Journal of Information Processing and Management
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Keys to success of business research - tips and useful contents : Part 8: Useful sources
Yoshie UENO
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2014 Volume 57 Issue 8 Pages 573-578

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ここまでビジネス調査の4つの主要分野である企業,業界・市場,消費者動向,人物についての調べ方のポイントと情報源について述べてきた。今回は総合的な情報源という視点から,ビジネス調査を行っていくにあたって有用な情報サービス,レファレンス,参考資料など,これまで紹介しきれなかったものを中心に述べていきたい。

1. シンクタンク・調査機関のレポート

業界・市場調査の基本的情報源は「政府統計」「業界団体情報」「市場調査レポート」「新聞・雑誌記事」の4つであることはすでに説明したとおりであるが,もう1つ考えておくとよいのが,シンクタンクや各種の調査研究機関である。

(1) 専門家の知見が得られるレポート

シンクタンク・調査研究機関には,経済産業研究所(RIETI)や日本エネルギー経済研究所(IEE JAPAN)など行政法人や一般・特別財団法人が運営するいわば政府系の機関,三菱UFJリサーチ&コンサルティング,野村総合研究所など金融機関の調査部門が母体となっているもの,三菱総合研究所,富士通総研,電通総研などの民間企業系等がある注1)。特定の企業・組織から依頼を受けて調査やコンサルティングを行うのは,民間調査会社と同様であるが,それ以外に,社会・経済問題から業界動向,消費者動向に至るまで,各分野の専門の研究員が行っている調査・研究の成果をレポートや提言といった形でまとめ,広く公開している。

市場調査レポート同様,すべての社会・経済問題や業界動向についてのレポートがあるものではなく,調査・研究の対象となりうる注目度の高いトピックスに偏るという傾向はある。たとえば人口問題に詳しい専門家が少子高齢化社会の課題についてまとめたものや,環境問題に詳しいコンサルタントがグリーンエネルギー活用の現状を述べたものなどがある。1~2ページ程度のエッセー的なものから,数十ページにも及ぶレポートまで形態はさまざまである。業界レポートの場合には,業界の構造・特徴,基本的な統計,参入企業動向,業界動向の将来に影響を及ぼすと考えられる要因,見通し等,ひと通りの情報をすべてカバーできるようなものも数多くある。

その道の専門家である研究員やコンサルタントが,自らの知見に基づいて作成したものであり,付加価値の高い情報といえる(1)。しかも,たいていの場合,それらが各機関のWebサイトから無料で入手できるようになっている。

表1 業界調査の基本情報源(概念図)

(2) 経済レポート専門のWebサイト

これらのシンクタンク・調査研究機関レポートを探す際に便利なのが,ジャングルナビの経済レポート専門ニュースサイト「経済レポート情報」注2)である。インターネット上に無料で公開されている国内外の経済や経営,社会問題,産業などに関するレポートの情報を毎日更新・提供し,蓄積している。シンクタンク・調査研究機関に限らず,政府省庁の発表資料,研究会や審議会などの調査や報告書,業界団体の機関誌の記事など幅広い情報源がカバーされているので,それらを一括して,キーワードで検索することができる。政府機関やシンクタンクのレポートという性格上,経済問題や社会課題に関する情報が中心とはなるが,前述のシンクタンク等の業界レポートや民間調査会社の調査レポートのリリース資料などもカバーされている。業界調査の際にもどのような資料が出されているかの手掛かりとして非常に有用である。

たとえば,“太陽光発電”というキーワードで検索すると(1),日本貿易振興機構(JETRO)が作成した北米の太陽光発電市場のレポート,経済産業省の「エネルギービジネス戦略研究調査報告書」,損害保険会社が作成した太陽光発電システムの保守管理のリスクについてのレポート,広告代理店が行った環境意識に関する消費者調査結果等がリストアップされる。

レポートの内容やボリュームはさまざまであり,詳しい内容は個々のレポートの中身を見ていかなければわからない。しかしながら,これだけ広範囲にわたる資料を一括で検索できるWebサイトはほかにはあまりなく,筆者にとっても必ず目を通す必須Webサイトの1つとなっている。

図1 経済レポート:“太陽光発電”で検索した画面例

2. 業界情報の総合的な情報源

業界調査の際には,これまで述べてきたように政府統計,業界団体…と情報源ごとに段階的に見ていくのが基本であるが,各種業界の基礎的資料や統計データ,業界動向についての解説などがまとめられた資料もある。どんな業界なのかをざっと知りたい場合など,使い方によっては効率的な調査のツールともなるので,ここで紹介しておこう。

(1) 業界情報の事典

金融機関がさまざまな業種の企業に融資を行う際に,どのような業界なのかという基礎知識を学び,近年の業界動向をとらえ,業界に特有の取引形態や資金需要のポイントをつかんで,与信審査を行っていくために作られた『業種別審査事典』注3)(5年に1度刊,金融財政事情研究会)という資料がある。全9巻で収録業種は1,370業種にのぼっており(2012年発行の第12次版),あらゆる業種がカバーされているといっても過言ではない。

業界の変遷から特徴,市場動向,主要企業,関連法規制まで,いわば業界調査のフレームワークMCCの情報が,1つの業界について4~5ページでコンパクトにまとめられており,その情報源は,政府統計から業界団体情報,民間調査会社のレポートまで幅広い。業界調査を行う際にはまず参照すべき資料である。

5年に1度の発行なので,タイミングによっては収録されている情報内容が古いこともある。また,コンパクト化されている反面,掲載されている情報は統計や調査レポートのごく一部にとどまる。しかし,どんな業界なのかを知るには十分であるし,その業界についてどのような統計や調査レポートがあるのかを確認し,その元資料にあたっていくための情報源としても大いに活用できるはずである。

また,『業種別業界情報』(経営情報出版社)では,よりコンパクトに見開き2ページで,業界情報をまとめている。収録業種は商工サービス業を中心とした350業種となるが,毎年発行されているので最新の動向まで見ることができる。

双方の資料とも,ビジネス支援サービスに力を入れている公共図書館などにはほぼ間違いなく所蔵されているので,自分が知りたい業界や関連する業界に関する部分のコピーを入手するとよいだろう。

(2) 業界地図・業界本

書店に行くと,注目の業界を集め,その最新トレンドや参入企業動向を2~3ページで作成した業界地図などと題された書籍が目に入ることと思う。毎年出版されているものとしては,『日経業界地図』(日本経済新聞社),『会社四季報業界地図』(東洋経済新報社),『最新業界地図』(成美堂出版)などがあり,いずれも150程度の業種について,業界動向や参入企業の業績・勢力関係などがわかりやすくまとめられている。業界調査の情報源と呼ぶには十分といえる内容ではないが,まずひと目で業界の様子をつかみたいときなどには手に取ってみてもよいかもしれない。

さらに,より詳しく特定の業界の現状や各企業の動向を見たいときに役立つのが,就職活動を行う学生の業界研究用に発行されている,いわゆる業界本である。『よくわかる○○業界』(日本実業出版社),『××業界の動向とカラクリがよくわかる本』(秀和システム),『日経文庫 業界研究シリーズ』(日本経済新聞出版社)など,書店の就活コーナーにはさまざまな業種についての書籍が並んでいる。しょせん学生向けの就活本ではないか,と思われる方もあろうが,侮ってはいけない。その業界に詳しい学者・研究者やジャーナリストが,200ページ以上を使って1つの業界の歴史から構造,現状,最新動向,課題,各企業の特徴などをまとめており,関連する統計データや企業業績データなども適宜掲載されている。

就活生の業界調査とビジネス調査とでは内容もレベルも違うが,わかりやすく,かつある程度詳しい情報が得られるという点で,業界を理解するための入り口としてはうってつけである。自分とはまったく縁がない業界について調べる場合には,インターネット検索や新聞記事検索などでプレ調査を行うとよいということを第5回の「業界・市場調査(2)」で述べたが,業界本を購入して目を通すのも,プレ調査の効率的な手段の1つである。

(3) Webの業界情報

業界情報に関しては,従来型の冊子体の情報源が主流であるが,業界の基礎情報が掲載されているWebサイトもあるので紹介しておこう。

中小企業向けのビジネスポータルサイトFIDELI(フィデリ)の「業種ナビ」注4)には,400以上の業種についての業界動向が掲載されている。「どんな業種も5分で理解!」というコメントどおり,業界の現状・動向が1,000文字程度で作成されており,文末には「業界情報サイト」として,関連業界団体のWebサイトへのリンクが掲載されている。

また,中小企業基盤整備機構が運営する中小企業向けビジネス支援サイトJ-Net21では,新規開業・起業を目指す人向けに,200あまりの業種について,業界動向や起業に当たっての留意点,ビジネスプランなどを「業種別開業ガイド」注5)としてまとめている。

いずれも,中小企業向けということでサービス業や小売業が中心ではあるが,Webサイトから瞬時に情報を得られるという点では大変便利である。

3. 図書館の活用

(1) 公共図書館のビジネス支援サービス

近年,公共図書館でビジネス支援サービスに力を入れているところが増えてきている。ビジネス支援図書館推進協議会が2011年に行った調査では,208の図書館でビジネス支援サービスを行っており,その数は年々増加している注6)

地域の実情も考慮しながら,ビジネス関係資料の収集およびレファレンスサービス,有料データベースの提供,起業や経営などに関するビジネスセミナーの開催などが行われている。

たとえば,大阪府立中之島図書館には業界新聞400種,都立多摩図書館の東京マガジンバンクには一般誌から学術誌まで約1万6,000誌に及ぶ雑誌が所蔵されているなど,オンラインデータベースサービスでは収録されていないような新聞や雑誌までを所蔵している図書館もある。

また,東京都立中央図書館が「ビジネス情報サービス」として業界情報リストや企業情報,法令情報,統計情報などテーマ別に資料利用ガイドを作成していたり注7)2),大阪府立中之島図書館の「ビジネス支援サービス」では,企業情報や業界動向の調べ方に加え,テーマごとにWebの情報源などがまとめられている注8)など,ビジネス情報の調べ方をWebサイトで提供しているところも多い。

ビジネス支援サービスを行っているのは,都道府県立図書館や政令指定都市図書館など,比較的大規模な図書館が中心であるが,会社や自宅からアクセスできる公共図書館が,どのような資料を所蔵し,どのようなビジネス支援サービスを行っているかを1度確認しておくと,ビジネス調査にも大いに活用できよう。

図2 東京都立中央図書館のビジネス情報サービス(東京都立図書館Webサイトより)

(2) 国立国会図書館の「リサーチ・ナビ」

国立国会図書館には,納本制度注9)により日本国内で発行されたすべての出版物を納入することが義務づけられている。実際はすべてが所蔵されているとはいえないが,それにしても所蔵資料は膨大な数にのぼる。膨大な資料を所蔵しているがゆえに,資料の閲覧やコピーに時間や手間がかかってしまい,国立国会図書館は限られた時間の中で行わなければならないビジネス調査で利用するのには適しているとは言い難い。しかしながら,ほかでは手に入らない資料も国立国会図書館に行けば閲覧できる可能性が高く,また,郵送等でコピーを受け取ることのできる遠隔複写サービスもあるので,最終的なよりどころとして頭の片隅に置いておくとよいであろう。

所蔵資料の活用ももちろんであるが,国立国会図書館のサービスで活用したいのが,Webサイト「リサーチ・ナビ」注10)3)である。

リサーチ・ナビは,「当館職員が調べものに有用であると判断した図書館資料,ウェブサイト,各種データベース,関係機関情報(以下,「情報源」といいます。)を,特定のテーマ,資料群別に紹介するもの」注11)で,ビジネス情報,健康情報,科学技術・医学,政治・法律・行政などの分野別に,調べ方(どのような資料があるのか)や,実際のレファレンス事例などが掲載されている。

特に,業界情報に関しては,基礎知識を得るための資料から統計,調査レポート,専門雑誌・新聞,インターネット情報源まで,国立国会図書館が所蔵する資料はもちろん,それ以外の関連資料・情報源までがまとめられている。

業界・市場情報の回で例にとった,太陽光発電市場についてみてみよう。リサーチ・ナビのトップページからキーワード検索をするか,「産業情報ガイド」のページを見ると収録されている業界の一覧があり,「太陽電池産業」もリストアップされている。

まず,「基礎的知識を得るための資料」として,『爆発する太陽電池産業』(和田木哲哉著. 東洋経済新報社, 2008年)などの入門書,概説書から,資源エネルギー庁の『エネルギー白書』(年刊)などが紹介されている。次に「主要統計資料」として,エネルギー関係の統計資料集の紹介や,太陽光発電協会の統計ページや資源エネルギー庁の関連情報ページへのリンク,「主要企業名鑑類・リスト」では,『太陽光発電産業総覧』(産業タイムズ社)など関連企業について調査しているレポート類が紹介されているほか,太陽光発電協会の会員名簿のWebサイトへのリンクもはられている。さらに,「主要調査・レポート類」,「主要専門雑誌・新聞」がリストアップされたサイトがあり,「主要インターネット情報源」として,関連業界団体のWebサイトや業界ニュースを扱っているWebサイトへのリンクがまとめられている。

もちろん,ここで紹介されている情報源がすべてというわけではない。筆者が紹介してきた資料・情報源と重なっているのは半分ぐらいであろうか。さらに,頻繁に情報がアップデートされるわけではないので(太陽電池産業関連ページの“内容確認日”は主に2012年4月6日),注目を集めている業界などに関してはより新しい資料・情報が存在する可能性も高い。しかしながら,基礎知識から統計類,調査レポート,関連Webサイトまで,何を見ればよいのか,どの程度の情報・情報源があるのか,等がまとめられているので,1つひとつ自分で検索し確認をしていくのと比べて,はるかに効率的に幅広い情報源をあたることができる。

図3 国立国会図書館「リサーチ・ナビ」:太陽電池産業の調べ方

(3) 専門図書館

ビジネス調査において,業界団体が重要な情報源になることはこれまでに説明してきたとおりだが,業界団体がその分野の資料を集めた資料室を設けている場合がある。また,政府機関や調査研究機関でも,独自の資料室を持っているところは多い。たとえば,太陽光発電などのエネルギーに関する情報と考えると,環境省図書館注12),日本エネルギー経済研究所の資料室がある。これらの資料室には,その業界に関する統計類から業界新聞・雑誌,市場調査レポート等までそろえられており,1か所でさまざまな情報源からの資料を得ることが可能であり,効率的に情報を集めることができる。また,資料室のスタッフもその分野の資料を専門的に扱っているので,一般図書館などより質の高いレファレンスサービスを受けられる可能性も高い。

専門図書館協議会の『専門情報機関総覧』注13),東京都立図書館の「専門図書館ガイド」注14)などを利用すると,どのような専門図書館・資料室があるかがわかる。一般利用が解放されているところばかりではないが,詳細な業界調査を効率的に進めたい場合などには,活用を考えるとよい。

以上,今回は,ビジネス調査で有用な,横断的な情報源やレファレンス資料について述べてきた。文中でも述べてきたが,これらの情報源はあくまでも入り口であって,それがすべて,それだけを見ればよいというものではない。ビジネス調査をより効率的に進めるツールとして,今回紹介したような情報源や資料を活用していただきたい。

さて,これまでは統計や資料などとして,世の中にすでに存在する情報について述べてきたが,業界調査にせよ,消費者調査にせよ,段階が進むとより詳しい,的を絞り込んだ情報が必要となり,これらだけでは十分ではなくなってくる。そうなると,ヒアリングを行ったり,自分たちで企画して消費者調査を行ったり,ということが必要になってくる。次回は,このヒアリングや実査を行う際のポイントについて述べることとしよう。

本文の注
注1)  総合研究開発機構(NIRA)では日本のシンクタンクの機関概要と研究成果情報を公開している。http://www.nira.or.jp/network/japan/index.html

注2)  http://www3.keizaireport.com/

注3)  http://www.kinzai.jp/jiten/index_12th.html

注4)  http://industry.fideli.com/

注5)  http://j-net21.smrj.go.jp/establish/startup/top.html

注6)  『ビジネス支援図書館サービス全国アンケート(2011[平成22]年度実態)』(調査主体:ビジネス支援図書館推進協議会,2012[平成23]年12月17日シンポジウム「ビジネス支援サービス・今までとこれから」にて田村俊作(慶應義塾大学)発表)

注7)  http://www.library.metro.tokyo.jp/tabid/384/Default.aspx

注8)  http://www.library.pref.osaka.jp/site/business/

注9)  http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/deposit/deposit.html

注10)  http://rnavi.ndl.go.jp/rnavi/

注11)  国立国会図書館, リサーチ・ナビとは:http://rnavi.ndl.go.jp/rnavi/research-navi.php

注12)  http://www.env.go.jp/guide/library/

注13)  http://www.jsla.or.jp/publication/conspectus/

注14)  http://metro.tokyo.opac.jp/tml/trui/

 
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