Journal of Information Processing and Management
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Some observations on academic journal : From the recent reorganization of the journals of the Japan Society of Mechanical Engineers
Kozo FUJII
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2014 Volume 57 Issue 8 Pages 531-538

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著者抄録

自らが発行する学術論文誌をより有意義なものにすることは多くの学会にとって共通の課題である。3万人を超える学会員を有する日本機械学会では,2007年に英文誌の再編を行ったが,わずか7年で,和文誌,英文誌を含めた大規模な再編を行うに至った。再編にかかわる議論は多くの学会に共通な事項を多数含んでいる。本稿は,再編に至る背景,学会内での議論の経緯,再編の考え方,再編後の姿などを記すもので,その一部でも他学会の参考になることを期待している。

1. はじめに

日本学術会議には2,000近くの学術団体が登録されている。その中でも3万人を超える会員を有する学術団体(学会)は10に満たないが,その1つが日本機械学会である。

日本機械学会は,2014年2月末日現在の総会員数3万6,059名,正会員約3万人の半数が企業会員であるという特徴を有する。英文名のJapan Society of Mechanical Engineersからも学会のもつ特徴が推察できる。学会の役割については,日本機械学会のWebサイト(http://www.jsme.or.jp/)を参照いただきたいが,具体的には,シンポジウム・講演会等に代表される企画的な活動と学会誌・学術論文誌や書籍類の発刊が活動の2つの柱であり,これを登録された会員への主たるサービスとすることで会費収入を得て,当該分野のさらなる発展を目指している。この点は,他の多くの学会と共通である。

機械学会も他の学会と同様に財政上の課題を抱えており,企画的活動と出版関連の活動の双方を,より効率的かつ効果的に行うためにさまざまな努力を重ねてきた。特に学術論文誌については,投稿論文数の確保,国際的認知度の向上といった長期的な課題の克服が財政的な観点以上に重要であり,日本機械学会が発行する学術誌については繰り返し議論となってきた。

詳細は後述するが,日本機械学会では2011年から学会学術誌の再編議論が起き,その結果を受けて2014年初頭から順次新たな学術誌の発行が始まっている。筆者は,2012年度の編修担当副会長として,編修担当理事らと協力して学会学術誌の再編に関する議論のとりまとめを担当した。筆者自身は単に工学分野の一研究者であり,「学術誌のあり方」を学術的に議論する立場にはない。しかし,学会が発行する学術論文集のあり方は多くの学会が抱える共通の課題であり,個別学会の議論とはいえ機械学会という大所帯の学会で行われた議論と集約結果は他学会関係者にとっても有意義であると考え,本稿でその経緯を紹介するものである。

なお,日本機械学会は,一般の記事やトピックを掲載する日本機械学会誌と和文・英文それぞれの学術論文誌を有しているが,本稿は後者の学術論文誌に関する記事であることをあらかじめ記しておく。

2. 学術論文誌再編に至る経緯

最初に,日本機械学会学術論文誌の歴史を振り返っておこう。日本機械学会和文論文誌は1935年2月に創刊され,1979年からは分野ごとにA,B,Cと3編に分けられた。1958年には,『Bulletin of the JSME』と題して英文ジャーナル(以下,英文誌)の発行を開始した。英文誌は1987年に『JSME International Journal』と名称変更され,和文誌から独立した学術論文誌となった。英文誌も1988年には3編に再構成,さらに1993年からは和文誌と同じA,B,Cのシリーズ(編)からなる英文誌となった。

2006年6月以降,英文誌は電子ジャーナルとして科学技術振興機構のJ-STAGEを通じて一般に公開し,和文誌も2011年1月に同じ形で一般公開に移行した。創刊号からの総論文が電子アーカイブ化されたことにより,それ以降は78年にわたる機械工学論文誌という大きな知的財産が世界中のどこからでも自由に閲覧できるようになっている。

さて,英文誌は2007年に最初の再編を迎える。当時の理事会資料によると,検討を開始した2002年時点で,1,700件の過去5年の年平均投稿論文数を維持しているものの,年5%強の減少傾向が続いており,掲載論文数も年7%の割合で減少していた。適した指標かは別として,いわゆるインパクトファクター(IF)も低いレベルで推移し,当時の学会理事会資料では「日本を代表する機械工学分野の学術雑誌としての地位を急速に失いつつある」という表現でその危機感が示されている。

この現実を背景として,学会内に検討委員会が設置され,背景要因が分類された。外的な変化要因として,(1)商業出版社の学術出版寡占の傾向,(2)インパクトファクターに代表される学術雑誌の評価システムへの対応の遅れ,の2点が,内的な要因として,(1)適切な改革が行われてこなかった,(2)それぞれの組織体が十分に論文集の編集・発行の責任を担っていない,(3)刊行事業が学会活動の発展に財務的に寄与する仕組みになっていない,の3点があげられ,当時の状況がこれらの帰結であると結論づけられている。

議論の結果,(1)各部門(注:機械学会には分野別に20程度の部門がある)を中心とした責任編修体制による電子ジャーナル化,(2)エディター制による編修体制の導入,(3)J-STAGEを利用した(無料)オープンアクセスジャーナルにすること,などが決められ,結果として2007年から11の分野別ジャーナルが誕生した。

1つ注意すべきは,移行の際に多くの理事が「戦略」の重要性を指摘していた点である。たとえば,発行は日本機械学会ではあるが,単に日本やアジアの成果を紹介するという姿勢ではなく,国際的に開かれた論文誌とし,国際的な市場でも競争力を持たせるべきであると記されている。

残念ながら当初の目論見(もくろみ)どおりにはいかず,2011年度(89期)理事会において再び学術誌再編の議論が始まった。議論は2012年度(90期)に継続され,後述のような議論の後に2012年度(90期)末に和文誌,英文誌を含めた新たな学術誌に移行することが学会方針として最終確認された。具体的な準備作業の後,2014年1月より新学術誌がスタートしている。

3. 新たなる再編へ:2011年から2013年における議論

なぜ,さらなる再編の検討が必要となったのか? まず最大の理由(課題1)は,2007年における目標「日本を代表する機械工学分野の学術雑誌としての地位を回復する」が5年を経過しても実現できなかったことにある。再編後5年程度でのさらなる再編には大きな危惧もあったが,機械系各分野においても商業出版社のオープンアクセスジャーナルなどが増えており,かつこれらにインパクトファクターが付与される状況にあることから,数年の遅れが取り返しのつかない状況を生みだしてしまうとの危機感が再編の議論を後押しした。実際に,2007年に創設された11誌のうちインパクトファクターを付与されたものが2誌にとどまり,そのどちらも0.2程度という事実が現実を物語っている。ちなみに,エジプトの出版社でオープンアクセスジャーナルを430以上所有するHindawi社の機械系ジャーナル『International Journal of Mechanical Engineering & Technology』が有するインパクトファクターは2012年時点で1.23である。

第2の理由(課題2)は,分野(部門)ベースのジャーナルとなったことで,ジャーナルの守備範囲と投稿論文が分散したことによる問題である。中規模以下の部門が運営するジャーナルでは,投稿数の変動により,ときに想定している論文数を確保しづらい状況にあった。さらに所属人数の少ない部門では自らのジャーナルを立ち上げることができず,これらの分野の研究者が機械学会を基盤にした論文投稿の行き場を失ったことも問題であった。さらに,分野別になったため,分野横断等の新規研究領域の成果発信の場の確保が難しくなったことなどもあげられた。

ここで,2007年に実施された部門中心の運営によるジャーナル移行が「日本を代表する機械工学分野の学術雑誌としての地位を回復する」という当初の目標を達成できなかった理由を考えてみよう。

日本機械学会の部門は,基盤となる学術分野ベースの部門(流体工学,材料力学,熱工学など),それを横断する部門(設計工学・システム,計算力学など),応用分野ベースの部門(エンジンシステム,動力エネルギー,生産加工,宇宙工学など)から構成される。1に2007年にそれぞれの部門が創設したジャーナル一覧を示す。各部門が担う分野にはすでに多数の国際誌が存在し,そのいくつかは日本機械学会誌の部門が運営する学術誌よりも数段高いサーキュレーションを誇っている。著者の専門である流体工学・流体力学分野を例にとると,1の一番上にある『Journal of Fluid Science and Technology』が当該分野のジャーナルになる。この分野では,『Journal of Fluid Mechanics』(IF=2.294),『Physics of Fluids』(IF=2.04),『Experiments in Fluids』(IF=1.907),『Computers & Fluids』(IF=1.532)などが分野の研究者に高い評価を受けている。くわえて,分野をさらに絞った学術誌が十数誌程度は存在する。米国機械学会流体工学部門発行誌である『Journal of Fluids Engineering』(IF=1.943)なども投稿対象であり,『Fluid Dynamics Research』(IF=0.656,日本流体力学会英文誌)などの国内学会英文誌も投稿対象である。これらに加えて前述のオープンジャーナル系商業誌がある。

図1 再編前に日本機械学会が発行していた11の国際誌

このような状況の中,個別分野の学術誌を新たに立ち上げても,すでに確固たる地位を確保したこれらの学術誌に対抗するのは大変難しい。結果として,学会員からの投稿や内輪での参照にとどまり,サーキュレーションの向上がままならなかったのは当然かもしれない。つまり,○○力学という切り口だけで既存の著名ジャーナルと勝負することになった点が主たる理由と分析され,既存誌との差別化が重要と結論づけられた。

差別化の鍵と考えられたのは「機械学会の学術誌」という点である。単に○○力学ではなく,機械分野の○○力学(工学)といった点を強調することで,先行の専門誌との差別化を図り,なおかつ世界に多数存在する機械工学研究者や技術者に注目される学術誌を目指すこととした。具体的には,機械工学という大くくりの看板を設け,その中に各部門の関連学術領域を含む和文誌,英文誌を設定することがイメージされ,そのうえで前述の2つの課題をどう解決できるかが焦点となった。

4. 会員への提案と学会内での議論

2011年末,89期の理事会は,編修理事会での議論を中心に,「論文誌のこれからのあり方に関する懇談会」や「部門協議会」での意見交換を行い,数度にわたる部門別ジャーナル代表者との「英文ジャーナル連絡会議」を経て,2012年3月号の学会誌を通じて会員に再編案を提示した。これに対して31件の意見が寄せられたが,否定的な意見も散見され,議論は90期(2012年度)へと引き継がれた。

90期の理事会では,学術誌再編検討委員会を正式に発足させ,数度にわたり長時間の議論を行った。その結果を踏まえ,同年9月には,学会誌再編にかかわる懇談会を開催して,再度再編について説明した。特に,現在の機械学会学術誌が抱える課題をリスト化し,現行ジャーナルを継続しつつ改善を図るA案と再編を行うB案(前年のものを一部修正)とで,それぞれの課題がどの程度解決可能なのかを示したうえで移行の意義を丁寧に説明し,移行への理解を求めた。

幸い,一部の修正はあったが,前年の提案を柱とする新学術誌への移行に対する強い反対意見はほとんどなくなった。これを受けて,さらに理事会での議論を重ね,12月には修正案に関する第2回懇談会を開催,最終的に2013年4月の学会誌に「学術誌再編の提案とその経緯」を掲載し,学会の再編方針を今後の予定も含めて明らかにした。

第91期(2013年度)には,一歩進んで,新学術誌創刊準備委員会を発足させ,2014年1月から段階的に日本機械学会新学術誌を発足させている。その詳細については次章で述べる。

5. 日本機械学会新学術誌

2014年にスタートした日本機械学会新学術誌の構成は1のとおりである。全体を『Bulletin of the JSME(和名:日本機械学会学術誌)』とし,和文誌,英文誌,英文レビュー誌,英文速報誌の4誌からの構成とした。全体を「機械」でくくることでこれらの学術誌の位置づけを明確にした(課題1の主要因の解決)。

表1 日本機械学会が発行する再編後の4誌

今回の再編におけるポイントの1つは英文レビュー誌であり,そこに世界的な執筆者を呼び込むことで,他の3誌にも読者の関心が向くようにする。将来的には,レビュー誌がJSMEの英文誌論文を参照する形で広がりをみせていくことも期待している。編修作業の効率化も1つの観点だったので,レビュー誌を除き1つの編修委員会がすべての論文誌の編修を担う。和文誌,英文誌,英文速報誌には,それぞれ部門もしくは複数部門をグループとした12のカテゴリーを設けるが,全体を1つの学術誌として構成とする。1つの英文誌にまとめることで,分野ごとの論文数の変動を全体で吸収するとともに小規模の分野の学術成果の発信,分野横断的な学術成果の発信を可能とした(課題2の解決)。なお,移行に際しては,前年の提案で「他学会と協力しているジャーナルなど独立した編修が必要なものに限り」と付けていた制限を撤廃し,部門が希望する場合は,(当時の)現行英文ジャーナルの刊行を継続できることとした。強制的な移行を避け,移行後の新学術誌が高い評価を受ければ論文投稿も自然とそちらに流れるはずという前向きな考え方である。現時点で4誌(『Journal of Fluid Science and Technology』『Journal of Thermal Science and Technology』『Journal of Biomechanical Science and Engineering』『Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing』)が以前のジャーナルを継続しており,現在これらも含めて日本機械学会学術誌と定義している。

レビュー誌の位置づけは重要であり,ここが成否を分けることから別途レビュー誌の編修は学会が直接担当することにした。現時点ではまだ不十分と言わざるをえないが,Advisory Boardに機械工学分野で世界的な評価を受ける国内外の研究者に加わってもらうことも重要な点と認識している。これは個人的な意見になるが,実際の編修にも海外の研究者に入ってもらうことで日本の閉じた印象を拭い去り,アジア地区への周知を高めアジア地区からの投稿やアジア地区の読者を増やすことも目指すべきではないかと考えている。幸い,信頼を有する学会発行のオープンアクセスジャーナルなので海外にも十分ビジブルであり,商業出版社が運営するオープンアクセスジャーナルと比べても遜色のない低い掲載料は投稿促進にプラスに働くだろう。

新たな学術誌を創刊するだけでなく,環境の整備も同じくらい重要である。既述したように,日本機械学会の学術論文はこれまでもJ-STAGE上で公開されてきた。今回,過去すべての和文・英文論文のアーカイブを,Bulletin of the JSMEからリンクをはりアクセスしやすく設定した。使い勝手なども含めると,改善の余地は多々あるが,こういった努力の積み重ねが投稿数や読者の増加につながるものと期待している。

レビュー誌『Mechanical Engineering Reviews』と和文誌『Transactions of the JSME』は2014年1月から,英文誌『Mechanical Engineering Journal』は同年2月から掲載を開始している。『Mechanical Engineering Letters』は2015年7月投稿受付開始を目指して準備を進めている。

ここで,和文誌について少し述べておこう。新学術誌は和文誌も含めて全体を『Bulletin of the JSME』としている。あまり触れてこなかったが,和文誌の議論も継続的に行われた。すでに述べたように,日本機械学会は産業界の会員を多数抱えている。企業会員にその成果発表の機会を提供すること,その成果を広く共有することは学会にとって重要な責務の1つである。しかし,以前のままでは学会に閉じた論文集になり,その成果を世界に示すことはできない。日本語論文誌でもインパクトファクターの取得は可能であり,実際に取得している和文誌も存在する。また,特にアジア地区を中心として,興味があれば日本語論文であっても英訳化するという話も最近はよく聞く。これを踏まえて,今回の再編において和文誌については2つのことを提案した。1つ目は全体の『Bulletin of the JSME』の中に『Transactions of the JSME (in Japanese)』として収録することにより海外の読者の目にとまりやすくすること,2つ目はアブストラクト(英文抄録)と図表のキャプションを工夫することである。アブストラクトはこれまでより長めにして,ある程度内容が読み取れるようにする。より丁寧に準備することが執筆者には求められるが,十分意義のあるものだと考えた。図表のキャプションも得られる,知見が把握できるような英文記載を想定している。これらによって,多少でも和文誌のビジビリティーの改善を図ることが期待される。

6. 残された課題

形式上の再編は終了し,すでに新たな活動が始まっている。当然,再編という「形」の変化だけで課題のすべてが解決するわけはなく,今後の運営こそが新学術誌移行の成否に大きく影響する。

新学術誌のスタート段階は,編修委員会の設置,投稿規定など規定類の整備や広報などの実作業に追われ,編修の中核にいるメンバーも,本来忘れてはいけない「戦略」を忘れがちになるものである。2007年度の英文学術誌の再編においても,それを忘れずに努力を重ねていれば,今回の再編は必要なかったのかもしれない。今回の再編でも同じことの繰り返しに陥る可能性を十分に有している。目標を常に明確にし,必要な努力を継続していくことこそが大切である。それは学会および編修担当者の今後の努力と学会員の協力にかかっている。広い意味では成熟した機械系分野ではあるが,1つの論文が学術誌の広がりを大きく変えることもある。いわゆる「スター論文」と呼ばれる成果が今後ここから生まれることを期待したいものである。

国内学会が運営する学術誌は,本質的で回答のない課題を抱えている。国際化の時代に高い評価を得る学術誌とするには海外からも優れた論文を多数集める必要がある。一方で,企業会員が求めるものは,和文でかつ最近の研究動向が見えるような論文の掲載であろう。多くの企業人にとって和文の方が投稿しやすく,言いたいことも正確に伝えられる。読むのも楽である。さらに査読も課題である。採択率を下げたとしても非常に優れた論文だけを掲載することは学術誌の高い評価につながるが,一方で投稿が躊躇(ちゅうちょ)されるといったことも起きかねない。学術研究者中心の高いハードルを有する学術誌はそれ自体に高い意義があったとしても,日本機械学会論文誌としての期待に十分応えるものではない。他の学術誌と同じ土俵で戦うのではなく,ほかにはない機械系ならではと評価される学術誌に育てていくことが重要であり,結果としてインパクトファクターの向上にもつながるだろう。そして,国内外の研究者が,日本やアジア全体における機械系一般の研究動向を知りたいと思ったときに,すぐに『Bulletin of the JSME』を思い浮かべてもらえるような学術誌に育てば再編は成功だったと言えるだろう。

今回,和文誌を英文3誌と並べて『Bulletin of the JSME』の中に組み込んだ。和文の中には優れた論文も少なくないため,日本機械学会はこれまで英文誌への和文誌の再録を認めてきた。しかし,本来1論文1業績という原則は維持すべきであるという本筋から和文論文の再録を廃止したが,今後和文の優れた論文が埋もれてしまわないような配慮を学会自身がしていかなければならない。

インパクトファクターは結果としてついてくるものであって取得を目的とするものではないとの観点から,今回の議論ではあまり重要視しなかった。もちろん,引用率や影響度が高いことは投稿数や読者数に影響するので,そのためにさまざまな仕掛けや努力をしていくことを想定している。

余談になるが,本来インパクトファクターは学術誌自体の評価であり,そこに掲載される論文の質の評価ではない1)2)。投稿先はどんな読者に読んでほしいかを考えて投稿すべきだと筆者は考えている。しかしながら,投稿した学術誌のインパクトファクターや被引用数が研究者の評価にも利用される昨今の風潮は,研究者自身が高いインパクトファクターを理由に投稿先を選ぶような本末転倒も否定しにくい状況にある。そのようなことも払拭できるような論文誌に成長していくことを期待したい。

7. おわりに

予約購読型の商業出版社,学会等の団体,そして最近のオープンアクセスを売り物にした出版社が現在共存している。無料のオープンアクセス系ジャーナルに掲載される論文はそれだけ広く読まれるという優位性を有するが,一般にオープンアクセス系のジャーナルが既存の予約購読型の商業出版社ジャーナルに取って代わっているようにはみえないという指摘3)は機械系にも当てはまる。しかし,購読料の高騰がじりじりと影響し始めている。最近の新聞には,購読料の高騰により大学が悲鳴をあげており,米国のあるノーベル賞受賞者が主要科学誌には今後投稿しないと宣言したとの記事が掲載されていた。このような状況下で,再編後の日本機械学会論文集『Bulletin of the JSME』が「機械工学分野を代表する学術誌」としてその存在意義を示していけるように一会員としても祈願している。

社会に生まれる商品について,その市場セグメントの形成から発展,そして衰退に至る過程をイノベーションの観点から分析した理論にアバナシー・アターバックモデルがある。モデル本来の目的からはそれるが,優れたアイデアから新たな製品が生まれ,一定の成熟の中で,優位性を維持継続できるものや,より成長していくものは生き残り,できないものは淘汰(とうた)される。このような変遷を特定の商品に適用してみるとたくさんのことが学べる。たとえば,鉄道は自動車が発明されても,飛行機が発明されても,使われ続けている。一定の優位性を有するからである。一方で,携帯電話が普及する前に広く流通していたポケベルは携帯電話の普及とともに急速に消えていった。音楽再生機器としてのMDやプレーヤーなども同じである。

ここからわかるように,本質や伝統を守ることは大切であるが,それを維持しつつ,社会の変化や情報発信の多様化などにも注意を払い,変化することをいとわずに弾力的に魅力的な学術誌を作り上げていくことが求められている。

今回の学術誌再編の議論に際しては,トムソン・ロイター日本法人の皆さまから有意義な意見を多数いただいた。最後にこの場を借りて,御礼申し上げる次第である。

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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