

2005年大阪大学大学院博士後期課程単位取得退学。同年自治医科大学医学部ポスト・ドクター。2008年より金沢大学フロンティアサイエンス機構博士研究員。2012年より同大学先端科学・イノベーション推進機構特任助教。

本文の注
注1)  論文数におけるTOP10%論文数の割合:被引用TOP10%論文数(22の学術分野で抽出された引用数の高い論文の上位10%)/全論文数。過去5年間の全論文数の単年度あたりの平均値上位100機関を対象に科学技術・学術政策研究所が測定した1)4)

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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